JP2801781B2 - グリシンの製造方法 - Google Patents

グリシンの製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はグリコロニトリルか
らヒダントインを経由して直接グリシンを製造する方法
に関し、さらに詳しくは、グリコロニトリルとアンモニ
ア、炭酸ガスおよび水を反応させてグリシンを得る方法
に関する。グリシンは加工食品の食品添加剤や農薬、医
薬の原料として広く使用されている有用な化合物であ
る。
【0002】
【従来の技術】従来、グリシンの製造方法としては、主
としてモノクロル酢酸のアミノ化法、ストレッカー法、
ヒダントイン法等が知られている。ストレッカー法は青
酸、ホルマリンからほぼ定量的に合成できるグリコロニ
トリルとアンモニアを反応させ、さらに水酸化ナトリウ
ム等のアルカリで加水分解してグリシンの金属塩をまず
製造し、さらに硫酸等の酸で脱塩してグリシンを製造す
る方法である。この方法では硫酸ナトリウム等の加水分
解後の中和塩の分離が必要であり、また、その塩の処理
が経済性を大きく損なう。
【0003】一方、ヒダントイン法は青酸とホルムアル
デヒドから合成できるグリコロニトリルとアンモニア、
炭酸ガスを水の存在下に反応させ、ヒダントインを製造
し、その加水分解によりグリシンを製造する方法であ
る。加水分解において水酸化ナトリウム等のアルカリを
使用した場合にはストレッカー法と同様に硫酸ナトリウ
ム等の分離および処理が必要となる。このヒダントイン
法において、水酸化ナトリウム等のアルカリを使用しな
いで直接グリシンを得る方法(以下、ヒダントイン経由
直接法と言う)は硫酸ナトリウム等の副生を伴わず、公
害のない経済的なグリシンの製造方法である。
【0004】このようなヒダントイン経由直接法とし
て、例えば、シアン化水素とアルデヒドとアンモニアお
よび二酸化炭素を水溶媒中で100℃以上で加熱する方
法(USP3,536,726)、水媒体中シアン化水素とホルムア
ルデヒドおよび炭酸アンモニウムを加熱する方法等が知
られているが、これらのグリシンの収率は未だ充分とは
いえない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らが検討した
ところによると、ヒダントイン経由直接法において、グ
リシンを分離するために、得られた反応液から未反応の
炭酸ガスおよびアンモニアを分離、濃縮するに際して単
に加熱すると生成したグリシンが変化し収率が大幅に低
下するのみならず、水への溶解度が極めて小さい2,5-ジ
ケトピペラジン等の副生物が大幅に増加して、グリシン
との分離が実質上不可能となることを我々は見い出し
た。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らはヒダントイ
ン経由直接法グリシン製造における効果的に反応液を濃
縮し、高収率でグリシンを製造する方法について鋭意検
討を行った結果、本発明に到達した。即ち、本発明はグ
リコロニトリル、炭酸ガス、アンモニアおよび水を反応
温度100〜200℃、反応圧力20〜100kg/c
2 で30分〜20時間反応させ、得られた反応液を濃
縮してグリシンを分離するに際し、濃縮温度と濃縮時間
の関係が、次式(数2)
【0007】
【数2】 ln(τ)<(16800/T)−37.8 (式中τは濃縮時間(分)、Tは濃縮温度(°K)を示
す)となるように濃縮することを特徴とするグリシンの
製造方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の方法で使用するグリコロ
ニトリルは、そのまま使用することができるが水溶液と
して使用し、水の割合がある程度多い方がグリコロニト
リルの自己分解を抑制することができることから、合成
反応におけるグリシン収率が高く、着色物質への副生反
応も抑制されて好ましいことを我々は見い出した。しか
しながら、水の含有量が多すぎると、反応後水を分離す
るエネルギーを多く必要とし好ましくない。したがっ
て、グリコロニトリル水溶液を使用する場合、グリコロ
ニトリル濃度は30〜70wt%程度が好ましい。この
ようなグリコロニトリル水溶液は青酸と含水ホルマリン
を原料として製造される方法が最も一般的で経済的な製
造方法であるが、ホルマリン源としてパラホルムアルデ
ヒドを水に溶解しても使用することができる。なお、グ
リコロニトリルの生成反応は速く、たとえば、青酸をガ
スの形態でホリマリン水溶液に吹き込んだり、青酸を液
の形態でホルマリン水溶液と混合するだけで容易にグリ
コロニトリルが生成する。反応温度は0〜80℃、反応
時間は2分〜5時間も行えば充分である。また、グリコ
ロニトリルは安定剤として用いられている硫酸やリン酸
等を含有していても使用することができる。
【0009】本発明で用いるアンモニアおよび炭酸ガス
はこれらをそのまま使用してもよいが、反応条件下でこ
れらの化合物(アンモニアや炭酸ガス)を生成する当業
者間で公知の化合物、たとえば、炭酸アンモニウムや重
炭酸アンモニウムを使用してもよい。また、これらを混
合して使用しても好ましい結果が得られる。
【0010】本発明の方法で用いるアンモニアの使用量
はグリコロニトリルに対し、1〜12モル倍であり、好
ましくは4〜9モル倍の範囲である。アンモニアの使用
量が1モル倍未満では反応が遅くなり、12モル倍を越
えると反応速度は速くなるが、副生成物が増加し、ま
た、反応圧力も高くなり好ましくない。また、炭酸ガス
の使用量はアンモニアに対し1/3〜3モル倍である。
炭酸ガスの使用量がこの範囲では反応速度が速いだけで
なく、反応圧力も低くなり好ましい。
【0011】本発明で用いる水の使用量はアンモニアに
対し5〜15モル倍である。水の使用量が 5モル倍未満
ではグリシンの選択率が悪くなり、一定純度のグリシン
を得るためにはグリシンの晶析率は極端に低下する。
叉、15モル倍を越えて使用するとグリシンの選択率は
向上するが反応液中のグリシン濃度が低下し、晶析のた
めの濃縮コストが増大するだけでなく反応器容積も大き
くなり経済的でない。
【0012】本発明における反応温度は、低い方がグリ
シンの収率は向上するが反応速度が遅くなる。通常、1
00〜200 ℃、好ましくは140〜180℃、更に
好ましくは150〜170 ℃である。また、反応時間
は通常30分〜20時間、好ましくは 1〜10時間で
ある。
【0013】本発明における反応圧力は、特に制限はな
く、反応中に発生する圧力以上で反応を行うことも、ま
た、反応中に発生するアンモニア、炭酸ガスあるいは溶
媒の蒸気等を適宜抜き出しても反応を行うことができる
が、通常20〜100kg/cm2 である。
【0014】本発明の方法で得られる反応終了後のグリ
シンを含有する反応液中には原料のグリコロニトリルは
実質的に残存していないが、グリシンの他にヒダントイ
ン酸、グリシルグリシン、ヒダントイン酸アミド、トリ
グリシン、ヒダントイン、2,5-ジケトピペラジン等の副
生成物が含有されている。これらの反応液から後述の晶
析法等によりグリシンが分離される。
【0015】上述の条件下で得られた反応液は50〜2
00℃程度、10mmHg〜30kg/cm2 程度でフ
ラッシュおよび/または加熱して水を気化させ反応液を
濃縮する。この時、通常、アンモニアおよび炭酸ガスも
気化して反応液と分離される。即ち、炭酸ガス、アンモ
ニアおよび水からなる気相部と液相部に分離される。な
お、空気あるいは窒素等の不活性ガスを50〜200℃
程度、10mmHg〜30kg/cm2 程度で吹き込
み、炭酸ガスおよびアンモニアをストリッピングする方
法で反応液と分離してもよい。しかし、これら以外の方
法で分離しても本発明の方法を限定するものではない。
なお、反応液の濃縮は10秒〜20時間、好ましくは1
分〜10時間程度行われる。
【0016】炭酸ガスおよびアンモニアの分離が不十分
であると、濃縮液を晶析してグリシンを分離する工程に
おいてこれらが炭酸アンモニウムとして析出してグリシ
ン結晶に付着する。この結果、着色した反応液(母液)
のグリシン結晶への付着量は高純度のグリシン結晶の場
合よりも多くなり多量のリンス水を必要とする。したが
って、濃縮液中の炭酸ガスおよびアンモニアの残存濃度
は炭酸アンモニウムに換算して10wt%以下になるよ
うに濃縮することが好ましい。
【0017】濃縮温度が50℃未満では分離した炭酸ガ
スおよびアンモニアの凝縮温度が低くなり好ましくな
い。また、濃縮における気相部の熱源を有効に利用する
ためには濃縮温度としては80℃以上、好ましくは12
0℃以上である。しかし、濃縮温度が200℃を越える
と分離時において濃縮液の着色が著しく促進される。し
たがって、好ましい濃縮温度は50〜200℃、さらに
好ましくは80〜180℃である。
【0018】濃縮時に生成する2,5-ジケトピペラジン等
副生物の生成速度はグリシン濃度の影響は少ないが、濃
縮時の濃縮温度の影響を大きく受けることが我々の検討
によりわかった。本発明者らは濃縮温度と濃縮時間との
関係を詳細に検討した結果、このような副生物は濃縮温
度に応じてその濃縮時間を限定された条件で行うことに
より抑制することができることを見い出した。すなわ
ち、濃縮における濃縮温度および濃縮時間の関係が、次
式(数3)
【0019】
【数3】 ln(τ)<(16800/T)−37.8 (式中τは濃縮時間(分)、Tは濃縮温度(°K)を示
す。)を満たすように濃縮することが好ましい。濃縮操
作が連続的あるいは半連続的に行なわれる場合は式中の
濃縮時間は滞留時間に相当する。なお、濃縮装置上の要
請から濃縮時間τは10秒以上であることが好ましい。
上記の式(数3)の関係を満たさない場合は、グリシン
が変化し、グリシン収率が低下するだけでなく、水への
溶解度が極めて小さい2,5-ジケトピペラジン等の副生量
が大幅に増加し、これらがグリシンと共に晶析してしま
い、グリシンが実質上分離できなくなる。
【0020】本発明において、反応液から分離した炭酸
ガスおよびアンモニアを再使用することは経済的であ
る。気化した炭酸ガス、アンモニアおよび水を濃縮温度
以下の温度で冷却して凝縮させ、水溶液として回収し、
反応器へ循環することが好ましい。例えば、空気や窒素
等の不活性ガスを使用してアンモニアおよび炭酸ガスを
ストリッピングにより分離した場合、これらの不活性ガ
スは凝縮した炭酸ガスおよびアンモニア水溶液と容易に
分離することができ好都合である。
【0021】本発明の方法は回分式でも、また、半流通
式、あるいは、流通式でも行うことができる。
【0022】
【実施例】本発明の方法を実施例により詳細に説明す
る。
【0023】実施例1 1時間あたり、50wt%グリコロニトリル水溶液23
0g(2.01mol)、アンモニア206g(12.
1mol)、炭酸ガス267g(6.1mol)を含有
する水溶液1990gを混合し、内容積が10リットル
の管型反応器へ供給した。反応温度150℃、反応圧力
は50kg/cm2 で行った。この時の原料組成はH2
O/NH3 /CO2 /グリコロニトリル=45/6/3
/1モル比であり、平均滞留時間は5時間に相当する。
【0024】定常になった時に反応液を濃縮器で濃縮
し、水、アンモニアおよび炭酸ガスを除去して晶析を行
い、1 時間あたりグリシン0.89mol(純度98.
2%)を分離した。残った母液を分析した結果、グリコ
ロニトリルに換算して合計で0.97molのヒダント
イン酸、グリシルグリシン、ヒダントイン酸アミド、2,
5-ジケトピペラジン、ヒダントイン、トリグリシンおよ
びグリシンが検出された。このように初期供給用の母液
を調製した。
【0025】次いで、グリコロニトリルに換算した場合
の供給組成が同じになるようにこの母液と50wt%グ
リコロニトリル水溶液および炭酸アンモニウム水溶液を
反応器へ供給した。すなわち、この母液と50wt%グ
リコロニトリル水溶液118g(1.04mol)およ
び炭酸アンモニウムとして6.1molを含む水溶液を
反応器へ供給した。得られた反応液は連続的に濃縮器を
用い、式(数1)で規定する条件を充足する濃縮温度を
130℃、滞留時間10分の条件で濃縮した。かくして
水、アンモニアおよび炭酸ガスの大部分を除去して5℃
で晶析し、1 時間あたりグリシン68g(純度98.6
%)を分離した。この析出量は反応液中のグリシンの5
8wt%に相当する。また、この量はグリシン収率とし
て86%に相当する。
【0026】比較例1 濃縮温度130℃、滞留時間90分で濃縮を行った以外
は実施例1と同様の方法で行い、1時間あたり65gの
グリシンを得たがその純度は88.9%で非常に低かっ
た。このグリシンをさらに再結晶したが純度はほとんど
向上しなかった。
【0027】実施例2 濃縮温度120℃、滞留時間60分で濃縮を行った以外
は実施例1と同様の方法で行い、1時間あたり67gの
グリシン(純度98.3%)を得た。
【0028】比較例2 濃縮温度120℃、滞留時間180分で濃縮を行った以
外は実施例2と同様の方法で行い、1時間あたり68g
のグリシンを得たがその純度は89.3%で非常に低か
った。このグリシンをさらに再結晶したが純度はほとん
ど向上しなかった。
【0029】実施例3 濃縮温度140℃、滞留時間5分で濃縮を行った以外は
実施例1と同様の方法で行い、1時間あたり62gのグ
リシン(純度98.5%)を得た。
【0030】比較例3 濃縮温度140℃、滞留時間30分で濃縮を行った以外
は実施例3と同様の方法で行い、1時間あたり62gの
グリシンを得たがその純度は86.1%で非常に低かっ
た。このグリシンをさらに再結晶したが純度はほとんど
向上しなかった。
【0031】比較例4 濃縮温度190℃、滞留時間1分で濃縮を行った以外は
実施例1と同様の方法で行い、1時間あたり56gのグ
リシンを得たがその純度は85.2%で非常に低かっ
た。このグリシンをさらに再結晶したが純度はほとんど
向上しないだけでなく、着色が著しく製品として使い物
にならなかった。
【0032】
【発明の効果】本発明の方法を用いることにより、反応
系内に蓄積したグリシンに変換可能な化合物が濃縮時に
グリシンと分離困難な副生物になることが抑制でき、ま
た、着色の少ない高純度の製品を得ることができるヒダ
ントイン経由のグリシン製造を工業的に極めて有利な方
法に向上させたものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 日合 淳彦 大阪府高石市高砂1丁目6番地三井東圧 化学株式会社内 審査官 藤森 知郎 (56)参考文献 特開 平2−108653(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C07C 229/08 C07C 227/12 C07C 227/42

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】グリコロニトリル、炭酸ガス、アンモニア
    および水を反応温度100〜200℃、反応圧力20〜
    100kg/cm2 で30分〜20時間反応させ、得ら
    れた反応液を濃縮してグリシンを分離するに際し、濃縮
    温度と濃縮時間の関係が、次式(数1) 【数1】 ln(τ)<(16800/T)−37.8 (式中τは濃縮時間(分)、Tは濃縮温度(°K)を示
    す)となるように濃縮することを特徴とするグリシンの
    製造方法。
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