JP2896259B2 - フェニルアラニンの単離方法 - Google Patents

フェニルアラニンの単離方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、フェニルアラニンの単
離方法に関する。より詳細には、硫酸アンモニウムを含
有する水溶液からフェニルアラニンを純度良く効率良く
回収する方法に関するものである。
【0002】フェニルアラニンは、砂糖に類似した甘味
を有する甘味料として知られているアスパルテーム(α
−L−アスパルチル−フェニルアラニンメチルエステ
ル、以下、α−APMと略する)の原料として有用であ
る。
【0003】
【従来の技術】フェニルアラニンの単離方法として多数
の方法が知られている。例えば、特開昭55−5914
6号公報には、フェニルアラニンを醗酵液からキシレン
スルホン酸の塩として単離することが開示されている。
しかし、この方法では、沈澱剤として、キシレンスルホ
ン酸を必要とし、また、フェニルアラニンを遊離するた
めに、得られたキシレンスルホン酸塩をもう一度分解す
る必要があるなどいくつかの欠点を有する。また、他の
単離方法が特開昭57−130958号公報に開示され
ている。この方法では、α−APMの製造過程から生じ
る母液を濃縮、加水分解し、L−フェニルアラニンを塩
酸塩の形で単離している。しかし、この方法では、得ら
れたL−フェニルアラニン塩酸塩をフリーの形で再使用
する場合、もう一度中和する必要があり、一工程増加し
工業上望ましい方法ではない。又、塩酸を使用している
ため、濃縮、加水分解時に塩化水素が発生し、コンデン
サー、配管等に耐酸性高級材質を使用しなければならな
かった。
【0004】そのため、使用する鉱酸としては、工業上
安価で容易に入手でき、酸性ガスの発生しない硫酸が望
ましい。しかし、硫酸を使用した場合、L−フェニルア
ラニン硫酸塩は塩酸塩に比べ溶解度が高く、特公平1−
19377号公報の方法のように、硫酸で単離する場
合、回収率が低下する欠点を有している。
【0005】そのため、フェニルアラニンをフリーのア
ミノ酸の形で回収する必要がある。その場合、硫酸を中
和し、まず、pH4〜7にしてフェニルアラニンを析出
させ分離する。しかし、硫酸を中和するために水酸化ナ
トリウムを使用すると、生成した硫酸ナトリウムが、十
水和塩として析出しやすく、操作しにくいスラリー液を
形成する。また、ここから単離したフェニルアラニンに
は硫酸ナトリウムが混入し、純度が低いという欠点があ
った。さらに、工業的規模になった場合に配管等の詰ま
り(芒硝問題)などの問題点が多い。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記先行技
術の欠点を克服し、水溶液中のフェニルアラニンを収率
良く、さらに純度良く、単離することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の課題
を解決するために鋭意検討した結果、水溶液からフェニ
ルアラニンを回収する際、20重量%以上40重量%以
下の硫酸アンモニウムを含むようにし、かつ、析出した
フェニルアラニンの結晶を30℃以下の温度で濾過する
ことにより、効率良くフェニルアラニンを単離できるこ
とを見出し、本発明を完成した。すなわち、濾過温度を
30℃以下にしても硫酸アンモニウムの場合は、硫酸ナ
トリウムのように析出もなく、又、高濃度の硫酸アンモ
ニウムにより、フェニルアラニンの溶解度を著しく下げ
て効率良くフェニルアラニンを単離できるものである。
【0008】本発明において、フェニルアラニンの晶析
時のpHは、4〜8に調整すれば良く、特に、フェニル
アラニンの等電点が好ましい。しかし、等電点に調整し
ても、水単独系では第1図に示すように、フェニルアラ
ニンは水に対して0℃でも2%の溶解度を持ち、通常の
水溶液からの単離では溶解ロスが大きく、高い回収率は
期待できない。これに対して本発明の方法のように、硫
酸アンモニウムを含む水溶液中では、第2図に示すよう
に水溶液中の硫酸アンモニウムの濃度が高くなるほど、
フェニルアラニンの溶解度が小さくなり、フェニルアラ
ニンの回収率が高くなる。また、硫酸ナトリウムの場合
には、30℃以上では、水に対して25重量%溶解する
が、それ以下の温度では、急激に溶解度が小さくなり、
硫酸ナトリウム十水和物の結晶が析出してしまう。その
ため、フェニルアラニンの濾過、遠心分離等の操作を硫
酸ナトリウム・十水和物が析出しない温度で行う必要が
あり、工程の温度管理が大変難しい。このような管理を
行わないと、配管中等で、硫酸ナトリウム十水和の結晶
が急激に析出してつまってしまう。また、単離したフェ
ニルアラニンも多量の硫酸ナトリウムを含み、純度の低
いものとなる。
【0009】本発明における水溶液中の硫酸アンモニウ
ムは、硫酸とアンモニア水から系内で生成させても良
く、硫酸アンモニウムの形で加えてもかまわない。その
濃度は20重量%以上40重量%が好ましい。これより
低いとフェニルアラニンの溶解度が十分低くならず硫酸
アンモニウムの効果が小さい。一方、これより高くして
もフェニルアラニンの溶解度は下がらず、単離したフェ
ニルアラニンへの硫酸アンモニウムの混入が急増する。
【0010】固液分離操作でフェニルアラニンを単離す
る温度は、30℃以下が好ましい。30℃以上では、フ
ェニルアラニンの溶解度のみ増加して、回収率を低下さ
せるのみである。
【0011】本発明におけるフェニルアラニン濃度は、
0.7〜20重量%であることが好ましい。フェニルア
ラニン濃度が高い方が、収率が高くなる。特に好ましく
は3%以上である。また、20%以上では、析出したス
ラリー濃度が高く、攪拌操作が困難になり好ましくな
い。
【0012】本発明の方法で使用されるフェニルアラニ
ンの水溶液の製造法はとくに限定されるものではない
が、例えば、N−ベンジルオキシカルボニル−α−L−
アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステルお
よび/またはN−ベンジルオキシカルボニル−β−L−
アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステルを
溶媒中で接触還元し、α−APMを単離した後に、α−
APMの異性体であるβ−APMを含んだ反応液を硫酸
水溶液中で濃縮、加水分解し、加水分解後硫酸をアンモ
ニア水で中和すれば、本発明に使用される硫酸アンモニ
ウムを含んだフェニルアラニン水溶液が得られる。この
水溶液は、アスパラギン酸を含んでいるが、アスパラギ
ン酸の量が、フェニルアラニンの2倍モル以下ならば高
濃度の硫酸アンモニウムの溶液に溶解し、フェニルアラ
ニンに混入することはなく、純度の良いフェニルアラニ
ンが得られる。
【0013】また、回収するフェニルアラニンは、L
体、D体の光学活性体に限る必要はなく、DL体であっ
ても、フェニルアラニンの回収率が低下するということ
はない。
【0014】その他の夾雑物として、硫酸ナトリウム、
酢酸アンモニウム、塩化ナトリウム等を含んでいても良
い。
【0015】
【実施例】以下、実施例により本発明の方法を詳しく説
明する。
【0016】実施例1 L−フェニルアラニン3.7gを含んだ水溶液100g
に硫酸アンモニウム30gを添加し、10%アンモニア
水溶液を微量添加し、pH5.5に調節し、析出してい
るL−フェニルアラニンを5℃で濾過し、少量の水で洗
浄し、乾燥した。収量3.03g(収率81.1%/対
L−フェニルアラニン)。得られた結晶を高速液体クロ
マトグラフィーで分析した結果、フェニルアラニン純度
は99.0%であった。
【0017】実施例2 DL−フェニルアラニン3.7gを含んだ水溶液100
gに硫酸アンモニウム30gを添加し、10%アンモニ
ア水溶液を微量添加し、pH5.5に調節し、析出して
いるDL−フェニルアラニンを5℃で濾過し、少量の水
で洗浄し、乾燥した。収量3.25g(収率86.5%
/対L−フェニルアラニン)。得られた結晶を高速液体
クロマトグラフィーで分析した結果、フェニルアラニン
純度は98.5%であった。
【0018】実施例3 L−フェニルアラニン3.7g、L−アスパラギン酸
4.5gを含んだ水溶液100gに硫酸アンモニウム3
0gを添加し、10%アンモニア水溶液を微量添加し、
pH5.5に調節し、析出しているL−フェニルアラニ
ンを5℃で濾過し、少量の水で洗浄し、乾燥した。収量
3.25g(収率86.5%/対L−フェニルアラニ
ン)。得られた結晶を高速液体クロマトグラフィーで分
析した結果、フェニルアラニン純度は99.0%であっ
た。また、アスパラギン酸の混入率は、結晶中のフェニ
ルアラニンに対して0.1モル%以下であった。
【0019】実施例4 L−フェニルアラニン75.0g、硫酸256gを含ん
だ水溶液1000gに、28%アンモニア水溶液31
7.2gを添加してpH5.5に調節し、析出してくる
フェェニルアラニンを5℃で濾過し、少量の水で洗浄
し、乾燥した。収量66.6g(収率87.0%/対L
−フェニルアラニン)。得られた結晶を高速液体クロマ
トグラフィーで分析した結果、フェニルアラニン純度は
98.0%であった。
【0020】実施例5 アスパルテームの製造工程で生じるα−APMおよびβ
−APM33.0gを含んだ水溶液1650gに、硫酸
64.0gを添加し、100〜105℃で6倍まで濃
縮、加水分解を行った。濃縮加水分解物に28%アンモ
ニア水79.3gを添加して、pH5.5に調節し、析
出してくるL−フェニルアラニンを5℃まで冷却し濾過
し、少量の水で洗浄し、乾燥した。収量16.5g(収
率87.0%対α−APM,β−APM )得られた結
晶を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、フェ
ニルアラニン純度は97.9%であった。また、アスパ
ラギン酸の混入率は、結晶中のフェニルアラニンに対し
て0.1モル%以下であった。
【0021】
【発明の効果】本発明の方法によれば、水溶液からフェ
ニルアラニンを効率良く単離でき、工業的単離法として
有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1図は、L−フェニルアラニンの水及び硫酸
アンモニウム水溶液に対する溶解度を、温度の関数とし
て示したものである。第1図の縦軸は、L−フェニルア
ラニンの溶解度(単位;溶液に溶解しているL−フェニ
ルアラニンのg数))を表す。又、第1図の横軸は、溶
解温度(単位;℃)を表す。硫酸アンモニウムの濃度2
0、30、40重量%について測定したものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平5−178801(JP,A) 特開 平8−92182(JP,A) ”日本結晶成長学会誌”,第23巻,第 3号,p.920,1996年 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C07C 229/36 C07C 227/38 CA(STN) CAOLD(STN) REGISTRY(STN)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 フェニルアラニンを含有する水溶液から
    フェニルアラニンを単離するにあたり、該水溶液に20
    重量%以上40重量%以下の硫酸アンモニウムが存在す
    るように調整したのち、析出したフェニルアラニンの結
    晶を30℃以下の温度で濾過することを特徴とするフェ
    ニルアラニンの単離方法。
  2. 【請求項2】 水溶液中のフェニルアラニンの濃度が
    0.7重量%以上20重量%以下であることを特徴とす
    る特許請求の範囲第1項記載の方法。
  3. 【請求項3】 硫酸アンモニウム以外に夾雑物としてア
    スパラギン酸を含んだ水溶液からフェニルアラニンを単
    離することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の方
    法。
  4. 【請求項4】 フェニルアラニンを含んだ水溶液が、ア
    スパルテーム製造過程で生じる反応液の加水分解物であ
    ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の方法。
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"日本結晶成長学会誌",第23巻,第3号,p.920,1996年

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