JP3557084B2 - 磁気光学素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、画像を形成するためのデバイスであって、その可視化によりディスプレイ等への応用も可能な磁気光学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、磁気光学効果(ファラデー効果ないしは磁気光学カー効果)を示す磁性体は、例えば、光磁気ディスクに利用されて情報の書込み・再生が可能とされている。この他、磁気光学効果を示す透明磁性体を用いこの透明磁性体に対して磁気ヘッドを用いて画像の書込みを行って画像を形成するためのイメージデバイス等への応用が検討されている。また、光を照射させることでファラデー回転の有無により画像を可視化表示させるディスプレイへの応用も検討されている。
【0003】
ここに、磁性体と空隙とが交互に一次元的に配列された周期構造を持つ不連続磁性媒体や、乱れた積層構造を持つ多層薄膜の磁気光学効果に関して、その磁気光学効果が単なる連続媒体に比して増大する点に関する解析及びその結果が、▲1▼諌本、山本、井上、藤井:電子情報通信学会 信学技報 MR94−87,CPM94−112(1995−02)p15〜22の「不連続磁性媒体の磁気光学ファラデー効果の理論解析」、▲2▼諌本、山本、井上、藤井:電気学会マグネティック研究会資料Vol.MAG−95−132,No.131−141 p9〜18(1995)の「準ランダム一次元アレー構造をもつ不連続磁性媒体の磁気光学効果」、▲3▼井上、藤井:日本応用磁気学会誌21,187−192(1997)の「乱れた積層構造をもつ多層薄膜の光局在化による磁気光学ファラデー効果の巨大エンハンスメント」等の文献により報告されている。
【0004】
また、透明磁性体を一対の誘電体多層膜で挾んで磁気光学効果を増大させるようにした磁気光学素子に関する提案も本出願人によってなされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、透明磁性体を一対の誘電体多層膜で挾んで磁気光学効果を増大させる上記既提案例では、特定波長ではなく、可視光全般の磁気光学効果の増大を意図したものであるが、その増大効果はせいぜい2倍程度に留まるものである。
【0006】
また、上記▲1▼〜▲3▼の文献等にも示されているように、特定波長の磁気光学効果を増大させるには、透明磁性膜の膜厚及び誘電体多層膜各層の膜厚を厳密に制御することによって選択することが可能である。しかし、この結果必然的に増大される波長範囲はシャープであり、狭いものとなっている。従って、単一波長のレーザ光の場合には有効といえるが、例えば、コントラストの大きな画像を得る場合のように、より広い波長範囲の光に適用することが望まれる目的には不向きである。
【0007】
そこで、本発明は、広い波長範囲に渡ってより大きな磁気光学効果を得ることができ、画像コントラストを大幅に向上させ得るイメージングデバイスを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、粒子が基板に到着する過程に変化を与えて粒子の付着量を調整し光透過と垂直方向に膜厚を連続的に増減させた透明磁性薄膜と、屈折率の異なる2種類の多数の誘電体膜が交互に積層されて前記透明磁性層を挾む一対の誘電体多層膜とを備え、前記透明磁性薄膜の膜厚が連続的に増減することで対象の波長の前後においても大きなファラデー回転角が得られ磁気光学効果の適用波長範囲を広げるようにした。従って、基本的に透明磁性薄膜を一対の誘電体多層膜で挾む構造により磁気光学効果を増大させ得るが、増大効果が発揮される波長を規定する透明磁性薄膜の膜厚が連続的に増減しているので、適用波長範囲を広げることができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、粒子が基板に到着する過程に変化を与えて粒子の付着量を調整し光透過と垂直方向に膜厚を連続的に増減させた透明磁性層と、屈折率の異なる2種類の多数の誘電体膜が交互に積層されて前記透明磁性薄膜を挾む一対の誘電体多層膜とよりなる構造体を複数層積層した構造を備え、前記透明磁性薄膜の膜厚が連続的に増減することで対象の波長の前後においても大きなファラデー回転角が得られ磁気光学効果の適用波長範囲を広げるようにした。従って、基本的に請求項1記載の発明の場合と同様に適用波長範囲を広げ得るが、さらに、同一の構造体を複数層積層してなるので、磁気光学効果を一層増大させることができ、画像コントラストも大幅に向上させることができる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のイメージングデバイスにおける一対の誘電体多層膜は、材料、積層数、膜厚が全く同一で透明磁性層薄膜に対して対称である。従って、一対の誘電体多層膜が同一構造からなるので、磁気光学効果の増大が安定して得られる。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1,2又は3記載のイメージングデバイスにおける透明磁性層薄膜は、平均膜厚が100〜400nmである。従って、画像を形成するためのイメージングデバイスとして標準的な波長域の光を用いることができる。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1,2,3又は4記載のイメージングデバイスに加えて、最外層の誘電体多層膜の外面に、互いの偏光軸を回転させてなる一対の偏光子を備える。従って、イメージングデバイスに形成された画像をコントラストの高い状態で可視化することができ、ディスプレイ等に応用し得る。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態のイメージングデバイス1は、透明基板2上に誘電体多層膜3、透明磁性層4、誘電体多層膜5を順次積層し、これらの積層構造体を一対の偏光子6,7で挾んだサンドイッチ構造として形成されている。
【0014】
ここに、透明磁性層4の膜厚は、基本的にはファラデー回転角を増大させたい波長λに対してλ/2に設定されるが、本実施の形態では、この波長λより少し長い波長や短い長であっても大きなファラデー回転角が得られるようにこの透明磁性層4の膜厚が連続的に増減変化するように形成されている。変化させる範囲は、ファラデー回転角を増大させたい波長λに対してλ/±30%、好ましくは、λ/±20%以内がよい。例えば、λ=500nmの波長光のファラデー回転角を増大させたい場合であれば、透明磁性層4の膜厚が(250±25)nmとなるように作製すればよい。透明磁性層4がPVD法による薄膜の場合であれば、このような膜厚の連続的傾斜(増減変化)は、透明基板2の傾斜や、透明基板2と蒸気源との間に邪魔板を介在させる等の手法により容易に実現できる。透明磁性層4の膜厚の変化は、連続的であればよく、必ずしも単調増減に限らず、増減を繰返すパターンであってもよい。
【0015】
ここに、透明磁性層4の平均膜厚は上記のように可視光波長λの1/2に設定されるので、ファラデー回転角が絶対的な大きさにおいて不十分な場合を生ずる。このような場合には、透明基板2上に、誘電体多層膜3/透明磁性層4/誘電体多層膜5よりなる構造体を、全く同じ構造として複数層積層させた構造とすれば、十分なファラデー回転角が得られる。誘電体多層膜3/透明磁性層4/誘電体多層膜5よりなる構造体を2回繰り返せば(積層すれば)、約2倍のファラデー回転角が得られる。
【0016】
このような透明磁性層4の材料としては従来一般に用いられている磁気光学効果を示す透明磁性材料でよいが、ファラデー効果が大きくて透明性の大きい、所謂、性能指数の大きい磁性材料が好ましい。例えば、50nm以下の粒子径を有するFe,Co,Ni等の強磁性金属の超微粒子膜を用い得る。この場合の金属超微粒子以外の膜組成には酸素、炭素等が含まれる。Fe,Co,Ni等の強磁性金属は大きな磁気光学効果を示すが、光の吸収も大きいためにそのままの薄膜では用いられなかったが、超微粒子膜とすると大きな性能指数を有する。また、粒子径の制御により適当な保磁力を得ることができる。他に、希土類鉄ガーネットやコバルトフェライト、Baフェライト等の酸化物、FeBO3 ,FeF3 ,YFeO3 ,NdFeO3 等の複屈折性の大きな材料、MnBi,MnCuBi,PtCo等の超微粒子も利用可能である。磁気光学効果は、光の進行方向とスピンの方向とが平行な場合に最も大きな効果が得られるので、これらの透明磁性材料は膜面に垂直な方向に磁気異方性を有する膜として形成するのが好ましい。このような透明磁性層4の作製には、一般的なスパッタリング法、真空蒸着法、MBE等のPVD法、CVD法、メッキ法等を用い得る。
【0017】
何れにしても、これらの磁性材料のファラデー効果には材料固有の波長依存性がある。そこで、上述したような磁性材料を用いる場合にはその波長依存性を考慮して透明磁性層4の膜厚(平均膜厚)を決定しなければならない。図3は一例として希土類鉄ガーネットの場合のファラデー回転角の波長依存性を示す。しかも、分光透過率の測定から、450nm付近のファラデー回転角のピークは、吸収のため、画像濃度への寄与は少ないことが判っている。従って、本実施の形態において誘電体多層膜3,5でファラデー回転角を増大させる波長は520nm程度とするのが好ましい。
【0018】
誘電体多層膜3,5は、その材料、積層数、膜厚等が全く同一に形成されたもので、各々、屈折率が高低異なる2種類の誘電体膜8a,8bを1ペアとして多数積層させてなる。ペア数は特に制限がないが、3〜20ペア程度とするのが性能上、コスト上好ましい。また、透明磁性層4に直接接する膜の種類としては、誘電体多層膜3,5で同じ誘電体膜8a又は8bを用いるので、図2に示すように、積層順序は逆となる。即ち、誘電体多層膜3,5は透明磁性層4に対して対称構造とされている。ここに、誘電体膜8a,8bの材料は、例えば、誘電体膜8aとしてはSiO2 ,誘電体膜8bとしてはTa2O5等を用い得るが、これらを含めて表1に示すような各種材料を用い得る。これらの材料中から適宜選択してもよく、或は、これ以外の材料、例えば有機物であっても構わない。誘電体膜8a,8bの各膜厚は50〜200nm程度が好ましい。特定波長λの磁気光学効果の増大を目的とする場合であれば、誘電体膜8a,8bの膜厚はλ/4n(nは波長λにおける誘電体の屈折率)とする。
【0019】
【表1】
【0020】
透明基板2としては、石英ガラス、サファイア、結晶化透明ガラス、パイレックスガラス、Al2O3、MgO、BeO、ZrO2 、Y2O3、ThO2・CaO、GGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)等の無機透明材料や、MMA、PMMA、ポリカーボネート、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ樹脂、ポリ‐4‐メチルペンテン‐1、フッ素化ポリイミド、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン樹脂等の透明プラスチックフィルムが用いられる。透明プラスチックフィルムを用いると、軽い、曲げやすい等の利点があるので使いやすい。
【0021】
偏光子6,7を用いるのは、誘電体多層膜5/透明磁性層4/誘電体多層膜3/透明基板2なる構成において、透明磁性層4の磁化された部位で得られる大きなファラデー回転角を、画像として可視化するためである。即ち、透明磁性層4の磁化された部位に対応して大きなファラデー回転角が得られるのに対して、磁化されていない部位では光の偏光面が回転しないので、一対の偏光子6,7の偏光軸(吸収又は透過軸)を、偏光面回転部位と非回転部位とでコントラストが最も大きくなるように回転させておけば、偏光面回転部位では透過光のため白く、非回転部位では両偏光子6,7を通過できないため黒く見えることになり、画像が可視化される。
【0022】
このような偏光子6,7としては、各種の市販の偏光フィルム、ビームスプリッタを用いた高透過率偏光子等を利用し得る。偏光フィルムは大別すると多ハロゲン偏光フィルム、染料偏光フィルム、金属偏光フィルム等がある。多ハロゲン偏光フィルムは2色性物質にヨウ素を用いているために可視光領域全般についてフラットな特性を有するが、反面、湿度、高温等に弱いという欠点がある。染料偏光フィルムは偏光性能がヨウ素よりも劣るものの、熱、光、湿度に対して耐性が大きいという特長を有している。何れにしても、偏光子6,7の表面(露出面)はきずが付きやすいので、実際には保護膜を設けるのが好ましい。
【0023】
また、偏光子6,7としては、以下に例示するような各種の偏光子も利用できる。例えば、特開平1−93702号公報に示されるように、強磁性体微粒子からなる多数の棒状素子を含む偏光層を基板表面に一定方向に配列して固着形成することにより、製造が容易で光学的特性に優れた偏光板がある。また、東京農工大学 佐藤勝昭教授著「現代人の物理1−光と磁気」(1988年出版)p103 に記載されているワイヤグリッド偏光子がある。これは、2.5μmより長波長の光に対する偏光子であって、透明基板(臭化銀、ポリエチレン等)に微小な間隔で金やアルミニウムの線を引いたものである。線の間隔をd、波長をλとすると、λ≫dなる波長光に対して透過光は線に垂直な振動面を持つほぼ完全な直線偏光になることを利用したものである。中赤外用(2.5〜25μm)としては、臭化銀基板にd=0.3μm間隔で金線を引いたものが、遠赤外用(16〜100μm)としては、ポリエチレン板にd=0.7μmでアルミニウム線を引いたものが用いられる。また、コーニング社製のポーラコア(商品名)がある。これは、長く延伸させた金属銀をガラス自身の中に一方向に配列させることにより、偏光特性を持たせたガラスであり、従来の有機物偏光素子と異なり耐熱性、耐湿性、耐化学薬品性、レーザ光に対する耐性に非常に優れている。また、マイクロワイヤアレイと称されるもので、赤外線用にアルミニウムの表面を陽極酸化させアルミナとし、微細な穴を開けて中にNiやCuなどの金属を入れて偏光子としたものがある。さらに、積層型偏光子と称されるものがある。これは、可視光用にはRFスパッタリング法で60〜80Åの厚さのGeと、1μm厚さのSiO2 とを交互に積層して全体の厚みを60μmとして作製される。0.6μmの波長で測定した性能指数αTE/αTM(TE波とTM波に対する消衰定数の比)は400近く、0.8μmの波長で測定した消光比は35dB、挿入損失は0.18dBであり、可視光に対して十分なものである。
【0024】
【実施例】
以下、上述した構成例に基づく具体的な構成例を実施例1,2として、比較例1〜5とともに説明する。
【0025】
<実施例1>
0.5mm厚の石英基板(透明基板2)上にイオンプレーティング法を用いてSiO2 (低屈折率の誘電体膜8a、屈折率n=1.47)を88.4nm、Ta2O5(高屈折率の誘電体膜8b、屈折率n2.15)を60.5nmなる膜厚として交互に6層ずつ、合計12層積層して誘電体多層膜3を形成した。このときの基板温度は300℃、酸素ガス圧力はSiO2 膜の場合で1.0×10 ̄4Torr 、Ta2O5膜の場合で1.1×10 ̄4Torr であった。成膜レイトはSiO2 膜の場合で2nm/s、Ta2O5膜の場合で0.5nm/sであった。誘電体多層膜3の膜厚分布は、最も厚いところと薄いところとの差異が全膜厚の3%であった。次いで、このような誘電体多層膜3上に、スパッタリング法を用いてBi置換希土類鉄ガーネット膜(透明磁性層4)を平均膜厚が520/2=260nmとなるように作製した。このとき、石英基板の前に邪魔板を配置し、さらに、蒸発源直上からの距離を調整して、2mm角の中で、平均膜厚を中心として±14%膜厚が連続的に変化するように成膜した。このとき、基板温度は400℃とした。この後、この基板上の膜を空気中、650℃で3時間加熱した。膜の組成は、Bi2.2Dy0.8Fe3.8Al1.2O12であった。磁気光学効果測定装置(日本分光株式会社製のK250、ビーム径2mm角)で測定したファラデー回転角の波長依存性から、ピークの半値幅を求めると19nmであった。波長520nmでは回転角のピーク値は2.2°であった。VSMで磁界を膜面に垂直に印加して測定した保磁力は600Oeであった。次いで、このようなBi置換希土類鉄ガーネット膜上にイオンプレーティング法を用いて、上述した誘電体多層膜3の場合と全く同様にして、SiO2 膜とTa2O5膜との誘電体多層膜5を作製した。Bi置換希土類鉄ガーネット膜に直接接している膜はTa2O5膜であり、最表層側はSiO2 膜である。ファラデー回転角の波長依存性から波長520nmでは上記の2.2°に対して約6倍なる13.0°の回転角となったものである。
【0026】
このような製法を用いて、石英基板上には、誘電体多層膜3/透明磁性層4/誘電体多層膜5なる構造体を2回繰り返して多層構造に形成した。波長520nmでは25.3°のファラデー回転角が得られたものである。また、波長520nmを中心とした回転角ピークの半値幅は78nmであった。以上の積層構造体の最外層を市販されている一対のフィルム偏光子(偏光子6,7)で挾み、そのフィルム偏光子の上から永久磁石(表面磁束密度3kガウス)の付いた磁気ペンで文字を書いた。そこで、一対のフィルム偏光子をゆっくりと回転させたところ、磁気ペンで描いた文字が表示(可視化)されたものである。このときの画像部分のコントラストは4.4あり、見やすい表示画像であった。
【0027】
<比較例1>
Bi置換希土類鉄ガーネット膜(透明磁性層4)の膜厚に変化を付けずに膜厚が130nmで均一となるようにこの透明磁性層4を成膜した点以外は、全て実施例1の場合と同様にしてイメージングデバイスを作製したところ(透明磁性層4の膜厚分布は最も厚いところと薄いところとでの差異が全膜厚の4%であった)、波長520nmでは25.7°のファラデー回転角となり、回転角ピークの半値幅は23nmと狭かったものである。また、一対のフィルム偏光子で挾み、磁気ペンで同様に文字を描いた場合に表示された文字のコントラストは2.9に留まったものである。従って、実施例1のように透明磁性層4の膜厚を連続的に増減変化させることが有効なことが判る。
【0028】
<比較例2>
石英基板上に形成する誘電体多層膜3は10層とし、Bi置換希土類鉄ガーネット膜(透明磁性層4)上に形成する誘電体多層膜5は15層として、誘電体多層膜3,5の層構造を異ならせる以外は、実施例1の場合と全く同様にしてイメージングデバイスを作製したところ、波長520nmでは18.1°のファラデー回転角となり、回転角ピークの半値幅は48nmと狭めになったものである。また、一対のフィルム偏光子で挾み、磁気ペンで同様に文字を描いた場合に表示された文字のコントラストは1.7に留まったものである。従って、実施例1のように誘電体多層膜3,5は全く同一に形成することが有効なことが判る。
【0029】
<比較例3>
Bi置換希土類鉄ガーネット膜(透明磁性層4)を平均膜厚が500nmとなるように作製した点以外は、実施例1の場合と全く同様にしてイメージングデバイスを作製したところ、波長520nmでは14.9°のファラデー回転角となり、回転角ピークの半値幅は30nmと狭くなったものである。また、一対のフィルム偏光子で挾み、磁気ペンで同様に文字を描いた場合に表示された文字のコントラストは2.0に留まったものである。従って、実施例1のように透明磁性層4の膜厚を400nm程度以下に形成することが有効なことが判る。
【0030】
<実施例2>
0.5mm厚の石英基板(透明基板2)上に実施例1の場合と全く同様にしてSiO2 膜(低屈折率の誘電体膜8a)とTa2O5(高屈折率の誘電体膜8b)とによる誘電体多層膜3を形成した。次いで、誘電体多層膜3上に、真空蒸着法を用いて鉄超微粒子膜(透明磁性層4)を平均膜厚が200nmとなるように作製した。このとき、石英基板の前に1mm間隔の金属メッシュを配設し、3mm角の中で平均膜厚を中心として±16%膜厚が連続的に変化するようにメッシュと基板との間隔を調整して成膜した。このとき、基板温度は常温とした。膜の組成は鉄39.1atmic% 、酸素36.6atmic% 、炭素24.0atmic% であった。磁気光学効果測定装置で測定したこのときのファラデー回転角の波長依存性を図4に示す。波長550nmでは1.6°のファラデー回転角であった。波長550nmでの分光透過率は39.0%であった。また、VSMで磁界を膜面に垂直に印加して測定した保磁力は320Oeであった。次いで、このような鉄超微粒子膜上にイオンプレーティング法を用いて、上述した誘電体多層膜3の場合と全く同様にして、SiO2 膜とTa2O5膜との誘電体多層膜5を作製した。ファラデー回転角の波長依存性から波長550nmでは上記の1.6°に対して15.7°の回転角となったものである。
【0031】
このような製法を用いて、石英基板上には、誘電体多層膜3/透明磁性層4/誘電体多層膜5なる構造体を2回繰り返して多層構造に形成した。波長550nmでは26.4°のファラデー回転角が得られたものである。また、波長550nmを中心とした回転角ピークの半値幅は58nmであった。以上の積層構造体の最外層を市販されている一対のフィルム偏光子で挾み、そのフィルム偏光子の上から永久磁石の付いた磁気ペンで文字を書いた。そこで、一対のフィルム偏光子をゆっくりと回転させたところ、磁気ペンで描いた文字が表示されたものである。このときの画像部分のコントラストは3.3あり、見やすい表示画像であった。
【0032】
<比較例4>
鉄超微粒子膜(透明磁性層4)の膜厚に変化を付けずに膜厚が200nmで均一となるようにこの鉄超微粒子膜を成膜した点以外は、全て実施例2の場合と同様にしてイメージングデバイスを作製したところ、波長550nmでは16.0°のファラデー回転角となり、回転角ピークの半値幅は28nmと狭かったものである。また、一対のフィルム偏光子で挾み、磁気ペンで同様に文字を描いた場合に表示された文字のコントラストは1.7に留まったものである。従って、実施例2のように鉄超微粒子膜(透明磁性層4)の膜厚を連続的に増減変化させることが有効なことが判る。
【0033】
<比較例5>
石英基板上に形成する誘電体多層膜3/透明磁性層4/誘電体多層膜5の構造体の積層を繰返さず1回のみとした点以外は、実施例2の場合と全く同様にしてイメージングデバイスを作製したところ、波長550nmでは7.1°のファラデー回転角となり、回転角ピークの半値幅は45nmとやや狭めになったものである。また、一対のフィルム偏光子で挾み、磁気ペンで同様に文字を描いた場合に表示された文字のコントラストは1.7であった。従って、実施例2のように誘電体多層膜3/透明磁性層4/誘電体多層膜5の構造体を複数層繰返して形成すれば一層有効なことが判る。
【0034】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、粒子が基板に到着する過程に変化を与えて粒子の付着量を調整し光透過と垂直方向に膜厚を連続的に増減させた透明磁性薄膜と、屈折率の異なる2種類の多数の誘電体膜が交互に積層されて前記透明磁性層を挾む一対の誘電体多層膜とを備え、前記透明磁性薄膜の膜厚が連続的に増減することで対象の波長の前後においても大きなファラデー回転角が得られ磁気光学効果の適用波長範囲を広げるようにしたことで、透明磁性薄膜を一対の誘電体多層膜で挾む構造により基本的に磁気光学効果を増大させ得る上に、増大効果が発揮される波長を規定する透明磁性薄膜の膜厚が連続的に増減しているので、適用波長範囲を広げることができる。
【0035】
請求項2記載の発明によれば、粒子が基板に到着する過程に変化を与えて粒子の付着量を調整し光透過と垂直方向に膜厚を連続的に増減させた透明磁性薄膜と、屈折率の異なる2種類の多数の誘電体膜が交互に積層されて前記透明磁性薄膜を挾む一対の誘電体多層膜とよりなる構造体を複数層積層した構造を備え、前記透明磁性薄膜の膜厚が連続的に増減することで対象の波長の前後においても大きなファラデー回転角が得られ磁気光学効果の適用波長範囲を広げるようにしたことで、基本的に請求項1記載の発明の場合と同様に適用波長範囲を広げ得る上に、同一の構造体を複数層積層してなるので、磁気光学効果を一層増大させることができ、ディスプレイ等へ適用した場合の画像コントラストも大幅に向上させることができる。
【0036】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2記載のイメージングデバイスにおける一対の誘電体多層膜は、材料、積層数、膜厚が全く同一で透明磁性層薄膜に対して対称とすることで、一対の誘電体多層膜が同一構造からなるので、磁気光学効果の増大効果を安定して得ることができる。
【0037】
請求項4記載の発明によれば、請求項1,2又は3記載のイメージングデバイスにおける透明磁性層薄膜の平均膜厚を100〜400nmとしたので、画像を形成するためのイメージングデバイスとして標準的な可視光波長域の光を用いることができる。
【0038】
請求項5記載の発明によれば、請求項1,2,3又は4記載のイメージングデバイスに加えて、最外層の誘電体多層膜の外面に、互いの偏光軸を回転させてなる一対の偏光子を備えるので、イメージングデバイスに形成された画像をコントラストの高い状態で可視化することができ、ディスプレイ等に好適に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態のイメージングデバイスの原理的構成を示す断面図である。
【図2】その誘電体多層膜/透明磁性層/誘電体多層膜構造を示す断面図である。
【図3】希土類鉄ガーネットのファラデー回転角の波長依存性を示す特性図である。
【図4】鉄超微粒子薄膜のファラデー回転角の波長依存性を示す特性図である。
【符号の説明】
3,5 誘電体多層膜
4 透明磁性層
6.7 偏光子
8a,8b 誘電体膜
Claims (5)
- 粒子が基板に到着する過程に変化を与えて粒子の付着量を調整し光透過と垂直方向に膜厚を連続的に増減させた透明磁性薄膜と、
屈折率の異なる2種類の多数の誘電体膜が交互に積層されて前記透明磁性薄膜を挾む一対の誘電体多層膜と、
を備え、
前記透明磁性薄膜の膜厚が連続的に増減することで対象の波長の前後においても大きなファラデー回転角が得られ磁気光学効果の適用波長範囲を広げるようにしたことを特徴とする磁気光学素子。 - 粒子が基板に到着する過程に変化を与えて粒子の付着量を調整し光透過と垂直方向に膜厚を連続的に増減させた透明磁性薄膜と、屈折率の異なる2種類の多数の誘電体膜が交互に積層されて前記透明磁性薄膜を挾む一対の誘電体多層膜とよりなる構造体を複数層積層した構造を備え、前記透明磁性薄膜の膜厚が連続的に増減することで対象の波長の前後においても大きなファラデー回転角が得られ磁気光学効果の適用波長範囲を広げるようにしたことを特徴とする磁気光学素子。
- 一対の誘電体多層膜は、材料、積層数、膜厚が全く同一で透明磁性層に対して対称である請求項1又は2記載の磁気光学素子。
- 透明磁性層は、平均膜厚が100〜400nmである請求項1,2又は3記載の磁気光学素子。
- 最外層の誘電体多層膜の外面に、互いの偏光軸を回転させてなる一対の偏光子を備える請求項1,2,3又は4記載の磁気光学素子。
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