JP4070569B2 - 光スイッチ用部材、光スイッチ及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光を通過させたり、遮断したりする光スイッチに関し、さらに詳しくは磁気光学効果を有する層を磁化し、光を通過させたり、遮断したりする光スイッチに関する。また、本発明は、上記光スイッチのための部材及び光スイッチの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
表示素子の一つとして液晶表示素子が知られている。この液晶表示素子は、通常、少なくとも一方が透明で画素電極を有する一対の基板(支持体)間に液晶を封入し、画素単位に電圧を印加して画像を表示させるものである。ところが、液晶を利用した素子では、大きな分子を移動させるため、そのスイッチングに最速でも百マイクロ秒程度の時間がかかり、それ以上の高速化は困難であった。また液晶を利用する場合、液体漏れ防止のための封止構造が必要であった。
【0003】
このような問題を解決するため、本発明者は、光スイッチを利用した表示素子の提案を行った。この表示素子は、基本的に、磁気光学効果を有する層と、該磁気光学効果を有する層に磁界を印加して磁化させる磁気ヘッドと、偏光子から構成される。この表示素子は、偏光を利用する点では液晶表示素子と同様であるが、スイッチング(応答)のスピードが液晶を用いた素子に比べ100倍程度速く、画像分解能が高く、一度スイッチ状態(オン又はオフ)を設定すれば、半永久的にその状態が持続されるので、維持のためのエネルギーが不要であり、液体漏れ防止のための封止構造が不要であり、薄膜で形成ができるのでデバイスの薄型化が可能である、など多くの点で優れている。
【0004】
ところで、上記のような磁気光学効果を有する層を利用した表示素子では、該層を単に製膜した状態ではアモルファス状態であるため、製膜時に加熱するか、あるいは製膜後に加熱して、磁気光学効果を有する層を結晶化させていた。
【0005】
一方、磁気光学効果を有する層の材料として、透明性が高く、大きな磁気光学効果を発現するものとして希土類鉄ガーネットが好ましい。ところが、希土類鉄ガーネットの結晶化温度は550〜700℃程度と高く、比較的安価で取り扱い易いプラスチック基板や通常のガラス基板を用いることは比較的難しかった。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−118726号公報
【特許文献2】
特開平9−133904号公報
【特許文献3】
特願平10−213785号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、磁気光学効果を有する層の製膜、結晶化を低基板温度で可能とし、幅広い種類の基板(支持体)を使用することができる光スイッチ用部材、光スイッチ及びその製造方法を提供することをその課題とする。
また、本発明は、フレキシビリティがあり、取扱いが容易で、作製も容易で、製造コストを低減させることができる光スイッチ用部材、光スイッチ及びその製造方法を提供することを別の課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、磁気光学効果を有する層の上か下又はその両方に低温結晶化促進層を設けることにより、低基板温度で磁気光学効果を有する層を結晶化できることを見出した。この低温結晶化促進層としては金属又は合金層を設けるとより効果がある。この理由としては金属結合が低温で溶融解離しやすく、膜作製時にタネ結晶として機能しているのではないかと思われる。更には、この金属又は合金層は、連続膜よりも、薄膜成長初期にできる島状構造の膜の方がより低温結晶化に効果があることが分かった。低温結晶化促進層が島状構造の方が、接する磁気光学効果を有する層との接触面積が大きくなり、効果が大きくなるためと思われる。低温結晶化促層の製膜時には、通常のPVD法(物理的薄膜作成法)やCVD(化学的薄膜作成法)では5〜10nm程度の厚みまでは島状に成長し、更に製膜を続けると連続膜となる。本発明者は、この成長初期の島状状態が低基板温度製膜に効果があることを見出した。
【0009】
本発明によれば、上記課題は下記の技術的手段により解決される。
(1)少なくとも磁気光学効果を有する磁性層及び該磁性層に磁界を印加する磁界発生層から構成され、該磁性層が、磁気光学効果を有し加熱によりアモルファス状態から結晶化状態に変化する材料からなる磁性層本体と、該磁性層本体の上下又はいずれか一方の面に接して設けられた低温結晶化促進層からなる光スイッチ用部材であって、前記磁性層がBi置換希土類鉄ガーネット膜よりなり、低温結晶化促進層がBiよりなることを特徴とする光スイッチ用部材。
(2)該低温結晶化促進層は島状構造になっていることを特徴とする前記(1)に記載の光スイッチ用部材。
(3)該低温結晶化促進層の厚みが5〜200nmであることを特徴とする前記(1)に記載の光スイッチ用部材。
(4)該磁界発生層を、該磁性層に接して又は近接して設けたことを特徴とする前記(1)に記載の光スイッチ用部材。
(5)該磁性層及び該磁界発生層を支持体上に設けたことを特徴とする前記(1)に記載の光スイッチ用部材。
(6)該支持体と該磁性層との間に断熱層を設けたことを特徴とする前記(5)に記載の光スイッチ用部材。
(7)該Bi置換希土類鉄ガーネットは、下記一般式で表されるものであることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
R3−xAxFe5−yByO12
(式中、0.2<x<3、0≦y<5であり、
Rは希土類金属で、Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuのうちの少なくとも1種以上であり、
AはBiであり、
BはAl、Ga、Cr、Mn、Sc、In、Ru、Rh、Co、Fe、Cu、Ni、Zn、Li、Si、Ge、Zr及びTiのうちの少なくとも1種以上である)
(8)該磁性体本体の膜厚が5nm〜5μmであることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(9)該磁界発生層が、マイクロ磁気ヘッドアレイからなることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(10)該マイクロ磁気ヘッドアレイの磁気ヘッドが1次元的に配列されていることを特徴とする前記(9)に記載の光スイッチ用部材。
(11)該マイクロ磁気ヘッドアレイの磁気ヘッドが2次元的に配列されていることを特徴とする前記(9)に記載の光スイッチ用部材。
(12)各マイクロ磁気ヘッドアレイの磁気ヘッドがラインに対して交互にずれた千鳥状に設けられていることを特徴とする前記(11)に記載の光スイッチ用部材。
(13)該マイクロ磁気ヘッドアレイが光に対して透明な層からなることを特徴とする前記(9)〜(12)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(14)該マイクロ磁気ヘッドアレイに対する電気配線がすべて光に透明な層からなることを特徴とする前記(9)〜(13)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(15)該マイクロ磁気ヘッドアレイに対する給電を選択的に行うことができることを特徴とする前記(9)〜(14)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(16)すべてのマイクロ磁気ヘッドアレイを直列に接続したことを特徴とする前記(9)〜(15)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(17)該マイクロ磁気ヘッドアレイの磁気ヘッドがコイル状であることを特徴とする前記(9)〜(15)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(18)該支持体が透明支持体であることを特徴とする前記(5)〜(17)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(19)該支持体が不透明支持体であることを特徴とする前記(5)〜(17)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(20)該支持体がプラスチックフィルムからなることを特徴とする前記(18)又は(19)に記載の光スイッチ用部材。
(21)該磁性層が加熱されて結晶化状態となっていることを特徴とする前記(1)〜(20)のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
(22)前記(21)に記載の光スイッチ用部材の両面又は少なくとも一方の面上に偏光子層を設けて構成されることを特徴とする光スイッチ。
(23)透過型であることを特徴とする前記(22)に記載の光スイッチ。
(24)反射型であることを特徴とする前記(22)に記載の光スイッチ。
(25)前記(22)〜(24)のいずれかに記載の光スイッチの製造方法であって、該磁性層の結晶化のための加熱を該磁性層の製膜時に行うことを特徴とする光スイッチの製造方法。
(26)前記(22)〜(24)のいずれかに記載の光スイッチの製造方法であって、該磁性層本体の結晶化温度より低い温度で、該磁性層本体と、該低温結晶化促進層を設けた後に、該磁性層本体における吸収が大きい波長のレーザー光を用いて該磁性層を加熱して結晶化させる工程を含むことを特徴とする光スイッチの製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1及び図2に本発明による光スイッチ用部材及び光スイッチの基本構成をそれぞれ模式的に断面図で示す。
本発明による光スイッチ用部材は、支持体1と、該支持体1上に設けられた磁気光学効果を有する磁性層3及び該磁性層3に磁界を印加する磁界発生層2とから構成され、該磁性層3は、磁気光学効果を有し加熱によりアモルファス状態から結晶化状態に変化する材料からなる磁性層本体4と、該磁性層本体4の上下又はいずれか一方の面に接して設けられた低温結晶化促進層5からなっている。但し、この場合支持体として他の機能的部材を利用することも可能である。
また、本発明による光スイッチは、上記光スイッチ用部材(磁性層は結晶化状態となっており、図2において3’で示す)と偏光子層6から構成されている。図1における磁性層3は、アモルファス状態の磁性層本体4と低温結晶化促進層5から構成されており、磁性層本体4は製膜後で結晶化前の状態である。また、図2における磁性層3’は加熱により結晶化された状態であり、磁性層本体4と低温結晶化促進層5が一体化したものである。
図2では支持体1の上に磁界発生層2、磁性層3’、偏光子層6の順となっているが、磁界発生層2と磁性層3’の位置関係は逆となっていても良い。
【0011】
本発明の光スイッチは上記以外にも次のような層構成とすることができるが、これに限定されない。なお、ここで例示の層のうち磁性層は結晶化状態となっている。
(1)偏光子/磁性層/支持体/磁界発生層/偏光子
(2)偏光子/支持体/磁性層/磁界発生層/偏光子
(3)偏光子/磁性層/磁界発生層/支持体/偏光子
(4)偏光子/磁界発生層/磁性層/磁界発生層/支持体/偏光子
(5)偏光子/磁界発生層/磁性層/磁界発生層/支持体
(6)偏光子/支持体/磁性層/磁界発生層/偏光子/支持体
【0012】
磁界発生層と磁性層はできる限り接触していた方が、磁界発生層からの磁界を、磁性層に効率良く伝えることができて好ましい。
最後の例では偏光子/支持体の間に反射層を設けても良く、その場合、反射型の光スイッチとなる。偏光子の上には耐久性向上等の目的で保護層を設けても良い。
また、支持体と磁性層の間に、磁性層本体をアモルファス状態から結晶状態にするために加熱する際に、支持体への熱伝導を低減させるために断熱層を設けても良い。
【0013】
以下、本発明の光スイッチ用部材及び光スイッチを構成する各要素について詳述する。
先ず、支持体について述べる。
本発明の光学素子における支持体としては、透明支持体あるいは不透明支持体のいずれも使用することができる。透明支持体としては、シリコンウェハやガラス、セラミックス、石英などの他、次のようなプラスチックフィルムを用いることができる。
MMA、PMMA、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、フッ素化ポリイミド、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン樹脂
また、ポリイミドフィルムのように透明性は劣るが耐熱性が高いようなプラスチックフィルムも利用できる。
もちろん、本発明において用いることのできる透明支持体材料はこれらに限定されるものではなく、他にも例えば透明ガラス紙(例えば特許第2538527号掲載公報、特開平11−247093号公報参照)を用いることができる。透明ガラス紙の作製に用いられるオルガノポリシロキサンは、アルコール可溶性で加水分解可能な有機金属化合物であり、R3SiO(R2SiO)nSiR3、(R2SiO)nなどによって示される化合物の内、特に分子量の高いものをいう。
また、不透明支持体としては、ガラス、セラミックス、金属箔、金属シート、プラスチックシート等を用いることができる。
【0014】
本発明の支持体の厚みは10μm〜10mm程度まで、目的や材料に応じて任意に選択することができる。光スイッチの取扱い上、柔軟性が要求される場合、例えばペーパーライクな画像表示素子等への応用の場合には、厚みが10〜100μm程度プラスチックフィルムの使用が好ましい。プラスチックフィルムは、非磁性であり、絶縁体であり、また軽量であり、割れにくく、大面積化が可能であるという利点がある。
【0015】
次に磁性層について述べる。本発明の光スイッチにおける磁性層は製品出荷時には結晶状態となっている。また、加熱による結晶化前にはアモルファス状態となっており、前述したように、結晶化前の磁性層は、本明細書ではアモルファス状態の磁性層本体とその一方の面又は両面に設けられた低温結晶化促進層とを含めた広義の意味のものとなっている。
ここでは、先ず、磁性層本体について述べる。
【0016】
磁性層本体に使用される磁性材料は、下記一般式で表されるBi置換希土類鉄ガーネットを好ましく用いることができる。
R3−xAxFe5−yByO12
上記式中、0.2<x<3、0≦y<5である。xが上記範囲であると、ファラデー効果を向上させることができるという利点がある。また、yが上記範囲であると、保磁力を最適化できるという利点がある。
Rは希土類金属で、Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuのうちの少なくとも1種以上であり、その中でも特にGd、Dy、Yが好ましい。
AはBiである。
BはAl、Ga、Cr、Mn、Sc、In、Ru、Rh、Co、Fe、Cu、Ni、Zn、Li、Si、Ge、Zr及びTiのうちの少なくとも1種以上であり、その中でも特にAl、Ga、Coが好ましい。Bを用いないでy=0とする場合もある。
これらの希土類鉄ガーネットのうち、特に好ましいものの具体例を挙げると、下記のようなものが例示される。
Bi2.2Dy0.8Fe3.8Al1.2O12
Bi2YFe4AlO12
BiGaYFe5O12
Bi2Dy1.4Ga0.6Fe4O12
Bi1.5Ho1.5Fe4.2Ga0.8O12
【0017】
磁性層本体にBi置換希土類鉄ガーネットを用いる場合、磁性層本体の製膜時基板温度は、置換する原子種によって異なるが、従来は550〜700℃と高い温度が必要であった。このような高温度でないと、作成した膜はアモルファスのままで、結晶化しなかった。例えば550〜700℃の製膜温度の場合には、使用できる支持体には大きな制限が生じて高価な材料しか使用できないし、特に透明性を有する支持体となると石英基板のように高価で硬い基板しか選択できなくなる。ところが、本発明では、低温結晶化促進層を用いるため、低基板温度で製膜できるので、プラスチックや一般的なガラスなどが支持体として利用可能となる。
【0018】
磁性層本体には、上記の希土類鉄ガーネット以外の透明磁性材料の使用も可能である。このような透明磁性材料としては、例えば本発明者が提案している、複数の誘電体膜と磁性体膜との複合膜で構成されるファラデー効果の大きな透明磁性膜材料や、またいわゆる一般的な透明磁気記録材料を用いても良い。
【0019】
ここで、磁性層本体に好ましく用いられる、誘電体膜と磁性体膜の多層膜からなる透明磁性膜によって、ファラデー効果が従来より大幅に増大されることを利用した例を以下に2つ示す。
【0020】
まず、第1の複合透明磁性膜は、誘電体膜をG、磁性体膜をMとすると、{(GM)n(MG)n}mの層構成を有するものである。誘電体膜Gと磁性体膜Mは、GMの次はMGのように積層順が逆になる。即ち磁性体膜Mに関して対称となることが必要である。通常、nは1〜50、mは1〜50が適当である。光学膜厚(n・d)は1/4波長である。
第2の複合透明磁性層は、第1の複合透明磁性層において、上記Gの層を高屈折率膜と低屈折率膜の2層で構成したものである。
これらの場合において、誘電体膜と磁性体膜の材料としては後述するような各種材料を使用することができる。
【0021】
磁気光学効果を有する磁性膜に誘電体膜を併せて用いる場合、その誘電体膜に用いられる材料は、透明でかつ熱的に安定な物質が適し、例えば金属や半金属の酸化物、窒化物、カルコゲン化物、フッ化物、炭化物、及びこれらの混合物であり、具体的にはSiO2、SiO、Al2O3、GeO2、In2O3、Ta2O5、TeO2、TiO2、MoO3、WO3、ZrO2、Si3N4、AlN、BN、TiN、ZnS、CdS、CdSe、ZnSe、ZnTe、AgF、PbF2、MnF2、NiF2、SiCなどの単体あるいはこれらの混合物である。これらの材料の中から透明磁性体膜と屈折率を異にする種類を選択すれば良い。各膜厚は5〜200nm、好ましくは5〜30nmの範囲にするのが良い。誘電体膜は複数の層構成としても良い。膜は各種のPVD、CVD法を用いて作製される。
上記のような構造とすることによって、強磁性体特有の波長依存性に応じた最大の磁気光学効果を有する波長(ピークを与える波長)で、直線偏光の偏光面回転角が増大するように設計できる。
なお、上記多層膜用誘電体に用いられる材料は、すべて結晶化のための加熱(例えばレーザー加熱)時の断熱層として用いることができる。
【0022】
また、磁気光学効果を有する磁性層に用いられる一般的な透明磁性材料としては、Coフェライト、Baフェライトなどの酸化物、FeBO3、FeF3、YFeO3、NdFeO3などの複屈折が大きな材料、MnBi、MnCuBi、PtCoなどが挙げられ、透明性が得られる程度に薄くして(誘電体膜と組み合わせても良い)使用することが可能である。特に透明度が高い無機磁性材料としては、n型Zn1−xVxOやCoをドープしたTiO2などがある。
【0023】
また、本発明において、透明磁性材料として好ましく利用できる材料に、分子磁性材料と言われるものがある。このような材料としては、例えば、バナジウムクロムヘキサシアノ錯体 KI 0.63VII[CrIII(CN)6]0.88 7.5H2O 0.4EtOH や KI[(VII 0.6VIII 0.4)XCrII 1−X][CrIII(CN)6]などがある。また、有機磁性材料も使用することができる。
【0024】
また、このような透明分子又は有機磁性材料と上記した無機透明磁性材料との積層構造を用いることもできる。このようにすると、両者の屈折率差が、従来の無機磁性体と無機磁性体や、無機磁性体と誘電体との組み合わせよりも大きいために、光の閉じ込め効果が大きくなり、より大きなファラデー回転角が得られるので好ましい。
【0025】
また、磁気光学効果は、光の進行方向とスピンの方向とが平行の場合に、最も大きな効果が得られるので、磁性層本体に使用される材料は膜面に垂直に磁気異方性を有する膜が特に好ましい。
【0026】
磁性層本体に使用される磁性材料の保磁力は組成を調整して、200〜2000 Oeにして用いられる。保磁力は一般的に小さいほど磁気的書き込みのためのエネルギーは小さくて済み、従って磁気ヘッドの作製が簡便となり好ましいが、あまり小さいと永久磁石などに近づいた場合に消去されてしまうなどの不具合が生ずる。磁性層本体厚みは5nm〜5μm程度であることが大きな磁気光学効果を得ることから好ましい。
【0027】
これらの透明磁性材料からなる層は、一般的なスパッタ、真空蒸着、MBE、イオンプレーティング、パルスレーザー蒸着、レーザーフラシュ法などのPVD法やCVD法、メッキ法等によって形成される。
【0028】
次に、低温結晶化促進層について述べる。
低温結晶化促進層は、アモルファス状態の磁性層本体のいずれか一方の面又は両方の面に設けられ、加熱により、アモルファス状態の磁性層本体を結晶状態の磁性層とする際に、磁性層本体の結晶化を促進し、結晶化温度を低下させる役割をする。すなわち、磁性層本体の結晶化温度よりも低い温度で結晶化を行えるようにするものである。
【0029】
低温結晶化促進層には金属又は合金層を用いると効果がある。また、その金属又は合金層は、島状構造の方がより低温結晶化に効果がある。「島状構造」とは、上記PVD、CVD法において、膜形成初期に発生する島形状をした、不連続膜のような構造をいう。
低温結晶化促進層に用いられる材料としては、Bi、Sb、Al、In、Te、Tl、Geなどの低融点金属及びそれらの合金(融点100〜1000℃程度)が特に好ましく用いられる。そのほかにも、Hf、Ti、Ag、Ca、Cd、Ce、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Hg、Ir、La、Li、Mg、Mn、Mo、Na、Ni、P、Pb、Pd、Po、Pr、Pt、S、Se、Si、Sn、Sr、W、Zn、Zr、Taなど、あるいはそれらの合金も利用できる。
低温結晶化促進層の膜厚は、好ましくは5〜200nm、より好ましくは島状構造となる5〜10nmである。
低温結晶化促進層の製膜は、一般的なスパッタ、真空蒸着、MBE、イオンプレーティング、パルスレーザー蒸着、レーザーフラシュ法などのPVD法やCVD法、メッキ法等を用いて行うことができる。
【0030】
アモルファス状態の磁性層本体4及び低温結晶化促進層5からなる磁性層3は、加熱により、結晶化された磁性層3’となる。この場合の加熱方法としては、磁性層本体4の溶融温度より100〜300℃程度低い温度で、例えばレーザー光を照射して結晶化させる方法を用いることができる。また、低温結晶化促進層を5を設けた後、磁性層本体4の溶融温度より100〜300℃程度低い温度で磁性層本体を製膜し、それと同時に磁性層3を結晶化させる方法も用いることができる。
この場合のレーザー光波長は、支持体に対しては透過率が高く、磁性層本体に対しては吸収率が大きい波長が好ましい。例えば希土類鉄ガーネットをガラスやプラスチック支持体に製膜する場合には、400nm以下、好ましくは200〜350nm程度の短波長レーザー光の照射が好ましく、レーザー光は繰り返して照射する方がより好ましい。
【0031】
また、支持体としてプラスチックフィルムを用いるような場合、そのプラスチック材料の種類によっては、レーザー光は透過しても、磁性層本体が吸収して高温になり、熱伝導によりプラスチック支持体を変形させてしまう事態が生ずることがある。このような場合には磁性層と支持体との間に断熱層を設けて、発生した熱がプラスチック支持体に伝わりにくくするようにすることが好ましい。
断熱層の材料は前述した誘電体材料等の絶縁性の高い材料が好ましいが、特に限定されることは無く比較的広く選択できるし、厚みも適宜最適膜厚が選択される。このように断熱層を設けた場合には、各種のプラスチックフィルムを用いることができるようになる。
【0032】
次に、磁界発生層について述べる。磁界発生層は、前述したように、ファラデー効果を有する磁性層に磁界を印加し、磁化することにより磁性層にファラデー効果を発現させるものである。この磁界発生層は、本光スイッチの利用目的に応じて種々の形態をとることができる。磁性層全体を磁化させるようにしても良いし、いくつかの部分に分けて選択的に磁化させるようにしても良いし、表示素子におけるような画素(ピクセル)形態のものを選択的に磁化させるようにしても良い。
【0033】
本発明による光スイッチの好ましい実施形態においては、磁界発生層をマイクロ磁気ヘッドアレイにより構成する。この磁界発生層では、使用目的に応じて、複数のマイクロ磁気ヘッドを、磁性層のいずれか一方の面側あるいは両方の面側に1次元的あるいは2次元的に配列させることができる。1次元的に配列させた場合には、機械的あるいは電気機械的な走査手段を設ける必要がある。2次元的に配列させた場合にはこのような走査手段を設ける必要はなくなる。そして画像形成素子等へ適用した場合、画像表示部位と記録用磁気ヘッドアレイを相互に移動することなく、アレイへの励磁電流を逐次スイッチングして画像を形成することができる利点がある。また、多光源の可視光を同時に扱うこともできる。
【0034】
ここでは、磁界発生層を、2次元的に配列させたマイクロ磁気ヘッドアレイで構成したものを中心に説明する。図3は本マイクロ磁気ヘッドアレイ中の平面コイル型磁気ヘッドの構造を平面図及び断面図で示したものである。
本マイクロ磁気ヘッドアレイは、磁気ヘッドとなるコイルを2次元的に複数個並べたものである。コイルの形状は特に限定されるものではなく、三角形、四角形、丸型、楕円型など目的に応じた形状とすることができ、サイズも10μm程度から1mm程度と選択することができる。コイル巻き数も1から10ターン程度に選択することができる。該コイルは、特に透明にして用いると、電流を過度に流すことによって、コイル部分も光スイッチとして用いることができて好都合である。
【0035】
本例では、磁気ヘッドは、電磁誘導コイルと、該コイルの中心に高透磁率コアを配して構成される。なお、所要強度の磁界が得られる場合あるいは低磁界強度で十分な場合には高透磁率コアを設けなくても良い。
マイクロ磁気ヘッドアレイに柔軟性を付与する必要がある場合には、支持体としてプラスチックフィルムが好ましく使用される。本マイクロ磁気ヘッドアレイにおける磁気ヘッドは、磁界発生効率を向上させるために、図3の下方の断面図に示すように、高透磁率コアの形状を単純な棒状から変形させた形状とした。電磁誘導コイルの外径を200μm程度とすると、高解像度画像形成用に用いることができ、127DPI(ドットピッチは200μm)以上の画像分解能を得ることができる。
該磁気ヘッドでは、電磁誘導コイルの中心に高透磁率コアを形成するが、該コアは磁気ヘッド支持体上全面に設けられた高透磁率層によって、全マイクロ磁気ヘッドとつなげることもできる。
本マイクロ磁気ヘッドアレイは、一斉に励磁しても良いが、その方法はとらず、1つずつ順番にスイッチによって通電・駆動する方法も用いることができる。この場合には、コイル下側の高透磁率層を共通化できる。これによってコイルの利用効率が向上するだけでなく、マイクロ磁気ヘッドアレイの製作が大幅に容易となる効果がある。またコイルに発生する熱を放熱する効果も有する。
【0036】
本マイクロ磁気ヘッドアレイにおける磁気ヘッドでは、電磁誘導コイルの高透磁率コア外径が、該コイル上端面の上部ではコイル内部寸法より縮小して、磁束密度を高めることが好ましい。これは磁束を集中させることにより、できる限り磁束の発散を抑えて、強い磁界強度を磁性層に印加したいためである。従って断面形状は角形、円形などは問わない。
【0037】
本マイクロ磁気ヘッドアレイでは、通常、磁気ヘッドは各ライン上に直線状に配設されるが、各ライン上の磁気ヘッドは中心位置が直線上からずれて、いわゆる千鳥状に2次元的に配設されても良い。このようにすると、より高密度に磁気ヘッドを配列することができ、高解像度の画像が形成可能となる。
【0038】
なお、コイルに用いられる材料は一般的な銅が電気抵抗値の点から好ましいが、Au、Ag、Al、Ptなどその他の導電性材料も用いられる。透明なコイルを作製する場合には、ITO(Indium Tin Oxide)、SnO2、In2O3、ZnOなどの透明導電材料が用いられる。この場合、コイル部分も利用できるようになる。
【0039】
マイクロ磁気ヘッドアレイの製造方法としては、大別して、フォトリソグラフィー法、電気メッキ法が用いられる。配線のパターン形成用マスクには、各種レーザー光や軟X線、紫外線などが用いられる。
配線の加工においては、導線の断面積(線幅、線高さ)がより大きいことが、電気抵抗を低下させる点から重要であるが、コイル密度を高めるためにはコイル間ピッチには制限が生じてくるので、導線間の絶縁層体積がより少ない方法が選ばれる。コイル形成用導線の高さを5μm以上とすると、電気抵抗を下げて発熱や断線を防止できるため好ましい。
【0040】
上記したようにマイクロ磁気ヘッドアレイは大きい面積で作製することが許されない。従ってコイル幅を細く作製せねばならないが、これも作製技術的な理由と共に、低電気抵抗が必要な点から限界がある。本発明ではコイルを複数段階に積み重ねて、この課題を解決した。コイルから発生する磁界強度は、[コイルの巻き数×電流値]の大きさに依存するので、コイルを複数層にして設けることで比較的低電流で、大きな磁界強度を得ることが可能となった。
【0041】
本発明の光スイッチにおいて光スイッチングはそのスピードが速いほど好ましい。支持体上の高透磁率層は、同時に電流を流して駆動する複数個の電磁誘導コイルの占める面積と同等の面積に加工して、切断されている。上記説明した本発明の基本使用法と異なり、複数個のコイルに同時に励磁電流が流されるので、より光スイッチングを高速化しやすくするものである。コイル数が3個ずつか5個ずつか等は適宜選択されるが、10個以下が電流値の点から少なくて好ましい。
【0042】
高透磁率コアに用いる軟磁性材料としては、従来より多用されている、純鉄、珪素鋼、鉄やニッケル及びコバルトとの各種合金(Fe−Si−B系、Co−Fe−Si−B系)などが用いられる。特に本発明の目的には、これら鉄とニッケルで構成されるパーマロイが好適に用いられる。高透磁率コアの透磁率は1000以上、好ましくは10000以上が良い。透明な高透磁率コア材料としてはFeF3のような無機磁性体材料か、例えばバナジウムクロムヘキサシアノ錯体 KI 0.63VII[CrIII(CN)6]0.88 7.5H2O 0.4EtOH や KI[(VII 0.6VIII 0.4)xCrII 1−x][CrIII(CN)6)]などの分子磁性体がある。また、有機磁性体を用いることもできる。膜作製は電気化学的な合成方法を用いることができる。
【0043】
本マイクロ磁気ヘッドアレイの電気的な駆動法は、FETなどを用いてスイッチングによって単独又は複数個の磁気ヘッドに励磁電流を順次供給してなされる方法が任意に用いられる。なお更に高速度に画像形成したい場合は、数個ずつに同時に電流を流す方法の使用も、電源が大きくなるが可能である。
【0044】
本発明の光スイッチでは、マイクロ磁気ヘッドアレイの磁気ヘッド全体の透明化を実現することもできる。図4及び図5にその例を示す。
このような磁気ヘッドを用いたマイクロ磁気ヘッドアレイが実現できた理由を以下に述べる。
【0045】
(1)従来は、金属導電性材料、例えば不透明な金や銅などをコイルに用いていた。更にコイルの中心には、コア材として金属で不透明な高透磁率材料を用いていた。本発明では、この導電性材料として、以下に示す透明なITO膜を用いた。更に配線をコイル形状から直線状に変更したので、コアを用いる必要が無くなった。
(2)マイクロ磁気ヘッドアレイの直上に磁性層(磁気光学効果を有する層)を設けて(磁性層/マイクロ磁気ヘッド/支持体又はマイクロ磁気ヘッドアレイ/磁性層/支持体の層構成として、磁性層とマイクロ磁気ヘッドアレイ間に他の層を入れない)、磁性層とヘッド間距離を近接させ、ヘッドからの磁界利用効率を向上させた。このため少ないヘッド駆動電流で、画像形成が可能となり、ターン数の多い磁気コイルでなくても、直線状配線で十分に磁化できるようにした。直線状配線は透明ITO膜で作製可能である。
(3)磁性層の磁化が容易となるように、磁性層の保磁力を低減させた。これにより、小電流で磁化可能となり、ITO膜の直線状配線が使用できるようになった。
【0046】
図4は高透磁率コアを用いない透明マイクロ磁気ヘッドアレイを、配線部分を含めて示した平面図であり、ハッチング部分が磁気ヘッド(磁界発生部)に相当する。層構成は、ITO/絶縁膜/ITOである。配線は直線状にしてある。
図5は高透磁率コアを用いない透明マイクロ磁気ヘッドアレイの別例を示す図4と同様な図であり、実線と破線とで囲まれる矩形部分が磁気ヘッド(磁気ヘッド)に相当する。本例も、層構成は、ITO/絶縁膜/ITOである。配線は直線状にしてある。
磁気ヘッド1個の寸法には特に制限は無いが、本光スイッチの利用目的に応じて適宜設定されるが、通常10μm〜1mm程度である。磁気ヘッドに発生する熱を少なくするためには、配線の形状は幅2μm〜100μm程度が好ましく、高さを大きくとるようにすれば、大きな電流を流すこともできるし、磁気ヘッド間のデッドスペースを小さくすることができる。
【0047】
マイクロ磁気ヘッドアレイに用いられる導電材料は、透明性の点から透明導電膜が好ましく、そのような材料としては、前述したITO(Indium Tin Oxide)、SnO2、In2O3、ZnOなどの透明導電材料が用いられ、特にITOが好ましく用いられる。ITO膜は0.1〜5.0μm程度の膜厚として用いられ、面抵抗(1cm角の抵抗値)は10〜800Ω/□程度で使用される。
【0048】
マイクロ磁気ヘッドアレイに用いられる透明絶縁材料としては、一般的な有機、無機絶縁材料を用いることができるが、透明でかつ耐熱性が必要なことから、有機絶縁材料としては、透明ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、オクタキス・ヒドリドシルセスキオキサン分子とビスフェニルエチニル・ベンゼン分子を、触媒を使って共重合させた樹脂、珪素系液体、透明フッ素樹脂、オレフィン・マレイミド共重合体、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリカーボネート樹脂などが好ましく用いられる。
上記のうち、透明ポリイミド樹脂としては、例えば日産化学工業社製の商品名「サンエバー」が好ましく利用できる。この中でも電圧印加時の樹脂自身の分極をほとんど無くしたタイプのもの(サンエバーRN812)は、可視光透明性が大幅に向上して93%以上(1μm厚み)と高いだけでなく、成膜したITO膜のフィルム基板への付着性も大きく向上しており、耐溶剤性、電気絶縁性、加工性、低通気性、低吸湿性、表面平滑性などにすぐれている。
また、フッ素化ポリイミド樹脂はNTTによって開発され、光透過率は90%程度と高い(従来のポリイミド樹脂は褐色に着色していたがこれとは異なる)。現在日立化成工業によって「OPI」の商品名で市販されている。フッ素含有率は20〜30%で、熱線膨張係数は5×10−6/℃である。但し透明ポリイミド樹脂(フッ素化ポリイミド樹脂も含む)はコストが高いため、オレフィン・マレイミド共重合体フィルムとの積層や、従来使用されたポリエステル、ポリアリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネートのフィルムとの積層としても用いることができる。
また、無機絶縁材料としては、前述した誘電体材料を使用することができる。
【0049】
また、本マイクロ磁気ヘッドアレイにおいて、直線状配線層上に、高透磁率層を加えると、磁界発生効率が向上する。なお、上記では高透磁率コアを用いてないが、磁気ヘッドとしての効率をより一層向上させる目的で、磁界発生部の中心に透明な高透磁率材料を配置させることもできる。
【0050】
図4及び図5のマイクロ磁気ヘッドアレイの製造方法や駆動方法については前述と同様な方法を用いることができる。
【0051】
次に、偏光子層について述べる。
偏光子層としては、各種の市販の偏光フィルム等が用いることができる。偏光フィルムには大別して多ハロゲン偏光フィルム、染料偏光フィルム、金属偏光フィルムなどがある。
また次のような偏光子も利用できるが、これらに制限されるものではない。
(1)強磁性体微粒子からなる多数の棒状素子を基板表面に一定方向に配列させて固着形成することにより、製造が容易でかつ光学的特性の優れた偏光板(特開平1−93702号公報参照)。
(2)ワイヤグリッド偏光子
透明基板に微小な間隔で金やアルミニウムの線をひいた偏光子(東京農工大学佐藤勝昭著「現代人の物理−光と磁気」(朝倉書店)1988年出版、ページ103に記載)。この場合、線の間隔d、波長をλとすると、λ≫dの波長の光に対して、透過光は線に垂直な振動面を持つほぼ完全な直線偏光になることを利用している。偏光度は97%程度と言われている。
(3)ポーラコア(ダウコーニング社製)
長く延伸させた金属銀をガラス自身の中に一方向に配列させることにより、偏光特性を持たせたガラスで、従来の有機物偏光素子と異なり耐熱性、耐湿性、耐化学薬品性、レーザーに対する耐性に非常に優れている。赤外線用が主であるが、特殊仕様として可視光用がある。
(4)積層型偏光子
東北大学電気通信研究所の川上彰二郎教授が1991年頃に発表したもので、可視光用にはRFスパッタリング法で、6〜8nmの厚みのGe(ゲルマニウム)と、1μm厚みのSiO2を交互に60μm厚みになるまで積層して作製している。0.6μmの波長で測定した性能指数αTE/αTM(TE波とTM波に対する消衰定数の比)は400近く、0.8μmの波長で測定した消光比は35dB、挿入損失は0.18dBであり、可視光に対して十分なものである。
(5)反射型偏光子
住友3M株式会社が販売している。屈折率の異なる薄膜を、何百層も重ねて積層し、層間で反射・透過を繰り返し、偏光を取り出す。SとP偏光の内一方を反射して、一方を通過させるために、反射型という。全厚みは100μm程度である。吸収タイプに比較して、反射するので画像が明るく感じられる。また米国Moxtek社のアルミニウム細線を周期的に並べた、ワイヤグリッドタイプの反射型偏光子もある。
(6)偏光ビームスプリッター
光束を2本以上のビームに分割又は合成する光学素子をビームスプリッターという。その中でも分岐された2光波の偏光方向が異なるように分割するものを偏光ビームスプリッターという。2個の直角プリズムを接着した面に誘電体多層膜コートしたものが一般的であり、P偏光成分は透過し、S偏光成分は90度反射するようになっている。透過率、反射率ともに98%以上のものが得られる。他には特殊なグレーティングを用いたようなものもある。
(7)偏光プリズム
1軸性結晶は、光学軸方向に垂直に振動する常光線と光学軸を含む主断面内に振動方向をもつ異常光線では異なった屈折率をもつので、1軸性結晶から切り出した2つのプリズムを組み合わせると、振動面の異なる光を分離する偏光子を作ることが出きる。ニコルプリズム、グラントムソンプリズム、グランフーコープリズム、グランテーラープリズム、ロションプリズム、ウォーラストンプリズムなどがある。
(8)回折格子
回折格子はピッチを小さくしていけば、TE波とTM波の透過率が異なり、偏光子として機能する。偏光子とは呼ばないが偏光子機能を有するので、本発明に偏光子として用いることが可能である。
偏光子層を2層用いる場合には、両者は同じタイプのものでも、異なったタイプのものでも良い。
偏光子層の厚みはいずれの偏光子を用いた場合でも50〜150μm程度である。
【0052】
次に、反射層について述べる。
反射層は本光学素子を反射型とする場合に用いる。反射層としては、PVD法で設けられたAl、Cu、Ag、Au、Pt、Rh、Al2O3、SiO2、TeC、SeAs、TiN、TaN、CrNなどの薄膜が用いられる。また誘電体多層膜を用いた反射膜なども利用することができる。厚みは0.1〜1μmの範囲で選択される。
【0053】
次に、保護層について述べる。
保護層は、前述したように耐久性向上等を目的に設けられ、SiO2、Ta2O5、ITO、MgF2、Al2O3、MgO、BeO、ZrO2、Y2O3、Cなどの無機物やそれらの混合物が利用できる。
透明有機樹脂保護層としては、重合性モノマーおよびオリゴマーを主成分とする。光硬化性樹脂組成物や、熱光硬化性樹脂組成物を用いることができる。
【0054】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。
【0055】
[実施例1]
はじめにマイクロ磁気ヘッドアレイを作製した。50μm厚、縦50mm、横50mmのポリイミド基板上に、5nm厚のPt膜をスパッタ法により設けた。その上に60μm厚のパーマロイ(Ni:Fe=80:20)膜をメッキ法で設けた。エッチング法により60μm径で高さ40μmの丸棒状のコアを、ピッチ180μm(隣のコアとの間隔)として残した(図3参照)。上記パーマロイコア間にポリイミド層を設けた。ついでこのポリイミド層をパターニングして、スパイラル状のポリイミドの壁を作製した。無電界Cuメッキ法を用いてこのポリイミドの壁間に、高さ10μm、幅5μmのCu配線を設けた。このCu配線上に更にポリイミド層を設けた後、表面層を平坦にした。このポリイミド表面層の上に、銀膜を100nmの厚みで、反射層として形成した。
100個のコイル中心(パーマロイコアの中心軸)が直線上に並ぶようにして、コイルを並べた。コア先端の磁界強度は、200mAの通電時で約500ガウスであった。各コイルへの導線端はINとOUTに分離して集中させ、FETを用いたスイッチを設けて、マイクロ磁気ヘッドアレイとした。マイクロ磁気ヘッドアレイの全厚みは約120μmであった。
ついで同じスパッタ法を用いて、上記で作製したマイクロ磁気ヘッドアレイの上に、加熱無しでBiを島状になる程度の厚み、約4nm厚に製膜した。
ついで磁気光学効果を有する透明磁性層を銀反射膜の上に、スパッタ法を用いて作製した。透明磁性層はBi置換希土類鉄ガーネット膜(屈折率n=2.05、膜厚900nm)であり、製膜条件は、基板温度350℃、投入電力200W、ガス圧力7.0Pa(Ar:O2=9:1)であった。Bi置換希土類鉄ガーネット膜はX線回折法を用いて調べるとアモルファスであった。XeClエキシマレーザー(波長308nm、エネルギー密度450mJ/cm2)を用いて、マイクロ磁気ヘッドアレイに変形などの影響を与えることなく、空気中で加熱してBi置換希土類鉄ガーネット膜を結晶化した。膜の組成はBi2.2Dy0.8Fe3.8Al1.2O12であった。磁気光学効果測定装置(日本分光株製K250、ビーム径2mm角)で測定したファラデー回転角の波長依存性から、ピーク(波長520nm)の半値幅を求めると34nmであった。ピークのファラデー回転角は6.7度であった。VSM(振動試料型磁力計)で磁界を膜面に垂直に印加して測定した保磁力は260 Oeであった。
ついで該透明磁性膜上に市販の多ハロゲン偏光子を設け、偏光子層/磁性層/反射膜/磁界発生層/支持体という構成の光スイッチを作製した(反射膜/磁界発生層は断熱層としても機能する)。偏光子は電流をプラス方向に流した場合に、反射膜からの反射光が偏光子を通過して、明るく見え、マイナス方向に逆向きに流した場合に、偏光子を通過できずに黒く見えるように偏光軸を回転させて固定した。
磁気ヘッドに1つずつマイナス方向に電流を流して、磁性層を磁化したところ、約180μm幅の光遮断された黒いラインを得た。電流をプラス方向に流した場合には、このラインは消滅して、光スイッチとしての機能を確認できた。
支持体として柔軟性を有するプラスチック材料を用いたので、光スイッチは変形が容易で、割れたりすることがなく、かつ扱いが容易であった。
【0056】
[実施例2]
イオンプレーティング法を用いて、基板(銀反射膜)温度を450℃として、Bi置換希土類鉄ガーネット膜を作製したほかは実施例1と全く同様にして光スイッチを作製した。
この場合にはレーザー加熱無しでも結晶化していた。電流を流した場合に、実施例1と同様にして、光スイッチとしての機能を確認できた。
【0057】
[実施例3]
マイクロ磁気ヘッドアレイとして、図5の構成のものを作製した。配線には透明なITO膜を用いた。図5の点線と実線の配線層の間及び表面側には透明絶縁層として、1μm厚SiO2膜をスパッタ法を用いて作製した。
支持体としてポリカーボネートを用い、実施例1と同様にして、偏光子層/磁性層/磁気発生層(SiO2膜/ITO/SiO2膜/ITO)/支持体/偏光子層という構成の光スイッチを作製した(磁界発生層は支持体に対する断熱層としての機能も行う)。
ポリカーボネートはポリイミドより耐熱性は低いが、レーザーの熱吸収による熱変形もなく、Bi置換希土類鉄ガーネット膜を結晶化できた。磁気ヘッドに1つずつマイナス方向に電流を流して、磁性層を磁化したところ、約180μm幅の光遮断された黒いラインを得た。電流をプラス方向に流した場合には、このラインは消滅して、光スイッチとしての機能を確認できた。
【0058】
[比較例]
実施例1のBiからなる結晶化促進層を用いなかった他は、実施例1と全く同様にして光スイッチを作製した。XeClエキシマレーザー(波長308nm、エネルギー密度450mJ/cm2)を用いて、実施例と同様にBi置換希土類鉄ガーネット膜を加熱したが結晶化はしなかった。
【0059】
【発明の効果】
本発明によれば、磁性層本体のいずれか一方の面又は上下に低温結晶化促進層を設けたので、磁気光学効果を有する磁性層の製膜、結晶化を低基板温度で可能とし、幅広い種類の基板(支持体)を使用することができる光スイッチの提供が可能となる。
また、本発明によれば、支持体としてプラスチックフィルムを用いた場合には、フレキシビリティがあり、取扱いが容易で、作製も容易で、製造コストを低減させることができる光スイッチの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による光スイッチ用部材の基本的構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明による光スイッチの基本的構成を模式的に示す断面図である。
【図3】透明マイクロ磁気ヘッドアレイ中の平面コイル型磁気ヘッドの構造を示す平面図及び断面図である。
【図4】透明マイクロ磁気ヘッドアレイの別の構成例を模式的に示す平面図である。
【図5】透明マイクロ磁気ヘッドアレイのさらに別の構成例を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
1 支持体
2 磁界発生層
3、3’ 磁性層
4 磁性層本体
5 低温結晶化促進層
6 偏光子層
Claims (26)
- 少なくとも磁気光学効果を有する磁性層及び該磁性層に磁界を印加する磁界発生層から構成され、該磁性層が、磁気光学効果を有し加熱によりアモルファス状態から結晶化状態に変化する材料からなる磁性層本体と、該磁性層本体の上下又はいずれか一方の面に接して設けられた低温結晶化促進層からなる光スイッチ用部材であって、前記磁性層がBi置換希土類鉄ガーネット膜よりなり、低温結晶化促進層がBiよりなることを特徴とする光スイッチ用部材。
- 該低温結晶化促進層は島状構造になっていることを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ用部材。
- 該低温結晶化促進層の厚みが5〜200nmであることを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ用部材。
- 該磁界発生層を、該磁性層に接して又は近接して設けたことを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ用部材。
- 該磁性層及び該磁界発生層を支持体上に設けたことを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ用部材。
- 該支持体と該磁性層との間に断熱層を設けたことを特徴とする請求項5に記載の光スイッチ用部材。
- 該Bi置換希土類鉄ガーネットは、下記一般式で表されるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
R3−xAxFe5−yByO12
(式中、0.2<x<3、0≦y<5であり、
Rは希土類金属で、Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuのうちの少なくとも1種以上であり、
AはBiであり、
BはAl、Ga、Cr、Mn、Sc、In、Ru、Rh、Co、Fe、Cu、Ni、Zn、Li、Si、Ge、Zr及びTiのうちの少なくとも1種以上である) - 該磁性層本体の膜厚が5nm〜5μmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- 該磁界発生層が、マイクロ磁気ヘッドアレイからなることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- 該マイクロ磁気ヘッドアレイの磁気ヘッドが1次元的に配列されていることを特徴とする請求項9に記載の光スイッチ用部材。
- 該マイクロ磁気ヘッドアレイの磁気ヘッドが2次元的に配列されていることを特徴とする請求項9に記載の光スイッチ用部材。
- 各マイクロ磁気ヘッドアレイの磁気ヘッドがラインに対して交互にずれた千鳥状に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の光スイッチ用部材。
- 該マイクロ磁気ヘッドアレイが光に対して透明な層からなることを特徴とする請求項9 〜12のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- 該マイクロ磁気ヘッドアレイに対する電気配線がすべて光に透明な層からなることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- 該マイクロ磁気ヘッドアレイに対する給電を選択的に行うことができることを特徴とする請求項9〜14のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- すべてのマイクロ磁気ヘッドアレイを直列に接続したことを特徴とする請求項9〜15のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- 該マイクロ磁気ヘッドアレイの磁気ヘッドがコイル状であることを特徴とする請求項9〜15のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- 該支持体が透明支持体であることを特徴とする請求項5〜17のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- 該支持体が不透明支持体であることを特徴とする請求項5〜17のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- 該支持体がプラスチックフィルムからなることを特徴とする請求項18又は19に記載の光スイッチ用部材。
- 該磁性層が加熱されて結晶化状態となっていることを特徴とする請求項1〜20のいずれかに記載の光スイッチ用部材。
- 請求項21に記載の光スイッチ用部材の両面又は少なくとも一方の面上に偏光子層を設けて構成されることを特徴とする光スイッチ。
- 透過型であることを特徴とする請求項22に記載の光スイッチ。
- 反射型であることを特徴とする請求項22に記載の光スイッチ。
- 請求項22〜24のいずれかに記載の光スイッチの製造方法であって、該磁性層の結晶化のための加熱を該磁性層の製膜時に行うことを特徴とする光スイッチの製造方法。
- 請求項22〜24のいずれかに記載の光スイッチの製造方法であって、該磁性層本体の結晶化温度より低い温度で、該磁性層本体と、該低温結晶化促進層を設けた後に、該磁性層本体における吸収が大きい波長のレーザー光を用いて該磁性層を加熱して結晶化させる工程を含むことを特徴とする光スイッチの製造方法。
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