JP3337897B2 - 新規な醸造用酵母 - Google Patents
新規な醸造用酵母Info
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- JP3337897B2 JP3337897B2 JP6033996A JP6033996A JP3337897B2 JP 3337897 B2 JP3337897 B2 JP 3337897B2 JP 6033996 A JP6033996 A JP 6033996A JP 6033996 A JP6033996 A JP 6033996A JP 3337897 B2 JP3337897 B2 JP 3337897B2
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- Japan
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- glycerol
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は大麦焼酎もろみにおいて
グリセロール生産性が高いサッカロミセス・セレビシエ
(Saccharomyces cerevisia
e)に属する新規醸造用酵母、サッカロミセス・セレビ
シエH6−7(生工研菌寄第15349号)なる醸造用
酵母に関する。
グリセロール生産性が高いサッカロミセス・セレビシエ
(Saccharomyces cerevisia
e)に属する新規醸造用酵母、サッカロミセス・セレビ
シエH6−7(生工研菌寄第15349号)なる醸造用
酵母に関する。
【0002】
【従来の技術】グリセロールは、アルコール発酵の副産
物として生産され、清酒やワインなどの醸造物の香味形
成に重要な役割を果たしている。。ところが、焼酎製造
においては、グリセロールは高沸点成分であることから
得られる焼酎には含まれない。しかし、焼酎製造におい
ては、もろみ中のグリセロール濃度を高めると、蒸留時
のもろみ中のエステルの留出率が高まり、その結果酢酸
イソアミルとイソアミルアルコールとの比(E/A比)
が向上した香味豊かな焼酎を得ることができる。このよ
うにグリセロールは酒類の香味を左右する成分として重
要であるため、近年、グリセロールを高生産する酵母の
開発が行われている。グリセロールを高生産する株のス
クリーニング方法としては、酵母に変異処理を施して、
アリルアルコールやピラゾールに耐性を示す株から選別
する方法がある(特開平4−356180号公報)。こ
れらの株は、変異の結果アルコールデヒドロゲナーゼが
一部欠損したものである。呼吸欠損株もグリセロールを
高生産することが知られているが、これは同株がグリセ
ロールを資化できないためと報告されている(大淵ら、
醗酵工学、69,203−209(1991))。
物として生産され、清酒やワインなどの醸造物の香味形
成に重要な役割を果たしている。。ところが、焼酎製造
においては、グリセロールは高沸点成分であることから
得られる焼酎には含まれない。しかし、焼酎製造におい
ては、もろみ中のグリセロール濃度を高めると、蒸留時
のもろみ中のエステルの留出率が高まり、その結果酢酸
イソアミルとイソアミルアルコールとの比(E/A比)
が向上した香味豊かな焼酎を得ることができる。このよ
うにグリセロールは酒類の香味を左右する成分として重
要であるため、近年、グリセロールを高生産する酵母の
開発が行われている。グリセロールを高生産する株のス
クリーニング方法としては、酵母に変異処理を施して、
アリルアルコールやピラゾールに耐性を示す株から選別
する方法がある(特開平4−356180号公報)。こ
れらの株は、変異の結果アルコールデヒドロゲナーゼが
一部欠損したものである。呼吸欠損株もグリセロールを
高生産することが知られているが、これは同株がグリセ
ロールを資化できないためと報告されている(大淵ら、
醗酵工学、69,203−209(1991))。
【0003】本発明者らは、先に、サッカロミセス・セ
レビシエよりも耐塩性があるチゴサッカロミセス・ルー
キシがグリセロールを高生産することから、サッカロミ
セス・セレビシエの耐塩性を強化した株はグリセロール
を高生産するのではないかと想定し、酵母(サッカロミ
セス・セレビシエ)に変異処理を施し、高濃度の塩化ナ
トリウムを含む培地を用いてサッカロミセス・セレビシ
エの耐塩性を強化し、その株の中からグリセロールを高
生産する株を得た(特開平7−115956号公報参
照)。
レビシエよりも耐塩性があるチゴサッカロミセス・ルー
キシがグリセロールを高生産することから、サッカロミ
セス・セレビシエの耐塩性を強化した株はグリセロール
を高生産するのではないかと想定し、酵母(サッカロミ
セス・セレビシエ)に変異処理を施し、高濃度の塩化ナ
トリウムを含む培地を用いてサッカロミセス・セレビシ
エの耐塩性を強化し、その株の中からグリセロールを高
生産する株を得た(特開平7−115956号公報参
照)。
【0004】ロイシンのアナログであるトリフルオロロ
イシンに対して耐性を示すトリフルオロロイシン耐性株
が酢酸イソアミルを高生産し、フェニルアラニンのアナ
ログであるp−フルオロフェニルアラニンに対して耐性
を示すp−フルオロフェニルアラニン耐性株が酢酸β−
フェネチルを高生産することがこれまでに知られている
(Ashida,S.,et al.:Agric.B
iol.Chem.,51,2061−2065(19
87);Fukuda,K.,et al.:Agri
c.Biol.Chem.,54,269−271(1
990)参照)。さらに本発明者らのうち二人は、これ
らのアミノ酸アナログ耐性株がグリセロールも高生産す
ることを見い出し、このことを報告している(Omor
i,T.,et al.:J.Ferment.Bio
eng.,80,218−222(1995))。
イシンに対して耐性を示すトリフルオロロイシン耐性株
が酢酸イソアミルを高生産し、フェニルアラニンのアナ
ログであるp−フルオロフェニルアラニンに対して耐性
を示すp−フルオロフェニルアラニン耐性株が酢酸β−
フェネチルを高生産することがこれまでに知られている
(Ashida,S.,et al.:Agric.B
iol.Chem.,51,2061−2065(19
87);Fukuda,K.,et al.:Agri
c.Biol.Chem.,54,269−271(1
990)参照)。さらに本発明者らのうち二人は、これ
らのアミノ酸アナログ耐性株がグリセロールも高生産す
ることを見い出し、このことを報告している(Omor
i,T.,et al.:J.Ferment.Bio
eng.,80,218−222(1995))。
【0005】ところで、酢酸イソアミルやカプロン酸エ
チルなどのエステル類は、清酒の吟醸香成分を構成する
成分で、酒類にフルーティーな香気を付与する重要な成
分である。特に、清酒の製造において、このようなフル
ーティーな吟醸香成分の含量の高い清酒を製造するため
に、高精白米の使用や低温発酵などの手段がとられる。
また、近年では吟醸香成分の改善を目的に酵母の開発が
行われており、例えば上述したようにトリフルオロロイ
シン耐性株から酢酸イソアミル生産が増加した株を取得
できることが知られている。この他、セルレニンに耐性
を示す株からカプロン酸エチル生産が増加した株を取得
できることが知られている(特開昭63−309175
号公報参照)。
チルなどのエステル類は、清酒の吟醸香成分を構成する
成分で、酒類にフルーティーな香気を付与する重要な成
分である。特に、清酒の製造において、このようなフル
ーティーな吟醸香成分の含量の高い清酒を製造するため
に、高精白米の使用や低温発酵などの手段がとられる。
また、近年では吟醸香成分の改善を目的に酵母の開発が
行われており、例えば上述したようにトリフルオロロイ
シン耐性株から酢酸イソアミル生産が増加した株を取得
できることが知られている。この他、セルレニンに耐性
を示す株からカプロン酸エチル生産が増加した株を取得
できることが知られている(特開昭63−309175
号公報参照)。
【0006】しかしながら、上述したように吟醸香成分
というのは、単一の成分から成り立っているわけではな
く、上述のトリフルオロロイシン耐性株やセルレニン耐
性株は、複数の吟醸香成分を官能的にバランスよく高生
産するものではない。そのためこれらの株を用いて酒類
を製造した場合、香味バランスが欠けるという欠点があ
る。こうしたことから、吟醸香を構成する成分を、官能
的にバランスよく高生産する酵母として、カプロン酸に
対して感受性を示す酵母が提供されているが(特開平7
−79766号公報参照)、当該酵母はグリセロールを
高生産するものではない。こうしたことから、吟醸香を
構成する成分を、官能的にバランスよく高生産し、かつ
グリセロールを高生産する酵母はこれまで提供されてい
なく、そうした酵母の開発が切望されている。
というのは、単一の成分から成り立っているわけではな
く、上述のトリフルオロロイシン耐性株やセルレニン耐
性株は、複数の吟醸香成分を官能的にバランスよく高生
産するものではない。そのためこれらの株を用いて酒類
を製造した場合、香味バランスが欠けるという欠点があ
る。こうしたことから、吟醸香を構成する成分を、官能
的にバランスよく高生産する酵母として、カプロン酸に
対して感受性を示す酵母が提供されているが(特開平7
−79766号公報参照)、当該酵母はグリセロールを
高生産するものではない。こうしたことから、吟醸香を
構成する成分を、官能的にバランスよく高生産し、かつ
グリセロールを高生産する酵母はこれまで提供されてい
なく、そうした酵母の開発が切望されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上述のグリセロールを
高生産する株(特開平7−115956号公報参照)を
使えば、もろみ中のグリセロール濃度を高められ、焼酎
中のE/A比は増加する。しかしながら、当該菌株では
酢酸イソアミルなどの吟醸香エステルの生産という点で
は十分ではない。グリセロールを高生産し、さらに酢酸
イソアミルなどの吟醸香エステル類をバランスよく高生
産する焼酎酵母が、特に焼酎の品質向上のために望まし
い。しかし、そういう株は未だ開発されていない。
高生産する株(特開平7−115956号公報参照)を
使えば、もろみ中のグリセロール濃度を高められ、焼酎
中のE/A比は増加する。しかしながら、当該菌株では
酢酸イソアミルなどの吟醸香エステルの生産という点で
は十分ではない。グリセロールを高生産し、さらに酢酸
イソアミルなどの吟醸香エステル類をバランスよく高生
産する焼酎酵母が、特に焼酎の品質向上のために望まし
い。しかし、そういう株は未だ開発されていない。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上述の課
題を解決すべく、各種実験を介して、鋭意研究を重ね
た。その結果、グリセロール生産能、および酢酸イソア
ミルなどのエステル類の生産能が高い酵母を見い出すに
至った。本発明の目的は、耐熱性を有し、グリセロール
生産能、および酢酸イソアミルなどのエステル類の生産
能が高い、新規醸造用酵母を提供することにある。
題を解決すべく、各種実験を介して、鋭意研究を重ね
た。その結果、グリセロール生産能、および酢酸イソア
ミルなどのエステル類の生産能が高い酵母を見い出すに
至った。本発明の目的は、耐熱性を有し、グリセロール
生産能、および酢酸イソアミルなどのエステル類の生産
能が高い、新規醸造用酵母を提供することにある。
【0009】
【発明の構成・効果】本発明により提供される、耐熱性
を有し、グリセロール生産能、および酢酸イソアミルな
どのエステル類の生産能が高い新規醸造用酵母、すなわ
ちH6−7(生工研菌寄第15349号)は、下述する
サッカロミセス・セレビシエに属する菌株である。すな
わち、(1)古川、秋山の方法(古川敏郎、秋山裕一:
農化、37,398(1963))に従ってTTC染色
性試験、すなわち菌体を適当に希釈し(1プレートに約
200程度となるよう)、TTC下層培地に30℃で2
日間プレート培養したコロニーへ、TTC寒天を溶解後
45℃程度にしてから静かに重層し、固まった後30℃
に2〜3時間放置し、コロニーの染色を観察したとき、
ピンク色を示し、かつ(2)溝口、藤田の方法(溝口晴
彦、藤田栄信:醗工、59,185(1981))に従
って、D.C.染色性試験、すなわち菌体を適当に希釈
し(1プレートに約200程度となるよう)、TTC下
層培地に30℃で2日間プレート培養したコロニーへ、
上層用軟寒天を溶解後45℃程度にしてから静かに重層
し、固まった後室温に30分放置し、コロニーの染色を
観察したとき、茶色を示すことにより識別されるサッカ
ロミセス・セレビシエに属する新規酵母である。
を有し、グリセロール生産能、および酢酸イソアミルな
どのエステル類の生産能が高い新規醸造用酵母、すなわ
ちH6−7(生工研菌寄第15349号)は、下述する
サッカロミセス・セレビシエに属する菌株である。すな
わち、(1)古川、秋山の方法(古川敏郎、秋山裕一:
農化、37,398(1963))に従ってTTC染色
性試験、すなわち菌体を適当に希釈し(1プレートに約
200程度となるよう)、TTC下層培地に30℃で2
日間プレート培養したコロニーへ、TTC寒天を溶解後
45℃程度にしてから静かに重層し、固まった後30℃
に2〜3時間放置し、コロニーの染色を観察したとき、
ピンク色を示し、かつ(2)溝口、藤田の方法(溝口晴
彦、藤田栄信:醗工、59,185(1981))に従
って、D.C.染色性試験、すなわち菌体を適当に希釈
し(1プレートに約200程度となるよう)、TTC下
層培地に30℃で2日間プレート培養したコロニーへ、
上層用軟寒天を溶解後45℃程度にしてから静かに重層
し、固まった後室温に30分放置し、コロニーの染色を
観察したとき、茶色を示すことにより識別されるサッカ
ロミセス・セレビシエに属する新規酵母である。
【0010】本発明により提供される上記新規酵母は下
述する菌学的性質を有する。 (a)YM培地を用い、30℃で2日間培養したときの
菌の形態: 栄養細胞の大きさ:4〜9μm 栄養細胞の形状:卵型 増殖の形態:出芽 (b)YM寒天平板培地を用い、30℃で2日間培養し
たときのコロニーの形態: 形態:円 隆起:凸円状 周縁:円滑 大きさ(直径):2〜3mm 色調:白色で不透明 表面:円滑で光沢あり (c)炭素源資化性:グルコース、ガラクトース、フル
クトース、シュクロース、マルトース、マンノース、ト
レハロース、アラビノース、ラフィノース、エタノー
ル、乳酸、α−メチルジグルコシド、コハク酸、グリセ
ロールは資化する。セロビオース、メリビオース、エリ
スリトール、イノシトール、イヌリン、ラクトース、マ
ンニトール、メレジトース、メリビオース、ラムノー
ス、リボース、サリシン、ソルビトール、スターチ、キ
シロースは資化しない。 (d)増殖阻害物質に対する耐性:セルレニン10pp
m存在下の寒天培地(2wt.%グルコース、0.67
wt.%イーストナイトロジェンベース)でコロニーを
形成しない。塩化ナトリウム12wt.%存在下の寒天
培地(2%wt.%グルコース、0.67wt.%イー
ストナイトロジェンベース)でコロニーを形成する。
述する菌学的性質を有する。 (a)YM培地を用い、30℃で2日間培養したときの
菌の形態: 栄養細胞の大きさ:4〜9μm 栄養細胞の形状:卵型 増殖の形態:出芽 (b)YM寒天平板培地を用い、30℃で2日間培養し
たときのコロニーの形態: 形態:円 隆起:凸円状 周縁:円滑 大きさ(直径):2〜3mm 色調:白色で不透明 表面:円滑で光沢あり (c)炭素源資化性:グルコース、ガラクトース、フル
クトース、シュクロース、マルトース、マンノース、ト
レハロース、アラビノース、ラフィノース、エタノー
ル、乳酸、α−メチルジグルコシド、コハク酸、グリセ
ロールは資化する。セロビオース、メリビオース、エリ
スリトール、イノシトール、イヌリン、ラクトース、マ
ンニトール、メレジトース、メリビオース、ラムノー
ス、リボース、サリシン、ソルビトール、スターチ、キ
シロースは資化しない。 (d)増殖阻害物質に対する耐性:セルレニン10pp
m存在下の寒天培地(2wt.%グルコース、0.67
wt.%イーストナイトロジェンベース)でコロニーを
形成しない。塩化ナトリウム12wt.%存在下の寒天
培地(2%wt.%グルコース、0.67wt.%イー
ストナイトロジェンベース)でコロニーを形成する。
【0011】以下に、本発明者らが、本発明の、サッカ
ロミセス・セレビシエに属する新規酵母H6−7(生工
研菌寄第15349号)を見い出すに至った経緯を説明
する。以下に述べるように、本発明では、酵母を含む大
麦焼酎もろみに該熱ショック処理を施し、さらに該大麦
焼酎もろみから分離した酵母を用いて、新たに大麦焼酎
もろみを作製し、この大麦焼酎もろみに再度該熱ショッ
クを施すことにより、得られた酵母の中からグリセロー
ル生産に優れ、かつ酢酸イソアミルなどの吟醸香エステ
ル類の生産に優れ、菌学的性質が従来のBAW−6株
(旧微工研菌寄第12871号)から明白に異なる、従
来未知の新規な本発明の酵母菌株を取得した。なお上述
の熱ショック処理は、45℃の温度で20分間熱処理す
ることにより行った。
ロミセス・セレビシエに属する新規酵母H6−7(生工
研菌寄第15349号)を見い出すに至った経緯を説明
する。以下に述べるように、本発明では、酵母を含む大
麦焼酎もろみに該熱ショック処理を施し、さらに該大麦
焼酎もろみから分離した酵母を用いて、新たに大麦焼酎
もろみを作製し、この大麦焼酎もろみに再度該熱ショッ
クを施すことにより、得られた酵母の中からグリセロー
ル生産に優れ、かつ酢酸イソアミルなどの吟醸香エステ
ル類の生産に優れ、菌学的性質が従来のBAW−6株
(旧微工研菌寄第12871号)から明白に異なる、従
来未知の新規な本発明の酵母菌株を取得した。なお上述
の熱ショック処理は、45℃の温度で20分間熱処理す
ることにより行った。
【0012】以下に、本発明の新規酵母を取得するに至
った経緯を述べる。 1.有用株の取得
った経緯を述べる。 1.有用株の取得
【実験1】 酵母のグリセロール生産に及ぼす熱ショック処理温度の
影響:本実験は、酵母のグリセロール生産と熱ショック
処理温度との関係を検討する目的で行った。10mlの
YEPD培地(2wt.%グルコース、2wt.%ポリ
ペプトン、1wt.%酵母エキス)において27℃で3
6時間前培養した定常期の焼酎酵母BAW−6(旧微工
研菌寄第12871号)を含む培養液の入った試験管を
4本用意し、それぞれを70℃の恒温槽で35℃,40
℃,45℃,50℃の各所定の温度まで急速に加熱し
た。それぞれの培養液が前記所定の温度に達した時点
で、それぞれの培養液を前記所定の温度に設定した各恒
温槽に移し、撹拌しながら10分間および20分間処理
した後、27℃まで急冷し、それぞれの培養液1mlを
100mlのYEPD培地(10wt.%グルコース、
2wt.%ポリペプトン、1wt.%酵母エキス)に接
種し、30℃で4日間静置培養を行った。酵母が生産し
たグリセロールは、HPLC法で分析した(大森ら:醸
協,89,817−821(1994))。
影響:本実験は、酵母のグリセロール生産と熱ショック
処理温度との関係を検討する目的で行った。10mlの
YEPD培地(2wt.%グルコース、2wt.%ポリ
ペプトン、1wt.%酵母エキス)において27℃で3
6時間前培養した定常期の焼酎酵母BAW−6(旧微工
研菌寄第12871号)を含む培養液の入った試験管を
4本用意し、それぞれを70℃の恒温槽で35℃,40
℃,45℃,50℃の各所定の温度まで急速に加熱し
た。それぞれの培養液が前記所定の温度に達した時点
で、それぞれの培養液を前記所定の温度に設定した各恒
温槽に移し、撹拌しながら10分間および20分間処理
した後、27℃まで急冷し、それぞれの培養液1mlを
100mlのYEPD培地(10wt.%グルコース、
2wt.%ポリペプトン、1wt.%酵母エキス)に接
種し、30℃で4日間静置培養を行った。酵母が生産し
たグリセロールは、HPLC法で分析した(大森ら:醸
協,89,817−821(1994))。
【0013】得られた結果を表1に示す。熱ショック処
理は、処理温度が45℃のとき最もグリセロール生産に
対して促進効果があり、次いで処理温度が50℃で効果
があった。処理温度が40℃でも、グリセロール生産量
は10分間処理で5%、20分間処理でおよそ10%増
加した。しかし、有意差検定の結果、40℃での10分
間処理では、有意な差は認められなかった。また、35
℃ではほとんど効果が認められなかった。酢酸イソアミ
ルは、グリセロール生産が最も高かった45℃処理でや
や増加する傾向にあった。しかし、統計学上有意な差は
認められなかった。
理は、処理温度が45℃のとき最もグリセロール生産に
対して促進効果があり、次いで処理温度が50℃で効果
があった。処理温度が40℃でも、グリセロール生産量
は10分間処理で5%、20分間処理でおよそ10%増
加した。しかし、有意差検定の結果、40℃での10分
間処理では、有意な差は認められなかった。また、35
℃ではほとんど効果が認められなかった。酢酸イソアミ
ルは、グリセロール生産が最も高かった45℃処理でや
や増加する傾向にあった。しかし、統計学上有意な差は
認められなかった。
【0014】
【実験2】 大麦焼酎もろみに対する熱ショック処理:熱ショック処
理の効果を高めるために、大麦焼酎もろみを用いて実験
を行った。常法により製造した大麦麹120gに水12
0mlを加え、純粋培養した焼酎酵母BAW−6(1×
108cell)を接種し、25℃で5日間発酵させた
大麦焼酎もろみを調製し、さらにガーゼろ過により固形
分を除去したもろみ液部について熱ショック処理を以下
のようにして施した。すなわち45℃で20分間熱処理
し、得られたものをYEPD寒天培地(2wt.%グル
コース、2wt.%ポリペプトン、1wt.%酵母エキ
ス)に適宜希釈して塗布し、30℃で2日間培養した。
その結果、熱ショック処理後の生残率は熱ショック処理
前のおよそ0.1%まで低下した。このように、もろみ
中の酵母の耐熱性は、合成培地で培養した酵母の耐熱性
よりも低下していた。この実験で生残していた30株を
耐熱性株として、それぞれの株を別々にYEPD培地
(2wt.%グルコース、2wt.%ポリペプトン、1
wt.%酵母エキス)2mlに接種し、30℃で2日間
前培養した後、その100μlをそれぞれ別々にカザミ
ノ酸培地(10wt.%グルコース、1.17wt.%
イーストカーボンベース、0.5wt.%カザミノ酸)
10mlに植え継ぎ、さらに30℃で4日間発酵した。
酵母が生産したグリセロールはHPLC法で、酵母が生
産した香気成分はヘッドスペースガス分析法で分析し
た。
理の効果を高めるために、大麦焼酎もろみを用いて実験
を行った。常法により製造した大麦麹120gに水12
0mlを加え、純粋培養した焼酎酵母BAW−6(1×
108cell)を接種し、25℃で5日間発酵させた
大麦焼酎もろみを調製し、さらにガーゼろ過により固形
分を除去したもろみ液部について熱ショック処理を以下
のようにして施した。すなわち45℃で20分間熱処理
し、得られたものをYEPD寒天培地(2wt.%グル
コース、2wt.%ポリペプトン、1wt.%酵母エキ
ス)に適宜希釈して塗布し、30℃で2日間培養した。
その結果、熱ショック処理後の生残率は熱ショック処理
前のおよそ0.1%まで低下した。このように、もろみ
中の酵母の耐熱性は、合成培地で培養した酵母の耐熱性
よりも低下していた。この実験で生残していた30株を
耐熱性株として、それぞれの株を別々にYEPD培地
(2wt.%グルコース、2wt.%ポリペプトン、1
wt.%酵母エキス)2mlに接種し、30℃で2日間
前培養した後、その100μlをそれぞれ別々にカザミ
ノ酸培地(10wt.%グルコース、1.17wt.%
イーストカーボンベース、0.5wt.%カザミノ酸)
10mlに植え継ぎ、さらに30℃で4日間発酵した。
酵母が生産したグリセロールはHPLC法で、酵母が生
産した香気成分はヘッドスペースガス分析法で分析し
た。
【0015】得られた結果を表2に示した。熱ショック
処理を施すことによって、30株のうち、ほぼ全ての株
が、親株と比べグリセロール生産が増加した。また30
株のうちいくつかの株については、酢酸イソアミル、カ
プロン酸エチルなどの吟醸香エステルの生産量も増加し
た株が得られた。そこで該30株の中からグリセロール
の生産と吟醸香エステルの生産の両者において良好な7
株を分離した。そしてこの7株を次の操作に用いた。す
なわち、常法により製造した大麦麹120gに水120
mlを加えたものを7つ用意し、このそれぞれに先ほど
分離した7株を個々のYEPD培地で純粋培養したもの
を、1×108cellづつ接種し、25℃で5日間発
酵させて、大麦焼酎もろみを調製し、さらにガーゼろ過
により固形分を除去したもろみ液部について再び45℃
で20分間熱ショック処理を行った。
処理を施すことによって、30株のうち、ほぼ全ての株
が、親株と比べグリセロール生産が増加した。また30
株のうちいくつかの株については、酢酸イソアミル、カ
プロン酸エチルなどの吟醸香エステルの生産量も増加し
た株が得られた。そこで該30株の中からグリセロール
の生産と吟醸香エステルの生産の両者において良好な7
株を分離した。そしてこの7株を次の操作に用いた。す
なわち、常法により製造した大麦麹120gに水120
mlを加えたものを7つ用意し、このそれぞれに先ほど
分離した7株を個々のYEPD培地で純粋培養したもの
を、1×108cellづつ接種し、25℃で5日間発
酵させて、大麦焼酎もろみを調製し、さらにガーゼろ過
により固形分を除去したもろみ液部について再び45℃
で20分間熱ショック処理を行った。
【0016】熱ショック処理した7つのもろみをそれぞ
れ適宜希釈して、別々のYEPD寒天培地(2wt.%
グルコース、2wt.%ポリペプトン、1wt.%酵母
エキス)に塗布し、30℃で2日間培養し、供試した7
株のそれぞれ1株につき比較的大きなコロニーを10株
づつ分離した。さらに、分離した株をそれぞれ個々にY
EPD培地(2wt.%グルコース、2wt.%ポリペ
プトン、1wt.%酵母エキス)2mlに接種し、30
℃で前培養した後、その100μlをそれぞれ別々にカ
ザミノ酸培地(10wt.%グルコース、1.17w
t.%イーストカーボンベース、0.5wt.%カザミ
ノ酸)10mlに植え継ぎ、さらに30℃で4日間発酵
した。酵母が生産したグリセロールはHPLC法で、酵
母が生産した香気成分はヘッドスペースガス分析法で分
析した。得られた結果を表3乃至表5に示す。表3乃至
表5に示すように、熱ショック処理を2回施すことによ
って分離した70株のうち、酢酸イソアミル、カプロン
酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、およ
びグリセロールの生産量がさらに増加した株が数株得ら
れた。これら数株のうち、前記化合物の生産能および増
殖試験の全てにおいて良好な2株(H6−7,H7−
5)を分離した。
れ適宜希釈して、別々のYEPD寒天培地(2wt.%
グルコース、2wt.%ポリペプトン、1wt.%酵母
エキス)に塗布し、30℃で2日間培養し、供試した7
株のそれぞれ1株につき比較的大きなコロニーを10株
づつ分離した。さらに、分離した株をそれぞれ個々にY
EPD培地(2wt.%グルコース、2wt.%ポリペ
プトン、1wt.%酵母エキス)2mlに接種し、30
℃で前培養した後、その100μlをそれぞれ別々にカ
ザミノ酸培地(10wt.%グルコース、1.17w
t.%イーストカーボンベース、0.5wt.%カザミ
ノ酸)10mlに植え継ぎ、さらに30℃で4日間発酵
した。酵母が生産したグリセロールはHPLC法で、酵
母が生産した香気成分はヘッドスペースガス分析法で分
析した。得られた結果を表3乃至表5に示す。表3乃至
表5に示すように、熱ショック処理を2回施すことによ
って分離した70株のうち、酢酸イソアミル、カプロン
酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、およ
びグリセロールの生産量がさらに増加した株が数株得ら
れた。これら数株のうち、前記化合物の生産能および増
殖試験の全てにおいて良好な2株(H6−7,H7−
5)を分離した。
【0017】
【実験3】 H6−7株、H7−5株の形質安定性確認試験:この実
験では、実験2で得られたH6−7株とH7−5株の形
質安定性について調べた。H6−7株とH7−5株をそ
れぞれ別々にYEPD培地(2wt.%グルコース、2
wt.%ポリペプトン、1wt.%酵母エキス)2ml
に接種し、30℃で前培養した後、その100μlをそ
れぞれ別々にカザミノ酸培地(2wt.%グルコース、
1.17wt.%イーストカーボンベース、0.5w
t.%カザミノ酸)10mlに植え継ぎ、30℃で4日
間発酵させた。さらに、前記4日目のカザミノ酸培地発
酵液の100μlをそれぞれ別々に新たなカザミノ酸培
地(2wt.%グルコース、1.17wt.%イースト
カーボンベース、0.5wt.%カザミノ酸)10ml
に植え継ぎ、30℃で4日間発酵させた。最終的には、
この植え継ぎ・発酵の操作を8回繰り返し、それぞれの
回において4日目のカザミノ酸培地について分析を行っ
た。酵母が生産したグリセロールはHPLC法で、酵母
が生産した香気成分はヘッドスペースガス分析法で分析
した。得られた8回の結果のうち、1,4および8回目
の結果を図1に示した。図1に示した結果から、H6−
7株、H7−5株の酢酸イソアミルおよびグリセロール
の高生産能の形質は、8代継代培養でも安定的に保持さ
れていることが明らかになった。最終的には、継代培養
後、形質がより安定していたH6−7株を有用な株と判
定し、新菌株として分離した。
験では、実験2で得られたH6−7株とH7−5株の形
質安定性について調べた。H6−7株とH7−5株をそ
れぞれ別々にYEPD培地(2wt.%グルコース、2
wt.%ポリペプトン、1wt.%酵母エキス)2ml
に接種し、30℃で前培養した後、その100μlをそ
れぞれ別々にカザミノ酸培地(2wt.%グルコース、
1.17wt.%イーストカーボンベース、0.5w
t.%カザミノ酸)10mlに植え継ぎ、30℃で4日
間発酵させた。さらに、前記4日目のカザミノ酸培地発
酵液の100μlをそれぞれ別々に新たなカザミノ酸培
地(2wt.%グルコース、1.17wt.%イースト
カーボンベース、0.5wt.%カザミノ酸)10ml
に植え継ぎ、30℃で4日間発酵させた。最終的には、
この植え継ぎ・発酵の操作を8回繰り返し、それぞれの
回において4日目のカザミノ酸培地について分析を行っ
た。酵母が生産したグリセロールはHPLC法で、酵母
が生産した香気成分はヘッドスペースガス分析法で分析
した。得られた8回の結果のうち、1,4および8回目
の結果を図1に示した。図1に示した結果から、H6−
7株、H7−5株の酢酸イソアミルおよびグリセロール
の高生産能の形質は、8代継代培養でも安定的に保持さ
れていることが明らかになった。最終的には、継代培養
後、形質がより安定していたH6−7株を有用な株と判
定し、新菌株として分離した。
【0018】2.菌学的性質 上記1において分離した菌株H6−7(生工研菌寄第1
5349号)が、親菌株のBAW−6はもとより、焼酎
酵母としての公知の鹿児島酵母(Ko)とも区別される
ものであるかを見極めるため、菌学的性質(形態学的性
質および生理学的性質)の異同について検討した。
5349号)が、親菌株のBAW−6はもとより、焼酎
酵母としての公知の鹿児島酵母(Ko)とも区別される
ものであるかを見極めるため、菌学的性質(形態学的性
質および生理学的性質)の異同について検討した。
【0019】2−(1).形態学的性質 形態学的性質についての観察結果を表6にまとめて示し
た。表6から明らかなように、いずれの栄養細胞もその
大きさは4〜9μmで卵型であった。そしてまた、YM
寒天培地上ではいずれの菌株もつやのある白色のコロニ
ーを形成した。
た。表6から明らかなように、いずれの栄養細胞もその
大きさは4〜9μmで卵型であった。そしてまた、YM
寒天培地上ではいずれの菌株もつやのある白色のコロニ
ーを形成した。
【0020】2−(2).生理学的性質 a.炭素源資化性 固体培地を使用するレプリカ法によって試験した。すな
わち、バクト社製炭素源資化テスト用培地1Lについ
て、それぞれ1種類づつ炭素化合物(グルコース、ガラ
クトースなど)10gを溶解した寒天平板にそれぞれの
酵母菌体を接種(スタンプ)し、資化性を観察した。表
7に炭素源資化性の結果を示した。BAW−6株および
H6−7株との間では違いはなかった。しかしKo株と
の間では違いが認められた。すなわちKo株はエタノー
ルを資化しなかった。
わち、バクト社製炭素源資化テスト用培地1Lについ
て、それぞれ1種類づつ炭素化合物(グルコース、ガラ
クトースなど)10gを溶解した寒天平板にそれぞれの
酵母菌体を接種(スタンプ)し、資化性を観察した。表
7に炭素源資化性の結果を示した。BAW−6株および
H6−7株との間では違いはなかった。しかしKo株と
の間では違いが認められた。すなわちKo株はエタノー
ルを資化しなかった。
【0021】b.増殖阻害物質に対する耐性 固体培地を使用するレプリカ法によって試験した。それ
ぞれ1種類づつの増殖阻害薬剤(カナバニン、セルレニ
ンなど)を含む寒天最少培地(2wt.%グルコース、
0.67wt.%イーストナイトロジェンベースw/o
アミノ酸、2wt.%寒天)にそれぞれの酵母菌体を接
種(スタンプ)し、薬剤耐性を観察した。表8に薬剤耐
性の結果を示した。BAW−6株は10ppmセルレニ
ンに耐性があるのに対し、Ko株、H6−7株は10p
pmセルレニンに耐性がなかった。BAW−6株、Ko
株は12wt.%塩化ナトリウムに耐性がないのに対
し、H6−7株は12wt.%塩化ナトリウムに耐性が
あった。
ぞれ1種類づつの増殖阻害薬剤(カナバニン、セルレニ
ンなど)を含む寒天最少培地(2wt.%グルコース、
0.67wt.%イーストナイトロジェンベースw/o
アミノ酸、2wt.%寒天)にそれぞれの酵母菌体を接
種(スタンプ)し、薬剤耐性を観察した。表8に薬剤耐
性の結果を示した。BAW−6株は10ppmセルレニ
ンに耐性があるのに対し、Ko株、H6−7株は10p
pmセルレニンに耐性がなかった。BAW−6株、Ko
株は12wt.%塩化ナトリウムに耐性がないのに対
し、H6−7株は12wt.%塩化ナトリウムに耐性が
あった。
【0022】c.TTC染色性 古川、秋山の方法(古川ら:農化、37,398−(1
963))に従って試験した。すなわち、BAW−6
株,Ko株およびH6−7株のそれぞれの菌体を適当に
希釈し(1プレートに約200程度となるよう)、下層
培地に30℃で2日間プレート培養したコロニー上へ、
TTC寒天を溶解後45℃程度にしてから静かに重層
し、固まった後30℃に2〜3時間放置し、コロニーの
染色状況を観察した。表9にTTC染色性の観察結果を
示した。表9に示した結果から明らかなように、BAW
−6株、Ko株、H6−7株ともいずれもピンクであっ
た。
963))に従って試験した。すなわち、BAW−6
株,Ko株およびH6−7株のそれぞれの菌体を適当に
希釈し(1プレートに約200程度となるよう)、下層
培地に30℃で2日間プレート培養したコロニー上へ、
TTC寒天を溶解後45℃程度にしてから静かに重層
し、固まった後30℃に2〜3時間放置し、コロニーの
染色状況を観察した。表9にTTC染色性の観察結果を
示した。表9に示した結果から明らかなように、BAW
−6株、Ko株、H6−7株ともいずれもピンクであっ
た。
【0023】d.D.C.染色性 溝口、藤田の方法(溝口ら:醗酵工学、59,185−
188(1981))に従って試験した。すなわち、B
AW−6株,Ko株およびH6−7株のそれぞれの菌体
を適当に希釈し(1プレートに約200程度となるよ
う)、下層培地に30℃で2日間プレート培養したコロ
ニー上へ、上層用軟寒天を溶解後45℃程度にしてから
静かに重層し、固まった後室温に30分間放置し、コロ
ニーの染色状況を観察した。表9にD.C.染色性の観
察結果を示した。表9に示した結果から明らかなよう
に、BAW−6株は白であったが、Ko株およびH6−
7株は茶であった。
188(1981))に従って試験した。すなわち、B
AW−6株,Ko株およびH6−7株のそれぞれの菌体
を適当に希釈し(1プレートに約200程度となるよ
う)、下層培地に30℃で2日間プレート培養したコロ
ニー上へ、上層用軟寒天を溶解後45℃程度にしてから
静かに重層し、固まった後室温に30分間放置し、コロ
ニーの染色状況を観察した。表9にD.C.染色性の観
察結果を示した。表9に示した結果から明らかなよう
に、BAW−6株は白であったが、Ko株およびH6−
7株は茶であった。
【0024】以上の菌学的性質の観察結果から、次のこ
とがわかった。すなわち、本菌H6−7株は、(a)エ
タノールの資化性について、Ko株と異なる;(b)セ
ルレニンに対する耐性について、BAW−6株と異な
る;(c)塩化ナトリウムに対する耐性について、BA
W−6およびKo株と異なる;(d)D.C.染色性に
ついて、BAW−6株と異なる。さらに20代にわたる
継代培養を行ったところ、上記(a),(b),(c)
および(d)の性質は維持された。従って上記(a),
(b),(c)および(d)の性質はH6−7株に特有
の確定的な性質であることが分かった。よって、本菌す
なわち、H6−7株は、従来の酵母から客観的に区別さ
れるものであることが判明し、本発明者らはこれを新規
酵母と認定し、この菌株をH6−7と命名した。本菌株
は、平成7年12月15日に工業技術院生命工学工業技
術研究所に寄託し、生工研菌寄第15349号なる受託
番号を得た。
とがわかった。すなわち、本菌H6−7株は、(a)エ
タノールの資化性について、Ko株と異なる;(b)セ
ルレニンに対する耐性について、BAW−6株と異な
る;(c)塩化ナトリウムに対する耐性について、BA
W−6およびKo株と異なる;(d)D.C.染色性に
ついて、BAW−6株と異なる。さらに20代にわたる
継代培養を行ったところ、上記(a),(b),(c)
および(d)の性質は維持された。従って上記(a),
(b),(c)および(d)の性質はH6−7株に特有
の確定的な性質であることが分かった。よって、本菌す
なわち、H6−7株は、従来の酵母から客観的に区別さ
れるものであることが判明し、本発明者らはこれを新規
酵母と認定し、この菌株をH6−7と命名した。本菌株
は、平成7年12月15日に工業技術院生命工学工業技
術研究所に寄託し、生工研菌寄第15349号なる受託
番号を得た。
【0025】
【使用例】本発明の酵母H6−7を使用して大麦焼酎を
製造した。原料としては、大麦(70%精白)を用い
た。1次仕込みは以下に述べた方法で製造した大麦麹
(大麦として100g)、水120mlに酵母(酵母数
で1×109個)を用い、5日間発酵させた。また、2
次仕込みは1次仕込みで製造したもろみに水380m
l、蒸麦(大麦として200g)を加え、10日間発酵
させた。大麦麹は、大麦を40%(W/W)吸水させ、
40分間蒸した後、35℃まで放冷し、大麦1kgあた
り1g量の種麹(焼酎白麹菌)を接種し、38℃,相対
湿度(RH)95%で24時間、32℃,RH92%で
20時間で製造した。蒸麦は、大麦を40%(W/W)
吸水させ、40分間蒸した後、25℃まで放冷後、1次
仕込みに加えた。発酵温度は1次仕込み、2次仕込みと
も25℃とした。かくして大麦焼酎を製造した。
製造した。原料としては、大麦(70%精白)を用い
た。1次仕込みは以下に述べた方法で製造した大麦麹
(大麦として100g)、水120mlに酵母(酵母数
で1×109個)を用い、5日間発酵させた。また、2
次仕込みは1次仕込みで製造したもろみに水380m
l、蒸麦(大麦として200g)を加え、10日間発酵
させた。大麦麹は、大麦を40%(W/W)吸水させ、
40分間蒸した後、35℃まで放冷し、大麦1kgあた
り1g量の種麹(焼酎白麹菌)を接種し、38℃,相対
湿度(RH)95%で24時間、32℃,RH92%で
20時間で製造した。蒸麦は、大麦を40%(W/W)
吸水させ、40分間蒸した後、25℃まで放冷後、1次
仕込みに加えた。発酵温度は1次仕込み、2次仕込みと
も25℃とした。かくして大麦焼酎を製造した。
【0026】
【比較例】酵母としてBAW−6を用いた以外は、使用
例と同様にして大麦焼酎を製造した。
例と同様にして大麦焼酎を製造した。
【0027】
【評価】上記使用例および比較例における大麦焼酎製造
における発酵経過は、それぞれ図2に示す発酵曲線のと
おりであった。当該発酵曲線から、本発明酵母H6−7
の発酵状態はBAW−6株のそれに比べて良好であるこ
とがわかった。さらにまた、使用例および比較例のそれ
ぞれにおいて得られたもろみについてエタノール、グリ
セロール、およびエステル類の濃度を調べ、結果を表1
0に示した。表10の結果から、親株であるBAW−6
を用いたものよりグリセロール濃度が1.3倍以上、酢
酸イソアミルなどのエステル類はおよそ1.2倍増加し
たことが判った。なお、エタノール濃度は親株と同じで
あった。以上述べたことからも明らかなように、本発明
の酵母H6−7は、従来の焼酎酵母であるBAW−6と
比べ、強い発酵力を有し、高いグリセロール生産能とエ
ステル生産能を与えることができるものであることがわ
かった。
における発酵経過は、それぞれ図2に示す発酵曲線のと
おりであった。当該発酵曲線から、本発明酵母H6−7
の発酵状態はBAW−6株のそれに比べて良好であるこ
とがわかった。さらにまた、使用例および比較例のそれ
ぞれにおいて得られたもろみについてエタノール、グリ
セロール、およびエステル類の濃度を調べ、結果を表1
0に示した。表10の結果から、親株であるBAW−6
を用いたものよりグリセロール濃度が1.3倍以上、酢
酸イソアミルなどのエステル類はおよそ1.2倍増加し
たことが判った。なお、エタノール濃度は親株と同じで
あった。以上述べたことからも明らかなように、本発明
の酵母H6−7は、従来の焼酎酵母であるBAW−6と
比べ、強い発酵力を有し、高いグリセロール生産能とエ
ステル生産能を与えることができるものであることがわ
かった。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
【表7】
【0035】
【表8】
【0036】
【表9】
【0037】
【表10】
【0038】
【発明効果の概要】グリセロール生産能および酢酸イソ
アミル、カプロン酸エチルなどのエステル生産能が高い
新規な醸造用酵母。
アミル、カプロン酸エチルなどのエステル生産能が高い
新規な醸造用酵母。
【図面の簡単な説明】
【図1】H6−7株、H7−5株の酢酸イソアミルおよ
びグリセロール高生産能の形質安定性を示すグラフであ
る。
びグリセロール高生産能の形質安定性を示すグラフであ
る。
【図2】25℃の発酵温度での、大麦焼酎の製造におけ
る発酵状態を示す発酵曲線である。
る発酵状態を示す発酵曲線である。
フロントページの続き (72)発明者 小川 清 大分県宇佐市大字山本2231−1 三和酒 類株式会社内 (72)発明者 幸 賢二 大分県宇佐市大字山本2231−1 三和酒 類株式会社内 (56)参考文献 特開 平7−115963(JP,A) 特開 平6−62838(JP,A) 特開 平7−79766(JP,A) 特開 平7−51053(JP,A) 特開 平6−14766(JP,A) 特開 平4−356180(JP,A) 特開 平2−65776(JP,A) 特開 平2−13368(JP,A) 特開 昭63−309175(JP,A) 平成7年度日本生物工学会大会講演要 旨集,平成7年9月20日,p.40(Pt 214) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 1/16 - 1/19
Claims (2)
- 【請求項1】 焼酎酵母BAW-6株を含む大麦焼酎もろみ
(A)に45℃の温度で20分間の熱ショック処理を施し、
該熱ショック処理後の該大麦焼酎もろみ(A)からグリ
セロール生産性と吟醸香エステル生産性の両者において
良好な酵母を分離し、該分離した酵母を用いて大麦焼酎
もろみ(B)を作成し、該大麦焼酎もろみ(B)に45℃
の温度で20分間の熱ショック処理を施すことにより、該
熱ショック処理後の該大麦焼酎もろみ(B)から分離し
た、優れたグリセロール生産性を有し且つ優れたエステ
ル生産性を有するサッカロミセス・セレビシエに属し生
工研菌寄第15349号として寄託されている醸造用酵
母H6−7であって、該醸造用酵母は、(1)TTC染
色性試験,すなわち菌体を適当に希釈し(1プレートに
約200程度となるよう),TTC下層培地に30℃で
2日間プレート培養したコロニーへ,TTC寒天を溶解
後45℃程度にしてから静かに重層し,固まった後30
℃に2〜3時間放置し,コロニーの染色を観察したと
き,ピンク色を示し,かつ(2)D.C.染色性試験,
すなわち菌体を適当に希釈し(1プレートに約200程
度となるよう),TTC下層培地に30℃で2日間プレ
ート培養したコロニーへ,上層用軟寒天を溶解後45℃
程度にしてから静かに重層し,固まった後室温に30分
放置し,コロニーの染色を観察したとき,茶色を示す、
菌学的性質を有する。 - 【請求項2】 下記の菌学的性質を有する請求項1に記
載の醸造用酵母H6−7。 (a)YM培地(1wt.%グルコース,0.5wt.
%ペプトン,0.3wt.%酵母エキス,0.3wt.
%麦芽エキス)を用い,30℃で2日間培養したときの
菌の形態: 栄養細胞の大きさ:4〜9μm 栄養細胞の形状: 卵型 増殖の形態: 出芽 (b)2wt.%寒天YM平板培地を用い,30℃で2
日間培養したときのコロニーの形態: 形態:円 隆起:凸円状 周縁:円滑 大きさ(直径):2〜3mm 色調:白色で不透明 表面:円滑で光沢あり (c) 炭素源資化性: グルコース,ガラクトース,フルクトース,シュクロ
ース,マルトース,マンノース,トレハロース,アラビ
ノース,ラフィノース,エタノール,乳酸,イヌリン,
コハク酸,及びグリセロールは資化する。 セロビオー
ス,メリビオース,エリスリトール,イノシトール,α
ーメチルジグルコシド,ラクトース,マンニトール,メ
レジトース,メリビオース,ラムノース,リボース,サ
リシン,ソルビトール,スターチ,及びキシロースは資
化しない。 (d) 増殖阻害物質に対する耐性: セルレニン10ppm存在下の寒天培地(2wt.%グ
ルコース,0.67wt.%イーストナイトロジェンベ
ース)でコロニーを形成しない; 塩化ナトリウム12
wt.%存在下の寒天培地(2wt.%グルコース,
0.67wt.%イーストナイトロジェンベース)でコ
ロニーを形成する。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP6033996A JP3337897B2 (ja) | 1996-02-23 | 1996-02-23 | 新規な醸造用酵母 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP6033996A JP3337897B2 (ja) | 1996-02-23 | 1996-02-23 | 新規な醸造用酵母 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH09224651A JPH09224651A (ja) | 1997-09-02 |
JP3337897B2 true JP3337897B2 (ja) | 2002-10-28 |
Family
ID=13139316
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP6033996A Expired - Fee Related JP3337897B2 (ja) | 1996-02-23 | 1996-02-23 | 新規な醸造用酵母 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3337897B2 (ja) |
-
1996
- 1996-02-23 JP JP6033996A patent/JP3337897B2/ja not_active Expired - Fee Related
Non-Patent Citations (1)
Title |
---|
平成7年度日本生物工学会大会講演要旨集,平成7年9月20日,p.40(Pt 214) |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH09224651A (ja) | 1997-09-02 |
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