JP3412234B2 - 排気バルブ用合金 - Google Patents

排気バルブ用合金

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車および舶用エン
ジンの排気バルブ用合金に関する。本発明の合金は、主
たる用途に従って「バルブ用」としたが、そのほか、高
温用バネ、排気ガス浄化触媒用のメッシュ線材、および
各種加熱炉用の治具部品の材料として使用可能である。
【0002】
【従来技術】近年、エンジンの高出力・高回転化を実現
するため、エンジンバルブを多弁にし(たとえば1気筒
ごとに4本)、またその径を細くする傾向が進んでい
る。これまで、ガソリンエンジンのバルブの材料として
は、高Mn系のオーステナイト耐熱鋼SUH35(Fe
−9Mn−21Cr−4Ni−0.5C−0.4N)が
広く使用されてきた。
【0003】最近は、上記した傾向に従い、排気バルブ
の材料として、より高強度なNi基超合金NCF751
(Ni−15.5Cr−0.9Nb−1.2Al−2.
3Ti−7Fe−0.05C)が使用されるようになっ
てきた。しかし、近年の高出力・高回転エンジンのバル
ブに適用するには、NCF751も、800℃以上の高
温における強度が十分でない、という問題がある。
【0004】エンジンバルブに要求される重要な特性と
しては、高温引張強度、クリープ強度、高温疲労強度お
よび高温腐食耐性がある。中でも、高温疲労強度は最も
重要視される特性である。NCF751は、その強度を
SUH35とくらべると、800℃までは明らかにすぐ
れているが、800℃を超えると疲労強度が低下して8
50℃になるとSUH35と同等になり、900℃では
SUH35より低くなってしまう。
【0005】高温腐食に関しては、四エチル鉛を添加し
て高オクタン化を図った有鉛ガソリンを使用した場合
に、燃焼生成物としてバルブ表面に生成するPbOおよ
びPbS04により、PbOアタックおよびSアタック
の複合腐食を受ける。このような場合、NCF751の
ように73%ものNiを含む高Ni合金は、鉄基合金の
SUH35にくらべて、腐食が大きいという問題があ
る。
【0006】その上、NCF751は高価なNiを73
%も含み、SUH35等にくらべれば、かなり高価な材
料である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、Ni
基超合金NCF751よりも高強度であり、耐高温腐食
性にすぐれ、良好な加工性を備え、さらにコストパーフ
ォーマンスはNCF751と同等またそれ以上である排
気バルブ用合金を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の排気バルブ用合
金は、重量%で、C:0.01〜0.20%、Si:
2.0%以下、Mn:2%以下、Cr:15〜25%、
Mo+0.5W:0.5〜3.0%、Nb:0.3〜
3.0%、Ti:1.5〜3.5%、Al:1.0〜
2.5%、Fe:5%〜10%、Zr:0.01〜0.
20%、B:0.001〜0.02%、ならびに、C
a:0.001〜0.03%およびMg:0.001〜
0.03%の1種または2種を含有し、ただし、原子%
で、Al+Ti+Nb+Ta:6.0〜7.0%であ
り、残部が実質上Niからなる合金組成を有する。
【0009】
【作 用】1)これまでNi基超合金の高温強化は、強
度の逆温度依存性を有するγ'相{Ni3(Al,T
i)}の析出によって行なわれてきた。しかし、γ'相
を多量に析出させると、塑性加工が不可能となり、鍛造
によって素材の加工ができなくなる不都合がある。現用
の高強度エンジンバルブ合金NCF751においては、
γ'が14〜15体積%析出している。そこで、γ'相の
体積率と高温での熱間加工性について研究した結果、
γ'相が20体積%以上析出すると、エンジンバルブヘ
の加工が難しいことが明らかになった。そこで、本発明
においては、γ'相形成元素である、Al、Ti、Nb
およびTaの添加量を厳密にコントロールして、γ'相
が20体積%以上にならないようにはかっている。
【0010】2)Ni基超合金の高温強度は、上述の
γ'相の析出ばかりでなく、マトリックスであるオース
テナイトの固溶強化によっても図ることができる。そこ
で、本発明においては、WおよびMoによる固溶強化を
行なっている。
【0011】3)前述のように、NCF751はPbO
/PbSO4の複合腐食に対する耐性がよくない。そこ
で、この複合腐食特性を、Fe、CrおよびWの積極的
な添加により改善した。また、Niにくらべ価格の安い
Feを多量に使用することは、合金のコスト低減に効果
がある。そこで本発明では、高温強度を損わない範囲で
Feを加え、コストを低く抑えた。
【0012】本発明の排気バルブ用合金において、合金
成分のはたらきと組成範囲の限定理由は、以下のとおり
である。
【0013】C:0.01〜0.20% Cは、Ti、NbおよびCrと結合して炭化物を形成
し、高温強度を高める。この効果を得るためには、少な
くとも0.01%以上のCの添加が必要である。しか
し、多量の添加は延性低下を招き、熱間加工性を悪化さ
せるため、上限を0.20%とした。
【0014】Si:2.0%以下 Siは脱酸元素として添加されるばかりでなく、耐酸化
性を改善する元素でもある。しかし、多量に添加すると
延性が低下するため、上限を2.0%とした。
【0015】Mn:2.0%以下 MnはSiと同様に、脱酸元素として添加されるが、多
量に添加すると高温酸化特性が悪<なるばかりでなく、
延性にとって有害なη相(Ni3Ti)の析出を助長す
るため、上限を2.0%とした。
【0016】Cr:15〜25% Crは、高温酸化特性および腐食特性を改善する元素で
ある。十分な耐高温酸化性および腐食特性を維持するた
めには、15%以上のCrが必要であるが、25%を超
えるとオーステナイト相が不安定になり、脆化相のσ相
およびα相が析出、その結果延性が低下する。そこで、
上限を25%にした。
【0017】Mo+0.5W:0.5〜3.0% MoおよびWはオーステナイト相に固溶し、固溶強化に
よって高温強度を高める元素である。Wは、PbO腐食
ばかりでなく、PbO/PbSO4による複合腐食を低
減させる効果も有している。Wの原子量はMoの2倍で
あるから、固溶強化の効果は、同一重量%ではMoの1
/2である。このような効果を得るためには、Mo+
0.5Wの0.5%以上の添加が必要である。一方、添
加量が過大になると、熱間加工性を低下させるばかりで
なく、Crの場合と同様に脆化相が析出して延性が低下
する。そこで、上限を3.0%とした。本発明におい
て、MoとWのいずれを添加すべきであるかは、所望す
る特性に従って選択する。すなわち、高い耐食性を必要
とする場合はWを高めに、低コストを要求される場合に
はWの添加を省略する等、要求に応じた添加量の調整が
可能である。
【0018】Nb:0.3〜3.0% Nbは、Ni基超合金の析出強化相であるγ'相を形成
する元素であり、γ'相による強化だけでなく、γ'相の
粗大化を防ぐ効果もある。しかし、これらの効果を得る
ためには、0.3%以上のNbの添加が必要である。一
方、添加し過ぎると、δ相Ni3(Nb、Ta)が析出し
て延性の低下を招く。そこで、Nb量の上限を3.0%
とした。TaもNbと同様の効果を有しているが、高価
な元素であるため、わざわざ添加する意味は乏しい。し
かし、Nb原料中にTaが含まれていることがあるた
め、Nbの一部をこの原料中に含まれるTaで置き換え
合金組成としてもよい。
【0019】Ti:1.5〜3.5% TiはNiと結合してγ'相を形成し、γ'相を強化する
元素である。加えて、Tiの添加によりγ'相の時効析
出硬化が促進される。このような効果を十分に得るため
には、最低1.5%のTiを添加する必要がある。一
方、過剰な添加は脆化相のη相を析出させる結果とな
り、延性の低下を招く。そこで、添加量の上限を3.5
%とした。
【0020】Al:1.0〜2.5% AlはNiと結合してγ'相を形成する、最も重要な元
素である。添加量が少ないとγ'の析出量が十分でな
く、また、TiやNb、Taが多量に存在する場合は、
γ'相が不安定になり、η相やδ相が析出して脆化を起
こす。そこで、最低1.0%のAl添加が必要である。
添加量が多くなると、熱間加工性が悪くなり、バルブヘ
の成形が不可能になる。そこで、Al量の上限を2.5
%とした。
【0021】Fe:5〜15% Feは、前述したPbO/PbSO4による高温複合腐
食を改善する効果を有するし、合金のコスト低減の観点
からは重要な成分である。しかし、Feは高温強度の観
点からは、積極的に添加する材料ではない。これまでの
研究の結果によれば、15%以上のFeの添加は高温強
度を低下させることが判明している。そこで、Feの上
限を15%とした。5%以下の添加量では、高温複合腐
食が大きくなるばかりでなく、原料として、安価なスク
ラップや、Feを含むW、Mo、Nb等の安価な母合金
を多量に使用することができなくなり、製造コストが著
しく高くなる。そこで下限を5%とした。
【0022】Zr:0.01から0.20% Zrは、Bと同様に粒界に偏析して、クリープ強度を高
める効果を有する。この効果が十分であるためには、
0.01%以上のZrを添加する必要がある。これに対
し過剰の添加は、クリープ特性を害する。それゆえ、添
加の上限を0.20%とした。
【0023】B:0.001〜0.02% Bは結晶粒界に偏析してクリープ強度を高めるほか、熱
間加工性を改善する効果を有する。このような効果を確
実に得るためには、0.001%以上のBの添加が必要
である。過剰の添加は熱間加工性を害するため、上限値
として0.02%を設けた。
【0024】Ca:0.001〜0.03% Mg:0.001〜0.03% これらの元素は、溶解時に脱酸、脱硫元素として添加さ
れ、Caは残留イオウを硫化物として固定し、熱間加工
性を改善する。Mgは、クリープ破断強度および延性を
改善する効果を有する。しかし、いずれも添加し過ぎる
と熱間加工性を低下させるため、Mgについては0.0
01〜0.03%、Caについては0.001〜0.0
3%の上限を設定した。
【0025】Ni:残部 Niは、マトリックスであるオーステナイトを形成する
主要な元素であり、耐熱性および耐食性を向上させるは
たらきもある。また、析出強化相であるγ'相を形成す
る成分でもある。そこで、Niがこの合金の残部を構成
する。Niの一部は、Coで置き換えても、意図する目
標の特性を損なうことはない。
【0026】Al+Ti+Nb+Ta:原子%で6.0
〜7.0% 前述したように、Al,Ti,NbおよびTaは、γ'
相を構成する成分である。したがって十分な量のNiが
存在する場合、γ'相の析出体積率はこれら成分の原子
%の総和に比例する。また、高温強度はγ'相の体積率
に比例することから、これら元素の原子%の総和に比例
して高温強度は高くなる。しかし、γ'相の体積率が2
0%を超えると、熱間加工性が著しく低下する。そこ
で、これら元素の総量の上限を、γ'相の体積率を20
%以内に止める、7.0%に設定した。一方で、これら
元素の総量が6.0%以下になると、本発明が目的とす
る十分な強度を発揮させることができない。そこで下限
を6.0%に設定し、この狭い範囲に厳密にコントロー
ルする。
【0027】V:0.2〜1.0% Vは、MoやWと同様に、オーステナイト相に固溶し、
固溶強化によって高温強度を高める。Vはまた、Cと結
合して安定なMC炭化物であるVCを形成し、炭化物の
安定化に役立つ。オーステナイト相の延性を高める効果
もある。このような効果を発現させるためには、0.2
%以上のVの添加が必要である。しかし、添加量が多す
ぎると、逆に延性が低下する。そこで添加量の上限を
1.0%とした。
【0028】
【実施例】表1に示す合金組成をもつ本発明の合金10
種、比較例の合金4種、および従来材NCF751を真
空誘導炉で溶製し、30kgのインゴットに鋳造した。こ
れらのインゴットを1160℃で16時間ソーキング処
理した後、鋳肌部を皮削りし、1160〜900℃の温
度範囲で鍛造および圧延を実施して、直径16mmの丸棒
にした。
【0029】この丸棒に対して1050℃×30分/油
冷の固溶化熟処理を実施し、750℃×4hr/空冷の時
効熱処理を行なったのち、850℃において、高温高速
引張試験、高温引張試験、回転曲げ疲労試験および高温
腐食試験を行なった。その結果を表2に示す。
【0030】合金12は鍛造時に割れが発生し、合金1
5は圧延時に一部割れが発生したため、その残材から試
験片を採取し、各種試験に使用した。
【0031】1)高温高速引張試験 高温高速引張試験は、800℃〜1250℃の温度範囲
内で50℃間隔の温度をえらび、50mm/秒の引張速度
で実施した。表2に、各合金の高温高速引張試験の結果
をもとに算出した、バルブ傘部の鍛造加工に必要な、6
0%以上の絞が得られる加工可能温度範囲を示した。
【0032】表2のデータによると、本発明、従来例、
比較例No.13および14は、250℃以上の広い加工
可能温度範囲を有しているが、Al+Ti+Nb+Ta
量が7.0原子%よりも大きい比較例No.12では、γ'
相が多量に析出したために加工可能温度範囲が150℃
と狭く、鍛造時に割れが発生した。
【0033】熱間加工性を改善するBの添加を行なわな
かった比較例No.15も、加工可能温度範囲が230℃
とやや狭く、圧延時に、一部に割れが発生した。Vを添
加した本発明No.10は、実施例中、最大の加工可能温
度範囲312℃を示した。
【0034】2)高温引張試験および回転曲げ疲労試験 表2の結果をみると、本発明の合金は、従来の合金より
も、0.2%耐力、引張強度および107回回転曲げ疲
れ強さが高いことがわかる。比較例No.12は本発明の
合金よりも高い強度を示しているが、前述したように、
γ'相析出量が多いため熱間加工性が悪く、鍛造時に割
れが発生している。また比較例No.15は、本発明の合
金と同程度の強度を示したが、前述したように、Bを添
加してないために熱間加工性が悪く、圧延時に割れが発
生した。
【0035】比較例のNo.13は、(Al+Ti+Nb
+Ta)量が6.0原子%以下のため析出γ'相が少な
く、従来の合金と同程度の強度しか示していない。
【0036】3)高温腐食試験 高温腐食試験は、PbOとPbSO4とを4対6の割合
で配合した混合灰を用い、920℃で1時間の耐食試験
を行なった後、腐食減量を測定した。試験結果は、表2
に示すとおりである。
【0037】表2のデータによれば、本発明の合金は従
来の合金にくらべて腐食減量が少なく、高温腐食特性に
すぐれていることがわかる。一方、Fe量が少ない比較
例のNo.14は、本発明の合金と同程度の熱間加工性お
よび強度を示したが、高温腐食特性は従来の合金よりも
劣っている。
【0038】
【0039】表2
【0040】
【発明の効果】本発明により、従来の排気バルブ用超合
金Incone1751よりも高強度で、しかも耐食性
にすぐれた排気バルブ用の超合金が提供され、これを高
性能・高出力を求められるエンジンの排気バルブの材料
として使用したとき、きわめて有用である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭60−13050(JP,A) 特開 昭60−13020(JP,A) 特開 昭56−20148(JP,A) 特開 昭60−46343(JP,A) 特開 昭60−162760(JP,A) 特開 昭60−211028(JP,A) 特開 昭61−119640(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 19/05

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C:0.01〜0.20%、
    Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:15
    〜25%、Mo+0.5W:0.5〜3.0%、Nb:
    0.3〜3.0%、Ti:1.5〜3.5%、Al:
    1.0〜2.5%、Fe:5〜15%、Zr:0.01
    〜0.20%、B:0.001〜0.02%、ならび
    に、Ca:0.001〜0.03%およびMg:0.0
    01〜0.03%の1種または2種を含有し、ただし、
    原子%で、Al+Ti+Nb+Ta:6.0〜7.0%
    であり、残部が実質上Niからなる合金組成を有する排
    気バルブ用合金。
  2. 【請求項2】 請求項1の排気バルブ用合金において、
    合金がさらにVを0.2〜1.0%含有する排気バルブ
    用合金。
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