本考案の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に、本考案の鞍乗型車両の一実施形態に係る自動二輪車1の側面図を示す。自動二輪車1は、ダブルクレードル型の車体フレーム2を有し、この車体フレーム2の前端部に設けられたヘッドパイプ(不図示)にフロントフォーク3が枢支されている。このフロントフォーク3の下端部には前車輪4が軸支され、上端部にはハンドル5が取り付けられている。
車体フレーム2の上部には、前方に燃料タンク6、後方にシート7が配置されている。また、車体フレーム2の下方後端部には、スイングアーム8が上下に揺動可能に枢支され、このスイングアーム8の後端部には、後車輪9が軸支されている。
車体フレーム2のクレードル内には、本考案の一実施形態に係るエンジン10が搭載されている。このエンジン10は、空冷式4サイクルV型2気筒エンジンである。
図2に、本考案の一実施形態に係るエンジン10の縦断面を車両左側から見た図を示す。また、図3に、図2におけるIII−III線の断面図を示す。
エンジン10は、クランクケース12の上部に、前側シリンダブロック14Fおよび後側シリンダブロック14Bが、車両前後方向に90度よりも小さいバンク角を為すように配置されている。また、これらの上部には、前側シリンダヘッド16Fおよび後側シリンダヘッド16Bがそれぞれ配置されている。
クランクケース12は、左右分割型とされ、左側ケース12Lおよび右側ケース12Rで構成される。また、右側ケース12Rの外側部には、クラッチカバー17が取り付けられ、左側ケース12Lの外側部の前方側には、発電機カバー18が取り付けられている。
シリンダブロック14F,14B内には、ピストン42F,42Bがそれぞれ摺動可能に配置されている。これらピストン42F,42Bは、コンロッド46F,46Bをそれぞれ介して、クランク軸21のクランクピン21aに共に連結されている。
クランク軸21は、クランク軸21の回転中心から偏心した位置にクランクピン21aを有しており、ピストン42F,42Bの往復運動と連動して、車両左側から見て反時計方向(図2中の矢印ωCの方向)に回転する。
ここで、ピストン42F,42Bの往復運動は、シリンダブロック14F,14Bのバンク角に対応する位相差を有する。例えば、後側シリンダブロック14B内のピストン42Bが上死点に到達した時点から、クランク軸21の回転角度がバンク角分だけ変化した後に、前側シリンダブロック14F内のピストン42Fが上死点に到達する。
また、クランク軸21は、クランクピン21aを挟み込むように配置された一対のバランスウェイト21c,21dを有している。これらバランスウェイト21c,21dは、回転中心に対してクランクピン21aの反対側に重心GCを有するような重量分布を有している。
また、クランク軸21は、バランスウェイト21c,21dの車幅方向の外側に設けられた一対のジャーナル部21e,21fを有している。これらジャーナル部21e,21fは、クランクケース12により回転可能に支持され、クランク軸21の回転中心となる。具体的には、左側ジャーナル部21eは、左側ケース12Lのリブ12eに軸支される。また、右側ジャーナル部21fは、右側ケース12Rのリブ12fに軸支される。
また、クランク軸21は、左側ジャーナル部21eから更に左側方に延びて、発電機22を駆動するようになっている。また、クランク軸21は、右側ジャーナル部21fから更に右側方にも延びて、右端部にクラッチ駆動歯車21gが設けられている。
クランク軸21の回転は、このクラッチ駆動歯車21gからクラッチ23を介してメイン軸25に伝わり、ミッションギア部26を介してドライブ軸27に伝わる。ドライブ軸27は、左端部にスプロケット29が取り付けられている。このスプロケット29は、上記後車輪9を駆動するチェーン(不図示)と噛合う。
次に、エンジン10は、クランクケース12の前方側の左右両側に、1次バランサ50A(以下、単にバランサという)をそれぞれ有する。これらバランサ50Aは、クランク軸21と平行に設けられたバランサ軸48L,48Rにそれぞれ取り付けられて、共に回転する。また、これらバランサ50Aは、バランサ軸48L,48Rに対して偏心した位置に重心GBをそれぞれ有する。
バランサ軸48L,48Rは、クランク軸21よりも前斜め下方の左右両側で、クランクケース12にそれぞれ軸支されている。具体的には、左側バランサ軸48Lは、バランサ50Aが取り付けられた部分の両側が、左側ケース12Lに形成されたリブ12a,リブ12bによってそれぞれ軸支される。同様に、右側バランサ軸48Rは、バランサ50Aが取り付けられた部分の両側が、右側ケース12Rに形成されたリブ12c,12dによってそれぞれ軸支される。
また、バランサ軸48L,48Rには、車幅方向の外側の端部にバランサ被動歯車38L,38Rがそれぞれ取り付けられて、共に回転する。これらバランサ被動歯車38L,38Rは、クランク軸21の左右両端部にそれぞれ取り付けられたバランサ駆動歯車36L,36Rとそれぞれ噛合う。ここで、バランサ被動歯車38L,38Rは、バランサ駆動歯車36L,36Rと同径かつ同歯数とされ、このため、バランサ軸48L,48Rは、クランク軸21と同一の回転速度で、反対の回転方向(図2中の矢印ωBの方向)に回転する。
2つのバランサ50Aは、ピストン42F,42Bの往復によって生じる1次振動を、クランク軸21に設けられたバランスウェイト21c,21dとともに抑制する。
ピストン42F,42Bは、往復運動によって、主に上下方向の1次振動を生じる。例えば、図2に示すように、クランクピン21aがクランク軸21の回転中心の上方(バンク角の中間)に位置する場合には、ピストン42F,42Bによる慣性力FPが上向きで最大の大きさとなる。他方、クランクピン21aがクランク軸21の回転中心の下方に位置する場合には、ピストン42F,42Bによる慣性力FPが下向きで最大の大きさとなる。
バランスウェイト21c,21dは、クランク軸21の回転速度ωCに応じた慣性力(遠心力)FCを生じる。ここで、バランスウェイト21c,21dは、クランク軸21の回転中心に対してクランクピン21aの反対側に重心GCを有するため、例えば、図2に示すように、ピストン42F,42Bによる慣性力FPが上向きとなる場合には、これを打ち消す方向である下向きに慣性力FCを生じる。他方、ピストン42F,42Bによる慣性力FPが下向きとなる場合には、これを打ち消す方向である上向きに慣性力FCを生じる。
各バランサ50Aは、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBに応じた慣性力(遠心力)FBを生じる。ここで、各バランサ50Aは、バランスウェイト21c,21dと同様に、ピストン42F,42Bによる慣性力FPを打ち消す方向に慣性力FBを生じるよう、重心GBの位相が設定されている。すなわち、各バランサ50Aは、例えば、図2に示すように、ピストン42F,42Bによる慣性力FPが上向きとなる場合には、これを打ち消す方向である下向きに慣性力FBを生じる。他方、ピストン42F,42Bによる慣性力FPが下向きとなる場合には、これを打ち消す方向である上向きに慣性力FBを生じる。
また、各バランサ50Aは、バランスウェイト21c,21dとは逆方向に回転しているので、バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの前後方向の成分を打ち消す方向に、慣性力FBを生じる。
このため、2つのバランサ50Aの慣性力FBの大きさの合計と、バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの大きさの合計との総和が、ピストン42F,42Bによる慣性力FPの最大の大きさに相当する場合に、上下方向の1次振動が最も抑制される。また、2つのバランサ50Aの慣性力FBの大きさの合計が、バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの大きさの合計に相当する場合に、前後方向の1次振動が最も抑制される。さらに、これらの条件を共に満たす場合に、上下方向の1次振動および前後方向の1次振動が最も抑制される。
本実施形態では、バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの大きさの合計は、ピストン42F,42Bによる慣性力FPの最大の大きさの半分となるように設定される。また、2つのバランサ50Aの慣性力FBの大きさの合計は、後述するように、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるにつれて、バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの大きさの合計に近づくように設定されている。
[第1例のバランサ]
以下、第1例のバランサ50Aの具体的な構成について説明する。図4は、バランサ50Aの斜視図である。図5は、バランサ50Aの正面図である。図6は、バランサ50Aの断面図である。
また、図7は、バランサ50Aの動作説明図である。図7(a)は、バランサ50Aに含まれる可動ウェイト52Aが第1の位置PA1にある状態を表す。図7(b)は、可動ウェイト52Aが第2の位置PA2にある状態を表す。
バランサ50Aは、上記バランサ軸48L,48Rに固定される支持部54Aと、この支持部54Aによりバランサ軸48L,48Rの径方向(以下、単に径方向という)に沿って移動可能に支持された可動ウェイト52Aと、この可動ウェイト52Aをバランサ軸48L,48Rに向けて付勢するバネ等からなる弾性体56A(付勢部材の一例)とを含む。
支持部54Aは、挿通孔541aが形成された円筒状の固定部541を有しており、この挿通孔541aにバランサ軸48L,48Rが挿通される。
また、支持部54Aは、固定部541のうち、バランサ軸48L,48Rの軸方向(以下、単に軸方向という)の両端部から径方向にそれぞれ延伸した、2本の延伸部543を有している。可動ウェイト52Aは、これら2本の延伸部543の間に支持される。
各延伸部543には、径方向に伸びた案内溝部545が、軸方向に貫通して形成されている。この案内溝部545は、可動ウェイト52Aの突起部523が挿入されて、可動ウェイト52Aの移動を案内する。
この案内溝部545の両端部は、バランサ軸48L,48Rに近い側が第1ストッパ部58Aとされ、バランサ軸48L,48Rから遠い側が第2ストッパ部59Aとされる。
また、支持部54Aは、バランサ軸48L,48Rと案内溝部545の間に、軸方向の外側に向けて突き出した突起部547をそれぞれ有している。各突起部547には、各弾性体56Aの一端が取り付けられる。
可動ウェイト52Aは、半輪状のウェイト本体521を有している。このウェイト本体521は、中央部が支持部54Aの2本の延伸部543の間に挟み込まれるように配置される。
バランサ50Aの重心GBは、主にこのウェイト本体521によって定まる。このため、バランサ50Aの重心GBは、バランサ軸48L,48Rに対して支持部54Aの延伸部543の延伸方向に偏心している。
また、可動ウェイト52Aは、ウェイト本体521の中央部に、軸方向の外側に向けてそれぞれ突き出した突起部523を有している。これら突起部523は、各案内溝部545に挿入され、これにより可動ウェイト52Aの移動が案内される。
ここで、可動ウェイト52Aは、突起部523が第1ストッパ部58Aに突き当たる第1の位置PA1(図7(a)参照)と、突起部523が第2ストッパ部59Aに突き当たる第2の位置PA2(図7(b)参照)との間を移動可能とされている。
また、各突起部523は、各案内溝部545よりも軸方向の外側まで突き出しており、上記弾性体56Aの他端がそれぞれ取り付けられる。
弾性体56Aは、可動ウェイト52Aが第1の位置PA1から第2の位置PA2側へ移動すると、移動距離分の変位(伸び)を生じ、この変位量に応じた付勢力を、可動ウェイト52Aに対して第1の位置PA1側に向けて印加する。
可動ウェイト52Aの径方向の位置は、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBに応じて変化する。すなわち、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、可動ウェイト52Aの慣性力(遠心力)が増大すると、可動ウェイト52Aは、弾性体56Aの付勢力に抗して第1の位置PA1から第2の位置PA2へ向けて移動する。
このように可動ウェイト52Aの径方向の位置が変化すると、これに伴い、バランサ50Aの重心GBの径方向の位置も同様に変化する。このため、バランサ50Aは、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBに応じて重心GBの径方向の距離が変化し、この距離に応じた大きさの慣性力FBを生じることになる。
例えば、可動ウェイト52Aが第1の位置PA1にあるとき(図7(a)参照)、バランサ50Aは、バランサ軸48L,48Rから重心GBまでの距離が最小の第1の距離L1となり、慣性力FBの大きさが第1の距離L1に応じた大きさ(すなわち、重心GBの径方向の距離による寄与分が最小となる大きさ)となる。
そして、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、可動ウェイト52Aが第2の位置PA2へ向けて移動し、重心GBの径方向の距離が増大していく。これにより、バランサ50Aの慣性力FBの大きさは、重心GBの径方向の距離による寄与分が徐々に増大していく。
そして、可動ウェイト52Aが第2の位置PA2に到達したとき(図7(b)参照)、バランサ50Aは、バランサ軸48L,48Rから重心GBまでの距離が最大の第2の距離L2となり、慣性力FBの大きさが第2の距離L2に応じた大きさ(すなわち、重心GBの径方向の距離による寄与分が最大となる大きさ)となる。
ここで、上記エンジン10において、2つのバランサ50Aの慣性力FBの大きさの合計は、可動ウェイト52Aが第2の位置PA2に到達したときに、上記バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの大きさの合計と同じになるように設定される。
詳しくは、図17に示すように、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが低いとき、可動ウェイト52Aが第1の位置PA1にあるので(図7(a)参照)、2つのバランサ50Aの慣性力FBの大きさの合計は、バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの大きさの合計よりも小さくなる。このとき、両者の差は最も大きく、この差によってエンジン10の1次振動を残存させることができる。
そして、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、可動ウェイト52Aが第1の位置PA1から第2の位置PA2に向けて移動すると、2つのバランサ50Aの慣性力FBの合計の大きさが、バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの合計の大きさに徐々に近づいていく。このとき、両者の差が徐々に小さくなり、これによってエンジン10の1次振動を徐々に低減させることができる。
そして、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが更に高まり、可動ウェイト52Aが第2の位置PA2に到達すると(図7(b)参照)、2つのバランサ50Aの慣性力FBの合計の大きさが、バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの合計の大きさと同じになる。これにより、エンジン10の1次振動を最小にすることができる。
以上により、本実施形態のバランサ50Aは、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、エンジン10の振動を抑制する程度を徐々に高めることができるので、低回転速度域では1次振動を顕在化し、高回転速度域では1次振動を低減することが可能となる。
なお、以上に説明した第1例のバランサ50Aに限らず、以下に説明する第2例のバランサ50Bまたは第3例のバランサ50Cがエンジン10に適用されてもよい。
[第2例のバランサ]
以下、第2例のバランサ50Bの具体的な構成について説明する。なお、上記第1例と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。図8は、バランサ50Bの斜視図である。図9は、バランサ50Bの正面図である。図10は、バランサ50Bの断面図である。
また、図11は、バランサ50Bの動作説明図である。図11(a)は、バランサ50Bに含まれる可動ウェイト52Bが第1の位置PB1にある状態を表す。図11(b)は、可動ウェイト52Bが第2の位置PB2にある状態を表す。
バランサ50Bは、上記バランサ軸48L,48Rに固定される支持部54Bと、この支持部54Bにより径方向に沿って移動可能に支持された可動ウェイト52Bと、この可動ウェイト52Bをバランサ軸48L,48Rに向けて付勢するバネ等からなる弾性体56B(付勢部材の一例)とを含む。
支持部54Bは、固定部541に、バランサ軸48L,48Rが挿通される挿通孔541aとともに、径方向に貫通した案内孔549が形成されている。
可動ウェイト52Bは、ウェイト本体521の中央部の内縁部から支持部54Bの側へ延出した棒状部525を有する。この棒状部525は、支持部54Bの案内孔549に挿通され、ウェイト本体521の側とは反対側へ突き出している。これにより、可動ウェイト52Bは、支持部54Bに支持されるとともに、案内孔549の貫通方向に沿った移動が案内される。
また、棒状部525には、径方向に伸びた案内溝部527が、軸方向に貫通して形成されている。バランサ軸48L,48Rは、支持部54Bの挿通孔541aと、この案内溝部527とに挿通される。可動ウェイト52Bは、この案内溝部527を挿通するバランサ軸48L,48Rによっても、案内孔549の貫通方向に沿った移動が案内される。
ここで、ウェイト本体521の中央部の内縁部は、第1ストッパ部58Bとされる。なお、案内溝部545のうち、ウェイト本体521側の端部を、第1ストッパ部58Bとしてもよい。また、棒状部525のうち、ウェイト本体521側とは反対側の端部には、板状の第2ストッパ部59Bが設けられている。
可動ウェイト52Bは、支持部54Bのウェイト本体521側の端部が第1ストッパ部58Bに突き当たる第1の位置PB1(図11(a)参照)と、支持部54Bの第2ストッパ部59B側の端部が弾性体56Bを介して第2ストッパ部59Bに突き当たる第2の位置PB2(図11(b)参照)との間を移動可能とされている。
弾性体56Bは、棒状部525のうち、支持部54Bからウェイト本体521側とは反対側へ突き出した部分に巻き付けられている。この弾性体56Bは、一端が支持部54Bの第2ストッパ部59B側の端部に取り付けられ、他端が第2ストッパ部59Bに取り付けられる。
この弾性体56Bは、可動ウェイト52Bが第1の位置PB1から第2の位置PB2側へ移動すると、移動距離分の変位(縮み)を生じ、この変位量に応じた付勢力を、可動ウェイト52Aに対して第1の位置PB1側に向けて印加する。
このようなバランサ50Bは、上記第1例のバランサ50Aと同様に、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、可動ウェイト52Bが第1の位置PB1から第2の位置PB2へ向けて移動し、重心GBの径方向の距離が増大していく。これにより、バランサ50Bの慣性力FBの大きさは、重心GBの径方向の距離による寄与分が徐々に増大していく。
ここで、上記第1例のバランサ50Aと同様に、2つのバランサ50Bの慣性力FBの大きさの合計は、可動ウェイト52Aが第2の位置PB2に到達したときに、上記バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの大きさの合計と同じになるように設定されている(図17参照)。
以上により、本実施形態のバランサ50Bも、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、エンジン10の振動を抑制する程度を徐々に高めることができるので、低回転速度域では1次振動を顕在化し、高回転速度域では1次振動を低減することが可能となる。
[第3例のバランサ]
以下、第3例のバランサ50Cの具体的な構成について説明する。なお、上記第1例および第2例と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。図12は、バランサ50Cの斜視図である。図13は、バランサ50Cの正面図である。図14は、バランサ50Cの断面図である。
また、図15は、バランサ50Cの動作説明図である。図15(a)は、バランサ50Cに含まれる可動ウェイト52Cが第1の位置PC1にある状態を表す。図15(b)は、可動ウェイト52Cが第2の位置PC2にある状態を表す。
バランサ50Cは、上記バランサ軸48L,48Rに固定される支持部54Cと、この支持部54Cによりバランサ軸48L,48Rから偏心した位置を中心に回動可能に支持された可動ウェイト52Cと、この可動ウェイト52Cをバランサ軸48L,48Rに向けて付勢するバネ等からなる弾性体56C(付勢部材の一例)とを含む。
支持部54Cは、固定部541の軸方向の両端部から径方向にそれぞれ延伸した、2本の延伸部543を有している。これら延伸部543の先端部の間には、可動ウェイト52Cを軸支する軸支部531が設けられている。
また、固定部541は、延伸部543の延伸方向に対して一方の側部が取付部541dとされ、この取付部541dに、弾性体56Cの一端が取り付けられる。
可動ウェイト52Cは、略三角状のウェイト本体522を有している。このウェイト本体522は、一つの角部522aが、支持部54Cの2本の延伸部543の先端部の間に挟み込まれて、軸支部531により軸支される。
また、ウェイト本体522は、角部522aとは反対側に位置する幅広の先端部522cのうち、上記固定部541の取付部541d側の側部が取付部522bとされ、この取付部522bに、弾性体56Cの他端が取り付けられる。
可動ウェイト52Cは、軸支部531によって、バランサ軸48L,48Rと平行の軸を中心に回動可能とされる。また、バランサ50Cの重心GBは、主に可動ウェイト52Cによって定まることから、可動ウェイト52Cの回動に伴って、バランサ軸48L,48Rに対して径方向の位置と周方向の位置とが共に変化する。
ここで、可動ウェイト52Cは、先端部522cがバランサ軸48L,48Rに近接する第1の位置PC1(図15(a)参照)と、先端部522cがバランサ軸48L,48Rから最も離れる第2の位置PC2(図15(b)参照)との間を移動可能とされている。
第1の位置PC1では、可動ウェイト52Cの取付部522bが上記固定部541の取付部541dに近接し、弾性体56Cが平衡状態となる。
弾性体56Cは、可動ウェイト52Cが第1の位置PC1から第2の位置PC2側へ移動すると、移動距離に応じた変位(伸び)を生じ、この変位量に応じた付勢力を、可動ウェイト52Cに対して第1の位置PC1側に向けて印加する。
可動ウェイト52Cの位置は、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBに応じて変化する。すなわち、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、可動ウェイト52Cの慣性力(遠心力)が増大すると、可動ウェイト52Cは、弾性体56Cの付勢力に抗して第1の位置PC1から第2の位置PC2へ向けて移動する。
このため、バランサ50Cは、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBに応じて重心GBの径方向の距離が変化するため、慣性力FBの大きさがこの距離に応じて変化するとともに、重心GBの偏心方向も変化するため、慣性力FBの方向が変化することになる。
例えば、可動ウェイト52Cが第1の位置PC1にあるとき(図15(a)参照)、バランサ50Cは、バランサ軸48L,48Rから重心GBまでの距離が最小の第1の距離L1となり、慣性力FBの大きさが第1の距離L1に応じた大きさ(すなわち、重心GBの径方向の距離による寄与分が最小となる大きさ)となる。また、このとき、バランサ50Cは、慣性力FBの方向が上記延伸部543の延伸方向に対して最もずれることになる。
そして、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、可動ウェイト52Cが第2の位置PC2へ向けて移動し、重心GBの径方向の距離が増大していく。これにより、バランサ50Cの慣性力FBの大きさは、重心GBの径方向の距離による寄与分が徐々に増大していく。また、このとき、バランサ50Cの慣性力FBの方向は、上記延伸部543の延伸方向に徐々に近づく。
そして、可動ウェイト52Cが第2の位置PC2に到達したとき(図15(b)参照)、バランサ50Cは、バランサ軸48L,48Rから重心GBまでの距離が最大の第2の距離L2となり、慣性力FBの大きさが第2の距離L2に応じた大きさ(すなわち、重心GBの径方向の距離による寄与分が最大となる大きさ)となる。また、このとき、バランサ50Cは、慣性力FBの方向が上記延伸部543の延伸方向と同方向になる。
ここで、上記第1例のバランサ50Aおよび第2例のバランサ50Bと同様に、2つのバランサ50Cの慣性力FBの大きさの合計は、可動ウェイト52Aが第2の位置PC2に到達したときに、上記バランスウェイト21c,21dの慣性力FCの大きさの合計と同じになるように設定されている(図17参照)。
更に、バランサ50Cは、慣性力FBの方向が、可動ウェイト52Cが第1の位置PC1から第2の位置PC2に向けて移動するにつれて、上記ピストン42F,42Bによる慣性力FPを打ち消す方向に近づくように設定されている。
具体的には、バランサ50Cは、可動ウェイト52Cが第2の位置PC2にあるときに(すなわち、重心GBの偏心方向が上記延伸部543の延伸方向と同方向になるときに)、慣性力FBの方向が、上記ピストン42F,42Bによる慣性力FPを最も打ち消す方向となるように設定されている。
すなわち、バランサ50Cは、可動ウェイト52Cが第2の位置PC2にある状態で、例えば上記図2に示すように、ピストン42F,42Bによる慣性力FPが上向きとなる場合に、これとは反対の下向きに慣性力FBを生じる。他方、ピストン42F,42Bによる慣性力FPが下向きとなる場合に、これとは反対の上向きに慣性力FBを生じる。
このように設定されることで、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが低いときには、可動ウェイト52Cが第1の位置PC1にあるので(図15(a)参照)、バランサ50Cの慣性力FBの方向が、ピストン42F,42Bによる慣性力FPを最も打ち消す方向に対してずれることになる。このとき、両者のずれは最も大きく、このずれによってエンジン10の1次振動を残存させることができる。
そして、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、可動ウェイト52Cが第1の位置PC1から第2の位置PC2に向けて移動すると、バランサ50Cの慣性力FBの方向が、ピストン42F,42Bによる慣性力FPを最も打ち消す方向に徐々に近づいていく。このとき、両者のずれが徐々に小さくなり、これによってエンジン10の1次振動を徐々に低減することができる。
そして、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが更に高まり、可動ウェイト52Cが第2の位置PC2に到達すると(図15(b)参照)、バランサ50Cの慣性力FBの方向が、ピストン42F,42Bによる慣性力FPを最も打ち消す方向と同じになる。これにより、エンジン10の1次振動を最小にすることができる。
以上により、本実施形態のバランサ50Cは、バランサ軸48L,48Rの回転速度ωBが高まるのに伴い、エンジン10の振動を抑制する程度を徐々に高めることができるので、低回転速度域では1次振動を顕在化し、高回転速度域では1次振動を低減することが可能となる。
なお、第3例のバランサ50Cは、図16に示すように、支持部54Cの2本の延伸部543の間に、第1ストッパ部58Cおよび第2ストッパ部59Cを設けるようにしてもよい。
可動ウェイト52Cは、第1の位置PC1にあるときに、弾性体56Cが取り付けられる側の側部が第1ストッパ部58Cに突き当たって、バランサ軸48L,48R側への更なる移動が規制される。
他方、可動ウェイト52Cは、第2の位置PC2にあるときに、弾性体56Cが取り付けられる側とは反対側の側部が第2ストッパ部59Cに突き当たって、第1の位置PC1とは反対側への移動が規制される。