JP3110067B2 - 植物植生を兼用した建造物の防水工法 - Google Patents

植物植生を兼用した建造物の防水工法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建造物の特に屋上部分
に防水工法を施すと同時に芝生などの植物植生を行って
屋上の防水を完全なものとすると共に歩行を可能とし、
さらにスラブや防水層の温度変化を抑制できる工法に関
するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から建造物の屋上には防水工法が施
されているが、大別すると歩行が可能な押さえ防水工法
と、日常的な歩行ができない露出防水工法がある。この
うち押さえ防水工法とは、アスファルト防水を施した後
に押さえコンクリートを打設し、1箇所に集中荷重が加
わってアスファルト防水層が損傷することを防止するも
のであり、これによって屋上の歩行を可能としたもので
ある。一方露出防水工法とは押さえコンクリートを打設
せずにアスファルト防水層が露出したままのものであ
り、集中荷重が加われば容易に防水層が損傷されてしま
うので、日常の歩行は好ましくない。
【0003】ところで近年都市部の地価が暴騰している
ことや空き地が激減していることから、屋上の利用価値
が注目されている。従って、この点に鑑みれば上述した
工法のうち露出防水工法よりも押さえ防水工法のほうが
利用価値が高い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、押さえ防水工
法で打設した押さえコンクリートには伸縮目地を設けな
ければならず、施工に手間とコストがかかるだけでな
く、防水層の補修の際には押さえコンクリートを除去し
なければならないなど、管理上での問題もある。
【0005】さらに、押さえ防水工法は最上階の居住者
にとって生活環境上での根本的な課題もある。即ち、真
夏などの炎天下では屋上が熱せられ、その輻射熱で屋上
スラブが焼けて室内温度が上昇するという焼け込みが生
じ、冷房によって室内温度を下げても天井からの熱放射
による不快感は根本的に解決できないからである。そこ
で屋上に人工芝を貼ることもあるが、幾分景観を良好に
できるが熱的な解決を行っているものではない。さら
に、屋上スラブ下に断熱材を設けた場合であっても熱伝
導によって屋上スラブの熱が室内に伝わるので十分とは
いえず、一旦室内に蓄熱されれば断熱材の存在によって
却って夜間に室外へ熱放射することが妨げられる原因に
なってしまう。
【0006】また、押さえコンクリートの表面にさらに
緩衝材やウレタンゴムを積層することもあるが、これは
露出コンクリート面で運動を行った場合に足首などを傷
めるのを防止することを目的としたものであり、熱対策
を考慮した手段ではない。
【0007】本発明ではこれらの従来の課題を解決しよ
うとするもので、屋上などに植物を植生することによっ
て押さえコンクリートを省略し、景観を良好にしつつ屋
上歩行を可能とし、さらに植物によって屋上の表面温度
の上昇を抑えて防水層の劣化を防止すると共に、最上階
の居住区の生活環境を向上することが可能な防水工法を
提供することを目的とする。また、植物植生を行うこと
によって照り返しを原因とする構造物の劣化を防ぐこと
も目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明では上記目的を達
成するために、第1の手段として、コンクリートを打設
したスラブ面を十分に乾燥した後にプライマー処理し、
このプライマー処理層の表面に、植物の根が貫通しない
厚さを有する合成樹脂シートを適宜間隔ごとに接合して
根切り防水層を形成し、さらにこの根切り防水層の上に
保水層および植物植生用の養生層を積層するという方法
を用いた。
【0009】また第2の手段として、既存の露出防水面
または押さえ防水面の表面に、植物の根が貫通しない厚
さを有する合成樹脂シートを適宜間隔ごとに接合して根
切り防水層を形成し、さらにこの根切り防水層の上に保
水層および植物植生用の養生層を積層するという方法を
用いた。
【0010】さらに第3の手段として、根切り防水層の
立ち上がり面に、さらに外部から遮蔽する補強層を施す
という方法を用いた。
【0011】
【作用】第1の手段において、根切り防水層はその上に
植生された植物の根が成長してもこの層によって構造物
自体に根が入り込むことを防止する作用を行うものであ
る。また、保水層は植物に必要な水分を常時供給すると
共に、根切り防水層がドレインと接続されているときに
は排水層の機能を有するものである。さらに、養生層は
植物の発芽のための床になると共に、成長に必要な養分
を供給する機能を行う。そして、根切り防水層をコンク
リート層に形成したプライマー処理層に適宜間隔で接合
することによって機能的に一体とするものである。
【0012】第2の手段においては、既存の防水面に適
宜間隔で根切り防水層を接合することによってさらなる
防水処理を行うと共に、構造物として一体化させるとい
う作用を行うものである。
【0013】第3の手段における補強層は、根切り防水
層の露出面を保護し、物理的損傷および化学的な劣化を
防止するという機能を行う。
【0014】
【実施例】以下、本発明の実施例を添付した図面に従っ
て説明すると、図1はコンクリート建造物の施行時に屋
上に防水工法を施したところを示す断面図であり、1は
屋上スラブに打たれたコンクリート、2は屋上側壁の立
ち上がり、3はあご、4は屋上面のプライマー処理層、
5は根切り防水層、6はグラスウールやポリエステル・
ポロプロピレン・アクリルなどを組成繊維とする不織布
を積層した保水層、7は芝生の養生層、8は風害などに
よって植生芝生が飛散したり、歩行による集中荷重が加
わることを防止するための保護網である。なお、根切り
防水層5の立ち上がり仕舞い9は口あきを防止するため
にアングル押さえ10で固定されており、さらにこの部
分の防水性を確保するためにシーリング材、またはアス
ファルトコーティング11が施されている。
【0015】ここで、根切り防水層5は従来からの防水
工法における防水層の機能を発揮すると共に、芝生の成
長に伴って根が伸びた場合でもシートの下への成長を防
ぐ機能を発揮するものである。これら両機能を達成する
ために根切り防水層5にはある程度の柔軟性が求められ
る一方、根が突き抜けることを防止するためにある程度
の厚さを必要とする。本発明者はこれらに鑑みて塩化ビ
ニルシートを予定しているが、組成としてはこれに限ら
ず、両機能を達成することができるような柔軟かつ一定
厚さを有する合成樹脂シートであればポリエチレンシー
トでもよい。
【0016】また、保水層6は芝生に対して充分に水分
を供給することができると共に歩行に適する弾力性を得
ることができる程度の厚さに設定する。さらに、養生層
7には予め芝生を播種しておき、発芽に必要な養分を含
浸させて乾燥状態を保つことによって、施工時には根葉
が出ていない通常のシートと同様に取り扱うことがで
き、簡易な施工を行うことが可能である。ただし、運搬
時に振動によって種が落ちてしまうことを防止するため
には少々発芽した状態でもよく、さらには施工完了後に
播種することもある。
【0017】上述した構成にするための工法を説明する
と、先ずコンクリートを打設後、佐官工によってコンク
リートを十分にならし押さえ、平滑なコンクリート床面
とし、屋上スラブを構築した後によく乾燥させ、次にコ
ンクリート面をより平滑にすると共に表面への物の接合
性を容易にするためにプライマー層4を形成する。これ
らは公知の工法であるが、本発明ではコンクリート面を
平滑にできればプライマー層4を省略しても差し支えな
い。続いてプライマー層4の表面適宜な間隔ごとに接着
剤を塗布し、根切り防水シートを敷設することによって
根切り防水層5を形成するのである。ここで接着剤をプ
ライマー層4の全面に塗布しないのは、屋上部分は雰囲
気温度の変化が激しく、さらに塩化ビニルなどは熱膨張
率が大きいので、全面張りつけを行った場合にはスラブ
面と根切り防水シートの膨張・収縮率の相違によって根
切り防水シートに異常な力が加わり、破断してしまうか
らである。また、根切り防水シートは一定幅を重畳させ
て平行に敷き詰めるが、重畳部分からの漏水を防止する
ために、シート素材に見合った接着剤を用いる。なお、
シート素材によっては接着剤による接着に代えて熱圧着
を行うこともある。その後、根切り防水層5の仕舞い面
に図1に示したような防水処理を行う。このように根切
り防水層5の敷設が完了すれば、次に保水層6を一定厚
さで敷き詰め、続いて養生層7を張り、保護網8によっ
てこれらを固定して一連の工法が終了するのである。
【0018】なお、本実施例では保水層6を一層で形成
したが、大量の降雨や散水過多による根腐れを回避する
ために、保水層6を二層で形成し、上層を保水および根
の保護のための成長層とし、下層を余分な水分を除去す
るための排水層に分割することもある。この場合にはド
レイン回りの根切り防水層5を開口し、その仕舞いを充
分に防水しておくことによって、一旦排水層に溜まった
水分がドレインを介して排水されることになる。
【0019】このようにして完成した屋上は従来と同様
の防水効果を発揮することが可能であり、また歩行も可
能となる。さらに、芝生の植生によって炎天下において
も屋上スラブの焼け込みを防止することもできる。本工
法を採用していない従来の場合には屋上面は50度C以
上になり、これによってスラブも40度C以上に上昇す
るのに対して、本工法で芝生を植生した場合には芝生の
生命活動や保水層による冷却効果によって表面温度は気
温より若干高い程度、スラブは30度Cまで到らない程
度に維持され、焼け込み現象は全く見られない。従って
最上階の居住区の生活環境を著しく向上できるようにな
った。さらにまた、従来の屋上では照り返しによって直
接太陽光が照射していない部分でも温度上昇が見られた
が、本工法によれば照り返しによる温度上昇は確認され
ない。これによって部分的に異常な温度上昇が発生する
ことを防止できると共に、反射光に含まれている紫外線
によってコンクリート壁などが劣化することも防止でき
る。
【0020】次に、図2は根切り防水層5の補強工法を
説明した断面図である。図1に示したように立ち上がり
2に比べて保水層6や養生層7が厚い場合には、立ち上
がり面に根切り防水層5が露出することはない。しかし
一般的には立ち上がり2は約50cm程度であり、さらに
保水層6および養生層7の合計厚さは最大厚でも約10
cm程度であるから、根切り防水層5は相当範囲において
露出してしまう。ところが、根切り防水層5の素材は上
述したように柔軟な塩化ビニルなどであるので、ある程
度の厚さをもたせてはいるが刃物で簡単に傷がつき、防
水性能に支障を来すおそれが大きい。さらに、露出面の
紫外線による化学的な劣化という問題もある。そこで、
根切り防水層5の露出面が大きい場合には図2に示した
ように、根切り防水層5の立ち上がり面12にフック1
3を張りつけ、ラス網14を固定した後に保護モルタル
15を塗布して補強層を形成するという工法を追加して
いる。なお、この工法は一例であって、他にもたとえば
立ち上がり面12の前面に保護ブロックを積み上げ、こ
れを保護モルタルで塗り固めて補強層とすることもあ
る。また、これらに代えて根切り防水層5の立ち上がり
仕舞い9を固定するアングル押さえ10の下端面を延長
し、露出部分をこれによってカバーして補強層にしても
よい。これらの工法によって立ち上がり面12の物理
的、化学的な劣化を回避すると共に、防水性能をより高
めることができる。
【0021】上述したように、本発明工法は建造物施工
の最終段階において防水工法として適用されるが、既築
の建造物の屋上などにさらなる防水工法および改良工法
として採用することも可能である。即ち、既に完成され
た露出防水に適用するにあたっては、先ず露出防水面を
充分に清掃して汚れを除去した後に、適宜間隔で接着剤
を塗布し、根切り防水シートを敷設した上に上記保水層
6、養生層7および保護網8を設けるのである。この場
合、既に露出防水によって防水処理は施されているの
で、根切り防水層5の立ち上がり仕舞い12には厳密な
防水処理をする必要はない。ただし、被傷を防止するた
めには補強層を設けることが望ましい。なお、この工法
においても接着剤に代えて熱圧着を行うことがある。
【0022】また、露出防水の場合にはアスファルト防
水層を砂付きルーフィングで覆って保護していることが
多いが、砂付きルーフィングに直接根切り防水シートを
張りつけることは困難であり、さらに両者の摩擦によっ
て柔軟な根切り防水シートが被傷することがあるので、
前処理として砂付きルーフィングを取り除いた後に根切
り防水層を形成することが好ましい。
【0023】次にアスファルト防水の上に押さえコンク
リートが打設されている場合でも本発明工法の採用が可
能である。このときには、露出防水で採用した工法と同
様の順序で処理を行うことで足りるのである。
【0024】なお、本実施例では屋上の防水工法を主に
説明したが、これに限ることなくたとえば各居住区のベ
ランダ部分に植物植生を兼ねた防水処理を施す場合でも
本工法を採用することが可能である。この場合には居住
区の景観がよくなるだけでなく、ベランダの照り返しに
よる室内温度の上昇や家具・畳などの日焼けを防止する
こともできる。
【0025】
【発明の効果】本発明工法では上述したような構成とし
たので、コンクリート層に直接根切り防水層を形成して
もこの層が完全な防水効果を発揮するので、従来と変わ
りない防水処理を行うことができるようになる。また、
この層によって植物の成長に伴って根が延びた場合で
も、コンクリート層に根が入り込むことはなく、植物植
生を可能としつつも完全な防水をすることができるとい
う顕著な効果を発揮することが可能となった。さらに、
屋上やベランダに芝生などの植物を植生することによっ
てスラブの焼け込みや照り返しが原因となる居住区の温
度上昇や日焼けを抑制することができるという二重の効
果が発揮され、快適な生活環境を維持することが可能と
なった。
【0026】次に、第2の発明においては既存の防水工
法が施されたところに植物植生を行うようにしており、
既に構築されている構造物であっても容易に植物植生が
可能となると共に、二重防水の効果も生じるので、単に
植物を植生することができるだけでなく、防水処理の改
良を行う必要が生じた構造物には最適の工法を提供する
ことが可能となった。
【0027】さらにまた、根切り防水層の露出面に補強
層を施した場合には物理力によって柔軟な根切り防水層
が損傷することを確実に回避することができ、さらには
紫外線などによる化学的な劣化をも防止することができ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の工法によって施行された屋上部分の一部
を示した簡略断面図、
【図2】図1の工法にさらに補強層を施したところを示
す簡略断面図である。
【符号の説明】
1 コンクリート 4 プライマー処理層 5 防水層 6 保水層 7 養生層
フロントページの続き (72)発明者 久保 正年 神戸市垂水区小束山2丁目3−3 (72)発明者 坪田 亜規良 大津市大萱3丁目17−8−105 (72)発明者 中居 猛 彦根市松原2丁目2−29 (56)参考文献 特開 昭60−62358(JP,A) 実開 昭58−65848(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) E04D 11/00 A01G 9/00

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】コンクリートを打設したスラブ面を乾燥
    し、このスラブ面に、植物の根が貫通しない厚さを有す
    る合成樹脂シートを適宜間隔ごとに接合して根切り防水
    層を形成し、さらにこの根切り防水層の上に保水層およ
    び植物植生用の養生層を積層することを特徴とした植物
    植生を兼用した建造物の防水工法。
  2. 【請求項2】露出防水面または押さえ防水面の表面に、
    植物の根が貫通しない厚さを有する合成樹脂シートを適
    宜間隔ごとに接合して根切り防水層を形成し、さらにこ
    の根切り防水層の上に保水層および植物植生用の養生層
    を積層することを特徴とした植物植生を兼用した建造物
    の防水工法。
  3. 【請求項3】根切り防水層の立ち上がり面に、さらに外
    部から遮蔽する補強層を施した請求項1または請求項2
    記載の植物植生を兼用した建造物の防水工法。
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