JP3542101B2 - 作業機の走行伝動装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、コンバインなどの作業機の走行伝動装置で、詳しくは、入力軸と出力軸との間に互いに伝動比が異なる複数の伝動系を介装するとともに各伝動系と出力軸との間のそれぞれに各伝動系から出力軸への伝動を断続する湿式多板式の油圧クラッチを介装してなる走行変速装置を設け、前記出力軸に連動する主駆動輪体に左右の走行装置を連動させる直進状態と左右一対の副駆動輪体に走行装置を連動させる操向状態とに切り換え操作自在な左右一対の伝動輪体と、前記副駆動輪体を同期駆動するための操向軸と、前記出力軸から操向軸への伝動系と操向軸との間に介装されて伝動系から操向軸への伝動を断続する湿式多板式の操向用の油圧クラッチとを備えた操向装置を設けてあるものに関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の作業機の走行伝動装置では、出力軸に設けた変速用の油圧クラッチ及び操向軸に設けた操向用の油圧クラッチの焼き付きを防止するために、各油圧クラッチを潤滑する必要がある。
【0003】
そのような油圧クラッチの潤滑を行うに従来では、出力軸に変速用の油圧クラッチに対する潤滑油供給用の油路を形成し、操向軸に操向用の油圧クラッチに対する潤滑油供給用の油路を形成して、油路を介して油圧クラッチに潤滑油を供給するようにしていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の技術によるときは、出力軸及び操向軸に油路形成といった加工が必要であることと、油路形成のために出力軸及び操向軸の強度低下が不可避であって出力軸及び操向軸を径の大きなものにする必要があることとの相乗により、コストアップを招来していた。
【0005】
本発明の目的は、出力軸及び操向軸に対する油路形成を不要にしながらも、油圧クラッチに対する潤滑を行えるようにする点にある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る本第1発明の特徴、作用、効果は次の通りである。
【0007】
〔特徴〕
入力軸と出力軸との間に互いに伝動比が異なる複数の伝動系を介装するとともに各伝動系と出力軸との間のそれぞれに各伝動系から出力軸への伝動を断続する湿式多板式の油圧クラッチを介装してなる走行変速装置を設け、前記出力軸に連動する主駆動輪体に左右の走行装置を連動させる直進状態と左右一対の副駆動輪体に走行装置を連動させる操向状態とに切り換え操作自在な左右一対の伝動輪体と、前記副駆動輪体を同期駆動するための操向軸と、前記出力軸から操向軸への伝動系と操向軸との間に介装されて伝動系から操向軸への伝動を断続する湿式多板式の操向用の油圧クラッチとを備えた操向装置を設けてある作業機の走行伝動装置であって、前記走行変速装置及び操向装置を内装するミッションケースにおける、出力軸に設けた走行変速用の油圧クラッチと操向軸に設けた操向用の油圧クラッチのうちの下端が高い位置にある油圧クラッチの下端よりも上方の位置に、潤滑油の給油液面高さを定める検油口を形成し、前記出力軸と操向軸を前記検油口によって定められる前記給油液面高さ近傍位置に配置してある点にある。
【0008】
〔作用〕
本第1発明によるときは、走行変速装置と操向装置とを内装するミッションケースをオイルバスとして、ミッションケース内に貯留の潤滑油に油圧クラッチを浸漬させて油圧クラッチを潤滑するのであるが、油圧クラッチを装着した出力軸と操向軸とを検油口によって定められる潤滑油の給油液面高さ近傍位置に配置することにより、例えば出力軸と操向軸とを上下に大きく離れて配置する場合に比較して、貯留潤滑油の液面高さを低くするようにしてあるから、変速用及び操向用の油圧クラッチをともに確実に貯留潤滑油に浸漬させてそれらの潤滑を確実に行いながらも、また、出力軸及び操向軸に潤滑油供給の油路を形成することなく油圧クラッチの潤滑を行いながらも、貯留潤滑油量を少なくすることができる。換言すれば、潤滑油貯留に起因したミッションケースの重量増加を極力抑制することができる。
【0009】
そして、油圧クラッチの下端よりも上方に検油口を設けてあるから、検油口を開けた状態でミッションケース内への潤滑油の供給を行い、検油口から潤滑油が流れ出したときにその潤滑油の供給を停止することにより、油圧クラッチのうち少なくとも下端を供給された貯留潤滑油に浸漬させることができる。
【0010】
〔効果〕
従って、本第1発明によれば、出力軸及び操向軸に対する油路形成に起因したコストアップを回避し、かつ、潤滑のための重量増加を抑えた状態で変速用及び操向用の油圧クラッチをともに確実に潤滑して、油圧クラッチの焼き付きを防止できるようになった。
【0011】
又、過不足なく潤滑油をミッションケースに供給して、過重や潤滑不良を招来することなく、確実に油圧クラッチを潤滑することができるようになった。
【0012】
請求項2に係る本第2発明の特徴、作用、効果は次の通りである。
【0013】
〔特徴〕
上記本第1発明の特徴において、出力軸を制動するための湿式多板式のブレーキを出力軸に装着してある点にある。
【0014】
〔作用〕
本第2発明によるときは、油圧クラッチと同様に、焼き付き防止のために潤滑する必要がある湿式多板式のブレーキを出力軸に設けてあるから、油圧クラッチと同様に、ブレーキをミッションケース内の貯留潤滑油に浸漬させて潤滑することができる。
【0015】
〔効果〕
従って、本第2発明によれば、出力軸に潤滑油の供給路を形成することなく、ローコストでブレーキの焼き付きも防止できるようになった。
【0016】
【発明の実施の形態】
作業機の一例であるコンバインは、図1に示すように、左右一対のクローラ式の走行装置1L,1Rを備えた機体フレーム2の前部に、植立穀稈を刈り取って後方に搬送する刈取部3を昇降操作自在に連結し、前記機体フレーム2に、刈取部3からの刈取穀稈を脱穀処理する脱穀装置4と搭乗運転部5とを搭載して構成されている。
【0017】
前記機体フレーム2に搭載したエンジンから走行装置1L,1Rへの伝動系には、図2に示すように、主変速装置である前後進切り換え自在な静油圧式の無段変速装置7と、副変速装置である三段切り換え式の走行変速装置8と、操向装置9とがその記載順に介装されている。
【0018】
前記無段変速装置7は、走行装置1L,1Rそれぞれの車軸10L,10Rを支承するミッションケース11に、その出力軸7Aを挿入させる状態で取り付けられている。
【0019】
前記走行変速装置8と操向装置9とは、走行伝動装置として前記ミッションケース11に内装されている。
【0020】
前記ミッションケース11には、前記無段変速装置7の出力軸7Aからギヤ12,13対を介して動力が伝達される中間伝動軸14がその一端を外部に突出させる状態で支承されており、この中間伝動軸14の外端部には、前記刈取部3に動力を伝達するための刈取出力プーリ15が装着されており、中間伝動軸14と刈取出力プーリ15との間には、中間伝動軸14の前進回転のみを刈取出力プーリ15に伝達する一方向クラッチ16が介装されている。
【0021】
前記走行変速装置8の入力軸8Aには、前記中間伝動軸14の動力がギヤ17,18対を介して伝達されるようになっており、入力軸8Aと出力軸8Bとの間には、低速伝動用の伝動系と、中速伝動用の伝動系と、高速伝動用の伝動系との互いに伝動比が異なる三つの伝動系が構成されて、各伝動系を択一使用することにより、三段変速を行うようになっている。
【0022】
前記低速伝動用の伝動系は、前記入力軸8Aに第1伝動ギヤG1をこの入力軸8Aと一体に回転する状態に装着し、前記出力軸8Bにこの第1伝動ギヤG1に噛み合い連動する第1受動ギヤg1を出力軸8Bに対して回転自在な状態に装着し、この第1受動ギヤg1と出力軸8Bとの間に、第1受動ギヤg1から出力軸8Bへの伝動を断続する第1の湿式多板式の油圧クラッチC1を設けて構成されている。
【0023】
前記中速伝動用の伝動系は、前記入力軸8Aに第2伝動ギヤG2をこの入力軸8Aと一体に回転する状態に装着し、前記出力軸8Bにこの第2伝動ギヤG2に噛み合い連動する第2受動ギヤg2を出力軸8Bに対して回転自在な状態に装着し、この第2受動ギヤg2と出力軸8Bとの間に、第2受動ギヤg2から出力軸8Bへの伝動を断続する第2の湿式多板式の油圧クラッチC2を設けて構成されている。
【0024】
前記高速伝動用の伝動系は、前記入力軸8Aに第3伝動ギヤG3をこの入力軸8Aと一体に回転する状態に装着し、前記出力軸8Bにこの第3伝動ギヤG3に噛み合い連動する第3受動ギヤg3を出力軸8Bに対して回転自在な状態に装着し、この第3受動ギヤg3と出力軸8Bとの間に、第3受動ギヤg3から出力軸8Bへの伝動を断続する第3の湿式多板式の油圧クラッチC3を設けて構成されている。
【0025】
前記第1の油圧クラッチC1は、図3に詳しく示すように、圧油供給に伴いクラッチ入り作動するための第1油室r1と、圧油供給に伴いクラッチ切り作動するための第2油室r2と、第1油室r1及び第2油室r2からの排油に伴いクラッチ入り作動するためのバネNBとを備えたクラッチである。詳述すれば、第1油室r1への圧油供給及び第2油室r2からの排油に伴い伝動を行うクラッチ入り状態に切り換わるとともに、第2油室r2への圧油供給及び第1油室r1からの排油に伴い伝動を断つクラッチ切り状態にバネNBによる付勢力に抗して切り換わり、かつ、第1油室r1及び第2油室r2からの排油に伴いバネNBによる付勢力でクラッチ入り状態に切り換わるネガティブ複動型油圧クラッチNCである。
前記バネNBは、第1油室r1内に配設されている。
【0026】
前記第2及び第3の油圧クラッチC2,C3は、油室rへの圧油供給に伴い伝動を行うクラッチ入り状態にバネPBによる付勢力に抗して切り換わるとともに油室rからの排油に伴い伝動を断つクラッチ切り状態に前記バネPBによる付勢力で切り換わるポジティブ油圧クラッチPCである。
【0027】
そして、この走行変速装置8は、
〈1〉第1の油圧クラッチC1の第2油室r2から排油する一方第1油室r1に圧油を供給してこの第1の油圧クラッチC1をクラッチ入り状態に切り換えるとともに、第2の油圧クラッチC2から排油してこの第2の油圧クラッチC2をクラッチ切り状態に切り換え、かつ、第3の油圧クラッチC3から排油してこの第3の油圧クラッチC3をクラッチ切り状態に切り換えることにより、低速伝動用の伝動系のみを伝動状態に切り換えての低速伝動状態となり、
〈2〉第1の油圧クラッチC1の第2油室r2に圧油を供給する一方第1油室r1から排油してこの第1の油圧クラッチC1をクラッチ切り状態に切り換えるとともに、第2の油圧クラッチC2に圧油を供給してこの第2の油圧クラッチC2をクラッチ入り状態に切り換え、かつ、第3の油圧クラッチC3から排油してこの第3の油圧クラッチC3をクラッチ切り状態に切り換えることにより、中速伝動用の伝動系のみを伝動状態に切り換えての中速伝動状態となり、
〈3〉第1の油圧クラッチC1の第2油室r2に圧油を供給する一方第1油室r1から排油してこの第1の油圧クラッチC1をクラッチ切り状態に切り換えるとともに、第2の油圧クラッチC2から排油してこの第2の油圧クラッチC2をクラッチ切り状態に切り換え、かつ、第3の油圧クラッチC3に圧油を供給してこの第3の油圧クラッチC3をクラッチ入り状態に切り換えることにより、高速伝動用の伝動系のみを伝動状態に切り換えての高速伝動状態となり、
〈4〉第1の油圧クラッチC1の第2油室r2に圧油を供給する一方第1油室r1から排油してこの第1の油圧クラッチC1をクラッチ切り状態に切り換えるとともに、第2の油圧クラッチC2から排油してこの第2の油圧クラッチC2をクラッチ切り状態に切り換え、かつ、第3の油圧クラッチC3から排油してこの第3の油圧クラッチC3をクラッチ切り状態に切り換えることにより、伝動系の全部を非伝動状態に切り換えての非伝動状態(中立状態)となる
のである。
【0028】
従って、この走行変速装置8によるきは、高速伝動状態・中速伝動状態・低速伝動状態・中立状態のいずれにおいても、エンジン6にて駆動される油圧クラッチC1,C2,C3に対する油圧ポンプPがエンジン6の停止により圧油を供給しない作動停止状態になったとき、第2や第3の油圧クラッチC2,C3はその圧油供給の停止に伴う排油により、クラッチ切り状態になったり、クラッチ切り状態に保持されるのでるが、第1の油圧クラッチC1がバネNBの付勢力でクラッチ入り状態となって、低速伝動状態となるから、エンジン6に対する走行装置1L,1Rの接続が保持される。
【0029】
なお、前記出力軸8Bのうちミッションケース11から突出する端部には、出力軸8Bに制動を掛けて走行装置1L,1Rを停止保持する湿式多板式のブレーキ利用の駐車ブレーキ19が装着されている。
【0030】
前記走行変速装置8の操作手段、つまり、変速操作手段は、図5に示すように、前記油圧ポンプPと、第1の油圧クラッチC1の第1油室r1及び第2油室r2との間の油圧回路La,Lbに、第1油室r1に圧油を供給させる一方第2油室r2から排油させる第1圧油供給状態と第1油室r1から排油させる一方第2油室r2に圧油を供給させる第2圧油供給状態とに切り換え自在な第1の制御弁B1を設け、油圧ポンプPと第2、第3の油圧クラッチC2,C3との間の油圧回路L2,L3のそれぞれに、油圧クラッチC2,C3に圧油を供給する圧油供給状態と油圧クラッチC2,C3から排油させる排油状態とに切り換え自在な第2、第3の制御弁B2,B3を介装し、これら制御弁B1,B2,B3を関連操作する副変速レバー24を設けて構成されている。
前記第2及び第3の油圧クラッチC2,C3に対する第2、第3の制御弁B2,B3は、第2の油圧クラッチC2に圧油を供給する第1状態と、第3の油圧クラッチC3に圧油を供給する第2状態と、両油圧クラッチC2,C3から排油させる排油状態とに切り換え自在な一つの制御弁Bから構成されている。
【0031】
前記副変速レバー24は、揺動範囲一端の中立位置Nに位置することにより、第1の制御弁B1を第2圧油供給状態に切り換えるとともに、制御弁Bを排油状態に切り換えて、前述した中立状態を現出し、中立位置Nの隣の低速位置Lに位置することにより、第1の制御弁B1を第1圧油供給状態に切り換えるとともに、制御弁Bを排油状態に切り換えて、前述した低速伝動状態を現出し、低速位置Lの隣の中速位置Mに位置することにより、第1の制御弁B1を第2圧油供給状態に切り換えるとともに、制御弁Bを第2状態に切り換えて、前述した中速伝動状態を現出し、揺動範囲の他端の高速位置Hに位置することにより、第1の制御弁B1を第2圧油供給状態に切り換えるとともに、制御弁Bを第2状態に切り換えて、前述した高速伝動状態を現出するように制御弁B1及びBに機械的に連係している。
【0032】
従って、中立状態でエンジン6が停止することで油圧ポンプPによる圧油供給が断たれると、第2圧油供給状態にある第1の制御弁B1を通して第1の油圧クラッチC1の第1油室r1及び第2油室r2から排油されて、この第1の油圧クラッチC1がバネNBの付勢力によりクラッチ入り状態となることで走行装置1L,1Rがエンジン6に接続し、低速伝動状態でエンジン6が停止することで油圧ポンプPによる圧油供給が断たれると、第1圧油供給状態にある第1の制御弁B1を通して第1の油圧クラッチC1の第1油室r1及び第2油室r2から排油されて、この第1の油圧クラッチC1がバネNBの付勢力によりクラッチ入り状態となることで走行装置1L,1Rがエンジン6に接続し、中速伝動状態でエンジン6が停止することで油圧ポンプPによる圧油供給が断たれると、第1状態にある制御弁Bを通して第2の油圧クラッチC2から排油されて第2の油圧クラッチC2がクラッチ切り状態になるものの、第2圧油供給状態にある第1の制御弁B1を通して第1の油圧クラッチC1の第1油室r1及び第2油室r2から排油されて、この第1の油圧クラッチC1がバネNBの付勢力によりクラッチ入り状態となることで走行装置1L,1Rのエンジン6への接続が保持され、高速伝動状態でエンジン6が停止することで油圧ポンプPによる圧油供給が断たれると、第2状態にある制御弁Bを通して第3の油圧クラッチC3から排油されて第3の油圧クラッチC3がクラッチ切り状態になるものの、第2圧油供給状態にある第1の制御弁B1を通して第1の油圧クラッチC1の第1油室r1及び第2油室r2から排油されて、この第1の油圧クラッチC1がバネNBの付勢力によりクラッチ入り状態となることで走行装置1L,1Rのエンジン6への接続が保持される。
【0033】
前記操向装置9は、前記ミッションケース11に回転自在に支持させたシフト軸31に、前記走行変速装置8の出力軸8Bと一体回転状態に装着の正転伝動用伝動ギヤ33に噛み合い連動する主駆動輪体の一例であるところの正転伝動用受動ギヤ34と、副駆動輪体の一例であるところの左右一対の操向用受動ギヤ35L,35Rとを回転自在に装着するとともに、前記車軸10L,10Rのそれぞれに一体回転する状態に装着した車軸受動ギヤ36L,36Rに常時噛み合い連動する状態での軸芯方向移動により噛み合い式の直進クラッチ37L,37Rを介して前記正転伝動用受動ギヤ34に連動する第1状態と噛み合い式の操向クラッチ38L,38Rを介して操向用受動ギヤ35L,35Rに連動する第2状態とに切り換え自在な伝動輪体の一例であるところの左右一対のシフトギヤ39L,39Rを回転自在に装着し、前記操向用受動ギヤ35L,35Rを同期して正転伝動用受動ギヤ34と同方向に減速回転させる減速手段と、操向用受動ギヤ35L,35Rを同期して正転伝動用受動ギヤ34とは反対の方向に回転させる逆転手段と、操向用受動ギヤ35L,35Rに同期して制動力を付与する制動手段とを設けて構成されている。
【0034】
前記減速手段は、操向軸であるところの減速逆転制動軸40をミッションケース11に回転自在に支持させ、この減速逆転制動軸40の回転を前記操向用受動ギヤ35L,35Rのそれぞれに等しく減速伝達する操向用伝動ギヤ41L,41Rを減速逆転制動軸40にそれと一体に回転する状態に装着し、前記正転伝動用受動ギヤ34に一体に形成した伝動ギヤ部42に噛み合い連動して正転伝動用受動ギヤ34の回転が減速伝達される正転受動ギヤ43を前記減速逆転制動軸40に回転のみ自在に装着し、この正転受動ギヤ43と減速逆転制動軸40との間に、正転受動ギヤ43から減速逆転制動軸40への伝動を断つクラッチ切り状態にバネを介して作動付勢されていて圧油供給に伴いその付勢力に抗して伝動を行うクラッチ入り状態に切り換わる減速用の湿式多板式の油圧クラッチ45を設けて構成されている。つまり、油圧クラッチ45をクラッチ入り作動させることにより、正転伝動用受動ギヤ34の回転を伝動ギヤ部42・正転受動ギヤ43・減速クラッチ45・減速逆転制動軸40・操向用伝動ギヤ41L,41Rと伝達させて操向用受動ギヤ35L,35Rを同期減速駆動するように構成されている。
【0035】
前記逆転手段は、前記走行変速装置8の出力軸8Bに一体回転状態に装着の逆転伝動用伝動ギヤ46に噛み合い連動する逆転伝動用受動ギヤ47を前記減速逆転制動軸40に回転のみ自在に装着し、この逆転伝動用受動ギヤ47と減速逆転制動軸40との間に、逆転伝動用受動ギヤ47から減速逆転制動軸40への伝動を断つクラッチ切り状態にバネを介して作動付勢されていて圧油供給に伴いその付勢力に抗して伝動を行うクラッチ入り状態に切り換わる逆転用の湿式多板式の油圧クラッチクラッチ49を設けて構成されている。つまり、油圧クラッチ49をクラッチ入り作動させることにより、逆転伝動用伝動ギヤ46の回転を逆転伝動用受動ギヤ47・逆転クラッチ49・減速逆転制動軸40・操向用伝動ギヤ41L,41Rと伝達させて操向用受動ギヤ35L,35Rを同期逆転駆動するように構成されている。
【0036】
つまり、正転伝動用伝動ギヤ33・正転伝動用受動ギヤ34・伝動ギヤ部42・正転受動ギヤ43からなる伝動系と、逆転伝動用伝動ギヤ46・逆転伝動用受動ギヤ47からなる伝動系とが、出力軸8Bから減速逆転制動軸40への伝動系となっており、前記減速用及び逆転用の油圧クラッチ45,49が操向用の油圧クラッチCである。
【0037】
前記制動手段は、圧油供給に伴い減速逆転制動軸40を可逆的に制動する湿式多板式の油圧ブレーキ50を設けて構成されている。つまり、減速伝動ギヤ41L,41Rを制動することで減速受動ギヤ35L,35Rを制動するように構成されている。
【0038】
つまり、操向装置9は、
〈1〉直進クラッチ37L,37Rをともにクラッチ入り作動させることにより、正転伝動用受動ギヤ34の回転を両シフトギヤ39L,39Rを介して両車軸受動ギヤ36L,36Rに伝達することで、左右の走行装置1L,1Rを等速駆動させて直進走行を行い、
〈2〉操向クラッチ38L,38Rのうち旋回内側のものをクラッチ入り作動させることにより、左右の走行装置1L,1Rのうち旋回内側のものに対する駆動を断って片側駆動旋回を行い、
〈3〉操向クラッチ38L,38Rのうち旋回内側のものをクラッチ入り作動させるとともに、減速用の油圧クラッチ45をクラッチ入り作動させることにより、操向用受動ギヤ35L,35Rのうち旋回内側のもので旋回内側の走行装置1L又は1Rを駆動させることで、左右の走行装置1L,1Rのうち旋回内側のものの駆動速度を旋回外側のものの駆動速度よりも小さくして緩旋回を行い、
〈4〉操向クラッチ38L,38Rのうち旋回内側のものをクラッチ入り作動させるとともに、油圧ブレーキ50を制動させることにより、旋回内側の走行装置1L又は1Rを操向用受動ギヤ35L又は35Rを介して油圧ブレーキ50に連動させることで、旋回内側の走行装置1L又は1Rを制動停止させて信地旋回を行い、
〈5〉操向クラッチ38L,38Rのうち旋回内側のものをクラッチ入り作動させるとともに、逆転用の油圧クラッチ49をクラッチ入り作動させることにより、操向用受動ギヤ35L,35Rのうち旋回内側のもので旋回内側の走行装置1L又は1Rを駆動させることで、左右の走行装置1L,1Rのうち旋回内側のものを逆転駆動させて超信地旋回を行う
ように構成されている。
【0039】
操向装置9の操作手段は、図4に示すように、シフトギヤ39L,39Rのそれぞれを直進クラッチ入り位置にアーム51L,51Rを介して移動付勢する左右一対のバネ52L,52Rと、圧油供給に伴い伸長作動することでバネ52L,52Rの付勢力に抗してシフトギヤ39L,39Rのそれぞれを操向クラッチ入り位置に前記アーム51L,51Rを介して移動させる左右一対の操向シリンダ53L,53Rとを設け、操向シリンダ53L,53Rが伸長作動した状態にあるときに油路54を介して供給される圧油を減速用の油圧クラッチ45に供給する減速状態と逆転用の油圧クラッチ49に供給する逆転状態と油圧ブレーキ50に供給する制動状態とに切り換え自在なモード切り換え用の電磁弁55を設け、左側の操向シリンダ53Lに圧油を供給する左旋回状態と右側の操向シリンダ53Rに圧油を供給する右旋回状態と両操向シリンダ53L,53Rから排油させる直進状態とに切り換え自在な操向弁56を設け、前記油圧クラッチ45,49及び油圧ブレーキ50の作動圧まで油路54の油圧を高める作動状態と油圧クラッチ45,49及び油圧ブレーキ50を作動させない低圧に油路54の油圧を保持する非作動状態とに切り換え自在な圧力調整弁57を設け、操向操作レバー58とモード選択スイッチ59とを設け、このモード選択スイッチ59が減速モード位置P1にあるとき前記電磁弁55を減速状態に切り換えるとともにモード選択スイッチ59が逆転モード位置P2にあるとき電磁弁55を逆転状態に切り換えかつモード選択スイッチ59が制動モード位置P3にあるとき電磁弁55を制動状態に切り換える操向モード制御装置60を設けて構成されている。
【0040】
前記操向操作レバー58は、直進位置Nに位置するとき前記操向弁56を直進状態に切り換えるとともに圧力調整弁57を非作動状態に切り換え、第1左旋回位置L1に位置するとき操向弁56を左旋回状態に切り換えるとともに圧力調整弁57を非作動状態に切り換え、第1右旋回位置R1に位置するとき操向弁56を右旋回状態にきりかえるとともに圧力調整弁57を非作動状態に切り換え、第2左旋回位置L2に位置するとき操向弁56を左旋回状態に切り換えるとともに圧力調整弁57を作動状態に切り換え、第2右旋回位置R2に位置するとき操向弁56を作動状態に切り換えるとともに圧力調整弁57を作動状態に切り換えるように操向弁56及び圧力調整弁57に機械的に連係しているものである。なお、圧力調整弁57は、操向操作レバー58の第1左旋回位置L1及び第1右旋回位置R1それぞれから第2左旋回位置L2及び第2右旋回位置R2への操作に伴って圧力を徐々に上昇させるものである。従って、電磁弁55が制動状態にあるときに操向操作レバー58が第1左旋回位置L1及び第1右旋回位置R1それぞれから第2左旋回位置L2及び第2右旋回位置R2に操作された場合、油圧ブレーキ50の制動力が徐々に上昇することになる。
【0041】
従って、
〈1〉モード選択スイッチ59を減速モード位置P1に切り換えた状態では、操向操作レバー58を第1左旋回位置L1又は第1右旋回位置R1に操作することにより、操向クラッチ38L,38Rのうち旋回内側のものがクラッチ入り作動して、つまり、直進クラッチ37L,37Rのうち旋回内側のものがクラッチ切り作動して、片側駆動左旋回又は片側駆動右旋回を行えるとともに、操向操作レバー58を第2左旋回位置L2又は第2右旋回位置R2に操作することにより、旋回内側の操向クラッチ38L又は38Rのクラッチ入り状態が維持されたまま減速用の油圧クラッチ45がクラッチ入り作動して、左緩旋回又は右緩旋回を行え、
〈2〉モード選択スイッチ59を逆転モード位置P2に切り換えた状態では、操向操作レバー58を第1左旋回位置L1又は第1右旋回位置R1に操作することにより、操向クラッチ38L,38Rのうち旋回内側のものがクラッチ入り作動して、つまり、直進クラッチ37L,37Rのうち旋回内側のものがクラッチ切り作動して、片側駆動左旋回又は片側駆動右旋回を行えるとともに、操向操作レバー58を第2左旋回位置L2又は第2右旋回位置R2に操作することにより、旋回内側の操向クラッチ38L又は38Rのクラッチ入り状態が維持されたまま逆転用の油圧クラッチ49がクラッチ入り作動して、左超信地旋回又は右超信地旋回を行え、
〈3〉モード選択スイッチ59を制動モード位置P3に切り換えた状態では、操向操作レバー58を第1左旋回位置L1又は第1右旋回位置R1に操作することにより、操向クラッチ38L,38Rのうち旋回内側のものがクラッチ入り作動して、つまり、直進クラッチ37L,37Rのうち旋回内側のものがクラッチ切り作動して、片側駆動左旋回又は片側駆動右旋回を行えるとともに、操向操作レバー58を第2左旋回位置L2又は第2右旋回位置R2に操作することにより、旋回内側の操向クラッチ38L又は38Rのクラッチ入り状態が維持されたまま油圧ブレーキ50が制動作動して、左信地旋回又は右信地旋回を行える
のである。
【0042】
そして、走行伝動装置では、出力軸8Bと減速逆転制動軸40とがほぼ同一高さに配置され、ミッションケース11をオイルバスとして、ミッションケース11内に、前記変速用の油圧クラッチC1・C2・C3・駐車ブレーキ19及び操向クラッチC(減速クラッチ45・逆転クラッチ49)・油圧ブレーキ50のうちほぼ下半分部分を浸漬させる給油液面高さLにまでそれらを潤滑する潤滑油が貯留されており、前記の給油液面高さLに、プラグ71Aで開閉される検油口70が形成されている。従って、ミッションケース11の上部にブレザー付きのキャップ71で開閉される注油口72から潤滑油をミッションケース11内に供給する場合、検油口70を開いてその供給を行い、検油口70から潤滑油が流出したとき、供給を停止することにより、前記の給油液面高さLにまで潤滑油を正確に供給できるのである。
【0043】
〔別実施形態〕
上記実施の形態では、第1の油圧クラッチC1をネガティブ複動型油圧クラッチNCとしたが、第2の油圧クラッチC2をネガティブ複動型油圧クラッチNCとしたり、第3の油圧クラッチC3をネガティブ複動型油圧クラッチNCとしたりして実施しても良い。
【0044】
上記実施の形態では、第1の油圧クラッチC1の一つをネガティブ複動型油圧クラッチNCとしたが、第1、第2の油圧クラッチC1,C2の二つをネガティブ複動型油圧クラッチNCとしても良く、第1、第3の油圧クラッチC1,C3の二つをネガティブ複動型油圧クラッチNCとしても良く、第2、第3の油圧クラッチC2,C3の二つをネガティブ複動型油圧クラッチNCとしても良く、全部の油圧クラッチC1,C2,C3をネガティブ複動型油圧クラッチNCとしても良い。
【0045】
上記実施の形態では、三つの油圧クラッチC1,C2,C3を備えた三段変速式の走行変速装置への適用例を示したが、本発明は、二つの油圧クラッチC1,C2を備えた二段変速式の走行変速装置や、四つ以上の油圧クラッチC1〜Cnを備えた多段変速式の走行変速装置などにも適用することができる。
【0046】
本発明の走行変速装置は、伝動系の一つ、或いは、複数を後進伝動系とした前後進切り換え装置を含む。
【0047】
変速用の油圧クラッチC1〜Cnの構造、形式は適宜変更可能である。
【0048】
出力軸8Bと操向軸40とを同一高さに配置する。
【0049】
本発明は、コンバイン以外の各種の作業機の走行変速装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コンバインの側面図
【図2】走行伝動装置の展開図
【図3】走行変速装置の縦断正面図
【図4】操向操作手段の概略構成図
【図5】変速操作手段の概略構成図
【図6】ミッションケースの縦断側面図
【符号の説明】
1L,1R 走行装置
8 走行変速装置
8A 入力軸
8B 出力軸
9 操向装置
11 ミッションケース
19 ブレーキ
34 主駆動輪体
35L,35R 副駆動輪体
39L,39R 伝動輪体
40 操向軸
70 検油口
C1〜Cn 油圧クラッチ
C 油圧クラッチ
Claims (2)
- 入力軸(8A)と出力軸(8B)との間に互いに伝動比が異なる複数の伝動系を介装するとともに各伝動系と出力軸(8B)との間のそれぞれに各伝動系から出力軸(8B)への伝動を断続する湿式多板式の油圧クラッチを介装してなる走行変速装置(8)を設け、前記出力軸(8B)に連動する主駆動輪体(34)に左右の走行装置(1L)(1R)を連動させる直進状態と左右一対の副駆動輪体(35L)(35R)に走行装置(1L)(1R)を連動させる操向状態とに切り換え操作自在な左右一対の伝動輪体(39L)(39R)と、前記副駆動輪体(35L)(35R)を同期駆動するための操向軸(40)と、前記出力軸(8B)から操向軸(40)への伝動系と操向軸(40)との間に介装されて伝動系から操向軸(40)への伝動を断続する湿式多板式の操向用の油圧クラッチとを備えた操向装置(9)を設けてある作業機の走行伝動装置であって、前記走行変速装置(8)及び操向装置(9)を内装するミッションケース(11)における、出力軸(8B)に設けた走行変速用の油圧クラッチと操向軸(40)に設けた操向用の油圧クラッチのうちの下端が高い位置にある油圧クラッチの下端よりも上方の位置に、潤滑油の給油液面高さ(L)を定める検油口(70)を形成し、前記出力軸(8B)と操向軸(40)を前記検油口(70)によって定められる前記給油液面高さ(L)近傍位置に配置してある作業機の走行伝動装置。
- 出力軸(8B)を制動するための湿式多板式のブレーキ(19)を出力軸(8B)に装着してある請求項1又は2記載の作業機の走行伝動装置。
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