JP3390686B2 - ワイヤ工具およびその製造方法 - Google Patents

ワイヤ工具およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えばシリコンイ
ンゴット、水晶、石英などの硬脆材料や金属材料を切断
加工するための、樹脂を主な結合材としたワイヤ工具に
係わり、特に切断加工の高精度化・高能率化を行うこと
ができるワイヤ工具およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、シリコンインゴット、水晶、石英
等の硬脆材料や金属材料の切断手段としてワイヤ工具が
用いられているが、特に近年のシリコンウェーハの大口
径化にともない、シリコンウェーハのインゴットからの
切断手段として注目されている。シリコンインゴットの
切断加工には、従来は内周刃による切断方式が適用され
てきた。そして近年、半導体デバイスの生産コストの低
減、適正化を図るために、シリコンウェーハは大口径化
の一途をたどっているが、そうしたウェーハの大口径化
に対しては、内周刃の大径化で対応してきた。しかし、
特に8インチ以上のシリコンインゴットに対しては、ス
ループットの向上に限界がある、カーフロス(Kerf-los
s;切断ロス)が大きい、切断ジグへの内周刃のセッテ
ィングが困難である等の理由により、切断方法は内周刃
切断方式からマルチワイヤ切断方式に置き換わりつつあ
る。
【0003】従来行われてきたワイヤによるシリコンイ
ンゴットの切断加工は、図3(「電子材料」Vol.35,
No.7,1996年7月号、第29頁)に示されるよう
に、ピアノ線等のワイヤ1の新線リール2から巻取りロ
ーラ5までの所定経路中に、ダンサローラ3および複数
のメインローラ4等を設けて、インゴット6に近接する
所定ピッチのワイヤ列を形成するもので、スラリーノズ
ル7から高粘度の研磨剤スラリーを供給するとともに、
インゴット6をそのワイヤ列に押し付けることにより、
インゴット6の切断を行う、という遊離砥粒加工であ
る。しかしながら、遊離砥粒加工法ゆえに、多量の産業
廃棄物(廃液)を生じる、作業環境が極めて悪い、ラン
ニングコストが高い、切断後のウェハ洗浄が難しい、加
工能率の向上が望めない、さらには切断精度が悪いなど
の欠点があった。
【0004】これらの問題を解決するものとして、ワイ
ヤに砥粒を固着させたワイヤ工具、すなわち固定砥粒ワ
イヤ工具があり、すでに電着ワイヤ工具(特開昭63−
22275号公報、特公平4−4105号公報、特開平
7−227767号公報あるいは特開平9−15031
4号公報等参照)やピアノ線自体に砥粒を機械的に埋め
込む製造法によるもの(商品名ワイヤモンド、住友電気
報昭和63年3月第132号、P.118−122)が開
発されている。これらは、いずれも砥粒を固着する結合
材としては金属を用いている。
【0005】ところが、金属を結合材として用いたワイ
ヤ工具では、結合材層が硬いため、ワイヤ工具の破断ね
じり強度や曲げ強度が低く、加工時に断線し易い、ま
た、電着ワイヤ工具においては、電着に長時間要するた
め製造コストが高い、さらにマルチワイヤ切断方式に必
要なワイヤ工具自体の長尺化が困難であるなどの品質上
かつ経済上の問題があった。またワイヤの製造コストが
高く、長尺化が困難であるという問題を回避するため
に、短尺ワイヤ工具の両端を接合したエンドレスタイプ
のワイヤ工具も試作されているが、接合部の破断ねじり
強度、曲げ強度が極めて低いという問題がある。
【0006】そこで、これらの問題を解決するために、
最近、樹脂を結合材に用いたワイヤ工具が開発されるに
至っている。こうしたワイヤに砥粒を固着する結合材に
樹脂を用いたワイヤ工具およびその製造方法としては、
大阪ダイヤモンド工業が開発した固定砥粒ダイヤモンド
ワイヤソー(1997年度砥粒加工学会学術講演会講演
論文集、P.369〜370)、特開平8−12695
3号公報、特開平9−155631号公報や特開平10
−138114号公報、特開平10−151560号公
報、特開平10−315049号公報、特開平10−3
28932号公報、特開平10−337612号公報に
記載のものが知られている。これらのワイヤ工具では、
樹脂の種類については特に限定はしていないが、発表内
容、実施例などからわかるように、実際には研削砥石に
おいて従来使用されてきたフェノール樹脂などの熱硬化
性樹脂が用いられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このよ
うに改善されたワイヤ工具にあっても、熱硬化性樹脂を
結合材に用いていることから、溶媒を除去するための乾
燥工程と結合材を硬化させるための焼成工程を必要と
し、また焼成に要する時間も全てのワイヤ工具箇所にお
いて数分ずつ要してしまう。したがってワイヤ工具の高
速な製造、例えば毎分数百メートル〜数キロメートルの
速度での製造は難しく、マルチ切断方式に必要な10キ
ロメートル以上の長尺なワイヤ工具を安価に製造するこ
とは極めて困難である。
【0008】さらに、金属を結合材として用いたワイヤ
工具に比較して、樹脂を結合材としたワイヤ工具は、結
合材の耐磨耗性、機械的強度、耐熱性が低く、切断能率
が劣るという問題がある。
【0009】本発明は、これらに着目してなされたもの
で、高寿命で切断加工の高精度化・高能率化が可能で、
かつ長尺で安価なワイヤ工具およびその製造方法を提供
することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、請求項1の発明は、ワイヤ上に樹脂を主成分とする
結合材で砥粒を固定したワイヤ工具において、前記結合
材に光化学反応を起こして数秒単位若しくはそれ以下で
重合硬化し得る光硬化性樹脂を用いること、及び前記樹
脂中に、30/40マイクロメートルの砥粒と、平均粒
径が0.1〜15マイクロメートルの金属粒子および/
または平均粒径が0.1〜15マイクロメートルの無機
粉末を5〜90wt%添加したことを特徴とするものであ
る。光硬化性樹脂は、紫外線や可視光線などの光が照射
されると光化学反応を起こし、数秒単位あるいはそれ以
下で重合硬化するもので、光ファイバの被覆などに用い
られているものである。この光硬化性樹脂を結合材とし
て用いた場合、光ファイバでの製造スピードである毎分
数百メートル〜数キロメートルでの製造が可能であり、
安価で長尺なワイヤ工具の提供が可能となる。
【0011】また、請求項1記載のワイヤ工具は、前述
のとおり、前記樹脂中に、平均粒径が0.1〜15マイ
クロメートルの金属粒子および/または平均粒径が0.
1〜15マイクロメートルの無機粉末を5〜90wt%添
加したことを特徴とする。すなわち、金属粒子と無機粉
末粒子のうち少なくとも一方を添加物として、該添加物
を光硬化性樹脂からなる結合材に所定重量%だけ添加し
たものである。
【0012】請求項2の発明は、請求項1記載ワイヤ工
具において、金属粉末や無機粒子に代えて、前記樹脂中
に、短径が0.1〜15マイクロメートル、長径が1〜
200マイクロメートルの金属ファイバおよび/または
無機ファイバを、添加物として5〜90wt%添加したこ
とを特徴とする。
【0013】ワイヤ工具において、樹脂単体で結合材を
構成した場合、特に熱硬化性樹脂よりも一般に耐熱性や
機械的強度が劣ると考えられる光硬化性樹脂単体で結合
材を構成した場合、切断時に結合材被膜の磨耗・破断、
砥粒の脱落が考えられるが、この発明のように、金属粒
子や無機粉末、金属ファイバや無機フアイバを樹脂中に
添加することにより、工具の機械的強度、耐熱性を向上
することができる。また、添加した粒子部、ファイバ部
での光の透過、吸収、反射により、硬化速度が低下ある
いは未硬化状態に陥ることが考えられるが、添加粒子の
種類、大きさ、添加量を特定することで、これらの問題
は解決される。
【0014】請求項3の発明は、ワイヤをその軸線方向
に走行させながら、平均粒径が0.1〜15マイクロメ
ートルの金属粒子および/または平均粒径が0.1〜1
5マイクロメートルの無機粉末を5〜90wt%含有する
光硬化樹脂と砥粒との混合溶液をワイヤ上に塗布する工
程と、前記混合溶液の塗布されたワイヤを所定の径、あ
るいはワイヤ上に塗布された前記混合溶液を所定の膜厚
にし光硬化する工程とを含むワイヤ工具の製造方法を提
供するものである。
【0015】また、請求項4の発明は、ワイヤをその軸
線方向に走行させながら、短径が0.1〜15マイクロ
メートル、長径が1〜200マイクロメートルの金属フ
ァイバおよび/または無機ファイバを5〜90wt%含有
する光硬化樹脂と砥粒との混合溶液をワイヤ上に塗布す
る工程と、前記混合溶液の塗布されたワイヤを所定の
径、あるいはワイヤ上に塗布された前記混合溶液を所定
の膜厚にし光硬化する工程を含むことを特徴とするワイ
ヤ工具の製造方法を提供するものである。
【0016】
【0017】このようにすると、線径のバラツキを最小
限に抑えることが可能となり、切断時のカーフロス、切
断品のそりが小さく、安定した切断面品位を有するシリ
コンウェーハの高精度切断ができるワイヤ工具を製造す
ることが可能となる。
【0018】請求項5の発明は、請求項3または請求項
4記載の製造方法において、前記混合溶液の塗布された
ワイヤを所定の径にし、あるいはワイヤ上に塗布された
前記混合溶液を所定の膜厚にして光硬化する工程を、窒
素雰囲気中で行うものであり、窒素雰囲気中で光を照射
することで重合硬化反応を安定に確実に実現することが
できる。
【0019】請求項6の発明は、請求項3記載の製造方
法おいて、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、平
均粒径が0.1〜15マイクロメートルの金属粒子およ
び/または平均粒径が0.1〜15マイクロメートルの
無機粉末を5〜90wt%含有する光硬化樹脂と砥粒との
混合溶液をワイヤ上に塗布する工程と、該塗布工程の前
工程としてワイヤ表面に化学的プライマ処理を行う工程
と、該塗布工程に続く光硬化する工程とを含むものであ
る。
【0020】請求項7の発明は、請求項4記載の製造方
法おいて、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、短
径が0.1〜15マイクロメートル、長径が1〜200
マイクロメートルの金属ファイバおよび/または無機フ
ァイバを5〜90wt%含有する光硬化樹脂と砥粒との混
合溶液をワイヤ上に塗布する工程と、該塗布工程の前工
程としてワイヤ面に化学的プライマ処理を予め施す工程
塗布工程の後に行う光硬化する工程と、を含むもの
である。
【0021】ワイヤ工具の寿命は工具の磨耗あるいは断
線により決まり、工具磨耗としては、砥粒の脱落、砥粒
の埋没、砥粒自体の磨耗、さらに結合材被膜のワイヤか
らの剥離が考えられるが、この発明のようにワイヤ表面
に化学的プライマ処理を行うことで、結合材被膜とワイ
ヤ面との癒着力を高めることでき、結合材被膜の剥離に
よる工具寿命の低下を抑えることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の好ましい実施の
形態を図面に基づいて説明するが、本発明はこれに限定
されるものではなく、光硬化性樹脂に種々の金属粒子や
無機粉末、金属フアイバ、無機ファイバを含む結合材を
用いて砥粒をワイヤに固着するワイヤ工具とその製造方
法の広範囲な応用をも含むものである。
【0023】まず、図1において、送り出しロール10
に巻かれたワイヤ11は、複数の送りローラ12,1
3,14およびダンサローラ15により搬送され、巻き
取りロール20に引っ張られて巻き取られるようになっ
ている。ワイヤ11の素材としては特に限定されるもの
ではなく、ピアノ線、黄銅被覆ピアノ線、ステンレス鋼
線といった金属線やガラス繊維といった無機化合物によ
る線、ナイロンといった有機化合物による線またはそれ
らの撚線などが挙げられる。
【0024】張力変動による断線等を防止するために、
張力制御機構としてダンサローラ15を設けているが、
他にはシーソー方式やキャプスタン方式による張力制御
法があげられる。図示の例では、制御系16によって送
り出しロール10の送り出しの速度と巻き取りロール2
0の巻取り速度が制御されるとともに、ダンサローラ1
5の位置が制御され、ワイヤ11の張力が所定値に制御
される。
【0025】また、詳細を図示していないが、送り出し
ロール10から引き出されたワイヤ11は、後述する混
合被覆との密着性を向上させるために溶剤蒸気脱脂槽で
脱脂処理された後に、プライマ処理槽に導かれ、そこで
化学的プライマ処理を施される。このようにワイヤ11
の表面を予めプライマ処理しておくことにより、ワイヤ
表面での混合被膜の硬化を促進するとともに、ワイヤ1
1と混合被膜との密着性を高めることができる。化学的
プライマ処理としては、光重合促進剤やカップリング剤
(例えば、シランカップリング剤)の表面塗布が挙げら
れる。なお、特開平10−328932号公報に記載さ
れるように、ワイヤ表面に微少な凹凸を設け、ワイヤ1
1と混合被覆との密着性を高める方法も考案されている
が、この方法ではワイヤ11の機械的強度を損なう恐れ
がある。
【0026】ローラ12を通過し、上述のようなプライ
マ処理によってワイヤ本体11aの表面にプライマ層1
1bが形成されたワイヤ11は、次いで、ロート状の樹
脂塗布槽21に収容された混合溶液22中を通過する。
このとき、図2に示すように、ワイヤ11のプライマ層
11b上に混合液22が層状に付着して未硬化の混合被
覆が形成される。
【0027】ここで、樹脂塗布槽21に収容された混合
溶液22は、光硬化性樹脂22aに所定の添加物22b
を添加、混合した液状樹脂に、所定の砥粒22cを混合
した流動性混合物である。具体的には、混合溶液22
は、液状樹脂すなわち光硬化性樹脂22aに、0.1〜
15マイクロメートルの金属粒子および/または平均粒
径が0.1〜15マイクロメートルの無機粉末を、ある
いは短径が0.1〜15マイクロメートル、長径が1〜
200マイクロメートルの金属ファイバおよび/または
無機ファイバ5〜90wt%を添加物22bとして添加、
混合した添加物混合液樹脂を作製し、その添加物混合液
樹脂と所定粒径の砥粒22cとを均一に混和した混合溶
液となっている。砥粒22cとしては、特に限定される
ものではなく、ダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ
素)、アルミナ、炭化珪素などの硬質砥粒などが挙げら
れる。但し、その中でも加工能力に優れるダイヤモンド
砥粒が通常望ましい。
【0028】一方、樹脂塗布槽21の出口には、線径ジ
グ23が移動可能に設けられており、ワイヤ11に付着
している余分な混合液22をこの線径ジグ23によりか
き落として、未硬化の混合被覆11cを所定の厚みに整
え、あるいは、混合被覆11cが形成されたワイヤ外径
を所定の直径に整えるようになっている。
【0029】線径ジグ23を通過したワイヤ11は、次
いで、光照射装置24によって所定の光を照射される。
これにより、混合被覆11cが硬化した硬化層(以下、
混合被膜11dという)が形成され、ワイヤ工具11T
が順次できあがっていく。
【0030】21は光照射装置24より下流側でワイヤ
工具11Tの外径寸法を測定する線径測定器で、その測
定情報を制御系16にフィードバックすることができ
る。この線径測定器17は、例えばワイヤ搬送方向の所
定位置で、ワイヤ工具11Tを取り囲んで等角度間隔に
離間する3つの非接触の変位センサを有しており、ワイ
ヤ11の線径測定のみならず、ワイヤ本体11aに対す
る混合被膜11dの心ずれ(周方向三位置での混合被膜
11dの膜厚のばらつき)をも検出可能になっている。
制御系16は、その測定情報を基にワイヤ11と線径ジ
グ23との心ずれを検出し、常にワイヤ11が線径ジグ
23の中心を走行し、混合被膜11dがワイヤの長さ方
向においても周方向においても一定の厚さになるよう、
ワイヤ11と線径ジグ23の相対位置の制御を行う。そ
の位置制御は、線径ジグ23を変位させることにより、
あるいは、図示しないワイヤ位置調整用のローラを変位
させることにより、可能である。
【0031】混合被膜11dが外周面に形成されたワイ
ヤ工具11は、ローラ14、15を通過した後、巻き取
りロール20に巻き取られる。
【0032】本実施形態に係るワイヤ工具は、上述のよ
うに、ワイヤ本体11a上に樹脂を主成分とする結合材
で砥粒22cを固定したものであり、その結合材に用い
る樹脂として、紫外線や可視光線などの光が照射される
と光化学反応を起こし、数秒単位あるいはそれ以下で重
合硬化する光硬化性樹脂を用いたものである。したがっ
て、光ファイバの被覆などに用いられている光硬化性樹
脂を使用することで、光ファイバでの製造スピード程度
(毎分数百メートル〜数キロメートル)での製造が可能
となり、安価で長尺なワイヤ工具を提供することができ
る。
【0033】また、その光硬化性樹脂中に、平均粒径
0.1〜15マイクロメートルを有する、金属粒子と無
機粉末のうち少なくとも一方を添加物として、あるい
は、短径が0.1〜15マイクロメートルで、長径が1
〜200マイクロメートルであるところの、金属ファイ
バと無機ファイバのうち少なくとも一方を添加物とし
て、その添加物を5〜90wt%添加しているので、ワイ
ヤ工具の機械的強度および耐熱性を高めることができ
る。なお、添加物の粒子部やファイバ部での光の透過、
吸収、反射により、光硬化性樹脂の硬化速度が低下した
り、未硬化状態に陥ったりすることが考えられるが、添
加物粒子の種類、大きさ、添加量を所定範囲に特定する
ことで、これらの問題を解決することができる。
【0034】さらに、本実施形態に係る製造方法は、ワ
イヤをその軸線方向に走行させながら、上述した添加物
を5〜90wt%含有する光硬化樹脂と砥粒との混合溶液
22をワイヤ本体11a上に塗布する工程と、混合溶液
22の塗布されたワイヤ11を所定の径、あるいはワイ
ヤ11上に塗布された混合溶液の被覆11cを所定の膜
厚に整形して光硬化する工程とを含むので、均一な被覆
層11cを形成して、高品質のワイヤ工具を連続的に製
造することができる。
【0035】また、光硬化後に混合被膜11dが形成さ
れたワイヤ工具11Tの外径寸法を計測し、その計測結
果を基に混合被膜11dの形成されたワイヤ工具11T
の外径寸法を所定の値にするように、線径ジグ23や調
整用ローラを制御することにより、線径のバラツキを最
小限に抑えることができる。その結果、切断時のカーフ
ロスや切断品の反りが小さく、安定した切断面品位を有
するシリコンウェーハを得ることができる。
【0036】また、混合溶液の塗布されたワイヤ11を
所定の径に整形し、あるいはワイヤ11上に塗布された
混合溶液の被覆層11cを所定の膜厚にして光硬化する
工程を、窒素雰囲気中で行い、その雰囲気中でワイヤ1
1に光を照射することで、重合硬化反応を安定かつ確実
に生じさせることができる。さらに、添加物混合樹脂の
塗布工程の前工程で、ワイヤ表面に化学的プライマ処理
を行うことにより、結合材被膜とワイヤ面との癒着力を
高めることでき、結合材被膜の剥離による工具寿命の低
下を抑えることができる。
【0037】
【実施例】アクリレート系プレポリマ(オリゴマあるい
はモノマ)およびアセトフェノン誘導体系の光重合開始
剤1wt%からなるラジカル重合型光硬化樹脂溶液中に、
平均粒径2マイクロメートルの銅微粒子を30wt%添加
し、ホモジェナイザにて約10分間混和する。次に、集
中度20に該当する30/40マイクロメートルのダイ
ヤモンド砥粒を微量のエチルアルコールで湿潤し、上記
液状樹脂に入れ、ホモジェナイザーにて10分間混ぜ合
わせる。ワイヤ11として直径0.20mmのピアノ線を
用い、樹脂塗布槽21に銅徹粒子を添加した液状樹脂と
ダイヤモンド砥粒との混合溶液22を入れ、前記した製
造方法により、ワイヤ11を樹脂塗布槽21内に導き、
整形する開口直径が約0.27mmの線径ジグ23を通過
させ、波長354nm付近に大きなピークを有する高圧水
銀ランプを用いて紫外線硬化させた。これにより、直径
0.25〜0.26mmのワイヤ工具を得た。
【0038】樹脂硬化に用いる光は、用いる樹脂の特性
に依存するが、例えば紫外線硬化樹脂の場合、波長20
0〜400nmの遠紫外から可視光域内に波長を有する紫
外線で、発光源(光照射装置)としては高圧水銀ラン
プ、メタルハライドランプ、He−CdレーザあるいはArレ
ーザが考えられる。また可視光線硬化樹脂の場合は、波
長400〜800nm内にピークを有する光源を用いるこ
とができる。
【0039】本実施例に用いた光硬化樹脂は、紫外線照
射により光重合開始剤がフリーラジカルを発生し、これ
がオリゴマ、モノマのラジカル重合を誘発するラジカル
重合型の樹脂であったが、樹脂成分である、オリゴマ、
モノマ、重合開始剤は本実施例記載の成分に限定される
ものではない。ラジカル重合型の樹脂成分として、不飽
和ポリエステル樹脂をオリゴマに、スチレンをモノマと
することもできる。
【0040】オリゴマとして用いることができるのは他
に、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレ
ート、アクリルオリゴマ系アクリレート、エポキシアク
リレート、ポリブタジェンアクリレート、シリコーンア
クリレート、モノマとしては、N−ビニルピロリドン、
酢酸ビニル、および一宮能アクリレート、二官能アクリ
レート、三官能アクリレート類がある。重合開始剤とし
ては、アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン等の
アセトフェノン誘電体以外にべンゾインエーテル類
ンゾフェノン類、キサントン類などがある。また、ラジ
カル重合型以外に、光付加重合型、光カチオン重合型、
酸硬化型の光硬化樹脂を用いてもよい。
【0041】上記実施例では、樹脂中への添加剤として
銅微粒子を用いたが、添加剤がこれに限定されるもので
ないことはいうまでもない。添加剤としては、所定の時
間内で樹脂硬化を完了し、光硬化後の結合材の機械的強
度を向上でき、工具の耐磨耗性などの特性を向上できる
ものであればよい。添加剤としては、金属微粒子、金属
酸化物、金属炭化物、半導体材料に代表される非金属
(半金属と云われることもある)材料の酸化物、炭化物
等、あるいは粒子以外にファイバ状のものでもよい。
【0042】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
ワイヤ工具の結合材に、極めて短時間で硬化することの
可能な光硬化性樹脂を用いることで、ワイヤ工具の製造
時間を短縮することができ、シリコンインゴットのマル
チワイヤ切断等に好適な長尺かつ安価なワイヤ工具を提
供することができる。
【0043】また、結合材樹脂に、金属粒子や無機粉
末、金属ファイバや無機ファイバを添加するようにすれ
ば、無添加の場合に比べ、工具の機械的強度、耐熱性を
向上することができる。
【0044】さらに、ワイヤ上に結合材樹脂を塗布する
に先立ち、ワイヤのプライマ処理を施すようにすれば、
結合材被膜とワイヤ面との癒着力を高めることでき、結
合材被膜剥離による工具寿命の低下を抑えることができ
る。
【0045】一方、製造工程においても、ワイヤを走行
させて添加物混合液状樹脂と砥粒との混合溶液中を通過
させ、ワイヤ表面に混合液を付着させて混合被覆を形成
しながら、ワイヤに付着した余分な混合液を取り除くよ
うにすれば、混合被膜の均一なワイヤ工具を連続的に製
造することができる。
【0046】また、製造工程中で混合被膜形成後のワイ
ヤ工具の線径を測定し、線径制御や心ずれ抑制の制御を
実行することにより、線径バラツキを最小限に抑えるこ
とが可能となり、品質の安定したワイヤ工具を製造する
ことができる。
【0047】さらに、光照射を窒素雰囲気中で行うよう
にすれば、重合硬化反応を安定かつ確実に実現すること
ができる。
【0048】このように本発明によれば、高寿命で切断
加工の高精度化・高能率化が可能であり、かつ長尺で安
価なワイヤ工具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るワイヤ工具の製造方
法を説明するその製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るワイヤ工具の横断面
図である。
【図3】従来のシリコンインゴットの切断加工に用いら
れる遊離砥粒を用いたマルチワイヤ切断加工装置の概略
構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
10 送り出しロール 11 ワイヤ 11a ワイヤ本体 11b プライマ層 11c 未硬化の混合被覆 11d 混合被膜(硬化膜) 11T ワイヤ工具 12,13,14 送りローラ 15 ダンサローラ 16 制御系 17 線径測定器 20 巻き取りロール 21 樹脂塗布槽 22 混合液(混合溶液) 22a 光硬化性樹脂 22b 添加物 22c 砥粒 23 線径ジグ 24 光照射装置
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 谷 泰弘 東京都世田谷区宮坂3−47−12 (56)参考文献 特開 平11−10516(JP,A) 特開 平11−320379(JP,A) 特開 昭52−65391(JP,A) 特開 平8−126953(JP,A) 特開 平10−249735(JP,A) 特開 平10−337612(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B28D 5/04 B26D 1/547 B24D 11/00 B24B 27/06 B23D 61/18

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ワイヤ上に樹脂を主成分とする結合材で砥
    粒を固定したワイヤ工具において、 前記結合材として光化学反応を起こして数秒単位若しく
    はそれ以下の短時間において重合硬化し得る光硬化性樹
    脂を用いること、および前記光硬化性樹脂中に、30/
    40マイクロメートルの砥粒と、平均粒径が0.1〜1
    5マイクロメートルの金属粒子および/または平均粒径
    が0.1〜15マイクロメートルの無機粉末を5〜90
    wt%添加したことを特徴とするワイヤ工具。
  2. 【請求項2】請求項1記載のワイヤ工具において、前記
    光硬化性樹脂中に配合する金属粒子および/または無機
    粉末に代えて、短径が0.1〜15マイクロメートル、
    長径が1〜200マイクロメートルの金属ファイバおよ
    び/または無機ファイバを5〜90wt%添加したことを
    特徴とするワイヤ工具。
  3. 【請求項3】ワイヤをその軸線方向に走行させながら、
    ワイヤ上に、平均粒径が0.1〜15マイクロメートル
    の金属粒子および/または平均粒径が0.1〜15マイ
    クロメートルの無機粉末を5〜90wt%含有する光硬化
    性樹脂と砥粒との混合溶液を塗布する工程と、 前記混合溶液の塗布されたワイヤを所定の径、あるいは
    ワイヤ上に塗布された前記混合溶液を所定の膜厚にし、
    光硬化する工程と、 を含むことを特徴とするワイヤ工具の製造方法。
  4. 【請求項4】ワイヤをその軸線方向に走行させながら、
    ワイヤ上に、短径が0.1〜15マイクロメートル、長
    径が1〜200マイクロメートルの金属ファイバおよび
    /または無機ファイバを5〜90wt%含有する光硬化性
    樹脂と砥粒との混合溶液を塗布する工程と、 前記混合溶液の塗布されたワイヤを所定の径にし、ある
    いはワイヤ上に塗布された前記混合溶液を所定の膜厚に
    して、光硬化する工程と、 を含むことを特徴とするワイヤ工具の製造方法。
  5. 【請求項5】前記混合溶液の塗布されたワイヤを所定の
    径にし、あるいはワイヤ上に塗布された前記混合溶液を
    所定の膜厚にして光硬化する工程を、窒素雰囲気中で行
    うことを特徴とした請求項3または請求項4記載のワイ
    ヤ工具の製造方法。
  6. 【請求項6】請求項3記載の塗布工程の前工程としてワ
    イヤ面に化学的プライマ処理を行う工程と、請求項3記
    載の塗布工程と、請求項3記載の光硬化する工程と、を
    含むワイヤ工具の製造方法。
  7. 【請求項7】塗布工程の前工程として、ワイヤ面に化学
    的プライマ処理を行う工程を更に加えてなる請求項4に
    記載のワイヤ工具の製造方法。
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