以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではない。また、以下の実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下の実施形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。
(1.第1の実施形態)
(1−1.第1の実施形態に係る予測式を構築する上でベースとなった発明者の知見)
従来、圧延機のワークロール摩耗量予測方法を数式化する場合は、各圧延パスにおける、圧下率、圧延荷重、板幅、圧延後板長さ、ロール直径、及び先進率が、当該数式を構成するパラメータとして用いられてきた。
本発明者らは、圧延機のワークロール摩耗量を予測する数式(予測式)中に、上記のパラメータ以外のパラメータを用いることを念頭に、上記予測式の改良について、鋭意検討を重ねた。
その結果、本発明者らは、ワークロールの摩耗に関する諸事項の中でも、特に、ワークロールと圧延材との間に生じる摩耗仕事(摩擦エネルギー)に着目し、当該摩耗仕事を理論的な見地から考察して、上記予測式を構築することで、圧延機のワークロール摩耗量を、従来に比して極めて高精度に予測することができるとの知見を得た。第1の実施形態では、かかる予測式を用いてワークロール摩耗量の予測計算を行うことにより、従来よりも高精度なワークロール摩耗量の予測を実現するものである。第1の実施形態に係る予測式の、従来技術に開示された予測式からの構築手順は、以下のとおりである。
(1−2.第1の実施形態に係る予測式の具体的な構築手順)
(1−2−1.前提となる従来技術に開示されている予測式)
本発明に係る予測式を説明する前に、その前提となる従来技術に開示されている複数の予測式について説明する。
(非特許文献1に開示されている予測式)
従来技術(非特許文献1)においては、ワークロール摩耗に関するパラメータを操業データから抽出し、ワークロール摩耗量の予測式(圧延材1本あたり)が下記(5)、(6)式のように構築されている。
ここで、ΔWはワークロール摩耗量、Pは圧延荷重、bは板幅、Lは圧延後板長さ、Dはワークロール直径、δ(z)はワークロール胴長方向位置における板幅に依存したパラメータ、zはワークロール胴長中心をゼロとした場合の胴長方向座標、そしてaはスタンド別或いはロール別の定数(ΔWの絶対量を表現するための単位の換算要素を含む)である。このとき、上記ΔW、P、b、L、Dの単位としては、例えば、それぞれμm、ton、mm、m、mmを使用することができる。
(特許文献1に開示されている予測式)
また、特許文献1においては、上記非特許文献1の予測式に対して、さらに圧下率rを導入することで、ワークロール摩耗量の予測式(圧延材1本あたり)が下記(7)式のように構築されている。
(非特許文献2に開示されている予測式)
さらに、非特許文献2においては、ワークロールと圧延材とのすべりを考慮することで、ワークロール摩耗量の予測式(圧延材1本あたり)が、圧延操業実績データからの合わせ込みパラメータα、β並びに投影接触孤長ld及び先進率fsを用いて、下記(8)〜(10)式のように構築されている。なお、ldの単位としては、mmなどが使用され、fsの単位は無次元である。
なお、上述した3つのタイプの予測式(非特許文献1、特許文献1及び非特許文献2における各予測式)では、いずれも、圧延操業実績データをもとに、ワークロール摩耗に関するパラメータを経験的に抽出している。すなわち、これらの予測式は、上記(5)、(7)式における定数a、及び上記(8)式のパラメータα、βを、圧延操業実績データを用いて合わせ込みチューニングを行って、予測式として構築したものである。
(1−2−2.第1の実施形態に係る予測式)
次に、第1の実施形態に係る予測式について説明する。
本発明者らは、圧延材とワークロールとの間に発生する摩擦仕事(摩擦エネルギー)に着目し、この摩擦仕事の概念が導入された、圧延機のワークロールの摩耗量を予測する数式を新たに検討した。
圧延中のロールバイト内での全摩擦仕事に関し、圧延材とワークロールとの間に発生する接触時間tR当たりの摩擦仕事Eは、摩擦係数μ、平均圧延圧力pm、圧延材とワークロールとの相対速度の絶対値の平均値VR AV、及び圧延材とワークロールとの接触時間tRとを用いて、下記(11)式で表される。
上記(11)式は、接触時間tRあたりの摩擦仕事(摩擦エネルギー)であり、ワークロールからみれば、1回転あたりに発生する圧延材とワークロールとの間の摩擦仕事に相当する。
ここで、圧延材1本(1パス)あたり(N回転あたり)の、ワークロール摩耗量ΔWが摩擦仕事Eに比例すると仮定すると、ワークロール摩耗量ΔWは下記(12)式で表される。
上記(12)式で、同一スタンド又はミルにおける摩擦係数μの変動は小さいと考えられる。このため、上記(12)式の比例定数をa0とすると、圧延材1本(1パス)あたりのワークロール摩耗量ΔWは下記(13)式で表される。
上記相対速度の絶対値の平均値VR AVは、非特許文献3に示されているように、ワークロールの周速度vR、先進率fs及び後進率fbを用いて、下記(14)式で表される。
従って、上記(14)式を上記(13)式に代入すると、ワークロール摩耗量ΔWは下記(15)式で表される。
上記(15)式において、vR・tRは、ワークロールの圧延材との接触長さに対応する。このため、vR・tRと投影接触弧長ldとの関係は下記(16)式で表わされる。
上記(15)式を、上記(16)式を用いて整理し、さらに上記(15)式中のa0/2を改めてaとおくと、下記(17)式が得られる。
ここで、ワークロール胴長方向における圧延材の板幅を考慮すると、圧延材1本についての摩耗量ΔWは、下記(18)、(19)式で表される。
上記(18)、(19)式を満たす場合、圧延本数がN本の場合のワークロール摩耗量ΔWNは、圧延操業中の圧延順で表わされる圧延本数をiとした場合、下記(20)、(21)式で表される。
なお、一例として、熱間連続圧延に対して上記(20)、(21)式を適用して、そのワークロール摩耗量ΔWNを予測計算する際における、圧延条件を規定する各パラメータの適用範囲(全スタンドでの範囲)は、以下の通りである。
P/b(線荷重:圧延荷重/板幅):500〜3000(ton/m)
b(板幅) :600〜2200(mm)
fs(先進率) :0.02〜0.20
fb(後進率) :0.06〜0.8
D(ワークロール直径) :300〜1000(mm)
L(圧延後板長さ) :30〜4000(m)
但し、第1の実施形態に係る予測式は、圧延の理論的見地に基づいて構成されているので、上記の各パラメータの範囲を逸脱する場合においても、圧延可能な範囲において、適用することができる。
例えば、上記(20)式でfsiのべき乗数とfbiのべき乗数は、いずれも2であるが、第1の実施形態はこれに限定されない。以上説明したように、ワークロール摩耗量を摩擦エネルギーを導入して導く場合には、理論的には、上記(20)式のようにこれらのべき乗数をいずれも2とすることが理想的であるが、上記(20)式に示す予測式を実際に適用する際には、これらのべき乗数は適切な範囲内で適宜変更されてもよい。例えば、本発明者らによる試行の結果、一般的な条件での熱間圧延に対して上記(20)式に示す予測式を適用した場合、実用上は、fsiのべき乗数とfbiのべき乗数をそれぞれ1.8以上2.2以下の範囲で変化させた場合であっても、ワークロール摩耗量の予測値として、十分な精度を得ることができた。つまり、第1の実施形態では、上記(20)式において、fsiのべき乗数及びfbiのべき乗数は、いずれも、1.8以上2.2以下であってもよい。
(1−3.第1の実施形態の詳細)
以上に示すように、第1の実施形態に係る予測式は、理論的見地である摩擦仕事の概念を基に、新規なパラメータとして「後進率」を導入することで、圧延材1本あたりのワークロール摩耗量を、各圧延パスにおける、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D、先進率fs及び後進率fbを用いて予測計算する予測式である。第1の実施形態では、当該予測式を用いてワークロール摩耗量を予測計算するワークロール摩耗量予測方法が提供される。また、第1の実施形態では、当該ワークロール摩耗量予測方法を実行するワークロール摩耗量予測装置が提供される。当該ワークロール摩耗量予測装置は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ、又はこれらのプロセッサとメモリ等の記憶素子がともに搭載された制御基板等であり得る。或いは、当該ワークロール摩耗量予測装置は、例えばPC(Personal Computer)等の一般的な情報処理装置であってもよい。当該ワークロール摩耗量予測装置のプロセッサが所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより、第1の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法が実行され得る。
第1の実施形態に係るワークロール摩耗量予測装置には、ある1本の圧延材に対する圧延が終了した時点で、その圧延における圧延操業実績データや、圧延条件についての情報が送信される。当該圧延操業実績データや圧延条件についての情報には、上記(20)式における各パラメータについての情報が含まれており、当該ワークロール摩耗量予測装置は、これらの情報に基づいて、上記(20)式を用いて、当該圧延によるワークロール摩耗量の予測値を算出することができる。この際、当該ワークロール摩耗量予測装置は、先進率fs及び後進率fbについては、圧延条件から計算することができる。先進率fsについては、例えば非特許文献3に開示されている第2章「2次元圧延理論」の2.2項「均一変形理論」(9頁の式(2.19)を参照)に基づいて、高精度に算出することができる。また、後進率fbについては、例えば非特許文献3に開示されている「圧延時の圧延入出側の体積一定の法則」(8頁の式(2.16)を参照)に基づいて、高精度に算出することができる。
更に、第1の実施形態では、当該ワークロール摩耗量予測装置に当該ワークロール摩耗量予測方法を実行させるためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することが可能である。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等であり得る。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
(2.第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について説明する。
(2−1.第2の実施形態に想到した背景)
上述したように、第1の実施形態では、圧延材1本あたりのワークロール摩耗量が、各圧延パスにおける、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、ロール直径D、先進率fs及び後進率fbをパラメータとする予測式を用いて予測計算される。ここで、第1の実施形態では、この圧延荷重Pとして、1本の圧延材に対する圧延中におけるどの段階での圧延荷重を用いるかについては、特に限定していなかった。
圧延の分野において、圧延荷重予測(セットアップ計算や、学習計算)では、一般的に、その圧延荷重として、圧延材先端部における圧延荷重が用いられ得る。従って、第1の実施形態においても、予測式における圧延荷重Pとして、通常は、この圧延材先端部における圧延荷重が用いられることが想定され得る。
しかしながら、実際には、1本の圧延材に対する圧延中に、圧延荷重の値は変化し得る。すなわち、圧延荷重は、圧延材の長手方向について変化し得る。図1は、1本の圧延材に対する圧延中における、圧延荷重の変化を示すグラフ図である。図1では、横軸に、圧延開始時からの時間を取り、縦軸に、1本の圧延材に対してある条件で圧延を行った際における圧延荷重の実績値を取り、圧延中における当該圧延荷重の変化をプロットしている。図1を参照すると、圧延中には、圧延材先端部から圧延材尾端に向けて徐々に大きくなるような、圧延材の長手方向における圧延荷重の変化が生じていることが確認できる。
本発明者らは、この圧延材の長手方向における圧延荷重の変化に注目した。つまり、本発明者らは、第1の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法において、このような圧延材の長手方向における圧延荷重の変化による影響を、予測式の中に取り込むことにより、その摩耗量の予測精度をより向上させることができると考えた。
第2の実施形態は、かかる知見に基づくものであり、予測式における圧延荷重Pとして、圧延材の長手方向における圧延荷重の変化を加味した値を用いることにより、ワークロール摩耗量をより精度良く予測することを可能とするものである。以下、第2の実施形態について詳細に説明する。
(2−2.ワークロール摩耗量予測システムの構成)
図2を参照して、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システムの構成について説明する。図2は、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システムの構成の一例を示すブロック図である。
近年、コンピュータの処理能力が大幅に向上し、圧延材の長手方向全体における圧延荷重を、圧延中に容易に取り込むことが可能となった。圧延材の長手方向における圧延荷重の変化は、図1に示すような時系列データとして取得されることが一般的である。第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システムでは、ある圧延材についての圧延が終了した段階で、その圧延中における圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の変化が、時系列データとして取得される。そして、この圧延材の長手方向における圧延荷重の変化を加味して、当該圧延によるワークロール摩耗量が予測計算される。そして、次の圧延材に対する圧延のセットアップ計算時に、このワークロール摩耗量の予測値を用いてロールプロフィルが計算される。第2の実施形態によれば、圧延材の長手方向における圧延荷重の変化を加味することにより、ワークロール摩耗量をより精度良く予測計算することができるから、その予測値に基づく次の圧延材に対するセットアップ計算の精度も向上させることができ、当該次の圧延材の形状(板クラウン、急峻度等)を精度良く造り込むことが可能となる。
以下、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システムの構成について詳細に説明する。なお、以下の説明では、区別のため、既に圧延が終了している、圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の変化が取得される対象である圧延材のことを、前圧延材とも記載し、セットアップ計算が行われる、これから圧延が行われる圧延材のことを、次圧延材とも記載する。
図2を参照すると、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システム10は、ワークロール摩耗量予測装置110と、セットアップ計算装置120と、熱延ライン130と、から構成される。
熱延ライン130は、例えば連続熱間圧延機列(連続熱間圧延ライン)等の、任意の熱間圧延ラインである。熱延ライン130において前圧延材についての圧延が終了すると、熱延ライン130からワークロール摩耗量予測装置110に対して、圧延操業実績データが送信される。当該圧延操業実績データには、第2の実施形態に係る予測式(具体的には、上記(18)式に示す予測式)を用いてワークロール摩耗量を計算するための各パラメータについての情報(具体的には、圧延荷重P、及び圧延後板長さLについての情報)が含まれている。なお、このとき、圧延荷重Pについての情報としては、前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の変化が、時系列データとして送信される。
セットアップ計算装置120は、圧下スケジュールに基づいて、次圧延材についてのセットアップ計算を行う。この際、セットアップ計算装置120は、ワークロール摩耗量予測装置110によって計算された前圧延材についての圧延が終わった段階でのワークロール摩耗量の予測値を加味して、セットアップ計算を行う。具体的には、セットアップ計算では、次圧延材についての圧延における圧延材温度、圧延荷重、圧延トルク及びロールプロフィル(サーマルクラウン)等が予測計算される。セットアップ計算装置120は、ワークロール摩耗量予測装置110によって計算された前圧延材についての圧延が終わった段階でのワークロール摩耗量の予測値を用いて、このロールプロフィルの予測計算を行う。
セットアップ計算の結果は、熱延ライン130の各装置(例えば、ロールベンディング装置等の板クラウン形状制御装置や、圧下装置等)の動作を制御する制御装置に送信される。当該制御装置は、セットアップ計算の結果に従って、所望の板形状が実現され得るような熱延ライン130の各装置における制御量(例えば、板クラウン形状制御装置の制御量(例えば、ロールベンディング装置のベンダ圧等)や、圧下装置の圧下位置等)を計算し、その制御量に従って各装置を動作させ、次圧延材についての圧延を実行させる。
ワークロール摩耗量予測装置110は、熱延ライン130から送信される前圧延材についての圧延操業実績データに基づいて、上記数式(18)を用いて、当該前圧延材についての圧延におけるワークロールの摩耗量を予測計算する。具体的には、ワークロール摩耗量予測装置110は、その機能として、圧延荷重実績値平均値算出部111と、ワークロール摩耗量予測部112と、を有する。
圧延荷重実績値平均値算出部111は、熱延ライン130から送信される前圧延材についての圧延操業実績データに基づいて、当該前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値を算出する。
ここで、上述したように、前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の変化は、図1に示すような時系列データとして整理されている。一方、第1の実施形態において説明したように、上記(18)式、すなわち第1及び第2の実施形態において用いているワークロール摩耗量の予測式は、上記(12)式に示した圧延材とワークロールとの間に発生する摩擦仕事(摩擦エネルギー)から、導出されている。つまり、この予測式は、ワークロール1回転あたりに発生する圧延材とワークロールとの間の摩擦仕事を基準としていることから、言い換えれば、ワークロール1回転あたりの圧延距離で発生する圧延材とワークロールとの間の摩擦仕事を基準としているということになる。従って、第2の実施形態において予測式に採用する前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値としては、時間的に変化する圧延荷重の実績値の平均値ではなく、圧延距離に応じて変化する圧延荷重の実績値の平均値が妥当であると考えられる。
ここで、一般的に、連続熱間圧延機列における圧延操業では、生産性向上のため、及び長手方向尾端に向けての温度低下を防ぐために、圧延操業中に加速圧延が行われている。一例として、図3は、図1に示す圧延荷重の実績値を取得した際における、圧延中における板速度の変化を示すグラフ図である。図3では、横軸に、圧延開始時からの時間を取り、縦軸に、図1に示す圧延荷重の実績値を取得した際における板速度の実績値を取り、圧延中における当該板速度の変化をプロットしている。図3に示すように、圧延中には、最初は比較的低速で通板されていた圧延材が、ある時刻で加速され、その後、より高速な所定の板速度で所定の時間通板された後、減速される、という、板速度の制御が行われている。このように、圧延中における板速度は必ずしも一定ではないから、図1に示すような、前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の時間的な変化を、圧延距離に応じた変化に換算する必要が生じる。
そこで、第2の実施形態では、圧延荷重実績値平均値算出部111は、圧延操業実績データに含まれる、時系列データである前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値についての情報を、圧延距離に応じた前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値に換算する。そして、この換算した圧延距離に応じた前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値を算出する。図4は、圧延距離に応じた前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値を示すグラフ図である。図4では、図1に示す圧延荷重の実績値の時系列データを、圧延距離に応じた圧延荷重の実績値に換算したものを示している。
圧延荷重実績値平均値算出部111は、算出した圧延距離に応じた前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値についての情報を、ワークロール摩耗量予測部112に提供する。
ワークロール摩耗量予測部112は、上記数式(18)に示す予測式、すなわち、第1の実施形態と同様の予測式を用いて、前圧延材についての圧延におけるワークロール摩耗量を予測計算する。このとき、予測式における圧延荷重Pとしては、圧延荷重実績値平均値算出部111によって算出された、圧延距離に応じた前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値が採用される。ワークロール摩耗量予測部112には、前圧延材の圧延条件についての情報が入力されており、ワークロール摩耗量予測部112は、当該圧延条件についての情報と、熱延ライン130から送信される前圧延材についての圧延操業実績データと、圧延荷重実績値平均値算出部111から提供される圧延距離に応じた前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値についての情報と、に基づいて、上記数式(18)に示す予測式を用いて、前圧延材についての圧延におけるワークロール摩耗量を予測計算することができる。
ここで、ワークロール摩耗量予測装置110には、現在用いているワークロールについてこれまでに計算されたワークロール摩耗量の予測値についての情報が記憶されており、ワークロール摩耗量予測部112は、このこれまでに計算されたワークロール摩耗量の予測値に、計算した前圧延材についての圧延におけるワークロールの摩耗量の予測値を加算することにより、現在用いているワークロールについての摩耗量の予測値の累積値を算出する。つまり、結果的に、ワークロール摩耗量予測部112は、1本のワークロールについての複数(N本)の圧延材についての圧延後(ワークロールの交換直後から前圧延材についての圧延終了時まで)の摩耗量を、上記(20)式を用いて算出することと同様の処理を行う。
ワークロール摩耗量予測装置110は、計算した現在用いているワークロールについての摩耗量の予測値の累積値についての情報、すなわち、前圧延材についての圧延が終わった段階でのワークロール摩耗量の予測値についての情報を、セットアップ計算装置120に送信する。
以上、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システム10の構成について説明した。以上説明したように、ワークロール摩耗量予測システム10では、第1の実施形態と同様に、ワークロール摩耗量予測装置110が、前圧延材についての圧延におけるワークロールの摩耗量の予測計算を、上記(18)式に示す予測式を用いて行う。従って、第1の実施形態と同様に、従来法に比べてより高精度にワークロールの摩耗量を予測することが可能になる。更に、この際、ワークロール摩耗量予測装置110は、上記(18)式に示す予測式における圧延荷重Pとして、前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値を用いる。従って、第1の実施形態に比べて、ワークロール摩耗量の予測精度を、更に向上させることができる。また、ワークロール摩耗量予測システム10では、この高精度に予測されたワークロール摩耗量を用いて次圧延材についてのセットアップ計算が行われるため、当該次圧延材の形状の造り込みの精度も向上させることが可能となる。
なお、ワークロール摩耗量予測システム10を構成するワークロール摩耗量予測装置110及びセットアップ計算装置120は、それぞれ、以上説明した処理を実行可能に構成されればよく、その具体的な構成は任意であってよい。例えば、これらの装置は、CPUやDSP等のプロセッサ、又はこれらのプロセッサとメモリ等の記憶素子がともに搭載された制御基板等であり得る。或いは、これらの装置は、例えばPC等の一般的な情報処理装置であってもよい。また、これらの装置は、1台の装置でなくてもよく、複数の装置の協働によってそれぞれ実現されてもよい。これらの装置を構成するプロセッサが所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより、各装置において上記の各機能が実現され、以上説明した各処理が実行され得る。
また、ワークロール摩耗量予測システム10の各装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、PC等の情報処理装置に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。当該記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク又はフラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
(2−3.ワークロール摩耗量予測方法の処理手順)
図5を参照して、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法の処理手順について説明する。図5は、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法の処理手順の一例を示すフロー図である。なお、図5に示す各処理は、図2に示すワークロール摩耗量予測装置110によって実行される各処理に対応しており、ワークロール摩耗量予測装置110のプロセッサが所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより、図5に示す各処理が実行され得る。図5に示す各処理の詳細については、ワークロール摩耗量予測装置110の機能について説明する際に既に上述しているため、以下のワークロール摩耗量予測方法の処理手順についての説明では、各処理の概要を述べるに留め、その詳細な説明は省略する。
図5を参照すると、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法では、まず、前圧延材についての圧延操業実績データ(前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の変化を少なくとも含む)が取得される(ステップS101)。ステップS101における処理は、図2を参照して説明した、前圧延材についての圧延操業実績データがワークロール摩耗量予測装置110に送信される処理に対応している。
次に、前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値が算出される(ステップS103)。ステップS103における処理は、図2に示す圧延荷重実績値平均値算出部111が実行する処理に対応している。
次に、算出された前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値を用いて、ワークロール摩耗量が予測計算される(ステップS105)。ステップS105では、圧延荷重Pとして当該平均値を用いて、上記(18)式に示す予測式に従って、ワークロール摩耗量が予測計算される。ステップS105における処理は、図2に示すワークロール摩耗量予測部112が実行する処理に対応している。
以上、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法の処理手順について説明した。
(3.第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態について説明する。
(3−1.第3の実施形態に想到した背景)
熱間圧延におけるワークロールとしては、一般的に、Ni−Grロールが用いられ得る。ここで、Ni−Grロールは、ロール種別としては1つの種類に分類されるが、昨今、Ni−Grロールの製造方法により、その摩耗量に違いが生じることが明らかになってきている。なお、本明細書において、「ロールの製造方法」との文言には、ロールの化学成分(組成)、及び製造工程(熱処理工程等)の概念がともに含まれる。
そこで、Ni−Grロールの製造方法を工夫することによって、Ni−Grロールをワークロールに用いた場合における摩耗量を低減する技術が開発されている。例えば、特許文献2には、Ni−Grロールにおいて、黒鉛晶出量がワークロール摩耗量に関係すること、及び当該黒鉛晶出量は添加物に応じて変化すること等が開示されている。また、例えば、特許文献3には、添加物としてREM(希土類元素)を添加することで、Ni−Grロールの黒鉛晶出量等を調整することができ、それによってワークロール摩耗量の改善が行われ得ることが開示されている。
このように、ワークロールとしてNi−Grロールを用いた場合には、その製造方法は、ワークロール摩耗量と密接に関連している。本発明者らは、第1の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法において、このワークロールの製造方法の違いによる影響を予測式の中に取り込むことにより、ワークロール摩耗量の予測精度をより向上させることができると考えた。
第3の実施形態は、かかる知見に基づくものであり、予測式における定数aの値として、ワークロールの製造方法の違いを加味した値を用いることにより、ワークロール摩耗量をより精度良く予測することを可能とするものである。以下、第3の実施形態について詳細に説明する。
(3−2.ワークロール摩耗量予測システムの構成)
図6を参照して、第3の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システムの構成について説明する。図6は、第3の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システムの構成の一例を示すブロック図である。
図6を参照すると、第3の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システム20は、予測式定数DB作成装置210と、予測式定数DB220と、ワークロール摩耗量予測装置230と、から構成される。
予測式定数DB作成装置210は、予測式定数DB220を作成する。ここで、予測式定数DB220とは、ワークロール摩耗量予測装置230がワークロール摩耗量の予測計算に用いる上記(18)式に示す予測式における定数aと、ワークロールの製造方法と、が関連付けられて登録されているデータベース(DB)である。
予測式定数DB作成装置210は、その機能として、予測式定数算出部211と、予測式定数登録部212と、を有する。
予測式定数DB作成装置210には、1本のワークロールによって複数(N本)の圧延材に対する圧延が実行された後、そのワークロールが交換されるタイミングで、これらN本の圧延材についての圧延操業実績データ、N本の圧延材についての圧延条件についての情報、及び取り外されたワークロール摩耗量の実測値(実績値)についての情報が、入力される。予測式定数算出部211は、これらの情報に基づいて、そのワークロールに対応する、予測式における定数aを算出する。
具体的には、予測式定数算出部211は、N本の圧延材についての圧延操業実績データ、及びN本の圧延材についての圧延条件についての情報に基づいて、上記(20)式に示す予測式に含まれる定数a以外のパラメータ(具体的には、圧延荷重Pi、板幅bi、圧延後板長さLi、ロール直径D、先進率fsi及び後進率fbi)を抽出、及び算出する。そして、予測式定数算出部211は、上記(20)式に示す予測式にこれらのパラメータを当てはめ、その解がワークロール摩耗量の実績値と一致するような、定数aの値を算出する。このようにして算出された定数aは、ワークロール摩耗量の実績値に基づくものであるから、対象としているワークロールの摩耗量についての上記(20)式に示す予測式における定数aの値として、より実態に即したものであると言える。
予測式定数算出部211は、算出した定数aの値を、予測式定数登録部212に提供する。
予測式定数DB作成装置210には、対象としているワークロールの製造方法についての情報も入力されている。予測式定数登録部212は、予測式定数算出部211によって算出された定数aの値を、そのワークロールの製造方法と関連付けて、予測式定数DB220に登録する。
予測式定数DB220は、例えばHDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス又は光磁気記憶デバイス等により構成される。予測式定数DB220には、上記(20)式に示す予測式における定数aの値(すなわち、上記(18)式に示す予測式における定数aの値)と、ワークロールの製造方法とが関連付けられて記憶されている。
ワークロール摩耗量予測装置230は、第1の実施形態に係るワークロール摩耗量予測装置と同様に、上記(18)式に示す予測式を用いて、圧延材1本あたりのワークロール摩耗量を予測計算する。この際、第1の実施形態とは異なり、第3の実施形態では、ワークロール摩耗量予測装置230は、予測式定数DB220を参照し、摩耗量の予測計算の対象としているワークロールの製造方法に対応する定数aを、当該予測式定数DB220から取得する。そして、ワークロール摩耗量予測装置230は、その予測式定数DB220から取得した定数aの値を用いて、上記(18)式に示す予測式に従って、当該ワークロールについての摩耗量の予測計算を行う。
以上、第3の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システム20の構成について説明した。以上説明したように、第3の実施形態では、第1の実施形態と同様に、ワークロール摩耗量予測装置230が、前圧延材についての圧延におけるワークロールの摩耗量の予測計算を、上記(18)式に示す予測式を用いて行う。従って、第1の実施形態と同様に、従来法に比べてより高精度にワークロールの摩耗量を予測することが可能になる。ただし、この際、第3の実施形態では、予測式定数DB作成装置210によって、上記(20)式に示す予測式における定数aの値と、ワークロールの製造方法とが関連付けられて登録されている予測式定数DB220が作成される。そして、ワークロール摩耗量予測装置230は、当該予測式定数DB220から取得される、摩耗量の予測計算を行う対象としているワークロールの製造方法に対応する定数aの値を用いて、上記数式(18)に示す予測式に従って、ワークロール摩耗量の予測計算を行う。このように、第3の実施形態によれば、摩耗量の実績値に基づいて算出された、より実態に即した定数aの値を用いて、ワークロール摩耗量の予測計算が行われるため、第1の実施形態に比べて、ワークロール摩耗量の予測精度を、更に向上させることが可能となる。
ここで、以上説明したように、予測式定数DB220においては、定数aの値とワークロールの製造方法とが関連付けられて登録されているが、ワークロールの製造方法には、ワークロールの組成や、その製造工程等、多様な事項が含まれるため、定数aの値と、これら多様な事項とを全て関連付けて登録すると、予測式定数DB220の構成が複雑なものとなり、製造方法に対応する定数aの値を検索する処理も煩雑になることが懸念される。従って、実用上は、予測式定数DB220では、定数aの値と、ワークロールのメーカー名と、当該メーカーが規定しているワークロールの型番と、が関連付けられて登録されていてもよい。メーカーごとに、或いは、メーカーは同一であっても型番ごとに、ワークロールの製造方法は異なると考えられるため、このように、定数aの値、メーカー名、及び型番を互いに関連付けて予測式定数DB220を構成することにより、当該予測式定数DB220の構成をより簡易なものとすることができる。従って、製造方法に対応する定数aの値を検索する際も、簡便に当該定数aの値を検索することが可能となり、有用である。
なお、ワークロール摩耗量予測システム20を構成する予測式定数DB作成装置210及びワークロール摩耗量予測装置230は、それぞれ、以上説明した処理を実行可能に構成されればよく、その具体的な構成は任意であってよい。これらの装置は、例えばCPUやDSP等のプロセッサ、又はこれらのプロセッサとメモリ等の記憶素子がともに搭載された制御基板等であり得る。或いは、これらの装置は、例えばPC等の汎用的な情報処理装置であってもよい。また、これらの装置は、1台の装置でなくてもよく、複数の装置の協働によってそれぞれ実現されてもよい。これらの装置を構成するプロセッサが所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより、上記の各機能が実現され、以上説明した各処理が実行され得る。
また、ワークロール摩耗量予測システム20の各装置の機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、PC等の情報処理装置に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。当該記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク又はフラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
(3−3.ワークロール摩耗量予測方法の処理手順)
図7を参照して、第3の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法の処理手順について説明する。図7は、第3の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法の処理手順の一例を示すフロー図である。なお、図7に示す各処理は、図6に示す予測式定数DB作成装置210及びワークロール摩耗量予測装置230によって実行される各処理に対応しており、これらの装置のプロセッサが所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより、図7に示す各処理が実行され得る。図7に示す各処理の詳細については、これらの装置の機能について説明する際に既に上述しているため、以下のワークロール摩耗量予測方法の処理手順についての説明では、各処理の概要を述べるに留め、その詳細な説明は省略する。
図7を参照すると、第3の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法では、まず、N本の圧延材についての圧延操業実績データ、N本の圧延材についての圧延条件、及びN本の圧延材についてのワークロール摩耗量の実績値に基づいて、対象とするワークロールに対応する、予測式における定数aが算出される(ステップS201)。ステップS201における処理は、図6に示す予測式定数DB作成装置210の予測式定数算出部211が実行する処理に対応している。
次に、算出された定数aの値が、対象とするワークロールの製造方法と関連付けられて、予測式定数DB220に登録される(ステップS203)。ステップS203における処理は、図6に示す予測式定数DB作成装置210の予測式定数登録部212が実行する処理に対応している。
次に、予測式定数DB220から取得される、摩耗量の予測計算の対象としているワークロールの製造方法に対応する定数aの値を用いて、当該ワークロールの摩耗量が予測計算される(ステップS205)。ステップS205では、定数aとして、予測式定数DB220から取得された定数aの値を用いて、上記(18)式に示す予測式に従って、ワークロール摩耗量が予測計算される。ステップS205における処理は、図6に示すワークロール摩耗量予測装置230が実行する処理に対応している。
以上、第3の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法の処理手順について説明した。
(4.第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態について説明する。
(4−1.ワークロール摩耗量予測システムの構成)
図8を参照して、第4の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システムの構成について説明する。図8は、第4の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システムの構成の一例を示すブロック図である。
図8を参照すると、第4の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システム30は、予測式定数DB作成装置210と、予測式定数DB220と、ワークロール摩耗量予測装置110と、セットアップ計算装置120と、熱延ライン130と、から構成される。このように、ワークロール摩耗量予測システム30は、第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システム10と第3の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システム20とが組み合わされたものに対応する。これらの各ブロックの構成及び機能については、第2の実施形態及び第3の実施形態において既に説明しているため、ここではその詳細な説明を省略する。
ワークロール摩耗量予測システム30では、熱延ライン130から、1本のワークロールによって複数の(N本の)圧延材についての圧延が行われた後、当該ワークロールが交換されるタイミングで、これらN本の圧延材についての圧延操業実績データが、予測式定数DB作成装置210に送信される。予測式定数DB作成装置210は、第3の実施形態と同様に、このN本の圧延材についての圧延操業実績データと、別途入力されるN本の圧延材の圧延条件についての情報、及び取り外されたワークロールの摩耗量の実績値についての情報に基づいて、予測式定数DB220を作成する。
また、熱延ライン130から、1本の圧延材についての圧延が終了するごとに、その圧延材(前圧延材)についての圧延操業実績データが、ワークロール摩耗量予測装置110に送信される。ワークロール摩耗量予測装置110は、第2の実施形態と同様に、この前圧延材についての圧延操業実績データを用いて、圧延距離に応じた当該前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値を算出する。そして、ワークロール摩耗量予測装置110は、この算出した圧延荷重の実績値の平均値を、予測式における圧延荷重Pとして用いて、上記(18)式に示す予測式に従って、前圧延材についての圧延が終わった段階での、ワークロール摩耗量を予測計算する。
このとき、第4の実施形態では、第2の実施形態とは異なり、ワークロール摩耗量予測装置110のワークロール摩耗量予測部112は、摩耗量の予測計算の対象としているワークロールの製造方法に対応する定数aの値を予測式定数DB220から取得し、この取得した定数aの値を、予測式における定数aとして用いて、上記(18)式に示す予測式に従って、前圧延材についての圧延が終わった段階での、ワークロール摩耗量を予測計算する。
以上、第4の実施形態に係るワークロール摩耗量予測システム30の構成について説明した。以上説明したように、第4の実施形態では、予測式における圧延荷重Pとして、圧延距離に応じた当該前圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値が用いられ、予測式における定数aの値として、摩耗量の予測計算の対象としているワークロールの製造方法に対応する定数aの値が用いられる。従って、第1〜第3の実施形態を組み合わせた効果を得ることができ、ワークロール摩耗量の予測計算の精度を、第1〜第3の実施形態に比べて、より一層向上させることが可能となる。
(1)摩耗量予測値の精度の評価
第1の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法の効果について確認するために、従来技術(特許文献1)において開示されている予測式と第1の実施形態に係る予測式とをそれぞれ用いて摩耗量を算出した場合に、実測値にどれ程近いか、また実測値と算出値との差のばらつきについての評価を行った。ここで、製造方法の違いによる影響が生じないように、上記の各摩耗量の予測計算においては、評価対象とするワークロールとしては、同一のメーカーによって同一の製造方法で製造されたNi−Grロールを使用した。また、予測式における圧延荷重Pとしては、一般的にセットアップ計算や学習計算に用いられる、圧延材先端部での値を使用した。
具体的には、各予測式により得られた予測値と、7スタンドを有する連続熱間圧延機列の最終スタンドにおいて、ワークロール組み換え圧延本数を40〜100本とした場合における実測値との比較をそれぞれ行った。その結果を図9及び図10に示す。図9は、従来技術(特許文献1)において開示されている予測式を用いたワークロール摩耗量の予測結果(予測値)と、ワークロール摩耗量の実測値との比較結果を示すグラフ図である。図10は、第1の実施形態に係る予測式を用いたワークロール摩耗量の予測結果(予測値)と、ワークロール摩耗量の実測値との比較結果を示すグラフ図である。
なお、図9に示す予測結果(従来技術)を導くにあたり、圧延材1本あたりのワークロール摩耗量ΔWは、特許文献1に開示されているように、各圧延パスにおける、圧延荷重P、板幅b、圧下率r、圧延後板長さL、ロール直径D、及びワークロール胴長方向位置における板幅に依存したパラメータδ(z)を考慮して、下記(22)式から算出した。なお、下記(22)式中、aは比例定数である。
また、図10に示す予測結果(第1の実施形態)を導くにあたり、圧延材1本あたりのワークロール摩耗量ΔWは、各圧延パスにおける、定数a、圧延荷重P、板幅b、圧延後板長さL、及びロール直径D、べき乗数α、β(いずれも2)、及びワークロール胴長方向位置における板幅に依存したパラメータδ(z)を考慮して、下記(23)、(24)式から算出した。
なお、従来技術に係る予測式である上記(22)式と第1の実施形態に係る予測式である上記(23)式とにおける、ワークロール1本あたりの摩耗量は、ロール半径あたりの量として比較した。
これに対し、実測値については、上記圧延本数終了後に、24時間以上放置し、ロール熱膨張量が十分に冷却されてから、ロール直径を測定し、初期のロール直径との差を実測値とした。
図9及び図10から明らかなように、従来技術に係る予測式を用いた場合には誤差率の標準偏差が9.83(%)であるのに対して、第1の実施形態に係る予測式を用いた場合には誤差率の標準偏差が4.22(%)であり、第1の実施形態に係る予測式を用いた場合における上記標準偏差が従来技術に係る予測式を用いた場合における上記標準偏差の1/2未満になっていることが確認された。
このように、第1の実施形態の予測式を用いた場合には、従来の予測式を用いた場合に比して、ワークロールの摩耗量予測を極めて高精度に行うことができることが確認できた。従って、ひいては、第1の実施形態の予測式を用いることにより、圧延操業時の通板トラブルの大幅な減少が期待される。
(2)板クラウンC25及び板形状(急峻度(伸歪差))の評価
従来技術(特許文献1)において開示されている予測式と、第1の実施形態に係る予測式とをそれぞれ用いて、板クラウンC25及び板形状(急峻度)を予測し、実測値との比較評価を行った。なお、これらの予測式は、従来技術及び第1の実施形態のいずれについても、上記(1)摩耗量予測値の精度の評価で用いた予測式と同一である(上記(22)〜(24)式参照)。なお、製造方法の違いによる影響が生じないように、上記の板クラウンC25及び板形状(急峻度)の予測においては、ワークロールとしては、同一のメーカーによって同一の製造方法で製造されたNi−Grロールを使用した。また、予測式における圧延荷重Pとしては、一般的にセットアップ計算や学習計算に用いられる、圧延材先端部での値を使用した。
ここで、板クラウンC25とは、圧延後の板における、幅方向中心位置での厚みと、幅方向端位置から幅方向に25mm離れた位置での厚みと、の差(mm)である。また、急峻度λとは、図11に示すように、圧延後の圧延材301の長手方向側面視での外形を波形に見たてた場合における、波高さδと波ピッチlとの比であり、下記数式(25)で表現される。ここで、図11は、急峻度λについて説明するための図である。図11では、水平な定盤303上に載置された圧延後の圧延材301の長手方向側面視での外形を概略的に示している。図中のx軸方向は圧延材301の長手方向であり、y軸方向は高さ方向である。また、y軸は、圧延材301の長手方向側面視での外形を波形に見たてた場合における高さ方向の中心(振幅の基点となる位置)をゼロとしている。
なお、板形状を表す指標としては、急峻度λ以外に、伸歪差ΔεSも広く用いられている。図12を参照して、伸歪差ΔεSについて説明する。図12は、伸歪差ΔεSについて説明するための図である。図12では、圧延後の圧延材301を上方から見た様子を図示している。圧延材301が中伸び形状である場合には、図12の左図に示すように、上方から見た場合に、圧延材301の幅方向中央部に波形状が存在することとなる。この状態で、長手方向にスリットすると、図12の右図に示すように、圧延材301の幅方向中央部の長手方向の長さが、他の部位よりもΔlだけ長くなる。このとき、伸歪差ΔεSは、下記数式(26)で表される。ここで、lは、波形状が存在する圧延材301全体の長手方向の長さであり、Δlは、その長さlに対応する領域でのスリット状態で存在する増分長さである。
ここで、急峻度λと伸歪差ΔεSは、換算可能である。具体的には、上記図11に示す圧延材301の波形状は、下記数式(27)に示すように、正弦波として表現することができる。
上記数式(27)から、Δlを計算することができる。従って、伸歪差ΔεSと急峻度λとの関係は、下記数式(28)で表わされる。
本実施例では、例えば図13で示した板幅の変動が大きい板厚、板幅スケジュールを有する連続熱間圧延機列における圧延操業において、第1の実施形態と従来技術との違いについて検討した。図13は、本実施例において板クラウンC25及び板形状(急峻度)の評価に用いた、連続熱間圧延機列における圧延操業での板厚、板幅スケジュールを示す図である。具体的には、図13に示す板厚、板幅スケジュールを有する圧延操業に対して、従来技術の予測式と第1の実施形態の予測式とをそれぞれ用いて、板クラウンC25及び板形状(急峻度)を予測した。一方、板クラウン形状(板クラウンC25及び急峻度)の実測は、最終スタンドの出側に設置した板クラウン形状計を用いて行った。圧延材1本ごとの、板クラウンC25(mm)及び急峻度(%)に関する比較結果(従来技術に係る予測式を適用した予測結果、第1の実施形態に係る予測式を適用した予測結果、及び実測値)を、図14及び図15にそれぞれ示す。図14は、板クラウンC25に関する、従来技術に係る予測式を適用した予測結果、第1の実施形態に係る予測式を適用した予測結果、及び実測値の比較結果を示す図である。図15は、急峻度に関する、従来技術に係る予測式を適用した予測結果、第1の実施形態に係る予測式を適用した予測結果、及び実測値の比較結果を示す図である。なお、図15では、急峻度を伸歪差に換算した値も併せて示している。
図14及び図15を参照すると、第1の実施形態に係る予測式を適用した場合における板クラウンC25及び急峻度の予測値は、いずれも、従来技術に係る予測式を適用した場合に比べて極めて実測値に近い値となっていることが分かる。具体的には、板クラウンC25について、従来技術に係る予測式を適用した場合における予測値と実測値との誤差の標準偏差は9.9μmであったのに対して、第1の実施形態に係る予測式を適用した場合における予測値と実測値との誤差の標準偏差は6.3μmであり、第1の実施形態に係る予測式を適用することにより、予測誤差が小さくなっていることが確認できた。同様に、板形状の伸歪差について、従来技術に係る予測式を適用した場合における予測値と実測値との誤差の標準偏差は0.000495であったのに対して、第1の実施形態に係る予測式を適用した場合における予測値と実測値との誤差の標準偏差は0.000283であり、第1の実施形態に係る予測式を適用することにより、予測誤差が小さくなっていることが確認できた。
更に、連続熱間圧延機列において、第1の実施形態に係る予測式を適用して板クラウン制御を行いつつ、18000本の圧延材について、板クラウンC25の精度を評価した。同様に、連続熱間圧延機列において、従来技術に係る予測式を適用して板クラウン制御を行いつつ、18000本の圧延材について、板クラウンC25の精度を評価した。
その結果、従来の予測式を適用した場合は、板クラウン不合(板クラウン精度が未達成(ここでは、0μm以下または50μm以上))の板が20本であったのに対し、第1の実施形態に係る予測式を適用した場合は、板クラウン不合の板が2本であった。また、板の先端形状に起因するトラブルは、従来技術の予測式を用いた場合には5本の板に見られたのに対し、第1の実施形態に係る予測式を用いた場合には全く見られなかった。
当該結果から、第1の実施形態に係る予測式を適用して板クラウン制御を行うことにより、板クラウン形状を所望の形状により精度良く制御することができ、その結果、操業トラブルも低減され得ることが確認できた。
(1)摩耗量予測値の精度の評価
第2の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法の効果について確認するために、従来技術(特許文献1)において開示されている予測式と第2の実施形態に係る予測式とをそれぞれ用いて摩耗量を算出した場合に、実測値にどれ程近いか、また実測値と算出値との差のばらつきについての評価を行った。従来技術に係る予測式としては、上記(22)式を用いた。第2の実施形態に係る予測式としては、上記(23)、(24)式を用いた。なお、従来技術に係る予測式を用いる場合には、予測式における圧延荷重Pとしては、一般的にセットアップ計算や学習計算に用いられる、圧延材先端部での値を使用した。また、第2の実施形態に係る予測式を用いる場合には、予測式における圧延荷重Pとしては、圧延距離に応じた圧延材の長手方向における圧延荷重の実績値の平均値を使用した。なお、製造方法の違いによる影響が生じないように、上記の各摩耗量の予測計算においては、評価対象とするワークロールとしては、同一のメーカーによって同一の製造方法で製造されたNi−Grロールを使用した。
上記実施例1と同様に、各予測式により得られた算出値と、7スタンドを有する熱間連続圧延機列の最終スタンドにおいて、ワークロール組み換え圧延本数を40〜100本とした場合における実測値との比較をそれぞれ行った。その結果を図16に示す。図16は、第2の実施形態に係る予測式を用いたワークロール摩耗量の予測結果(予測値)と、ワークロール摩耗量の実測値との比較結果を示すグラフ図である。なお、従来技術に係る予測式を用いた場合における予測結果は、図9に示すものと同様である。
図16に示すように、第2の実施形態に係る予測式を用いた場合には、誤差率の標準偏差が2.41(%)となった。図9に示すように、従来技術に係る予測式を用いた場合における誤差率の標準偏差は9.83(%)であったから、第2の実施形態に係る予測式を用いることにより、誤差率の標準偏差が約1/4にまで低減され得ることが確認された。また、上記実施例1における結果と比較すると、第2の実施形態に係る予測式を用いることにより、第1の実施形態に係る予測式を用いた場合よりも、誤差率の標準偏差は提言しており、ワークロール摩耗量の予測精度が向上していることが分かる。
(2)板クラウンC25及び板形状(急峻度)の評価
従来技術(特許文献1)において開示されている予測式と、第2の実施形態に係る予測式とをそれぞれ用いて、板クラウンC25及び板形状(急峻度)を予測し、実測値との比較評価を行った。なお、これらの予測式は、従来技術及び第2の実施形態のいずれについても、上記(1)摩耗量予測値の精度の評価で用いた予測式と同一である。
上記実施例1と同様に、図13に示す板厚、板幅スケジュールを有する圧延操業に対して、従来技術に係る予測式と第2の実施形態に係る予測式とをそれぞれ用いて、板クラウンC25及び板形状(急峻度)を予測し、実測値と比較した。圧延材1本ごとの、板クラウンC25(mm)及び急峻度(%)に関する比較結果(従来技術に係る予測式を適用した予測結果、第2の実施形態に係る予測式を適用した予測結果、及び実測値)を、図17及び図18にそれぞれ示す。図17は、板クラウンC25に関する、従来技術に係る予測式を適用した予測結果、第2の実施形態に係る予測式を適用した予測結果、及び実測値の比較結果を示す図である。図18は、急峻度に関する、従来技術に係る予測式を適用した予測結果、第2の実施形態に係る予測式を適用した予測結果、及び実測値の比較結果を示す図である。なお、図18では、急峻度を伸歪差に換算した値も併せて示している。
図17及び図18を参照すると、第2の実施形態に係る予測式を適用した場合における板クラウンC25及び急峻度の予測値は、いずれも、従来技術に係る予測式を適用した場合に比べて極めて実測値に近い値となっていることが分かる。具体的には、板クラウンC25について、従来技術に係る予測式を適用した場合における予測値と実測値との誤差の標準偏差は9.9μmであったのに対して、第2の実施形態に係る予測式を適用した場合における予測値と実測値との誤差の標準偏差は5.1μmであり、第2の実施形態に係る予測式を適用することにより、予測誤差が小さくなっていることが確認できる。なお、上記実施例1で述べたように、第1の実施形態に係る予測式を適用した場合における板クラウンC25の予測値と実測値との誤差の標準偏差は6.3μmであったから、第2の実施形態に係る予測式を用いることにより、第1の実施形態に係る予測式を用いた場合よりも、板クラウンC25の予測精度が向上していることが分かる。
同様に、板形状の伸歪差について、従来技術に係る予測式を適用した場合における予測値と実測値との誤差の標準偏差は0.000495であったのに対して、第2の実施形態に係る予測式を適用した場合における予測値と実測値との誤差の標準偏差は0.000208であり、第2の実施形態に係る予測式を適用することにより、予測誤差が小さくなっていることが確認できた。なお、上記実施例1で述べたように、第1の実施形態に係る予測式を適用した場合における板クラウンC25の予測値と実測値との誤差の標準偏差は0.000283であったから、第2の実施形態に係る予測式を用いることにより、第1の実施形態に係る予測式を用いた場合よりも、伸歪差(急峻度)の予測精度が向上していることが分かる。
上述したように、連続熱間圧延機列の後段でワークロールとして使用されるNi−Grロールは、ロール種別としては1種類に分類されるが、昨今、ワークロール摩耗量の低減のために、Ni−Grロールについては、様々な製造方法が開発されている(例えば、特許文献2、3)。このことを踏まえて、本発明者らは、第3及び第4の実施形態に係るワークロール摩耗量予測方法の効果について確認するために、以下の実験を行った。
当該実験では、互いに異なるメーカー(メーカーX、メーカーY及びメーカーZ)によって製造された3種類のNi−Grロールを用意した。すなわち、これらは、互いに異なる製造方法によって製造されたNi−Grロールである。そして、これら3種類のNi−Grロールをワークロールとして用いてN本の圧延材について熱間圧延を行い、その圧延後におけるワークロール摩耗量を、第2の実施形態に係る予測方法と第4の実施形態に係る予測方法とをそれぞれ用いて、予測計算した。更に、N本の圧延が終了後、交換のために取り外されたワークロールの摩耗量を実測し、予測値と実績値との比較を行った。この際、第2の実施形態に係る予測方法では、メーカーXによって製造されたワークロールを基準として予測式における定数aの値を設定し、その定数aの値を、メーカーY、Zによってそれぞれ製造されたワークロールに対してもそのまま適用した。一方、第4の実施形態に係る予測方法では、メーカーX、Y、Zによって製造されたワークロールに対して、それぞれ、その各製造方法に対応する定数aを設定し、予測計算を行った。
比較結果を表1に示す。表1では、ワークロール摩耗量の実測値と予測値との誤差率の標準偏差を示している。なお、第2の実施形態に係る予測方法を用いた場合における結果では、メーカーX、Y、Zによってそれぞれ製造されたワークロールを用いた一連の圧延に対する誤差率の標準偏差を、一括して計算している。
表1に示すように、第2の実施形態に係る予測方法を用いた場合(すなわち、メーカーXのワークロールを基準として設定された定数aの値を、全てのワークロールに対して適用した場合)には、ワークロール摩耗量の実測値と予測値との誤差率の標準偏差は6.21(%)であった。これに対して、第4の実施形態に係る予測方法を用いた場合(すなわち、メーカー(製造方法)ごとに定数aの値を個別に設定した場合)には、当該誤差率の標準偏差は2.33(%)〜2.56(%)となった。このように、各ワークロールに対して共通の定数aの値を用いた場合には、各ワークロールに対して個別の定数aの値を用いた場合に比べて、当該誤差率の標準偏差が大幅に悪化することが分かった。また、各ワークロールに対して個別の定数aの値を用いた場合には、いずれのメーカーのワークロールについても、その誤差率の標準偏差はほぼ同等の値になることも判明した。
更に、上記の予測計算におけるワークロールごとの定数aの値を、下記表2にまとめる。なお、表2では、メーカーXのワークロールに対応する定数aの値を1とした場合の割合として、メーカーY、Zのワークロールに対応する定数aの値を記載している。
表2に示すように、各ワークロールに対して個別の定数aの値を設定した場合には、メーカーY、Zによって製造されたワークロールに対応する定数aの値は、メーカーXによって製造されたワークロールに対応する定数aの値に比べて、それぞれ、0.85倍、0.75倍になった。これは、メーカーY、Zによって製造されたワークロールでは、メーカーXによって製造されたワークロールに比べて、摩耗量が小さいことを示している。
以上説明したように、本実施例における結果から、ロール種別が同一であっても、その化学成分や製造工程によって、同一の条件で圧延を行った場合における摩耗量の絶対値が異なり得ること、及び製造方法の異なるワークロールごとに個別で定数aの値を設定すれば、予測誤差率の標準偏差を同程度に小さくできることが確認できた。つまり、第3及び第4の実施形態のように、予測式における定数aの値を、ワークロールの製造方法ごとに区分して設定することで、ワークロール摩耗量の予測の高精度化が実現可能であることが確認された。