JP3245120B2 - 光学活性ポリチオフェン誘導体 - Google Patents

光学活性ポリチオフェン誘導体

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JP3245120B2
JP3245120B2 JP32114298A JP32114298A JP3245120B2 JP 3245120 B2 JP3245120 B2 JP 3245120B2 JP 32114298 A JP32114298 A JP 32114298A JP 32114298 A JP32114298 A JP 32114298A JP 3245120 B2 JP3245120 B2 JP 3245120B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、光学活性
ポリチオフェン誘導体とその製造方法に関するものであ
る。さらに詳しくは、この出願の発明は、光学活性を有
し、不斉認識をも可能とする、機能性の導電性高分子等
として有用な、新しい光学活性ポリチオフェン誘導体と
その製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】ポリチオフェン等のπ電子系
共役高分子は、コンデンサー、バッテリー、非線形光学
素子、有機エレクトロルミネッセンス素子としての応用
が期待されている興味深い有機電導性材料であり、近年
活発に研究されている。一方、高分子材料の機能は、そ
の構造と密接にかかわっており、次世代の分子素子や、
より高度の機能を有する電導性材料を設計・開発するた
めには、ポリチオフェン等の場合にも高分子の構造を精
密に制御する技術の開発と機能性の付与が必要不可欠で
ある。
【0003】また、非線形光学材料や、液晶、光学分割
剤等の機能材料として利用されている高分子物質が従来
より数多く知られている。たとえば、らせん構造を有
し、高い旋光性を示して光学分割剤として有用な、光学
活性なメタクリル酸トリフェニルメチルの重合体や、光
学活性なアクリル酸アミドの重合体、光学活性な高分子
物質を用いた液晶組成物等が提案されている。
【0004】しかしながら、ポリチオフェン系高分子の
場合には、その導電性については注目されているもの
の、そのものを実用的に利用していくためには欠かせな
い光機能性、光学活性等の実現についてはほとんど検討
されていないのが実情である。そこで、この出願の発明
は、以上のとおりの背景を踏まえてなされたものであっ
て、導電性高分子として注目されているポリチオフェン
系高分子に関し、光学活性で、不斉認識をも可能とす
る、新しい機能性高分子としての技術展開が期待され
る、新しい光学活性ポリチオフェン誘導体とその製造方
法を提供することを課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、上記
の課題を解決するものとして、まず第1には、次式
(I)
【0006】
【化5】
【0007】(式中のm,nは、各々の部分単位のモル
%比率を示し、m+n=100であって、mおよびnの
部分単位は、その比率においてランダムに連結している
ことを示す)で表わされる構成単位を主体とすることを
特徴とする光学活性ポリチオフェン誘導体を提供する。
【0008】また、第2には、次式(II)
【0009】
【化6】
【0010】で表わされる構成単位を主体とすることを
特徴とする光学活性ポリチオフェン誘導体を提供する。
第3には、次式(III)
【0011】
【化7】
【0012】で表わされる構成単位を主体とすることを
特徴とする光学活性ポリチオフェン誘導体の側鎖を酸加
水分解し、さらにアルカリ加水分解することを特徴とす
る前記第1の光学活性ポリチオフェン誘導体の製造方法
を提供する。そして第4には、次式(III)
【0013】
【化8】
【0014】で表わされる構成単位を主体とする光学活
性ポリチオフェン誘導体を酸加水分解することを特徴と
する前記第2の光学活性ポリチオフェン誘導体の製造方
法をも提供する。以上のとおりのこの出願の発明は、光
学活性とともに不斉認識機能をも付与した、構造制御さ
れた導電性ポリチオフェン誘導体とその合成法に係わる
ものであって、構造が明確で、かつ、分子の形・キラリ
ティーや酸などの刺激等に応答する新規な分子素子(デ
バイス)の開発の過程より導かれたものである。光学活
性を有する前記の式(I)(II)の構成単位を主とする
ポリチオフェン誘導体は、特殊な化学構造に基づくユニ
ークな物性を発現するものであり、次世代の機能性有機
フォトニクス、エレクトロニクス材料としてだけでな
く、さらに、ラングミュラー・ブロジェット法を用いた
薄膜を電極上に作製することにより、分子の認識過程・
情報を外部へ電流応答の形で取り出せる知能電極システ
ムの構築も可能である。また、光学活性ポリマーとして
の利用の観点から、HPLC用のキラル固定相、金属を
配位可能な部位を有することから、高分子不斉触媒とし
ての応用も可能である。
【0015】
【発明の実施の形態】この出願の発明の実施の形態につ
いて以下に説明する。まず、前記式(I)(II)で表わ
される構成単位を主体とするポリチオフェン誘導体は光
学活性高分子化合物として特徴づけられるものである。
そして、前記の構成単位については、ポリチオフェン誘
導体についての所要の特性を阻害しない限り、各種の置
換基をさらにチオフェン環やベンゼン環に有していても
よい。そして前記構成単位を主とする重合度、平均分子
量についても特段の限定はなく、一般的には、これら構
成単位の重合度(繰り返し数)は、10〜1,000程
度が例示される。
【0016】なお、この発明のポリチオフェン誘導体
は、前記式(I)または式(II)の構成単位を主体とす
るものであるが、ここで、「主体とする」とのことは、
少くとも半数以上がこの構成単位であることを意味して
いる。より適当には全体の80%以上、またはほぼ全体
がこの構成単位である。ポリチオフェン誘導体の製造法
についてはその反応条件等について各種の態様が可能と
されるが、なかでも、この発明の製造法では、まず前記
式(III)で表わされる構成単位の主体とするポリチオフ
ェン誘導体を重合反応により製造することができる。た
とえば、次の反応式に従っての方法が例示される。
【0017】
【化9】
【0018】すなわち、(R)−2−ブロモ−3−(4
−(4−エチル−オキサゾリン−2−イル)フェニル)
チオフェンのように、チオフェン環に臭素(Br)原子
等のハロゲン原子を有するチオフェン化合物に、たとえ
ば−MgBr等のマグネシウムハライド基や、−Sn
(CH3 3 等のトリアルキルスズ基を導入し、次い
で、触媒の存在下等において重合反応を行う。この重合
反応は、たとえば金属錯体触媒を用いて、加熱、あるい
は還流下において実施することができる。また溶媒とし
て、THF、DMF、DMSO、ニトリル類等の有機溶
媒が使用できる。
【0019】触媒としては、Ni、Co、Pd、Rh、
Ru、Pt等の遷移金属や貴金属の有機錯体化合物とし
て挙げられる。なかでも、−MgX基を持つチオフェン
化合物の重合には、Ni(dppp)Cl2 等が、また
−Sn(R′)3 基を持つチオフェン化合物の場合に
は、Pd2 (dba)3 等が適当なものの一つとして例
示される。
【0020】この重合反応によって、光学活性で、立体
規則性の高いポリチオフェン誘導体が得られることにな
る。なお、原料としてのチオフェン環に臭素(Br)等
のハロゲン原子を有する前記のチオフェン化合物につい
ては、各種の方法によって合成してよく、たとえば後述
の実施例のように、4−ヨード安息香酸エチルエステル
等を出発原料として合成することができる。
【0021】次いで、この発明においては、重合反応に
より生成した前記の式(III)で表わされる構成単位を主
体とする光学活性ポリチオフェン誘導体を、たとえば次
の反応式
【0022】
【化10】
【0023】に沿って、トリフルオロ酢酸や鉱酸の存在
下にポリマー側鎖を加水分解することによって、さらに
は、苛性アルカリの存在下に加水分解することによっ
て、不斉識別機能をも有する、この発明の、式(I)ま
たは式(II)で表わされる構成単位を主体とする光学活
性ポリチオフェン誘導体に導くことができる。トリフル
オロ酢酸や鉱酸、たとえば塩酸、その他有機酸による側
鎖の加水分解では、オキサゾリン環が開裂されて、前記
の式(II)の構成単位を主とするポリチオフェン誘導体
が合成される。加水分解のための酸の濃度は通常10〜
70%程度でよく、反応温度は40〜80℃程度がよ
い。次いで、苛性ソーダ等のアルカリによる部分加水分
解によって、前記の式(I)の構成単位を主とするポリ
チオフェン誘導体が合成される。式(I)におけるmお
よびnについては、部分単位の割合(モル%)を示して
いるが、このmおよびnについては、反応時間、反応温
度、アルカリ濃度等によって制御されることになる。モ
ル%比率を示すmとnは合計で100になるが、係数m
の部分単位がアルカリ加水分解でランダムにその側鎖
が、係数nの部分単位に変換されることになる。たとえ
ば、m:n=42:58の場合には、この比で統計的に
ランダムに部分単位が連結している。反応温度、反応時
間、そしてアルカリ濃度を変化させること、たとえばア
ルカリ濃度を上げることによって、nを100%とする
ことも可能となる。
【0024】加水分解のための苛性アルカリ、たとえば
NaOHやKOH等の濃度は、通常は、10〜50%程
度でよく、また反応温度は、40〜80℃程度でよい。
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく実施の形態に
ついて説明する。
【0025】
【実施例】<合成例1>次の反応式に従って、側鎖にオ
キサゾリン残基を有する(R)−2−ブロモ−3−(4
−(4−エチル−2−オキサゾリン−2−イル)フェニ
ル)チオフェン(化合物8)を合成した。
【0026】
【化11】
【0027】すなわち、まず、0℃、窒素雰囲気下、乾
燥トルエン(400ml)中で(R)−2−アミノ−1
−ブタノール21ml(0.22mol)にトリメチル
アルミニウム(1Mヘキサン溶液)380ml(0.3
8mol)をカヌラでゆっくり加え、添加終了後室温に
戻した。その後、4−ヨード安息香酸エチルエステル5
0g(0.18mol)を滴下ろうとで加え、乾燥トル
エン(150ml)でよく洗浄した後、41時間、還流
して反応させた。反応溶液に20%ロッシェル塩水溶液
(30ml)を加えて反応を停止させた後、トルエン不
溶部をろ過回収し、そのエタノール可溶部を回収後、水
でよく洗浄し、乾燥させて化合物5を得た。引き続い
て、0℃、窒素雰囲気下でこの化合物5の49g(0.
15mol)のトリエチルアミン60ml(0.43m
ol)−塩化メチレン(500ml)溶液に4−トルエ
ン塩化スルホニル38g(0.20mol)の塩化メチ
レン(100ml)溶液を滴下ろうとで加えた後、室温
に戻して70時間反応させた。反応溶液を飽和塩化アン
モニウム水溶液で抽出した後、有機層を硫酸マグネシウ
ムで乾燥させ、その粗生成物をシリカゲルによるカラム
クロマトグラフィー(展開液、ヘキサン:酢酸エチル=
10:1)で精製して化合物6を得た。
【0028】次に、Suzukiカップリング反応を用いて化
合物7の合成を行った。すなわち、窒素雰囲気下で、化
合物6の10.7g(35.4mmol)を乾燥トルエ
ン(140ml)中、テトラキス(トリフェニルホスフ
ィン)パラジウム(O)(Pd(PPh3 4 )1.2
3g(1.07mmol)とリン酸カリウム25g(1
18mmol)の存在下、3−チオフェンボロン酸5.
02g(39.3mmol)と27時間還流して反応さ
せた。反応溶液を飽和塩化ナトリウム水溶液で抽出した
後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、その粗生成
物をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(展開
液、ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製して化合物
7を得た。
【0029】この化合物7の物性値等は次の表1のとお
りであった。
【0030】
【表1】
【0031】さらに、化合物7の6.23g(24.2
mmol)を乾燥ジエチルホルムアミド(DMF)(3
8.8ml)中、室温、窒素雰囲気、遮光下で、N−ブ
ロモコハク酸イミド(NBS)4.52g(25.4m
mol)と120時間反応させた。反応溶液を飽和塩化
ナトリウム水溶液で抽出した後、有機層を硫酸マグネシ
ウムで乾燥させ、その粗生成物をシリカゲルによるカラ
ムクロマトグラフィー(展開液、ヘキサン:ジエチルエ
ーテル=10:1)で精製して化合物8を得た。淡黄色
オイル。収量7.3g(収率90%)。
【0032】その物性値は次の表2のとおりであった。
【0033】
【表2】
【0034】<合成例2>次の反応式に従って、合成例
1において合成した化合物8を原料としてチオフェン化
合物の重合を行い、光学活性なポリチオフェン誘導体と
してのポリマー1(poly−1)およびポリマー2
(poly−2)を得た。
【0035】
【化12】
【0036】 ポリマー1(poly−1)の製造 −78℃、乾燥窒素雰囲気下で、真空蒸留したテトラヒ
ドロフラン(THF)(5ml)中、リチウムジイソプ
ロピルアミン0.78ml(5.57mmol)とn−
ブチルリチウム(1.61Mヘキサン溶液)2.50m
l(4.03mmol)を1時間反応させて、リチウム
ジイソプロピルアミド(LDA)溶液を調整した。別の
フラスコに、室温、乾燥窒素雰囲気下で、真空蒸留した
THF(26ml)中、化合物8の1.18g(3.5
0mmol)と臭化マグネシウム−ジエチルエーテル錯
体1.06g(4.09mmol)を加えて完全に溶か
した後、−98℃まで冷やした。予め調整したLDA溶
液を−98℃まで冷却してからカヌラで化合物8の溶液
に移し、モノマー1の化合物を調製した。LDA溶液を
加えた直後に冷浴を外し、室温に戻し始め、10分後と
40分後、90分後の3回に分けて触媒にビス(ジフェ
ニルホスフィノプロパン)塩化ニッケル(II)(Ni
(dppp)Cl2 )30.6mg(56.5μmo
l)を加えて重合を開始した。2時間後に還流し始め、
さらに38時間重合させた。その後、大部分のTHFを
除いてから大量の弱酸性メタノールに落とし、ポリマー
をメタノールでよく洗浄した後、室温で真空乾燥させ、
メタノール不溶のポリマー1(poly−1)を得た。
収量0.62g(収率69%)。メタノール不溶のポリ
マーをさらに、THFで洗浄することにより、THF不
溶のポリマーを得た。収量0.30g(収率34%)。
poly−1の平均分子量は、5,100である。
【0037】図1にこのポリマー1(poly−1)の
1H NMRスペクトルを示した。poly−1の 1
NMRにより、6.9ppm付近に見えるシグナル
は、チオフェンの4位のプロトンに由来する吸収で、こ
のようにシャープであることから、このポリマーは高い
立体規則性を有していると考えられる。 ポリマー2(poly−2)の製造 −78℃、乾燥窒素雰囲気下で、真空蒸留したテトラヒ
ドロフラン(THF)(0.6ml)中、リチウムジイ
ソプロピルアミン0.17ml(1.21mmol)と
n−ブチルリチウム(1.61Mヘキサン溶液)0.5
5ml(0.88mmol)を1時間反応させて、LD
A溶液を調整した。別のフラスコに、室温、乾燥窒素雰
囲気下で、真空蒸留したTHF(5ml)中、化合物8
の0.19g(0.57mmol)とトリメチル塩化ス
ズ0.23g(1.16mmol)を加えて完全に溶か
した後、−98℃まで冷やした。予め調整したLDA溶
液を−98℃まで冷却してからカヌラで化合物8の溶液
に移した直後に冷浴を外し、室温に戻した。反応溶液を
ジエチルエーテルで抽出した後、有機層を硫酸マグネシ
ウムで乾燥させ、その粗生成物をシリカゲルによるカラ
ムクロマトグラフィー(展開液、ヘキサン:ジエチルエ
ーテル=1:1)で精製してモノマー2の化合物を得
た。淡黄色オイル。収量0.29g(収率100%)。
【0038】このモノマー2化合物の物性値は次の表3
のとおりである。
【0039】
【表3】
【0040】次に、窒素雰囲気、乾燥DMF中、酸化銅
0.13g(1.61mmol)とトリフェニルホスフ
ィン0.17g(0.65mmol)の存在下、モノマ
ー2の化合物0.80(1.6mmol)を触媒にトリ
ス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(O)(P
2 (dba)3 )7.3mg(79μmol)を用い
て、100℃で24時間重合させ、メタノール不溶のポ
リマー2(poly−2)を得た。収量0.37g(収
率91%)。メタノール不溶のポリマーをさらに、クロ
ロホルムからメタノールへ再沈殿してメタノール不溶の
ポリマー2(poly−2)を得た。収量90mg(収
率22%)。poly−2の平均分子量は、4,400
である。 <実施例1>合成例2により得られた光学活性なポリマ
ー1(poly−1)およびポリマー2(poly−
2)の側鎖を、次の反応式に従って加水分解し、光学活
性なポリチオフェン誘導体としてのポリマー3(pol
y−3)およびポリマー4(poly−4)を得た。
【0041】
【化13】
【0042】
【化14】
【0043】すなわち、まず、poly−1(またはp
oly−2)(70mg)をトリフルオロ酢酸と水の混
合溶媒(トリフルオロ酢酸:水=1:1)(12ml)
に溶かし、65℃で48時間反応させ、poly−3を
得た。収量106mg(収率95%)。次に、poly
−1とpoly−2より合成したpoly−3を40%
水酸化ナトリウム水溶液とメタノールの混合溶媒(40
%水酸化ナトリウム水溶液:メタノール=1:1)でさ
らに加水分解を行った。その結果を表4に示した。po
ly−3の平均分子量は7,700であり、poly−
4の平均分子量は4,800である。
【0044】
【表4】
【0045】<試験例1>合成例2において製造したポ
リチオフェン誘導体としてのpoly−1のCD測定を
行った。poly−1は青紫色の固体で、クロロホルム
のような良溶媒に溶かすと黄橙色を呈し、紫外−可視領
域に吸収を示すが、この領域に誘起円偏光二色性(誘起
CD)を示さなかった。しかし、そこに貧溶媒であるメ
タノールを体積比で、50%以上加えると、紫外−可視
領域に強い誘起CDが観測された(図2(A))。ポリ
マーの溶液は、メタノールの添加に伴い、黄橙色から青
紫色へと変化し、吸収スペクトルも長波長領域に大きく
シフトした(図2(B))。これは、ポリチオフェン
が、貧溶媒の影響でアグリゲーションし、その結果、主
鎖に何らかのキラリティー、例えば、らせんのような構
造が誘起されたことを示している。図3にメタノールの
代りに様々なアルコールを用いて、同様の測定を行った
結果を示す。この図の縦軸は、610nmでのポリマー
の誘起CDの強度、横軸は、加えたアルコールのボリュ
ームパーセントである。用いるアルコールをメタノー
ル、エタノール、1−ブタノールと炭素数が増加するに
従い、ポリマーがアグリゲーションし、誘起CDを示す
のに必要なアルコールの量が増加した。炭素数の多い1
−ブタノールの場合では、誘起CDが発現するのに、体
積比でおよそ70%のアルコールが必要であった。一
方、光学活性な(R)体もしくは(S)体の2−ブタノ
ールを用いても、CDは誘起されたが、両異性体間に大
きな差は見られなかった。いずれのアルコールを用いた
場合でも、CDが誘起されるには、ポリマーがアグリゲ
ーションすることが必要であると考えられる。
【0046】なお、図2(A)(B)および図3の測定
条件は次のとおりとした。 poly−1(0.20−0.89gL-1) 溶媒 クロロホルム−各種アルコール混合溶媒系 セル長 0.1cm 温度 室温(約20−22℃) CDスペクトル装置:日本分光(株) JASCOJ7
20L <試験例2>実施例1において製造したポリチオフェン
誘導体としてのpoly−4について不斉識別能を測定
した。
【0047】poly−1とpoly−2より変換した
poly−4はともに黒紫色の固体で、ジメチルスルホ
キシド(DMSO)中において紫外−可視領域に吸収を
有し、この領域に弱いながらも誘起CDを示した。この
DMSO溶液にメタノールを体積比で50%加えると、
そのCD強度は著しく増加した(図4)。次にpoly
−2より変換したpoly−4のDMSO溶液に、光学
活性な(R)体及び(S)体のアミノアルコール存在
下、CDスペクトルを測定したところ、CDパターン
は、用いるアミノアルコールのキラリティーを反映し
て、大きく変化することがわかった。図5にDMSO
中、(R)体及び(S)体のアミノアルコール存在下、
poly−4のCDスペクトルを測定した結果を示す。
(R)体及び(S)体を加えた場合、CDのパターン
は、このようにほぼ鏡像関係になり、この結果は、これ
らアミンのキラリティーがこのポリマーによって識別さ
れたことを示している。これまでにも、光学活性なポリ
チオフェンを用いて、キラル識別を行ったという報告は
いくつかあるが、そのほとんどは、光学活性存在下、ポ
リマーのサイクリックボルタンメトリーを測定し、その
ボルタノグラムの違いを評価したものであり、本研究の
ようにCDスペクトルを用いて光学活性なポリチオフェ
ンによるキラル識別を明確に示した例は、ほとんどな
い。
【0048】なお、図4および図5の測定条件な次のと
おりとした。 poly−4(2.5gL-1) 溶媒 ジメチルスルホキシド(DMOS)−各種アルコ
ール混合溶媒系 セル長 0.01cm 温度 室温(約20−22℃) CDスペクトル装置:日本分光(株) JASCOJ7
20L
【0049】
【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この出願の
発明によって、導電性高分子として知られているポリチ
オフェンについて、光学活性とともに不斉識別能をも付
与し、機能性有機光学材料、光学分割剤や高分子不斉触
媒等としての応用展開を可能とする、新しい光学活性ポ
リチオフェン誘導体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】poly−1の 1H−NMRスペクトル図であ
る。
【図2】クロロホルム−メタノール混合溶媒におけるp
oly−1のCD(A)と吸収(B)のスペクトル変化
を示した図である。
【図3】クロロホルム−アルコール混合溶媒におけるp
oly−1のCDスペクトルの変化を示した図である。
【図4】DMSOまたはDMSO−メタノール中でのp
oly−4のCDスペクトルを示した図である。
【図5】(R)−または(S)−2−アミノ−1−ブタ
ノール存在下でのpoly−4のCDスペクトルの変化
を示した図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C08G 61/12 CA(STN) REGISTRY(STN)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 次式(I) 【化1】 (式中のm,nは、各々の部分単位のモル%比率を示
    し、m+n=100であって、mおよびnの部分単位
    は、その比率においてランダムに連結していることを示
    す)で表わされる構成単位を主体とすることを特徴とす
    る光学活性ポリチオフェン誘導体。
  2. 【請求項2】 次式(II) 【化2】 で表わされる構成単位を主体とすることを特徴とする光
    学活性ポリチオフェン誘導体。
  3. 【請求項3】 次式(III) 【化3】 で表わされる構成単位を主体とする光学活性ポリチオフ
    ェン誘導体の側鎖を酸加水分解し、さらにアルカリ加水
    分解することを特徴とする請求項1の光学活性ポリチオ
    フェン誘導体の製造方法。
  4. 【請求項4】 次式(III) 【化4】 で表わされる構成単位を主体とする光学活性ポリチオフ
    ェン誘導体を酸加水分解することを特徴とする請求項2
    の光学活性ポリチオフェン誘導体の製造方法。
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