JP2944904B2 - 高温鋼材搬送用ロール - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、ステンレス鋼板等、高
い温度での処理が必要とされる高温鋼材の熱処理炉内に
設置される搬送用ロールに関し、耐ビルドアップ性を維
持しつつ、断熱性の改善を図り、長期間にわたる安定操
業を実現しようとするものである。

【０００２】

【従来の技術】熱処理ラインにおいて高温のステンレス
鋼板等を搬送する熱処理炉用ハースロール（以下、搬送
用ロールと記す）は、搬送すべき材料（以下、搬送材と
記す）の表面品質に悪影響を与えないものであることが
求められていることから、通常はロール表面に耐熱性材
料を被覆したものが使用されていた。

【０００３】ところで、搬送材の処理雰囲気が1200℃を
超えるような熱処理炉内の加熱帯後半部や均熱帯に設置
される搬送用ロールにおいては、搬送材が軟化している
ためにロール表面のわずかな変化でもその影響を受けや
すく、材料品質が劣化する傾向にあった。

【０００４】また、搬送用ロールそれ自体に着目した場
合、かかるロールは高温の雰囲気下で使用されるもので
あるから、ロールの本体（基体）部分は内部水冷式にな
っているのが普通である。従って、搬送材の通板面とな
るロール表面には搬送材の温度低下を防止するため断熱
材等を被覆する必要があるが、このような目的の下に使
用される断熱被覆材料は、搬送材に傷をつけない物質で
あることが必須であって、従来は、アスベスト、シリカ
・アルミナ繊維等が使用されていた。この点に関する先
行文献としては、ドーナツ状円板に打ち抜き加工した耐
熱シート材を鉄芯に挿入して圧縮成形したローラーハー
ス型加熱炉用搬送ロールが開示されている特開平1-2907
12号公報、特開平1-301818号公報等がある。

【０００５】しかしながら、上記のような既知被覆ロー
ルは以下に述べるような種々の問題を抱えていた。すな
わち、円板状の耐熱断熱シートを使う方法にあっては、
かかるシートをロールに嵌挿する作業に多大な労力と時
間が必要であって、しかも、実際の熱処理炉で使用した
結果によれば、被覆構成部であるアスベスト層や無機質
繊維層の劣化や硬化が激しく、シートが短時間のうちに
ロールから脱落して使用不能になり、操業を停止せざる
を得ない事態に陥ることがあった。また、この種のロー
ルにおいては、搬送材の表面に発生するスケールがロー
ル表面に付着し、その付着スケールによって後続の搬送
材にを傷つける、いわゆるビルドアップの発生も依然と
して残されたままになっていた。

【０００６】なお、ビルドアップの軽減に関しては、無
機質繊維を主材とするシート材を積層していく従来構造
のものに代え、被削性のよいサーメットを溶射被覆す
る、特開平4-99813 号公報に開示された技術が知られて
いるが、ここに開示されているロールは、溶射被覆層の
断熱性不足から内部水冷しているにもかかわらず芯金が
変形して回転不良を起こし搬送材にすり傷を発生させる
問題があるとともに搬送材の温度低下 (搬送材は1200℃
程度になる) が避けられない不利があった。ここに、ア
スベストは熱伝導率[cal/cm ・s ・℃] が0.00037 と小
さいため、芯金の表面温度を５０℃以下とすることがで
きるが、溶射被覆層は熱伝導率が0.3 [cal/cm ・s ・
℃] と大きいため、芯金の表面温度は1000℃近くまで上
昇し、その結果、上記のような問題が発生していたので
ある。

【０００７】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記問題点
を解決することができるロールの表面構造を提案するこ
とにあり、とくに断熱性, 被削性および耐熱性に優れた
高温鋼材搬送用ロールを提案することにある。

【０００８】

【課題を解決するための手段】上掲の目的を実現するの
に開発した本発明は、ロールの外周に溶射被覆層を有す
る高温鋼材搬送用ロールにおいて、ロール基材の外周に
粗化面を設けると共に、この粗化面上に耐熱合金溶射層
の下地層を設け、この下地層の上に、サーメット粉末と
樹脂粉末とからなる混合溶射被覆層を備える、ことを特
徴とする高温鋼材搬送用ロールである。本発明におい
て、サーメットと樹脂との混合粉末における樹脂粉末の
含有率は15〜30％とするのが好ましい。また、サーメッ
ト粉末は、ＢＮを４〜10wt％含み、かつ残部としてNi,
Co, Cr, FeおよびAlのいずれか少なくとも１種以上の金
属またはそれらの合金との混合物に係る, 被削性に優れ
たものを用いることが好ましい。

【０００９】

【作用】以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
図１は本発明に従う高温鋼材搬送用ロールの構成を示し
たものであり、１は芯部に冷却水の流通経路１ａを有す
るロール本体を構成する基体、２は基体１の粗化面に形
成した耐熱性・断熱性の溶射皮膜層である。この溶射被
覆層２は基体１の外周面に対して直接形成されるCo−Ni
−Cr−Al−Y 系の耐熱合金溶射層２ａとこの耐熱合金溶
射層２ａの上に形成されるサーメット粉末と樹脂粉末を
混合して溶射した被削性に富みかつ断熱性も良好な溶射
被覆層２ｂ (ポーラス化した被覆層となる) からなる。

【００１０】本発明は、図１に示すように、ロール本体
を構成する基体１の表面（粗化面）に、まず下地層とし
て熱衝撃に強くて熱膨張や収縮に対してもよく追従でき
る特性を示すCo−Ni−Cr−Al−Y 系の耐熱合金溶射被覆
層２ａを形成する一方、この溶射被覆２ａの上に被削性
を示すかつ断熱性に優れた特性を示すサーメット・樹脂
混合溶射被覆層２ｂを積層した２層の溶射被覆構造を採
用したものであって、このような溶射被覆構造にするこ
とによって、ロールは耐熱性、被削性および耐ビルドア
ップ性が改善されるだけでなく、断熱性に優れたものと
なる。

【００１１】サーメットと樹脂粉末との混合物溶射にか
かる混合溶射被覆層２ｂについては、樹脂粉末の含有率
を15〜30wt％の範囲に限定したが、その理由は次のとお
りである。すなわち、樹脂粉末を15wt％以上含有させる
ことによって、ある程度の耐摩耗性 (被削性) を確保し
つつ、十分な断熱性を有する溶射層を得ることができ、
これによってロールの芯金の変形を防止することができ
るからである。一方、この樹脂粉末の含有率は30％を超
えてもそれ以上の効果は期待できない。というのは、樹
脂粉末の含有率を高めても被覆層の熱伝導率は本来気孔
となるべき箇所に樹脂 (樹脂としてはナイロン、ポリエ
ステル、ポリプロピレン等が適用される) が残留してし
まうためほとんど変化がなく、一方、摩耗比は被覆層間
の結合力の低下により急激に増大し、とくに、樹脂粉末
の含有率が40％を超えると剥離が発生するからであり、
よって最も好ましい樹脂粉末の含有率は15〜30％と言え
る。

【００１２】ところで、図２は、サーメット100 ％の溶
射被覆層を備えたロールをベースとした場合における樹
脂粉末の影響をロールの熱伝導率、摩耗比について調査
した結果を示すものである。この図に明らかなとおり、
樹脂粉末の含有量が15〜30wt％のとき、即ち、サーメッ
ト粉末の含有量が70〜85wt％のときに、熱伝導率も摩耗
被も低い値となることがわかる。

【００１３】次に、上記耐熱合金溶射層２ａの材料とし
ては、例示したCo−Ni−Cr−Al−Y合金に限らず、例え
ば、その他にNi−Cr−Al−Y 合金やCo−Cr−Al−Y 合金
なども有効であり、これらのいずれもが本発明によく適
合する。

【００１４】また、被削性に優れた溶射皮膜を被成する
ために、溶射材料としてのサーメット粉末は、ＢＮを４
〜10wt％含み、残部がNi、Co、Cr、FeおよびAlのいずれ
か少なくとも１種以上の金属または合金からなる各種耐
熱合金との混合物よりなるものを用いることが好適であ
る。

【００１５】なお、サーメット粉末と樹脂粉末の混合溶
射被覆層を形成する方法としては、ガス燃焼方法による
溶射被覆法を適用することが好ましい。

【００１６】基体１の表面に耐熱合金溶射被覆層２ａを
形成するに当たっては、溶射皮膜の投描効果による層の
密着力を高めるために、基体１の表面に予めブラスト処
理などを施して粗化面( Ｒad：２〜４μｍ程度) として
おくのが望ましい。また、溶射被覆層の表面粗度につい
てはＲa ：10μｍ以下となるように研磨するのが望まし
い。溶射被覆層の厚さは、下地層については 200μm 程
度、サーメット粉末と樹脂粉末との混合になる混合粉末
の溶射被覆層については 1.0mm程度とするのが好まし
い。

【００１７】

【実施例】生産能力が30000 トン／月になるステンレス
鋼板熱処理炉に、図１に示したような搬送用ロールを配
置して、そのロールの使用状況について調査した。その
結果を表１に示す。

【表１】

【００１８】被覆材料として、アスベスト、シリカ・ア
ルミナ繊維を使用した従来のロールでは、ともに生産量
が6000トンになると、該被覆材料が脱落したりビルドア
ップが発生するようになり、ステンレス鋼板の品質劣化
( きずの発生) が懸念され、ロール取り替えを余儀なく
された。一方、サーメット粉末100 ％の溶射被覆ロール
を使用した場合においては、生産量が12000 トンになる
と芯金の曲がりによる回転不良が発生し、ステンレス鋼
板の品質劣化( すり傷の発生) が懸念され、ロール取り
替えを余儀なくされた。

【００１９】これに対して、サーメット粉末に樹脂粉末
を16％添加した溶射被覆層を有するロールにおいては、
最終的には芯金の変形により回転不良が発生したもの
の、生産量が約2.2 倍になるまで使用することができ、
さらに、樹脂粉末の含有率を20％したものにおいては芯
金の曲がりは発生せず生産量が42000 トンになるまで使
用( 摩耗限界) することができた。さらに、樹脂粉末の
含有率を本発明で規定する値よりも高い溶射被覆層を有
するロールについても調査してみたが、溶射被覆層の摩
耗が却って速くなり、とくに28％の混合比率では生産量
が 15000トンの段階で被覆層の剥離が発生しロール取り
替えを余儀なくされた。

【００２０】以上のようにサーメット粉末に樹脂粉末を
15〜30％の範囲で混合することにより、従来のロールよ
りも大幅な寿命延長を図ることが可能である確認でき
た。

【００２１】

【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
温度の比較的高い条件下であっても十分な断熱性が得ら
れるので、ロールの芯金の曲がりによる回転不良を避け
ることができるようになった。また、被削性を有するの
でビルドアップも発生せず、ロール寿命延長ができるよ
うになった。さらに、ロールの長寿命化により定期修理
の延長を図ることができ設備の稼働率の向上を図ること
もできる。

【図面の簡単な説明】

【図１】図１は、発明に従う搬送用ロールの構成説明図
である。

【図２】図２は、サーメット樹脂の混合粉末混合量と熱
伝導率との関係を示す図である。

【符号の説明】

１ 基体 ２ 溶射被覆層 2a 耐熱合金溶射層 2b 溶射被覆層

Claims (3)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 ロールの外周に溶射被覆層を有する高温
   鋼材搬送用ロールにおいて、 ロール基材の外周に粗化面を設けると共に、この粗化面
   上に耐熱合金溶射層の下地層を設け、この下地層の上
   に、サーメット粉末と樹脂粉末とからなる混合溶射被覆
   層を備える、ことを特徴とする高温鋼材搬送用ロール。
2. 【請求項２】 サーメットと樹脂との混合粉末における
   樹脂粉末の含有率を15〜30wt％としたことを特徴とする
   請求項１記載のロール。
3. 【請求項３】 サーメット粉末は、ＢＮを４〜10wt％含
   み、かつ残部としてNi, Co, Cr, FeおよびAlのいずれか
   少なくとも１種以上の金属またはそれらの合金との混合
   物に係る, 被削性に優れたものであることを特徴とする
   請求項１または２に記載のロール。