JP3234271B2 - 改良された軟質磁性合金材料 - Google Patents

改良された軟質磁性合金材料

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卓司 原
裕 川合
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気シールド部品や各
種鉄心部品として使用されるFe−Ni系、Fe−Ni
−Mo系、あるいはFe−Ni−Cr系軟質磁性合金板
材の改良に関するもので、部品加工後の磁気焼鈍時に生
じる部品相互の密着の防止に関する。
【0002】
【従来の技術】各種の磁気シールド部材や時計、小型変
成器のコアーに代表される鉄心部品には、JIS−PB
(46Ni)、JIS−PC(80Ni)およびこれらを改
良したFe−Ni−Mo(Cu)、Fe−Ni−Cr系合
金が広く利用されている。
【0003】一般にこれらの磁性合金は、成形加工を行
なった後、磁気特性を発揮させるために磁気焼鈍を施
す。磁気焼鈍は水素雰囲気中で 900−1200℃×
0.5−2hrの高温長時間で行なわれるため、加工部
品の数量がかさむ場合には焼鈍時に部品同志が密着する
という問題が生じる。それゆえ従来より数量の多い加工
部品を一度に焼鈍する場合には、多量のアルミナ粉末内
に加工部品をちりばめて磁気焼鈍を行い、加工部品同志
の密着を防止している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来技術では、磁気焼
鈍を行う場合には、数量の多い加工部品を一度に焼鈍す
る場合には、多量アルミナ粉末内にちりばめて磁気焼鈍
を行ない、加工品同志の密着を防止している。
【0005】しかし、この方法では焼鈍後のふるい分け
や洗浄などに手間がかかるため、磁気焼鈍のコスト高を
まねくという問題があった。またふるい分けや洗浄時に
加工部品に歪が加わるために、磁気特性が劣化するとい
う問題もある。したがって生産コストの低減や製品の小
型化、高性能化が急速に進んでいる電子、磁気産業界か
らは、磁気焼鈍方法の改良が望まれている。
【0006】そこで本発明はこのような問題を解決すべ
く案出されたものであり、Fe−Ni系、Fe−Ni−
Mo系、あるいはFe−Ni−Cr系合金における磁気
焼鈍時にアルミナ粉末を使用しなくても部品相互の密着
防止を可能にすることを目的とする。
【0007】本発明者らはFe−Ni系、Fe−Ni−
Mo系、あるいはFe−Ni−Cr系軟質磁性合金の磁
気焼鈍時における部品相互の密着を防止するために、種
々の添加元素、焼鈍後の合金表面への元素の濃化状態や
表面粗度への影響について研究を重ねた。
【0008】
【課題を解決するための手段】明者らはFe−Ni
系、Fe−Ni−Mo系、Fe−Ni−Cr系軟質磁性
合金の磁気焼鈍時の密着の問題に関して、酸素と極めて
強い結合力を有するAlとTi、および表面粗度の影響
について研究を重ねた結果、AlまたはTiの1種以上
を0.04〜1.2%含有させ、さらに合金帯の表面粗度
をRz≧0.50μmもしくはRa≧0.06μmにする
ことによって、磁気焼鈍時における加工部品相互の密着
を防止できることを見出した。
【0009】
【発明の具体的開示】Ni、Cr、Mo、Cuの主成分
の限定理由については、JIS−PB、PC、PD、P
E級の磁気特性を得ることが必要であるため、JIS−
PB、PD、PEの低Ni領域においてはNiを35〜
60%に限定した。またJIS−PC級の高Ni領域に
おいてはNiを60〜85%、Moを≦6%、Cuを≦
4%に限定した。さらに低Ni領域においてJIS−P
C級の透磁率を得るためには、Niが35〜40%にお
いてCr5〜14%、40〜52%において Cr0.5
〜5%が必要である。
【0010】次に、Alおよび表面粗度の限定理由につ
いて述べる。図1、図2にFe−80Ni−5Mo合金
とFe−46Ni合金を基本組成とし、Al量と表面粗
度を変化させた板厚0.5mm材の小試片を用いて水素
気流中1100℃×1hrで焼鈍密着実験を行った結果
を示す。この図よりAl量を0.04%以上含有すると共
に板の表面粗度を Rz≧0.50μmもしくは、Ra≧
0.06μmにすることにより、焼鈍時の密着を防止する
ことが可能であることが明らかとなった。
【0011】一方、磁気特性の点からは過剰に含有する
と図3に示すように初期透磁率が大きく低下するため、
Al量の上限値は1.2%に限定した。また、Tiにつ
いてもAlとほぼ同様な密着防止効果が得られるので、
1.2%までのTiを添加する。しかしながらその他の
酸素と結合力の強いSi、Mnは耐密着性改善に大きな
効果が認められず、Zrは0.02%程度の添加で透磁率
の大きな劣化が認められた。
【0012】本発明の合金はBを含むことができる。F
e及びNiを主成分とする合金は、高温時においてもオ
ーステナイト単相を呈するために、熱間変形抵抗が高く
製造時に設備に負担を強い、若干の熱延歩留の低下を余
儀なくされている。Bは熱間加工性の改良に効果があ
り、製造を容易にするとともに歩留を向上させる。Bは
0.001%以上の含有で、このような効果を発揮す
る。しかし0.02%を超えて含有されると、ほう化物
の形成により逆に熱間加工性が劣化する。それゆえ、B
は0.001〜0.02%の範囲で含有される。
【0013】以上述べたとおり、本系の磁性合金にAl
またはTiを添加し、さらに合金の表面粗度をRz≧
0.5μmまたはRa≧0.06μmに調整することによ
り焼鈍時の密着を防止することが可能である。これは、
表面粗度を上記の値以上に大きくすることによって加工
部品と水素気流との接触が増し、これによって部品表面
におけるAlまたはTiの濃化(水素気流中のわずかな
酸素と結合し酸化物を形成する)が促進され、その結
果、金属部材間の拡散接合が妨げられるためと考えられ
る。本系の磁性合金において、AlまたはTiの1種以
上を0.04〜1.2%含有させ、かつ、表面粗度をRz
≧0.5μmまたはRa≧0.06μmに調整した場合に
のみ、アルミナ粉末を用いた場合と同等の顕著な密着防
止効果が得られることは、後述の実施例で実証されてい
る(表1と表2,表3と表4,表5と表6,表7と表8
の各データ参照)。 なお、表面粗度をRz≧0.5μm
またはRa≧0.06μmに調整する手法としては、一
般的に知られている粗面化手段(例えば、研摩,ダルロ
ール圧延など)が適用できる。
【0014】
【実施例1】表1に示す組成のFe−Ni系磁性合金を
400kg真空溶解し、通常の熱延−冷延工程を施し、
表面粗度を調整した板厚0.6mmの合金帯を製造し
た。 この合金帯から時計鉄心用のコアー部品を500
0個打抜き、連続型の焼鈍炉で1100℃×2hrの磁
気焼鈍を行った。表2に焼鈍後の密着不良率をアルミナ
粉末を用いる従来法と比較して示した。この表より、焼
鈍時にアルミナ粉末を用いる従来法でも、AlまたはT
iを添加し表面粗度を調整する本発明法でも、5000
個の加工部品に対して密着不良率が 0.1〜0.3%で
ほぼ同程度である。 したがって、本発明法によって焼
鈍時にアルミナ粉末を使用することなく部品相互の密着
を防止することが可能である。密着不良率は次のように
定義される。 密着不良率(%)=(密着試料個数/焼鈍供試個数)×1
00
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
【実施例2】表3に示す組成のFe−Ni−Mo−(C
u)系磁性合金を400kg真空溶解し、通常の熱延−
冷延工程を施し、表面粗度を調整した板厚 0.3mmの
合金帯を製造した。この合金帯から磁気ヘッドケース用
部品を5000個形成後、連続型の焼鈍炉で水素気流中
1100℃×1hrの磁気焼鈍を行った。表4に焼鈍後
の密着不良率をアルミナ粒を用いる従来法と比較して示
した。
【0018】
【表3】
【0019】
【表4】 この表より明らかなように、焼鈍時にアルミナ粉末を用
いる従来法でも、AlまたはTiを添加し表面粗度を調
整した本発明法でも、同程度の密着が防止可能である。
【0020】
【実施例3】表5に示す組成のFe−Ni−Cr系磁性
合金を400kg真空溶解し、通常の熱延−冷延工程を
施し、表面粗度を調整した板厚0.3mmの合金帯を製造
した。この合金帯から磁気ヘッドカバー用の部品を50
00個打抜き、連続型の焼鈍炉で水素気流中1050℃
×1hrの磁気焼鈍を行った。
【0021】
【表5】
【0022】表6に焼鈍後の密着不良率をアルミナ粒を
用いる従来法と比較して示した。この表より明らかなよ
うに、本発明法によって焼鈍時にアルミナ粉末を使用す
る従来までの方法と同程度に密着不良率を低下させるこ
とができる。
【表6】
【0023】
【実施例4】表7に示す組成のFe−Ni−Cr系磁性
合金を400kg真空溶解し、通常の熱延−冷延工程を
施し、表面粗度を調整した板厚 0.6mmの合金帯を製造
した。この合金帯から時計鉄芯用のステーター部品を5
000個打抜き、連続型に焼鈍炉で水素気流中1100
℃×2hrの磁気焼鈍を行った。表8に焼鈍後の密着不
良率をアルミナ粒を用いる従来法と比較して示した。
【0024】
【表7】
【表8】 この表より明らかなように、本発明法によって焼鈍時に
アルミナ粉末を使用する従来までの方法と同程度に密着
の防止が可能である。
【0025】
【実施例5】表9に示す組成のFe−Ni系磁性合金を
400kg真空溶解し、通常の熱延−冷延を施し、表面
粗度を調整した板厚0.5mmの合金帯を製造した。 こ
の合金帯から変成器用E型コアー部品を5000個打抜
き、連続型の焼鈍炉で1100℃×2hrの磁気焼鈍を
行なった。表10に密着不良率を示し、表11に熱延後
の耳割れの深さと熱延歩留まりおよび焼鈍後の密着不良
率を示した。
【表9】
【0026】
【表10】
【0027】
【表11】 これらの表より明らかなように、Bを添加することによ
り熱延歩留を5〜10%向上できるとともに、本発明法
によって焼鈍時にアルミナ粉末を使用する従来法と同程
度の密着防止が可能である。
【0028】
【発明の効果】以上、説明したように、本発明法によれ
ば磁気焼鈍時に多量のアルミナ粉末を用いることなく、
加工部品どおしの密着を防止することができるため、磁
気焼鈍前後の部品取扱いの手間が省けると共に磁気焼鈍
にかかるコストを大幅に削減できる磁性合金材料を提供
できる。
【0029】
【図面の簡単な説明】
【図1】 磁気焼鈍における密着に及ぼすAl量と表面
粗度Rzの影響を示したグラフ。
【図2】 磁気焼鈍における密着に及ぼすAl量と表面
粗度Raの影響を示したグラフ。
【図3】 透磁率に及ぼすAlの影響を示したグラフ。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 川合 裕 山口県新南陽市野村南町4976 日新製鋼 株式会社 鉄鋼研究所内 (72)発明者 武本 敏彦 山口県新南陽市野村南町4976 日新製鋼 株式会社 鉄鋼研究所内 (56)参考文献 特開 昭60−135543(JP,A) 特開 昭60−159157(JP,A) 特開 昭63−140038(JP,A) 特開 平1−232705(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01F 1/12 - 1/375

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Ni:35〜60%、残部Feおよび不
    可避的不純物よりなり、AlまたはTiの1種以上を
    0.04〜1.2%含有する軟質磁性合金の、表面粗度が
    Rz≧0.5μmまたはRa≧0.06μmである板材。
  2. 【請求項2】 Ni:60〜85%、Mo≦6%、Cu
    ≦4%、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、Al
    またはTiの1種以上を0.04〜1.2%含有する軟質
    磁性合金の、表面粗度Rz≧0.5μmまたはRa≧0.
    06μmである板材。
  3. 【請求項3】 Ni:40〜52%、Cr:0.5〜5
    %を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、
    AlまたはTiの1種以上を0.04〜1.2%含有する
    軟質磁性合金の、表面粗度Rz≧0.5μmまたはRa
    ≧0.06μmである板材。
  4. 【請求項4】 Ni:35〜40%、Cr:5〜14%
    を含有し、残部Fe及び不可避的不純物よりなり、Al
    またはTiの1種以上を0.04〜1.2%含有する軟質
    磁性合金の表面粗度Rz≧0.5μmまたはRa≧0.0
    6μmである板材。
  5. 【請求項5】 さらにB:0.001〜0.02%を含有
    する請求項1〜4のいずれかの項に記載の軟質磁性合金
    の板材。
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