JP3557690B2 - 結晶成長方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は多元系バルク結晶の成長方法に関する。
複数の元素からなる多元系バルク材料は格子定数に自由度を持ち, 新たな新材料として応用分野が広く重要である。例えば, 多元系化合物半導体では, その組成を変えることによってバンドギャップ等の物性値を変化させることができるため,高性能な半導体装置をつくることができる。
【0002】
従来このような半導体装置は,多元系化合物半導体を基板結晶の上にエピタキシャル成長することによって作製されていた。しかし, この場合, 基板結晶の格子定数とその上に成長された多元系化合物半導体層の格子定数は一致しているか,もしくは近い値であることが必要である。格子定数に大きな差があると,基板結晶と成長薄膜との間にさまざまな欠陥が導入され,半導体装置が設計通りに作用しない。
【0003】
ところで,化合物半導体ではこの基板結晶は,GaAs, InP 等の2元化合物半導体が用いられるため,必然的にエピタキシャル成長膜としてはこれらの基板結晶の格子定数に近い値を持つものに限られてしまう。すなわち,最終的に得られる半導体装置の特性も,これらの条件に制約されてしまっている。
【0004】
そこで,多元系化合物半導体を基板として用いれば,その組成を変化させることにより,格子定数を変えることができるため,その上に成長する薄膜の選択範囲は飛躍的に拡大する。これにより,従来よりも優れた性能を持つ半導体装置が実現可能となる。そのために,任意の組成を持つた多元系材料の作製方法の開発が必要となる。
【0005】
しかしながら, 均一組成を持った多元系の大きなバルク結晶をつくることは,融液組成と, 融液から結晶化する結晶組成とが異なっているため非常に難しい。本発明はこの問題解決に利用できる。
【0006】
【従来の技術】
任意の組成を持つ多元系バルク材料を作る場合,成長する結晶と同じ組成の融液から成長させても,液相/固相の分配係数が各成分について異なるために,成長した材料はある成分を融液より多く含み,融液ではその成分が減少する。そのため均一な組成をもつバルク結晶をつくることは非常に難しい。
【0007】
従来例1
上記の解決法として,溶質元素を補給しながら Czochralski法 (引き上げ法) で成長する方法, すなわち,LEC (Liquid Encapsulated Czochralski) 法で成長を行う方法があり,組成のかなり均一なバルク結晶が得られている。
【0008】
例えば, 二重るつぼ法を使って, GaAsソースを補給しながら,成長を行うと高均一のInGaAsの結晶を得ることができる。
図12は二重るつぼ方式のLEC 法である。
【0009】
図において,11は外るつぼ, 12は内るつぼ, 13はスリット, 14はソース補給ロッド, 15はIn−Ga−As融液,16はB, 17はシード (種結晶), 18 は成長されたInGaAs結晶, 19はGaAsソースである。
【0010】
GaAsソースを補給しながら一定温度で引き上げ成長が行われている。この方法では融液量が大量であるため,融液内に組成のゆらぎを生じやすく, 引き上げられたバルク結晶内に局部的な組成のむらが生じやすい。
【0011】
例えば,特開平 4−114991 号公報に開示されたInGaAsの成長においては,成長に従って融液InGaAs中のGaAs成分が枯渇してゆくために, 成長中にGaAs成分を補給することでInAs組成が4.5 %の均一な組成のInGaAs結晶を得ている。しかしながら,この場合枯渇する成分のみを補給するために融液の量が減少してしまう。このことは成長界面温度の変動をもたらすために,ヒータに投入する電力を変えたり, るつぼの位置を上げるなどして, 成長界面温度を一定に保つ必要がある。
【0012】
従来例2
また, GaAsソースを直接融液に補給する場合, ソースの溶け上がりや融液面との接触ゆらぎによって融液の組成変動が起こる。これは結晶欠陥の発生原因となってしまう。これに対しては特開平 5−213683 号公報に,成長結晶とソースとの間にスリットを持つ隔壁 (図12参照)を設ける手法が開示されている。この方法により,ソース近傍での融液の組成変動は成長界面に達するまでに緩和されて, 成長界面の融液は平均的な組成が保たれることになる。
【0013】
従来例3
融液の組成変動と融液量の変動を同時に抑える方法として, 特願平 6−303300 号明細書において,成長する結晶と同一の組成を持つソース, もしくは組成の異なる複数のソースを用いて全体の補給量及び補給組成が成長結晶の成長量及び組成と同一になるようにする方法が提案されている。
【0014】
以上従来例1〜3に示されるように, Czochralski法に様々な工夫を加えることで, 多元系材料の作製がおこなわれてきた。しかし,引き上げ成長においては,融液の量が多量にあり融液量の精密な制御は可能であるが, 温度のゆらぎがたいへん大きい。すなわち, ヒータ温度を一定にしていても融液の熱対流のため成長界面の温度変動は大きく, 成長した結晶内には組成の不均一なゆらぎが残る。このような結晶を薄く切断して基板を作製すると局部的な内部歪みのため破壊する場合もある。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
このように,成長界面近傍での融液 (溶液) の組成の微妙なゆらぎによりLEC 法で成長した結晶内に局部的な組成のゆらぎを生じ, 結晶内に内部歪みとして残る。このため,バルク結晶を薄く切断し,研磨して基板を作製しようとすると, クラックを発生して破壊することが, 深刻な問題となる。
【0016】
このため,一度LEC 法で成長した結晶を原料として,もう一度再成長を行って組成の均一化を図ることが必要である。しかし,多元結晶の再成長を行った例はなく, その方法も確立していないので, 本発明では, まずゾーンメルトによる再成長方法を提供する。
【0017】
また,本発明によるゾーンメルト法を適用することで, 組成変動の少ない多元系材料を成長することができるが,この方法では異なった組成を持つ結晶を成長する度に, それに相平衡にある液相組成 x=xlの組成を持つInxlGa1−xlAsが必要である。すなわちソースと相平衡になるメルトを用意しなければならない。
【0018】
本発明は多元系結晶の再成長法を提供し,均一組成を持ち, 内部歪みの少ない多元系バルク結晶を得ることを目的とし,また,再成長して組成の均一化をおこなう際に, ソース結晶と相平衡にあるメルトを成長中に作製する手段を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記課題の解決は,
1)ゾーンメルトによる再成長法について
(1) 所定の液相成長温度に維持された多元系の融液からなる溶解部と,該液相成長温度で該融液と相平衡する該多元系の第1の原料結晶とを接続し,該溶解部を該第1の原料結晶方向に移動させ,該第1の原料結晶を補給用原料とすることで該溶解部の移動方向の逆側に該第1の組成を有する結晶を成長する結晶成長方法,あるいは
(2) 多元系の第1の組成を有する第1の原料結晶と,液相線温度が該第1の組成の固相線温度と等しい該多元系の第2の組成を有する第2の原料結晶とを接続し,該固相線温度に等しい液相成長温度に維持して該第2の原料結晶のみを溶解するとともに,溶解部を該第1の原料結晶方向に移動させ,該第1の原料結晶を補給用原料とすることで該溶解部の移動方向の逆側に該第1の組成を有する結晶を成長する結晶成長方法,あるいは
(3) 1の原料結晶として,組成の平均値が第1の組成となる前記1又は2記載の結晶成長方法,あるいは
(4) 元系結晶が,III-V 族 3元系化合物,II-VI 族3元系化合物,又はSiGeである前記1又は2記載の結晶成長方法,あるいは
(5) 2の原料結晶を,第1の組成を有する種結晶と第1の原料結晶との間に挟んで配置する前記記載の結晶成長方法,あるいは
(6) 晶成長に際し,成長炉内の温度分布に該液相成長温度より高温でかつ該第1の原料結晶の液相線温度より低温の高温部,該液相成長温度より低温の低温部及び該高温部から該低温部にかけて温度勾配を有する温度傾斜部を設け,該溶解部及び該第1の原料結晶を該第1の原料結晶が該高温部へ向くように該結晶炉内に配置して該高温部方向へ移動することで,該溶解部を該第1の原料結晶方向に移動させる前記1又は2記載の結晶成長方法,あるいは
(7) 晶成長に際し,成長炉は加圧式であるかまたは成長炉内の資料配置部が加圧式に構成されている前記1又は2記載の結晶成長方法, あるいは
(8) 結晶と第1の原料結晶と第2の原料結晶をアンプルに封入するか,あるいはるつぼに入れてB 2 O 3 で覆い,該アンプルまたは該るつぼを均熱体ブロックの中に入れ,該アンプルまたは該るつぼを該均熱体ブロックに対して相対的に移動させる前記記載の結晶成長方法,あるいは
(9) 2の原料結晶として,複数の結晶の集合体とし,平均として第2の原料結晶の組成と同一にする前記記載の結晶成長方法により達成される。
【0020】
2)上記ゾーンメルトによる再成長法において,ソース結晶と相平衡にあるメルトを成長中に作製する方法について,
(10)融液から多元系結晶を成長する結晶成長方法において,
該多元系結晶と同一の組成を持つ第1の材料と,成長温度より低温で溶解する第2の材料と,該成長温度以上の固相線温度を有する種結晶とをこの順に接触させて成長容器内に配置し、該成長容器を加熱して該第2の材料が融解して形成される融解部を形成した後,該融解部を該多元系結晶との相平衡温度に保持し,該相平衡温度を該成長温度として、該融解部を該第1の材料方向に漸次移動させる結晶成長方法,あるいは
(11)成長炉内の温度分布に該成長温度より高温でかつ該第1の材料の液相線温度より低温の高温部,該成長温度より低温の低温部及び該高温部から該低温部にかけて温度勾配を有する温度傾斜部を設け,該成長容器を該第1の材料が該高温部方向へ向くように該成長炉内に配置して該高温部方向へ移動することで,該融解部を該第1の材料方向に移動させる前記 10 記載の結晶成長方法により達成される。
3)さらに上記1),2)の方法について
(12) 高温部方向へ移動することに代えて、該成長炉内の温度を一様に降下することで、該溶解部を該第1の材料方向に移動させる前記を特徴とする請求項6又は11記載の結晶成長方法により達成される。
【0021】
【作用】
1)ゾーンメルトによる再成長方法について
本発明は多元系結晶を再成長し, 組成の均一度を上げ内部歪みを減らす結晶成長法であって,典型例としてInGaAs化合物半導体のバルク結晶成長について説明する。その他の材料に対しても同様な方法を用いることができるので,一般性は失われない。
【0022】
図5にInAs−GaAs 準2元系状態図を示す。
この図において,x =0.95 (a 点) のIn1−x GaAsの結晶を得るためには, 融点組成は温度 Ta でこの組成の固相と平衡する液相組成 (b 点) でなければならない。このように両者の値は大きく異なる。
【0023】
このため,前記の図12に示される二重るつぼ方式のLEC 法を用いて,GaAsソースを補給しながら一定温度 (例えば, Ta) で引き上げ成長が行われているが,融液内に組成のゆらぎを生じやすく, 引き上げられたバルク結晶内に局部的な組成のむらが生じやすい。
【0024】
そのために, 成長したバルク結晶にゾーンメルティングを施すことが考えられるが, 多元結晶を溶かすと図5でわかるように, この結晶の固液平衡温度 Ta よりも高い c点の融液になってしまい, この融液から成長した結晶は d点の組成を持ち, もとの a点の組成にならない。このため,ゾーンメルティングを行うと返って組成の不均一を増す結果となる。
【0025】
これに対して, 本発明では, a点の組成を持つ結晶と平衡な b点の組成を持つ結晶 (または平均として b点の組成を持つ二種類以上の結晶の集合体) を用いて, b点の組成を持つ結晶のみが融解し, a点の組成を持つ結晶が融解しない温度条件の下で, b点の組成を持つ融解した融液から種結晶上に結晶成長を行い, 同時に a点の組成を持った結晶を固液界面で融解して融液中に原料を補給するようにする。このとき,図2に示されるように, b点のInGaAs (第2の原料用結晶)2 を a点のInGaAs (第1の原料用結晶)1 とGaAs種結晶 3で挟むように配置し,図の様な温度分布(T<Ta<T) を持った炉内に入れ,温度勾配部を下方向にずらすか,または結晶全体を上方向に引き上げながら成長を行うと, 連続して成長と融液補給を繰り返すことができるため,第1の原料結晶である a点の組成を持つ結晶にゾーンメルティングを施したのと同様の効果を得ることができる。
【0026】
結晶の保持は, 全体をるつぼに入れてBを被せて高圧炉に入れてもよいし,あるいは石英管等に真空封入して高圧炉に入れてもよい。
2)ソース結晶と相平衡にあるメルトを成長中に作製する方法
上記1)記載のゾーンメルトによる再成長方法をさらに改善する方法で,両者を比較するための便宜上,まず,上記1)記載のゾーンメルトによる再成長方法の要約を記述する。
【0027】
成長した結晶内に組成の不均一なゆらぎを残さないため,一度引き上げた結晶を材料としてもう一度再成長し,組成の均一化を図るために,多元系材料にゾーンメルトを施している。例えば, InGaAsの場合, 図10のInAs−GaAs 準2元系相図(注:図5とは混晶比の付与がInAsとGaAsで逆)において,InGa1−x Asのx=xsの組成の InxsGa1−xsAsを成長する際, 種結晶GaAsと再成長しようとするInxsGa1−xsAsとの間に x=xlの組成を持つInxlGa1−xlAsを図11に示されるように挟み, InxlGa1−xlAsが融解し(T=T), ソースとなるInxsGa1−xsAsが溶けない(T<T)温度分布下におく。
【0028】
そして,この温度分布を右にずらすか,もしくは成長容器を左にずらすことにより, InxsGa1−xsAsの再成長がおこなわれる。この場合はゾーンの幅を小さくできることにより, また成長に伴って補給がおこなわれるので引き上げ成長よりも組成変動が小さくなる。
【0029】
しかしながら, 前記のようにこの方法では異なった組成を持つ結晶を成長させる度に, それに相平衡にある液相組成 x=xlの組成を持つInxlGa1−xlAsが必要である。すなわちソースと相平衡になるメルトを用意していない場合は, ソースに応じたメルトの作製から始めなければならない。
【0030】
これに対して, 再成長して組成の均一化をおこなう際に, ソース結晶と相平衡にあるメルトを成長中に作製できる本発明の作用をInGa1−x Asのバルク結晶成長について図6を用いて説明する。その他の材料に対しても全く同様な方法を用いることができるので,一般性は失われない。
【0031】
InxsGa1−xsAs結晶を成長させる場合, 種結晶 3としてGaAs結晶, 第1の材料 1としてInxsGa1−xsAsを用い, 第2の材料 2としてInAsを用意してこれを第1の材料 (ソース) であるInxsGa1−xsAs結晶と種結晶であるGaAsとの間に挟み, 炉内に入れて図6(A) 〜(D) に示される温度分布になる処理をおこなう。実際には室温からヒータに電力を投入し,徐々に昇温する。すると,まず始めに融点の最も低いInAsが 942℃で融解する。(B) そして, この温度を越えるとInAsに接したInxsGa1−xsAsあるいはGaAsの一部が融けだし,(C) メルトはInGaAsとなる。(D) 最終的にはメルト部の温度Tにおいて図10の相図に示されるInxlGa1−xlAsの組成の融液となる。このとき,図6の高温部ではInxsGa1−xsAsの融点より低いためにソースのInxsGa1−xsAsは融解しない。すなわちこの時点ですでに上記1)記載の多元材料のゾーンメルト法と全く同一の配置になり,上記図6(D) の説明に示されるように,ゾーンにあたるInxlGa1−xlAsを用意することなくこれを成長中につくることができる。従ってこのままの状態で温度分布と結晶とを相対的に移動させれば組成の均一な所望の結晶が成長できる。
【0032】
【実施例】
1)ゾーンメルトによる再成長方法について
実施例1
次に, x =0.95のIn1−x GaAsの結晶を成長した実施例を説明する。
【0033】
図1,2は本発明の実施例1の説明図である。
まず, 図12に示されるLEC 法により第1の原料結晶 1として x=0.95のIn1−x GaAsのバルク単結晶と, 第2の原料結晶 2として x=0.64のIn1−x GaAsのバルク多結晶を作製する。
【0034】
この時, x=0.95のIn1−x GaAsの成長溶液は1170℃であり, 融液組成はInAsが36%, GaAsが64%である。
x=0.64のIn1−x GaAsの成長温度は1005℃, 融液組成はInAsが10%, GaAsが90%とした。
【0035】
この2つの原料結晶 1, 2 をGaAs種結晶 3とともに図2のように石英管の中に配置し,真空封入した。この試料を図1に示されるように,均熱体としてのカーボンブロック 4内に配置し,全体を8気圧のアルゴン(Ar)雰囲気の高圧炉に入れて1170℃に誘導加熱コイル 5により加熱し,第2の原料結晶である x=0.64のIn1−x GaAsのみを融解させる。 この状態で,上方向に 2 mm/h の速度で引き上げながら成長を行い, x=0.95のIn1−x GaAsのバルク単結晶を再成長させて得ることができた。
【0036】
得られたInGaAsバルク結晶は直径が1.5 cmφ, 長さが 6 cm,キャリア濃度はn型で 1.9×10/cm−3, 抵抗率は 8×10Ωcm, 電子の移動度 5010 cm/Vsであった。X線回折による半値幅は57秒以下であり,組成が均一であることを示している。
【0037】
上記のように, 得られたInGaAsのバルク単結晶は組成が極めて均一であり,内部歪みも殆どなく,スライス, 研磨して良質のInGaAs基板として用いることができた。
【0038】
実施例2
図3は本発明の実施例2の説明図である。
実施例1と同様にLEC 法を用いて, 同様の第1の原料結晶 1と第2の原料結晶2を作成する。
【0039】
この2つの原料結晶 1, 2 をGaAs種結晶 3とともに図のように石英管の中に配置し,真空封入した。これを図のような温度分布を持った加圧式ゾーンメルト炉(8 気圧のAr加圧) に入れ, 高温部のピーク温度(T)を1170℃以上1220℃以下に加熱し, 第2の原料結晶である x=0.64のIn1−x GaAsのみを融解させる。
【0040】
この状態で,上方向に 2 mm/h の速度で引き上げながら成長を行い, x=0.95のIn1−x GaAsのバルク単結晶を再成長させて得ることができた。
この結果, 実施例1と同等の特性を持ったInGaAs単結晶が得られた。
【0041】
実施例3
次に, 第2の原料結晶として,複数の結晶の集合体とし,平均として第2の原料結晶の組成と同一にする実施例を図4を用いて説明する。
【0042】
図4は本発明の実施例3の説明図である。
実施例1と同様にLEC 法を用いて, 同様の第1の原料結晶 1を作成する。
この第1の原料結晶 1とInAs:GaAsの比率が0.36:0.64となるように組み合わせた第2の原料結晶 2 (2A:GaAs, 2B:InAs) とGaAs種結晶 3とを図のように石英管の中に配置し,真空封入した。これを図のような実施例1と同様の温度分布を持った加圧式ゾーンメルト炉 (8 気圧のAr加圧) に入れ, 実施例1と同様の加熱により, 第2の原料結晶のみを融解させる。
【0043】
この状態で,上方向に 2 mm/h の速度で引き上げながら成長を行い, x=0.95のIn1−x GaAsのバルク単結晶を再成長させて得ることができた。
この結果も, 実施例1と同等の特性を持ったInGaAs単結晶が得られた。
【0044】
実施例のInGaAs以外に,多元系結晶が,III−V 族3元系化合物,II−VI 族3元系化合物, SiGeであり,すなわち, InGaP, GaAsP, InAsP, InGaSb 等であっても本発明は適用できる。
【0045】
また,実施例のGaAs以外に,種結晶として,InAs, GaP, InP, InSb, GaSb, Si, SiGe, InGaAs, InGaP, GaAsP, InAsP, InGaSb, ZnSe, HgTe, CdTe, ZnS等であっても本発明は適用できる。
【0046】
また,実施例では成長炉として縦型, または横型炉を用いてもよい。そして,加圧式炉であるかまたは成長炉内の試料配置部が加圧式に構成されていればよい。
【0047】
また,実施例の結晶成長に際し, 融液中に電流を流し, 溶質元素の補給を促進するようにしてもよい。
また,種結晶と第1の原料結晶をそれぞれ反対方向に回転させながら結晶成長を行うようにしてもよい。この回転により組成の均一性は向上する。
【0048】
また,実施例では種結晶と前記第1の原料結晶と第2の原料結晶をアンプルに封入して成長したが,これの代わりにるつぼに入れ, Bで覆って成長してもよい。
【0049】
また,実施例の成長を前記成長を複数回繰り返して行うことにより,一層均一な組成の結晶を得ることができる。
2)ゾーンメルトによる再成長法において,ソース結晶と相平衡にあるメルトを成長中に作製する方法について
実施例4
図7において,外径 120 mm のカーボン均熱体ブロック 5に直径18 mm のパイロジェニック・ボロンナイトライド(PBN) 製のるつぼ 4を入れる。ここでは, 図示されるような縦型成長炉を用い, 高温部及びそれに続く温度傾斜部からなる温度分布とした。
【0050】
9 mm×9 mm×10 mm の大きさのGaAs種結晶 3, 及び9 mm×9 mm×20 mm の大きさのIn0.064Ga0.936As多結晶 (第1の材料でソース) 1 を用意する。
この第1の材料と相平衡になるのはIn0.47Ga0.53Asの組成を持つ結晶であるがInAsの組成が極めて大きいため厳密にその組成を持つ結晶を作製することは極めて困難である。そこで手元にあった厚さ 1 mm のIn0.5Ga0.5As結晶(第2の材料)2 をソース 1と種結晶 3との間に挟んでるつぼ 4に入れた。この上に液体封止材として Bを被せて真空引きの後, アルゴン(Ar)を4 気圧になるように成長炉に満たして昇温した。このとき,In0.5Ga0.5Asの位置での温度がInAs−GaAs の相図(図10) で xs=0.064 に相当する1150℃に設定した。また, 高温部に相当する下部のIn0.064Ga0.936As多結晶の位置の最高温度は1190℃であり,これはIn0.064Ga0.936Asの融点よりも低いので,In0.064Ga0.936Asは単独では融解しない。
【0051】
次いで, このままの位置で 2時間保持し,ゾーンの部分が融けてこの温度で融解成分が十分混ざり合うのを待った。その後, ヒータの温度を0.1 ℃/hでゆっくり下げて温度分布を相対的に移動させた。
【0052】
このようにして得られた結晶をカットし,研磨, エッチングの後にフォトルミネセンス(PL)測定をおこなった。PL測定は77 Kで, レーザのスポットサイズが約150μm×150 μmで調べ, PLのピーク波長から混晶組成を求めた。その結果,図8に示されるように極めて均一性の良い組成の結晶が得られた。
【0053】
実施例5
図9において,第1の材料として従来の引き上げ成長で作製した直径15 mm 長さ30 mm のIn0.05Ga0.95As多結晶 1第2の材料として厚さ 2 mm のInAs多結晶ウェーハ 2を用いた。また,種結晶としてIn0.05Ga0.95As単結晶 3を従来の引き上げ法で成長したが, 直径15 mm で長さは 5 mm しかとれなかった。
【0054】
これらの結晶を図示されるように石英管 4の中に配置し,真空封止した。この石英管を横型の炉で設定温度が図示の凸分布を持つ炉の中に入れ,昇温した。このときInAsは融けて厚さ約 4 mm のIn0.36Ga0.64Asとなる。このときの融液の両界面が1170℃になるようにヒータ電力および石英管の位置を調節した。
【0055】
この状態で, 石英管を 2 mm/h で左方向に移動させながら成長をおこない,
In0.05Ga0.95Asのバルク単結晶を再成長させることができた。
このようにして得られたIn0.05Ga0.95Asバルク単結晶の組成の変動は実施例
4の場合と同様に極めて小さく, しかも結晶全体にわたって均一な組成となった。
【0056】
実施例4,5において,種結晶のみでなく, 第1の材料, もしくは第2の材料の少なくとも何れか1つを単結晶としてもよい。
また,実施例4,5では,種結晶,第1の材料, もしくは第2の材料として,III−V 族化合物半導体を用いたが, II−VI 族化合物半導体, もしくはIV族半導体を用いても発明の要旨は変わらない。
【0057】
さらに, ヒータによる熱の不均一性を解消するために,第1の材料と種結晶とを互いに同方向もしくは反対方向に 1〜20 rpmで回転させながら成長すると温度の均一性がよくなる。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば,多元系結晶の再成長法が得られ,均一組成を持ち, 内部歪みの少ない多元系バルク結晶を得ることができる。
【0059】
すなわち,本発明は一定温度で成長を行い,しかも成長結晶と同一に近い組成の原料結晶を用いて補給を成長中に連続して行う方法であり,さらに成長融液量を極めて少量とすることが可能であるため,原理的にLEC 法より高均一な組成を持った多元系バルク結晶を成長することができる。しかも, 結晶全体を均熱体のカーボンブロックに入れ高圧炉の中で成長できるので, LEC 法よりも温度の均熱性が高くなるため,組成のゆらぎはより一層低減する。
【0060】
また, LEC 法よりも, 融液や固液界面の温度を正確にモニタできるため, 組成の均一化に有効である。
さらに, 融液内に通電する等の外的効果を導入することも容易であり,この面でも組成の均一化の手段拡大に有効である。
【0061】
また,本発明によれば,多元系化合物半導体結晶を再成長して組成の均一化をおこなう際に, ソース結晶と相平衡にあるメルトを成長中に作製することができ,メルトを別途用意する必要はなくなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1の説明図(1)
【図2】本発明の実施例1の説明図(2)
【図3】本発明の実施例2の説明図
【図4】本発明の実施例3の説明図
【図5】InAs−GaAs 準2元系状態図
【図6】本発明の原理説明図 (ソース結晶と相平衡にあるメルトを成長中に作製できる作用の説明)
【図7】本発明の実施例4の説明図
【図8】本発明の実施例4の効果説明図
【図9】本発明の実施例5の説明図
【図10】InAs−GaAs 準2元系相図
【図11】本発明の再成長法の説明図
【図12】二重るつぼ法によるLEC の説明図
【符号の説明】
1 第1の原料結晶(第1の材料)
2 第2の原料結晶(第2の材料)
3 種結晶
4 成長容器
5 カーボン均熱体
6 誘導加熱コイル

Claims (12)

  1. 所定の液相成長温度に維持された多元系の融液からなる溶解部と,該液相成長温度で該融液と相平衡する該多元系の第1の原料結晶とを接続し,該溶解部を該第1の原料結晶方向に移動させ,該第1の原料結晶を補給用原料とすることで該溶解部の移動方向の逆側に該第1の組成を有する結晶を成長することを特徴とする結晶成長方法。
  2. 多元系の第1の組成を有する第1の原料結晶と,液相線温度が該第1の組成の固相線温度と等しい該多元系の第2の組成を有する第2の原料結晶とを接続し,該固相線温度に等しい液相成長温度に維持して該第2の原料結晶のみを溶解するとともに,該溶解部を該第1の原料結晶方向に移動させ,該第1の原料結晶を補給用原料とすることで該溶解部の移動方向の逆側に該第1の組成を有する結晶を成長することを特徴とする結晶成長方法。
  3. 該第1の原料結晶として,組成の平均値が第1の組成となることを特徴とする請求項1又は2記載の結晶成長方法。
  4. 多元系結晶が,III-V 族 3元系化合物,II-VI 族3元系化合物,又はSiGeであることを特徴とする請求項1又は2記載の結晶成長方法。
  5. 第2の原料結晶を,第1の組成を有する種結晶と第1の原料結晶との間に挟んで配置することを特徴とする請求項記載の結晶成長方法。
  6. 結晶成長に際し,成長炉内の温度分布に該液相成長温度より高温でかつ該第1の原料結晶の液相線温度より低温の高温部,該液相成長温度より低温の低温部及び該高温部から該低温部にかけて温度勾配を有する温度傾斜部を設け,
    該溶解部及び該第1の原料結晶を該第1の原料結晶が該高温部へ向くように該結晶炉内に配置して該高温部方向へ移動することで,該溶解部を該第1の原料結晶方向に移動させることを特徴とする請求項1又は2記載の結晶成長方法。
  7. 結晶成長に際し,成長炉は加圧式であるかまたは成長炉内の試料配置部が加圧式に構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の結晶成長方法。
  8. 種結晶と第1の原料結晶と第2の原料結晶をアンプルに封入するか,あるいはるつぼに入れてB 2 O 3 で覆い,該アンプルまたは該るつぼを均熱体ブロックの中に入れ,該アンプルまたは該るつぼを該均熱体ブロックに対して相対的に移動させることを特徴とする請求項記載の結晶成長方法。
  9. 該第2の原料結晶として,複数の結晶の集合体とし,平均として第2の原料結晶の組成と同一にすることを特徴とする請求項記載の結晶成長方法。
  10. 融液から多元系結晶を成長する結晶成長方法において,
    該多元系結晶と同一の組成を持つ第1の材料と,成長温度より低温で溶解する第2の材料と,該成長温度以上の固相線温度を有する種結晶とをこの順に接触させて成長容器内に配置し、
    該成長容器を加熱して該第2の材料が融解して形成される融解部を形成した後,該融解部を該多元系結晶との相平衡温度に保持し,
    該相平衡温度を該成長温度として、該融解部を該第1の材料方向に漸次移動させることを特徴とする結晶成長方法。
  11. 成長炉内の温度分布に該成長温度より高温でかつ該第1の材料の液相線温度より低温の高温部,該成長温度より低温の低温部及び該高温部から該低温部にかけて温度勾配を有する温度傾斜部を設け,
    該成長容器を該第1の材料が該高温部方向へ向くように該成長炉内に配置して該高温部方向へ移動することで,該融解部を該第1の材料方向に移動させることを特徴とする請求項10記載の結晶成長方法。
  12. 該高温部方向へ移動することに代えて、該成長炉内の温度を一様に降下することで、該溶解部を該第1の材料方向に移動させることを特徴とする請求項6又は11記載の結晶成長方法。
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