JP2857718B2 - 潜在嵩高糸とその製造方法 - Google Patents

潜在嵩高糸とその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は芯部に鞘部よりも高収縮の繊維からなる糸条
を配し、鞘部に主として濃染可能な糸条を配した潜在嵩
高糸に関する。さらに詳しくは芯部に鞘部よりも高収縮
の繊維からなる糸条を配し、鞘部に主として濃染可能な
糸条を配し、両者を複合糸として流体処理により一体的
に形成し、得られた糸条を糸条の状態で、あるいは編織
物とした後、弛緩状態で熱処理を施すことにより主とし
て芯部に配列されている糸条を収縮させて該糸条の嵩高
性を顕在化させることが可能でかつ、濃染が可能である
新規な潜在性嵩高糸およびその製造方法に関する。
[従来の技術] 従来、マルチフイラメント糸を乱流流体処理して個々
のフイラメントにループやたるみを発生させると共にフ
イラメント相互を絡ませた嵩高加工糸は“タスラン”糸
として広く衣料分野に利用されている。
一方、複数本のマルチフイラメント糸をフイード率を
異にして乱流流体処理を行うことにより、嵩高度を増す
と共に糸条の形態安定性を向上させた芯鞘構造の複合嵩
高加工糸も知られている。
特開昭63−159540号公報には上記した複合嵩高加工糸
の交絡やループの形態堅牢性を向上させるために、芯糸
となる糸条にナイロン6未延伸糸を用い、該未延伸糸を
延伸し、引き続きこの延伸した糸条を他の糸条と共に乱
流流体域に供給し糸長差を与えると同時に交絡とループ
を形成させ、前記延伸に伴って生じた歪みの弾性回復に
よる収縮を乱流流体処理時に発生させ、該収縮によって
交絡を強固にしようとする技術が開示されている。
しかし、延伸によつて与えられた歪みを弾性回復によ
り収縮させるものであるから、該糸条を乱流流体処理す
る際には前記収縮量よりも多くのオーバフィード量を与
える必要があり、得られた糸条は顕在嵩高糸であって取
り扱いにくいという欠点がある。
また、特公昭61−11333号公報には表面にループと毛
羽を有し優れた嵩高性を示すと共に、染色後の均一な霜
降り調を同時に兼備したフイラメント嵩高糸として乱流
流体処理によりランダムに発生したループおよび絡みを
有する少なくとも2種類からなるマルチフイラメント糸
であって、該糸の少なくとも1種類は複屈折率が25×10
-3〜130×10-3であるポリエステル高配向未延伸糸であ
り、かつ該マルチフイラメント糸を形成するフイラメン
トが30コ/M以上の毛羽を形成していることを特徴とする
特殊嵩高糸およびその製造方法に関する技術が示されて
いる。
しかし、ここに示されている特殊嵩高糸は優れた霜降
り効果を示すものの、嵩高糸を擦過処理して糸表面に毛
羽を発生させるものであるから、該嵩高糸の表面にはル
ープや毛羽が突出していることに起因して糸条の摩擦係
数が高くなる。したがって糸条の走行抵抗が大きくな
り、管理を強化しても張力変動を生じ易く、製品品位を
低下させるにと止まらず、ついには糸切れの発生を引き
起こす原因にもなり、操業性の低下にも繋がるという欠
点がある。
[発明が解決しようとする課題] 本発明の目的は上記した従来技術の欠陥を改善せんと
するものであり、得られた糸条は嵩の低い性状を呈して
はいるが、熱処理することにより大きな嵩高性を示す潜
在嵩高性を有し、しかも優れた染色性も備えている新規
な潜在嵩高糸を提供せんとするものである。
[課題を解決するための手段] 本発明は上記した目的を達成するため、次の構成から
なるものである。
すなわち、第1の発明は少なくとも2種の熱可塑性合
成繊維マルチフイラメント糸が混繊されてなる複合糸で
あって、該複合糸を構成している個々のフイラメントは
互いに交絡構造を有しており、該複合糸のうちの1種は
ポリエステル系マルチフイラメントの糸条Aであって、
その複屈折率△nが60〜140×10-3の範囲内にあり、他
方の糸条Bは上記糸条Aよりも沸騰水収縮率差が5%以
上高い熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸からな
り、該複合糸の沸騰水収縮率が5〜30%の範囲内である
と共に、該複合糸を沸騰水処理した際、熱水処理前後の
初期引張り抵抗度の比αの値がα≧0.2であり、しか
も、該複合糸の沸騰水処理後における糸条は前記したポ
リエステル系マルチフイラメントの糸条Aが主として鞘
部に位置し、他方の糸条Bが主として芯部に位置してい
る形態を示すことを特徴とする潜在嵩高糸を基本とする
ものである。
また第2の発明は2種以上の熱可塑性合成繊維マルチ
フイラメント糸を同一の流体ノズルに導き複数のフイラ
メント糸を交絡させて複合糸とするに際し、前記フイラ
メント糸のうちの一種は複屈折率△nが100×10-3以下
のポリエステル系マルチフイラメント糸の未延伸または
半延伸糸でその自然延伸比の80%以下で熱延伸して複屈
折率△nを60〜140×10-3の範囲内とした後、該糸条よ
りも沸騰水収縮率が5%以上高い他の熱可塑性合成繊維
マルチフイラメント糸とを同一の流体ノズルに導入して
両者を混繊・交絡せしめることを特徴とする潜在嵩高糸
の製造方法を基本とするものである。
本発明を図面により更に詳しく説明する。
第1図(a),(b)は本発明に係る潜在嵩高糸の外
観を模式的に例示した概略図である。
第1図(a)に示した潜在嵩高糸1は交絡手段として
乱流流体処理(通常タスラン処理ともいわれる)を施し
て得られたものであり、A,B両糸は糸長差をもって配列
され、糸条Aを構成しているフイラメントが主として外
側に位置し鞘部を形成しておりその糸長は長く、一方他
の糸条Bは糸条が短く、糸条Bを構成しているフイラメ
ントは比較的中心に位置し芯部を形成している。糸条全
体としては第1図(b)に示したものに比べると嵩高で
潜在嵩高糸を構成している個々のフイラメントはランダ
ムに入り乱れて交絡している。
この潜在嵩高糸1は糸の構造上糸条Aと他方の糸条B
との間には糸長差を有してはいるが、その糸長差はそう
大きくとる必要はなく、20%もあれば良く、10%程度が
好ましい。
この糸長差が大きくなると該糸条の表面にループや弛
みが多発して糸条の走行時における摩擦係数が大きくな
り、前記したように製品の品位を低下させるに止まら
ず、操業性をも阻害することとなるので十分注意する必
要がある。
第1図(b)に示した潜在嵩高糸1′は交絡手段とし
て流体交絡処理(通常インターレース処理ともいわれ
る)を施して得られたものであり、ポリエステルマルチ
フイラメントの糸条A(以下単に糸条Aといい、個々の
フイラメントは細い線で示す。)と他方の糸条B(個々
のフイラメントは太い線で示す。)とが互いに引き揃え
た状態で配列されており、潜在嵩高糸1′を構成してい
る個々のフイラメントは交絡により集束された集束部2
と集束されてといない非集束部3とからなり、両者が間
歇的に配置されている。この態様の糸条は上記したA、
B各糸条の糸長は実質的に等しく、5%程度の差は許容
されている。交絡の数、強さはこの糸が使用される状態
によっても異なるが、緯編や織物の緯糸に用いられる場
合には数が少なく、強さが比較的弱くても問題は少ない
が、経編および織物の経糸に使用する場合には数も多く
強さも強くする必要がある。
第2図(a),(b)は第1図(a),(b)に示し
た潜在嵩高糸を熱処理して嵩高性を顕在化させた顕在嵩
高糸の外観を模式的に示した概略図である。
第2図(a)に示したように乱流流体処理により得ら
れた潜在嵩高糸を熱処理して嵩高性を発現させた顕在嵩
高糸は第2図(b)に示したような交絡部2と非交絡部
3との交互配列状態を示さず、糸条Bを構成しているフ
イラメントが中心に位置している態様は似ているもの
の、複合糸の外側に配列されている糸条Aを構成してい
るフイラメントは個々にループやたるみをランダムに形
成しつつ、糸条Bを構成している個々のフイラメントと
混繊・交絡せしめられている複雑な態様を示している。
勿論、熱処理により、糸条Bの熱収縮率が大きいために
糸条A,B間の糸長差は増大しているから、当然嵩高は増
加している。
第2図(b)に示したように流体交絡処理により得ら
れた潜在嵩高糸を熱処理して嵩高性を発現させた顕在嵩
高糸1′は交絡部2と非交絡部3とが交互に配列されて
いる状態が明瞭に識別でき、非交絡部3においては顕在
嵩高糸を構成している個々のマルチフイラメントのう
ち、糸条Bからなる個々のマルチフイラメントは熱収縮
により収縮してその長さが短くなって、ほぼ直線状を呈
している。しかし、糸条Aを構成している個々のマルチ
フイラメントの熱処理による収縮は糸条Bを構成してい
る個々のマルチフイラメントよりも少ない。従って、糸
条Aを構成している個々のマルチフイラメントは糸条B
を構成している個々のマルチフイラメントよりも相対的
に長くなってる。それゆえに、両者の糸長を一致させる
ためには糸条Aを構成している個々のマルチフイラメン
トが個々或いは集団で糸軸とは直角方向に湾曲してい
る。そしてその糸軸と直交する断面内の方向はランダム
である。糸条Bを構成している個々のマルチフイラメン
トはその長さが短いため結果として芯部に位置し、鞘部
に糸条Aを構成している個々のマルチフイラメントが位
置した形態を示している。第2図(a)に示したような
明確な芯鞘構造を示さないものの、多少形の崩れた曖昧
な芯鞘構造を示している。本発明においてはこの様な曖
昧な形態でも芯鞘構造を示すものとする。
本発明に係る潜在嵩高糸を構成している芯糸および鞘
糸は同種もしくは異種の熱可塑性合成繊維マルチフイラ
メント糸からなり、しかもその内部構造に差異が在るこ
とを特徴としている。芯糸となる糸条Bはこの糸条を用
いた布帛の強度を保持すると共に布帛の腰、張り、仕立
て栄えに寄与する。さらに糸加工ならびに編織工程にお
ける操業性に寄与する。また鞘糸は得られる布帛の風
合、触感、光沢、色彩などの手触り、外観を左右する特
性に寄与するものである。したがって、芯糸には比較的
単繊維繊度が太くて伸度が低く、かつ強力の大きいもの
が用いられ、鞘糸となる糸条Aには比較的単繊維繊度が
細くて伸度が大きいポリエステル系マルチフイラメント
が用いられる。
一方、鞘糸として用いられる糸条Aは単繊維繊度が細
く、伸度が大きいと触感が柔らかであるとともに、内部
構造において非晶部分が多いことから、濃色に染色する
ことが可能で、色彩に変化と深味を与えることができる
ポリエステル系マルチフイラメントの不完全延伸糸が用
いられる。したがって、芯糸と鞘糸の物性を適当に選択
して夫々の用途に適した物性をもつ布帛を得ることがで
きる。
本発明に使用する芯糸Bは熱可塑性合成繊維マルチフ
イラメント糸であって、その種類は特に限定しないが、
ポリオレフイン、ポリアミド、ポリエステル系のものが
適している。特に濃色が望まれる分野においては単独重
合体からなるものは勿論、共重合体からなるものも好ま
れ、ポリエステルやポリアミド系のものが適している。
複合糸における糸条Aの比率は30〜70%の範囲にある
のが良い。30%以下では布帛の風合、触感、染色性にお
いて良好なものが得られない場合があり、70%以上にな
ると糸条Bの比率が低下して布帛の強度が低下する場合
がある。
本発明に係る潜在嵩高糸は上記したごとく熱処理によ
って芯糸を収縮させ、複合糸を形成している芯糸と鞘糸
を構成しているフイラメント間に実質的な糸長差を発現
させることにより顕在嵩高糸となすものである。したが
って、芯糸となる糸条Bの熱収縮の大きさを代表する沸
水収縮率が大きく、鞘糸となる前記不完全延伸糸の糸条
Aの沸水収縮率は小さく、両者の差は少なくとも5%あ
ることが必要である。この差が5%以下では満足な顕在
嵩高糸を得ることができない。芯糸となる糸条Bの沸水
収縮率と鞘糸となる糸条Aの沸水収縮率の大きさが逆転
すれば顕在嵩高糸は得られるものの、本発明の目的を達
成するものとはならない。
また、熱処理により得られた顕在嵩高糸の後記する形
態安定性がこの糸を用いた布帛の形状安定性を左右す
る。
また、本発明に用いられる鞘糸となる糸条Aは製造さ
れる布帛の風合、染色特性などを考慮して定められるの
であるが、芯糸となる糸条Bに比べ単繊維繊度が細く、
切断伸度が少なくとも40%、芯糸との伸度差が少なくと
も20%と比較的大きく、非晶部分の多いポリエステル系
マルチフイラメント糸が用いられる。単独重合体のもの
は勿論多用されるが、共重合体のものは濃色に染色され
るものに適している。
前記した如く、顕在嵩高糸の形態安定性は該糸条の伸
長に対する抵抗の大きさによって定まる。通常初期引張
抵抗度の大きさは強度、伸長曲線(S−Sカーブ)の傾
斜角の大きさによって示されるが、この傾きを求めるの
がなかなか困難である。
本発明においては熱水処理前後における強度伸長曲線
から10%伸長時の強度を求め、処理前の強度をk1、処理
後の強度をk2としたとき、 α=k2/k1 の値を熱水処理前後の初期引張抵抗度の比と定義し、こ
のαの値が1に近いほど形態安定性に優れたものとし
た。このαの値が0.2よりも小さくなると顕在嵩高糸の
安定性が悪くなるので好ましくない。
本発明に係る潜在嵩高糸は無撚でももちろん使用可能
であるが、通常の織糸のように加撚(甘撚、中間撚、強
撚)でも使用することができる。
特に強撚で撚係数 但しDは潜在嵩高糸の繊度}が30,000を越えるものも使
用可能である。強撚糸の場合には糸条の取扱いを容易に
するため、パッケージの状態で糸条の熱収縮特性を損じ
ない程度に熱処理して撚止め処理を行うと良い。
本発明に係る潜在嵩高糸を加撚して用いると、撚の大
きさに応じて得られる布帛の外観、風合が異なる。特
に、強撚糸を用いたものは糸条の収縮に伴い糸自身に回
転しようとする力が作用し、布帛の嵩を増加させるもの
と考えられる。
第3図は本発明に係る潜在嵩高糸を製造するための装
置を例示したものである。
第3図に示したように、第1のフイードローラ11から
は糸条Aであるポリエステル系マルチフイラメントの未
延伸糸または半延伸糸10が供給され、該糸条は第1のフ
イードローラ11と延伸ローラ12の間で所定の延伸倍率に
熱延伸され不完全延伸糸となる。そしてこの延伸された
不完全延伸糸は鞘糸として延伸ローラ12から流体処理ノ
ズル15に供給される。一方第2のフイードローラ13より
供給される芯糸となる延伸糸2である糸条Bがが導糸ガ
イド14を介して流体処理ノズル15に供給される。流体処
理ノズル15に入った2本の糸条は互いに交絡構造により
複合化された潜在嵩高糸として形成された後、引取りロ
ーラ16により引取られ、巻き取り装置17によってパッケ
ージ18に巻き取られる。
第3図に示したように、鞘糸となる糸条Aにはポリエ
ステル系マルチフイラメント未延伸糸または半延伸糸が
用いられ、第1フイードローラ11と延伸ローラ12によっ
て所定の延伸倍率で延伸されるが、この延伸倍率は使用
される未延伸糸または半延伸糸の自然延伸倍率の80%以
下であって、完全な延伸糸にはなされていない不完全延
伸糸の状態に保持されている。延伸に際し、熱板18によ
り加熱し熱延伸が行なれるが、その温度は熱延伸後の鞘
糸となる糸条Aの沸水収縮率が芯糸となる糸条Bの沸水
収縮率よりも少なくとも3%小さくなるように適宜設定
すれば良い。
また、熱延伸は熱板以外にもホットローラ、熱ピンの
ように熱延伸できるものであれば特に限定されない。
この不完全延伸糸の状態における該糸条は伸度が大き
く、熱水収縮率は糸条Bよりも小さく、柔軟で配向度も
小さく、高染色性を呈すると言う特異な特性を示す。こ
れらの性質は複屈折率△nを測定することによって伺い
知ることができ、Δnは60〜140×10-3であることが好
ましい。Δnが60×10-3以下であると布帛としたとき触
感は柔らかく濃色に染色できるが、染色堅牢、フロステ
ィング等の特性に問題がある。また、Δnが140×10-3
以上であると触感が粗硬となり、かつ濃色効果が減退す
るので好ましくない。
本発明に係る潜在嵩高糸に対しては潜在嵩高糸の状
態、或いは潜在嵩高糸を布帛の状態として熱処理し、嵩
高性を付与するようにしている。熱処理により嵩高性を
発現させるためには熱処理により芯糸を鞘糸以上に収縮
させ芯糸と鞘糸との糸長差を発生させなければならな
い。そのためには、芯糸と鞘糸との熱収縮率の差を適正
に選定する必要がある。したがって、芯糸の沸騰水収縮
率は鞘糸のそれよりも少なくとも5%大きなものを選択
する必要がある。5%以下では満足な顕在嵩高糸が得ら
れない。芯糸に沸騰水収縮率の高いものをのを用いると
嵩高度の大きい顕在嵩高糸が得られるものの、該顕在嵩
高糸の形態安定性が低下(伸びやすくなる)する。した
がって、芯糸の沸騰水収縮率は30%を限度とするが、好
ましくは20%以下とするのが良い。
第3図の流体処理ノズル15は潜在嵩高糸の使用目的に
応じて使い分けることが可能である。つまり嵩高性を大
きくしたい場合には乱流流体処理(タスラン)ノズル
を、また嵩高性を少し抑制したい場合は流体交絡(イン
ターレース)ノズルを用いれば良い。
流体処理ノズル15に乱流流体処理ノズルを使用した場
合について説明する。
乱流流体処理ノズルに供給される芯糸の供給速度は鞘
糸の供給速度よりも遅く設定することが有効であるし、
その場合、芯糸と鞘糸とは乱流流体ノズルにおいて流体
処理される際、両者の間には糸長差が存在している。し
たがって、流体処理を受けて両者の個々のフイラメント
が渾然一体となって混繊交絡された複合糸を構成してい
るものの、全体として糸長の短い糸を構成しているフイ
ラメントが主として芯部に集まり、糸長の長い糸条を構
成しているフイラメントはランダムに屈曲してループや
たるみを形成し糸軸と直角な方向にはみだして膨らみ、
糸長の短い糸を構成しているフイラメントと糸長方向に
は等しい長さを保持している。それ故に両者の糸長差が
大きい程膨らみも大きくなる。しかし、糸長差を大きく
するとループやたるみによる膨らみが大きくなることか
ら、複合糸の見掛けの太さ(直径)が増大するに止まら
ず、複合糸の摩擦係数が大きくなってガイドやニード
ル、筬羽などとの接触物との摩擦抵抗が増大するから、
該複合糸の高次加工通過性が低下するに止まらず、製品
品位も低下する。
第3図に示した装置を用いて潜在嵩高糸を製造する場
合、延伸ローラ12と第2フィードーラ13の供給速度の差
を多くとも20%好ましくは10%程度とすることにより、
乱流流体処理ノズルで処理され、形成される潜在嵩高糸
における芯糸と鞘糸の糸長差を10%程度に保つことによ
り、嵩高性の発生を極力押さえかつ、交絡・混繊を促進
させるようにしている。
この潜在嵩高糸を織物の経糸に使用する場合は引取り
ローラ16と引取装置17の間に緊張ローラ16′を設け、こ
の間で0.1〜0.4g/d(dは複合糸のデニール)の張力を
かけて緊張するか、または、引取りローラ16と緊張ロー
ラ16′の間に熱板などを設け軽い熱処理をしてループを
抑えると製織性の面で更に効果的である。
本発明に係る潜在嵩高糸は乱流流体処理ノズルによっ
て複合糸を形成している個々のフイラメントの混繊、交
絡を満足に行せることを主な作用とし、嵩高性の付与は
極力押さえ、嵩高性の付与は潜在嵩高糸の状態で、或い
は潜在嵩高糸を布帛としたのちに熱処理によって実施さ
れる。
次に流体処理ノズルに流体交絡ノズルを利用した場合
について説明する。
第3図においてフィードローラ13と延伸ローラ12によ
り流体交絡ノズルに供給される芯糸となる延伸糸と鞘糸
となる不完全延伸糸の速度は実質的にほぼ等しく、その
速度差は多くても精々5%以内である。両者の糸長が大
きく異なると流体交絡ノズル15によって交絡処理を施し
ても満足な結果が得られにくい。
交絡の数や強さは流体交絡ノズル15の形状、各部の寸
法、該ノズルに供給される圧空の圧力、供給されている
糸条の張力、糸速等を適宜選択して決定されるが、これ
らの値は潜在嵩高糸が供される布帛の性状、該布帛が製
造される高次加工条件により決定される。一般的には20
〜100個/m程度とするのが良い。100個/m以上となると、
交絡部と交絡部間の間隔が小さくなりすぎて後で潜在嵩
高糸を熱処理しても満足のいく顕在嵩高糸は得られない
からである。また、20個/m以下となると潜在嵩高糸の集
束性が低下して高次加工での操業性が低下する。
第4図は本発明に係る潜在嵩高糸を製造する装置の他
の例を示す概略図であり、第3図の装置とは異なる態様
のものである。
第3図は芯糸となる糸条Bを流体処理ノズル15にフィ
ードローラ13より供給するのに対し、第4図では芯糸と
なる糸条Bを鞘糸となる糸条Aの延伸ローラ12より鞘糸
となる糸条Aと引き揃え状態で同時に供給する点が異な
る。つまりフィードローラ13を省略した方式である。他
の部分については第3図に示したものと大差はない。し
たがって、他の部分についての記号は第3図と同様とす
る。
第4図では芯糸となる糸条Bと鞘糸となる糸条Aの供
給速度が同一となるため、特に流体処理ノズル15には流
体交絡ノズルを用いるのに適している。もちろん乱流流
体処理ノズルも使用可能である。設備的にはフィードロ
ーラ13がない分コスト的には有利である。
[実施例] 実施例1,2および比較例1〜5は第3図に示した装置
を用い、鞘糸となる糸条Aのオーバフィード率を18%、
芯糸となる糸条Bのオーバフィード率8%、圧空圧力6k
g/cm2、流体処理ノズルは乱流流体処理ノズルとし、鞘
糸となる糸条Aの延伸条件は第1,2表に示した条件で潜
在嵩高糸を製造した。
実施例3,4および比較例6は第4図に示した装置を用
い、流体交絡処理のオーバフィード率1%、圧空圧力2k
g/cm3、流体処理ノズルは流体交絡処理ノズルとし、鞘
糸となる糸条Aの延伸条件は第1,2表に示した条件で潜
在嵩高糸を製造した。
なお、各実施例および比較例に用いた糸条AとBの特
性および組合わせは第3表の通りである。
上記実施例4件、比較例6件で得た10水準の潜在嵩高
糸をイタリー式撚糸機で撚係数12000 で撚糸し、経糸50DのPET延伸糸の緯糸に平織で打ち込ん
だ。得られた生機を通常のリラックス工程、中間セッ
ト、アルカリ減量、135℃液流染色、仕上げセットその
工程を経て染色仕上げ加工を実施した。得られた布帛の
物性、触感・風合、濃色効果、総合評価を求めた。その
結果は第1,2表の通りである。
[発明の効果] 以上述べた如く本発明に係る潜在嵩高糸は次のような
優れた作用効果を奏するものである。
1)潜在嵩高糸であるから糸条の取扱いが極めて容易で
ある。したがって操業性が極めて高い。
2)糸条の状態もしくは編織した布帛の状態で熱処理す
ることにより、優れた嵩高性をもつものが得られ、得ら
れた製品は形態安定性に優れている。
3)表面が柔軟で腰のある優れた風合を有し、高染色性
のマルチフイラメントを配置しているので、高い色彩効
果を発揮させることができる。特に濃色系のものにおい
てその効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
第1図(a),(b)は本発明に係る潜在嵩高糸の外観
を模式的に例示した概略図である。 第2図(a),(b)は第1図(a),(b)に示した
潜在嵩高糸を熱処理して嵩高性を顕在化させた嵩高糸の
外観を模式的に示した概略図である。第3図は本発明に
係る潜在嵩高糸を製造するための装置を例示したもので
ある。 第4図は本発明に係る潜在嵩高糸を製造する装置の他の
例を示す概略図であり、第3図の装置とは異なる態様の
ものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 渡辺 豊美 愛知県中島郡平和町上三宅字上屋敷1― 1 東レ・テキスタイル株式会社東海工 場内 (72)発明者 三浦 俊昭 愛知県中島郡平和町上三宅字上屋敷1― 1 東レ・テキスタイル株式会社東海工 場内 (72)発明者 鍋島 敬太郎 大阪府大阪市北区中之島3丁目3番3号 東レ株式会社大阪事業場内 (56)参考文献 特開 昭59−130309(JP,A)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】少なくとも2種の熱可塑性合成繊維マルチ
    フイラメント糸が混繊されてなる複合糸であって、該複
    合糸を構成している個々のフイラメントは互いに交絡構
    造を有しており、該複合糸のうちの1種はポリエステル
    系マルチフイラメントの糸条Aであって、その複屈折率
    △nが60〜140×10-3の範囲内にあり、他方の糸条Bは
    上記糸条Aよりも沸騰水収縮率差が5%以上高い熱可塑
    性合成繊維マルチフィラメント糸からなり、該複合糸の
    沸騰水収縮率が5〜30%の範囲内であると共に、該複合
    糸を沸騰水処理した際、熱水処理前後の初期引張り抵抗
    度の比αの値がα≧0.2であり、しかも、該複合糸の沸
    騰水処理後における糸条は前記したポリエステル系マル
    チフイラメントの糸条Aが主として鞘部に位置し、他方
    の糸条Bが主として芯部に位置している形態を示すこと
    を特徴とする潜在嵩高糸。
  2. 【請求項2】2種以上の熱可塑性合成繊維マルチフイラ
    メント糸を同一の流体ノズルに導き複数のフイラメント
    糸を交絡させて複合糸とするに際し、前記フイラメント
    糸のうちの一種は複屈折率△nが100×10-3以下のポリ
    エステル系マルチフイラメント糸の未延伸または半延伸
    糸でその自然延伸比の80%以下で熱延伸して複屈折率△
    nを60〜140×10-3の範囲内とした後、該糸条よりも沸
    騰水収縮率が5%以上高い他の熱可塑性合成繊維マルチ
    フイラメント糸とを同一の流体ノズルに導入して両者を
    混繊・交絡せしめることを特徴とする潜在嵩高糸の製造
    方法。
  3. 【請求項3】流体ノズルとして乱流流体処理ノズルを使
    用する請求項(2)記載の潜在嵩高糸の製造方法。
  4. 【請求項4】流体ノズルとして流体交絡処理ノズルを使
    用する請求項(3)記載の潜在嵩高糸の製造方法。
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