JP3218829B2 - ブレーキ摺動部 - Google Patents

ブレーキ摺動部

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正弘 柳沢
一夫 丹羽
敏弘 深川
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Mitsubishi Chemical Corp
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、摩擦、摺動特性に優れ
た炭素繊維強化炭素複合材(以下、C/C複合材とい
う)製のブレーキ摺動部に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、車両用ディスクブレーキでは、軽
量化と性能向上の観点から、C/C複合材をディスクや
パッドのブレーキ摺動部に用いている。しかし、C/C
複合材を用いたディスクやパッドは、温度により摩擦係
数が変化し易く、例えば制動初期等の低温域における摩
擦係数が低く、その後摩擦の進行で温度が上昇するとと
もに摩擦係数が、徐々に或いは急激に高くなったり、ま
たは摩擦係数が低いままの状態であるという現象が生じ
たり、更に高エネルギーレベル、高圧力といった高負荷
条件では摺動中にブレーキ材が高温に上昇するために、
摩擦係数が低下するという所謂フェード現象や、それに
伴う摩耗量増加により、安定した制動効果が得られ難か
った。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、発明者等は、
C/C複合材製ブレーキ摺動部のかかる問題について鋭
意検討を重ねた結果、ディスク材及びパッド材の強化材
及び緻密化マトリックスをそれぞれ特定のものとするこ
とにより、低温域から高温域にわたり摩擦係数が大き
く、特に高温域での摩擦係数低下が無く、低温域から高
温域にわたり摩擦係数の安定性に優れ、低温域から高温
域にわたりレスポンス性(即ちブレーキングにおける食
い付き性)に優れ、更に耐パッド摩耗性にも優れた特性
が得られ、安定した制動効果が得られることを知得し
た。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
め、本発明は、ディスク及びパッドからなるブレーキ摺
動部において、ディスク材は集束剤が実質的に付着して
いない複数の単繊維からなる短繊維状の炭素繊維束を、
その少なくとも一部が束として存在するように解繊し、
繊維が2次元ランダムに配向したシートを作製し、樹脂
又はピッチを含浸後、積層して成形、焼成後、ピッチ含
浸及び最終熱処理温度以下での焼成を繰り返し、最終熱
処理温度が2400℃以下であり、かつ最終気孔率が1
0%以下である炭素繊維強化炭素複合材からなり、パッ
ド材は複数の単繊維の束からなる短繊維状の炭素繊維を
解繊したものを強化材とし、熱分解炭素及び熱硬化性樹
脂を緻密化マトリックスとする炭素繊維強化炭素複合材
からなることを特徴としている。
【0005】以下、本発明の詳細を説明する。本発明で
用いる炭素繊維としては、ピッチ系、PAN系或いはレ
ーヨン系炭素繊維等の公知のものが使用できる。但し、
ディスク材の製造に関しては、炭素繊維束に集束剤が付
着していると、繊維へのマトリックス原料の含浸性が悪
くなり、繊維とマトリックスとの接着性を低下させる。
従って本発明のディスク材に於いては、実質上集束剤が
付着していない炭素繊維を使用する。集束剤が繊維とマ
トリックスの接着性に悪影響を及ぼす程度多量に付着し
ている場合は、溶媒洗浄、熱分解処理等の方法によって
予め集束剤を除去しておく。パッド材に於いても、集束
剤が付着していない炭素繊維の方がより好ましいが、特
に制限する必要はない。炭素繊維の形態としては通常
2,000〜8,000本の単繊維の束からなるトウ、
ストランド、ロービング、ヤーン等であり、これらをカ
ッティングすることによって得られる短繊維状のものを
用いる。本発明においては、通常3〜100mm、好ま
しくは5〜50mm程度の短繊維状を使用する。
【0006】次にこれらの炭素繊維束を解繊し、2次元
ランダムのシートを作製する。その際、必要に応じてS
iC、Al2 3 、カーボンブラックなどの無機繊維、
無機物などを添加してもよい。ディスク材に用いる炭素
繊維束の解繊度合は、炭素繊維束が束として一部残存す
る程度の低解繊とする。パッド材に関しては特に解繊度
合は限定しない。
【0007】具体的な解繊方法としては、例えば不織布
の製造で一般的な、ランダムウェバーを使用し、炭素繊
維束を針山のついた対向する複数のシリンダーを通過さ
せて乾式で解繊する方法がある。この場合にはシリンダ
ーの回転速度等を変えることにより、解繊度合を変化さ
せることができる。また、パルプ等の叩解処理に用いる
ビーターや、解繊処理に用いるパルパーなどを使用し、
溶媒中に分散させた炭素繊維束を湿式で解繊した後、抄
紙、乾燥し、シートやプリフォームを製造する方法もあ
る。この場合には処理時間を変えることにより、解繊度
合を変化させることができる。
【0008】次に、ディスク材用炭素繊維シートの炭素
繊維束の解繊度合を評価し、期待した通りの解繊度合の
シートが作製されているか否かを判定する。この結果を
直ちに製造条件に反映させることで、解繊度合の精度を
より高めることができるので、解繊度合の評価方法は簡
便で迅速であること、さらにハンドリングが容易なよう
に炭素繊維シートに樹脂等を含浸させた所謂プリプレグ
の状態で評価できることが望まれる。
【0009】解繊度合の評価方法は、とくに限定されな
いが、例えば、解繊度合が高くなると解繊した炭素繊維
同士がより絡み合い、シートの嵩高さが増加することに
着目して、一定面積、一定枚数、重量W(g)のシート
を積層し、これに一定の荷重をかけた場合のシート全体
の厚みt(mm)を測定し、式−1に定義する解繊度指
数(X)を求める方法がある。
【0010】
【数1】解繊度指数(X)=t/W …… 式−1
【0011】解繊度合が高くなるほどシート厚さtは大
きくなるため、解繊度指数(X)も大きくなる。この方
法の場合、シートに樹脂等を含浸した後でも評価を行う
ことができる。但し、炭素繊維や樹脂等の種類、また両
者の割合によって解繊度指数(X)の値は変化するた
め、常に同一の条件で評価する必要がある。
【0012】解繊度合の評価方法のもう一つの例として
は、解繊度合が高くなると繊維間の隙間が減少すること
に着目し、一定重量、一定面積のシートを使用して光透
過率T(%)を測定し、式−2に定義する解繊度指数
(Y)を求める方法がある。
【0013】
【数2】解繊度指数(Y)=100−T …… 式−2
【0014】解繊度合が高くなるほど透過率Tは小さく
なるため、解繊度指数(Y)は大きくなる。この方法の
場合、シートに樹脂等を含浸した後でも評価を行うこと
ができるが、シートの目付(単位面積当たりの重量)が
大きすぎる場合には、解繊度にかかわらず光が透過でき
なくなるため、評価できるシートの目付に制限がある。
【0015】解繊したシートの目付としては、種々のも
のが取り得るが、ディスク材用のシートとしては、取り
扱い性、含浸性、均一性を考えると10〜1000g/
2、特に10〜500g/m2 程度が好ましい。パッ
ド材の場合は特に目付の制限は設けない。
【0016】この様にして得られた所望の解繊度合のデ
ィスク用シート及びパッド用シート又はプリフォームに
フェノール樹脂、フラン樹脂、或いは石油系、石炭系ピ
ッチ等のマトリックスを含浸させた後に乾燥し、プリプ
レグを作製する。その際、マトリックスはアルコール、
アセトン、アントラセン油等の溶媒に溶解して適切な粘
度に調整したものを使用する。
【0017】次いで、ディスク用に乾燥したプリプレグ
が所望の低解繊プリプレグシートとなっていることを具
体的に評価する方法として、例えば、シート(炭素繊維
のみ)の目付が200g/m2 、フェノール樹脂含浸量
が120g/m2 のプリプレグを95×95mmに切断
したもの20枚を重ね、2.2kgの荷重をかけた時の
プリプレグトの厚さt(mm)をプリプレグ20枚の重
量W(g)で割り、式−1で定義した解繊度指数Xを求
めた場合、1以下であれば炭素繊維束が、束として残存
する本発明のディスク用C/C複合材であり、好ましく
は、0.3〜0.9、特に好ましくは、0.5〜0.8
5程度の値とするのが良い。
【0018】この様にして得られたディスク材用及びパ
ッド材用プリプレグを金型へ充填し100〜500℃の
温度で加圧成形してVf(繊維含有量)=5〜65%、
好ましくは10〜55%程度の成形体を得る。その後N
2 ガスなどの不活性ガス雰囲気中で1〜200℃/hの
昇温速度で800℃以上2800℃以下、好ましくは緻
密化を繰り返す際の最高温度以上、2500℃以下の温
度で焼成してC/C複合材を得る。上記焼成したC/C
複合材をディスク材用、パッド材用として、例えば、そ
れぞれ次の方法により緻密化処理及び最終熱処理を行
い、目的のC/C複合材を得る。
【0019】(a)ディスク材の処理 ピッチを含浸し、焼成する緻密化処理を複数回繰り返
す。好ましいピッチとしては、軟化点70〜120℃更
に好ましくは80〜90℃、トルエン不溶分10〜30
%更に好ましくは13〜20%、キノリン不溶分1%以
下、固定炭素40%以上更に好ましくは50%のもので
ある。また、より一層緻密化効果を発揮するために、特
開平1−298013号公報に記載の方法で含浸炭化す
る緻密化処理を実施することも出来る。耐摩耗性、耐酸
化性の向上及び熱容量アップのため、最終気孔率が10
%以下となるまで該緻密化処理を繰り返す。気孔率の測
定は常法により行い、具体的には通常、水銀ポロシメー
ターを使用する。尚、該緻密化処理の最終最高焼成温度
が2400℃を超えると、含浸されたマトリックスの結
晶性の発達及びそれに伴う収縮などにより、繊維とマト
リックスとの接着性が低下する。また、逆に温度が低い
場合は耐酸化性が低下する。従って該緻密化処理時の繰
り返しの熱処理温度は、最終熱処理温度以下とし、最終
熱処理温度は2400℃以下、好ましくは最終熱処理温
度が1600から2200℃の範囲、更に好ましくは1
600〜2000℃の範囲となるようにする。緻密化工
程を短縮するために、数回1000℃程度の処理温度で
含浸−焼成を繰り返した後、最終熱処理温度近傍且つ最
終熱処理温度以下で熱処理を行い、更に1000℃程度
の処理温度で含浸−焼成を繰り返す緻密化処理を行った
後に、2400℃以下で最終熱処理を実施することが出
来る。この様にして、ディスク材用のC/C複合材を得
る。
【0020】(b)パッド材の処理 反応器内に載置した上記C/C複合材を誘導加熱コイル
等により加熱し、炭化水素或いはハロゲン化炭化水素類
の蒸気をH2 ガス、Arガス或いはN2 ガス等のキャリ
アガスと共に、反応器内へ供給し、生成する熱分解炭素
で空隙を含浸、緻密化する。次いで、該C/C複合材を
所定温度に加熱された槽に載置し、槽内を真空とした
後、熱硬化性樹脂、好ましくはフェノール樹脂を供給し
て空隙にマトリックス材を含浸する。この後、800〜
2500℃の温度で焼成する。該樹脂含浸工程を繰り返
すことによりC/C複合材の緻密化処理を行う。更に必
要により該緻密化処理の繰り返し焼成温度以上、250
0℃以下の温度にて最終熱処理を行い、パッド材用のC
/C複合材を得る。
【0021】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
るが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例に
よって限定されるものではない。
【0022】(製造例1)30mm長に切断したフィラ
メント数4000の集束剤を使用していないピッチ系炭
素繊維束をランダムウェバーにて解繊し、目付=200
g/m2 の2次元ランダムに配向したシートを作製し
た。更に該シートにエタノールで希釈したフェノール樹
脂を含浸させた後乾燥し120g/m2 のフェノール樹
脂を含浸したシートを作製した。
【0023】この状態シートから95×95mmの大き
さのサンプル20枚を採取し、その重量W(g)を測定
した。次に、この20枚を端部を揃えて積層し2.2k
gの荷重をかけた状態でウェブ20枚の厚さt(mm)
を測定した。このW及びtから式−1で定義した解繊度
指数Xを計算し、目標通りに解繊度指数Xが0.80の
シートが得られていることを確認した。
【0024】得られたシートを金型に積層充填し、25
0℃にて加圧成形し、Vf≒50%の成形体を得た。こ
の成形体を加熱炉で不活性雰囲気中2000℃まで焼成
した後、ピッチを含浸し、加熱炉で不活性雰囲気中10
00℃まで焼成した。さらに同様の含浸−焼成の操作を
繰り返した後、2000℃の処理を行って、更にピッチ
含浸−焼成の操作を繰り返し、最終に2000℃の処理
を行って気孔率8%の本発明のディスク材用C/C複合
材を得た。
【0025】(製造例2)長さ10mm、フィラメント
数4000のピッチ系炭素繊維を湿式解繊した後に、外
筒300mm、内筒120mmのドーナツ状の底部に網
目150メッシュのスクリーン及び、更に外側に底板を
有する成形用型に、水とともに投与し、均一に攪拌した
後、底板を引き抜くことにより底部から一気に溶液全量
を除去して、炭素繊維が均一に分散したドーナツ状のプ
リフォームを得た。
【0026】該プリフォームを乾燥した後にフェノール
樹脂を含浸し、乾燥してプリプレグとし、更に上記と同
一内外径を有する金型内に納めて250℃の温度で成形
・硬化しVf≒50%の成形体を得た。この成形体を不
活性雰囲気で加熱炉にて2000℃迄焼成した後、高周
波誘導加熱炉装置により加熱し、ハロゲン化炭化水素蒸
気を窒素ガスをキャリアーガスとして反応器内に導入し
て、熱分解炭素により気孔を充填する緻密化処理を行っ
た。
【0027】次いで、フェノール樹脂を含浸した後、加
熱炉で1000℃で焼成した。更に同様の含浸−焼成の
操作を再度繰り返し、その後1700℃の熱処理を行っ
て気孔率13%のパッド用C/C複合材を得た。このよ
うにして得られたディスク材とパッド材を用いたJIS
D4411に準拠するベンチテストの結果、低温域から
高温域にわたり摩擦係数が大きく、特に高温域での摩擦
係数の低下が無く、低温域から高温域にわたり摩擦係数
の安定性に優れ、低温域から高温域にわたるレスポンス
性に優れ、更に耐パッド摩耗性にも優れた特性が得られ
た。
【0028】(比較例1)30mm長に切断したフィラ
メント数4000の集束剤を使用していないピッチ系炭
素繊維束をランダムウェバーにて解繊し、目付=200
g/m2 の2次元ランダムに配向したシートを作製し
た。更に該シートにエタノールで希釈したフェノール樹
脂を含浸させた後乾燥し120g/m2 のフェノール樹
脂を含浸したシートを作製した。
【0029】この状態シートから95×95mmの大き
さのサンプル20枚を採取し、その重量W(g)を測定
した。次に、この20枚を端部を揃えて積層し2.2k
gの荷重をかけた状態でウェブ20枚の厚さt(mm)
を測定した。このW及びtから式−1で定義した解繊度
指数Xを計算し、解繊度指数Xが1.1のシートが得ら
れていることを確認した。
【0030】得られたシートを製造例1と同様の方法で
成形−焼成−緻密化処理を行い気孔率8%の比較例のデ
ィスク材用C/C複合材を得た。このディスク材と製造
例1の方法で製造したパッド材を用い実施例と同様のテ
ストを実施した結果、本実施例と比較して、摩擦係数レ
ベル、低温域での摩擦係数安定性および低温域でのレス
ポンス性に劣ったブレーキ摺動部となった。
【0031】
【発明の効果】本発明により、摩擦特性、摺動特性に優
れたC/C複合材製ブレーキ摺動部を容易に得ることが
できる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 柳沢 正弘 長野県上田市大字国分840番地 日信工 業株式会社内 (72)発明者 丹羽 一夫 香川県坂出市番の州町1番地 三菱化成 株式会社坂出工場内 (72)発明者 深川 敏弘 香川県坂出市番の州町1番地 三菱化成 株式会社坂出工場内 (56)参考文献 特開 平4−224327(JP,A) 特開 昭62−119161(JP,A) 特開 平5−331761(JP,A) 特開 平5−126181(JP,A) 特開 平5−345668(JP,A) 特開 平5−345669(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) F16D 49/00 - 69/04

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ディスク及びパッドからなるブレーキ摺
    動部において、ディスク材は集束剤が実質的に付着して
    いない複数の単繊維からなる短繊維状の炭素繊維束を、
    その少なくとも一部が束として存在するように解繊し、
    繊維が2次元ランダムに配向したシートを作製し、樹脂
    又はピッチを含浸後、積層して成形、焼成後、ピッチ含
    浸及び最終熱処理温度以下での焼成を繰り返し、最終熱
    処理温度が2400℃以下であり、かつ最終気孔率が1
    0%以下である炭素繊維強化炭素複合材からなり、パッ
    ド材は複数の単繊維の束からなる短繊維状の炭素繊維を
    解繊したものを強化材とし、熱分解炭素及び熱硬化性樹
    脂を緻密化マトリックスとする炭素繊維強化炭素複合材
    からなることを特徴とするブレーキ摺動部。
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