JP3136332B2 - 少酸性酒類製造用酵母の育種 - Google Patents

少酸性酒類製造用酵母の育種

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JP3136332B2 JP27861896A JP27861896A JP3136332B2 JP 3136332 B2 JP3136332 B2 JP 3136332B2 JP 27861896 A JP27861896 A JP 27861896A JP 27861896 A JP27861896 A JP 27861896A JP 3136332 B2 JP3136332 B2 JP 3136332B2
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治幸 家藤
康造 木崎
康次郎 高橋
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酵母の育種に関
し、更に詳細には、酸の量が少ない酒類、つまり少酸性
ないし低酸性酒類を製造することのできる酵母の育種に
関するものである。また本発明は、このような酵母の育
種のほか、それによって分離した酵母及び該酵母を使用
する風味に特徴を有する新規酒類の製造にも関するもの
である。
【0002】
【従来の技術】従来、酸の量が少ない少酸性ないし低酸
性酒類を製造することのできる酵母、とりわけ実用酵母
の分離を目的とし、満足しうる酵母を育種したという報
告は未だ認められていない。一方、トリコセシン及びオ
ーレオバシジンAが抗生物質として有用であることは知
られているが、これらの物質が少酸性酒類製造用酵母の
選択用培地に使用されて満足すべき少酸性酒類の製造に
成功した例は従来全く報告されていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】酒類、特に清酒の消費
量が伸び悩んでいる実情に鑑み、その消費量を増大させ
るため、当業界においては新製品の開発が望まれてい
る。一方、消費者サイドにおいても、特徴ある品質を有
する新しいタイプの酒類の開発が待望されている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記したよう
に新製品の開発という目的を達成するためになされたも
のである。しかして、酒類における各種ファクターの
内、特に酸は、酒類の品質を決定する重要な要素のひと
つである。酒類の新規需要開発にあたっては特徴ある品
質の開発が望まれており、味を構成する酸に特徴のある
製品もその一つである。以上のことから、そしてまた消
費者の嗜好の変化による酸の少ない飲みやすい酒類、ラ
イトタイプの酒類に対する需要の増加から、酸度の低
い、少酸性ないし低酸性酒類を製造できる酵母の育種
は、酒類の製造分野において新製品の開発への寄与が期
待されるものである。
【0005】そこで本発明者らは、少酸性酒類製造を目
的とし、その前提として、少酸性酒類製造用酵母の育種
という新規な技術課題を設定した。すなわち、本発明者
らは、新たに醸造酵母から少酸となる酵母の分離育種を
めざしたものであり、実験の結果、選択培地を利用す
る、従来の酵母に比べ酸が少なくなる酵母の分離方法を
開発し、この方法によりサッカロマイセス(Saccharomy
ces)属セレビシエ(cerevisiae)を育種するのに成功
したものである。
【0006】すなわち本発明は、選択培地を用いて、サ
ッカロマイセス・セレビシエに属する酵母の中から少酸
性酒類を製造できる酵母を分離、育種する点を基本的技
術思想とするものである。選択培地としては、少酸性酒
類製造用酵母を分離、育種できる培地であればすべての
培地が使用可能であるが、例えばトリコセシン又はオー
レオバシジンA含有培地は好適な選択培地のひとつであ
る。以下、本発明を具体的に説明する。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明を実施するには、サッカロ
マイセス・セレビシエに属する酵母を用い、トリコセシ
ン又はオーレオバシジンA含有培地等の選択培地を用い
てそれぞれ、トリコセシン又はオーレオバシジンA耐性
酵母を分離する。親株としては、サッカロマイセス・セ
レビシエに属する酵母であればすべての酵母が使用可能
であるが、本発明は特徴ある品質の酒類の製造もその目
的のひとつであるので、親株としては、協会9号、協会
7号、協会10号等の各清酒酵母といった市販されてい
る実用酵母も有利に使用することができる。
【0008】本育種法では、親株として用いる酵母は、
変異処理をせずに使用しても目的の酵母は分離可能であ
るが、通常の変異処理をした後に分離を行ってもなんら
支障はない。本発明において変異酵母を得るには、変異
方法としては、いかなる方法でもよい。変異の物理的方
法としては、紫外線照射、放射線照射などがあり、化学
的方法としては、変異剤、例えば、エチルメタンサルホ
ネート、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニ
ジン、亜硝酸、アクリジン系色素などの溶液に懸濁させ
る変異方法があり、これらの方法が適宜利用可能であ
る。
【0009】本発明においては、これらの変異方法が適
宜使用できるが、変異酵母の選別に特色を有するもので
ある。すなわち変異株の生育培地にトリコセシン又はオ
ーレオバシジンAを含有させるものである。トリコセシ
ン、オーレオバシジンAは、抗生物質としては知られて
いるが、低酸酒類製造用酵母の選択培地に利用されたと
いう報告はない。本発明においては、目的とする変異酵
母は、トリコセシン又はオーレオバシジンA含有培地で
生育するコロニーから分離すればよいので(ポジティブ
セレクション)、分離作業が容易且つシンプルであり、
この点においても本発明の育種法はすぐれている。
【0010】このようにして分離したトリコセシン及び
/又はオーレオバシジンA耐性酵母を用い発酵試験を行
い、発酵液中の酸が少ないものを目的の酵母として分離
する。さらに分離酵母より酒類の製造を行い、発酵力な
ど親株と変わりない酵母を選択する。酒類の製造は常法
にしたがって行えばよく、清酒等の醸造酒が適宜製造可
能である。
【0011】本発明は、また、酒類製造に関するもので
あって、通常の酵母を使用する場合よりも、酸の少ない
モロミを製造し、酸味の少ない飲みやすいライトタイプ
の醸造酒を製造することができる。以下、本発明の実施
例について述べる。
【0012】
【実施例1:トリコセシン耐性酵母の分離法】サッカロ
マイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisia
e)に属する協会7号清酒酵母(以下K−7と略す)
を、YPD培地(イーストエキス1%、ペプトン2%
グルコース2%)に接種し、増殖させた後、無菌的に集
菌洗浄し、その0.1mlをトリコセシン(0.005
mg/ml)を含むYPD寒天培地に塗布し、30℃で
培養し、生育したコロニーをトリコセシン(0.005
mg/ml)を含むYPD寒天培地に更に植え次いだ。
【0013】
【実施例2:オーレオバシジンA耐性酵母の分離法】サ
ッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerev
isiae)に属する協会9号清酒酵母(以下K−9と略
す)及び協会10号清酒酵母(以下K−10と略す)
を、YPD培地(イーストエキス1%、ペプトン2%
グルコース2%)に接種し、増殖させた後、無菌的に集
菌洗浄し、その0.1mlをオーレオバシジンA(0.
001mg/ml)を含むYPD寒天培地に塗布し、3
0℃で培養し、生育したコロニーをオーレオバシジンA
(0.0001mg/ml)を含むYPD寒天培地に更
に植え次いだ。
【0014】
【実施例3:トリコセシン耐性酵母からの少酸性酵母の
分離】実施例1で分離したトリコセシン耐性酵母株につ
いて、70%精米の白米を使用して、下記の表1に示す
仕込配合で三段仕込を行った。酵母には酵母懸濁液を用
い(仕込水1ml当たり5×106個)、添えは15
度、仲は12度、留は9度で行い、翌日より15度にな
るまで1度/日で品温を上げ、その後は15度一定で発
酵させた。その発酵経過は、図1に示すとおりであって
親株とほとんど変らなかった。発酵液中のエタノール
は、アルコメイト(ウッドソン(株))を用いて測定
し、酸度は0.1N NaOHで、アミノ酸度は0.1
N NaOH、ホルマリン溶液(50%水溶液)を用い
て国税庁所定分析法にのっとり分析を行った。
【0015】
【表1】
【0016】一例としてK−7を示したが、他の協会9
号清酒酵母、協会10号清酒酵母等からも同様の方法で
トリコセシン耐性酵母を分離できる。また、ブドウ酒酵
母も同様に処理することができ、例えばSaccharomyces
cerevisiae IFO 1662等からもトリコセシン耐性酵母を
分離することができる。選択培地におけるトリコセシン
の濃度としては、0.001〜0.02mg/mlの範
囲が一応の目安となるが、毒性等の悪影響が出ないので
あれば上記範囲よりも高濃度としてもよいし、有効性が
認められるのであれば上記範囲よりも低濃度としてもよ
い。
【0017】下記表2で示したように親株の協会7号に
対し、トリコセシン耐性酵母の約90%が酸度の低下を
示した。以上のようにトリコセシン耐性酵母を分離する
ことにより、そのなかから高頻度で少酸となる酵母が得
られた。
【0018】
【表2】
【0019】
【実施例4:オーレオバシジンA耐性酵母からの少酸性
酵母の分離】実施例2で分離したオーレオバシジンA耐
性酵母株について、70%精米の白米を使用して、上記
と同様な仕込配合で三段仕込を行った。酵母には酵母懸
濁液を用い(仕込水1ml当たり5×106個)、添え
は15度、仲は12度、留は9度で行い、翌日より15
度になるまで1度/日で品温を上げ、その後は15度一
定で発酵させた。その発酵経過は、図2、図3に示すと
おりであって親株とはほとんど変らなかった。そして、
成分の分析は、実施例3と同様にして行った。一例とし
てK−9及びK−10を示したが、他のK−7やブドウ
酒酵母等からも同様の方法でオーレオバシジンA耐性酵
母を分離できる。
【0020】選択培地におけるオーレオバシジンAの濃
度としては、0.0001〜0.005mg/mlの範
囲が一応の目安になるが、毒性の悪影響が出ないのであ
れば上記範囲より高濃度としてもよいし、有効性が認め
られるのであれば上記範囲よりも低濃度としてもよい。
【0021】下記表3で示したようにK−9ではオーレ
オバシジンA耐性酵母の100%が、K−10ではオー
レオバシジンA耐性酵母の80%以上が酸度の低下を示
した。以上のようにオーレオバシジンA耐性株を分離す
ることにより高頻度で少酸となる株が得られた。
【0022】
【表3】
【0023】
【発明の効果】実用酵母からその優れた醸造特性を損な
うことなく新しい性質を獲得した変異株を分離すること
は、一般に多くの労力を要する因難な作業である。本発
明は、抗生物質耐性酵母を分離するポジティブセレクシ
ョンを基本としており、目的とする変異株のみ効率的に
分離できる。本分離法の活用は、実用酵母の育種におい
て極めて有効である。そして、このようにして分離、育
種して得た酵母を使用することにより、少酸・低アルコ
ールの非常に飲みやすいライトタイプの酒類という従来
未知の新規にして特徴ある品質の酒類を製造することが
できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】親株(K−7)とトリコセシン耐性株の発酵経
過を示す。
【図2】親株(K−9)とオーレオバシジンA耐性株の
発酵経過を示す。
【図3】親株(K−10)とオーレオバシジンA耐性株
の発酵経過を示す。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI (C12N 1/16 C12R 1:865) (72)発明者 高橋 康次郎 広島県東広島市鏡山三丁目7番1号 国 税庁醸造研究所内 (56)参考文献 特開 平6−178682(JP,A) Antimicrobial Age nts and Chemothera py 39(12)p.2765−2769(1995) Biochem.J.267 p.709− 713(1990) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 1/16 C12G 3/02 119 CA(STN)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 サッカロマイセス・セレビシエ(Saccha
    romyces cerevisiae)に属する酵母を、変異処理するこ
    となく又は変異処理した後、トリコセシン又はオーレオ
    バシジンAを含有する選択培地を用いて少酸性酒類を製
    造できる酵母を選択分離すること、を特徴とする少酸性
    酒類製造用酵母の育種方法。
JP27861896A 1996-10-01 1996-10-01 少酸性酒類製造用酵母の育種 Expired - Lifetime JP3136332B2 (ja)

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Non-Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
Antimicrobial Agents and Chemotherapy 39(12)p.2765−2769(1995)
Biochem.J.267 p.709−713(1990)

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