JP3313059B2 - アルミニウム合金中空押出形材からなる軸圧壊特性に優れるエネルギー吸収部材 - Google Patents

アルミニウム合金中空押出形材からなる軸圧壊特性に優れるエネルギー吸収部材

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浩之 山下
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特定のAl−Mg
−Si系アルミニウム合金からなる中空押出形材からな
り、その押出軸方向に圧縮の衝撃荷重あるいは圧縮の静
的負荷を受けたとき、その衝撃荷重及び静的負荷を吸収
する作用を持つエネルギー吸収部材に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車のフレーム構造において、サイド
メンバやバンパーステイなど、軸方向に圧縮の衝撃荷重
を受けるエネルギー吸収部材に要求される特性の1つ
は、部材が押出軸方向に荷重を受けたとき形材全体がオ
イラー座屈(形材全体がくの字形に曲がる座屈)を起こ
さず、かつ圧壊割れを発生することなく蛇腹状に収縮変
形して、安定したエネルギー吸収を得ることであり、こ
のようなエネルギー吸収部材に対し、軽量化のためアル
ミニウム合金からなる中空押出形材の適用が検討されて
いる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】これまで、エネルギー
吸収部材として利用できるアルミニウム合金押出形材に
ついて、例えば特開平7−310150号公報、特開平
7−118782号公報、特開平6−25783号公報
等では合金組成又は材料特性が検討され、さらに特開平
8−310440号公報では材料特性と断面形状の関係
について検討がなされている。一方、本発明者らは、高
強度アルミニウム合金の中では比較的耐食性に優れ、リ
サイクル性の面でも他の系のアルミニウム合金より優れ
ている6000系(Al−Mg−Si系)アルミニウム
合金押出形材について、エネルギー吸収部材への適用の
可能性を種々検討する過程で、特定の合金組成に対応し
て優れた軸圧壊特性が得られる断面形状が存在すること
を見いだした。
【0004】本発明の目的は、この知見に基づき、特定
のAl−Mg−Si系アルミニウム合金からなる押出形
材について、組成と断面形状の組み合せを工夫すること
で、エネルギー吸収部材としてより優れた軸圧壊特性を
示す押出形材を得ようというものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明に係る軸圧壊特性
に優れたアルミニウム合金押出形材は、Mg:0.4〜
1.1%、Si:0.5〜1.5%、Cu:0.2〜
1.0%、Ti:0.005〜0.2%を含有するAl
−Mg−Si系アルミニウム合金からなる中空押出形材
において、中空部を囲む最外周部が多角形をなすととも
にその最大肉厚と最小肉厚の肉厚比が1〜1.4であ
り、かつ単位中空部を囲む外周部が多角形をなすととも
にその幅厚比が全て0.1以下であることを特徴とす
る。この幅厚比は0.04〜0.07に設定するのが特
に好ましい。なお、単位中空部を囲む外周部とは、押出
形材に中空部が2以上あるとき、それぞれの中空部を囲
む外周部を意味し、また、ここでいう幅厚比は、その外
周部を構成する各板要素の板厚の平均値を板幅の平均値
で割った値と定義される。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明に係るAl−Mg−Si系
アルミニウム合金は、Mg:0.4〜1.1%、Si:
0.5〜1.5%、Cu:0.2〜1.0%、Ti:
0.005〜0.2%を含有する析出硬化型合金であ
る。必要に応じて、Cr:0.05〜0.5%、Mn:
0.05〜0.6%、Zr:0.05〜0.3%以下の
1種又は2種以上を含み、必要があれば他の微量元素を
含むことができる。また、残部はAl及び不可避不純物
であり、不可避不純物のうちFeは0.35%以下、そ
の他の不純物は個別には0.05%以下、合計で0.1
5%以下に制限される。
【0007】上記のAl−Mg−Si系アルミニウム合
金を用いてエネルギー吸収部材を製造するには、常法に
則り溶解鋳造により鋳塊にした後、均質化処理し、所望
の断面形状に熱間押出−プレス焼入れするか、所望の断
面形状に熱間押出後、溶体化焼入れした後、時効処理又
は過時効処理を行う。過時効処理とは、この合金で最大
強度(耐力)が得られる条件、例えば177〜183℃
×450〜510minあるいは187〜193℃×1
50〜210minという条件より高い温度又は長い時
間時効処理を行うことであり、190℃を越える温度、
例えば210〜230℃で3時間以上行い、上記最大強
度の0.5〜0.9倍の強度(耐力)が得られるように
するのが好ましい。過時効処理を施すことで、押出形材
の軸方向に対する最大荷重は多少低下するが、圧壊割れ
を発生することなく安定して蛇腹状に収縮変形しやすく
なり、総合的な軸圧壊特性は向上する利点がある。
【0008】この合金における各成分の限定理由は次の
とおりである。 Mg、Si Mg及びSiは、合金に強度を付与する元素である。M
g含有量が0.4%未満又はSi含有量が0.5%未満
の場合、時効処理の効果が不十分で強度が不足し、エネ
ルギー吸収部材として十分な強度、エネルギー吸収量が
得られない。特に過時効処理を行ったときにその傾向が
顕著となる。逆に、Mg含有量が1.1%を越えると押
出性が劣るとともに圧壊割れが発生しやすくなり、Si
含有量が1.5%を越えると強度の向上効果が飽和する
とともに圧壊割れが発生しやすくなる。従って、Mg:
0.4〜1.1%、Si:0.5〜1.5%の範囲とす
る。好ましくは、Mg:0.4〜0.8%、Si:0.
7〜1.1%の範囲である。
【0009】Cu Cuはその添加量に応じて合金の引張強さ及び耐力を高
める働きがあり、特に過時効処理を行う場合は強度の低
下を補うが、その反面、耐食性を低下させる。従って、
この合金では両作用を勘案して0.2〜1.0%、好ま
しくは0.3〜0.7%である。 Ti Tiは溶解鋳造時に核生成し鋳造組織を微細にする働き
があるので、0.005%以上添加する。しかし、多す
ぎると粗大な化合物を生成しこの合金を脆弱にするので
0.2%を上限とする。
【0010】Cr、Mn、Zr Cr、Mn、Zrは、均質化熱処理時に微細な金属間化
合物を析出して合金の再結晶化を抑制し、押出材のミク
ロ組織の微細化に効果があり、加工時に割れや肌荒れが
発生するのを防止する。それぞれ0.05%以上の添加
により効果があるが、過剰に添加しても効果が飽和する
ため、添加する場合はそれぞれ、0.3%以下、0.6
%以下、0.3%以下とする。
【0011】次に本発明に係る押出形材の断面形状につ
いて、図1〜図4を参照して具体的に説明する。図1は
口型の押出形材を例示したものであり、中空部が1つし
かないので中空部を囲む最外周部及び単位中空部を囲む
外周部は同一である。外周部を構成する各板要素(4
つ)の板厚をt1〜t4(仮にt1=t3、t2=t4、t1
<t2)、板幅をD1〜D4(D1=D3、D2=D4)とす
ると、最大肉厚と最小肉厚の肉厚比(tmax/tmin=t2
/t1)は1〜1.4の範囲とされる。幅厚比t/Dは
(t1+t2+t3+t4)/4と(D1+D2+D3+D4
/4の比であり、結局(t1+t 2)/(D1+D2)で表
され、これが0.1以下に設定される。
【0012】図2(a)は口型の外壁から取付用のフラ
ンジが突出して形成された押出形材を例示したもので、
中空部を囲む最外周部及び単位中空部を囲む外周部は図
2(b)のようになり、この形状について肉厚比及び幅
厚比が図1の口型押出形材と同様に設定される。図3
(a)は日型の押出形材を例示したものである。このよ
うに2つの中空部を有する押出形材の場合、中空部を囲
む最外周部は図3(b)のようになり、単位中空部を囲
む外周部は図3(c)のように2つあり、これらの形状
に基づいて肉厚比及び幅厚比が図1の口型押出形材と同
様に設定される。図4(a)は田型の押出型材を例示し
たものである。このように4つの中空部を有する押出形
材の場合、中空部を囲む最外周部は図4(b)のように
なり、単位中空部を囲む外周部は図4(c)のように4
つあり、これらの形状に基づいて肉厚比及び幅厚比が図
1の口型押出形材と同様に設定される。なお、単位中空
部が2つ以上あるときは、全ての単位中空部において幅
厚比が0.1以下になるように設定される。
【0013】この肉厚比(tmax/tmin)を1〜1.4
に設定したのは、これが1.4を越えると圧壊時に割れ
が発生しやすく正常な蛇腹状の変形を起こさなくなり、
エネルギー吸収量も減少するためである。同時に幅厚比
(t/D)を0.1以下に設定したのは、これが0.1
を越えると同じく圧壊時に割れが発生しやすく正常な蛇
腹状の変形を起こさなくなるためである。特に幅厚比が
0.04〜0.07のとき、割れの発生がなく、蛇腹状
の変形を起こし、エネルギー吸収量に関して素材のポテ
ンシャルを犠牲にしない(幅厚比が余り小さいと重量当
りのエネルギー吸収量が減少する)という、優れた特性
を示す。
【0014】なお、以上は押出型材の断面において、最
外周部及び単位中空部を囲む外周部がいずれも矩型のも
のを例示したが、本発明は最外周部及び/又は単位中空
部を囲む外周部が他の多角形状をなす場合も同様に適用
できる。また、本発明に係る押出形材は、自動車等の車
体のフレーム材、例えばサイドメンバやバンパーステイ
など、押出軸方向に加えられる衝撃荷重を変形エネルギ
ーに変換することにより構体全体の破壊を防止する用途
に適用される。
【0015】
【実施例】表1に示す化学成分(a、b、c)のAl−
Mg−Si系合金を半連続鋳造法により作成した鋳塊
に、550℃×6hrの均質化熱処理を施した後、ビレ
ット温度500℃にて図5に示す日型及び口型断面形状
(口型A、口型B)に押出成形し、冷却後、焼入れを行
った。各押出形材の化学成分、断面形態、フランジ肉厚
tf、ウェブ肉厚tw、断面積、肉厚比(tmax/tmi
n)、幅厚比(t/D)を表2に示す。これを長さ30
0mmに切断した後、210℃×3hrの時効処理を行
って供試材とした。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】続いて供試材の静的な軸圧壊試験を行っ
た。その試験結果も表2に合わせて示す。なお、エネル
ギー吸収量は変位量150mmまでに吸収したエネルギ
ーであり、割れの評価は、◎は割れなしで蛇腹状に変
形、○は割れの程度が支障のないレベルで蛇腹状に変
形、×は割れの程度がひどく正常な蛇腹状とはいえない
変形、を意味する。
【0019】表2の結果をみると、No.1とNo.
2、No.3とNo.4はそれぞれ断面積及び幅圧比
(t/D)がほぼ同じであるが、肉厚比(tmax/tmi
n)が本発明の規定から外れるNo.2とNo.4は、
割れが発生して正常な蛇腹状に変形せず、エネルギー吸
収量が小さくなっている。また、No.5、No.6、
No.9は幅厚比(t/D)が異なっており、t/Dが
やや大きいNo.5は重量当りのエネルギー吸収量が大
きいが割れが少し発生するようになり、t/Dが小さい
No.9は割れ評価は優れているが重量当りのエネルギ
ー吸収量がかなり小さく、No.6はトータルとして最
もバランスがとれている。さらに、No.6と断面形状
が全く同じで合金成分が本発明の規定外のNo.7、N
o.8は割れが発生して正常な蛇腹状に変形せず、エネ
ルギー吸収量も小さかった。
【0020】
【発明の効果】本発明によれば、押出軸方向に圧縮の衝
撃荷重あるいは圧縮の静的負荷を受けたとき、圧壊割れ
を発生することなく又は発生しても支障のないレベルで
蛇腹状に収縮変形するとともに、合金のポテンシャルに
相応するエネルギー吸収量を示し、エネルギー吸収部材
として好適な、軸圧壊特性に優れたアルミニウム合金押
出形材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る押出形材の断面形状を説明する
図である。
【図2】 同じく本発明に係る押出形材の断面形状を説
明する図である。
【図3】 同じく本発明に係る押出形材の断面形状を説
明する図である。
【図4】 同じく本発明に係る押出形材の断面形状を説
明する図である。
【図5】 実施例に用いた押出形材の断面形状である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平9−256096(JP,A) 特開 平10−45023(JP,A) 特開 平7−164880(JP,A) 実開 平7−35252(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B62D 21/00 - 21/15 B62D 25/00,29/00 C22C 21/00 - 21/18

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Mg:0.4〜1.1%(重量%、以下
    同じ)、Si:0.5〜1.5%、Cu:0.2〜1.
    0%、Ti:0.005〜0.2%を含有するAl−M
    g−Si系アルミニウム合金の中空押出形材からなるエ
    ネルギー吸収部材において、該中空押出形材が、その
    空部を囲む最外周部が多角形をなすとともにその最大肉
    厚と最小肉厚の肉厚比が1〜1.4であり、かつ単位中
    空部を囲む外周部が多角形をなすとともにその幅厚比が
    全て0.04〜0.07であり、さらに時効処理又は過
    時効処理が行われていることを特徴とするアルミニウム
    合金中空押出形材からなる軸圧壊特性に優れたエネルギ
    ー吸収部材
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