JP3068242B2 - ダイヤモンド被覆部材の製造方法 - Google Patents

ダイヤモンド被覆部材の製造方法

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JP3068242B2
JP3068242B2 JP3155050A JP15505091A JP3068242B2 JP 3068242 B2 JP3068242 B2 JP 3068242B2 JP 3155050 A JP3155050 A JP 3155050A JP 15505091 A JP15505091 A JP 15505091A JP 3068242 B2 JP3068242 B2 JP 3068242B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はダイヤモンド被覆部材の
製造方法に関し、さらに詳しく言うと、基材とこれを被
覆するダイヤモンド類膜との密着性に優れ、優れた耐久
性を発揮し、使用寿命が著しく改善されたダイヤモンド
被覆部材を製造する方法に関する。
【0002】本発明の方法によって製造されたダイヤモ
ンド被覆部材は、特に、切削工具、研磨工具等の超硬工
具部材(たとえば、バイト、ダイス、線引きダイス、カ
ッター、エンドミル、タップ、ゲージ、ドリル、掘削機
械、ボンディングツールのヘッド等)、耐摩耗性部材を
はじめ、ダイヤモンド膜の高い硬度や耐摩耗性等の特性
を生かした種々の製品もしくはその部材として好適に利
用することができる。
【0003】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】従来、切
削工具、研磨工具、ダイスなど高い硬度や耐摩耗性の要
求される工具類や耐摩耗部材には超硬合金、サーメッ
ト、セラミックス、焼結ダイヤモンド、単結晶ダイヤモ
ンドなどが用いられている。これらの中で、ダイヤモン
ドは、硬度、耐摩耗性などに著しく優れていることから
特に好まれている。
【0004】こうしたダイヤモンド工具には、従来、超
硬合金や高硬度の金属等からなる基材の表面に燒結ダイ
ヤモンドや単結晶ダイヤモンドをろう付け等により装着
したものが用いられてきた。しかし、この種のダイヤモ
ンド工具の場合、ダイヤモンド自体が高価であり、ま
た、ダイヤモンドの基材への装着など面倒な製造工程が
必要であることなどから、量産性が悪く、工業的ではな
いという問題がある。このほか、ダイヤモンドが欠損し
やすいので耐久性が悪く、さらには、ダイヤモンド面の
面積を大きくすることは事実上の制限があるなどの理由
によって、その応用範囲が狭く限定されるなど種々の欠
点があった。
【0005】このような状況の中で、近年に至って、C
VD法やPVD法などの気相法ダイヤモンド合成技術を
用いて、超硬合金や高硬度の金属やセラミック等からな
る基材の表面にダイヤモンド類膜を析出形成させること
によって、各種のダイヤモンド被覆部材を製造する技術
が注目されてきた。この気相合成法によるダイヤモンド
被覆部材の場合、製造コストの低減および量産化が容易
であり、また、広い面積の基材面をダイヤモンド膜で均
一に被覆することができるので、切削工具、研磨工具等
の超硬工具のみならず各種の耐摩耗性部材、さらにはダ
イヤモンド半導体デバイス等の電子・電気機器分野にお
ける各種の素材などとして広範囲の用途が期待される。
【0006】このような種々の利点を現実のものとする
べく、ダイヤモンド被覆部材について、極めて多様な技
術が提案されてきた。
【0007】ところが、この種のダイヤモンド被覆部材
において、一般に、超硬合金等の基材とダイヤモンド類
薄膜との密着性が悪いという基本的な問題があり、この
ため、特に切削工具、研磨工具等の超硬工具類や耐摩耗
性部材として用いたときにダイヤモンド被膜が剥離した
り、あるいはダイヤモンド被膜の損傷を起こしやすく、
実用に際して十分な性能および耐久性が得られず、使用
寿命が短いという重大な問題が生じている。
【0008】そこで、従来の多くの技術においては、こ
の密着性の向上を図ることを主要な課題とし、たとえ
ば、基材の材質や組成の検討、基材とダイヤモンド類薄
膜との間に適当な中間層を設けるなど種々の工夫が行わ
れてきた。
【0009】それにもかかわらず、これら従来の技術に
よるダイヤモンド被覆部材のうちの多くのものは、密着
性の改善が不十分であり実用レベルに達していない。ま
た、最近、一部のものが工具や耐摩耗部材として市販さ
れるようになったが、これらの市販品においても、基材
とダイヤモンド類薄膜との密着性は、なお十分とは言い
難く、使用寿命が短いと言う問題点がある。
【0010】すなわち、ダイヤモンド被覆部材は、すで
に実用化の段階に入ってはいるものの、さらに長寿命化
を図るためにも、基材とダイヤモンド類薄膜との密着性
をさらに大きく向上させることが要望されているのであ
る。
【0011】このような要望に応えるべく、たとえば、
窒化ケイ素等の窒化ケイ素系セラミックスなどを基材と
して用い、これに気相合成法によりダイヤモンド類薄膜
を形成するに際して、その基材成分と炭素成分とからな
る中間層を形成することによって、基材とダイヤモンド
類薄膜との密着性を高めようとする技術が提案されてい
る(特開昭60−208473号、特開昭61−106
478号、特開昭61−109628号等の各公報な
ど)。
【0012】しかしながら、中間層を用いる技術におい
ては、中間層は基材とダイヤモンド類薄膜の双方に対し
て密着性が高く、しかも、それ自体の強度も十分に高く
なければならないという厳しい要求を満たす必要がある
ので、その最適な材質の選定は極めて難しい。実際、上
記従来の方法で得たところの、中間層を備えたダイヤモ
ンド被覆部材は、実用に際しての耐久性や使用寿命が十
分とは言い難い。つまり、このような中間層を用いる場
合には、この場合に限らず一般的に、ダイヤモンド被覆
部材の機械的強度が密着性の向上を目的として選定され
た比較的弱い中間層の強度によって決まってしまうこと
になり、結局は実用上十分な耐久性や使用寿命が得られ
ないのである。
【0013】一方、基材とダイヤモンド類薄膜の密着性
の悪さがそれらの熱膨張係数の違いにあること、窒化ケ
イ素等のセラミックスがその組成や燒結条件等によって
熱膨張係数が変化しやすいことなどに注目して、熱膨張
係数を制御したセラミックス系の基材にダイヤモンド類
薄膜を形成する技術も提案されている(特開昭61−1
09628号、特開昭61−291493号、特開昭6
2−107067号等の公報など)。しかしながら、こ
の場合、熱膨張係数の制御に重点をおく必要があるた
め、基材の材質や組成が極めて狭い範囲に限定されてし
まい、たとえ密着性を向上させることができたとして
も、基材自体の硬度と破壊靭性等の特性をも十分に満足
させることが困難であるという問題点がある。実際、こ
の従来の方法で得たダイヤモンド被覆部材は、ダイヤモ
ンド工具や耐摩耗性部材としての十分な耐久性や使用寿
命が得られていない。
【0014】さらにまた、基板を酸素雰囲気中で熱処理
することによって、基板表面の性状を変え、これによっ
て基板とダイヤモンド類薄膜との密着性を向上させよう
との提案もある(特開昭61−97194号公報な
ど)。しかしながら、ダイヤモンド被覆部材を工具等に
使用することができる程の、密着性に優れたダイヤモン
ド類薄膜を形成することができないのが実情であり、ま
た酸素雰囲気下に加熱するときには耐酸化性に優れた熱
源等を要し、装置が高価になるという実際上の問題もあ
る。
【0015】本発明は、前記事情を改善するためになさ
れたものである。本発明の目的は、十分に高い硬度およ
び破壊靭性を有するなど諸特性に優れた基材を用いた上
で、その基材とダイヤモンド類薄膜との密着性を十分に
改善し、切削工具等の超硬工具や耐摩耗性部材等として
使用した際にも十分な実用性能および耐久性を発揮して
大幅な長寿命化を達成することができる、実用上著しく
優れたダイヤモンド被覆部材を製造する方法を提供する
ことにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明者は、前記目的を
達成すべく鋭意研究を重ねた結果、窒化ケイ素系セラミ
ックスを基材として使用し、これに特定の圧力範囲にあ
る希ガス雰囲気中で特定の温度域において熱処理を施し
た後に、該熱処理した基材の面上に気相法によりダイヤ
モンド類薄膜を形成することによって、基材とダイヤモ
ンド類薄膜との密着性に著しく優れ、前記目的を十分に
満足する実用上著しく優れたダイヤモンド被覆部材を製
造することに成功した。すなわち、この本発明の方法に
よって得たダイヤモンド被覆部材を切削工具等の各種の
超硬工具や耐摩耗性部材等として使用に供したところ、
優れた実用性能および耐久性を発揮し、使用寿命が大幅
に改善されることを見出した。
【0017】本発明者らは、主としてこれらの知見に基
づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明
は、窒化ケイ素系セラミックス製の基材を、希ガス雰囲
気中で、5〜3,000気圧の加圧下に、1,300〜
2,000℃に加熱処理し、次いでこの熱処理した基材
の表面にダイヤモンド類薄膜を形成することを特徴とす
るダイヤモンド被覆部材の製造方法である。
【0018】本発明の方法においては、窒化ケイ素系セ
ラミックスに対して、上記の特定の温度および希ガス圧
力下の条件で熱処理を施すことによって、該基材の表面
性状を変化させ、これによって基材とダイヤモンド類薄
膜との密着性を大幅に改善させる。この本発明の方法に
おける前記加圧希ガス雰囲気中での熱処理により密着性
を大きく改善することのできる理由は必ずしも明確では
ないが、この発明者らは、以下のように考察している。
【0019】すなわち、窒化ケイ素を含有する窒化ケイ
素系セラミックスからなる基材に、前記特定の加圧希ガ
ス雰囲気中での熱処理を行うと、該基材の面においてS
34 と見られる窒化ケイ素の微結晶粒子が塊状に変
質することが観察される。サイアロンを含有する窒化ケ
イ素系セラミックスからなる基材に、前記特定の加圧希
ガス雰囲気中での熱処理を行うと、該基材の面において
サイアロンと見られる微結晶粒子が塊状に変質すること
が観察される。この熱処理により基材成分から変質した
窒化ケイ素あるいはサイアロンの微結晶粒子は、基材の
面に微視的レベルで十分なラフネス(粗さ)を与えると
ともに、ダイヤモンドと反応してある種の炭化物を生成
し、これによってダイヤモンド類薄膜に対する高いアン
カー効果および化学的な結合が得られ、結果として、基
材とダイヤモンド類薄膜との高い密着性が実現されるも
のと考えられる。
【0020】これに対して、従来のこの種のダイヤモン
ド被覆部材の製造工程においては、たとえ窒化ケイ素系
セラミックス製の基材を使用しても、前記の特定の条件
下での熱処理を行うことなく、たとえば、基材をダイヤ
モンド粒等による研削処理(表面傷付け処理)を行い、
その研削痕を有する基材面にダイヤモンド類薄膜を形成
させるといった方法を用いているので、こうした従来の
方法によっては、基材とダイヤモンド類薄膜との密着性
は不十分である。この理由は、基材の表面性状、特にラ
フネスと基材表面の化学的な親和性を十分に制御してい
ないので、基材のダイヤモンド被覆に対するアンカー効
果が小さいからであると思われる。
【0021】以下、本発明の方法について詳細に説明す
る。本発明において使用する基材を構成する材料である
窒化ケイ素系セラミックスとしては、窒化ケイ素、α−
サイアロンおよびβ−サイアロンよりなる群から選択さ
れる少なくとも一種を主成分として含有するセラミック
スを挙げることができる。この場合、窒化ケイ素、α−
サイアロンまたはβ−サイアロン(以下において、これ
らを窒化ケイ素成分と称することがある。)の含有量
は、通常60〜99容量%である。なお、前記容量%
は、原料の仕込量に基づく仕込み組成によって定義され
る。
【0022】ここで、もし、窒化ケイ素成分の含有割合
が、60容量%未満であると、本発明の目的を達成する
ことができることはできるが、基材自体の靭性が不十分
となったり、また、上記の特定の条件で熱処理を行った
としてもダイヤモンド類薄膜との密着性の改善のための
所望の熱処理効果が十分に発揮できず、本発明の目的を
十分に達成することができないことがある。なお、窒化
ケイ素成分の割合が60容量%未満の基材では、窒化ケ
イ素成分の濃度が低すぎるので、Si34 あるいはサ
イアロンの微結晶粒子の変質が十分に起こらず、ダイヤ
モンド類薄膜の密着性を増進するための基材表面の改質
が不十分になるものと理解することができる。
【0023】一方、窒化ケイ素成分の含有割合が99容
量%を超える基材を用いると、本発明の目的を達成する
ことができることはできるが、窒化ケイ素成分そのもの
の特性が強くなり、他の適当な成分の添加による種々の
好ましい効果(たとえば、硬度の改善効果、熱膨張係数
の制御やセラミックス基材としての燒結のしやすさな
ど)を十分に発揮させることが難しくなる場合がある。
【0024】なお、前記基材における窒化ケイ素成分の
含有割合の好ましい範囲は、一般に、前記窒化ケイ素成
分とともに使用する他の成分の種類や組み合せ、基材に
実際に施す熱処理条件等に応じて異なるので、これは、
実験によって適宜に決定される。
【0025】このように、本発明の方法において使用す
る前記基材を構成する窒化ケイ素系セラミックスは、窒
化ケイ素成分を主成分として含有する。そして、この窒
化ケイ素系セラミックスにおける残余の成分としては、
金属窒化物、金属硼化物、アルミナ、炭化ケイ素、立方
晶窒化ホウ素、ダイヤモンド等を挙げることができる。
【0026】この金属窒化物等の成分は、基材の硬度や
耐熱性、耐酸化性を保持するために好適に作用する成分
であり、具体的には、金属窒化物として、窒化チタン、
窒化タンタル、窒化ハフニウムが、さらに金属硼化物と
して炭化硼素、硼化チタンが挙げられる。
【0027】これら金属窒化物等の成分の中でも、特
に、形式的にTiNで表される窒化チタン等が好ましく
使用される。すなわち、本発明においては、前記基材と
して、前記窒化ケイ素成分と窒化チタンとからなる窒化
ケイ素系セラミックスが好ましく使用され、中でも、窒
化ケイ素(Si34 )と窒化チタン(TiN)もしく
はこれらを主成分とする燒結体が基材として特に好適に
使用される。
【0028】この窒化ケイ素成分−窒化チタン(Ti
N)系基材の場合においても、もちろん、該窒化ケイ素
成分の含有割合が上記の特定の範囲にあることが望まし
い。この場合、TiNの含有割合が40容量%を超える
と(すなわち、この場合窒化ケイ素成分の割合が60容
量%未満となるので前記したようにダイヤモンド類薄膜
の密着性の改善効果が不十分になる場合もあるととも
に)、基材自体の靭性が低くなり(たとえば、靭性を表
すKicが5.5MPacm1/2 未満となる場合もあ
る。)、一方、TiNの含有割合が3容量%未満では、
基材の靭性が不十分となる場合もある(たとえば、靭性
を表すKicが6.0MPacm1/2 未満となる場合もあ
る。)。
【0029】前記基材は、市販品等の既成品を用いても
よいし、独自に調製して用いてもよい。本発明に使用す
る前記基材は、公知の方法等の各種の方法を用いて製造
することができる。たとえば、通常、微粒子状の窒化ケ
イ素成分と微粒子のTiN等の金属窒化物等の成分と適
当な燒結助剤とを十分に混合して、これを、たとえば、
窒素ガス雰囲気中で1,700〜1,900℃の範囲の
温度でガス圧燒結法を用いて燒結して所定の組成の窒化
ケイ素系セラミックスとすることによって好適に得るこ
とができる。
【0030】本発明の方法においては、前記窒化ケイ素
系セラミックスを成形して得た基材にダイヤモンド類薄
膜を被覆形成する前に、該基材を前記特定の条件すなわ
ち5〜3,000気圧の加圧希ガス雰囲気中において、
1,300〜2,000℃の温度で熱処理する。
【0031】その際、熱処理に供する基材は、各種の形
状およびサイズを有していても良い。また、熱処理に供
する基材を、その全面または所定の部分面に対して、予
め、常法に従って適宜に物理的あるいは化学的手段によ
る表面処理を行ってもよい。たとえば、通常行われるよ
うな研削加工によって、基材面に予め適当なラフネスを
与えておく方法などが好適に採用される。
【0032】ここで、前記希ガスとしては、ヘリウム、
ネオン、アルゴン、クリプトン等を挙げることができ
る。
【0033】上記の温度範囲等の高温下での基材の熱処
理を、上記の所定の加圧希ガス雰囲気中で行わずに低い
圧力下で実施すると、基材中の窒化ケイ素成分が分解し
たり、不都合な反応を起こすことがある。また、前記基
材の熱処理を、もし希ガス以外の雰囲気中で、あるいは
希ガス圧が5気圧未満の条件でのみ行った場合、たとえ
その温度が上記の範囲にあったとしても、希ガス圧が低
すぎるので基材とダイヤモンド類薄膜との密着性の向上
は不十分となり、また、場合によっては、窒化ケイ素成
分と他の添加成分が反応して基材に反りが生じることが
ある。前記熱処理における希ガス圧は、一般に、高い方
が好ましいが、3,000気圧を超えて窒素圧を増大し
ても、ダイヤモンド類薄膜との密着性のさらなる向上効
果はほとんど見られず、かえって、余分な圧力の増加に
伴う製造コストの増加の点で不利となる。なお、好まし
い希ガス圧の範囲は、通常、9.5〜2,000気圧で
ある。
【0034】前記基材を1,300℃未満の低い温度域
のみで行った場合には、たとえ希ガス圧が上記の範囲に
あったとしても、窒化ケイ素成分の微結晶粒子の改質の
基材の性状の改善が不十分となり、基材とダイヤモンド
類薄膜との十分な密着性の向上効果が得られず、一方、
2,000℃を超える高い温度で熱処理を行うと、窒化
ケイ素粒子が異常に成長してしまい、窒化ケイ素系セラ
ミックス製の基材としての好ましい特性が損なわれた
り、基材の変形が生じるなどの支障が生じやすいし、ま
た、エネルギーコストが大きくなる。
【0035】前記熱処理は、保持時間をおかなくてもよ
いし、4時間以内の保持時間をおいてもよいが、好まし
い保持時間は1〜2時間程度とするのがよい。以上のよ
うに、前記基材に前記特定の条件での熱処理を施すこと
によって、基材面に前記したように窒化ケイ素成分の微
結晶粒子を改質させることができる。その際、改質した
窒化ケイ素成分の微結晶粒子は、通常、塊状結晶であ
り、そのサイズは、通常、平均有効直径が0.5〜5μ
m程度であり、平均長さが1〜10μm程度である。こ
のような窒化ケイ素成分を塊状粒子に成長させることに
より、基材の表面粗さを微視的レベルで均一に大きく増
加させることができる。一例を挙げれば、基材のRmax
(表面粗さの尺度)を該熱処理によって、たとえば、
0.8μmから2.0μmへと大きく増加させることが
できる。なお、この熱処理による基材の変性効果とし
て、上記以外の他の好ましい効果も考えられるが、いず
れにしても該熱処理を施した基材は、この熱処理を施し
ていない従来型の基材と比較的して、ダイヤモンド類薄
膜との密着性を著しく向上させることができる優れた性
状を有している。
【0036】本発明の方法においては、前記熱処理を施
した基材の所望の面上にダイヤモンド類薄膜を形成させ
る。このダイヤモンド類薄膜の形成は、CVD法やPV
D法、あるいはこれらを組み合せた方法等による気相法
によるダイヤモンド類薄膜の合成手法によって好適に行
うことができる。
【0037】本発明の方法において、前記熱処理を施し
た基材の面上に形成せしめるダイヤモンド類薄膜の厚み
は、ダイヤモンド被覆部材の使用目的等によって異なる
ので一律に定めることができないが、通常、2μm以
上、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、2
0〜100μmにするのが適当である。このダイヤモン
ド類薄膜があまり薄いと、ダイヤモンドの硬度が十分に
発揮されないことがあり、一方、この厚みがあまり大き
いと、ダイヤモンド類薄膜が、内部に蓄積される応力な
どの歪により剥離することがある。
【0038】なお、本発明においては、単にダイヤモン
ド類と言うとき、それはダイヤモンドの他に、ダイヤモ
ンド状炭素を一部において含有するダイヤモンドおよび
ダイヤモンド状炭素を含むものである。気相合成法によ
るダイヤモンド類薄膜の形成方法としては、従来から各
種の方法が知られている。
【0039】本発明の方法においては、これらの公知の
方法など各種の気相合成法によるダイヤモンド類薄膜の
形成方法が適用可能であるが、通常は、以下に示す方法
が好適に使用することができる。すなわち、次に示す方
法によって、前記熱処理を施した基材上に所望のダイヤ
モンド類薄膜を好適に形成することができる。
【0040】前記ダイヤモンド類薄膜を形成する際に用
いる炭素源ガスとしては、通常用いられている各種のも
のを使用することができる。
【0041】この炭素源ガスとしては、たとえば、メタ
ン、エタン、プロパン、ブタン等のパラフィン系炭化水
素;エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン系
炭化水素;アセチレン、アリレン等のアセチレン系炭化
水素;ブタジエン、アレン等のジオレフィン系炭化水
素;シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、
シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;シクロブタジエ
ン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳
香族炭化水素;アセトン、ジエチルケトン、ベンゾフェ
ノン等のケトン類;メタノール、エタノール等のアルコ
−ル類;このほかの含酸素炭化水素;トリメチルアミ
ン、トリエチルアミン等のアミン類;このほかの含窒素
炭化水素;炭酸ガス、一酸化炭素、過酸化炭素;さら
に、単体ではないが、ガソリン等の消防法危険物第4
類、第1類、ケロシン、テレピン油、しょうのう油等の
第2石油類、重油等の第3石油類、ギヤー油、シリンダ
ー油等の第4石油類も使用することができる。また前記
各種の炭素化合物を混合して使用することもできる。こ
れらの中でも、好ましいのはメタン、エタン、プロパン
等のパラフィン系炭化水素、エタノール、メタノール等
のアルコール類、アセトン、ベンゾフェノン等のケトン
類、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアミン
類、炭酸ガス、一酸化炭素であり、特に一酸化炭素が好
ましい。
【0042】なお、これらは一種単独で用いてもよく、
二種以上を混合ガス等として併用してもよい。また、こ
れらは水素等の活性ガスやヘリウム、アルゴン、ネオ
ン、キセノン、窒素等の不活性ガスと混合して用いても
よい。原料ガスがメタンガス(CH4 )を含有する場
合、メタンガスの含有量は5モル%未満であるのが好ま
しい。
【0043】また、好適な炭素源ガスとして一酸化炭素
を使用する場合、一酸化炭素と水素ガスとを組合わせる
のが好ましい。一酸化炭素と水素ガスとを組合わせた原
料ガスによると、ダイヤモンド類薄膜の成長速度が速い
(たとえば、同一条件では、メタンと水素ガスとを組合
わせた原料ガスの場合の2〜10倍のダイヤモンド薄膜
の成長速度が得られることがある。)。
【0044】前記一酸化炭素としては特に制限がなく、
たとえば石炭、コークス等と空気または水蒸気を熱時反
応させて得られる発生炉ガスや水性ガスを十分に精製し
たものを用いることができる。前記水素ガスとしては、
特に制限がなく、たとえば石油類のガス化、天然ガス、
水性ガス等の変成、水の電解、鉄と水蒸気との反応、石
炭の完全ガス化等により得られるものを十分に精製した
ものを用いることができる。
【0045】水素ガスと一酸化炭素との混合ガスを原料
ガスとして使用する場合、一酸化炭素ガスの含有量が、
通常1〜80モル%、好ましくは5〜60モル%、さら
に好ましくは10〜60モル%となる割合で原料ガスを
調製する。前記混合ガス中の一酸化炭素ガスの含有量が
1モル%よりも少ないと、ダイヤモンド類薄膜の成長速
度が十分に得られないことがあり、一方、一酸化炭素ガ
スの含有量が80モル%を越えると堆積するダイヤモン
ド類薄膜中のダイヤモンド成分の純度が低下することが
ある。
【0046】前記炭素源ガスもしくはこれを含有する原
料ガスは、活性化(励起)状態で、前記燒結体の所定の
表面に、通常、適当なキャリアーガスとともに流通させ
るなどして接触・反応せしめ、所望の性状のダイヤモン
ド類薄膜を形成させる。このキャリアーガスとしては、
通常、前記例示の不活性ガス、必要に応じて水素等の反
応性ガスあるいはこれらの混合ガスを使用することがで
きる。また、このキャリアーガスには、所望により、水
蒸気、酸素等の添加ガスを含有させることもできる。
【0047】本発明の方法において、前記ダイヤモンド
類薄膜の形成には、公知の方法、たとえば、CVD法、
PVD法、PCVD法、あるいはこれらを組み合わせた
方法など、各種のダイヤモンド類薄膜気相合成法を利用
することができる。これらの中でも、通常、EACVD
方式を含めた各種の熱フィラメント法、熱プラズマ法を
含めた各種の直流プラズマCVD法、熱プラズマ法を含
めた各種の高周波プラズマCVD法、ECR法を含めた
マイクロ波プラズマCVD法などが好適に使用すること
ができる。
【0048】ダイヤモンド類薄膜の形成のための反応条
件としては、特に制限はなく、前記のそれぞれの気相合
成法に通常用いられる反応条件を適用することができ
る。
【0049】たとえば、反応圧力は、通常、10-6〜1
3 Torr、好ましくは、10-1〜102 Torrの
範囲内にするのが適当である。この反応圧力が10-6
orrよりも低いと、ダイヤモンド類薄膜の形成速度が
遅くなることがある。一方、103 Torrより高くし
てもそれに相当する効果は奏されない。
【0050】反応温度(前記燒結体の表面温度)は、前
記原料ガスの活性化手段等により異なるので、一概に規
定することはできないが、通常、300〜1,200
℃、好ましくは、500〜1,100℃の範囲内にする
のが適当である。この温度が300℃よりも低いと、結
晶性のダイヤモンド類薄膜の形成が不充分となることが
あり、一方、1,200℃を超えると、形成されたダイ
ヤモンド類薄膜のエッチングが生じ易くなるほか、グラ
ファイト等の非ダイヤモンド成分の割合が増加する。反
応時間はダイヤモンド類薄膜が所望の厚みとなるように
ダイヤモンド類薄膜の形成速度に応じて適宜に設定する
のが好ましい。
【0051】以上のようにして本発明のダイヤモンド類
被覆部材を製造することができる。本発明の方法によっ
て製造されたダイヤモンド類被覆部材は、前記熱処理を
施していない窒化ケイ素系セラミックス等の従来の各種
の基材上にダイヤモンド類薄膜を形成して得られる従来
のダイヤモンド類被覆部材と比べて、特にダイヤモンド
類薄膜と基材である窒化ケイ素系セラミックスとの密着
性が著しく優れており、また、基材自体も強度、硬度、
靭性等の特性に優れており、たとえば、切削工具等の超
硬工具や耐摩耗性部材など高い硬度や耐摩耗性を要求さ
れる各種の工具類や耐摩耗性部材として実用に供した際
に、高い性能と優れた耐久性を発揮し、厳しい条件で使
用された際にも、その使用寿命を大幅に向上させること
ができる。
【0052】
【実施例】以下に、本発明を実施例及び比較例によっ
て、より具体的に説明する、本発明はこれらに限定され
るものではない。なお、以下において、表面粗さの尺度
となるRmax の値は、触針式表面粗さ計によって測定し
たものである。 (実施例1〜4、比較例1〜7)窒化ケイ素(Si3
4 )92容量%、窒化チタン(TiN)3容量%および
燒結助剤(Y23 )5容量%からなる混合原料を燒結
して得た窒化ケイ素系セラミックス製素材を研削加工し
て、SPGN−120308スローアウェーチップ形状
に加工したものを基材として用い、表1に示す種類のガ
ス雰囲気中で、表1に示すガス圧の下に、表1に示す加
熱温度で1時間かけて基板に加熱処理をした。なお、基
材の表面粗さ(Rmax )は、この熱処理によって0.8
μmから2.0μmに大きく増加した。また、電子顕微
鏡写真から、この熱処理後の基材の表面に窒化ケイ素
(Si34 )の塊状粒子の形成が認められた。
【0053】次に、この熱処理を施した基材を支持台上
に載置して、ダイヤモンド合成反応器に装入し、該基材
の面上にダイヤモンド類薄膜を形成すべく、原料ガスと
して一酸化炭素15容量%と水素ガス85容量%からな
る混合ガスを導入しつつ、40Torrの圧力、1,0
00℃の基材温度の条件下で、マイクロ波CVD法によ
って、5時間かけてダイヤモンド合成反応を行い、所望
のダイヤモンド被覆部材を製造した。
【0054】こうして得られたダイヤモンド被覆部材中
のダイヤモンド類薄膜の膜厚は12μmであった。次
に、このダイヤモンド被覆部材について、下記の条件で
切削試験を行った。 被切削材:Si(12容量%)、Al(87容量%)お
よびCu(1容量%)からなる合金 切削速度:800m/min 送り :0.1mm/rev. 切り込み:0.25mm この切削試験の結果を表1に示した。
【0055】表1に示す結果から、希ガス雰囲気下に、
特定の圧力および特定の加圧温度下に加熱処理をした基
材については、ダイヤモンド薄膜が密着性良く形成され
ることが例証された。
【0056】
【表1】
【0057】
【発明の効果】本発明の方法では、窒化ケイ素系セラミ
ックス製の基材を用い、これに特定の範囲にある温度お
よびガス圧において加圧希ガス雰囲気中で熱処理を施し
てから、該熱処理を施した基材にダイヤモンド類薄膜を
被覆形成するという特定の方法によってダイヤモンド被
覆部材を製造するので、基材とダイヤモンド類薄膜(被
膜)との密着性に著しく優れ、かつ、基材自体の機械的
強度、硬度、耐破壊靭性等にも優れており、切削工具等
の超硬工具や耐摩耗性部材等として使用した際にも十分
な実用性能および耐久性を発揮して大幅な長寿命化を達
成することができる実用上著しく優れたダイヤモンド被
覆部材を製造することができる。
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 16/27 B23B 27/14 B23P 15/28 C23C 14/06 C30B 29/04

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 窒化ケイ素系セラミックス製の基材を、
    希ガス雰囲気中で、5〜3,000気圧の加圧下に、
    1,300〜2,000℃に加熱処理し、次いでこの熱
    処理した基材の表面にダイヤモンド類薄膜を形成するこ
    とを特徴とするダイヤモンド被覆部材の製造方法。
  2. 【請求項2】 前記窒化ケイ素系セラミックスが、窒化
    ケイ素、α−サイアロンおよびβ−サイアロンよりなる
    群から選択される少なくとも一種を主成分として含有し
    てなる前記請求項1に記載のダイヤモンド被覆部材の製
    造方法。
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