JP4252190B2 - ワイヤ工具の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばシリコンインゴット、水晶、石英、等の硬脆材料や金属材料を切断加工するための、樹脂を主な材料としたワイヤ工具の製造方法に関し、特に切断加工の高精度化・高効率化を行うことができるワイヤ工具の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、シリコンインゴット、水晶、石英、等の硬脆材料や金属材料の切断工具としてワイヤ工具が用いられているが、特に近年のシリコンウェーハの大口径化にともない、シリコンウェーハのインゴットからの切断手段として注目されている。
【0003】
シリコンインゴットの切断加工には、従来は内周刃による切断方式が適用されてきた。そして近年、半導体デバイスの生産コストの低減、適正化を図るために、シリコンウェーハは大口径化の一途をたどっているが、そうしたウェーハの大口径化に対しては、内周刃の大径化で対応してきた。しかし、特に8インチ以上のシリコンインゴットに対しては、スループットの向上に限界がある、切断ロス(Kerf-loss)が大きい、切断ジグへの内周刃のセッティングが困難である、等の理由により、切断方法は内周刃切断方式からマルチワイヤ切断方式に変わりつつある。
【0004】
ところで、従来行われてきたワイヤによるシリコンインゴットの切断加工は、図7(「電子材料」Vol。35、No。7、1996年7月号、第29頁)に記載されているように、ピアノ線等のワイヤ1の新線リール2から巻き取りローラ5までの所定経路中に、ダンサローラ3および複数のメインローラ4等を設けて、インゴット6に近接する所定のピッチのワイヤ列を形成するもので、スラリーノズル7から高粘度の研磨剤スラリーを供給するとともに、インゴット6をそのワイヤ列に押し付けることにより、インゴット6の切断を行う、という遊離砥粒加工であった。しかしながら、遊離砥粒加工法ゆえに、多量の産業廃棄物(廃液)を生じる、ランニングコストが高い、切断後のウェーハ洗浄が難しい、加工能率の向上が望めない、さらには切断精度が悪い、等の欠点があった。
【0005】
これらの問題を解決するものとして、ワイヤに砥粒を固着させたワイヤ工具、すなわち固定砥粒ワイヤ工具があり、すでに電着ワイヤ工具(特開昭63−22275、特公平4−4105、特開平7−227767、特開平9−150314、等に記載)やピアノ線自体に砥粒を機械的に埋め込む製造法によるもの(商品名ワイヤモンド、住友電気報昭和63年3月第132号、p。118−122)が開発されている。これらは、いずれも砥粒を固着する結合材として金属を用いている。
【0006】
ところが、金属を結合材として用いたワイヤ工具では、結合剤層が硬いため、ワイヤ工具の破断ねじり強度や曲げ強度が低く、加工時に断線しやすい、また電着ワイヤ工具においては、電着に長時間要するために製造コストが高い、さらにマルチワイヤ切断方式に必要なワイヤ工具自体の長尺化が困難である、等の品質上かつ経済上の問題があった。また、ワイヤの製造コストが高く、長尺化が困難であるという問題を回避するために、短尺ワイヤ工具の両端を接合したエンドレスタイプのワイヤ工具も試作されているが、接合部の破断ねじり強度や曲げ強度が極めて低いという問題がある。
【0007】
そこで、これらの問題を解決するために、最近、樹脂を結合材に用いたワイヤ工具が開発されるに至っている。こうしたワイヤに砥粒を固着する結合材に樹脂を用いたワイヤ工具およびその製造方法としては、大阪ダイヤモンド工業が開発した固定砥粒ダイヤモンドワイヤソー(1997年度砥粒加工学会学術講演会講演論文集、p。369−370)、特開平8−126953号公報、特開平9−155631号公報、特開平10.138114号公報、特開平10.151560号公報、特開平10−315049号公報、特開平10−328932号公報、特開平10−337612号公報に記載のものが知られている。これらのワイヤ工具では、樹脂の種類については特に限定していないが、発表内容、実施例、等からわかるように、実際には研削砥石において従来使用されてきたフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられている。また、特開平11−48035号公報に記載されているように、砥粒保持強度を高めるために、セラミックを結合材に用いたワイヤ工具が提案されている。
【0008】
しかし、このように改善されたワイヤ工具においても、熱硬化性樹脂を結合材に用いることから、溶媒を除去するための乾燥工程と硬化させるための焼成工程を必要とし、また焼成に要する時間も全てのワイヤ工具箇所において数分ずつ要してしまう。また、セラミックを結合材に用いると、焼成温度が高くなるのみならず、焼成にも数十分以上の時間を要する。したがって、ワイヤ工具の高速な製造、例えば毎分数百メートル〜数キロメートルの速度での製造は難しく、マルチ切断方式に必要な10キロメートル以上の長尺なワイヤ工具を安価に製造することは極めて困難である。さらに、熱硬化性樹脂を結合材としたワイヤ工具は、金属を結合材として用いたワイヤ工具に比較して、結合材の耐摩耗性、機械的強度、耐熱性が低く、切断能率が劣るという問題がある。
【0009】
そこで、製造スピード向上という観点から、銅線の被覆等に用いられる電子線硬化性樹脂を熱硬化性樹脂に替えて結合材とし、さらに結合材の耐摩耗性、機械的強度、耐熱性を向上させるために電子線硬化性樹脂に金属粒子や金属ファイバ等を添加する技術(特願平11−027857号)が提案されている。この方法によれば、毎分百メートル以上の速度でワイヤ工具を製造することが可能である。
【0010】
ここで、一般的な光硬化性樹脂は、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂に比べ、金属との密着強度が低く、そのため前述のように改善されたワイヤ工具においても、金属であるワイヤと結合材との間で十分な密着強度が得られないという問題が生じてしまう。その理由としては、照射した光がワイヤの金属面において反射を生じ、金属と結合材との境界面で硬化が進みにくいこと、等が挙げられる。
【0011】
一方、電子線硬化性樹脂は、電子線が照射されると化学反応を起こし、1秒以下という短時間で重合硬化する。そこで、さらなる製造スピード向上という観点から、電子線硬化性樹脂を光硬化性樹脂に替えて結合材とすることが考えられる。この電子線硬化性樹脂を用いた場合は、光硬化性樹脂を用いた場合に比べ、十倍以上の速度(毎分、1キロメートル以上の速度)でワイヤ工具を製造することが可能であり、安価で長尺なワイヤ工具を製造できる。また、電子線はエネルギーが高いので、硬化特性が結合材中への粉末添加の影響を受けにくい。さらに、結合材に用いる樹脂コストについても、電子線は光に比べてエネルギーが高いので、硬化反応を生じさせるための重合開始剤や増感剤は不要であり、電子線照射装置の設備コストは高くなるものの、ワイヤ工具製造コストは大幅に低減できる。そして、硬化に必要なエネルギーも紫外線硬化樹脂の場合の3分の1〜4分の1に抑制できる。また、電子線照射装置は光(紫外線)照射装置に比べ、一般的に設備床面積が狭くて済むという長所がある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、一般的な電子線硬化性樹脂は、光硬化性樹脂と同様にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂に比べ、金属との密着強度が低く、そのため金属であるワイヤと結合材との間で十分な密着強度が得られないという問題が生じてしまう。その結果、ワイヤに砥粒を固着する結合材として電子線硬化性樹脂を用いても、ワイヤと結合材の剥離が生じやすく、耐摩耗性が低いので、このようなワイヤ工具を切断加工プロセスに適用することは極めて困難となっている。
【0013】
本発明の目的は、この問題に着目してなされたもので、ワイヤ上に砥粒を固定する結合材として電子線硬化性樹脂を用い、高寿命で切断加工の高精度化・高能率化が可能であって、かつ長尺で安価なワイヤ工具の製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
参考として本発明は、ワイヤ工具の半径方向に形成された複数層からなる結合材で砥粒を固定したワイヤ工具であって、前記結合材には、ワイヤ表面に化学的プライマ処理を施すことによって形成されたプライマ層と、該プライマ層上に電子線硬化性接着剤を主成分として形成された電子線硬化性接着剤層と、該電子線硬化性接着剤層上に前記電子線硬化性接着剤を除く電子線硬化性樹脂を主成分として形成された電子線硬化性樹脂層と、を含む構成を有している。
【0015】
電子線硬化性樹脂は、電子線が照射されると化学反応を起こし、1秒以内で重合硬化するので、これを結合材として用いることにより、製造スピードが向上し、安価で長尺なワイヤ工具を提供できる。一般的な電子線硬化性樹脂は金属ワイヤとの密着強度が低いので、ワイヤに複数層からなる結合材で砥粒を固定する場合、第1層目として化学的プライマ処理を行い、さらにプライマ層上に、一般的な電子線硬化性樹脂に比べて金属ワイヤとの密着性に優れる電子線硬化性接着剤(カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、等の金属との密着性を高める官能基を導入した電子線硬化性樹脂)を含む第2層目を形成することで、ワイヤとの密着強度を高めることができる。必要に応じて、3層以上の多層塗布を行うことにより、さらにワイヤ工具硬度を向上させることができる。
【0016】
参考として本発明は、前記電子線硬化性接着剤層は、電子線硬化性接着剤を主成分とし、砥粒と添加物の両方または一方を含む混合接着剤液を塗布することによって形成され、前記電子線硬化性樹脂層は、前記電子線硬化性接着剤を除く電子線硬化性樹脂を主成分とし、砥粒と添加物の両方または一方を含む混合溶液を塗布することによって形成された構成を有している。
【0017】
一般的な電子線硬化性接着剤は、通常は、金属であるワイヤとの密着強度は、電子線硬化性樹脂に比べると優れるが、切断加工時におけるワイヤ工具の耐摩耗性を、さらに向上させるためには、電子線硬化性接着剤とワイヤとの密着強度を、より高めることが望まれる。そこで、ワイヤ表面に結合材の第1層として、化学的プライマ処理を行うことで、電子線硬化性接着剤層とワイヤ面との密着力を高めることができる。次いで、前述の電子線硬化性接着剤に必要に応じて砥粒および/または添加物を混入させた接着剤液を第2層として塗布する。そのままでは十分な工具硬度が得られない場合は、さらに第3層として電子線硬化性樹脂を主成分とした結合材樹脂を塗布する。ここでも必要に応じて、砥粒および/または添加物を混入させる。また、ワイヤ工具硬度をさらに高めるために、必要に応じて、4層以上の多層塗布を行う。こうして、結合材被膜とワイヤ面との密着力を高めることができ、そして切断加工に供するに十分なワイヤ工具硬度を得ることができ、ワイヤ工具を高寿命化することが可能となる。
【0018】
請求項1の発明は、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法であって、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ表面に化学的プライマ液を塗布するプライマ液塗布工程と、表面にプライマ液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に光硬化性接着剤を主成分とし、砥粒と添加物の両方または一方を含む混合接着剤液を塗布する接着剤塗布工程と、表面に混合接着剤液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に前記光硬化性接着剤を除く電子線硬化性樹脂を主成分とし、砥粒と添加物の両方または一方を含む混合溶液を塗布する混合溶液塗布工程と、ワイヤ上に塗布された前記混合接着剤液を光硬化する光硬化工程と、ワイヤ上に塗布された前記混合溶液を電子線硬化する電子線硬化工程と、を有し、前記電子線硬化工程では、ワイヤ走行方向に沿って電子線照射部位近傍に所定の不活性ガスを噴射することに特徴がある。
【0019】
参考として、本発明は、前記結合材には、電子線硬化性樹脂、電子線硬化性接着剤を含む樹脂中に、平均粒径が0.1〜15μmの金属粒子および/または平均粒径が0.1〜15μmの無機粉末を5〜90wt%添加して形成された層を含む構成を有している。
【0020】
参考として、本発明は、前記結合材には、電子線硬化性樹脂、電子線硬化性接着剤を含む樹脂中に、短径が0.1〜15μm、長径が1〜200μmの金属ファイバおよび/または無機ファイバを5〜90wt%添加して形成された層を含む構成を有している。
【0021】
ワイヤ工具において、熱硬化性樹脂よりも一般に耐熱性や機械的強度が劣ると考えられる、電子線硬化性樹脂単体で結合材を構成した場合は、切断時に結合材被膜の摩耗・破断、砥粒の脱落が考えられるが、金属粒子や無機粉末、金属ファイバや無機ファイバを樹脂中に添加し、さらに結合材を複層から構成することにより、工具の機械的強度、耐熱性を向上させることができる。
【0022】
参考として、本発明は、前記結合材には、光硬化性接着剤中に、平均粒径が0.1〜15μmの金属粒子および/または平均粒径が0.1〜15μmの無機粉末を5〜90wt%添加して形成された層を含む構成を有している。
【0023】
参考として、本発明は、前記結合材には、光硬化性接着剤中に、短径が0.1〜15μm、長径が1〜200μmの金属ファイバおよび/または無機ファイバを5〜90wt%添加して形成された層を含む構成を有している。
【0024】
結合材の主成分に光硬化性樹脂を用いた場合は、添加した粒子部、ファイバ部での光の吸収、反射により、硬化速度が低下あるいは未硬化状態に陥ることが考えられるため、金属粒子や無機粉末、金属ファイバや無機ファイバを樹脂中に添加する際、添加粒子の種類、大きさ、添加量を規定することが必要となる。
【0025】
参考として、本発明は、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法であって、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材を塗布する結合材塗布工程と、ワイヤ上に塗布された電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材を電子線硬化する光硬化工程と、を有し、該電子線硬化工程を大気中よりも酸素濃度を減少させた雰囲気中で行う構成を有している。
【0026】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、結合材の光硬化工程における酸素濃度を、通常の大気中よりも減少させることで、樹脂の重合硬化反応を、十分に安定かつ確実に実現できることを見出した。例えば、光硬化工程における酸素濃度を、大気中の酸素濃度と比べて10%減少させた場合においても、切断加工に供するに十分適した結合材層が得られる。
【0027】
参考として、本発明は、前記電子線硬化工程を窒素雰囲気中で行うものである。
【0028】
結合材の電子線硬化工程を酸素の全くない窒素雰囲気中で行うと、酸素による重合阻害を受けず、結合材層は完全硬化する。
【0029】
参考として、本発明は、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法であって、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材を塗布する結合材塗布工程と、ワイヤ上に塗布された電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材を電子線硬化する電子線硬化工程と、電子線硬化後の結合材を加熱して熟成させる加熱熟成工程と、を有するものである。
【0030】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、結合材の主成分に電子線硬化性樹脂を用い、添加物(フィラ)として、ワイヤ工具の耐摩耗性、耐熱性の向上に有効な金属粉末を添加した場合、電子線の透過力が紫外線等の光に比べて強いので(少なくとも3倍以上強いので)、添加物等の影響を受けることが少ないが、電子線照射のみでは、添加した粒子部、ファイバ部での電子線の吸収、反射等により、金属フィラ周囲において硬化不良が生じやすいことを見出した。また、発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、工具コスト低減のために電子線照射時間を短縮させると、工具製造速度は向上するが未硬化部が残存しやすいことを見出した。そこで、前記加熱熟成工程を設けることにより(あるいは、添加粒子の種類、大きさ、添加量を特定し、かつ加熱熟成工程を設けることによって)、結合材層を完全に硬化でき、切断特性や耐摩耗性に優れたワイヤ工具を得ることができる。
【0031】
参考として、本発明は、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂および光硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法であって、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材を塗布する電子線硬化性結合材塗布工程と、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に光硬化性樹脂を主成分とする結合材を塗布する光硬化性結合材塗布工程と、ワイヤ上に塗布された電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材を電子線硬化する電子線硬化工程と、ワイヤ上に塗布された光硬化性樹脂を主成分とする結合材を光硬化する光硬化工程と、電子線硬化および光硬化後の結合材を加熱して熟成させる加熱熟成工程と、を有するものである。
【0032】
参考として、本発明は、前記結合材の硬化後に巻き取られたワイヤ工具を加工炉でバッチ処理するものである。
【0033】
前記加熱熟成工程は、ほぼ硬化したワイヤ工具に対して行うため、リールに巻き取った工具を加熱炉等でバッチ処理することができ、工具1個あたりの製造時間は殆ど変化せず、工具コストの上昇にはつながらない。こうして工具製造速度を低減することなく、切断加工を行うに十分な結合材硬度を有するワイヤ工具を、確実かつ安定に製造することが可能となる。
【0034】
参考として、本発明は、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分し、工具半径方向に形成された複数層からなる結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法であって、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂および砥粒の混合溶液を塗布する混合溶液塗布工程と、ワイヤ上に塗布された前記混合溶液を電子線硬化する電子線硬化工程と、を有するものである。
【0035】
参考として、本発明は、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法であって、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ表面に化学的プライマ液を塗布するプライマ液塗布工程と、表面にプライマ液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に電子線硬化性接着剤を主成分とし、砥粒および/または添加物を含む混合接着剤液を塗布する接着剤塗布工程と、表面に混合接着剤液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂、砥粒および/または添加物の混合溶液を塗布する混合溶液塗布工程と、ワイヤ上に塗布された前記混合接着剤液および混合溶液を電子線硬化する電子線硬化工程と、を有するものである。
【0036】
参考として、本発明は、ワイヤ上に光硬化性樹脂および電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法であって、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ表面に化学的プライマ液を塗布するプライマ液塗布工程と、表面にプライマ液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に光硬化性接着剤を主成分とし、砥粒および/または添加物を含む混合接着剤液を塗布する接着剤塗布工程と、表面に混合接着剤液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂、砥粒および/または添加物の混合溶液を塗布する混合溶液塗布工程と、ワイヤ上に塗布された前記混合接着剤液を光硬化する光硬化工程と、ワイヤ上に塗布された前記混合溶液を電子線硬化する電子線硬化工程と、を有するものである。
【0037】
前記結合材の第1層に電子線硬化性樹脂(接着剤)を用いる場合は、硬化速度が速い、固化物の硬度が高い、等の優れた特性を利用できるが、反面、電子線硬化性接着剤の種類が極めて少ないという問題がある。そこで、多くの種類から最適なものを選択可能な光硬化性樹脂(接着剤)を結合材の第1層に用いることによって、この問題を改善できる。
【0038】
参考として、本発明は、ワイヤ上に光硬化性樹脂および電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法であって、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ表面に化学的プライマ液を塗布するプライマ液塗布工程と、表面にプライマ液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に電子線硬化性接着剤を主成分とし、砥粒および/または添加物を含む混合接着剤液を塗布する接着剤塗布工程と、表面に混合接着剤液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に光硬化性樹脂、砥粒および/または添加物の混合溶液を塗布する混合溶液塗布工程と、ワイヤ上に塗布された前記混合接着剤液を電子線硬化する電子線硬化工程と、ワイヤ上に塗布された前記混合溶液を光硬化する光硬化工程と、を有するものである。
【0039】
参考として、本発明は、前記結合材塗布工程、電子線硬化性結合材塗布工程、光硬化性結合材塗布工程、接着剤塗布工程、混合溶液塗布工程を含む塗布工程で、塗布後のワイヤを所定の径にするか、あるいはワイヤ上の膜厚を所定の値にしてから、光硬化工程、電子線硬化工程を含む硬化工程で硬化するものである。
【0040】
参考として、本発明は、前記結合材塗布工程、電子線硬化性結合材塗布工程、光硬化性結合材塗布工程、接着剤塗布工程、混合溶液塗布工程のいずれかと光硬化工程、電子線硬化工程のいずれかとを繰り返すものである。
【0041】
参考として、本発明は、前記接着剤液塗布工程では、ワイヤ上に、平均粒径が0.1〜15μmの金属粒子および/または平均粒径が0.1〜15μmの無機粉末を5〜90wt%含有する光硬化性接着剤、電子線硬化性接着剤のいずれかと砥粒との混合接着剤液を塗布するものである。
【0042】
参考として、本発明は、前記接着剤液塗布工程では、ワイヤ上に、短径が0.1〜15μm、長径が1〜200μmの金属ファイバおよび/または無機ファイバを5〜90wt%含有する光硬化性接着剤、電子線硬化性接着剤のいずれかと砥粒との混合接着剤液を塗布するものである。
【0043】
参考として、本発明は、前記混合溶液塗布工程では、ワイヤ上に、平均粒径が0.1〜15μmの金属粒子および/または平均粒径が0.1〜15μmの無機粉末を5〜90wt%含有する光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂のいずれかと砥粒との混合溶液を塗布するものである。
【0044】
参考として、本発明は、前記混合溶液塗布工程では、ワイヤ上に、短径が0.1〜15μm、長径が1〜200μmの金属ファイバおよび/または無機ファイバを5〜90wt%含有する光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂のいずれかと砥粒との混合溶液を塗布するものである。
【0045】
参考として、本発明は、塗布および硬化後のワイヤの外径寸法を計測する計測工程と、計測された外径寸法を基にして、前記ワイヤの外径寸法が所定の値になるように前記結合材塗布工程、電子線硬化性結合材塗布工程、光硬化性結合材塗布工程、接着剤塗布工程、混合溶液塗布工程を含む塗布工程および/または光硬化工程、電子線硬化工程を含む硬化工程を調節する調節工程と、を有するものである。
【0046】
このようにすると、線径のばらつきを最小限に抑えることが可能となり、切断ロスや切断品のそりが小さく、安定した切断面品位を有するシリコンウェーハの高精度切断が可能なワイヤ工具を製造することができる。
【0047】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の一形態を図面を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、電子線硬化性樹脂に種々の金属粒子や無機粉末、金属ファイバ、無機ファイバを含む結合材を主成分に用いて砥粒をワイヤに固着するワイヤ工具とその製造方法の広範囲な応用をも含むものである。
[第1、 第2の実施形態]
図1、図2に本発明の第1、第2の実施の形態に係るワイヤ工具の製造装置の概略構成を示し、図3には製造されたワイヤ工具の横断面を示す。
【0048】
まず、図1、図2において、送り出しロール10に巻かれたワイヤ11は、複数の送りローラ12、13、14およびダンサローラ15により搬送され、巻き取りロール20に引張られて巻き取られる構成になっている。ワイヤ11の素材は特に限定されるものではなく、ピアノ線、黄銅被覆ピアノ線、ステンレス鋼線といった金属線やガラス繊維といった無機化合物による線、ナイロンといった有機化合物による線、またはそれらの撚線、等が挙げられる。
【0049】
このワイヤ11を巻き取る際、張力変動による断線等を防止するために、張力制御機構としてダンサローラ15を設けているが、他にはシーソー方式やキャプスタンプ方式による張力制御法が挙げられる。図1、図2に示す構成においては、制御系16によって送り出しロール10の送り出しの速度と巻き取りロール20の巻き取り速度が制御されるとともに、ダンサローラ15の位置が制御され、ワイヤ11の張力が所定値に制御される。
【0050】
また、送り出しロール10から引き出されたワイヤ11は、混合被覆11Dとの密着性を向上させるために溶剤蒸気脱脂槽で脱脂処理された後、プライマ処理槽21aあるいは金属との密着性に優れる電子線硬化性樹脂(接着剤)を収容した接着剤塗布槽21Aに導かれ、化学的プライマ処理あるいは電子線硬化性樹脂(接着剤)の塗布処理が施される。これによって、結合材第1層11Bが形成される。
【0051】
ワイヤ表面を予めプライマ処理しておくことにより、ワイヤ表面での混合被覆11Cの硬化を促進するとともに、ワイヤ11と混合被膜11Dとの密着性を高めることができる。この化学的プライマ処理としては、重合促進剤やカップリング剤(例えば、シランカップリング剤)の表面塗布が挙げられる。
【0052】
また、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、等の金属との密着性を高める官能基を導入した電子線硬化性樹脂(接着剤)は、ワイヤ11との密着性および電子線硬化性樹脂を主成分とする混合被膜11Dとの密着性に優れるため、その電子線硬化性接着剤を塗布処理することにより、結果として、ワイヤ11と混合被膜11Dとの密着性を高めることができる。なお、必要に応じて電子線硬化性接着剤に砥粒および添加物を混入させてもよい。この電子線硬化性接着剤の塗布処理の後、塗布膜厚み制御および硬化処理を行う。この塗布膜厚み制御は、接着剤塗布槽21Aの出口に移動可能に設けられた線径ジグ23aにより、ワイヤ11に付着している余分な電子線硬化性接着剤を掻き落として未硬化の電子線硬化性接着剤被覆を所定の厚みに整えるか、あるいは、電子線硬化性接着剤被覆が形成されたワイヤ外径を所定の直径に整えることによって行われる。また、前記硬化処理は、線径ジグ23aを通過したワイヤ11に対して電子線照射装置(電子線加速器)24aより所定の電子線を照射することによって行われる。これにより、電子線硬化性接着剤被覆が硬化した硬化層(電子線硬化性接着剤層)11Bが形成される。
【0053】
ローラ12を通過し、前述のようなプライマ処理あるいは電子線硬化性接着剤の塗布処理によって、ワイヤ本体11aの表面にプライマ層あるいは電子線硬化性接着剤層が結合材第1層11Bとして形成されたワイヤ11は、次いで、ロート状の樹脂塗布槽21bに収容された混合溶液22中を通過する。このとき、ワイヤ11のプライマ層上あるいは電子線硬化性接着剤層上に混合液22が層状に付着して未硬化の混合被覆11Cが形成される。
【0054】
ここで、樹脂塗布槽21bに収容された混合溶液22は、電子線硬化性樹脂22aに所定の添加物22bを添加、混合した液状樹脂に、所定の砥粒22cを混合した流動性混合物である。具体的には、混合溶液22は、液状樹脂すなわち電子線硬化性樹脂22aに、平均粒径が0.1〜15μmの金属粒子および/または平均粒径が0.1〜15μmの無機粉末を、あるいは短径が0.1〜15μm、長径が1〜200μmの金属ファイバおよび/または無機ファイバ5〜90wt%を、添加物22bとして添加、混合した添加物混合液状樹脂を作製し、その添加物混合液状樹脂と所定粒径の砥粒22cとを均一に混和した混合溶液となっている。砥粒22cは、特に限定されるものではなく、ダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ素)、アルミナ、炭化珪素、等の硬質砥粒等でもよい。但し、その中でも加工能力に優れるダイヤモンド砥粒が通常望ましい。なお、結合材がワイヤ11の半径方向に形成された複数層からなる場合、その結合材への砥粒および粉末の添加については、所望の切断特性を得ることができれば、いずれの層に添加してもよい。
【0055】
一方、樹脂塗布槽21bの出口には、線径ジグ23bが移動可能に設けられており、ワイヤ11に付着している余分な混合液22をこの線径ジグ23bにより掻き落として、未硬化の混合被覆11Cを所定の厚みに整え、あるいは、その混合被覆11Cが形成されたワイヤ外径を所定の直径に整えるように構成されている。
【0056】
線径ジグ23bを通過したワイヤ11は、次いで、電子線照射装置(電子線加速器)24bによって所定の電子線を照射される。これにより、混合被覆11Cが硬化した硬化層(混合被膜11D)が結合材第2層として形成される。
【0057】
なお、この混合被膜11D上に結合材第3層として混合被膜11Eを形成する場合も第2層目の処理と概ね同様であって、ワイヤ本体11aの外表面に混合被膜11Dが形成されたワイヤ11は、詳細に図示しないがロート状の樹脂塗布槽(21bに相当)に収容された、電子線硬化性樹脂に所定の添加物を混合し、さらに所定の砥粒を混合した混合溶液中を通過した後、その樹脂塗布槽の出口に設けられた線径ジグ(23bに相当)によって塗布膜厚み制御が行われ、さらに電子線照射装置(24bに相当)によって硬化処理が行われる。
【0058】
あるいは、結合材第1層11Bおよび結合材第2層11Dを形成した後、ワイヤ11を一旦巻き取るとともにプライマ処理槽21a(または接着剤塗布槽21A)を取り外し、巻き取ったワイヤ11を送り出しロール10に再度、セットする。一方、前述のように電子線硬化性樹脂に所定の添加物を混合し、さらに所定の砥粒を混合した混合溶液を樹脂塗布槽21bに収容する。そして、ワイヤ11を再度巻き出して樹脂塗布槽21b内の混合溶液中を通過させた後、その樹脂塗布槽21bの出口に設けられた線径ジグ23bによって塗布膜厚み制御を行い、さらに電子線照射装置24bによって硬化処理を行うようにしてもよい。
【0059】
こうして、所望の複数層からなる結合材で砥粒を固定したワイヤ工具11Tが順次できあがる。
【0060】
なお、線径測定器17は、電子線照射装置24bより下流側でワイヤ工具11Tの外径寸法を測定するもので、その測定情報を制御系16にフィードバックすることができる。この線径測定器17は、例えばワイヤ搬送方向の所定位置で、ワイヤ工具11Tを取り囲んで等角度間隔に離間する3個の非接触の変位センサを有しており、ワイヤ11の線径測定のみならず、ワイヤ本体11aに対する混合被膜11D、11E、等の芯ずれ(周方向三位置での混合被膜11D、11E、等の膜厚のばらつき)をも検出可能に構成されている。制御系16は、その測定情報を基にワイヤ11と線径ジグ23a、23bとの芯ずれを検出し、常にワイヤ11が線径ジグ23a、23bの中心を走行し、混合被膜11D、11Eがワイヤ11の長さ方向においても周方向においても一定の厚さとなるように、ワイヤ11と線径ジグ23a、23bの相対位置の制御を行う。その位置制御は、線径ジグ23a、23bを変位させることにより、あるいは、図示しないワイヤ位置調整用のローラを変位させることにより、可能である。
【0061】
そして、その外周面に混合被膜11Eが形成されたワイヤ工具11は、ローラ14、15を通過した後、巻き取りロール20に巻き取られる。
【0062】
本実施形態に係るワイヤ工具は、前述のように、ワイヤ本体11a上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒22cを固定したものである。この電子線硬化性樹脂は、電子線が照射されると化学反応を起こし、数秒単位あるいはそれ以下で重合硬化するため、十分な製造スピードを保ちながら安価で長尺なワイヤ工具を提供することができる。
【0063】
また、その電子線硬化性樹脂中に、平均粒径0.1〜15μmを有する、金属粒子と無機粉末のうち少なくとも一方を添加物として、あるいは、短径が0.1〜15μmで、長径が1〜200μmである、金属ファイバと無機ファイバのうち少なくとも一方を添加物として、その添加物を5〜90wt%添加しているので、ワイヤ工具の機械的強度および耐熱性を高めることができる。
【0064】
さらに、本実施形態に係る製造方法は、ワイヤをその軸線方向に走行させながら、前述の添加物を5〜90wt%含有する電子線硬化性樹脂と砥粒との混合溶液22を所定の径、あるいはワイヤ11上に塗布された混合溶液の被覆11C等を所定の膜厚に整形して電子線硬化する工程を含むので、均一な被覆層を複数形成して、高品質のワイヤ工具を連続的に製造することができる。
【0065】
また、電子線硬化後に混合被膜11D等が形成されたワイヤ工具11Tの外径寸法を計測し、その計測結果を基に混合被膜11D等の形成されたワイヤ工具11Tの外径寸法を所定の値にするように、線径ジグ23a、23bや前記調整用ローラを制御することにより、線径のばらつきを最小限に抑えることができる。その結果、切断時の切断ロスや切断品の反りが小さく、安定した切断面品質を有するシリコンウェーハを得ることができる。
【0066】
また、混合溶液の塗布されたワイヤ11を所定の径に整形し、あるいはワイヤ11上に塗布された混合溶液の被覆層11C等を所定の膜厚にして電子線硬化する工程を、窒素雰囲気中でワイヤ11に電子線を照射することで、重合硬化反応を安定かつ確実に生じさせることができる。
【0067】
さらに、添加物混合樹脂の塗布工程の前工程で、ワイヤ表面に化学的プライマ処理を行うか、あるいは金属との密着性に優れる電子線硬化性樹脂(接着剤)を塗布処理することによって、結合材被膜とワイヤ面との癒着力を高めることができ、結合材被膜の剥離による工具寿命の低下を抑えることができる。
【0068】
なお、前述の電子線硬化性接着剤の種類が極めて少ないことから、結合材第1層11Bとしては、これに替えて、種類がより多く最適なものを適宜選択可能な光硬化性接着剤を用いてもよい。この場合、光硬化性接着剤中に、平均粒径が0.1〜15μmの金属粒子および/または平均粒径が0.1〜15μmの無機粉末を5〜90wt%添加するか、短径が0.1〜15μm、長径が1〜200μmの金属ファイバおよび/または無機ファイバを5〜90wt%添加することが好ましい。このような設定は、結合材の主成分に光硬化性樹脂を用ると、添加した粒子部、ファイバ部での光の透過、吸収、反射で硬化速度が低下したり、あるいは未硬化状態に陥るので、添加粒子の種類、大きさ、添加量を規制する必要があることによる。
【0069】
光硬化性接着剤を用いる場合は、接着剤塗布槽21Aに前記添加物を含む光硬化性接着剤液を収容するとともに、その下流の電子線照射装置24bに替えて光照射装置を配置する。そして、ワイヤ11上に光硬化性接着剤液を塗布し、紫外線等を照射して光硬化させることによって結合材第1層11Bを形成する。さらに、前述のように電子線硬化性樹脂を成分とする結合材第2層目以降を形成する。
【0070】
さらに、本実施形態に限らず、電子線硬化性接着剤層(結合材第1層)11B上に光硬化性樹脂層(結合材第2層)を形成してもよい。この場合、前述と同様に光硬化性樹脂中に、平均粒径が0.1〜15μmの金属粒子および/または平均粒径が0.1〜15μmの無機粉末を5〜90wt%添加するか、短径が0.1〜15μm、長径が1〜200μmの金属ファイバおよび/または無機ファイバを5〜90wt%添加することが好ましい。
【0071】
[第3の実施形態]
図4に本発明の第3の実施の形態に係るワイヤ工具の製造装置の概略構成を示し、図5にはバッチ処理用の加熱炉の概略構成を示し、図6には製造されたワイヤ工具の横断面を示す。なお、第1および第2の実施形態と同一の構成には同一符号を付与して説明を省略する。
【0072】
本実施形態では、第1および第2の実施形態と同様に、結合材硬化工程(電子線硬化工程)を窒素雰囲気中で行うが、全硬化工程を窒素雰囲気に保つと設備コストが高くなるばかりではなく、ランニングコストも高くなるので、ワイヤに対する電子線照射部近傍のみに窒素ガスを噴射して酸素濃度を大気よりも減少させるように構成している。また、本実施形態では、第1および第2の実施形態と同様に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材層を複数層設けるが、第1層としてワイヤ表面にプライマ処理を施すと共に、結合材混合液の電子線硬化工程の後、さらに結合材層を加熱熟成する加熱熟成工程を設けている。
【0073】
図5において、送り出しロール10に巻かれたワイヤ11は、前述のように巻き取りロール20に引張られて巻き取られる。また、ワイヤ11の素材は特に限定されるものではなく、ピアノ線、黄銅被覆ピアノ線、ステンレス鋼線といった金属線やガラス繊維といった無機化合物による線、ナイロンといった有機化合物による線、またはそれらの撚線、等が挙げられる。
【0074】
送り出しロール10から引き出されたワイヤ11は、電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材層との密着性を向上させるために溶剤蒸気脱脂槽で脱脂処理された後、プライマ処理槽21aに導かれ、化学的プライマ処理が施される。こうしてプライマ層22d(第1層)が形成される。
【0075】
ワイヤ表面を予めプライマ処理しておくことにより、ワイヤ表面での混合被覆(接着剤)の硬化を促進するとともに、ワイヤ11と混合被膜(接着剤)との密着性を高めることができる。この化学的プライマ処理としては、前述のカップリング剤(例えば、シランカップリング剤)の表面塗布が挙げられる。
【0076】
次いで、化学的プライマ処理が施されたワイヤ11は、金属との密着性に優れる電子線硬化性樹脂(接着剤)を収容した接着剤塗布槽21Aに導かれ、その塗布処理が施される。これによって、電子線硬化性接着剤を含む結合材層(第2層)が形成される。
【0077】
また、カルボキシル基等の金属との密着性を高める官能基を導入した電子線硬化性樹脂(接着剤)は、ワイヤ11との密着性および電子線硬化性樹脂を主成分とする混合被膜(第3層)との密着性に優れるため、その電子線硬化性接着剤を塗布処理することにより、結果として、ワイヤ11と混合被膜(第3層)との密着性を高めることができる。なお、必要に応じて電子線硬化性接着剤に砥粒および添加物を混入させた混合接着剤液を用いてもよい。この電子線硬化性接着剤(あるいは混合接着剤液)の塗布処理の後、塗布膜厚み制御および硬化処理を行う。
【0078】
この塗布膜厚み制御は、接着剤塗布槽21Aの出口に移動可能に設けられた線径ジグ23aにより、ワイヤ11に付着している余分な電子線硬化性接着剤等を掻き落として未硬化の電子線硬化性接着剤被覆を所定の厚みに整えるか、あるいは、電子線硬化性接着剤被覆が形成されたワイヤ外径を所定の直径に整えることによって行われる。
【0079】
また、前記硬化処理は、線径ジグ23aを通過したワイヤ11に対して電子線照射装置24aより所定の電子線を照射することによって行われる。ここで、電子線照射装置24aのガス噴射機構31aから電子線照射部31cに対し、ワイヤ11がその半径方向に振動しないように、ワイヤ走行方向に沿って(図中、上方から下方へ)、ガスを噴射・供給する。ガスの供給量(流量)は、電子線照射部31c近傍における酸素濃度が大気中の酸素濃度よりも少なくとも10%程度減少させる程度であることが望ましい。また、噴射ガスは、大気環境中に放出可能な窒素ガス、アルゴンガスであることが望ましい。なお、噴射されたガスは電子線照射装置24aの排気機構31bを介して回収される。この電子線硬化工程により、電子線硬化性接着剤被覆(第2層)が切断加工に十分な硬度に硬化した硬化層(電子線硬化性接着剤層)22eが形成される。
【0080】
ローラ12を通過し、前述のプライマ処理および電子線硬化性接着剤の塗布処理によって、ワイヤ本体11aの表面にプライマ層(第1層)22dが形成され、さらにその上に電子線硬化性接着剤層(第2層)22eが形成されたワイヤ11は、次いで、ロート状の樹脂塗布槽21bに収容された混合溶液22中を通過する。このとき、電子線硬化性接着剤層22e上に混合液22が層状に付着して未硬化の混合被覆が形成される。
【0081】
ここで、樹脂塗布槽21bに収容された混合溶液22は、電子線硬化性樹脂22aに所定の添加物22bを添加、混合した液状樹脂に、所定の砥粒22cを混合した流動性混合物である。具体的には、混合溶液22は、液状樹脂すなわち電子線硬化性樹脂22aに、平均粒径が0.1〜15μmの金属粒子および/または平均粒径が0.1〜15μmの無機粉末を、あるいは短径が0.1〜15μm、長径が1〜200μmの金属ファイバおよび/または無機ファイバ5〜90wt%を、添加物22bとして添加、混合した添加物混合液状樹脂を作製し、その添加物混合液状樹脂と所定粒径の砥粒22cとを均一に混和した混合溶液となっている。砥粒22cは、特に限定されるものではなく、ダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ素)、アルミナ、炭化珪素、等の硬質砥粒等でもよい。なお、結合材がワイヤ11の半径方向に形成された複数層からなる場合、その結合材への砥粒および粉末の添加については、所望の切断特性を得ることができれば、いずれの層に添加してもよい。
【0082】
一方、樹脂塗布槽21bの出口には、線径ジグ23bが移動可能に設けられており、ワイヤ11に付着している余分な混合液22をこの線径ジグ23bにより掻き落として、未硬化の混合被覆を所定の厚みに整え、あるいは、その混合被覆が形成されたワイヤ外径を所定の直径に整えるように構成されている。
【0083】
線径ジグ23bを通過したワイヤ11は、次いで、電子線照射装置24bによって所定の電子線を照射される。ここで、電子線照射装置24bのガス噴射機構32aから電子線照射部32cに対し、ワイヤ11がその半径方向に振動しないように、ワイヤ走行方向に沿って(図中、上方から下方へ)、ガスを噴射・供給する。ガスの供給量(流量)は、電子線照射部32c近傍における酸素濃度が大気中の酸素濃度よりも少なくとも10%程度減少させる程度であることが望ましい。また、噴射ガスは、大気環境中に放出可能な窒素ガス、アルゴンガスであることが望ましい。なお、噴射されたガスは電子線照射装置24bの排気機構32bを介して回収される。この電子線硬化工程により、電子線硬化性樹脂を主成分とする樹脂系結合材層22a、すなわち前記混合被覆が切断加工に十分な硬度に硬化した硬化層(第3層)が形成される。
【0084】
なお、本実施形態に限らず、第3層を形成した後、ワイヤ11を一旦巻き取るとともにプライマ処理槽21aおよび接着剤塗布槽21Aを取り外し、再度、巻き出して樹脂塗布槽21b内の混合溶液中を通過させた後、その樹脂塗布槽の出口に設けられた線径ジグ23bによって塗布膜厚み制御を行い、さらに電子線照射装置24bによって硬化処理を行うことにより、第4層以上の複数層からなる結合材で砥粒を固定してもよい。
【0085】
こうして、所望の複数層からなる結合材で砥粒を固定したワイヤ工具11Tが順次できあがる。
【0086】
線径測定器17は、前述のように電子線照射装置24bより下流側でワイヤ工具11Tの外径寸法を測定するもので、その測定情報を制御系16にフィードバックすることができる。また、制御系16は、その測定情報を基にワイヤ11と線径ジグ23a、23bとの芯ずれを検出し、常にワイヤ11が線径ジグ23a、23bの中心を走行し、混合被膜(第1層〜第3層)がワイヤ11の長さ方向においても周方向においても一定の厚さとなるように、ワイヤ11と線径ジグ23a、23bの相対位置の制御を行う。また、制御系16は、図示しないガス濃度センサの検知情報に基づき、ガス流量が予め設定した値となるように噴射機構31a、32aによるガス噴射を制御する。
【0087】
こうして、その外周面に混合被膜が形成されたワイヤ工具11は、ローラ14、15を通過した後、巻き取りロール20に巻き取られ、さらに図6に示す加熱炉40に複数個まとめて搬入・載置され、所定温度で所定時間、加熱処理される。
【0088】
この加熱炉40は、前述の製造・巻取り後のワイヤ工具11を、図示しない入口から複数個搬入・収容し、所定温度で所定時間、加熱処理するバッチ式の炉であって、炉体41の上部面に設けられた1対(あるいは複数対)のバーナ42a、42bと、加熱炉41の下部面に設けられた排気口43a、43bと、炉体41の下部に設けられ、被加熱物(ワイヤ工具11)を複数載置するための載置台44と、を備え、バーナ42a、42bに供給された燃料と燃焼用空気とを混合して、炉内に噴射し燃焼させるように構成されている。なお、本実施形態に限らず、ワイヤ工具11の構成や個数に応じ、重油炉、ガス炉、電気炉、等を適宜選択して使用することができる。
【0089】
この加熱熟成工程において、製造後のワイヤ工具11を所定温度で所定時間、加熱熟成することにより、金属粉末等の添加に起因する未硬化部が完全に硬化され、切断加工に適した硬度を有する結合材層を形成することができる。なお、本実施形態では、電子線照射装置ごとに窒素ガスを噴射しているが、これに限らず、製造装置全体に窒素ガスを供給するように構成してもよい。
【0090】
本実施形態では、電子線照射部31c、32cにおいてランニングコストを大幅に増加させることなく、酸素濃度を減少させて酸素による重合阻害を防止でき、樹脂の重合硬化反応を安定に確実に実現できることができる。
【0091】
また、本実施形態では、電子線硬化後に前述の加熱熟成工程を設けることにより、金属添加物周囲で生じた硬化不良による結合材硬度の低下を改善し、さらに電子線照射時間を短縮させることが可能である。なお、本実施形態に限らず、複数個のワイヤ工具を保管可能な保管庫を設け、工具結合材の電子線硬化後の自然硬化熟成処理を行なうように構成してもよい。また、本実施形態に限らず、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂および砥粒の混合溶液を塗布し、その混合溶液を電子線硬化する工程を繰り返すことによって、複数の電子線硬化樹脂層からなる結合材を形成してもよい。
【0092】
【実施例】
[第1の実施例]
本実施例では、ワイヤ11として直径0.20mmのピアノ線を用い、前述の製造方法により、プライマ処理槽21a内のシランカップリング剤をワイヤ11上に塗布してプライマ層(結合材第1層)を形成する。
【0093】
一方、アクリレート系プレポリマ(オリゴマあるいはモノマ)からなるラジカル重合型電子線硬化性樹脂溶液中に、平均粒径2μmの銅微粒子を30wt%添加し、ホモジェナイザにて約10分間混和する。次に、集中度20に該当する30/40μmのダイヤモンド砥粒を微量のエチルアルコールで湿潤し、その液状樹脂に入れ、ホモジェナイザにて約10分間混ぜ合わせる。そして、前記樹脂塗布槽21bに銅微粒子を添加した液状樹脂とダイヤモンド砥粒との混合溶液22を入れ、前述の製造方法により、プライマ処理されたワイヤ11を樹脂塗布槽21b内に導き、整形する開口直径が約0.27mmの線径ジグ23bを通過させ、容量300keVの電子線照射装置24bによって電子線を照射して電子線硬化させる。
【0094】
これにより、プライマ層(結合材第1層)および電子線硬化性樹脂を主成分とする層(結合材第2層)の2層からなる結合材で砥粒と固定された、直径0.25〜0.26mmのワイヤ工具を得た。
【0095】
本実施例で用いた電子線硬化性樹脂は、電子線照射によりラジカル重合を生じるラジカル重合型の樹脂であったが、樹脂成分である、オリゴマ、モノマは本実施例記載の成分に限定されるものではない。
【0096】
この他に、オリゴマ、モノマとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ハイパロン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、ポリクロロプレン、ポリジメチルシロキサン、エポキシ、ポリエステル、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、ポリアミド、メラミン、尿素、等を用いてもよい。
【0097】
本実施例では、樹脂中への添加剤として銅微粒子を用いたが、添加剤はこれに限定されるものではない。添加剤としては、所定の時間内に樹脂硬化を完了し、電子線硬化後の結合材の機械的強度を向上でき、工具の耐摩耗性等の特性を向上できるものであればよい。このような添加剤として、金属微粒子、金属酸化物、金属炭化物、半導体材料に代表される非金属材料の酸化物、炭化物等、あるいは粒子以外にファイバ状のものを用いてもよい。
【0098】
また、本実施例では、2層からなる結合材を用いたが、3層以上からなる結合材で砥粒と固定する場合についても、第2層目と同様の工程を繰り返すことにより所定の直径のワイヤ工具を得ることができる。この際、第2層目以降の各層の成分構成を適宜変更して形成してもよい。
【0099】
[第2の実施例]
本実施例では、ワイヤ11として直径0.20mmのピアノ線を用いる。そして、前述の製造方法により、前記接着剤塗布槽21Aにアクリレート系電子線硬化性樹脂(接着剤)を収容し、ワイヤ11を接着剤塗布槽21A内に導き、さらに、整形する開口直径が約0。23mmの線径ジグ23aを通過させ、容量300keVの電子線照射装置24aで電子線を加速照射して硬化させる。こうして、アクリレート系電子線硬化性樹脂をワイヤ11上に塗布し、結合材第1層を形成する。
【0100】
一方、アクリレート系プレポリマ(オリゴマあるいはモノマ)からなるラジカル重合型電子線硬化性樹脂溶液中に、平均粒径2μmの銅微粒子を30wt%添加し、ホモジェナイザにて約10分間混和する。次に、集中度20に該当する30/40μmのダイヤモンド砥粒を微量のエチルアルコールで湿潤し、その液状樹脂に入れ、ホモジェナイザにて約10分間混ぜ合わせる。そして、樹脂塗布槽21bに銅微粒子を添加した液状樹脂とダイヤモンド砥粒との混合溶液22を入れる。
【0101】
この後、前述のようにアクリレート系電子線硬化性樹脂(接着剤)が塗布されたワイヤ11を、樹脂塗布槽21b内へ導き、整形する開口直径が約0.27mmの線径ジグ23bを通過させ、容量300keVの電子線照射装置24bで電子線を照射して硬化させ、結合材第2層を形成する。これにより、電子線硬化性樹脂を主成分とする2層からなる結合材で砥粒と固定された、直径0.25〜0.26mmのワイヤ工具を得た。
【0102】
本実施例では、2層からなる結合材を用いたが、3層以上からなる結合材で砥粒と固定する場合についても、第2層目と同様の工程を繰り返すことにより所定の直径のワイヤ工具を得ることができる。この際、第2層目以降の各層の成分構成を適宜変更して形成してもよい。なお、結合材第1層としては、電子線硬化性接着剤に替えて電子線硬化性接着剤(アクリレート系電子線硬化性樹脂)を用いてもよい。
【0103】
第1、第2の実施例で得られたワイヤ工具を用いて、3インチのシリコンインゴットの切断加工(ワイヤ線速度は300m/min)を行った。その結果、顕著な結合材層摩耗は観察されず、また平均切断能率も50mm2/min程度以上と良好であった。これに対し、化学的プライマ処理あるいは電子線硬化性樹脂(接着剤)の塗布処理を行わず、単層からなる電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒をワイヤ上に固定したワイヤ工具を用いて、同様に3インチのシリコンインゴットの切断加工(ワイヤ線速度は300m/min)を行った場合は、40分間程度で結合材層が剥離してしまい、また平均切断能率も10mm2/min程度と極めて低かった。
【0104】
第1、第2の実施例の製造方法によれば、電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法に比べ、約十倍の速度(分速1キロメートル)でワイヤ工具を製造することが可能となり、製造コストについても2分の1以下にすることができた。
【0105】
[第3の実施例]
本実施例では、ワイヤ11として直径0.20mmのピアノ線を用い、前述の製造方法により、シランカップリング剤をワイヤ11上に塗布してプライマ層を形成する。
【0106】
一方、前述の製造方法により、接着剤塗布槽21Aにアクリレート系電子線硬化性樹脂(接着剤)を収容し、ワイヤ11を接着剤塗布槽21A内に導き、さらに、整形する開口直径が約0.23mmの線径ジグ23aを通過させ、容量300keVの電子線照射装置24aで電子線を照射して硬化させる。ここで、前述のようにワイヤ工具11の走行方向に沿って窒素ガスを、流量1リットル/minでブローする。こうして、前述のプライマ層が形成されたワイヤ11上に、アクリレート系電子線硬化性樹脂(接着剤)を塗布・硬化し、結合材の第2層を形成する。
【0107】
さらに、アクリレート系プレポリマ(オリゴマあるいはモノマ)からなるラジカル重合型電子線硬化性樹脂溶液中に、平均粒径2μmの銅微粒子を30wt%添加し、ホモジェナイザにて約10分間混和する。次に、集中度20に該当する30/40μmのダイヤモンド砥粒を微量のエチルアルコールで湿潤し、その液状樹脂に入れ、ホモジェナイザにて約10分間混ぜ合わせる。そして、樹脂塗布槽21bに銅微粒子を添加した液状樹脂とダイヤモンド砥粒との混合溶液22を入れる。
【0108】
次いで、前述のようにシランカップリング剤およびアクリレート系電子線硬化性樹脂(接着剤)が塗布されたワイヤ11を、樹脂塗布槽21b内へ導き、整形する開口直径が約0。27mmの線径ジグ23bを通過させ、容量300keVの電子線照射装置24aで電子線を照射して硬化させ、結合材の第3層を形成する。これにより、プライマ層からなる第1層22d、電子線硬化性樹脂(接着剤)を主成分とする第2層22e、および電子線硬化性樹脂を主成分とする第3層22a、の3層からなる結合材で砥粒と固定された、直径0.25〜0.26mmのワイヤ工具を得た。
【0109】
この後、前述のように複数個のワイヤ工具のバッチ処理可能な加熱炉で、前記直径0.25〜0.26mmの電子線硬化後のワイヤ工具を複数個巻取った状態で加熱熟成処理する。あるいは、前述の保管庫によって、電子線硬化後に巻き取られた複数個のワイヤ工具を自然硬化熟成処理する。
【0110】
本実施例の電子線硬化工程で、窒素ガスの流量を1リットル/minとした場合は、結合材層の硬さがダイナミック硬度45程度となり、ブローなしの場合には、結合材層の硬さがダイナミック硬度15程度であった。また、窒素ガスの流量を1リットル/minとした場合、および完全窒素雰囲気中で電子線硬化させた場合とも、結合材層の硬さはダイナミック硬度45程度であった。すなわち、電子線硬化工程における窒素ガスのブロー(流量1リットル/min)によって、完全窒素雰囲気中での電子線硬化と同程度の、切断加工に供するに十分なダイナミック硬度が得られた。なお、結合材層硬さ測定には、島津製作所製の「ダイナミック微小硬度計DUH−201」を使用した。
【0111】
また、本実施例で銅粉末を添加した結合材層に対し、1秒間の電子線照射後、加熱熟成工程において、加熱炉により150℃で30秒間程度、ワイヤ工具を加熱したところ、結合材層は完全に硬化し、結合材層のダイナミック硬度は40程度であった。一方、銅粉末を添加した結合材層に対し、1分間の電子線照射を行ったところ、結合材に未硬化部が残り、結合材層のダイナミック硬度は15程度であった。すなわち、結合材に対する銅粉末の添加と電子線硬化後の加熱熟成処理によって、ワイヤ工具の切断加工時における耐摩耗性を向上させ、かつ切断加工に供するに十分な硬度を得ることができた。なお、結合材層硬さ測定には、島津製作所製の「ダイナミック微小硬度計DUH−201」を使用した。
【0112】
さらに、加熱炉を使用せず、電子線硬化後のワイヤ工具を室温下で放置したところ、2〜3日程度で、結合材層は完全に硬化し、結合材層のダイナミック硬度は40程度であった。すなわち、加熱熟成処理に比べると長時間かかるが、自然硬化熟成処理によっても切断加工に供することが可能なワイヤ工具を得ることができた。
【0113】
また、第1または第2の実施例と比べ、電子線硬化時間を1/2に短縮し、その後、加熱炉により150℃で20秒間程度、加熱した結果、第1または第2の実施例の電子線照射時間で硬化させたワイヤ工具と、同等の硬度を有する結合材層を得ることができた。例えば、加熱処理をワイヤ工具50個のバッチ処理とすると、1個あたりの工具製造コストは、電子線硬化工程のみの場合に比べ、10%程度削減できることが判明した。
【0114】
本実施例のワイヤ工具を用い、3インチのシリコンインゴットの切断加工(ワイヤ線速度は300m/min)を行ったところ、結合材層摩耗は殆ど観察されず、また平均切断能率も50mm2/min程度以上と、良好であった。
【0115】
なお、本実施例に限らず、4層以上からなる結合材で砥粒を固定してもよい。この場合についても、第3層と同様の工程を繰り返すことにより所定の直径のワイヤ工具を得ることができる。さらに、第3層以降の各層の成分構成を適宜変更して形成してもよい。また、本実施例に限らず、所望の切断特性を得ることができれば、砥粒や添加物をいずれの層に混入してもよい。また、樹脂硬化に用いる電子線硬化性樹脂の樹脂成分、樹脂への添加剤は、本実施例に限らず、他のものを用いてもよい。
【0116】
【発明の効果】
本発明によれば、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具において、前記結合材が工具半径方向に複数層からなるように構成し、ワイヤと直接接する部分には、金属であるワイヤとの密着強度の高い層(電子線硬化性接着剤層、プライマ層、あるいは電子線硬化性接着剤層)を設けることにより、ワイヤ工具の製造時間を短縮するとともに、結合材被膜とワイヤ面との密着力を高めることができ、そして十分なワイヤ工具硬度を得ることができ、長尺で安価かつ高寿命なワイヤ工具を提供することができる。
【0117】
また、本発明によれば、ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法において、結合材硬化工程、すなわち電子線硬化工程を、大気中よりも酸素濃度を減少させた雰囲気中で行うことで、大規模な装置を要することがなくなり、また電子線硬化後に加熱熟成処理を行なうことで、安定かつ確実に、結合材樹脂の硬化を実現でき、そして十分なワイヤ工具硬度を得ることができ、長尺で安価かつ高寿命なワイヤ工具を提供することができる。
【0118】
なお、電子線照射を窒素雰囲気中で行うことによって、重合硬化反応を安定かつ確実に実現することができる。
【0119】
また、ワイヤを走行させながら、ワイヤと結合材被膜との密着性を高める層を形成し、次に、添加物混合液状樹脂と砥粒との混合溶液中を通過し、ワイヤに混合液を付着させて混合被覆を形成し、次いでワイヤに付着した余分な混合液を取り除くことにより、混合被膜の均一なワイヤ工具を連続的に製造することができるという効果がある。
【0120】
さらに、結合材樹脂に、金属粒子や無機粉末、金属ファイバや無機ファイバを添加することによって、無添加の場合に比べ、ワイヤ工具の機械的強度、耐熱性が向上する。
【0121】
また、製造工程中で混合被膜形成後のワイヤ工具の線径を測定し、線径制御や芯ずれ抑制の制御を行うことにより、線径ばらつきを最小限に抑えることが可能となり、品質の安定したワイヤ工具を製造することができる。
【0122】
以上説明したように、本発明によれば、ワイヤ上に砥粒を固定する結合材として電子線硬化性樹脂を用い、高寿命で切断加工の高精度化・高能率化が可能で、かつ長尺で安価なワイヤ工具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るワイヤ工具の製造装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係るワイヤ工具の製造装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係るワイヤ工具の横断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るワイヤ工具の製造装置の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係るバッチ式加熱炉の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係るワイヤ工具の横断面図である。
【図7】従来のシリコンインゴットの切断加工に用いられる遊離砥粒を用いたマルチワイヤ切断加工装置の概略構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
10 送り出しローラ
11 ワイヤ
11a ワイヤ本体
11B 結合材第1層
11C 未硬化の混合被覆
11D 結合材第2層(混合被膜(硬化膜))
11E 結合材第3層
11T ワイヤ工具
12〜14 送りローラ
15 ダンサローラ
16 制御系
17 線径測定器
20 巻き取りロール
21A 接着剤塗布槽
21a プライマ処理槽
21b 樹脂塗布槽
22 混合液(混合溶液)
22a 電子線硬化性樹脂層(電子線硬化性樹脂)
22b 添加物
22c 砥粒
22d プライマ層
22e 電子線硬化性接着剤層(電子線硬化性樹脂(接着剤))、
23a、23b 線径ジグ
24a、24b 電子線照射装置
31a、32a ガス噴射機構
31c、32c 電子線照射部
40 加熱炉
44 載置台
Claims (1)
- ワイヤ上に電子線硬化性樹脂を主成分とする結合材で砥粒を固定したワイヤ工具の製造方法であって、
ワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ表面に化学的プライマ液を塗布するプライマ液塗布工程と、
表面にプライマ液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に光硬化性接着剤を主成分とし、砥粒と添加物の両方または一方を含む混合接着剤液を塗布する接着剤塗布工程と、
表面に混合接着剤液が塗布されたワイヤをその軸線方向に走行させながら、ワイヤ上に前記光硬化性接着剤を除く電子線硬化性樹脂を主成分とし、砥粒と添加物の両方または一方を含む混合溶液を塗布する混合溶液塗布工程と、
ワイヤ上に塗布された前記混合接着剤液を光硬化する光硬化工程と、
ワイヤ上に塗布された前記混合溶液を電子線硬化する電子線硬化工程と、
を有し、
前記電子線硬化工程では、ワイヤ走行方向に沿って電子線照射部位近傍に所定の不活性ガスを噴射することを特徴とするワイヤ工具の製造方法。
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