JP4096719B2 - 缶用樹脂ラミネート鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、18L缶、ペール缶、ドラム缶等のような飲料缶以外の缶体(一般缶)の缶胴部や蓋部として好適な、耐熱性(塗装印刷適性)、汎用性(酸性内容物からアルカリ性内容物までの広範囲な用途適性)に優れ、且つ内容物保護性(加工部や傷つき箇所の耐食性および缶内容物中に金属や有機成分の溶出が生じにくい特性)、製缶後における缶体の耐圧強度等の諸特性に優れた樹脂ラミネート鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
飲料缶以外の一般缶用途(特に大型缶分野)において、各種ラミネート鋼板(樹脂被覆鋼板)を使用した高耐食缶を製造する試みがなされている。一般缶用途では、飲料缶と異なり、充填される内容物が化学薬品、界面活性剤、塗料、食品、油など多岐にわたり、内容物の性状も酸性からアルカリ性まで多種多様である。ラミネート缶に用いる樹脂として、一般的に使用されているポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂は、アルカリ性の内容物に対してはフィルムが加水分解を起こすため、適用が困難である。酸からアルカリまでの幅広い内容物に対して耐食性を有する樹脂としては、ポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン樹脂がよく知られている。このようなオレフィン樹脂を用いた缶用材料として、特許文献1等ではポリエチレンラミネート鋼板が、また、特許文献2等ではポリプロピレンラミネート鋼板がそれぞれ開示されている。
【0003】
しかし、これら従来の一般缶用途のオレフィン系樹脂ラミネート鋼板の特性について詳細に検討した結果、以下のような問題点があることが判明した。ポリプロピレン樹脂は、オレフィン樹脂としては耐熱性に優れているが、一般缶製缶時の加工応力の集中により加工クラックを生じやすく、また、たとえ加工時にクラックが生じなくても、加工により応力が集中した箇所が、長時間界面活性剤等の浸透性の高い内容物に接していると、やがてクラックが発生し、長期間の保管に耐えられないという欠点がある。従来、ポリプロピレン樹脂の耐加工クラック性を改善する方法として、樹脂ラミネート後の冷却速度の調整により結晶化度を最適化する方法が提案されている。しかし、本発明者らが検討したところによれば、ポリプロピレン樹脂は結晶化速度が早いため、ラミネート鋼板の外面に塗装印刷を施す用途においては、塗装印刷の加熱により結晶化が進行し、上記方法による十分な効果を得ることは難しいことが判った。
【0004】
また、ポリプロピレン樹脂の耐加工クラック性を改善する他の方法として、エチレンなどのαオレフィンを最大で10%程度、ポリプロピレンにランダム共重合化する方法が提案されている。しかし、本発明者らが検討したところによれば、ランダム共重合化したポリプロピレン樹脂は樹脂全体の融点が低くなるため、ラミネート鋼板の外面に塗装印刷を施す用途においては、塗装印刷工程の加熱処理の際にラミネート樹脂が熱変形(ラミネート樹脂面での接触跡の発生)したり、板搬送設備に融着したりする問題を生じることが判った。
【0005】
一方、ポリエチレン樹脂は耐加工クラック性が良好であるが、ポリエチレン樹脂を缶内面側にラミネートした場合、樹脂そのものの融点が120℃前後と低いため、塗装印刷工程の焼付処理の際にラミネート樹脂が板搬送設備に融着したり、熱変形(ラミネート樹脂面での接触跡の発生)したりすることが避けられない。
【0006】
また、特許文献3には、ポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂を複合化したラミネート鋼板が提案されており、同文献には、ポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂の混合層によりポリプロピレン樹脂層とポリエチレン樹脂層を密着させた3層構造のラミネート鋼板が開示されている。しかし、ポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂は一般に密着性が悪いため、樹脂層間で剥離を生じやすく、製缶後に缶体に内圧をかけた際、缶蓋と胴板の巻き締め部で層間剥離がおき、そこから気密が漏洩して所望の耐圧強度が得にくいなど、缶としての実用に適さない。
【0007】
【特許文献1】
特開昭53−141786号公報、(請求項など)
【0008】
【特許文献2】
特公平2−733589号公報、(請求項など)
【0009】
【特許文献3】
特開昭64−82931号公報、(請求項など)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、18L缶やペール缶等のような大型缶をはじめとする一般缶用途の缶胴部や蓋部に好適な樹脂ラミネート鋼板であって、耐熱性(塗装印刷適性)、汎用性(酸性内容物からアルカリ性内容物までの用途適性)に優れ、且つ内容物保護性(加工部や傷付箇所の耐食性および缶内容物中に金属や有機成分の溶出を生じにくい特性)、缶体耐圧強度等の諸特性に優れた樹脂被覆鋼板を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上述した従来技術の課題を解決すべく各種樹脂皮膜構成を有する樹脂被覆鋼板とその特性について調査および検討を行ない、その結果以下のような知見を得た。まず、ラミネート樹脂に必要とされる耐熱性について調査した結果、現行の油性印刷塗装の下限焼付温度は、焼付炉の温度変動を含めて約130℃であることが判った。したがって、実際の焼付炉の温度変動を考慮すると、ラミネート樹脂は約140〜150℃の焼付に耐えることが必要である。缶内容物と接する側の樹脂層は、塗装印刷時に板搬送設備と熱融着を生じないことが不可欠であり、140℃、望ましくは150℃以上の融点を有するポリプロピレン樹脂を主体とする樹脂層とすることが必要である。
【0012】
更に、融点を140℃以上に維持しつつ、加工部の耐クラック性を向上させるためには、ポリプロピレンにエチレンをブロック共重合化させることが有効である。プロピレン・エチレンブロック共重合体は、ポリプロピレン樹脂中にポリエチレン成分が粒状に分散する海島構造をとることが知られており、マトリックスのポリプロピレン(海の部分)の熱的性質が維持されやすく、数十モル%のエチレン成分を共重合化させても融点の低下がわずかに抑えられるという特徴を有する。その一方で、柔軟なポリエチレン粒が分散するため、樹脂トータルとして変形能が高まると同時に、プレスなどの衝撃加工に対しても、衝撃を吸収、緩和する効果が生じ、結果として加工部の耐クラック性が大幅に向上した。
【0013】
上記のプロピレン系樹脂は接着性に乏しく、電解クロメート処理鋼板(鋼板に金属クロムとその上層にクロム水和酸化物からなる電解クロメート処理を行ったもの、ティンフリースチール:TFS)と密着させるためには、接着性樹脂からなる樹脂層を鋼板との間に設ける必要がある。このため、プロピレン系樹脂からなる樹脂層(上層)と接着性樹脂層(下層)の2層構造が必要となるが、この下層の接着性樹脂に、ポリプロピレン系の熱接着性樹脂を単独で用いた場合には、接着性樹脂層の耐加工クラック性や、接着性樹脂層−鋼板界面の耐食性が劣っていた。一方、耐加工クラック性が良好なポリエチレン系の熱接着性樹脂を用いた場合、耐加工クラック性、樹脂−鋼板界面の耐食性は良好であったが、耐熱性が劣化し、下層で樹脂の熱変形が生じた。したがって下層においても、熱接着性樹脂の耐食性を保持しつつ耐熱性を満足するには、高融点の接着性ポリプロピレン系樹脂に耐食性の良い接着性ポリエチレン系樹脂を適量混合した樹脂構造にすることが効果的であった。
【0014】
内面側をラミネート層で被覆した鋼板から18L缶やペール缶を製缶する際には、一般的に、缶胴を溶接もしくはロックシーム法により接合した後、天蓋あるいは地蓋を2重巻き締めにより取り付ける。巻き締め部では、胴板内面のフィルムと蓋内面のフィルムは、熱融着もしくは接着剤を介して接着される。製缶後の缶体は気密が保持されなければならないが、鋼板とラミネートフィルムの密着力が低い場合、温度上昇などにより内圧が過度に上昇した場合や、缶の落下した場合等に、巻き締め部でフィルムが剥離し、内容物が漏洩する等の重大な事故が起こる可能性がある。巻き締め部で十分な気密性を得るには、フィルムは下地鋼板との強い密着力を要すると同時に、上層と下層間にも十分な密着力が付与されなければならない。一般にポリプロピレンとポリエチレンとは分子相溶せず密着しにくいため、上層をポリプロピレン系樹脂とした場合、下層の樹脂中のポリエチレン比率が高くなるにしたがい、上層と下層の層間密着力が低下し、剥離して気密が漏洩しやすくなる。気密漏洩を防ぐにも、下層には接着性ポリプロピレン系樹脂に接着性ポリエチレン系樹脂を適量混合した樹脂構造にすることが効果的であった。
【0015】
本発明は以上のような知見に基づいてなされたもので、その特徴は以下の通りである。
(1) 鋼板と、鋼板の両面に形成された金属クロム付着量が片面あたり40〜200mg/m2の金属クロムめっき層と、両金属クロム層の上に形成された金属クロム換算での付着量が片面あたり3〜25mg/m2のクロム水和酸化物層と、クロム水和酸化物の少なくとも一方に形成された接着性樹脂層、及び接着性樹脂層の上に形成された融点が140℃以上のポリプロピレン系樹脂層からなる、厚さ15〜200μmの樹脂層を具備し、前記接着性樹脂層は接着性ポリエチレンと接着性ポリプロピレンの混合物であって、接着性ポリエチレンを8〜20%含み、前記ポリプロピレン系樹脂がプロピレン・エチレンブロック共重合体であり、ブロック共重合体のプロピレン成分の比率が50モル%以上98モル%以下であることを特徴とする缶用樹脂ラミネート鋼板。
【0017】
(2)前記接着性樹脂層の厚みが、2〜10μmの樹脂層であることを特徴とする、上記( 1 )に記載の缶用樹脂ラミネート鋼板。
【0018】
(3) 前記ポリプロピレン系樹脂層が、融点が150℃以上のプロピレン・エチレンブロック共重合体であり、ブロック共重合体のプロピレンの比率がブロック共重合体のプロピレン成分の比率が70モル%以上95モル%以下であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の缶用樹脂ラミネート鋼板。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細と限定理由について説明する。本発明のラミネート鋼板の素地である表面処理鋼板は、経済性と樹脂との密着性確保の観点から電解クロメート処理鋼板(ティンフリースチール:TFS)とする。電解クロメートを施す鋼板としては、通常この種の表面処理鋼板に用いられる鋼板であれば使用することができ、例えば、板厚0.1〜0.5mmの通常の低炭素冷延鋼板、低炭素Alキルド鋼板等が用いられ、これらの鋼板上に電解クロメート処理により、下から金属クロム層、その上にクロム水和酸化物を形成させる。金属クロム層のクロム付着量は、片面あたり40〜200mg/m2とする。付着量が40mg/m2未満の場合、衝撃を与えた際に表面処理層による被覆が損なわれ、腐食が進行しやすいため耐食性が低下する。付着量が200mg/m2を超えても性能上全く問題はないが、経済的観点から好ましくない。より好ましい範囲は80〜150mg/m2である。また、クロム水和酸化物層の付着量は、片面あたり金属クロム換算で3〜25mg/m2とする。その付着量が3mg/m2未満では金属クロム層がクロム酸化物によって均一に覆われず金属クロム層の露出面積が大となり、樹脂層との密着力が損なわれ、樹脂層に傷がついた場合、腐食が進行しやすく耐食性が低下するため好ましくない。また、25mg/m2を超えるとクロム酸化物層が厚すぎることによってTFSの表面色調が劣化するので好ましくない。
【0020】
本発明のラミネート鋼板は、上記表面処理鋼板の少なくとも片面(缶内面側となる鋼板面)に、接着性樹脂層(下層)と、プロピレン系樹脂層(上層)からなる、厚さの合計が15〜200μmの樹脂層を被覆したラミネート鋼板である。樹脂の厚みが15μmを下回ると、2回塗装以下の耐食性しか得られず、また、衝撃などにより傷が入りやすい。一方、樹脂層の厚さが200μmを超えると巻締めが行いにくくなると同時に経済性に劣り、実用的ではない。ラミネートの方法については特に限定されず、事前に作成した樹脂フィルムを熱した鋼板上にラミネートする方法、Tダイなどで溶融した樹脂を鋼板に直接熱押出しする方法、などがあり、そのいずれでも良い。
【0021】
この複層の樹脂層のうち缶内容物と接する上層樹脂は、融点140℃以上、好ましくは150℃以上のプロピレン系樹脂からなる。融点が140℃未満では、塗装印刷時に板搬送設備に対して熱融着を生じる可能性がある。炉温変動を考慮に入れると融点は150℃以上であることがさらに好ましい。上層に使用する上記ポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR JIS K6758)が0.5〜20g/10minであることが好ましい。メルトフローレートが0.5g/10min未満では、フィルムを製膜する際、もしくは直接押し出しラミネートを行う際、押し出し機のモーター負荷が大きくなり、生産性が低下する。MFRが大き過ぎると表面粗さが小さくなり、耐ブロッキングが低下するので20g/10min以下であることが望ましい。
【0022】
このポリプロプレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体、若しくはプロピレンとαオレフィンとのブロック又はランダム共重合体である。後者の場合のαオレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることが出来る。また、αオレフィンの含有量は、ポリプロピレン系樹脂の融点が本発明の範囲内となるように調整される。また、上記ポリプロピレン系樹脂の結晶化度は、塗装印刷時の加熱により急激に結晶化度が進行するため特に規制は無いが、一般に低い方が望ましい。
【0023】
更にこのポリプロプレン系樹脂としてプロピレン・エチレンブロック共重合体を使用すればより厳しい環境下での加工後耐食性がより優れる。プロピレン・エチレンブロック共重合体としては、プロピレン成分の比率は50モル%以上98モル%以下であることが必要である。プロピレン成分の比率が50モル%未満の領域では、ポリプロピレンのマトリックス効果が薄れ、融点の低下が顕著になり、融点を140℃以上に保つことが困難になる。さらに、プロピレン成分の比率が70モル%以上であれば、融点を150℃以上に保つことが容易となり、塗装印刷時の板搬送設備に対する熱融着防止の観点から、より好ましい。一方、プロピレン成分の比率が98%を越えると、共重合したエチレン成分による耐加工クラック性の向上の効果が見られなくなる。より好ましい耐加工クラック性を得るには、プロピレン成分の比率は95%以下にすることが望ましい。
【0024】
上層に使用するプロピレン・エチレンブロック共重合体には、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、顔料、染料などを本発明の効果を損なわない限度で適量配合してもよい。但し、低融点で水溶液などに易溶性の配合物や低融点の配合物、例えばフェノール系の酸化防止剤などはできるだけ配合しないことが望ましい。
【0025】
次に、鋼板面と接する下層樹脂層は、接着性(熱接着性)ポリプロピレンと接着性(熱接着性)ポリエチレンを主成分樹脂とし、これら両樹脂は混合して使用される。
【0026】
上記の接着性ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体、若しくはプロピレンとαオレフィンとのブロック又はランダム共重合体である。後者の場合のαオレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。接着性ポリプロピレンのメルトフロレート(MFR JIS K6758)は0.5〜20g/10minであることが好ましい。
【0027】
接着性ポリプロピレンは、ポリプロピレン樹脂に不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を導入することで接着性(熱接着性)を付与したものが好ましい。この酸変性に使用する不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、マレイン酸、アクリル酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ナジック酸などの不飽和カルボン酸又はその誘導体、例えば、アミド、イミド、無水物、エステル、酸ハライドなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができるが、無水マレイン酸を用いるのが一般的である。これらの不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をポリプロピレンに導入する方法は、グラフト重合が一般的である。特に、無水マレイン酸を0.01〜5重量%とするグラフト重合が好ましい。
【0028】
上記接着性ポリプロピレン系樹脂に混合する接着性ポリエチレンとしては、エチレンの単独重合体、若しくはエチレンとαオレフィンとのブロック又はランダム共重合体であるが、上層との密着性を確保するためには後者の共重合体が好ましい。ポリエチレン樹脂がエチレンとαオレフィンとのブロック又はランダム共重体である場合、側鎖を与えるαオレフィンの量は1〜25mol%が望ましい。αオレフィンの量が1mol%未満では上層のポリプロピレン系樹脂層との密着性が低下し、一方、25mol%を超えると常温での粘着性が増大し、製膜が難しくなる。αオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、上記ポリエチレン樹脂の特に好ましい共重合体はランダム共重合体である。
【0029】
上記接着性ポリエチレンのメルトフローレート(MFR ASTM D1238)は製膜性の観点から0.5〜50g/10minであることが望ましい。
【0030】
上記接着性ポリエチレンは、ポリエチレン樹脂に不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を導入することで接着性(熱接着性)を付与したものが好ましい。この酸変性に使用する不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、マレイン酸、アクリル酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ナジック酸などの不飽和カルボン酸又はその誘導体、例えば、アミド、イミド、無水物、エステル、酸ハライド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができるが、無水マレイン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等を用いるのが一般的である。また、そのなかでも耐食性の観点からは無水マレイン酸を単独で若しくは無水マレイン酸と他の不飽和カルボン酸の1種又は2種以上を混合したものを用いるのが好ましい。
【0031】
また、グリシジルメタクリレート、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アイオノマーをそれぞれ単独で、若しくは2種以上を混合して用いてもよい。これらの不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をポリエチレンに導入する方法としては、グラフト重合、ランダム重合、ブロック重合が挙げられる。特に、無水マイレン酸を0.01〜5重量%とするグラフト重合が好ましい。
【0032】
上記接着性ポリプロピレンと接着性ポリエチレンからなる接着層樹脂は、接着性ポリエチレン8〜20モル%となるよう混合することが好ましい。接着性ポリエチレンの割合が8モル%未満では耐食性の向上効果がない。一方、耐熱性の観点からは接着性ポリエチレンの割合が50モル%以下であれば熱変形の問題がなく良好であるが、上層下層間の密着力が低く層間剥離しやすいため、製缶後の耐圧強度が不足し、2重巻き締め部からの気密漏洩の危険性がある。確実に気密漏洩を防止できるだけの缶体の耐圧強度を確保するには、接着性ポリエチレンの割合を20モル%以下にする必要がある。また、接着性樹脂には、前記以外の配合物も、本発明の効果を損なわない限度で適量配合できる。
【0033】
上記接着性ポリプロピレンと接着性ポリエチレンからなる接着層の厚みは、2〜10μmとする。接着層の厚みが2μm未満の場合、接着性樹脂が局所的に薄い箇所ができやすく、鋼板の被覆が局所的に劣化し、耐食性が損なわれる危険性がある。一方で、上層のポリプロピレン樹脂よりも下層の接着性樹脂は一般的に言って高価であり、接着層厚みを10μmよりも厚くした場合、性能的には問題は発生しないが、経済性に劣るため実用的ではない。
【0034】
【実施例】
18L缶等、一般缶用途に通常用いられている板厚0.32mmの冷延鋼板を通常の方法で電解脱脂および酸洗した後、公知の方法により電解クロメート処理し、付着量が100mg/m2の金属クロム層と、その上層に金属クロム換算での付着量が8mg/m2のクロム水和酸化物層からなる電解クロメート処理層を形成した。この表面処理鋼板を樹脂フィルムの接着層の融点〜250℃に加熱し、鋼板の片面に樹脂フィルムをラミネートした後、2秒以内に水で急冷することによりラミネート鋼板を製造した。また、上記のラミネート後、上層樹脂の融点以下の温度で缶外面側に相当する面にクリヤ塗装を行った(実施例1〜13、19,20)。
【0035】
同じく板厚0.32mmの冷延鋼板を通常の方法で電解脱脂および酸洗した後、公知の方法により電解クロメート処理し、付着量が100mg/m2の金属クロム層と、その上層に金属クロム換算での付着量が8mg/m2のクロム水和酸化物層からなる電解クロメート処理層を形成した後、140℃程度に予熱し、Tダイ押し出し法(エクストリューダー法)により溶融樹脂を塗布した後、2秒以内に水で急冷することによりラミネート鋼板を製造した。また、上記のラミネート後、上層樹脂の融点以下の温度で缶外面側に相当する面にクリヤ塗装を行った(実施例14〜18)。
【0036】
比較例としては、本発明の請求範囲を外れる組成の樹脂を、本発明の請求範囲にある組成の電解クロメート処理鋼板上に、実施例と同じ方法によりラミネートしたラミネート鋼板を製造し、上層樹脂の融点以下の温度で缶外面側に相当する面にクリヤ塗装を行った(比較例1〜8)。
【0037】
また、本発明の請求範囲にある組成の樹脂を、本発明の請求範囲を外れる組成の電解クロメート処理鋼板に実施例と同じ方法によりラミネートしたラミネート鋼板を製造し、上層樹脂の融点以下の温度で缶外面側に相当する面にクリヤ塗装を行った(比較例9〜11)。
【0038】
得られた樹脂被覆鋼板の性能評価を以下の方法で行った。
【0039】
(1) 耐熱性 (塗装印刷時におけるラミネート面の金属製の保持台との融着性) 樹脂被覆鋼板をそのラミネート面が金属製の保持台に接するように置き、振動を与えながら所定温度で30分保持した後、冷却し、ラミネート面への保持台の接触跡の有無を調べ、接触跡が認められる限界温度(前記保持温度)に基づき下記の基準で評価した。 ◎:限界温度150℃以上 ○:限界温度140℃以上 ×:限界温度140℃未満 (○以上であれば実用可能。)
(2) 加工後耐食性
▲1▼樹脂被覆鋼板をデュポン衝撃加工した後、中性洗剤(商品名:ライポンF)中に38℃で3か月間浸漬し、加工部の腐食の目視判定、および走査型電子顕微鏡観察によるフィルムクラック発生の有無の判定基づき、下記の基準で評価した。 ◎:腐食なし、クラック観察されず ○:腐食なし、微細なクラックがわずかに観察される △:軽微な腐食あり 微細なクラックが観察される ×:腐食顕著、大きなクラックが観察される (○以上であれば実用上問題ない耐食性が確保できる。)
▲2▼さらに、より厳しい加工後耐食性を検証するために、樹脂被覆鋼板をデュポン衝撃加工した後、フィルムクラック形成に関してより厳しい酸性洗剤(商品名:PTS300)中に45℃で3か月間浸漬し、加工部の腐食の目視判定、および走査型電子顕微鏡観察によるフィルムクラック発生の有無の判定基づき、下記の基準で評価した。 ◎:腐食なし、クラック観察されず ○:腐食なし、微細なクラックがわずかに観察される △:軽微な腐食あり 微細なクラックが観察される ×:腐食顕著、大きなクラックが観察される (△以上であれば実用上問題ない耐食性が確保できる。○以上であればより望ましい)
(3) 傷付部耐食性 樹脂被覆鋼板に対して平板のままクロスカットを行ったのち、20g/LのNaOH溶液中で38℃、10日間の浸漬試験を行ない、試験後のカット部の腐食幅を下記の基準により評価した。 ○:腐食幅1mm以下 △:腐食幅1mm超、3mm未満 ×:腐食幅3mm超
(4) 耐圧強度 ラミネート面を内側にして、ラミネート鋼板をロックシーム法により接合し、18L缶胴状に成形した後、同じくラミネート面を内側にして18L缶の天蓋、地蓋状に成形したものを2重巻き締め法により標準的な巻き締め形状に巻き締め、巻き締め部をフィルム上層樹脂の融点以上の温度に加熱し、胴と蓋のフィルム上層同士を熱融着させた。このようにして出来上がった缶体に内側からエア圧をかけながら水中に没し、巻き締め部から気泡が漏洩する時のエア圧力により評価した。◎:1.2kgf/cm2以上 ○:1.0kgf/cm2以上1.2kgf/cm2未満 △:0.4kgf/cm2以上1.0kgf/cm2未満 ×:0.4kgf/cm2未満 (○以上であれば実用上十分な機密性が確保できる。)
(5) 色調 ラミネート鋼板表面の明度を、JIS Z 8729 において規定される10度視野の明度指数L*値に基づき4段階で評価した(数値が大きいほど良好)。◎:L*≧60 ○:60>L*≧55 △:55>L*≧50 ×:50>L* (○以上であれば明るく、良好な色調である。)
表1,2は実施例,比較例の詳細及び性能評価結果を示している。実施例のいずれの場合も、(1)〜(5)の評価に対し、良好な結果が得られ、ラミネート一般缶として十分な性能を有するラミネート鋼板である。
【0040】
比較例1は、上層樹脂のプロピレン成分の比率が高すぎるため、融点が低く、十分な耐熱性が得られなかった。比較例2は上層にプロピレン-エチレンランダム共重合体を使用したため耐熱性が不充分であった。比較例3は被覆樹脂のトータル厚みが薄いため、加工によるクラックの抑制ができず、加工部の耐食性が不十分であった。比較例4は下層樹脂中の接着性ポリエチレンの混合比率が低すぎるため傷付部耐食性が劣る結果となった。比較例5,6は接着層中の接着性ポリエチレンの混合比率が高すぎるため、上層樹脂との密着強度が得られず、十分な耐圧強度が得られなかった。比較例6では、比較例5よりもさらにポリエチレン比率が高いため、接着層樹脂の耐熱性が若干損なわれた。比較例7,8は下層樹脂のポリプロピレン及びポリエチレンのいずれかに非接着性の通常樹脂を適用した場合であり、鋼板との密着力が不足し、傷付部耐食性が劣るほか、鋼板との界面で剥離がおきやすくなるため、十分な耐圧強度も得られなかった。比較例9では電解クロメート処理鋼板における金属クロムの付着量が少なかったため加工部及び傷付部で十分な耐食性が得られなかった。比較例10では電解クロメート処理鋼板におけるクロム水和酸化物の付着量が少なかったため、樹脂層との密着が不十分な結果、傷付部の耐食性が不十分となり、また、耐圧強度も若干劣る結果となった。比較例11は電解クロメート処理鋼板におけるクロム水和酸化物の付着量が多すぎたため、ラミネート鋼板表面が暗くなり、良好な色調が得られなかった。
【0041】
【表1−1】
【0042】
【表1−2】
【0043】
【表1−3】
【表2】
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のラミネート鋼板は、18L缶やペール缶等のような大型缶をはじめとする一般缶用途の缶胴部や蓋材に適用した場合において、耐熱性(塗装印刷適性)、汎用性(酸性内容物からアルカリ性内容物までの広範囲な用途適性)に優れ、且つ内容物保護性(加工部や傷つき箇所の耐食性および缶内容物中に金属や有機成分の溶出が生じにくい特性)、製缶後における缶体の耐圧強度等の諸特性に優れている。
Claims (3)
- 鋼板と、鋼板の両面に形成された金属クロム付着量が片面あたり40〜200mg/m2の金属クロムめっき層と、両金属クロム層の上に形成された金属クロム換算での付着量が片面あたり3〜25mg/m2のクロム水和酸化物層と、クロム水和酸化物の少なくとも一方に形成された接着性樹脂層、及び接着性樹脂層の上に形成された融点が140℃以上のポリプロピレン系樹脂層からなる、厚さ15〜200μmの樹脂層を具備し、前記接着性樹脂層は接着性ポリエチレンと接着性ポリプロピレンの混合物であって、接着性ポリエチレンを8〜20%含み、前記ポリプロピレン系樹脂がプロピレン・エチレンブロック共重合体であり、ブロック共重合体のプロピレン成分の比率が50モル%以上98モル%以下であることを特徴とする、缶用樹脂ラミネート鋼板。
- 前記接着性樹脂層の厚みが、2〜10μmの樹脂層であることを特徴とする、請求項1に記載の缶用樹脂ラミネート鋼板。
- 前記ポリプロピレン系樹脂層が、融点が150℃以上のプロピレン・エチレンブロック共重合体であり、ブロック共重合体のプロピレンの比率がブロック共重合体のプロピレン成分の比率が70モル%以上95モル%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の缶用樹脂ラミネート鋼板。
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