JP2833769B2 - 新規アルコールアシルトランスフェラーゼ及びその用途 - Google Patents

新規アルコールアシルトランスフェラーゼ及びその用途

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JP2833769B2
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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は、ノイロスポラ属に属する微生物により産生
され、アルコール及び中鎖脂肪酸のCoA誘導体に作用し
て、中鎖脂肪酸のエステルを生成する新規アルコールア
シルトランスフェラーゼに関する。本発明はさらに、該
酵素の生産能を持つノイロスポラ属の微生物を液体もし
くは固体培地で培養して該酵素を製造する方法にも関す
る。さらにまた、本発明は該酵素を生産する能力を持つ
ノイロスポラ属の微生物を清酒等のアルコール類の製造
に使用して、清酒等に好ましい香りを付与する方法に関
するものである。
(従来の技術) 近年、清酒をはじめとする嗜好飲料に対する消費者の
需要は多様化してきており、香気成分(フレーバー)を
含有する嗜好品が望まれており、合成着香料を用いた嗜
好品も多く販売されている。しかし、健康に対する関心
が高まっていることから、合成着香料の使用には消費者
の反発が考えられるため、天然の香気成分を使用するこ
とが期待されている。近年、ピーチ、メロン、バナナ等
の香気を生成する微生物が種々発見されており、これら
のフレーバーの組成についても研究されている(小泉
ら;農芸化学会誌,56,757,1892;S.Tahara et al,Agric.
Biol.Chem.,37,2855,1973;特公昭44−6217)。しかし、
これらの生成機構についてはどのような酵素系によるも
のであるかを研究した例が少ない。例えば、微生物の産
生する香気成分生成に関与する酵素として、酵母やクラ
ドスポリウム(Cladosporium)の酢酸イソアミルなどの
生成に関与するアルコールアセチルトランスフェラーゼ
及びエステラーゼ等について研究されているに過ぎない
(Yoshioka,K.,Hashimoto,N.,Agric.Biol.Chem.,47,228
7,1983;Yamakawa,Y.et al,Agric.Biol.Chem.,42,269,19
78;Suomalainen,H.,J.Inst.Brew.,87,296,1981)。よっ
て、酵母由来以外のアルコールアシルトランスフェラー
ゼについては未だ報告がなく、その存在が証明されてい
ない。
(発明が解決しようとする課題) そのため、微生物を用いてカプロン酸エチルのような
香気成分を多量に生成させようとしても、前記に示した
クラドスポリウムや酵母では香気成分の生成機構の詳細
が不明であること、またその生成量が微量であることか
ら実用的価値が低い。このような観点から、香気成分を
生成する酵素及び香気成分を多量に生成させる製造方法
が望まれている。
(課題を解決するための手段) そこで、本発明者らは実用的価値をたかめるべく鋭意
探求した結果、香気成分を生成するカビ類に着目し、カ
ビの一種であるノイロスポラ属のある菌株がカプロン酸
エチルのような香気成分を多量に生成することを見出し
た。ノイロスポラ属菌のうち、カプロン酸エチルを多量
に産生する菌株の選択を行い、ノイロスポラスペシース
(Neurospora sp.)ATCC46892株を高カプロン酸エチル
産生株として選択した。更に、その香気成分の生成に関
与する酵素系を調べることにより、新規なアルコールア
シルトランスフェラーゼが存在することを明らかにし、
該酵素の分離、精製に成功した。更に、本菌株を用いて
種々の培地でカプロン酸エチルの生成を検討したとこ
ろ、モルトエキス培地において最も多量のカプロン酸エ
チルを産生させることが可能であり、同時に該培地にお
ける培養により菌体の増殖も増加することが認められ、
培養菌体よりアルコールアシルトランスフェラーゼを大
量に採取、精製し、これを利用することにより目的とす
る香気成分を産生することができる。また、直鎖状の中
鎖脂肪酸のCoA誘導体に該酵素を作用させ、それぞれの
中鎖脂肪酸に対応したエステルを生産することにも成功
し、本発明を完成した。
よって、本発明は新規アルコールアシルトランスフェ
ラーゼ及びその製造方法並びにその用途を提供するもの
である。
以下に、本発明により製造される新規アルコールアシ
ルトランスフェラーゼの物理化学的性質を示す。
a.作用 エチルアルコールなどの種々のアルコール及びn−カ
プロイルCoAなどの種々の中鎖脂肪酸のCoA誘導体に作用
し、中鎖脂肪酸のエステルを生成する。
b.基質特異性 アシル基の炭素数が4個から16個のアシルCoAに作用
し、特に6個から13個のものによく作用する。アセチル
CoA、n−プロピオニルCoA、イソブチリルCoA及びイソ
バレリルCoAには作用しないか極めて作用しにくい。ア
ルコールに対しては、炭素数が1個から8個までの種々
のアルコールに作用する。特に、イソブチルアルコール
やn−ブチルアルコールに対しては、エチルアルコール
の場合の3〜4倍の活性を示す。但し、イソプロピルア
ルコールに対しては比較的作用しにくい。
c.分子量:約30000(ゲル濾過法による) d.至適及び安定pH 至適pH8 安定pH3〜9 e.至適及び安定温度 至適温度:25℃ 安定温度:43℃以下 f.阻害剤等の影響 フルオロリン酸ジイソプロピル(DFP)、フッ化フェ
ニールメチルスルフォニル(PMSF)で阻害され、パラク
ロロ水銀安息香酸(PCMB)では阻害されない。
〔製造方法〕
本発明の酵素は、ノイロスポラ属に属し、前記特性を
有する酵素を生産する微生物を培養し、その培養物から
得ることが出来る。好ましい製造方法の一例を示せば次
の通りである。
スラントに保存しておいたノイロスポラスペシースAT
CC46892株をYM培地(100ml)を用いて30℃で2日間前培
養し、該培養液をガラスフィルターにより濾過後、菌体
を集めて蒸留水で洗浄する。さらに蒸留水を加えて、ホ
モジナイズした後の菌懸濁液を5%モルトエキスに蒸留
廃液(DS)を5%添加して調製した培地に接種し、30℃
で3〜4日間振とう培養する。次に、培養液からガーゼ
濾過により菌体を回収し、凍結乾燥する。凍結乾燥菌体
を海砂と共に摩砕し、遠心分離後、無細胞抽出液(粗酵
素)を分離する。粗酵素を後述の実施例で示すように高
速液体クロマトグラフィー等を用いて精製することによ
り、精製酵素を得ることができる。
なお、ノイロスポラシペシース(Neurospora sp.)AT
CC46892株は工業技術院微生物工業技術研究所に微工研
菌寄第9883号(FERM P−9883)として寄託されている。
本発明の酵素を、適当な固体培地で培養したノイロス
ポラ属の菌から得ることも、可能である。
本発明によれば、上記のようにして培養されたノイロ
スポラ属の菌の培養物中に生成した、香気成分を回収し
て利用することが出来、あるいは清酒のようなアルコー
ル飲料その他の醸造製品の製造工程に、ノイロスポラ属
の菌を使用して、目的の製品に直接香気を付与すること
も可能である。
〔香気成分の回収,分析方法〕
培養液からの香気成分の回収は、まず、培養液を0.45
μmのメッシュで濾過する。濾過液2mlに対してNaCl0.5
g、酢酸エチル又はペンタン、ヘキサン、エーテルペン
タン等を0.5ml加えた後、溶媒抽出法によって行う。培
養液中の香気成分の分析は、該培養液を食塩飽和下で酢
酸エチルを加え、酢酸エチル層のガスクロマトグラフィ
ー(PERKIN−ELMER 8320B Capillary Gas Chromatograp
h)により測定する。
分析条件;カラム;DB−WAX、¢0.32mmx30cm カラム温度;55℃→210℃ 注入、検出温度;240℃ キャリヤー:He 流速:1.0ml/min(スプリット比:1/20) サンプル量:2μ この方法により分析した結果、カプロン酸エチルが多
く生産されていた(第1図参照)。
なお、固体培養を行うことによっても該エステルが多
量に生産された。こうして固体又は液体培養のものより
蒸散したエステルは、冷却法によりドレインとして回収
する方法、活性炭やポラパック、テナックスなどのポリ
マーに吸着させて回収する方法(伊藤清ら,J.Brew.Soc.
Japan,81(3)185−188(1986)、I.Yajimaら,Agric.B
iol.Chem.,45(2),373−377(1981)および溝口晴彦
ら,J.Brew.Soc.Japan,79(3),198−201(1984))、
培養容器内部のガスを循環させることによりコンデンサ
ーに集積・回収する方法(K.Satoら,J.Ferment.Techno
l.,66(2),173−180(1988))などで分別可能と思わ
れる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
実施例1 種々の液体培地におけるカプロン酸エチルの
生成 ノイロスポラスペシース(Neurospora sp)ATCC46892
株は培養液中に洋梨様のフレーバーを生成するが、この
主成分は前記の分析方法により分析したところカプロン
酸エチルであった。そこで、本菌株を用いてカプロン酸
エチルを最も多く生産させる方法として、各種の培地に
ついて検討したところ、第1表及び第2図に示すよう
に、モルトエキス培地がエステルの生成に好適であっ
た。この結果に基づき更に生産条件を検討したところ、
5%モルトエキスにモルトウィスキー蒸留廃液を5%に
なるように添加した培地を作製し、30℃で培養すると最
も多量のカプロン酸エチルが得られた。
実施例2 酵素の大量培養 多量のカプロン酸エチル及びアルコールアシルトラン
スフェラーゼを得るために大量培養を行った。すなわ
ち、本菌株を5%モルトエキス培地で30度で2日間培養
した前培養液300mlを5w/v%モルトエキスにモルトウィ
スキー蒸留廃液が5%になるように添加して調製した50
1の培地を滅菌したものに接種し、ジャーファーメンタ
ーを用いて30℃で2日間通気攪拌した。培養終了後、培
養液をガーゼを用いて濾過し、、約451のカプロン酸エ
チル(48ppm)を含有する香気成分含有液と585g(湿重
量)の菌体が得られた。この菌体を破砕して該酵素を含
有する無細胞抽出液が蛋白質として15g得られた。この
収量は実験室レベルの収量より若干おとるが、大量培養
でも目的とする培養液及び培養菌体が得られることが確
認された。
実施例3 カプロン酸エチル合成酵素系についての検討 菌体からの粗酵素の調製は、培養液(400ml)から菌
体を回収・洗浄後(菌体湿重量5〜6g)、凍結乾燥し
た。乾燥菌体1gに0.01%メルカプトエタノール含有0.05
Mリン酸緩衝液(pH7.5)10mlと海砂10gを加え乳鉢中で
摩砕する。懸濁液を650xg、5分間の遠心分離で海砂、
未破砕菌体を除いた後、超遠心分離(105000xg、40分
間)を行い、その上澄を粗酵素液(無細胞抽出液:CFE)
として用いた。次に、カプロン酸エチル合成酵素の活性
測定を以下の方法で行った。すなわち、基質として99.5
%エタノール10μ、カプロイルCoA(16.6mg/ml)10μ
を用い、CFE50μ、0.05Mリン酸バッファー(pH7.
5)190μを加えて全量を260μとした後、25℃で30
分間反応させた。反応終了後、酢酸エチル(カプロン酸
メチル60.4ppm含有)125μを加え、酢酸エチル層に含
有される生成カプロン酸エチルをガスクロマトグラフィ
ーにより測定した。酵素活性は、25℃、1時間の反応に
おいて1μgのカプロン酸エチルを生成する場合を1単
位とする。
なお、この酵素活性は飽和食塩存在下で阻害されるこ
となく、むしろ活性が促進された。これは、通常の酵素
の場合とはことなり、この点からも、本酵素の新規性が
示唆される。
実施例4 酵素の局在性 酵素の局在性については、実施例1で示した方法によ
り培養して得られた菌体を海砂とともに摩砕し、海砂、
未破砕菌体等を除いて得た液を超遠心分離(10500xg、4
0分間)を行い、上澄と沈澱部に分画して検討した。各
部における酵素活性は、実施例3で示した方法により行
った。結果は、上澄部に約87%、沈澱部に約13%存在し
ており、該酵素は細胞質に存在していると考えられる
(第2表)。
実施例5 酵素の分離・精製 酵素の分離・精製は実施例4で得た上澄について行っ
た。まず、上澄部(粗酵素)をTSKゲルブチルトヨパー
ルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した
(吸着;10mMトリス塩酸pH8.0、40%飽和硫安含有、溶出
条件;40%飽和−0%硫安濃度勾配)。ブチルトヨパー
ルで一部精製された活性区分を更に高速液体クロマトグ
ラフィーにより精製した。すなわち、TSKゲルフェニル5
PWを用いた疎水クロマト(同上の吸着及び溶出条件)に
より精製し、活性区分をTSKゲルDEAE 5PWを用いたイオ
ン交換クロマト(吸着;10mMトリス塩酸pH8.0、溶出条
件;10mMトリス塩酸0−1M食塩濃度勾配等)により精製
した。以上のようにして高速液体クロマトグラフィーに
おいて各処理ステップを繰り返し、ゲル電気泳動により
単一バンドとして目的とする酵素が得られた(第3図参
照)なお、本酵素の分子量はゲル濾過法により約3万と
決定された。
実施例6 基質特異性 前記の分析機器及び方法により各種アシルCoAに対す
る基質特異性を検討したところ、アシル基の炭素数が4
個から16個のアシルCoAに作用し、特に6個から13個の
ものによく作用した。また、アセチルCoAやn−プロピ
オニルCoAを基質とする場合は、そのエステルは検出で
きなかったので、全く作用しないか極めて作用しにくい
ものと考えられる。また、分枝状のアシルCoAであるイ
ソブチルCoA及びイソバレリルCoAに対しても同様に作用
しないか極めて作用しにくいものであった(第3表、第
4図)。
一方、種々のアルコールに対しては、エチルアルコー
ル以外にも、炭素数が1個から8個までのアルコールに
対して作用性が認められ、特に、イソブチルアルコール
やn−ブチルアルコールに対しては、エチルアルコール
の場合の3〜4倍の活性を示した。但し、イソプロピル
アルコールに対しては比較的作用しにくかった(第4表
参照)。
実施例7 pHの影響 酵素活性に及ぼすpHの影響を調べるために、pHの幅を
3〜9とし、その活性を測定したところ、第5図に示す
ように至適pHは8.0であった。また、pH安定性について
は、3〜9の広い範囲で活性は維持されていた。
実施例8 温度の影響 酵素活性に及ぼす温度の影響については、第6図に示
すように作用至適温度は25℃であった。また熱安定性に
ついては、43℃までは安定であったが45℃以上では失活
した。
実施例9 阻害剤の影響 各種阻害剤の酵素活性に及ぼす影響についての結果を
第5表に示す。フルオロリン酸ジイソプロピル(DFP)
やフッ化フェニールメチルスルフォニル(PMSF)で阻害
されることより、活性部位にセリン残基を有する酵素と
考えられる。今までにセリン酵素としてプロテアーゼ、
エステラーゼ、エラスターゼなどが知られているが、ト
ランスフェラーゼでは見つかっていない。また、パロク
ロロ水銀安息香酸(PCMB)では阻害されないことからSH
酵素ではないと考えられ、酵母のアルコールアセチルト
ランスフェラーゼとは異なっている。これらのことから
本酵素は新規な酵素であることが示唆される。
実施例10 エステラーゼとの比較 本酵素はエチルアルコールとカプロイルCoAからカプ
ロン酸エチルを生成させるが、エステラーゼはエチルア
ルコールとカプロン酸からカプロン酸エチルを生成する
ものである。そこで、カプロン酸エチルの生成に菌体の
もついずれの酵素が大きく寄与しているかを調べるため
に基質のモル濃度を同一(カプロイルCoAまたはカプロ
ン酸;7.3mM,エタノール;659mM)にしてCFEと共にそれぞ
れの酵素に適したpHで25℃、1時間反応させた。カプロ
ン酸エチル生成に対する寄与率はアルコールアシルトラ
ンスフェラーゼ(AATase)の方が約98%と圧倒的に高か
った。これより、菌体内においても、該酵素がカプロン
酸エチルの生成に大きく関与していることが示唆された
(第6表)。
実施例11 他のノイロスポラ属菌によるエステル生成 各種のノイロスポラ属菌について香気成分の生成を調
べた。使用した菌株はNeurospora crassa IFO 6067、同
6068、同6178、同6966、同6977、同6978、Neurospora s
itophila IFO 4596、同6069、同6070及びNeurospora te
trasperm IFO 6982であった。これらの菌株の中でNeuro
spora sitophila IFO 4596、同6070及びNeurospora tet
rasperm IFO 6982に、同時に培養していたNeurospora S
p.ATCC46892株の生成量よりも低いものであったが、香
気成分の生成が認められた。
実施例12 固体培地におけるカプロン酸エチルの生成 (1) 固体培地の種類とカプロン酸エチルの生成量 ノイロスポラスペシーズ(Neurospora sp)ATCC46892
株は、液体培地のみならず固体培地でもカプロン酸エチ
ルを生産すると思われた。そこで、固体培地としてα
米、ふすま、コーングリッツおよびビール粕を用いてフ
ェルンバッハフラスコ中で培養を行った。
フェルンバッフフラスコに種々の液体培地を30〜50ml
加え、その中に本菌株の胞子を一白金線接種して懸濁さ
せた後、α米100gを添加してよく混合した。培養は30℃
に静置して行い、各日数にヘッドスペース中に生成され
た香気成分を、吉沢淑,J.Soc.Brew.Japan,68(1),59
−61(1973)のヘッドスペース法に準じて、ガスクロマ
トグラフィー分析した(島津製作所GC−4CM(PF),カ
ラム;10%DNP,1m,Carrier;N2,カラム温度;75℃,Injecto
r温度;120℃,注入量;3ml)。この分析値を同様にして
得られたカプロン酸エチル標準溶液での分析値にあては
めて、本菌株により生産されたカプロン酸エチルを定量
した。
その結果、第7表に示すとおり、特にα米において多
量のカプロン酸エチルが生成した。
(2) 製麹水に用いる液体培地の影響 上記(1)の固体培養で、菌株を懸濁させるときに用
いた液体培地(製麹水)の種類とカプロン酸エチル生成
量との関係を第7図に示す。図中、A〜Dはそれぞれ、
固体培地(α米100g)とともに5%モルトエキス培地30
ml、同培地40ml、糖を含まない改変ツァペック培地40m
l、および糖を含まないフォーゲル最少培地40mlが、製
麹水に用いられた場合のカプロン酸エチルの生成量を培
養日数とともに示す。これらの中では、Cの改変ツァペ
ック培地が最適であった。
(3) 糖の種類の影響 上記(2)の試験により、外部から糖が供給されない
ほうが、カプロン酸エチルの生産量が多くなることが示
唆されたが、さらに糖の種類を変えて製麹水(改変ツァ
ペック培地を使用した)に3種類の糖を各3%含ませた
場合について、7日間培養後に比較試験を行った。その
結果第8表に示すとおり、糖の種類によりカプロン酸エ
チルの生成量に大差はなく、むしろ糖無添加、すなわ
ち、α米中の糖を単一糖源とした場合に生成量が多かっ
た。
なお、カプロン酸エチルの定量は、ヘッドスペース法
の他に、以下に記載するキャピラリー法で固体培養物
(麹)中のカプロン酸エチルについても測定を行った:
即ち、本菌株を培養した固体培養物20gを500ml容分液ロ
ートに入れ、NaCl138gおよび蒸留水100mlを添加し、時
々攪拌しながら、室温で1時間放置した。酢酸エチルを
50ml添加して1時間振盪した後、その一部をとって遠心
分離した。上澄を0.5mlとり、内部標準として60.4ppmの
カプロン酸メチルを含む酢酸エチルを100μ追加混合
した。生じた上清(有機溶媒層)4μをメガポアカラ
ムで分析した。なお、温度条件は、70℃で3分間保持
後、毎分10分昇温で100℃まで上げ、以後毎分20℃昇温
で200℃まで上昇させ、9分間保持した。
(4) 製麹水使用量の影響 製麹水として改変ツァペック培地を使用し、製麹水の
使用量(上記(1)の培養系あたり30ml、40mlおよび50
ml)と、カプロン酸エチルおよび目的としない副生成物
の生成量との関係を検討した。
第8図に示すとおり、製麹水の使用量は30〜40mlがよ
く、製麹水が少ないほど菌の増殖は抑えられるが、培養
日数とともにカプロン酸エチルの増加が認められた。
さらに、第9表に示すとおり、製麹水の量が多くなる
とカプロン酸エチル量が減少し、副生成物であるイソア
ミルアルコールの量が増加する傾向が見られた。
(5) 固体培養における窒素源の種類とカプロン酸エ
チル生成量 さらに、カプロン酸エチルの生成に好ましい窒素源を
検討するため、上記(3)の試験における糖無添加の条
件で、種々の窒素源を窒素量で0.05%添加して、カプロ
ン酸エチルの生成量を検討した。
その結果、第10表に示すとおり、リン酸塩または硫酸
塩のアンモニア窒素が、好ましい結果を与えた。
実施例13 ノイロスポラ菌の清酒製造への利用 清酒の製造に用いる麹としてノイロスポラ菌を生やし
たものを用い、醗酵過程でのカプロン酸エチルのもろみ
への移行または生成の程度を調べた。方法は、難波ら,
J.Brew.Soc.Japan,Vol.73(No.4),295−300(1978)に
記載されている小仕込試験法によった。基本仕込配合
は、次のとおりである。
麹の組み合わせは次のようにした。
1.対照 2.麹米の半分をノイロスポラ菌麹米+グルク100(40m
g)+酸性プロテアーゼ(14日)に置き換えたもの 3.対照+ノイロスポラ菌体 4.麹米のかわりにノイロスポラ菌麹米+グルク100(80m
g)+酸性プロテアーゼ(14日目)を用いたもの 5.対照+ノイロスポラ菌麹米(α米の一部) なお、「グルク100」は清酒用糖化酵素であるグルコ
アミラーゼ製剤(天野製薬(株)製)の商標名である。
25日間の発酵の間におけるCO2減量および醗酵の完成
度は、ノイロスポラ菌を存在させたもろみと対照との間
に大きな差はなかった。もろみの分析結果および香りの
官能評点を第11表に示す。ノイロスポラ菌を用いたNo.2
とNo.3のもろみは、対照と比べて大差はないが、または
高い官能評点を得た。また、もろみ中のカプロン酸エチ
ルは、特にノイロスポラ菌を用いたNo.5に明確な増加傾
向が見られた。
実施例14 四段仕込みへの利用 甘口清酒を製造する際の四段仕込みの麹(または甘
酒)にノイロスポラ菌を使用し、清酒の香りの向上を試
験した。
アルコール17.8%、日本酒度−8、酸2.25、アミノ酸
1.7の成分をもつ、発酵終了直前のもろみを200mlずつ7
本の小仕込み用の容器に分注し、下記1〜7の四段仕込
み成分を添加したのち、さらに最終エタノール濃度が20
%になるように95%エタノールを添加して、10℃で3日
間静置した。
生成した各もろみを8000rpm×10分間遠心分離し、上
清をきき酒による官能テストで評価した。その結果、ノ
イロスポラ菌麹を添加した場合は、香り高くすっきりし
た清酒が生じ、特にNo.7の成分を用いて四段仕込みした
清酒は、No.6ものに比べて明らかに優れていた。
さらに、各もろみ260μの試料にNaClを0.10g加え酢
酸エチル125μで抽出し、キャピラリー法でカプロン
酸エチルの定量を行い、第12表の結果を得た。この結果
から、いずれの場合にもノイロスポラ麹を使用すると酒
質に不都合な影響なしに、香り華やかですっきりとまと
まった清酒が製造できることが分析値のうえからも確認
された。
(発明の効果) 本発明によれば、大量培養した場合でもカプロン酸エ
チルを多量に含有する培養液と菌体が得られたことよ
り、この培養液をそのまま或いは吸着、蒸留などの精製
工程を経た後、天然の着香料として使用することができ
る。また、本発明の酵素を製造する能力を有するノイロ
スポラ属の菌を、清酒等の醸造製品の製造工程で使用し
て、直接製品に香気を付与することが可能である。さら
に、菌体より酵素を抽出、精製し得られた酵素を固定化
して効率良く純度の高いカプロン酸エチルなどの香気成
分を製造することができる。さらに、精製されて構造が
決定された酵素を組み換えDNA技術により、酵母、カビ
等に導入することにより、新しいタイプの醗酵飲料を製
造することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、カプロン酸エチルの生成を示すガスクロマト
グラフィー図であり、 第2図は、各種培地におけるカプロン酸エチルの生成を
示す図であり、 第3図は、ゲル電気泳動パターンを示す図であり、 第4図は、各種のアシルCoAにおける比活性を示す図で
あり、 第5図は、酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図であり、 第6図は、酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図であ
り、 第7図は、固体培養で、ノイロスポラ菌株を懸濁させる
ために用いる液体培地の種類とカプロン酸エチル生成量
との関係を示すグラフであり、そして 第8図は、固体培養で、ノイロスポラ菌株を懸濁させる
ために用いる液体培地の容量とカプロン酸エチル生成量
との関係を示すグラフである。
フロントページの続き (72)発明者 原 昌道 東京都北区滝野川2―6―30 国税庁醸 造試験所内 (72)発明者 吉澤 淑 東京都北区滝野川2―6―30 国税庁醸 造試験所内 (72)発明者 天知 輝夫 大阪府三島郡島本町若山台1丁目1番1 号 サントリー株式会社基礎研究所内 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C12N 9/10

Claims (9)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】以下の性質を有する新規アルコールアシル
    トランスフェラーゼ: a.作用 アルコール及び中鎖脂肪酸のCoA誘導体に作用し、中鎖
    脂肪酸のエステルを生成する; b.基質特異性 アシル基の炭素数が4個から16個のアシルCoAに作用
    し、特に6〜13個のものによく作用する; アセチルCoA、n−プロピオニルCoA、イソブチリルCoA
    及びイソバレリルCoA、に対しては作用しないか極めて
    作用しにくい; 炭素数が1個から8個までのアルコールに対して作用性
    が認められ、特にイソブチルアルコール、n−ブチルア
    ルコールに対しては、エチルアルコールの場合の3〜4
    倍の活性を示す; イソプロピルアルコールに対しては比較的作用しにく
    い; c.分子量:約30000; d.至適及び安定pH 至適pH8 安定pH3〜9; e.至適及び安定温度 至適温度:25℃ 安定温度:43℃以下 f.阻害剤等の影響 フルオロリン酸ジイソプロピル(DFP)、フッ化フェニ
    ールメチルスルフォニル(PMSF)で阻害され、パラクロ
    ロ水銀安息香酸(PCMB)では阻害されない。
  2. 【請求項2】ノイロスポラ属に属し、請求項1記載の新
    規アルコールアシルトランスフェラーゼを産生する微生
    物を培養し、その培養物から該酵素を採取することを特
    徴とするアルコールアシルトランスフェラーゼの製造方
    法。
  3. 【請求項3】請求項1記載の新規アルコールアシルトラ
    ンスフェラーゼを生産するノイロスポラ属に属する微生
    物を培養して、培養物中に中鎖脂肪酸エステルを生産さ
    せる方法。
  4. 【請求項4】微生物を液体培地中で培養する、請求項3
    記載の方法。
  5. 【請求項5】液体培地が、モルトエキス培地である、請
    求項4記載の方法。
  6. 【請求項6】微生物を固体培地培養する、請求項3記載
    の方法。
  7. 【請求項7】固体培地がα米またはふすまを含む、請求
    項6記載の方法。
  8. 【請求項8】清酒製造工程における固体培養物中に、請
    求項1記載の酵素を製造する微生物を存在せしめ、それ
    により該培養物中にカプロン酸エチルを生産させて、清
    酒に好ましい香りを与える、請求項6記載の方法。
  9. 【請求項9】請求項1記載の酵素を使用して、中鎖脂肪
    酸エステルを製造する方法。
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