JP3310636B2 - 金属膜転写用部材、その製造方法および積層セラミック電子部品の製造方法 - Google Patents

金属膜転写用部材、その製造方法および積層セラミック電子部品の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主として、金属内
部電極を持つ積層セラミック電子部品の製造に用いられ
る金属膜転写用部材、その製造方法および積層セラミッ
ク電子部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、電子機器の小型化や省資源の観点
から、積層セラミック電子部品の小型化、特に積層セラ
ミックコンデンサにおいては、薄層・多層化による大容
量化が急速に進展しており、内部電極についても、より
薄く均一で欠陥の少ないものが必要とされている。
【0003】積層セラミック電子部品の内部電極の形成
方法は、金属粉末と有機結合剤からなる金属ペーストを
スクリーン印刷によりセラミックグリーンシートに印刷
する方法によるのが一般的である。
【0004】しかしながら、従来のスクリーン印刷法で
は、原料金属粒子の粒子サイズまたはスクリーンの厚さ
などにより薄層化に限界があり、また電極が粒子の焼結
によって形成されることから、薄層化するほど電極が不
連続となりやすいという問題がある。
【0005】そこで、各種薄膜形成法により形成された
金属膜を用いて内部電極を構成するセラミック積層電子
部品の製造方法が提案されている。たとえば、特公平7
−54780号公報、特開平4−314876号公報、
特開平8−115847号公報で提案されている製造方
法は、シリコーンコートなどの剥離処理を施した合成樹
脂よりなるキャリアフィルム上に、真空製膜法または、
真空製膜法と湿式めっき法とにより作成した金属膜を、
熱圧着によりセラミックグリーンシートへ転写するとい
うものである。また、特開平6−231999号公報、
特開平10−125556号公報、特開平10−208
980号公報で提案されている製造方法は、合成樹脂よ
りなるキャリアフィルム上に、無電解めっき法により作
成した金属膜を、熱圧着または熱転写法により、セラミ
ックグリーンシートへ転写するというものである。
【0006】しかしながら、接着性がほとんどない純金
属膜を、一般に有機結合剤の含有量が少ないセラミック
グリーンシートに欠陥なく転写するのは困難であり、前
述の公知技術においては、概ね50°C以上への加熱、
および20kg/cm以上の加圧が必要とされてい
る。この場合、所定の温度に加熱し、また所定の圧力に
加圧するためには、一定の時間が必要とされるので生産
性が低く、また、加熱手段を備えた高圧を発生するプレ
ス機が必要とされ、設備コストが高くなるという問題点
があった。
【0007】生産性を向上し、設備コストも低減する手
段としては、別の基体上に形成されたパターン化された
金属膜上に接着層を形成し、常温かつ低圧でセラミック
グリーンシートに直接に、あるいは中間媒体を経由して
間接的に転写することが考えられる。この方法におい
て、金属膜の転写対象物であるセラミックグリーンシー
トあるいは中間媒体を破壊しないようにするためには、
前記接着層は、パターン化された金属膜の表面のみに形
成されていることが必要である。何故ならば、パターン
化された金属膜以外の基体表面にも接着層が形成されて
いれば、転写対象物と基体そのものとが接着してしまう
からである。
【0008】しかしながら、このような必要条件を満足
する接着層を、通常の塗布法あるいは印刷法によって形
成することは困難である。
【0009】このような、パターン化された金属膜の表
面のみに形成された接着層を得る手段として、本願発明
者はすでに、金属に均一な塗膜を形成するために、一般
に用いられている電着塗装法を応用することを提案して
いる(特願平11−141434号)。すなわち、この
発明は、平滑な表面を持つ基体上に、薄膜形成法によっ
てパターン化された金属膜を形成し、該金属膜の表面の
みに、電着塗装法によって少なくとも熱可塑性有機高分
子を含む接着層を形成することにより、常温かつ低い圧
力で転写可能な転写用金属膜を構成するというものであ
る。
【0010】特に、導電性基体上に所定の形状の開口部
を持つめっきレジスト層を形成した後、電解めっき法に
よって金属膜を形成し、電着塗装法によって接着層を形
成する場合には、高価な真空装置やパラジウム触媒を使
用する必要がなく、処理の連続化も容易となる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記電
解めっき法と電着塗装法の組み合わせによる方法では、
パターンを形成するためのめっきレジスト層が存在する
ことから、厚さが1μm以下の極めて薄い金属膜および
接着層を形成する場合、次のような問題が発生する場合
がある。
【0012】形成される金属膜および接着層の厚さに比
較してめっきレジスト層の厚さが厚い場合には、めっき
レジスト層を存在させたままの状態では転写が困難なた
め、有機溶剤、酸またはアルカリ溶液などの剥離液を用
いてレジスト層を除去した後に転写用途に供する必要が
ある。ところが、剥離液でレジスト層を除去する際に電
着塗装法により形成された接着層が溶解もしくは膨潤し
たり、または剥離されたレジスト層成分が接着層に再付
着するなどの不都合が発生し、部分的な転写不良を生じ
る場合がある。
【0013】これに対し、めっきレジスト層を存在させ
たまま金属膜を転写可能とするために、めっきレジスト
層の厚さを1〜3μmと極めて薄くした場合には、10
V以上の比較的高電圧で形成される電着塗装法による接
着層が、めっきレジスト層のうち部分的に薄く、絶縁性
の低い部分にも析出する場合があり、この部分も転写対
象物に接着してしまうことから、転写対象物を破壊する
場合がある。
【0014】本発明の第1の目的は、こうした従来技術
の問題点を解決し、部分的に転写不良を生じることなく
極めて薄くかつ均一な金属膜のパターンを、グリーンシ
ートなどの壊れやすい転写対象物を破壊することなく、
より安定的に当該転写対象物の表面に転写することがで
きる金属膜転写用部材を提供することにある。
【0015】本発明の第2の目的は、このような金属膜
転写用部材を、極めて容易かつ低コストで製造すること
ができる金属膜転写用部材の製造方法を提供することに
ある。 本発明の第3の目的は、厚みが薄く且つ均一で
欠陥の少ない内部電極を持つ積層セラミック電子部品を
実現することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、本願発明者は、電解コンデンサの製造に用いられて
いるいわゆるバルブ金属の陽極酸化処理に着目し、種々
の金属について検討した結果、特定の金属を陽極酸化処
理して基体として用いた場合に、基体を陰極として電解
する電解めっきによる金属の析出は可能であるが、基体
を陽極として電解するアニオン電着塗装による接着層の
析出が不可能となることを見い出し、本発明に到達し
た。
【0017】(1)本発明に係る金属膜転写用部材は、
陽極酸化膜が形成してあるバルブ金属を主成分とする導
電性基体と、前記基体の陽極酸化膜側表面に電解めっき
法により形成された所定パターンの金属膜と、前記金属
膜の表面にアニオン電着塗装法により形成された熱可塑
性有機高分子を含む接着層とを有する。
【0018】前記導電性基体は、陽極酸化処理に使用で
きる処理液や電解めっき処理液の選択の自由度が大きい
こと、比較的安価であること、冷間圧延によって長尺の
薄い箔が得られることなどから、NbまたはTaを主成
分とすることが好ましい。
【0019】前記接着層に含まれる熱可塑性有機高分子
は、アクリル系樹脂またはアクリル共重合系樹脂である
ことが好ましい。
【0020】本発明において、基体の具体的形状は特に
限定されないが、シート状であることが好ましい。ま
た、基体の表面は平滑であることが好ましい。
【0021】前記陽極酸化膜の厚みは、好ましくは50
〜1000nm、さらに好ましくは100〜500nm
である。
【0022】前記接着層の厚みは、特に限定されない
が、好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは
0.1〜1μmである。また、金属膜の厚みも、特に限
定されないが、好ましくは0.1〜30μm、さらに好
ましくは0.1〜1.5μmである。
【0023】(2)本発明の第1の観点に係る金属膜転
写用部材の製造方法は、バルブ金属を主成分とする導電
性基体の表面に陽極酸化処理により陽極酸化膜を形成す
る工程と、前記導電性基体の陽極酸化膜側表面に所定パ
ターンの開口部を持つめっきレジスト層を形成する工程
と、前記所定パターンの開口部内に電解めっき法により
金属膜を形成する工程と、前記金属膜の表面にアニオン
電着塗装法により熱可塑性有機高分子を含む接着層を形
成する工程とを有する。
【0024】前記接着層形成工程前に、前記めっきレジ
スト層を除去する工程を有することが好ましい。
【0025】本発明の第2の観点に係る金属膜転写用部
材の製造方法は、バルブ金属を主成分とする導電性基体
の表面に陽極酸化処理により陽極酸化膜を形成する工程
と、前記導電性基体の陽極酸化膜側表面に電解めっき法
により金属膜を形成する工程と、前記金属膜の表面に所
定パターンのエッチングレジスト層を形成する工程と、
前記金属膜の露出部分をエッチングにより除去する工程
と、前記エッチングレジスト層を除去する工程と、前記
金属膜の表面にアニオン電着塗装法により熱可塑性有機
高分子を含む接着層を形成する工程とを有する。
【0026】本発明において用いられる導電性基体は、
たとえばバルブ金属の板や箔、またはこれらが実質的に
剥離しないように、ポリエチレンテレフタレートやポリ
プロピレンなどの絶縁性基体の表面に形成またはラミネ
ートされた複合基体の何れであってもよい。
【0027】導電性基体に陽極酸化膜を形成する陽極酸
化処理は、前記アニオン電着塗装の電着電圧以上の処理
電圧で行われることが好ましい。
【0028】(3)本発明に係る積層セラミック電子部
品の製造方法は、陽極酸化膜が形成してあるバルブ金属
を主成分とする導電性基体の陽極酸化膜側表面に所定パ
ターンで形成された金属膜の表面にアニオン電着塗装法
により熱可塑性有機高分子を含む接着層が形成されてい
る金属膜転写用部材から、焼成後にセラミック焼結体と
なるグリーンシートの表面に、直接または1種以上の中
間媒体を介して間接的に、所定パターンの金属膜を転写
する工程と、前記所定パターンの金属膜が転写されたグ
リーンシートを、他のグリーンシートと共に積層する工
程と、積層されたグリーンシートを焼成する工程とを有
する。
【0029】前記中間媒体としては、特に限定されず、
たとえば、濾紙やケント紙などの紙、ポリエチレン、ポ
リエステル、ポリプロピレン、キュプラまたはレーヨン
製などの不織布などを挙げることができる。中でも、水
による伸縮の少ない合成樹脂製不織布が好ましい。
【0030】前記焼成工程前に、積層されたグリーンシ
ートを切断する工程を有することが好ましい。
【0031】
【作用】電気化学便覧(丸善)によれば、Al、Ti、
Nb、Ta、Zr、Hfなどの金属は、バルブ金属ある
いは弁金属と呼ばれている。この名は、特定の処理液中
でこれらの金属を陽極として電解することにより生成さ
れるバリヤー型陽極酸化膜が、カソード電流は流すが、
アノード電流は通さない、すなわち弁作用を示すことに
由来する。
【0032】すなわち、これらバルブ金属のバリヤー型
陽極酸化膜は、基体を陰極として処理を行う電解めっき
に対してはレジスト作用を示さず、基体を陽極として処
理を行うアニオン電着塗装に対してはレジスト作用を示
すことになる。
【0033】このことから、これらの金属を陽極酸化処
理した後に、電解めっき法とアニオン電着塗装法によっ
て接着層を持つパターン化された転写用金属膜を製造す
るための基体として用いた場合には、次に示す3つの利
点を有する。
【0034】第1に、電着塗装法による接着層形成前に
めっきレジスト層を除去しても、陽極酸化膜がアニオン
電着塗装法に対してレジスト作用を示すため、パターン
化された金属膜上のみに接着層を形成することができ
る。したがって、めっきレジスト層が厚い場合に必要と
なるめっきレジスト層の剥離操作に起因する接着層の損
傷または汚染を回避することができる。
【0035】第2に、めっきレジスト層を存在させたま
ま転写用途に供するために、めっきレジスト層の厚さを
極端に薄くした場合でも、陽極酸化膜がアニオン電着塗
装法に対してレジスト作用を示すため、めっきレジスト
層の絶縁性が不足している部位(特に厚みが薄い部分)
に接着層が析出することを防止することができる。
【0036】第3に、基体全面に形成した金属膜上に、
所定形状のエッチングレジスト層を形成し、露出した金
属膜をエッチングした後、エッチングレジスト層を除去
する手法で作成したパターン化された金属膜の場合にお
いても、陽極酸化膜がアニオン電着塗装法に対してレジ
スト作用を示すため、パターン化された金属膜上のみに
接着層を形成することができる。
【0037】すなわち、本発明に係る金属膜転写用部材
によれば、部分的に転写不良を生じることなく極めて薄
くかつ均一な金属膜のパターンを、グリーンシートなど
の壊れやすい転写対象物を破壊することなく、より安定
的に当該転写対象物の表面に転写することができる。
【0038】また、本発明に係る金属膜転写用部材の製
造方法では、このような金属膜転写用部材を、きわめて
容易且つ低コストで製造することができる。
【0039】本発明に係る積層セラミック電子部品の製
造方法では、上述した構成の金属膜転写用部材を用いる
ので、厚みが薄く且つ均一で欠陥の少ない内部電極を持
つ積層セラミック電子部品を、きわめて容易且つ低コス
トで製造することができる。
【0040】積層セラミック電子部品としては、特に限
定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、
チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミス
タ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型
電子部品が例示される。
【0041】
【発明の実施の形態】以下、本発明を、図面に示す実施
形態に基づき説明する。図1は本発明の一実施形態に係
る積層セラミックコンデンサの一部破断断面図、図2は
積層セラミックコンデンサの平面図、図3は図1および
図2に示すコンデンサの製造過程に用いるグリーンシー
トの斜視図、図4は金属膜転写用部材の一例を示す斜視
図、図5は図4に示すV−V線に沿う断面図、図6は本発
明に係る金属膜転写用部材の製造方法の一例を説明する
ための工程図、図7は金属膜転写用部材の一例を示す斜
視図、図8は図7に示すVIII−VIIIに沿う断面図、図9
および図10はともに本発明に係る金属膜転写用部材の
製造方法の一例を説明するための工程図である。
【0042】第1実施形態 本実施形態では、積層セラミック電子部品として、図1
および図2に示す積層セラミックコンデンサ2を例示
し、その構造および製造方法について説明する。
【0043】まず、積層セラミックコンデンサの構造を
説明する。図1および図2に示すように、積層セラミッ
クコンデンサ2は、コンデンサ素体4と、第1端子電極
6と第2端子電極8とを有する。コンデンサ素体4は、
誘電体層10と、第1内部電極層12と、第2内部電極
層14とを有し、誘電体層10の間に、第1内部電極層
12と第2内部電極層14とが交互に積層してある多層
構造を持つ。各第1内部電極層12の一端は、コンデン
サ素体4の第1端部4aの外側に形成してある第1端子
電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、各
第2内部電極層14の一端は、コンデンサ素体4の第2
端部4bの外側に形成してある第2端子電極8の内側に
対して電気的に接続してある。
【0044】本実施形態では、内部電極層12および1
4は、後述する金属膜22(図4参照)を誘電体グリー
ンシートに転写して形成され、金属膜22と同じ材質で
構成されるが、その厚みは、焼成による水平方向の収縮
分だけ金属膜22よりも厚くなる。
【0045】誘電体層10の材質は、特に限定されず、
たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム
および/またはチタン酸バリウムなどの誘電体材料で構
成される。各誘電体層10の厚みは、特に限定されない
が、数μm〜数百μmのものが一般的である。
【0046】端子電極6および8の材質も特に限定され
ないが、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金な
どが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使
用することができる。端子電極6および8の厚みも特に
限定されないが、通常10〜50μm程度である。
【0047】このような積層型セラミックコンデンサ2
の形状やサイズは目的や用途に応じて適宜決定すればよ
い。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合
は、通常、0.6〜3.2mm×0.3〜1.6mm×
0.1〜1.2mm程度である。
【0048】次に、積層セラミックコンデンサの製造に
用いる金属膜転写用部材について説明する。図4および
図5に示すように、本実施形態に係る金属膜転写用部材
30は、背面を絶縁被覆してあるシート状導電性基体2
0の表面に、陽極酸化処理による絶縁性の陽極酸化膜2
0aが形成してある。陽極酸化膜20aの表面には、剥
離可能なように金属膜22が所定パターンで形成してあ
る。金属膜22の表面には、アニオン電着塗装法により
形成された接着層24が積層してある。
【0049】本実施形態では、導電性基体20として、
NbまたはTaの板を用いている。NbまたはTaは、
フッ素化合物の溶液以外には溶解しないため、陽極酸化
および電解めっきの処理液として種々のものを選択でき
るとともに、冷間圧延による加工が可能なため、長尺の
箔状基体を用意することができ、また、ZrおよびHf
と比較した場合には安価である。なお、導電性基体20
の表面粗さは、形成する金属膜の厚さと比較して充分に
小さいことが望ましい。導電性基体20の厚みは、10
〜100μm程度とすればよい。
【0050】基体20の表面に陽極酸化膜20aを形成
する陽極酸化処理は、たとえば、硫酸、塩酸、硝酸、リ
ン酸などの無機酸あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カ
リウムなどの無機アルカリ、あるいはこれらの塩の水溶
液の中で、基体20を陽極にして電解処理することによ
って行うことができる。これらの水溶液の中でも、電解
中の有害ガスやミストの発生が少なく、処理後の洗浄性
が良好で、廃水処理が容易な硫酸または硫酸塩の水溶液
が特に好適である。
【0051】なお、本実施形態のNbまたはTaを基体
とした場合はフッ素化合物の溶液、Tiを基体とした場
合は硫酸または硫酸塩溶液、Alを基体とした場合は強
酸性あるいは強アルカリ性溶液は、それぞれ形成される
陽極酸化膜または基体そのものを溶解してしまうため、
バリヤー型陽極酸化膜を形成することができず好ましく
ない。
【0052】電解処理は、電解電流がほぼ流れなくなる
まで行えば良く、処理時間は1〜5分間程度である。
【0053】処理後の基体表面は、処理電圧に依存して
特有の色を呈し、たとえばNb箔を30Vで処理した場
合には、均一な淡青色となる。
【0054】このような陽極酸化膜20aの厚さD3
は、好ましくは50〜1000nmである。陽極酸化膜
20aの厚さがあまりに薄いと、後工程でのアニオン電
着塗装に対するレジスト効果が十分でなく、基体20の
陽極酸化膜20aの表面にも接着層24が形成されるお
それがある。また、陽極酸化膜20aの厚さがあまりに
厚いと、電解めっき法による金属膜22の形成が困難に
なる傾向がある。
【0055】陽極酸化膜20aの表面にパターン化した
金属膜22を形成する方法としては、たとえば図6
(A)〜(B)に示すように、予め所望のパターン形状
の開口部を有するめっきレジスト層32を、基体20の
陽極酸化膜20aの表面に形成した後、電解めっき法に
より金属膜22を形成する。
【0056】図6(B)に示すめっきレジスト層32
は、本実施形態では、感光性レジストを全面に塗布し、
所定のパターンのマスクを介して露光した後、現像する
いわゆるフォトパターニング法を用いて形成してある。
【0057】めっきレジスト層32の材質は、金属膜2
2を形成するのに用いられるめっき液の種類に応じて適
宜選択すれば良い。めっきレジスト層32の厚さは、1
〜30μm程度とすれば良い。
【0058】電解めっき法により形成する金属膜22の
厚さD1(図5参照)は、用途に応じて適宜設定するこ
とができるが、たとえば薄層化が要求されるセラミック
積層コンデンサの内部電極用としては、0.1〜1.5
μm程度とすれば良い。
【0059】金属膜22の組成に関しては、制限はない
が、セラミック積層電子部品の内部電極用としては、A
g,Cu,Pd,Niなどの金属もしくはこれらの合金
とすれば良く、表面性/結晶性/内部応力の調整等の目
的で添加される各種添加剤に由来するP,B,S,Cな
どの元素を含んでいても良い。
【0060】金属膜22は、単一の層から構成されてい
ても良く、あるいは2以上の組成の異なる金属膜から構
成されていても良い。
【0061】金属膜22を形成する際の電解めっき浴と
しては、たとえばニッケル金属膜を製膜する場合は、硫
酸ニッケル、塩化ニッケル、ほう酸を主成分とするいわ
ゆるワット浴、スルファミン酸ニッケル、臭化ニッケ
ル、ほう酸を主成分とするスルファミン酸浴が、また、
銅金属膜を製膜する場合はピロリン酸銅、ピロリン酸カ
リウムを主成分とするいわゆるピロ銅浴等の広く使われ
ているめっき浴が使用できる。また、上記主成分以外
に、応力調整剤、界面活性剤、レベリング剤等の添加剤
を含んでいても良い。
【0062】金属膜22の表面に、アニオン電着塗装法
による熱可塑性有機高分子を含む接着層24を形成する
に際し、本実施形態では、図6(C)に示すようにめっ
きレジスト層32を剥離液を用いて除去する。前記接着
層24の形成に先立って、めっきレジスト層32を除去
する場合には、剥離液の選定について接着層24への悪
影響を考慮する必要はなく、めっきレジスト層32に対
する影響のみを考慮して有機溶剤、酸、アルカリ溶液等
の中から選択すれば良い。
【0063】そして、図6(D)に示すように、金属膜
22の表面に、アニオン電着塗装法による熱可塑性有機
高分子を含む接着層24を形成する。
【0064】金属膜22の表面に接着層24を形成する
には、有機高分子エマルジョンまたは溶液中に基体20
を浸漬し、金属膜22を陽極として電解処理することに
より行うことができる。
【0065】有機高分子エマルジョンまたは溶液として
は、エポキシ系、アクリル系、酢酸ビニル系、アクリル
共重合系等が利用可能であるが、セラミック積層体を焼
成する際の熱分解性も考慮すると、アクリル系またはア
クリル共重合系の中から、陽極電解によって析出可能な
ものを選択するのが望ましい。
【0066】また、金属膜厚と同等以下の薄さの厚みD
2(図5参照)を持つ接着層24を形成するためには、
エマルジョンの粒径または分子量が十分小さいものを選
択することが望ましい。
【0067】接着層24の厚さD2(図5参照)は、パ
ターン化された金属膜22の厚さD1(図5参照)と同
等以下とするのが望ましいが、これは電着電圧の設定に
より制御することができる。電着塗装では、印加電圧に
応じた厚みの絶縁膜が金属の表面に形成された段階で、
絶縁膜の成長が停止するからである。なお、前記有機高
分子エマルジョンまたは溶液には、通常の電着塗装法と
同様に、必要に応じて有機/無機の顔料等を添加するこ
ともでき、接着層の着色あるいはセラミック積層電子部
品におけるセラミック層と金属膜との密着性改善、金属
膜の酸化防止等の効果を持たせることも可能である。
【0068】本実施形態に係る金属膜転写用部材30
は、絶縁性の陽極酸化膜20aが形成してある導電性基
体20を用いることとしてあるので、電着塗装法による
接着層24を形成する前にめっきレジスト層32を除去
しても、陽極酸化膜20aがアニオン電着塗装法に対し
てレジスト作用を示す。このため、パターン化された金
属膜22上のみに接着層24を形成することができる。
したがって、めっきレジスト層32の厚みが厚い場合に
必要となるめっきレジスト層32の剥離操作に起因する
接着層24の損傷または汚染を回避することができる。
【0069】次に、積層セラミックコンデンサ2の製造
方法を説明する。積層型セラミックコンデンサ2は、た
とえば上述した金属膜転写用部材30などを用いて、以
下のようにして製造することができる。
【0070】まず、誘電体層用ペーストを準備する。誘
電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混
練して得られた有機溶剤系ペースト、または水溶性溶剤
系ペーストで構成される。誘電体原料としては、複合酸
化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸
塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、
混合して用いることができる。
【0071】有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中
に溶解したものであり、有機ビヒクルに用いられるバイ
ンダとしては、特に限定されず、エチルセルロース、ポ
リビニルブチラール、アクリル樹脂などの通常の各種バ
インダが用いられる。また、有機溶剤も特に限定され
ず、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、
トルエンなどの有機溶剤が用いられる。
【0072】また、水溶性溶剤系ペーストに用いられる
水溶性溶剤としては、水に水溶性バインダ、分散剤など
を溶解させた溶剤が用いられる。水溶系バインダとして
は特に限定されず、ポリビニルアルコール、メチルセル
ロース、ヒドロキシエチルセルロース、水溶性アクリル
樹脂、エマルジョンなどが用いられる。
【0073】上述した各ペーストの有機ビヒクルの含有
量は特に限定されず、通常の含有量、たとえばバインダ
は1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とす
ればよい。また、各ペースト中には必要に応じて各種分
散剤、可塑剤、ガラスフリット、絶縁体などから選択さ
れる添加物が含有されても良い。
【0074】次に、この誘電体層用ペーストを用いて、
ドクターブレード法などにより、図3に示すグリーンシ
ート10aを形成する。次に、グリーンシート10aの
表面に、図1に示す内部電極12となる金属膜のパター
ン12aを、転写法により形成する。また、別のグリー
ンシート10aの表面には、図1に示す内部電極14と
なる金属膜のパターン14aを、転写法により形成す
る。
【0075】金属膜のパターン12aおよび14aは、
同様な転写法によりグリーンシート10aの表面に形成
することができる。以下の説明では、グリーンシート1
0aの表面に電極のパターン12aを直接転写法により
形成する方法について説明する。
【0076】ドクターブレード法などで形成した直後の
グリーンシート10aは、通常、基材シート上に剥離可
能に積層してある。そのグリーンシート10aの表面
に、図4および図5に示す金属膜転写用部材30を、接
着層24がグリーンシート10aの表面に接触するよう
に積層させ、両者を、常温にて、好ましくは0.5〜2
0kg/cm、さらに好ましくは0.5〜10kg
/cmの圧力にて加圧する。
【0077】その結果、転写用部材30の表面に形成し
てある接着層24の作用により、所定パターンの金属膜
22は、グリーンシート10a側に良好に接着し、基体
20をグリーンシート10a側から剥がすことで金属膜
が転写され、図3に示す金属膜のパターン12aが得ら
れる。その他の金属膜のパターン14aも、同様にして
転写法により形成することができる。
【0078】本実施形態に係る金属膜転写用部材30を
用いることにより、グリーンシート10aなどの壊れや
すい被転写部材の表面に、極めて薄くかつ均一な金属膜
のパターン12aまたは14aを、常温および低圧で転
写することができる。
【0079】その後、これらパターン12aおよび14
aが形成されたグリーンシート10aを、必要に応じて
何らパターンが形成されていないグリーンシート10a
と共に複数枚積層し、切断線16に沿って切断すること
で焼成前グリーンチップを得る。
【0080】次に、このグリーンチップに対して脱バイ
ンダ処理および焼成処理を行う。脱バインダ処理は焼成
前に行われ、通常の条件で行えばよいが、特に内部電極
層の導電材としてニッケルやニッケル合金などの卑金属
を用いる場合には、空気雰囲気において、昇温速度を5
〜300°C/時間、より好ましくは10〜100°C
/時間、保持温度を180〜400°C、より好ましく
は200〜300°C、温度保持時間を0.5〜24時
間、より好ましくは5〜20時間とする。
【0081】グリーンチップの焼成雰囲気は、金属膜の
種類に応じて適宜決定すればよいが、導電材としてニッ
ケルやニッケル合金などの卑金属を用いる場合には、焼
成雰囲気の酸素分圧を1×10−8〜1×10−12
気圧とすることが好ましい。酸素分圧が低すぎると内部
電極の導電材が異常焼結を起こして途切れてしまい、酸
素分圧が高すぎると内部電極が酸化される傾向にある。
また、焼成時の保持温度は1100〜1400°C、よ
り好ましくは1200〜1380°Cである。この保持
温度が低すぎると緻密化が不充分となり、保持温度が高
すぎると内部電極の異常焼結による電極の途切れまたは
内部電極材質の拡散により容量温度特性が悪化する傾向
にある。
【0082】これ以外の焼成条件としては、昇温速度を
50〜500°C/時間、より好ましくは200〜30
0°C/時間、温度保持時間を0.5〜8時間、より好
ましくは1〜3時間、冷却速度を50〜500°C/時
間、より好ましくは200〜300°C/時間とし、焼
成雰囲気は還元性雰囲気とすることが望ましく、雰囲気
ガスとしてはたとえば窒素ガスと水素ガスとの混合ガス
を加湿して用いることが望ましい。
【0083】還元性雰囲気で焼成した場合は、コンデン
サチップの焼結体にアニールを施すことが望ましい。上
述した脱バインダ処理、焼成およびアニール工程におい
て、窒素ガスや混合ガスを加湿するためには、たとえば
ウェッターなどを用いることができる。この場合の水温
は5〜75°Cとすることが望ましい。
【0084】以上のようにして、図1および図2に示す
コンデンサ素体4が得られる。この得られたコンデンサ
素体4の両端部に、端子電極6および8を形成すれば、
積層セラミックコンデンサ2が得られる。
【0085】本実施形態に係る積層セラミックコンデン
サの製造方法では、上述した構成の金属膜転写用部材3
0を用いるので、厚みが薄く且つ均一で欠陥の少ない内
部電極を持つ積層セラミックコンデンサ2を、きわめて
容易且つ低コストで製造することができる。
【0086】第2実施形態 図7および図8に示すように、本実施形態に係る金属膜
転写用部材30aは、背面を絶縁被覆してあるシート状
導電性基体20の表面に、陽極酸化処理による絶縁性の
陽極酸化膜20aが形成してあり、金属膜22の表面に
アニオン電着塗装法により形成された接着層24が積層
してある点では、上記第1実施形態と同様である。しか
しながら、本実施形態では、陽極酸化膜20aの表面
に、めっきレジスト層32aを残してある点で異なる。
【0087】本実施形態において、陽極酸化膜20aの
表面にパターン化した金属膜22を形成する方法として
は、まず、たとえば図9(A)に示すように、予め所望
のパターン形状の開口部34を有するめっきレジスト層
32aを、基体20の陽極酸化膜20aの表面に形成す
る。
【0088】本実施形態では、後述するようにレジスト
層32を残したまま転写に供することとしてあるので、
めっきレジスト層32aの厚さは、形成する金属膜22
と接着層24との厚さの合計と同等以下の厚さとする必
要がある。レジスト層32aが金属膜転写の邪魔になら
ないようにするためである。レジスト層32aの材質な
どは、第1実施形態におけるレジスト層32と同様であ
る。このように、比較的薄いめっきレジスト層32aを
形成するために、本実施形態では、スクリーン印刷法に
より、めっきレジスト層32aを陽極酸化膜20aの表
面に形成してある。
【0089】次いで、図9(B)に示すように、開口部
34(図9(A)参照)内に、電解めっき法により金属
膜22を形成する。金属膜22の形成方法は、第1実施
形態と同様である。
【0090】次いで、図9(C)に示すように、めっき
レジスト層32aを除去することなく、金属膜22の表
面に、アニオン電着塗装法による熱可塑性有機高分子を
含む接着層24を形成する。接着層24の形成方法は、
第1実施形態と同様である。
【0091】以上の構成の図7および図8に示す金属膜
転写用部材30aを用いて、第1実施形態と同様にし
て、積層セラミックコンデンサ2(図1および図2参
照)を製造することができる。
【0092】本実施形態に係る金属膜転写用部材30a
は、絶縁性の陽極酸化膜20aが形成してある導電性基
体20を用いることとしてあるので、めっきレジスト層
32の厚さを極端に薄くした場合でも、陽極酸化膜20
aがアニオン電着塗装法に対してレジスト作用を示す。
このため、めっきレジスト層32の絶縁性が不足してい
る部位、たとえば厚みが薄い部分(図9(C)の点線部
分参照)に接着層24が析出することを防止することが
できる。
【0093】第3実施形態 図10(E)に示すように、本実施形態に係る金属膜転
写用部材30bは、図4および図5に示す上記第1実施
形態に係る金属膜転写用部材30と同様の構造を有す
る。しかしながら、本実施形態では、金属膜転写用部材
30bの製造方法、すなわち、陽極酸化膜20aの表面
にパターン化した金属膜22を形成する方法が異なる。
【0094】本実施形態において、陽極酸化膜20aの
表面にパターン化した金属膜22を形成する方法は、図
10(A)〜(B)に示すように、基体20の陽極酸化
膜20aの表面全面に電解めっき法により金属膜22を
形成した後、所望のパターン形状を有するエッチングレ
ジスト層32bを形成する。
【0095】エッチングレジスト層32bは、たとえば
スクリーン印刷などにより形成することができる。エッ
チングレジスト層32bの材質は、特に限定されず、た
とえばアルカリ可溶性の樹脂などから構成することがで
きる。エッチングレジスト層32bの厚さは、1〜30
μm程度とすれば良い。
【0096】次いで、図10(C)に示すように、エッ
チングレジスト層32bが積層されていない露出された
金属膜を、たとえば塩化第二鉄、塩酸、界面活性剤など
が所定割合で含有してあるエッチング液に浸漬させて、
当該露出している金属膜を溶解除去する。
【0097】次いで、図10(D)に示すように、エッ
チングレジスト層32bをたとえば炭酸ナトリウムが溶
解されているアルカリ液などの剥離液を用いて除去す
る。
【0098】そして、図10(E)に示すように、金属
膜22の表面に、アニオン電着塗装法による熱可塑性有
機高分子を含む接着層24を形成する。接着層24の形
成方法は、第1実施形態と同様である。
【0099】以上の構成の図10(E)に示す金属膜転
写用部材30bを用いて、第1実施形態と同様にして、
積層セラミックコンデンサ2(図1および図2参照)を
製造することができる。
【0100】その他の実施形態 以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発
明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、
本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様
で実施し得ることは勿論である。
【0101】たとえば、前述の第1〜3実施形態では、
グリーンシート10aの表面に電極のパターン12aを
形成する方法として直接転写法を採用しているが、これ
に限定されず、1種以上の中間媒体を介して間接的に電
極パターン12aを形成する間接転写法を採用してもよ
い。電極パターン12aをグリーンシート10aの表面
に直接転写せず、一旦、紙などの高い強度を持つ中間媒
体(図示省略)に転写しておき、これを用いてグリーン
シート10aの表面に前記電極パターン12aを転写さ
せる間接転写法を用いることにより、電極パターン12
aのより完全な転写が可能となる。
【0102】また、本発明では、長尺の基体を用いて金
属膜転写用部材を作製し、同じく長尺で作製したセラミ
ックグリーンシートと重ね合わせ、搬送過程において加
圧ロールでニップするような連続加工法の適用も可能で
ある。この場合には、積層セラミック電子部品の生産性
をさらに向上できる。
【0103】また、本発明の金属膜転写用部材の主たる
用途は、積層セラミックコンデンサなどの積層セラミッ
ク電子部品の金属内部電極の形成であるが、薄膜形成法
で形成されたパターン化された金属膜を転写する工程を
含む他の用途にも適用することができる。たとえば、積
層セラミック電子部品の外部電極の形成や、非接触IC
カード用のアンテナパターンの形成などにも、本発明に
係る金属膜転写用部材を用いることができる。
【0104】
【実施例】以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき
説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0105】実施例1 1重量%のZrを含むNb箔(厚さ20μm)を基体と
して準備した。
【0106】この基体の片面を全面的に絶縁した後、濃
度1規定の硫酸中に浸漬し、電圧15Vで陽極電解処理
を行った。2分間の処理によって、電流はほぼ流れなく
なり、処理後の面は茶色を呈した。洗浄・乾燥した後、
陽極酸化処理面に所望のパターン形状の開口部を残して
トルエン可溶性のめっきレジストを10μmの厚さで印
刷し、乾燥した。
【0107】陽極酸化処理後の基体を、濃度5重量%の
酸性ふっ化アンモニウム溶液に浸漬して活性化した後、
スルファミン酸ニッケル300g/L、臭化ニッケル5
g/L、ほう酸30g/L、及び応力減少剤としてのナ
フタリンジスルホン酸ナトリウム0.5g/Lからなる
スルファミン酸ニッケルめっき浴に浸漬し、温度50°
C、pH4.5、陰極電流密度0.5A/dmにて
6分間めっき処理を行い、基体の陽極酸化処理面に、ニ
ッケル膜を析出させた。
【0108】蛍光X線膜厚計によって、ニッケル膜の厚
さを求めたところ、平均0.5μmであった。
【0109】ニッケル膜形成後の基体を、トルエンを用
いてブラシ洗浄し、めっきレジストを完全に除去した。
【0110】続いて、不揮発分濃度を3重量%、pHを
7.0に調製したアクリル酸エステルエマルジョン(日
本NSC製、ヨドゾールAD93、エマルジョン径=
0.1μm、ガラス転移点=−10°C、アニオンタイ
プ)中に浸漬し、10Vの電圧で60秒間のアニオン電
着処理を行なってアクリル酸エステル樹脂からなる接着
層を形成した。
【0111】ニッケル膜が形成されている部分以外に
は、接着層は析出しておらず、重量増加量からその厚さ
を求めところ0.6μmであった。
【0112】こうして得られた、接着層を形成したパタ
ーン化されたニッケル膜上に、転写性評価のため、濾紙
(No5C)を重ね合わせ、25°Cにおいて20kg
/cmの圧力で加圧した後、直ちに基体を取り除い
た。ニッケル膜は、濾紙の表面に欠落なく転写してお
り、濾紙のけば立ちも認められなかった。
【0113】比較例1 基体の陽極酸化処理を行わなかった以外は、実施例1と
同様にしてレジスト印刷、ニッケルめっき処理を行っ
た。次いで、アクリル酸エステル樹脂のアニオン電着処
理を行ったのち、トルエンを用いてブラシ洗浄によりレ
ジストを除去した。
【0114】顕微鏡にて観察したところ、ニッケル膜パ
ターンの周囲には、レジスト層の残存が認められ、ま
た、一部の角が欠落しているパターンも認められた。
【0115】実施例1と同じ条件で濾紙への金属膜転写
試験を行ったところ、転写自体は可能であったが、ニッ
ケル膜パターンの周囲の濾紙にけば立ちが認められた。
【0116】実施例2 純度99.99%のTa板(厚さ100μm)を基体と
して用いた以外は、実施例1と同様に陽極酸化処理、レ
ジスト印刷、ニッケルめっき処理、レジスト除去処理、
アクリル酸エステル樹脂電着処理、濾紙への金属膜転写
試験を行った。
【0117】陽極酸化処理面は、紫色を呈していたが、
Nbを用いた場合と同様に、ニッケル膜が形成されてい
る部分以外には接着層は形成されず、濾紙への金属膜の
転写に際して問題は発生しなかった。
【0118】実施例3 実施例1と同じく陽極酸化処理を行ったNbを主成分と
する箔に、めっきレジストとして、シリコーンRTVゴ
ム(信越シリコーンKE44W)を所定のパターンの開
口部を残してスクリーン印刷し、常温で24時間放置し
て硬化させた。
【0119】シリコーン膜厚は、印刷条件の調整により
平均2μmとしたが、スクリーンのメッシュ跡に相当す
る凹凸部位(図9(B)に示す符号32a参照)が認め
られた。
【0120】実施例1と同様に活性化処理、ニッケルめ
っき処理を行った後、シリコーン膜を残したままアクリ
ル酸エステル樹脂のアニオン電着処理を行い、濾紙への
金属膜転写試験を行った。
【0121】ニッケル膜が形成されている部分以外には
接着層は形成されず、濾紙への金属膜の転写に際して、
濾紙のけば立ち、シリコーン膜の剥離等の問題は発生し
なかった。
【0122】比較例2 陽極酸化処理を行わないままのNbを主成分とする箔
に、実施例3と同様に平均厚さ2μmのシリコーン膜を
形成し、実施例3と同様に活性化処理、ニッケルめっき
処理、シリコーン膜を残したままのアクリル酸エステル
樹脂のアニオン電着処理、濾紙への金属膜転写試験を行
った。
【0123】顕微鏡にて観察したところ、スクリーンの
メッシュ跡に相当する凹凸部位に接着層24(図9
(C)に示す符号32aの点線参照)が析出しており、
濾紙への金属膜の転写に際して、格子状の濾紙のけば立
ち、シリコーン膜の剥離が発生した。
【0124】実施例4 実施例1と同様に片面を絶縁し、他面を陽極酸化処理し
た1重量%のZrを含むNb基体の陽極酸化処理面全体
に、実施例1と同組成のめっき浴を用いて同条件でニッ
ケル膜を析出させた。
【0125】ニッケル膜形成後の表面にアルカリ可溶性
のエッチングレジストを所定パターンでスクリーン印刷
し、乾燥した。
【0126】塩化第二鉄100g/Lのエッチング液に
浸漬して露出しているニッケル膜を溶解除去し、次い
で、炭酸ナトリウム50g/Lのアルカリ液でエッチン
グレジストを除去した。
【0127】続いて、実施例1と同様にしてアニオン電
着処理を行ってアクリル酸エステル樹脂からなる接着層
を形成した。
【0128】実施例1と同じく、ニッケル膜が形成され
ている部分以外には、接着層は析出しておらず、濾紙へ
の転写性も良好であった。
【0129】
【発明の効果】以上説明してきたように、本発明に係る
金属膜転写用部材によれば、部分的に転写不良を生じる
ことなく極めて薄くかつ均一な金属膜のパターンを、グ
リーンシートなどの壊れやすい転写対象物を破壊するこ
となく、より安定的に当該転写対象物の表面に転写する
ことができる。
【0130】また、本発明に係る金属膜転写用部材の製
造方法によれば、このような金属膜転写用部材を、きわ
めて容易且つ低コストで製造することができる。特に、
めっき処理に関しては障害とならず、アニオン電着塗装
に対してのみレジスト作用を持つ陽極酸化膜を形成でき
ることから、印刷等によるレジスト層がない状態、また
は絶縁性にムラのある薄いレジスト層しか存在しない状
態でも、パターン化された金属膜表面のみにアニオン電
着塗装法による接着層を形成でき、1μm程度の極めて
薄い金属膜転写用部材を提供することができる。
【0131】さらに、本発明に係る積層セラミック電子
部品の製造方法によれば、上述した構成の金属膜転写用
部材を用いるので、厚みが薄く且つ均一で欠陥の少ない
内部電極を持つ積層セラミック電子部品を、きわめて容
易且つ低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミ
ックコンデンサの一部破断断面図である。
【図2】 図2は積層セラミックコンデンサの平面図で
ある。
【図3】 図3は図1および図2に示すコンデンサの製
造過程に用いるグリーンシートの斜視図である。
【図4】 図4は金属膜転写用部材の一例を示す斜視図
である。
【図5】 図5は図4に示すV−V線に沿う断面図であ
る。
【図6】 図6は本発明に係る金属膜転写用部材の製造
方法の一例を説明するための工程図である。
【図7】 図7は金属膜転写用部材の一例を示す斜視図
である。
【図8】 図8は図7に示すVIII−VIIIに沿う断面図で
ある。
【図9】 図9は本発明に係る金属膜転写用部材の製造
方法の一例を説明するための工程図である。
【図10】 図10は本発明に係る金属膜転写用部材の
製造方法の一例を説明するための工程図である。
【符号の説明】
2… 積層セラミックコンデンサ 4… コンデンサ素体 6… 第1端子電極 8… 第2端子電極 10… 誘電体層 10a… グリーンシート 12… 第1内部電極層 12a… パターン 14… 第2内部電極層 14a… パターン 20… 基体 20a… 陽極酸化膜 22… 金属膜 24… 接着層 30,30a,30b… 金属膜転写用部材 32,32a… めっきレジスト層 32b… エッチングレジスト層 34… 開口部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C25D 13/12 C25D 13/12 13/20 13/20 A H01G 4/30 311 H01G 4/30 311D 311F

Claims (12)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 陽極酸化膜が形成してあるバルブ金属を
    主成分とする導電性基体と、 前記基体の陽極酸化膜側表面に電解めっき法により形成
    された所定パターンの金属膜と、 前記金属膜の表面にアニオン電着塗装法により形成され
    た熱可塑性有機高分子を含む接着層とを有する金属膜転
    写用部材。
  2. 【請求項2】 前記導電性基体が、NbまたはTaを主
    成分とすることを特徴とする請求項1記載の金属膜転写
    用部材。
  3. 【請求項3】 前記接着層に含まれる熱可塑性有機高分
    子が、アクリル系樹脂またはアクリル共重合系樹脂であ
    ることを特徴とする請求項1または2記載の金属膜転写
    用部材。
  4. 【請求項4】 前記陽極酸化膜の厚みが、50〜100
    0nmであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに
    記載の金属膜転写用部材。
  5. 【請求項5】 前記接着層の厚みが、0.1〜10μm
    であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の
    金属膜転写用部材。
  6. 【請求項6】 前記金属膜の厚みが、0.1〜30μm
    であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の
    金属膜転写用部材。
  7. 【請求項7】 バルブ金属を主成分とする導電性基体の
    表面に陽極酸化処理により陽極酸化膜を形成する工程
    と、 前記導電性基体の陽極酸化膜側表面に所定パターンの開
    口部を持つめっきレジスト層を形成する工程と、 前記所定パターンの開口部内に電解めっき法により金属
    膜を形成する工程と、 前記金属膜の表面にアニオン電着塗装法により熱可塑性
    有機高分子を含む接着層を形成する工程とを有する金属
    膜転写用部材の製造方法。
  8. 【請求項8】 前記接着層形成工程前に、前記めっきレ
    ジスト層を除去する工程を有する請求項7記載の金属膜
    転写用部材の製造方法。
  9. 【請求項9】 バルブ金属を主成分とする導電性基体の
    表面に陽極酸化処理により陽極酸化膜を形成する工程
    と、 前記導電性基体の陽極酸化膜側表面に電解めっき法によ
    り金属膜を形成する工程と、 前記金属膜の表面に所定パターンのエッチングレジスト
    層を形成する工程と、 前記金属膜の露出部分をエッチングにより除去する工程
    と、 前記エッチングレジスト層を除去する工程と、 前記金属膜の表面にアニオン電着塗装法により熱可塑性
    有機高分子を含む接着層を形成する工程とを有する金属
    膜転写用部材の製造方法。
  10. 【請求項10】 前記陽極酸化処理を、前記アニオン電
    着塗装の電着電圧以上の処理電圧において行うことを特
    徴とする請求項7〜9の何れかに記載の金属膜転写用部
    材の製造方法。
  11. 【請求項11】 陽極酸化膜が形成してあるバルブ金属
    を主成分とする導電性基体の陽極酸化膜側表面に所定パ
    ターンで形成された金属膜の表面にアニオン電着塗装法
    により熱可塑性有機高分子を含む接着層が形成されてい
    る金属膜転写用部材から、焼成後にセラミック焼結体と
    なるグリーンシートの表面に、直接または1種以上の中
    間媒体を介して間接的に、所定パターンの金属膜を転写
    する工程と、 前記所定パターンの金属膜が転写されたグリーンシート
    を、他のグリーンシートと共に積層する工程と、 積層されたグリーンシートを焼成する工程とを有する積
    層セラミック電子部品の製造方法。
  12. 【請求項12】 前記焼成工程前に、積層されたグリー
    ンシートを切断する工程を有する請求項11記載の積層
    セラミック電子部品の製造方法。
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