JP3559192B2 - 電動工具 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、モータ軸に設けた第一ギヤを、スピンドルに設けた第二ギヤと噛合させ、スピンドルにトルク伝達を可能としたグラインダ等の電動工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、グラインダでは、モータ軸に設けたピニオンギヤ等の第一ギヤを、スピンドルと一体のベベルギヤ等の第二ギヤと噛合させて、モータ軸の回転をスピンドルに伝達可能としている。又、グラインダには、モータの停止後に円盤状砥石等の工具の交換が迅速に行えるように、モータ軸に逆向きにトルクをかけてモータ軸の回転を強制的に終了させる電気ブレーキが設けられるものがある他、スピンドルに円盤状工具を固定するロックナットの締め外しを可能とするために、第二ギヤを任意にロック可能なロック部材が設けられるものもある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記グラインダにおいては、モータ軸から第一ギヤへ、第二ギヤからスピンドルへ夫々トルクがダイレクトに伝わるため、互いに噛合する第一ギヤと第二ギヤとのギヤ部間で不具合が発生しやすい。例えばモータの起動時には、ギヤ部間の衝突により、音の発生やギヤ部の変形や破損、摩耗等が起こりやすくなる。同様にモータの制動時には、電気ブレーキ付のものでは、回転を停止しようとするモータ軸と慣性で回転し続けようとするスピンドルとの速度差で、ギヤ部間に衝撃が加わることで、又、電気ブレーキがないものでは、ロック部材をブレーキ代わりに使用した際等に、回転するモータ軸とスピードダウンしようとするスピンドルとの速度差でギヤ部間に衝撃が加わることで、夫々同様の不具合が発生しやすい。
一方、ロックナットは、工具の回転で締まり勝手となるように螺合されているため、モータの起動時には締め方向の衝撃が加わって締まり過ぎを起こしやすく、逆に電気ブレーキがかかったりした場合には逆方向の衝撃が加わって緩みが生じるおそれがある。
【0004】
このため、本件出願人は、第二ギヤをスピンドルに対して回動自在に設け、両者の間に、二重のコイルバネを跨るように巻回又は嵌挿して、一方のコイルバネで起動力を伝達させて起動時の緩衝効果を、他方のコイルバネで制動力を伝達させて制動時の緩衝効果を夫々得るようにした発明を既に提供している。しかし、ロックナットの緩みをなくすためには、起動力を伝達するコイルバネを強くして他方のコイルバネを弱くする必要があって、両コイルバネのバランスの設定が面倒で、このバランスが崩れると、ロック部材で第二ギヤをロックしてもロックナットを緩めることができなくなってしまう。又、コイルバネを2つ用いることで、第二ギヤとスピンドル間の形状変更や組み付けの手間が増加し、コストも大きくなる。
【0005】
そこで、請求項1及び2に記載の発明は、このようなギヤ部間の緩衝構造をより簡単に実現できる電動工具を提供することを目的としたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、スピンドルに工具装着用のインナーフランジ及びロックナットを、モータに電気ブレーキを夫々設けたものにおいて、前記第一ギヤを前記モータ軸に対して回動自在に設けると共に、互いに同心で対向する同径の軸部を夫々形成し、前記両軸部間に、前記モータ軸の回転方向と逆巻きのコイルバネを跨るように巻回して、前記モータ軸と第一ギヤとの間のトルク伝達を前記コイルバネにより行うことを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、スピンドルに工具装着用のインナーフランジ及びロックナットを、ハウジングに第二ギヤの回転をロック可能なロック部材を夫々設けたものにおいて、前記第一ギヤを前記モータ軸に対して回動自在に設けると共に、互いに同心で対向する同径の軸部を夫々形成し、前記両軸部間に、前記モータ軸の回転方向と逆巻きのコイルバネを跨るように巻回して、前記モータ軸と第一ギヤとの間のトルク伝達を前記コイルバネにより行うことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の目的に加えて、モータ軸の振動防止効果と、より有効な緩衝効果とを得るために、モータ軸の軸受とその軸受を支持するハウジングとの間に、筒状の弾性リングを収納し、その弾性リングにおける前記軸受側の内周面に、収納状態で前記軸受の外周面を押圧可能な突起を設けたものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、グラインダ1の部分断面図で、モータハウジング2に収容されたモータ4(電気ブレーキ付)のモータ軸5は、モータハウジング2前方(図1の左側)に連結されたギヤハウジング3内に突出してボールベアリング8に軸支される。モータ軸5におけるボールベアリング8からの先端部分は、軸部としての大径部6と小径部7との二段径に形成されており、小径部7には、同じく軸部としての基端部10を大径部6と同径に形成した第一ギヤとしてのピニオンギヤ9が回動自在に遊嵌され、ボルト12とワッシャー13とにより抜け止め装着されている。そして、モータ軸5の大径部6とピニオンギヤ9の基端部10との外周には、両者に半分ずつ跨るように断面角形のコイルバネ14が巻回されている。このコイルバネ14は、モータ4側から見て左巻きで、その内径は、大径部6と基端部10との外径よりも僅かに小さく設定されているため、モータ4の停止状態では、大径部6と基端部10とは、コイルバネ14の巻回力によって一体に連結されることになる。尚、コイルバネ14は、ボールベアリング8とピニオンギヤ9のギヤ部11との間で軸方向への移動を規制されるため、大径部6と基端部10への巻回量は変化しない。又、ここでのモータ軸5は固定子側から見て右回転する。
【0008】
一方、ギヤハウジング3内でモータ軸5の前方には、上端をニードルベアリング17で、中間部をボールベアリング18でモータ軸5と直交状にスピンドル15が軸支され、スピンドル15の中間にキー結合されて一体回転する第二ギヤとしてのベベルギヤ19のギヤ部20が、ピニオンギヤ9のギヤ部11と噛合している。更に、スピンドル15の下端はギヤハウジング3の下方へ突出して雄ネジ部16が形成され、その雄ネジ部16にロックナット21を螺合することで、スピンドル15へ一体に嵌着されたインナーフランジ22との間で円盤状砥石等の工具23を狭持固定可能としている。尚、ロックナット21は雄ネジ部16に右ネジで螺合する。
【0009】
そして、ギヤハウジング3においてベベルギヤ19の上方に形成された筒状部24には、スピンドル15と平行なロック部材25がスライド可能に収容される。ロック部材25は、周設されたフランジ26が筒状部24の開口と干渉して上方へ抜け止めされ、フランジ26の下方で外装されたコイルスプリング27によって、ベベルギヤ19から離反する図1の上限位置へ付勢されている。一方、ベベルギヤ19の上面でギヤ部20の内側には、ロック部材25の下端が嵌合可能な凹部28,28・・が形成されている。よって、モータ4の停止状態で、工具23を取り外すためにロックナット21を緩める場合は、ロック部材25を下方に押し込んでベベルギヤ19の凹部28の何れかに嵌合させれば、ベベルギヤ19と共にスピンドル15をロックできるため、ロックナット21を回転させて雄ネジ部16から取り外し、工具23の交換等を行うことができる。これはロックナット21を締め付ける場合も同様である。
【0010】
一方、モータ軸5を軸支するボールベアリング8は、ギヤハウジング3の後方に形成されたベアリングボックス部29に嵌入されているが、ベアリングボックス部29とボールベアリング8との間には、図2にも示すように、断面四角形状の筒状体である弾性リング30が介在されている。弾性リング30は、ベアリングボックス部29の開口後端際に段状に形成された収納部29aに収納されて、内周面中央に連続状に突設された突条31(収納前は二点鎖線の状態)をボールベアリング8の外周面に押圧させることで、ボールベアリング8を弾性支持している。
【0011】
以上の如く構成されたグラインダ1は、モータ4の起動によりモータ軸5が右回転を開始すると、コイルバネ14は、回転しようとする大径部6の外周と停止しているピニオンギヤ9の基端部10の外周との摩擦で巻き絞られる方向に力が加わるため、コイルバネ14の巻回力が上昇し、大径部6と基端部10とを強固に連結する。よって、ピニオンギヤ9もモータ軸5と一体に右回転し、噛合するベベルギヤ19を上方から見て右回転させ、一体のスピンドル15と工具23とを右回転させる。この起動時のコイルバネ14の作用によって、モータ軸5からピニオンギヤ9、ベベルギヤ19へのトルク伝達は急激に行われず、コイルバネ14がクッションとなるため、ギヤ部11,20間の衝撃を緩和して音の発生や変形、破損、摩耗等を防止できる。尚、この起動時には、スピンドル15に追従して回転する工具23との間の摩擦で、ロックナット21には締め方向への力が加わるが、コイルバネ14のクッション作用によって最終的にロックナット21への衝撃も緩和されるため、ロックナット21の締まり過ぎは生じない。
【0012】
そして、モータ4を停止させると、電気ブレーキによって強制的にモータ軸5に制動力が加わるが、慣性によって工具23及びスピンドル15とベベルギヤ19とが回転を続けようとし、ベベルギヤ19に噛合するピニオンギヤ9もこれに追従するため、ピニオンギヤ9とモータ軸5との間に速度差が生じる。すると、大径部6の外周と基端部10の外周との摩擦でコイルバネ14に拡開する方向へ力が加わり、ピニオンギヤ9への制動力の伝達を抑えるため、ピニオンギヤ9のベベルギヤ19への追従が無理なく維持される。
その後工具23側の回転低下に伴ってピニオンギヤ9の回転が低下すると、速度差の減少に伴ってコイルバネ14の巻回力が徐々に復帰し、ピニオンギヤ9とモータ軸5との回転速度が一致すると、コイルバネ14の巻回力でモータ軸5の制動力がピニオンギヤ9に伝達するため、モータ軸5の停止と共にスピンドル15と工具23も停止する。このように、モータ軸5からピニオンギヤ9への制動力の伝達も、両者の間に速度差が生じてからピニオンギヤ9が追従するまで若干のタイムラグが生じ、コイルバネ14がクッションとなるため、ギヤ部11,20間の衝撃は緩和され、音の発生や変形、破損、摩耗等を防止できる。尚、スピンドル15の減速時には工具23との間でロックナット21に緩め方向への力が加わることになるが、制動時のコイルバネ14のクッション作用により、工具23からロックナット21へ伝わる衝撃も緩和されるため、ロックナット21が緩む虞れは生じない。
【0013】
このようなコイルバネ14によるクッション作用は、回転中の工具23に瞬間的な負荷を受けた場合や、回転中にロック部材25を偶発的に押し込んだりした場合にも得られる。即ち、これらの場合はモータ軸5の回転に対してベベルギヤ19及びピニオンギヤ9の回転速度が低下することになり、コイルバネ14には巻き絞られる方向へ摩擦が生じるが、ここではモータ軸5の大径部6がコイルバネ14の巻回力に抗して回転し、コイルバネ14を大径部6の周面で滑らせるため、衝撃がモータ軸5まで伝わらず、衝撃荷重によるキックバックやギヤ部11,20間の音の発生、変形等を防止できるのである。
尚、この制動時の緩衝作用は、電気ブレーキがないもので、慣性で回転する工具23に対してロック部材25を押し込んでブレーキ代わりに使用した場合も同様に得られる。
【0014】
以上の如く上記形態によれば、モータ軸5に対してピニオンギヤ9を回動自在に設け、両者間のトルク伝達をコイルバネ14で行うようにしたことで、ギヤ部11,20間の衝撃を効果的に緩和して、音や変形、破損、摩耗等の発生を防止可能となる。又、ロックナット21の締まり過ぎや緩みが生じることもない。更に、この緩衝効果はグラインダ1の使用時の衝撃荷重等に対しても発揮できるため、キックバックの防止にも繋がる。一方、ロック部材25によるスピンドル15のロックに拘わりなく緩衝効果を得ているから、スピンドル15とベベルギヤ19との一体結合を維持して確実なロックが実現でき、工具23の着脱作業がスムーズに行えるという副次的効果も得られる。
そして、コイルバネによる連結箇所をモータ軸5とピニオンギヤ9との間としたことで、上記効果は1つのコイルバネ14で達成可能となる。即ち、起動時と制動時とで夫々別個に働くコイルバネを2つ設けるのに比べて構造が簡略化し、組み付け時においてもバネのバランスの考慮等が不要となるため、コストダウンと生産性の向上とが実現可能となるのである。
【0015】
一方、上記形態では、弾性リング30を採用したことで、突条31のない長方形断面の弾性リングに比べ、モータ軸5に対してより有効なクッション作用が得られるため、モータ軸5の振動防止が可能となる。又、このクッション作用はモータ軸5先端のピニオンギヤ9に対しても働くから、コイルバネ14による緩衝や音の発生防止が一層効果的に実現できることになる。
加えて、弾性リング30の収納部29aをベアリングボックス部29の開口後端際に配置しているため、ギヤハウジング3の金型に収納部29aを最初から形成可能となる。即ち、従来Oリング等の収納部をベアリングボックス部の中央に設けることで成形後に改めて溝状の収納部を加工する工程が必要であったことから、このような加工工程を省略でき、コストダウンに繋がるのである。
【0016】
尚、上記形態では、右回転のモータ軸に対してコイルバネを左巻きで巻回しているが、モータ軸の回転が逆であれば、コイルバネは右巻きとなる。又、スピンドルがモータ軸と直交状に配置される形態に限らず、モータ軸と平行に配置されるスピンドルに平歯車等でトルク伝達を行うものであっても本発明は適用可能である。
更に、突条31は複数列あっても差し支えないし、その他弾性リング30の内周面に突設されて収納状態でボールベアリング8を押圧できる形状であれば、突条31に代えて複数の突起を内周面に沿って1列又は複数列を断続的に設けても良い。そして、このような突条や突起の位置も弾性リング30の中央でなく、ボールベアリング8の外周面に対してその軸方向の中心に当接するように前方側へずらせて設けることもできる。
【0017】
【発明の効果】
請求項1及び2に記載の発明によれば、モータ軸に対して回動自在とした第一ギヤをコイルバネで連結したことで、コイルバネによって第一ギヤと第二ギヤ間の衝撃を効果的に緩和でき、ギヤ部間での音や変形、破損、摩耗等の発生を防止可能となる。又、モータ回転中の工具への衝撃荷重等にも有効となるため、キックバックの防止にも繋がる。更に、コイルバネによる連結箇所をモータ軸と第一ギヤ間に特定したことで、上記効果を一つのコイルバネで達成可能となる。即ち、構造が簡略化して組み付けも容易となり、コストダウンと生産性の向上とが実現できるのである。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、モータ軸の軸受とその軸受を支持するハウジングとの間に収納される弾性リングに、収納状態で前記軸受の外周面を押圧可能な突起を設けたことで、モータ軸と第一ギヤに対して有効なクッション作用が得られ、モータ軸の振動防止効果に加えて、コイルバネによる緩衝や音の発生防止が一層効果的に実現できることになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】グラインダの一部断面図である。
【図2】弾性リングの断面説明図である。
【符号の説明】
1・・グラインダ、3・・ギヤハウジング、4・・モータ、5・・モータ軸、6・・大径部、8・・ボールベアリング、9・・ピニオンギヤ、10・・基端部、11,20・・ギヤ部、14・・コイルバネ、15・・スピンドル、19・・ベベルギヤ、21・・ロックナット、23・・工具、25・・ロック部材、30・・弾性リング、31・・突条。
Claims (3)
- ハウジング内に収容したモータのモータ軸に設けた第一ギヤを、スピンドルに設けた第二ギヤと噛合させ、前記スピンドルにトルク伝達を可能とすると共に、前記ハウジングから突出させた前記スピンドルの先端で、一体に嵌着したインナーフランジと螺合させたロックナットとによって工具を挟持固定可能とする一方、前記モータに、停止時には前記モータ軸へ強制的に制動力を加える電気ブレーキを備えた電動工具であって、
前記第一ギヤを前記モータ軸に対して回動自在に設けると共に、互いに同心で対向する同径の軸部を夫々形成し、前記両軸部間に、前記モータ軸の回転方向と逆巻きのコイルバネを跨るように巻回して、前記モータ軸と第一ギヤとの間のトルク伝達を前記コイルバネにより行うことを特徴とする電動工具。 - ハウジング内に収容したモータのモータ軸に設けた第一ギヤを、スピンドルに設けた第二ギヤと噛合させ、前記スピンドルにトルク伝達を可能とすると共に、前記ハウジングから突出させた前記スピンドルの先端で、一体に嵌着したインナーフランジと螺合させたロックナットとによって工具を挟持固定可能とする一方、前記ハウジング内への押し込み操作によって第二ギヤの回転をロック可能なロック部材を備えた電動工具であって、
前記第一ギヤを前記モータ軸に対して回動自在に設けると共に、互いに同心で対向する同径の軸部を夫々形成し、前記両軸部間に、前記モータ軸の回転方向と逆巻きのコイルバネを跨るように巻回して、前記モータ軸と第一ギヤとの間のトルク伝達を前記コイルバネにより行うことを特徴とする電動工具。 - モータ軸の軸受とその軸受を支持するハウジングとの間に、筒状の弾性リングを収納し、その弾性リングにおける前記軸受側の内周面に、収納状態で前記軸受の外周面を押圧可能な突起を設けた請求項1又は2に記載の電動工具。
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Family Applications (1)
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