JP3548514B2 - 圧延機のワークロール摩耗量の予測方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属製品の圧延操業中に、ワークロールのロール摩耗量を予測する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧延中の板クラウンを精度良く制御することは、高歩留の確保、形状の安定等のために、極めて重要なことである。そのため、板クラウンを制御するオンライン制御モデルが種々、開発され、熱間圧延や厚板圧延等において使用されている。これらのモデルを用いて板クラウンを制御する場合、モデル自体の精度は勿論のこと、モデルに入力する入力データの精度も非常に重要である。特に、ワークロールプロフィールは、その形状が直接、板に転写されるために、この値を正確に求めることが板クラウンの制御精度を大きく左右することになる。
【0003】
ところで、圧延中のロールプロフィールは、これまでの知見から、下記の3つのプロフィールの重ね合わせで求められることが知られている。
▲1▼初期ロールクラウン
▲2▼サーマルクラウン
▲3▼摩耗プロフィール
【0004】
ここで、初期ロールクラウンとは、ロール研削後のロールプロフィールのことであり、サーマルクラウンとは、圧延によるロール温度上昇(高温の圧延材からの伝熱、圧延材とロールとの摩擦による発熱など)に伴うロール材の熱膨張に起因したロールプロフィール変化を表している。また、摩耗プロフィールとは、ロールが材料と接し、摩耗することによって生じるロールプロフィール変化である。したがって、これらの値を正確に予測することができれば、正確なロールプロフィールが算出でき、その結果として、クラウンを高精度に制御することが可能となる。
【0005】
次に、上記の各プロフィールの予測方法についてであるが、初期ロールクラウンに関しては、研削後にプロフィールメーター等で測定することにより、正確に値を求めることは容易である。また、サーマルクラウンに関しても、オンラインの計算モデルが開発されており、高精度にサーマルクラウンを計算することが可能である。また、摩耗プロフィールを求めるためのロール摩耗量計算式も、各パスの圧延荷重P、板幅B、圧延後板長さL等をパラメーターとした式が示されている。
【0006】
例えば、日本鉄鋼協会講演論文集「材料とプロセス」VOL2(1989)−490には、各圧延パスにおける、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径Dからから導かれた式とロール摩耗量との関係が示されている。この関係は、数式化すると下記の式(2)で表すことができる。
スラブ毎(j )のロール摩耗量Δwj
Δwj =α・Σ[{(Pi /b)×Li }/(π・D)] ・・・・(2)
α :定数
Pi (ton) :iパスの圧延荷重
b (mm) :板幅
Li (mm) :iパス出側圧延長
D (mm) :ロール直径
さらに、日本塑性加工学会最新塑性加工要覧P149には、ロール摩耗予測式として、上記のパラメータの他に、投影接触弧長と先進率をパラメータに加えた式が示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述の日本鉄鋼協会講演論文集「材料とプロセス」VOL2(1989)−490の式では、材料とロールとの相対滑りがロール摩耗量に及ぼす影響を考慮していないので、圧延チャンスによって相対滑り率が変化する場合には、高精度にロール摩耗を予測することが困難であるという問題があった。
また、日本塑性加工学会最新塑性加工要覧P149の式には、先進率をパラメーターとして、材料とロールとの相対滑りを考慮しているが、オンラインで各パスの先進率を算出することは、非常に困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、熱間圧延操業中におけるワークロールの胴長方向のワークロール摩耗量分布の予測を高精度に可能にする圧延機のワークロール摩耗量予測方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、各圧延パスにおける、圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径Dをパラメーターとする式でロール摩耗量を予測することを特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明の趣旨とするところは、以下の通りである。
少なくとも上下2本のロールを用いることによって所定の板厚とする熱間圧延を実施し、ワークロールの胴長方向のワークロール摩耗量分布を圧延操業中に予測する際に、圧延材1本当たりのワークロール摩耗量を、各圧延パスにおける、圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径Dを用いて予測計算することを特徴とする圧延機のワークロール摩耗量予測方法であり、このとき、ワークロール摩耗量を計算する式が、下記式(1)を満足することを特徴とする圧延機のワークロール摩耗量予測方法である。
Δwj=β・Σ{ri×(Pi/b)×Li}/πD ・・・・(1)
Δwj(mm):j番目の圧延材でのロール摩耗量
β :比例定数
ri :iパス目の圧下率
Pi(ton):iパス目の圧延荷重
b (mm):板幅
Li(mm) :iパス目の出側圧延長
D (mm):ロール直径
【0011】
また、リバース圧延における各パス圧延でのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを予測する方法において、ワークロール組替直後から前圧延材までの全圧延パス、および当該圧延材の当該パスの前パスまでの実績値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)から、当該圧延材の当該パスでのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを予測計算することを特徴とする圧延機のワークロール摩耗量予測方法であり、このとき、ワークロール摩耗量を計算する式が、(1)式を満足することを特徴とする圧延機のワークロール摩耗量予測方法である。
【0012】
さらに、リバース圧延における各パス圧延でのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを計算する方法において、ワークロール組替直後から前圧延材までの全圧延パスにおける実績値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)から、ワークロールの摩耗によるロールプロフィールを計算し、そのロール胴長方向分布を初期値として、ついで当該圧延材が圧延機を通過する際の各圧延パスにおける、予測計算値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)から、各パスにおけるワークロール摩耗量のロール胴長方向分布を推定計算し、前記初期値と当推定計算値から、当該圧延材の当該パスでのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを予測計算することを特徴とする圧延機のワークロール摩耗量予測方法であり、このとき、ワークロール摩耗量を計算する式が、(1)式を満足することを特徴とする圧延機のワークロール摩耗量予測方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面に基づいて、詳細に説明する。図1は、ワークロール摩耗挙動の一例として、異なる板幅(b1 、b2 、b3 )の材料を3本圧延した後の、ワークロール1の摩耗プロフィールを示している。
ここで、ロールの摩耗量wが、詳細を後述する圧延負荷Sに比例するとすると、比例定数βを用いて、ロール半径分の摩耗量wは下記の式で表すことができる。
w=β・S ・・・・(3)
図1において、各スラブによるロール摩耗量Δw1 、Δw2 、Δw3 は、
Δw1 =β・S1 ・・・・(4)
Δw2 =β・S2 ・・・・(5)
Δw3 =β・S3 ・・・・(6)
で表現できるので、ロール胴長方向中心におけるロール摩耗量は、
となる。
【0014】
したがって、所定のスラブ本数を圧延後(ここでは、便宜上、3本)、ロール組替した際に、ロール端部のロール半径R0 とロールの胴長方向中心のロール半径R3 を測定し、(S1 +S2 +S3 )を算出すれば、式(7)より、βを求めることができる。ここで求めたβは、ロール材質が変更されない限り、一定と考えられるので、一度このβを求めておけば、次回の圧延からは、式(4)〜(6)で示したのと同様に、各スラブにおける摩耗量Δwj を求め、Δwj が各スラブの板幅に相当するロールを摩耗するとして各スラブ毎の摩耗量を累積することにより、任意のスラブ圧延における摩耗プロフィールを求めることができる。
【0015】
ところで、上記のロジックで摩耗プロフィールを求めるためには、圧延負荷Sをモデル化する必要がある。
そこで、発明者らは、圧延条件がロール摩耗に及ぼす影響を詳細に調べた結果、ロール材質が同一である限り、式(3)におけるSのパラメータとして、各圧延パスにおける、圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径Dを用いれば、簡便かつ高精度にロール摩耗が予測できることを見出した。以下、その詳細を説明する。
【0016】
発明者らは、まず圧延条件がロール摩耗に及ぼす影響を検討し、下記の要因が、摩耗量に関与すること、および、その要因を数式化した各項に摩耗量が比例することを見出した。
▲1▼圧下率 r
▲2▼面圧 P/(b×投影接触弧長)
▲3▼接触弧長 投影接触弧長
▲4▼圧延後長さ L
▲5▼ロールの円周の逆数 1/πD
【0017】
したがって、摩耗量wは式(8)で表すことができ、その結果として、式(3)におけるSは、式(9)で数式化できることになる。
また、式(9)から分かるように、本発明のパラメータは全て、先進率などとは異なり、各圧延パスにおいて、容易に求めることができる。
【0018】
以上をまとめると、スラブ毎のロール摩耗量Δwj は、式(1)で求められ、Δwj が各スラブの板幅に相当する部分のロールを摩耗するとして各スラブ毎の摩耗量を累積していけば、任意のスラブ圧延時におけるワークロールの摩耗プロフィールを求めることができることになる。
Δwj =β・Σ{ri ×(Pi /b)×Li }/πD ・・・・(1)
β :比例定数
ri :各パスの圧下率
Pi (ton) :各パスの圧延荷重
b (mm) :板幅
Li (mm) :各パス出側圧延長
D (mm) :ロール直径
無論、必要であれば、同様にして、任意のスラブの任意のパスにおける摩耗プロフィールを算出することも可能である。
【0019】
また、圧延条件によっては、板幅方向に摩耗量が変動する場合もあるが(例えば、温度低下による板端の摩耗量の増大)、その場合には、算出したスラブ毎のロール摩耗量Δwj を各スラブの板幅に相当する部分のロールを摩耗するとして各スラブ毎の摩耗量を累積する際に、板幅方向に摩耗量の分布を付与すれば良い。
【0020】
つぎに、実際に式(1)を、リバース圧延に適用する方法について説明する。まずは、パス間において制御を実施する場合を想定し、当該スラブの圧延中に次パスの摩耗によるワークロールプロフィールを予測する方法に関して述べる。すなわち、この場合、ワークロール組替直後から前圧延材までの全圧延パスに加えて、当該圧延材の制御を適用するパスの前パスまでの圧延実績値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)が把握できるので、これらの値を用いれば、当該圧延材の制御を適用するパスの前パスまでの摩耗プロフィールが計算可能である。したがって、次パスの圧延においては、その摩耗プロフィールを用いることにより、板クラウン等を計算すれば良い。
【0021】
一方、設定制御を実施する場合には、ワークロール組替直後から前圧延材までの全圧延パスに関しては、実績値を用いて摩耗量を計算することができるが、当該圧延材の圧延に関しては、当然、実績値を用いることができない。したがって、この場合は、ワークロール組替直後から前圧延材までの全圧延パスにおいては、実績値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)から、ワークロールの摩耗によるロールプロフィールを計算し、そのロール胴長方向分布を初期値として、ついで当該圧延材が圧延機を通過する際の各圧延パスにおいては、予測計算値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)から、各パスにおけるワークロール摩耗量のロール胴長方向分布を推定計算し、前記初期値と当推定計算値から、当該圧延材の当該パスでのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを予測計算すれば良い。
【0022】
なお、リバース圧延を実施しない、タンデムミルの場合には、当然、ワークロール組替直後から前圧延材までの全圧延パスの実績値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)から、次スラブのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを予測計算すれば良い。
【0023】
【実施例】
ワークロール直径1000mmのリバース圧延機を用いて、鉄の熱間圧延を実施した。まずは、予め、上下10組のロールで圧延されたデータを用いて、式(1)によりβ=4.76×10−5(1/1000 ton)を求めた。なおβを求める際に、各ロールの直径に殆ど差がなかったので(最大0.9mm)、ロール直径の影響は無視できるとして、ロール円周πD=1として計算した。その結果を図2に示す。この時の相関係数はR2 =0.98であった。このβを用いて、別途上下12組のロール(直径1000mm、最大偏差0.8mm)で圧延する際のワークロールの摩耗プロフィールを各圧延パスで求めた。さらに、別途、サーマルクラウンも各パス毎に計算した。それらの計算結果を基に、板クラウン制御モデルを用いて、各圧延材の板クラウンを算出した。
【0024】
比較例として、上記の実施例と同一の、上下10組のロールで圧延されたデータを用いて、圧下率を考慮していない式(2)により、α=7.44×10−6 (1/1000 ton)を求めた。なおロール円周πDは、実施例と同様、πD=1とした。その結果を図3に示す。この時の相関係数はR2 =0.51であった。このαを用いて、実施例と同一の12組ロールでの圧延における、各パスの摩耗プロフィールを算出し、その結果を用いて、各圧延材の板クラウンを計算した。なお、比較のために、摩耗プロフィール以外のモデルの入力条件は、全て実施例と同一の値を使用した。
【0025】
表1に、上記で求めた、実施例と比較例のクラウン予測の誤差(計算値−実測値)の標準偏差σを示す。ワークロールの摩耗プロフィールが高精度に予測できた実施例では、誤差の標準偏差が非常に小さいことが分かる。したがって、想定したクラウンを有する板を圧延することができ、良好な形状の板が得られた。一方、比較例では、大きな予測誤差を示した。
【0026】
【表1】
【0027】
【発明の効果】
本発明により、板クラウンの予測精度を著しく改善できることから、製品の形状を大幅に向上させることが可能となり、圧延コストの低減に大きな効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ロールの摩耗挙動を示す図。
【図2】実施例における、圧延負荷と摩耗量の関係を示す図。
【図3】比較例における、圧延負荷と摩耗量の関係を示す図。
【符号の説明】
1 ワークロール
Claims (3)
- 少なくとも上下2本のロールを用いることによって所定の板厚とする熱間圧延を実施し、ワークロールの胴長方向のワークロール摩耗量分布を圧延操業中に予測する際に、圧延材1本当たりのワークロール摩耗量を、各圧延パスにおける、圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D、を用いて、下記(1)式で示されたワークロール摩耗量計算式により予測計算することを特徴とする圧延機のワークロール摩耗量予測方法。
Δw j =β・Σ{r i ×(P i /b)×L i }/πD (1)
Δw j (mm) :j番目の圧延材でのロール摩耗量
β :比例定数
r i :iパス目の圧下率
P i (ton) :iパス目の圧延荷重
b (mm) :板幅
L i (mm) :iパス目の出側圧延長
D (mm) :ロール直径 - リバース圧延における各パス圧延でのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを予測する方法において、ワークロール組替直後から前圧延材までの全圧延パス、および当該圧延材の当該パスの前パスまでの実績値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)から、当該圧延材の当該パスでのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを請求項1に記載の(1)式で示されたワークロール摩耗量計算式により予測計算することを特徴とする圧延機のワークロール摩耗量予測方法。
- リバース圧延における各パス圧延でのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを計算する方法において、ワークロール摩耗量を計算する式として請求項1に記載の(1)式を用いて、ワークロール組替直後から前圧延材までの全圧延パスにおける実績値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)から、ワークロールの摩耗によるロールプロフィールを計算し、そのロール胴長方向分布を初期値として、ついで当該圧延材が圧延機を通過する際の各圧延パスにおける、予測計算値(圧下率r、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D)から、各パスにおけるワークロール摩耗量のロール胴長方向分布を推定計算し、前記初期値と当推定計算値から、当該圧延材の当該パスでのワークロールの摩耗によるロールプロフィールを予測計算することを特徴とするワークロール摩耗量予測方法。
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