JP3549682B2 - 高耐湿熱性ポリビニルアルコール系繊維 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、耐湿熱性と高強度が長期間要求される漁網、ロープ、テント、土木シートなどの一般産業資材やセメント、ゴム、プラスチックの補強材さらには染色などの耐熱水性が要求される衣料に有効なポリビニルアルコール(以下PVAと略記)系繊維に関するものであり、特にオートクレーブ養生を行うセメント製品の補強や衣料用途に効果を発揮するPVA系繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
PVA系繊維は汎用繊維の中で最も高強力高弾性を有し、かつ接着性や耐アルカリ性が良好なため、特に石綿代替のセメント補強材として脚光を浴びている。しかしながらPVA系繊維は耐湿熱性に乏しく、一般産業資材や衣料素材として用いられるにしても用途が制限され、さらにセメント補強材として用いた場合にもセメント成型品の強度を高めるために通常行われている高温でのオートクレーブ養生が不可能であった。現在セメント補強材にPVA系繊維を使用する場合は、室温養生に頼っており、その結果セメント製品の寸法安定性や強度が十分でなく、かつ養生日数が長いなどの欠点を有していた。
【0003】
一方、高温オートクレーブ養生に炭素繊維が一部用いられているが、セメントマトリックスとの接着性が悪く、補強効果に乏しく、かつ高価であるなどの問題点があった。PVA系繊維の耐湿熱性を改良しようとする試みは古くからなされて来た。たとえば特公昭30−7360号公報や特公昭36−14565号公報には、ホルマリンを用い、PVAのOH基と架橋反応(ホルマール化)して疎水化することにより染色や洗濯に耐えられるPVA系繊維が得られることが記載されている。しかし、これらの繊維は強度が低く、本発明に言う一般産業資材やセメント、ゴム、プラスチックの補強材には向かないものであった。また、染色も100℃以下の常圧での染色を意図しており、本発明に言う110℃以上の高圧染色に耐えられないものであった。
【0004】
一方、高強力PVA系繊維をホルマール化することが特開昭63−120107号公報に開示されているが、ホルマール化度が5〜15モル%と低く、PVA系繊維の非晶領域の極く一部が疎水化されているに過ぎず、耐湿熱性は十分でなく、くり返し長期間湿熱にさらされる産業資材や高温オートクレーブ養生されるセメント補強材には到底満足できるものではなかった。
【0005】
また特開平2−133605号公報や特公平1−207435号公報には、アクリル酸系重合体をPVAにブレンドするか、又は繊維表面を有機系過酸化物やイソシアネート化合物、ウレタン系化合物、エポキシ化合物などで架橋せしめる方法が記述されている。しかしアクリル酸系重合体による架橋はエステル結合であるため、セメントのアルカリにより容易に架橋結合が加水分解してその効果を失うこと、及び他の架橋剤も繊維表面架橋であるため、オートクレーブ養生中やくり返し湿熱にさらされている時に繊維の中心部からPVAの膨潤、溶解が起こるなどの問題点を抱えていた。
【0006】
他に酸を用いて脱水架橋により耐湿熱性を向上させる方法が特開平2−84587号公報や特開平4−100912号公報などで公知であるが、本発明者らが追試したところ繊維内部まで架橋させようとするとPVA系繊維の分解が激しく起こり、繊維強度の著しい低下を招いた。
一方、ジアルデヒド化合物による架橋は特公昭29−6145号公報や特公昭32−5819号公報などに明記されているが、ジアルデヒド化合物と反応触媒である酸の混合浴で後処理するため、繊維分子が高度に配向結晶化した高強力繊維ではジアルデヒド化合物が内部まで浸透しずらく内部架橋が困難であった。
【0007】
また特開平5−163609号公報にはジアルデヒド又はそのアセタール化合物を紡糸原糸に付与し、高倍率に乾熱延伸したあと酸処理により繊維内部に架橋を生じさせることが記載されている。しかしながらこれは炭素数が6以下の脂肪族ジアルデヒドや芳香族ジアルデヒド化合物であるため、耐湿熱性に有効なPVA系分子鎖間の架橋(分子間架橋)が少ないか又は立体障害で内部浸透が難しく、かつ架橋剤が紡糸時の乾燥や乾熱延伸時に繊維表層へ移行するため、内部架橋されずらく、耐湿熱性と高強度の両方を十分に満足するものではなかった。
【0008】
さらに本発明者らは、先に炭素数8以上の脂肪族ジアルデヒド又はそのアセタール化合物による架橋に関して特許出願を行っている。確かにこの方法を用いると高強度で耐湿熱性のPVA系繊維が得られるが、この方法でもジアルデヒド又はそのアセタール化合物が繊維表層へ移行することを完全に抑えることは出来ず、かつ酸処理時にジアルデヒド又はそのアセタール化合物の処理液への流出も少しあり、繊維内部までの架橋が不十分になるため、高温養生後のスレート板曲げ強度や110℃以上の耐熱水性が今一歩であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
以上の背景を踏まえて、本発明者らは、如何にすれば耐湿熱性向上に有効な分子間架橋を効率良く繊維内部まで十分に生じさせることができるか、さらに高い強度を維持することができるかについて鋭意検討を重ねた結果、アルデヒド基を有するモノマー又はそのアセタール化物と酢酸ビニルを共重合して得られるポリマーをケン化し、得られるPVA系重合体を用い、該アルデヒド基又はそのアセタール化基をPVA系重合体の水酸基と反応させたものが有効と判り、本発明に至った。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ビニルアルコール単位と下記化学式(1)で表される単位もしくはそのアセタール化された単位からなる共重合PVA系重合体又はそれと実質的に下記化学式(1)で表される単位を有していないPVA系重合体とからなり、かつ下記化学式(1)中のアルデヒド基の少なくとも一部がPVA系重合体の水酸基と反応して架橋結合を形成しているPVA系繊維である。
【0011】
【化2】
【0012】
以下本発明の内容をさらに詳細に説明する。
本発明に言うビニルアルコール単位と上記化学式1で表される単位もしくはそのアセタール化された単位からなる共重合PVA系重合体とは、粘度平均重合度が200以上、好ましくは500以上、さらに好ましくは1000以上のものであり、ケン化度が99モル%以上のものである。該共重合PVA系重合体の平均重合度が高いほど該共重合PVA系重合体の紡糸時の凝固浴への溶出や繊維表層への移行が少なく、繊維内部まで均一に架橋され、かつ強度の高いものが得られ易い。
【0013】
ビニルアルコール単位とは、−CH2−CH(OH)−で表されるものであり、一般には、酢酸ビニルを重合しケン化することにより得られる。上記化学式(1)で表される単位としては、例えばプロペンアルデヒド(アクロレイン:CH2=CH−CHO)、メタクロレイン[CH2=C(CH3)CHO]、ブテンアルデヒド(CH2=CH−CH2−CHO)、ペンテンアルデヒド(CH2=CH−CH2−CH2−CHO)、ヘキセンアルデヒド(CH=CH−CH2−CH2−CH2−CHO)、ヘプテンアルデヒド(CH2=CH−CH2−CH2−CH2−CH2−CHO)、オクテンアルデヒド(CH2=CH−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CHO)などの不飽和脂肪族アルデヒド類、スチレンアルデヒドで代表されるビニル芳香族アルデヒドなどを重合して形成されるものであり、そのアセタール化された単位とは、上記アルデヒドのメトキシ化、エトキシ化、エチレンジオキシ化などのアセタール化されたものを意味する。上記化学式(1)のBの炭素数が多くなり過ぎると結晶化が大きく阻害され、得られる繊維の強度が低下する。したがってBの炭素数としては9以下である必要がある。またAに関しても、同様の理由により水素、メチル基、エチル基のいずれである必要がある。
【0014】
上記化学式(1)で表される単位としては、有効な分子間架橋と強度保持の点で好ましくは炭素数5以上(Bの炭素数が2以上)の不飽和脂肪族アルデヒド又はそのアセタール化合物に由来する単位であり、例えばジメトキシヘキセンやエチレンジオキシオクテンなどから得られる単位がある。
これらの単位は、酢酸ビニルを重合する時に共重合されるが、その量は酢酸ビニルをアルカリでケン化して得られるビニルアルコール単位に対し0.2〜10モル%、特に0.5〜5モル%が好ましい。
共重合量が0.2モル%未満では架橋点が少なくて耐湿熱性が十分でなく、10モル%を超えると重合度200以上のものを得ることが難しくなり、紡糸凝固浴への流出や繊維表層への移行が多く耐湿熱性の低下と同時に繊維強度も低下し易く好ましくない。
【0015】
該化学式(1)で表される単位あるいはそのアセタール化された単位を有するPVA系重合体は、そのような単位を実質的に有していない他のPVA系重合体と混合して用いられても何ら支障ないが、該化学式(1)で表される単位あるいはそのアセタール化された単位を有するPVA系重合体の混合量は1重量%以上、特に5重量%以上が好ましい。そして全PVA系重合体を構成している全ビニルアルコール単位のモルに対して、該化学式(1)で表される単位及びそのアセタール化された単位のモル割合は0.2〜5モル%が好ましい。モル割合が0.2モル%未満の場合には、十分な架橋がなされず耐湿熱性に劣る。一方5モル%を越える場合には、紡糸凝固浴への流出や繊維表層への移行が多く耐湿熱性の低下と同時に繊維強度も低下し易く好ましくない。
【0016】
PVA系重合体には、顔料、界面活性剤、ホウ酸などを添加しても良いが、延伸性や架橋反応を阻害するものは好ましくない。
このようなPVA系重合体を溶剤に溶解して紡糸原液とし、この紡糸原液を紡糸して繊維とする。PVA系重合体の溶剤としては、例えばグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオールなどの多価アルコール類やジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジエチレントリアミン、水及びこれら2種以上の混合溶剤などが挙げられる。
【0017】
このようにして得られた紡糸原液は常法により湿式、乾式、乾湿式のいずれかの方法でノズルより吐出され固化する。
湿式及び乾湿式紡糸では、凝固浴にて固化し繊維化させるが、その凝固剤はアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、アルカリ水溶液、アルカリ金属塩、水溶液などのいずれか又はこれら2種以上の混合液でも良い。なお凝固における溶剤抽出をゆっくりさせて均一ゲル構造を生成させ、より高い強度と耐湿熱性を得るため、該凝固剤にPVA系重合体の溶剤を10重量%以上混合させるのが好ましい。特にメタノールで代表されるアルコールと原液溶剤との混合液が好ましい。さらに凝固温度を20℃以下にして急冷させるのも均一な微結晶構造のゲルを得る、すなわち高強度の繊維を得るのに都合が良い。
【0018】
また、繊維間の膠着を少なくし、その後の乾熱延伸を容易にするために溶剤を含んだ状態で2倍以上の湿延伸をするのが望ましい。
なお、アルカリ性凝固浴を用いた場合には、湿熱延伸の前に張力下で中和を行なうのが良い。次いで溶剤抽出を行なうが抽出剤としてはメタノール、エタノール、プロパノールなどの第1級アルコール類やアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトンなどのケトン類やジメチルエーテル、メチルエチルエーテルなどのエーテル類および水などが使用できる。続いて必要に応じ油剤などを付与して該抽出剤を乾燥させるが、乾式の場合は抽出剤を使用せずに紡糸時及び紡糸後に該溶剤を蒸発させて乾燥させる。
【0019】
その後、該化学式(1)で表される単位あるいはそのアセタール化された単位を有するPVA系重合体を含有する紡糸原糸を200℃以上で総延伸倍率が10倍以上、好ましくは14倍以上になるように乾熱延伸する。10倍未満ではPVA分子鎖の配向が不十分で高強度で維持するのは難しい。延伸温度は高重合度ほど高くして高倍率を維持するのが好ましいが、260℃以上ではPVAの溶融や分解が起こり易く好ましくない。なお総延伸倍率とは、湿延伸倍率と乾熱延伸倍率の積で表される値である。
【0020】
このようにして得られた該化学式(1)で表される単位あるいはそのアセタール化された単位を有するPVA系重合体を含有するPVA系高強力延伸糸を硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、クロム酸などの無機酸あるいはカルボン酸、スルホン酸などの有機酸を含む水溶液で処理し、PVA系重合体の水酸基と下記化学式(2)で表されるようなアセタール化の架橋反応を起こさせる。なお化学式(2)は最も代表的な式を示したものである。
【0021】
【化3】
【0022】
本発明で得られたPVA系繊維は内部まで均一に架橋されているため、耐湿熱性に非常にすぐれ、特にオートクレーブ養生される繊維補強セメント成形品や高温染色可能な衣料用途など幅広くその効果を発揮する。なおPVA系繊維の耐湿熱性は緊張下と無緊張下で大きく異なり、例えば緊張下で180℃の熱水に耐えても無緊張下では130℃の熱水で溶解する。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお本発明における各種の物性値は以下の方法で測定されたものである。
1)PVA系重合体又は共重合PVA系重合体の粘度平均重合度(P)
JISK−6726に基づき、30℃におけるPVA系重合体又は共重合PVA系重合体の希薄水溶液の比粘度ηspを5点測定し、次式により極限粘度〔η〕を求め、さらに粘度平均重合度Pを算出した。なお試料の未架橋延伸繊維を1〜10g/lの濃度になるようにして130℃以上の水に加圧溶解するが完全溶解できないゲル物が少量生成した場合はそのゲル物を5μmガラスフィルターでろ過して、そのろ過液の粘度を測定した。またその時の水溶液濃度は残渣のゲル物重量を試料重量より引いた補正値を用いて算出した。
〔η〕=lim(C→0) ηsp/C
P=(〔η〕×104/8.29)1.613
【0024】
2)共重合PVA系重合体の含有量
未架橋延伸糸を140℃以上の重水素化したジメチルスルホキシドに溶解せしめNMRよりPVA系重合体のCH2基ピークに対する共重合PVA系重合体のピーク面積比を算出し含有量を求めた。
なお、架橋繊維の場合はジメチルスルホキシドでは溶解しないゲル物が多いので繊維状で固体NMRのピーク比より含有架橋量を求めた。
3)内部架橋指数(CI)
試料約1gを6mmにカットして絶乾重量W1を精秤し、人工セメント液(KOH3.5g/l+NaOH0.9g/l+Ca(OH)20.4g/l)100ccと共に耐圧ステンレスポットに入れて密栓した後、150℃で2時間処理する。次いで残渣を20〜25μパスのろ紙でろ過したあと、乾燥して残渣重量W2を測定し、次式により算出した。
CI=(W2/W1)×100
【0025】
4)繊維の引張強度(DT)
JISL−1015に準じ、予め調湿された単繊維を試長10cmになるように台紙に貼り、25℃で60%RH条件下に12時間以上放置し、次いでインストロン1122で2kg用チャックを用い、初荷重1/20g/d、引張速度50%/分にて破断強度(すなわち引張強度)を求め、n≧10の平均値を採用した。デニール(dr)は、1/20g/d荷重下で繊維を30cm長にカットし重量法によりn≧10の平均値で示した。なお、測定後の単繊維を用いて引張強度を測定し、1本ずつデニールと対応させた。
【0026】
5)耐オートクレーブ性(スレート板の湿潤曲げ強度WBS)
単繊維デニールに合わせ(繊維長さ)/(繊維の断面積相当円の直径)=400前後になるように4〜8mmの長さに切断したPVA系架橋繊維を用い、タッピー式で該繊維2重量%、パルプ3重量%、シリカ38重量%、セメント57重量%の配合により湿式抄造し、50℃で20時間一時養生したのち、160℃で15時間、180℃で10時間のいずれかの条件でオートクレーブ養生し、スレート板を作製したあと、JISK−6911に準じて1日水中に浸漬した後、濡れている状態で曲げ強度を測定した。なお、スレート板は10枚積層したものを50kg/cm2にプレスし、嵩比重ρを1.6前後にしたあと、次式によりρ=1.6に比重補正してWBSを求めた。
WBS=測定WBS×1.6/ρ (kg/cm2)
6)熱水安定温度
無緊張下で架橋繊維又は布帛約1gと水約200ccをミニカラー染色機(テクサム技研製)に入れ、約30分間で100℃〜130℃の間の所定温度まで昇温したのち、その温度で40分間処理したあと、繊維状態を肉眼や感触で判定し収縮や膠着のない最高温度を熱水安定温度とした。
【0027】
実施例1及び比較例1
粘度平均重合度が4000でケン化度が99.6モル%のPVAに、重合度が650、ケン化度が99.5モル%でエチレンジオキシオクテン[CH2=CH−(CH2)5−CH(OCH2)2]が2.5モル%共重合したPVA系重合体(1)を20重量%添加して、全濃度が11重量%になるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。次いで該溶液を1000ホールのノズルより吐出させ、メタノール/DMSO=7/3重量比、6℃の凝固浴で湿式紡糸した。
さらに40℃メタノール浴で4倍湿延伸したあと、メタノールで該溶剤をほとんど全部除去した。得られた紡糸原糸を170℃、200℃、238℃の3セクションからなる熱風炉で総延伸倍率17倍になるように延伸し、約3000d/1000fのマルチフィラメントを得た。
次いで該延伸糸を硫酸80g/lの水溶液中に75℃で30分間浸漬して架橋反応を起こさせた。
【0028】
未架橋延伸糸中のPVA系重合体(1)の含有量は19.5重量%を示し、NMRよりエチレンジオキシオクテンのアセタール化部分がPVAの水酸基2個と反応して脱エチレングリコールにより架橋していることが判明した。
架橋繊維の単糸強度は13.5g/dを示し、内部架橋指数CIは89.4とほとんど内部まで架橋されていることが判った。この繊維の熱水安定温度は115℃であった。
また160℃オートクレーブ後のWBSは285kg/cm2、180℃オートクレーブ後のWBSは225kg/cm2を示し、高温養生に耐える新生瓦の補強材として価値ある繊維となった。
【0029】
比較例1として、実施例1でPVA系重合体(1)を添加せずに紡糸抽出浴の最後のメタノール浴にテトラメトキシプロパンを5重量%添加し、繊維の内部と表面に付着させ、110℃で乾燥し、さらに実施例1と同様の乾熱延伸と酸処理を施した。
未架橋延伸糸の架橋剤含量は2.2重量%であり、架橋単糸強度は13.0g/dを示したが、熱水安定温度は105℃であり、CIは82.5であり、実施例1ほど内部架橋が進んでいないことが判った。また、180℃オートクレーブ養生後のWBSは、180kg/cm2であり、実施例1より見劣りするものであった。
【0030】
実施例2
粘度平均重合度が1600、ケン化度が99.3モル%で前記エチレンジオキシオクテンが0.8モル%共重合したPVA系重合体(2)を用い、濃度25重量%になるようにDMSOに溶解した。次いで実施例1と同様に紡糸したあと170℃と220℃の輻射炉を用いて総延伸倍率10倍に延伸し、続いて硫酸5g/lの水溶液で50℃で10分、その後70℃で20分、さらにその後90℃で20分(昇温各20分)処理して架橋させた。
架橋糸の単糸強度は9.0g/dであったが、CIは93.9と非常に高く、十分に内部架橋が進んでいた。
無緊張下の熱水安定温度は120℃で高温染色が可能となり衣料用繊維として使用できることが判明した。
【0031】
実施例3及び比較例2
粘度平均重合度が8000でケン化度が99.9モル%のPVA系ポリマーに、重合度が500、ケン化度が99.3モル%でジメトキシブテン[CH2=CH−CH2−(0CH3)2]が3.8モル%共重合したPVA系重合体(3)を10重量%添加して、全ポリマー濃度が9重量%になるように170℃でエチレングリコール(EG)に溶解した。得られた溶液を400ホールのノズルより吐出させ、乾湿式紡糸法によりメタノール/EG=7/3からなる0℃の凝固浴で急冷ゲル化させた。さらに40℃のメタノール浴で4倍湿延伸したあと、メタノールで該溶媒をほとんど全部除去し、130℃で乾燥した。
得られた紡糸原糸を180℃、210℃、248℃の3セクションからなる熱風炉で総延伸倍率18.3倍になるように延伸し、該PVA系重合体3の含有量が9.6重量%の1000d/400fからなるマルチフィラメントを得た。
次いで該延伸糸をホルマリンを90g/lと硫酸を90g/l溶解している水溶液で70℃30分間処理して、PVA系重合体3の架橋と同時にホルマール化を進めた。
得られた架橋糸の単糸強度は15.8g/d、内部架橋指数CIは91.1を示し、今までに見られない高強力で耐湿熱性のあるPVA系繊維となった。
該架橋繊維を6mmにカットし、スレート板評価を行ったが、160℃養生後のWBSは317kg/cm2、180℃後のWBSは251kg/cm2を示し、高温オートクレーブFRCとして高付加の価値のものとなった。
また、水産用ロープに長期間使用しても寸法変化や強度低下が少なく非常に有効であった。
【0032】
比較例2は、実施例3で該PVA系重合体3を添加せず、ホルマール化だけをした場合である。単糸強度は16.4g/dと高いが、CIは70.9と低く、熱水安定温度は100℃であり、180℃オートクレーブ養生後のWBSは178g/cm2と明らかに実施例3より耐湿熱性に劣るものであった。
【0033】
【発明の効果】
本発明は、アルデヒド化合物又はそのアセタール化合物が共重合したPVA系重合体を用いることにより、繊維の内部まで均一に架橋させたPVA系繊維が得られ、この繊維は、従来にない高強度と耐湿熱性の両方を有している。本発明の繊維は、セメント補強用繊維のみならず、耐湿熱性と耐久性が要求されるロープ、漁網、テント、土木シートなどの一般産業資材や高温染色が可能な衣料素材などにも幅広く利用できる。
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