JP2776266B2 - 熱間加工用複合被膜形成工具 - Google Patents

熱間加工用複合被膜形成工具

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、継目無製管や板圧延、
形鋼、条鋼、線材圧延等、熱間塑性加工で使用される工
具に係り、特に耐摩耗性および耐熱亀裂性に優れた熱間
加工用複合被膜形成工具に関する。
【0002】
【従来の技術】継目無製管や板圧延、形鋼、条鋼、線材
圧延等、熱間塑性加工で使用される工具は、高温の被加
工材と直接に接触しながら厳しい摩擦を受けることから
表層部が極端に温度上昇し、そのために摩耗が著しい。
また、これらの工具は被加工材と断続的に繰返し摩擦さ
れ、被加工材と非接触状態にある時に水冷や空冷で表面
の冷却が行われるが、このような被加工材との接触、摩
擦による急熱と、冷却による急冷が繰返されることによ
って熱衝撃や熱疲労によるクラックが生じ易く、これが
被加工材の表面疵の原因になったり、割損して使用不能
となったり、甚だしい場合には圧延トラブルとなって設
備に損傷を与えかねない。したがって、熱間加工用の工
具には、耐摩耗性と耐熱亀裂性が同時に要求される。
【0003】例えば、熱間で継目無管を製造する工程の
一つであるプラグミル圧延においては、素管外面を拘束
しながら軸方向に送りを与える一対の孔型ロールと、素
管内面を拘束するプラグとによって圧延が行われるが、
その際プラグは1000〜1200℃の高温の素管内面
と接触しながら高面圧のもとで完全なすべり摩擦を受け
ることから、摩耗を生じ易く、また圧延直後には水冷に
よって急冷されたり、さらに急熱、急冷が繰返されるた
めに熱衝撃や熱疲労によってクラックが発生する。
【0004】このような状況下で使用されるプラグとし
ては、従来から1.0〜1.5%Cー25%Crー3%
Ni鋼や1.0〜1.5%Cー17%Crー2%W鋼等
の高Cー高Cr鋳鋼が使用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】継目無製管や板圧延、
形鋼、条鋼、線材圧延等においては、製造コスト合理化
や製品の表面品質、寸法精度の向上が強く望まれている
が、例えば継目無管の製造に使用されている従来のプラ
グは、前記したごとく摩耗や熱亀裂が早期に生じて寿命
となる上、これらの損傷が製品内面疵や寸法精度不良の
原因となるため、耐摩耗性、耐熱亀裂性の優れた工具の
開発が望まれている。
【0006】ところが、一般に耐摩耗性を向上させるた
めには工具表層の強度を高める必要があり、一方熱亀裂
の発生、進展を抑制するためには工具の延性、靭性を向
上させる必要があるが、これらは通常、相反する特性で
あるために耐摩耗性と耐熱亀裂性を合わせ持つ工具は未
だ開発されていないのが現状である。
【0007】なお、特開平1−148405号公報で
は、特定成分の金属マトリックス中に重量比で50〜8
0%のニオブ炭化物を分散させた複合肉盛被膜を形成さ
せたシームレスパイプ熱間傾斜圧延用ガイドシューが提
案されているが、耐摩耗性は良好なものの熱亀裂が発生
し易く、思ったほど工具寿命を延長できないのが現状で
ある。
【0008】本発明はこのような現状に鑑みてなされた
ものであり、通常は相反する特性である耐摩耗性と耐熱
亀裂性の両面に優れた特性を有する熱間加工用複合被膜
形成工具を提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明に係る熱間加工用
複合被膜形成工具は、母材表面に、平均粒径が65〜1
35μmの炭化物粒子を体積比で20〜50%含む金属
−炭化物複合被膜を形成し、かつ前記金属−炭化物複合
被膜における金属がマルテンサイト系ステンレス鋼また
はオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴と
し、また前記金属−炭化物複合被膜中の炭化物粒子がニ
オブ炭化物であることを特徴とするものである。
【0010】
【作用】本発明における母材鋼としては、圧延途中で変
形したり、クラックが内部まで進展して割損が生じない
ことが必要であり、被加工材の温度や変形抵抗、あるい
は圧延条件等を考慮して適宜選択すればよい。一般的に
はステンレス鋼、炭素鋼、またはSKD等の合金鋼等を
使用する。母材に加わる負荷条件が特段に厳しくならな
い限りは炭素鋼、低合金鋼等を使用できる。
【0011】 本発明における金属−炭化物複合被膜の
炭化物としては、ニオブ炭化物、チタニウム炭化物、バ
ナジウム炭化物、クロム炭化物等各種あり、また、金属
(マリックス金属)としては、ある程度の高温強度と
靭性を持つマルテンサイト系やオーステナイト系ステン
レスを用いることとした。
【0012】本発明において、金属ー炭化物複合被膜中
の炭化物平均粒径を65〜135μmに限定したのは、
以下に示す理由による。すなわち、母材表面に形成する
金属ー炭化物複合被膜中の炭化物粒径は、一般に50〜
200μm程度とするのが普通であるが、熱間加工用工
具の耐摩耗性および耐熱亀裂性に重大な影響を及ぼし、
両特性を両立させる最適な粒径範囲が存在することが、
本発明者が行った試験結果より明らかとなった。
【0013】図1は本発明者が行った試験結果より明ら
かとなった高温摩耗特性に及ぼす炭化物粒径の影響を示
す図であり、下記の条件で行った摩擦試験方法により得
られた結果である。
【0014】<摩擦試験条件> 供試材材質:従来プラグ材(1.0〜1.5Cー17C
rー2W鋳鋼)の表面にプラズマ粉体肉盛法で炭化物粒
径を変化させた複合被膜(炭化物:ニオブ炭化物40
%、マトリックス金属:SUS304)を形成。 供試材寸法:長さ20mm×幅20mm×厚さ10mm
(摩擦面は20mm×10mmの面) 相手材材質:2.25%Crー1Mo鋼 相手材寸法:直径100mm×厚さ30mm 相手材加熱温度:1000℃(高周波誘導加熱) 相手材回転数:100rpm 荷重:100kgf(供試材を相手材外周面に押付ける
荷重) 試験時間:10分 評価方法:摩耗痕の体積を測定し、従来プラグを基準と
した場合の相対摩耗度として評価した。
【0015】図1に示すごとく、金属ー炭化物複合被膜
中の炭化物の平均粒径が小さいと摩耗し易く、他方、炭
化物が大きくなりすぎても多少摩耗量が増える傾向にあ
り、最も相対摩耗度の小さい炭化物平均粒径としては6
5〜135μmであることが判明した。
【0016】また、母材の熱亀裂特性に及ぼす金属ー炭
化物複合被膜中の炭化物粒径の影響を調べるために行っ
た熱亀裂試験結果を以下に示す。
【0017】試験方法としては、円柱状試験片(材質:
S45C、寸法:直径30mm×長さ30mm)の外周
部にプラズマ粉体肉盛法で炭化物平均粒径を変化させた
金属ー炭化物複合被膜(炭化物:ニオブ炭化物40%、
マトリックス金属:SUS304)を形成し、外面を切
削して所定の形状に仕上げ、この試験片および従来プラ
グ材(1.0〜1.5Cー17Crー2W鋳鋼)から削
り出した試験片について、高周波加熱(加熱温度100
0℃)した後、水冷する工程を1サイクルとし、これを
100回繰返した。評価方法としては、試験後の供試材
断面をミクロ観察して、クラックの長さを総計し、従来
プラグ材を基準とした場合の相対クラック長さとして評
価した。その結果を図2に示す。
【0018】図2に示すごとく、耐熱亀裂性について
は、炭化物平均粒径が大きくなるにつれて緩やかにクラ
ック長さが増加するが、135μmを超えると急激にク
ラック長さが増大することが判明した。一方、炭化物平
均粒径の下限は小さい程クラック長さも短かくなるが、
炭化物平均粒径が65μm未満では前記図1に示すデー
タより明らかなごとく耐摩耗性が低下するため、炭化物
平均粒径の下限は65μmとする必要がある。
【0019】以上の結果より、本発明では耐摩耗性と耐
熱亀裂性の両特性が良好な範囲として、金属ー炭化物複
合被膜中の炭化物粒径を65〜135μmに限定したの
である。
【0020】次に、金属ー炭化物複合被膜中の炭化物粒
子の含有量を体積比で20〜50%に限定した理由を以
下に説明する。すなわち、金属中に分散された炭化物粒
子は、被膜の常温から高温におよぶ強度を高め摩耗を抑
制する効果と、焼付きを防止する効果があり、これらの
効果を有効に作用させるためには、少なくとも体積比で
20%は必要であり、他方、50%を超えて含有させて
も効果の増大を期待できないばかりか、炭化物を保持す
る金属の量が低下して被膜の形成が困難となり、また耐
熱亀裂性も低下するため、炭化物粒子の含有量を体積比
で20〜50%に限定したのである。
【0021】また、本発明において、金属ー炭化物複合
被膜中の炭化物粒子として、特にニオブ炭化物を特定し
たのは、被膜中に分散させて耐摩耗性を向上させる効果
を有する炭化物としては、前記したごとくニオブ炭化物
の外、タングステン炭化物、チタニウム炭化物、バナジ
ウム炭化物、クロム炭化物等各種あるが、ニオブ炭化物
を被膜中に分散させた場合に最も優れた耐摩耗性、耐熱
亀裂性が得られるからである。
【0022】炭化物粒子を含む金属ー炭化物複合被膜の
形成方法としては、母材とカプセルの間に金属および炭
化物の混合粉末を封入して熱間静水圧プレスする方法
(HIP法)、母材表面に上記粉末を塗布した後にレー
ザーを照射して部分的に溶融、固化する方法(レーザー
クラッディング)等も可能であるが、より簡便に複合被
膜を形成させる方法としては、電極と母材との間に発生
させたプラズマ中に前記粉末を送給して母材表面に肉盛
するプラズマ粉体肉盛法があり、母材との密着性および
被膜の緻密性に優れている上に、製作コストの面でも有
利である。この炭化物粒子を含む金属ー炭化物複合被膜
の厚さとしては、特に限定するものではないが、常温か
ら高温におよぶ範囲で十分な表面強度を確保するために
は少なくとも1mm以上の厚みを有することが好まし
い。
【0023】本発明の金属ー炭化物複合被膜形成工具
は、前記したごとく優れた高温耐摩耗性と耐熱衝撃性を
合わせ持ち、また特に炭化物としてニオブ炭化物を用い
ることにより、特段に優れた性能が得られ、優れた工具
寿命を有する。
【0024】
【実施例】
実施例1 プラグミルで使用するプラグを対象として、S45C鋼
を母材とし、その表面にニオブ炭化物の含有量を種々に
変化させた金属ーニオブ炭化物混合粉末の外、金属ータ
ングステン炭化物混合粉末、金属ーチタニウム炭化物混
合粉末、金属ーバナジウム炭化物混合粉末、金属ークロ
ム炭化物混合粉末をそれぞれプラズマ粉体肉盛法によっ
て肉盛溶接した。その際使用した金属粉末はSUS30
4ステンレス鋼粉であり、肉盛厚さは約2mmであっ
た。各プラグ表面は切削加工により仕上げた。
【0025】これらのプラグを用いて炭素鋼素管のプラ
グミル圧延を行った結果を、従来使用されている1.0
〜1.5%Cー17%Crー2%W鋼製プラグの寿命を
基準とした時の寿命比で評価した。その結果を表2に示
す。なお、素管の寸法、温度は表1に示す通りである。
【0026】この圧延テストの結果、被膜中の炭化物粒
径および炭化物含有量を本発明の範囲としたプラグは、
いずれも優れた耐摩耗性と耐熱亀裂性を合わせ持ち、従
来プラグに比べ2.3〜3.7倍の高寿命を示した。こ
れに対し、炭化物粒径および炭化物含有量が本発明範囲
から外れたプラグおよび従来プラグでは、極端に大きな
摩耗が生じたり、深いクラックが発生して早期に寿命と
なった。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【発明の効果】以上説明したごとく、本発明の熱間加工
用複合被膜形成工具は、優れた高温耐摩耗性と耐熱衝撃
性を合わせ持ち、また特に炭化物としてニオブ炭化物を
用いることにより、特段に優れた性能が得られ、優れた
工具寿命を有する。したがって、特に熱間継目無管を製
造する際のプラグミル用プラグミルに適用した場合に
は、プラグ寿命が大幅に延長でき、製管コストの低減が
はかられるとともに、製品内面品質および寸法精度の優
れた製品が得られる等、多大な効果を奏する。また、本
発明はプラグミル用プラグミルのみならず、ピアサー用
プラグ、マンドレルミル用マンドレルバー、ガイドシュ
ー、ロール、管端アプセット加工用ダイやマンドレル、
熱延鋼板や形鋼、条鋼、線材を圧延する際のロール等の
各種熱間工具は勿論のこと、熱間材の搬送用ロールやガ
イド類の熱間摺動部材にも十分適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における金属ー炭化物複合被膜中の炭化
物平均粒径と摩耗特性の関係を示す図である。
【図2】同じく金属ー炭化物複合被膜中の炭化物平均粒
径と熱亀裂特性の関係を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) B21B 25/00 B21B 27/00 C23C 26/00

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 母材表面に、平均粒径が65〜135μ
    mの炭化物粒子を体積比で20〜50%含む金属−炭化
    物複合被膜を形成し、かつ前記金属−炭化物複合被膜に
    おける金属がマルテンサイト系ステンレス鋼またはオー
    ステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする熱間
    加工用複合被膜形成工具。
  2. 【請求項2】 金属ー炭化物複合被膜中の炭化物粒子が
    ニオブ炭化物であることを特徴とする請求項1記載の熱
    間加工用複合被膜形成工具。
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