JP3353734B2 - 樹脂被覆鋼板 - Google Patents

樹脂被覆鋼板

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JP3353734B2 JP4943899A JP4943899A JP3353734B2 JP 3353734 B2 JP3353734 B2 JP 3353734B2 JP 4943899 A JP4943899 A JP 4943899A JP 4943899 A JP4943899 A JP 4943899A JP 3353734 B2 JP3353734 B2 JP 3353734B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は18L缶、ペール缶
等のような飲料缶以外の缶体(一般缶)の缶胴部や蓋部
用として好適な、酸性からアルカリ性までの幅広い内容
物適性、特に界面活性剤に対する用途適性に優れた樹脂
被覆鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、一般缶用途の大型缶の分野では、
内部に厚さ1000μm以上の樹脂の袋を取り付けた缶
が高耐食性用途に使用されてきた。しかし、コストの低
減と缶廃棄時の環境問題等の観点から、この分野におい
ても各種の樹脂被覆鋼板を使用した高耐食缶を製造する
試みがなされている。そのなかで安価なオレフィン樹脂
をラミネートした缶は、界面活性剤を缶内容物とした場
合に缶加工部の応力集中部で樹脂層に割れを生じること
が報告されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】一方、界面活性剤用途
の一般缶用樹脂被覆鋼板としては、特開平9−2989
2号公報にポリエステル系樹脂ラミネート鋼板が開示さ
れているが、ポリエステル系樹脂は一般缶用途で多く使
用されるアルカリ系の内容物中において加水分解するた
め用途が大きく制限される。また、ポリエステル系樹脂
はオレフィン樹脂に較べて高価である。
【0004】したがって本発明の目的は、18L缶、ペ
ール缶等の一般缶用の素材として、酸性からアルカリ性
までの幅広い用途適性を有するとともに、特に界面活性
剤中での用途適性に優れ、しかも低コストで製造可能な
樹脂被覆鋼板を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述の課
題を解決すべく缶内面側に種々の被覆構造を有する樹脂
被覆鋼板とその特性(耐食性、内容物適性等)について
調査、検討を行い、その結果、次のような知見を得た。 (1) ポリエステル系樹脂被覆鋼板は、アルカリ系の内容
物中において樹脂層が分解しやすく、このため鋼板自体
も腐食しやすい。また、安価なポリオレフィン系樹脂の
中でも、ポリプロピレン樹脂を被覆した鋼板は、界面活
性剤を充填して経時した際に巻締め加工部や口金加工部
で樹脂層に亀裂を生じる。
【0006】(2) また、ポリエチレン系樹脂の中でも、
高密度ポリエチレン系樹脂(HDPE)や低密度ポリエ
チレン系樹脂(LDPE)を母層とする樹脂被覆層を有
する樹脂被覆鋼板も、同様に界面活性剤を充填して経時
した際に缶加工部で樹脂層に亀裂を生じる。
【0007】(3) これに対して、ポリエチレン系樹脂の
中でも直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(LLDPE)
の特定のコポリマー、具体的には、コモノマーとしてC
以上の炭素鎖を有する不飽和炭化水素を含む直鎖状低
密度ポリエチレンのコポリマーを被覆した鋼板は、加工
時に樹脂層に亀裂が生じることがなく、酸溶液中でも良
好な耐金属溶出性を示し、また、界面活性剤を充填して
経時した際にも缶加工部の樹脂層に亀裂を生じにくい。
【0008】(4) また、優れた耐食性や溶接性を確保す
るためには、素材鋼板である表面処理鋼板の表面粗さや
クロム水和酸化物層の付着量に最適範囲が存在する。 (5) 表面処理鋼板面と接する樹脂層として、無水物基を
含む不飽和単量体で変性した変性ポリエチレン樹脂を含
むポリエチレン系樹脂を適用することにより、良好な耐
アルカリ性が得られる。
【0009】本発明は以上のような知見に基づきなされ
たもので、その特徴する構成は以下の通りである。 [1] 缶内面側となる表面処理鋼板面が、表面粗さRa:
0.40μm以下、表面の1インチ当たり25μインチ
を超える凸部の数:120PPI以下である表面処理鋼
板を素材鋼板とし、該表面処理鋼板の少なくとも缶内面
側となる面に、ポリエチレン系樹脂からなる合計厚さが
20〜80μmの複層の樹脂層を有し、該複層の樹脂層
のうち表面処理鋼板面と接する樹脂層を除いた樹脂層で
あって、少なくとも缶内容物と接する樹脂層および/ま
たはその下層の樹脂層が、コモノマーとしてC以上の
炭素鎖を有する不飽和炭化水素を0.5mol%以上含
む直鎖状低密度ポリエチレンのコポリマーからなること
を特徴とする樹脂被覆鋼板。
【0010】[2] 上記[1]の樹脂被覆鋼板において、缶
内面側となる面に形成される複層の樹脂層のうち表面処
理鋼板面と接する樹脂層が、無水物基を含む不飽和単量
体で変性した変性ポリエチレン樹脂を含有し、且つ無水
物基を含む不飽和単量体の含有量が0.05〜5wt%
であるポリエチレン系樹脂からなることを特徴とする樹
脂被覆鋼板。 [3] 上記[1]または[2]の樹脂被覆鋼板において、表面処
理鋼板が、缶内面側となる面の最外層に金属クロム換算
での付着量が3〜30mg/mのクロム水和酸化物層
を有することを特徴とする樹脂被覆鋼板。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の詳細をその限定理
由とともに説明する。本発明の樹脂被覆鋼板において、
表面処理鋼板の缶内面側となる面に形成される複層の樹
脂層は、一般缶に要求される酸性からアルカリ性までの
幅広い内容物適性と加工部での耐食性を考慮してポリエ
チレン系樹脂とする。
【0012】また、この複層の樹脂層のうち表面処理鋼
板面と接する樹脂層(接着層)以外の樹脂層であって、
少なくとも缶内容物と接する樹脂層および/またはその
下層の樹脂層については、特に缶内容物が界面活性剤で
ある場合の耐食性(耐割れ性)を確保するため、コモノ
マーとしてC以上の炭素鎖を有する不飽和炭化水素を
含む直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のコポリ
マーとする。
【0013】直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)
以外のポリエチレンやコモノマーとしてC未満の炭素
鎖を有する不飽和炭化水素を用いた場合には、界面活性
剤中での優れた耐食性(耐割れ性)が得られない。コモ
ノマーとしては、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテ
ン、デセンなどのC以上の炭素鎖を有する不飽和炭化
水素の1種以上を用いることができる。また、これらの
不飽和炭化水素とともにプロピレンを併用することも可
能である。
【0014】上記コモノマー(C以上の炭素鎖を有す
る不飽和炭化水素)の濃度は、0.5mol%以上とす
る。コモノマーの濃度が0.5mol%未満では十分な
耐食性が得られず、また、耐熱性にも劣る。一般に連続
コイルラミネート等により缶内面側の樹脂層を設ける場
合、この樹脂層を設けた後に缶外面側の塗装印刷を施す
ため、樹脂層には塗装印刷に伴う焼付処理に耐え得る耐
熱性が必要となる。また、樹脂層が低融点のポリエチレ
ン系であることを考慮して、光硬化型塗装等の低温塗装
を適用する場合でも、樹脂層にはある程度の耐熱性が必
要である。さらに、溶接缶の缶胴部や天板に使用される
場合にも、溶接時の熱影響による劣化を防止するために
は樹脂層に耐熱性を付与することが必要である。このよ
うな点から、缶内面側の樹脂層について実用上問題の生
じることなく適用できるポリエチレン系樹脂の融点の下
限は約115℃であることが判った。上記コモノマーの
濃度が0.5mol%未満では直鎖状低密度ポリエチレ
ンのコポリマーの融点が低下し、十分な耐熱性が得られ
なくなる。
【0015】一方、上記コモノマーの濃度の上限は特に
限定しないが、その濃度が40mol%を超えるとポリ
エチレン樹脂の性質がコモノマーの影響を受けて変化し
てしまうため好ましくない。このため上記コモノマーの
濃度の上限は40mol%程度とすることが好ましい。
【0016】また、本発明の樹脂被覆鋼板では、缶内容
物と接する樹脂層をコモノマーとしてC以上の炭素鎖
を有する不飽和炭化水素を含む直鎖状低密度ポリエチレ
ンのコポリマーで構成することにより所望の効果が得ら
れるが、缶内容物と接する樹脂層をそれ以外のポリエチ
レン(例えば、高融点の高密度ポリエチレン)とし、缶
内容物と接する樹脂層の下層の樹脂層をコモノマーとし
てC以上の炭素鎖を有する不飽和炭化水素を含む直鎖
状低密度ポリエチレンのコポリマーで構成しても、界面
活性剤中での耐割れ性の向上効果が得られる。
【0017】上記樹脂層(特定の直鎖状低密度ポリエチ
レンのコポリマーからなる樹脂層)は、メルトフローイ
ンデックスが低い方が界面活性剤中での良好な耐食性
(耐割れ性)を示し、ASTM D1238による19
0℃での測定で8g/10分以下であることが望まし
い。但し、1.0g/10分未満では、樹脂層を被覆し
た際の気泡の巻込みが著しくなるため好ましくない。
【0018】また、複層の樹脂層のうち表面処理鋼板面
と接する樹脂層(接着層)は、アルカリ性内容物中での
耐樹脂剥離性の観点から無水物基を含む不飽和単量体で
変性した変性ポリエチレン樹脂を含むポリエチレン系樹
脂からなることが好ましい。この無水物基を含む不飽和
単量体で変性した変性ポリエチレン樹脂は、無水物基を
含む不飽和単量体をグラフト重合、ブロック共重合、ラ
ンダム共重合、末端処理等の手法でポリエチレン樹脂の
主鎖または側鎖に導入したものもので、接着層をこのよ
うな樹脂を含む、好ましくはこれを主成分とするポリエ
チレン系樹脂で構成することにより、表面処理鋼板面と
の密着性およびアルカリ内容物中での耐樹脂剥離性を向
上させることができる。
【0019】好ましい不飽和単量体としては、無水マレ
イン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸
などの不飽和無水カルボン酸が挙げられ、これらの1種
以上を用いることができる。上記不飽和単量体の濃度は
0.05〜5wt%、好ましくは0.1〜2.0wt%
が適当である。不飽和単量体の濃度が0.05wt%未
満では密着性の向上効果が小さく、一方、5wt%を超
えるとアルカリ等の耐薬品性が低下し、また密着性の向
上効果も飽和する。また、上述した諸特性の面で不飽和
無水カルボン酸変性ポリエチレン樹脂のなかでも無水マ
イレン酸変性ポリエチレン樹脂が最も好ましい。この場
合、無水マレイン酸の濃度としては0.1〜0.5wt
%が最も好ましい。
【0020】また、不飽和単量体としては、不飽和カル
ボン酸、不飽和エステル、不飽和アミド、不飽和イミ
ド、不飽和アルデヒド、不飽和ケトン等の1種以上を用
いることも可能であり、例えば、非アルカリ内容物に対
しては不飽和カルボン酸や不飽和エステルが良好な耐食
性を示すが、缶内容物(特に、アルカリ性内容物、界面
活性剤)中での耐樹脂剥離性の点からして、少なくとも
不飽和単量体の一部として不飽和無水カルボン酸を用い
ることが好ましい。
【0021】接着層を構成する樹脂層は、不飽和単量体
の濃度が上述した所定の範囲であれば上記変性ポリエチ
レン樹脂以外の他のポリエチレン系樹脂(例えば、密度
が0.9g/cm以下の極低密度ポリエチレン樹脂、
メタロセン系のポリエチレン系樹脂)を含むことができ
る。なお、この樹脂層(接着層)の厚さは、密着性の観
点から2μm以上とすることが好ましい。
【0022】缶内面側の複層の樹脂層の層数は任意であ
るが、一般に4層以上ではフィルム成膜時のコストが著
しく高くなるため、2層または3層とすることが好まし
い。複層の樹脂層の厚さは鉄溶出性などの面で耐食性に
影響を与える。樹脂層の合計厚さが20μm未満では塗
装鋼板以下の耐食性しか得られず、樹脂層に欠陥などを
生じることなく安定した耐食性を確保するためには、樹
脂層の合計厚さは20μm以上であることが必要であ
る。一方、樹脂層の合計の厚さが80μmを超えると耐
食性の向上効果が飽和するだけでなく、打抜き加工時に
かじりの発生やフィルム屑の発生などの問題を生じる。
このため複層の樹脂層の合計厚さは80μm以下とす
る。
【0023】本発明の樹脂被覆鋼板の素材鋼板となる表
面処理鋼板の種類は特に限定されないが、耐食性等の面
からは最外層に電解クロメート処理層を有する表面処理
鋼板が望ましい。また、表面処理層としては上記電解ク
ロメート処理層以外に(特に、電解クロメート処理層の
下地として)、合金または純金属としての錫、ニッケ
ル、鉄、クロム等の1種または2種以上を含む表面処理
層であってもよい。
【0024】具体的には、電解クロメート処理鋼板、ぶ
りき、薄錫めっきぶりき、ニッケルめっき鋼板、ティン
フリースチールやニッケルめっき鋼板の表面に微量の不
均一な錫層を設けた表面処理鋼板、上記の各表面処理鋼
板において表面処理層の下地としてNi熱拡散処理を施
した表面処理鋼板、さらに、上記各表面処理鋼板の表面
に電解クロメート処理層を形成した表面処理鋼板等が挙
げられる。
【0025】缶内面側となる表面処理鋼板面は、その表
面粗さRaが0.40μm以下であって、且つ表面処理
鋼板表面において1インチ当たり25μインチを超える
凸部の数が120PPI以下であることが必要である。
表面処理鋼板の表面粗さRaが0.40μm超または1
インチ当たり25μインチを超える凸部の数が120P
PI超では、樹脂層を設ける際に樹脂層と鋼板の間に気
泡などを巻込みやすく、耐食性が劣化しやすい。
【0026】一方、溶接性の観点からは缶内面側となる
表面処理鋼板面は、その表面粗さRaが0.15μm以
上であって、且つ表面処理鋼板表面において1インチ当
たり25μインチを超える凸部の数が10PPI以上で
あることが好ましい。表面処理鋼板の表面粗さRaが
0.15μm未満または1インチ当たり25μインチを
超える凸部の数が10PPI未満では、電解クロメート
処理層を有する表面処理鋼板を素材鋼板とした場合にお
いて、無研磨溶接時にクロム水和酸化物層の破壊が不十
分となりやすく、このため表面処理鋼板が金属錫を含ま
ない場合には溶接の安定性が阻害されやすい。但し、こ
のような溶接適性は、缶胴無研磨シーム溶接缶以外では
必要とされないため、缶胴無研磨シーム溶接缶以外の缶
体に適用される場合には、表面処理鋼板の表面粗さの上
記下限は考慮しなくてもよい。
【0027】また、上述した電解クロメート処理層を有
する表面処理鋼板のなかでも、優れた耐食性と樹脂層の
密着性を確保するという面から、缶内面側となる面の最
外層にクロム水和酸化物層を有し、且つその付着量が金
属クロム換算で3〜30mg/mである表面処理鋼板
が特に好ましい。このクロム水和酸化物層の金属クロム
換算での付着量が3mg/m未満では良好な耐食性と
樹脂層の密着性が確保できず、一方、付着量が30mg
/mを超えると、クロム水和酸化物層の付着ムラによ
り密着性が低下し、また、20m/分以上の高速無研磨
溶接を行う際の溶接性が低下する場合もある。
【0028】表面処理鋼板に樹脂被覆を施す方法に特別
な制限はなく、予め製造された樹脂フィルムを表面処理
鋼板に連続的にラミネートする方法(フィルムコイルラ
ミネート法)、溶融した樹脂をTダイ等で表面処理鋼板
面に直接熱押出しする方法(溶融熱押出しラミネート
法)、予め製造された樹脂フィルムを切り板毎にラミネ
ートをする方法(フィルムシートラミネート法)等、任
意の方法で樹脂被覆を施すことができる。
【0029】
【実施例】板厚0.32mmの冷延鋼板を通常の方法で
電解脱脂、酸洗した後、公知の方法で各種の表面処理を
行った。この表面処理鋼板を樹脂フィルムの接着層の融
点以上に加熱して片面または両面のラミネートを行い、
フィルム融点〜230℃の温度域から2秒以内に水で急
冷した。その際、缶胴部に相当する鋼板については、鋼
板の両エッジ部に約10〜13mm幅のラミネート避け
部を設けた。片面のラミネートを行った鋼板は、ラミネ
ート後、缶外面側に相当する面にフィルムの融点以下の
温度でクリヤ塗装・焼付を行った。得られたラミネート
鋼板およびこのラミネート鋼板を製缶して得られた缶体
について、以下のような性能評価を行った。
【0030】(1) 耐酸性内容物適性 18L缶の缶胴部に成形後、この缶胴部からサンプルを
切り出した。このサンプルを1.5%クエン酸+1.5
%食塩溶液中に38℃で4週間浸漬した後の腐食状況お
よび鉄溶出量を調べ、これを以下に述べる比較材(2回
塗装した塗装缶)に対する試験結果と比較し、下記によ
り耐酸性内容物性を評価した。なお、比較材は缶内面側
に2回塗装(塗料:エポキシフェノール系塗料)を施し
た缶胴部からサンプルを切り出し、これを上記と同様の
条件で試験溶液中に浸漬し、腐食状況および鉄溶出量を
調べた。 ○:2回塗装材よりも良好 ×:2回塗装材と同等か若しくは2回塗装材より劣る
【0031】(2) 界面活性剤中での経時耐食性 18L缶の缶胴部に成形後、この缶胴部からサンプルを
切り出した。このサンプルをエリクセン加工後、中性洗
剤(商品名:ライポンF)中に35℃で3ヶ月間浸漬し
た後のフィルム抵抗の低下の有無を評価した。 ○:変化なし ×:抵抗の低下あり
【0032】(3) 界面活性剤中での加工後耐食性 ラミネート鋼板から切り出したサンプルにクロスカット
を施した後、エリクセン加工を行い、このサンプルの端
面および背面をシールし、中性洗剤液中に50℃で1週
間浸漬した後、下記により加工後耐食性を評価した。 ◎:クロスカット部に腐食による0.2mm幅未満のフ
ィルム剥離が生じているが、腐食による変色なし ○:クロスカット部に腐食による0.2mm〜2mm幅
のフィルム剥離が生じているが、腐食による変色なし ×:腐食による変色あり
【0033】(4) 加工部のフィルム密着性 ラミネート鋼板から切り出したサンプルにクロスカット
を施した後、エリクセン加工を行い、加工時のフィルム
の剥離の有無を評価した。 ○:フィルムの剥離なし ×:フィルムの剥離あり
【0034】(5) 耐アルカリ性 ラミネート鋼板から切り出したサンプルにクロスカット
を施した後、このサンプルをpH12のNaOH水溶液
中に35℃で2週間浸漬し、フィルムの溶解、剥離、フ
ィルム下の腐食の有無を調べ、下記により耐アルカリ性
を評価した。 ◎:クロスカット部に腐食による0.2mm幅未満のフ
ィルム剥離が生じているが、腐食による変色なし ○:クロスカット部に腐食による0.2mm〜2mm幅
のフィルム剥離が生じているが、腐食による変色なし ×:変色、フィルムの溶解または剥離あり
【0035】(6) 無研磨溶接性 18L缶胴用溶接機(富士工業(株)製 VWS)を使
用し、ワイヤー速度21m/分で缶胴部の連続製缶を製
缶機会を3回変えて行い、その際のACRに基づき下記
により溶接性を評価した。 ○:常にタップ範囲でACRが5ポイント以上 △:タップ範囲が安定しない ×:常にACRが5ポイント未満
【0036】[実施例1]缶内面側の樹脂層のうち、表
面処理鋼板面と接する樹脂層(接着層)を除いた樹脂層
であって、缶内容物と接する樹脂層またはその下層の樹
脂層の構成が異なるラミネート鋼板を製造した。本実施
例では、素材鋼板として表面粗さRaが0.35μm、
鋼板表面において1インチ当たり25μインチを超える
凸部の数が100PPIの電解クロメート処理鋼板を使
用した。電解クロメート処理鋼板のクロム付着量は、金
属クロム層が100mg/m、クロム水和酸化物層が
金属クロム換算で5mg/mである。
【0037】缶内面側の樹脂層のうちの表面処理鋼板面
と接する樹脂層(接着層)には無水マレイン酸変性ポリ
エチレン樹脂(無水マレイン酸濃度:0.12wt%)
を用い、この接着層の厚さは5μmとした。また、缶外
面側についてはポリエステル系の紫外線硬化型樹脂塗料
を塗布し、100℃以下で硬化させて膜厚5μmの塗膜
を形成した。
【0038】これらラミネート鋼板に関する上記試験の
結果(耐酸性内容物適性、界面活性剤中での経時耐食
性、界面活性剤中での加工後耐食性)を、缶内面側の樹
脂層の構成とともに表1〜表3に示す。表1〜表3にお
いて、No.13,No.14の比較例は、缶内容物と
接する樹脂層がそれぞれポリエチレンテレフタレート、
ポリプロピレンからなっているため、No.13につい
ては界面活性剤中での加工後耐食性が、またNo.14
については界面活性剤中での経時耐食性がそれぞれ劣っ
ている。
【0039】No.11、No.12の比較例は、缶内
容物と接する樹脂層がそれぞれ直鎖状高密度ポリエチレ
ン、長鎖分岐状低密度ポリエチレンからなっているた
め、No.11については界面活性剤中での経時耐食性
が、またNo.12については界面活性剤中での経時耐
食性と加工後耐食性がそれぞれ劣っている。No.7の
比較例は缶内面側の樹脂層の合計厚が20μm未満であ
るため、耐酸性内容物適性と界面活性剤中での加工後耐
食性が劣っている。
【0040】No.8、No.10の比較例は、缶内容
物と接する樹脂層を構成する直鎖状低密度ポリエチレン
の共重合成分がC未満の炭素鎖を有する不飽和炭化水
素(プロピレン)であるため界面活性剤中での経時耐食
性が劣っている。また、No.10の比較例は樹脂層の
膜厚が80μmを超えているため剪断時にフィルム屑が
発生している。
【0041】No.9の比較例は、缶内容物と接する樹
脂層を構成する直鎖状低密度ポリエチレンの共重合成分
であるC以上の炭素鎖を有する不飽和炭化水素の濃度
が0.5mol%未満であるため界面活性剤中での経時
耐食性が劣っている。これら比較例に対して、No.1
〜No.6の本発明例の樹脂被覆鋼板は、いずれも優れ
た特性が得られている。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】[実施例2]缶内面側の樹脂層のうち表面
処理鋼板面と接する樹脂層(接着層)の構成が異なるラ
ミネート鋼板を製造した。本実施例では、素材鋼板とし
て表面粗さRaが0.35μm、鋼板表面において1イ
ンチ当たり25μインチを超える凸部の数が100PP
Iの電解クロメート処理鋼板を使用した。電解クロメー
ト処理鋼板のクロム付着量は、金属クロム層が100m
g/m、クロム水和酸化物層が金属クロム換算で5m
g/mである。
【0046】缶内面側の樹脂層は2層構造とし、缶内容
物と接する樹脂層についてはブテン3mol%を短鎖と
して導入した直鎖状低密度ポリエチレンコポリマーを用
い、この樹脂層の厚さは45μmとした。また、接着層
の厚さは5μmとした。また、缶外面側についてはポリ
エステル系の紫外線硬化型樹脂塗料を塗布し、100℃
以下で硬化させて膜厚5μmの塗膜を形成した。接着層
のポリエチレンは、一部を除いて密度0.925〜0.
890g/cm の極低密度ポリエチレンを用い、ま
た、接着層のポリエチレン樹脂に導入した不飽和単量体
の濃度は、重合率および樹脂ペレットの配合により調整
した。
【0047】これらラミネート鋼板に関する上記試験の
結果(加工部のフィルム密着性、耐アルカリ性、界面活
性剤中での加工後耐食性)を、缶内面側の樹脂層(接着
層)の構成とともに表4に示す。
【0048】表4において、No.8、No.9の比較
例は、接着層を構成するポリエチレン樹脂の共重合成分
が不飽和カルボン酸のみであるため、耐アルカリ性およ
び界面活性剤中での加工後耐食性が劣っている。No.
7の比較例は、接着層を構成するポリエチレン樹脂の共
重合成分である不飽和無水カルボン酸の含有率が0.0
5wt%未満であるため、加工部のフィルム密着性、耐
アルカリ性および界面活性剤中での加工後耐食性がとも
に劣っている。
【0049】これに対してNo.1〜No.6、No.
10の本発明例は、加工部のフィルム密着性、耐アルカ
リ性、界面活性剤中での加工後耐食性のいずれにおいて
も優れた特性が得られている。また、そのなかでも接着
層を構成するポリエチレン樹脂の共重合成分が無水マレ
イン酸であって、且つこの無水マレイン酸の濃度が比較
的低いNo.1、No.2の本発明例は、最も優れた特
性が得られている。これに対して、無水マレイン酸の濃
度が比較的高いNo.4の本発明例では、No.1やN
o.2に較べて特性がやや低下している。また、接着層
に極低密度ポリエチレン樹脂を用いたNo.6の本発明
も優れた特性が得られている。また、No.10の本発
明例は、接着層を構成するポリエチレン樹脂の共重合成
分の一部が不飽和エステル系の不飽和単量体であるた
め、非アルカリ性内容物(界面活性剤)中での加工後耐
食性は優れているが、耐アルカリ性についてはNo.1
やNo.2に較べてやや低下している。
【0050】
【表4】
【0051】[実施例3]表面粗さとクロム水和酸化物
層の付着量、さらにはクロム水和酸化物層の下層の皮膜
構成が異なる電解クロメート処理鋼板を素材鋼板として
ラミネート鋼板を製造した。
【0052】缶内面側の樹脂層は2層構造とし、缶内容
物と接する樹脂層についてはブテン3mol%を短鎖と
して導入した直鎖状低密度ポリエチレンコポリマーを用
い、この樹脂層の厚さは45μmとした。また、接着層
には無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂(無水マレイ
ン酸濃度:0.12wt%)を用い、この接着層の厚さ
は5μmとした。この接着層のポリエチレンとしては、
密度が0.89g/cmの極低密度ポリエチレンを用
いた。また、缶外面側についてはポリエステル系の紫外
線硬化型樹脂塗料を塗布し、100℃以下で硬化させて
膜厚5μmの塗膜を形成した。
【0053】これらラミネート鋼板に関する試験の結果
(加工部のフィルム密着性、界面活性剤中での加工後耐
食性、無研磨溶接性)を、表面処理鋼板の表面粗さ、ク
ロム水和酸化物層の付着量、クロム水和酸化物層の下層
の皮膜構成とともに表5に示す。表5において、No.
6の比較例は、クロム水和酸化物層の付着量(金属クロ
ム換算)が少ないため加工部のフィルム密着性と界面活
性剤中での加工後耐食性がともに劣っている。
【0054】No.7の比較例は、クロム水和酸化物層
の付着量(金属クロム換算)が多過ぎるため無研磨溶接
性が劣っており、また加工部のフィルム密着性も劣って
いる。No.8の比較例は、表面処理鋼板の表面粗さが
大き過ぎるため表面処理鋼板面とラミネートフィルムと
の間に気泡を巻き込み易く、このため加工部のフィルム
密着性、界面活性剤中での加工後耐食性がともに劣って
いる。なお、本発明例のなかでも素材鋼板の表面粗さを
極端に小さくしたNo.4は、無研磨溶接性が若干低下
した。
【0055】
【表5】
【0056】[実施例4]クロム水和酸化物層の付着
量、クロム水和酸化物層の下層側の皮膜構成が異なる電
解クロメート処理鋼板を素材鋼板としてラミネート鋼板
を製造した。電解クロメート処理鋼板としては、表面粗
さRaが0.35μm、鋼板表面において1インチ当た
り25μインチを超える凸部の数が100PPIの電解
クロメート処理鋼板を使用した。
【0057】缶内面側の樹脂層は2層構造とし、缶内容
物と接する樹脂層についてはブテン3mol%を短鎖と
して導入した直鎖状低密度ポリエチレンコポリマーを用
い、この樹脂層の厚さは45μmとした。また、表面処
理鋼板面と接する樹脂層(接着層)には無水マレイン酸
変性ポリエチレン樹脂(無水マレイン酸濃度:0.12
wt%)を用い、この接着層の厚さは5μmとした。ま
た、缶外面側についてはポリエステル系の紫外線硬化型
樹脂塗料を塗布し、100℃以下で硬化させて膜厚5μ
mの塗膜を形成した。
【0058】これらラミネート鋼板に関する試験の結果
(加工部のフィルム密着性、耐アルカリ性、界面活性剤
中での加工後耐食性)を、表面処理鋼板のクロム水和酸
化物層の付着量、クロム水和酸化物層の下層側の皮膜構
成とともに表6に示す。表6によれば、本発明例である
No.1〜No.8はいずれの特性も良好な結果が得ら
れている。但し、これらのなかでNo.3、No.4、
No.6、No.7、No.8は表面処理鋼板の金属ク
ロム付着量がNo.2やNo.5に較べて少ないため、
耐アルカリ性評価の際にフィルム欠陥部からめっき皮膜
中の金属錫が溶出する傾向がみられた。このため強アル
カリ中でめっき皮膜に達する疵を樹脂層が受けた場合、
皮膜に金属錫を有する鋼板では錫の溶出が避けられない
ので、内容物と製缶条件に配慮が必要である。
【0059】
【表6】
【0060】
【発明の効果】以上述べたように本発明の樹脂被覆鋼板
は、18L缶やペール缶等のような一般缶(特に大型
缶)に適用した際に、酸性からアルカリ性までの用途適
性に優れ、且つ内容物保護性にも優れており、しかも電
解クロメート処理鋼板等を素材として低コストに製造す
ることができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 渡辺 豊文 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 (72)発明者 大庭 直幸 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 (56)参考文献 特開 昭57−120435(JP,A) 特開 平8−174753(JP,A) 特開 平5−200961(JP,A) 特表 平2−501641(JP,A) 特表 平2−501645(JP,A) 特表 昭57−500970(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B32B 1/00 - 35/00

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 缶内面側となる表面処理鋼板面が、表面
    粗さRa:0.40μm以下、表面の1インチ当たり2
    5μインチを超える凸部の数:120PPI以下である
    表面処理鋼板を素材鋼板とし、 該表面処理鋼板の少なくとも缶内面側となる面に、ポリ
    エチレン系樹脂からなる合計厚さが20〜80μmの複
    層の樹脂層を有し、該複層の樹脂層のうち表面処理鋼板
    面と接する樹脂層を除いた樹脂層であって、少なくとも
    缶内容物と接する樹脂層および/またはその下層の樹脂
    層が、コモノマーとしてC以上の炭素鎖を有する不飽
    和炭化水素を0.5mol%以上含む直鎖状低密度ポリ
    エチレンのコポリマーからなることを特徴とする樹脂被
    覆鋼板。
  2. 【請求項2】 缶内面側となる面に形成される複層の樹
    脂層のうち表面処理鋼板面と接する樹脂層が、無水物基
    を含む不飽和単量体で変性した変性ポリエチレン樹脂を
    含有し、且つ無水物基を含む不飽和単量体の含有量が
    0.05〜5wt%であるポリエチレン系樹脂からなる
    ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆鋼板。
  3. 【請求項3】 表面処理鋼板が、缶内面側となる面の最
    外層に金属クロム換算での付着量が3〜30mg/m
    のクロム水和酸化物層を有することを特徴とする請求項
    1または2に記載の樹脂被覆鋼板。
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