JP2654613B2 - ピッチ系炭素繊維の製造方法 - Google Patents

ピッチ系炭素繊維の製造方法

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JP2654613B2 JP61263880A JP26388086A JP2654613B2 JP 2654613 B2 JP2654613 B2 JP 2654613B2 JP 61263880 A JP61263880 A JP 61263880A JP 26388086 A JP26388086 A JP 26388086A JP 2654613 B2 JP2654613 B2 JP 2654613B2
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Description

【発明の詳細な説明】 (発明の属する技術分野) 本発明は、光学異方性ピッチから得られる高性能を有
するピッチ系前駆体炭素繊維の製造方法に関する。
詳細には、本発明は、炭素繊維を構成する炭素分子の
結晶および配向組織が不完全な状態であり、しかもその
後の弛緩状態での熱処理(炭化・黒鉛化)により結晶及
び配向組織が成長して強度及び弾性率が大幅に向上する
能力を有し、かつ加工性に優れた加工用ピッチ系前駆体
炭素繊維の製造方法に関する。
また、本発明の方法で得られるピッチ系前駆体炭素繊
維は、炭化程度が低い状態なので加工が容易なものであ
り、且つ炭化程度が高いものより低コストであるため、
加工ロスを生じても製品コストにひびく割合が小さい利
点を有する。
より詳細には、本発明の方法で得られるピッチ系前駆
体炭素繊維は、(イ)炭化程度の高いものに比べて曲率
半径の小さい曲げに対して破損せず丈夫である。
しかも(ロ)その曲げた部分がその後の炭化処理によ
り応力緩和し、その曲げた部分の耐摩耗性、耐屈曲性及
び耐スクラッチ性が優れている特徴を有する。
(ハ)油剤やサイジング剤に濡れ易くてはじく傾向が
少なく集束性に優れる。
また、本発明の製造方法は、(イ)ピッチ原料として
光学異方性ピッチを選択したので、無緊張下(弛緩状
態)での炭化においても高弾性率の炭素繊維を生じる。
(ロ)ピッチ繊維を搬送用ベルトに載せて連続して不
融化と炭化とを行うことにより、加工に際し集束性が優
れている。
(ハ)該特定のピッチ原料の使用と相俟って、炭化を
700〜1800℃の特定範囲内の比較的低温で行うことによ
り、製織等の加工に適する特定の物性値、即ち伸度が高
くて弾性率が適度に調整され、且つその後の弛緩状態で
の炭化によって高強度、高弾性率の炭素繊維になる性能
を持つ加工用前駆体炭素繊維を提供できる。
(ニ)次段の加工に移行する前に、搬送用ベルト上で
逆転させることにより、加工に際して繊維を最上層から
引き出せるので、繊維が接触して傷ついたり、繊維が絡
まって加工に適さなくなることがない利点がある。
(従来の技術) 高軟化点のピッチを溶融紡糸して得た繊維の表面を酸
化させて不融化した後、不活性雰囲気中で高度に炭化
し、高弾性率のピッチ系炭素繊維を得る方法は特公昭41
−15728号公報に開示されている。
この方法は、確かに優れたピッチ系炭素繊維の製造法
であるが、該公報に開示されている方法によると、高弾
性率の繊維を得るには炭化の際に緊張状態を保つ必要が
ある。
しかしながら、不融化したピッチ繊維は極めて脆いた
め、緊張状態で把持することが困難であり、この方法に
よって高弾性率繊維を得ることは事実上不可能と考えら
れている。
そのために、紡糸して得られたピッチ繊維を無緊張下
でベルトコンベヤー上で連続的に不融化・炭化して生産
性の向上を図ることが行われている(特開昭55−90621
号公報)。
この場合、得られたピッチ系炭素繊維自体は特に加工
に適するものとされているわけでなく、このような方法
では製織等の加工に適する前駆体ピッチ系炭素繊維が得
られていないのが現状であった。
この課題を解決するために、特公昭49−8634号公報、
特開昭49−19127号公報などに開示されているように光
学異方性ピッチを用いる方法が提案されている。
該光学異方性ピッチは易炭化、易黒鉛化材料であり、
高強度、高弾性率の炭素繊維の原料として優れた性質を
示す。特に、高度に炭化する際に緊張状態に置く必要が
ないため、コスト的にも品質的にも有利な方法と考えら
れる。
しかし、光学異方性ピッチからの炭素繊維は、容易に
高強度、高弾性率にすることが可能である半面、加工時
に折れるなど傷付き易い課題を有している。
このような課題は脆い繊維には多かれ少なかれ存在
し、ガラス繊維やPAN系炭素繊維などでは、潤滑性と集
束性を付与するため、サイジング剤を塗布して保護して
いる。
光学異方性ピッチからの炭素繊維の場合、易黒鉛化性
がわざわいしてサイジング剤をはじく傾向があり、均一
に塗布出来ないため潤滑性も集束性も不足する課題があ
る。
この課題を解決するためには、特開昭60−21911号公
報には、ピッチ繊維を不融化後400〜650℃で軽度に炭化
処理する方法を開示している。
この方法は、炭素繊維の弾性率を小さく保ち、傷付き
難くするためにはある程度有効であるが、炭化が軽度で
あり過ぎるため、形態および寸法安定性が不充分である
問題を有しており、特に破断強度が製織のような強い力
のかかる工程を通すには不足している。
(発明が解決しようとする課題) 本発明は、光学異方性ピッチから製造されるピッチ系
前駆体炭素繊維の脆さ、潤滑性の不足及び集束性の不足
を解決することを目的とする。
本発明は、ピッチ繊維の炭化条件を緩和して作った、
強度及び弾性率の小さい、しかも製織等の加工性の良好
な加工用ピッチ系前駆体炭素繊維の製造方法に関する。
従来、ピッチ繊維の炭化は不活性雰囲気中の熱処理に
より一般に行われており、通常1,200℃以上の温度で高
強度になるまで行われ、高弾性率を要求する場合には2,
000℃以上の温度で熱処理されるが、そのようにして得
られた高強度、高弾性率の炭素繊維は加工性が良好でな
く、より低温で炭化することが好ましいことが分かっ
た。
(課題を解決するための手段) 本発明者は上記課題を種々検討した結果、加工用ピッ
チ系前駆体炭素繊維の製造方法として、 (イ)光学異方性ピッチを原料とし、 (ロ)ピッチ繊維の不融化処理、炭化処理及び加工に際
し、溶融紡糸して引き取り、その後の処理を搬送用ベル
トに載せて連続的に行い、 (ハ)該炭化処理を比較的低温度で、且つ特定範囲の強
度、伸度、弾性率になるまで炭化処理を行い、 (ニ)加工に移すに際し、搬送用ベルト上の繊維層を逆
転させることにより、 製織等の加工に適するピッチ系前駆体炭素繊維を提供
できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は: 光学異方性ピッチを溶融紡糸して引き取り、搬送用ベ
ルト上に堆積させ、引き続いてピッチ繊維を搬送ベルト
に載せたまま200〜400℃の酸化性雰囲気中に連続的に導
入して該ピッチ繊維を不融化させ、引き続いて搬送用ベ
ルトに載せて不活性雰囲気中で700〜1800℃の温度で、
該ピッチ繊維の強度が15〜250kgf/mm2、伸度が0.3〜8.0
%、弾性率が400〜40,000kgf/mm2、前記不活性雰囲気中
の熱処理温度よりも高い温度での弛緩・熱処理で前記強
度及び弾性率が1.1倍以上になるまで炭化処理を行った
後、搬送用ベルト上の繊維層を逆転させてから次段の加
工に移す、加工用ピッチ系前駆体炭素繊維の製造方法を
提供する。
以下、本発明を詳細に説明する。
光学異方性ピッチ: 本発明において光学異方性ピッチとは、易黒鉛性ピッ
チである。易黒鉛性ピッチはピッチ繊維の炭化時、無緊
張の炭化においても高弾性率の炭素繊維を生じる利点が
ある。易黒鉛性ピッチには光学異方性ピッチのほかに、
これと近似の黒鉛化性を示すドーマントメソフェースピ
ッチやプリメソフェース炭素質が含まれる。
加工用ピッチ系前駆体炭素繊維の物性: 本発明によって製造される加工用ピッチ系前駆体炭素
繊維は、物性的に強度が15〜250kgf/mm2、好ましくは20
〜50kgf/mm2で;伸度が0.3〜8.0%、好ましくは0.6〜5.
0%で;弾性率が400〜40,000kgf/mm2を有するものであ
り、 しかも、その後の弛緩状態で熱処理することにより強
度、弾性率とも熱処理前の1.1倍以上に上昇する能力を
有する。
本発明の加工用ピッチ系前駆体炭素繊維において、強
度が15kgf/mm2より小さくなると加工時に繊維が傷付き
易くなるので好ましくない。また、強度が250kgf/mm2
り大きくなると織物の耳など織物等の製品の中の繊維が
ループを形成している部分が毛羽立ち易くなり、耐摩耗
性が低下するので好ましくない。
また、伸度が0.3%より小さくなると加工時に繊維が
傷付き易くなるので好ましくない。伸度が8.0%より大
きくなると織物等の製品の形態及び寸法安定性が悪くな
るので好ましくない。
なお、弾性率は、伸度=(強度/弾性率)×100
(%)の関係があり、強度及び伸度が上記範囲になるよ
うに調整されることにより、本発明のピッチ系前駆体炭
素繊維の弾性率が上記範囲に限定されることになる。
本発明の加工用ピッチ系前駆体炭素繊維において、弛
緩状態での熱処理による強度の上昇及び弾性率の上昇
は、易黒鉛化ピッチでは通常見られる現象であるが、1.
1倍より小さいものでは熱処理によってサイジング剤を
はじくようになる傾向が小さく、本発明の方法を用いる
必要性が小さい。更に、織物等の製品の耐疲労性、耐酸
化性が劣るので好ましくない。
また、弾性率上昇が40,000kgf/mm2より小さいもので
は耐疲労性、耐酸化性が劣り、製織等の加工時の寸法変
化が大きいので好ましくない。
加工用ピッチ系前駆体炭素繊維の製法: (i)本発明の方法においては、光学異方性ピッチを溶
融紡糸して引き取り、搬送用ベルト上に堆積させ、引き
続いてピッチ繊維を搬送ベルトに載せたまま連続的にそ
の後の処理を施すことが必要である。
即ち、光学異方性ピッチを溶融紡糸した後、一旦巻き
取るか或いは巻き取らずして、得られたピッチ繊維を搬
送用ベルトに載せて200〜400℃の酸化性雰囲気中に連続
的に導入して該ピッチ繊維を不融化させ、引き続いて搬
送用ベルトに載せて不活性ガス雰囲気中700〜1800℃の
温度で、該ピッチ繊維の強度が15〜250kgf/mm2、伸度が
0.3〜8.0%、弾性率が400〜40,000kgf/mm2になるまで炭
化処理を行うものである。
更に、本発明の方法では、上記処理後に、得られた前
駆体炭素繊維を引き続きボビン等に巻き取って製織等の
次段の加工を行う。
その際に、搬送用ベルト上の繊維層を逆転させてから
次段の加工工程に移行することが重要である。
この場合に、油剤およびサイジング剤は紡糸後、要す
ればさらに不融化後、更に炭化後に付与する。これらの
薬剤の存在は、炭化後にこれらがなくなっていても繊維
の巻き取り、或いは製織及びそれに伴う種々の加工時に
取り扱い性を改善する効果がある。
このような作用を示す理由は明らかでないが、炭素装
置の種類によって取り扱い性が異なることから、炭化前
に与えられた繊維の配列形態が炭化処理中に保たれるか
否かが原因である可能性が大きい。
不融化及び炭化時にピッチ繊維を耐熱性ボビンに巻い
て処理したもの、ケンス中で処理したものと、ベルトに
載せて処理したもの(本発明の実施例)を比較した。こ
れらの比較では強度、伸度及び弾性率では大差ない値を
示したが、巻き取り、製織、製編などの加工に際してベ
ルトに載せて処理したものの集束性が優れていることが
分かった。
(ii)搬送用ベルト上のピッチ繊維の状態: 紡糸後のピッチ繊維を搬送用ベルトに載せる様式は、
すでに形成された繊維層の中に後から載せられた繊維が
潜り込むような繊維の順番の逆転が起こらない様式であ
れば、どのような仕方でも良い。
搬送用ベルトに載せられた繊維が、振動や気流によっ
て移動しないように、搬送用ベルトは多孔質のものと
し、背面から吸引して繊維をベルトに圧着することが好
ましい。
搬送用ベルトに送り込まれる繊維は、ベルト面に垂直
に近い方向から送り込まれると、ベルトの孔やすでに形
成された繊維層の中に突き刺ささることもあるので、走
行する繊維を円運動、8の字運動など種々のパターンで
揺動させて、ベルト面と繊維が送り込まれる方向とのな
す角度を小さくすることが好ましい。繊維とベルトが衝
突する際に、ショックで開繊されることがあり、繊維の
順番の逆転の原因になったり、炭化後の加工において欠
点を生じる原因になる。
これを避けるため、油剤およびサイジング剤ととも
に、水など多量の揮発性液体を付着させたり、高粘度の
液体を付着させることが好ましい。
(iii)不融化: 搬送用ベルトに載せたピッチ繊維は、酸化性雰囲気の
中で200〜400℃に加熱して不融化する。その加熱温度は
一定であるよりも、入口では200℃付近の低温であり、
徐々に昇温して出口では400℃付近の高温とすることが
好ましい。
入口温度が高すぎるとピッチが融点に達して、繊維が
融着する恐れがある。入口付近では酸化速度が大きいの
で、それによる発熱でピッチが融着することがある。要
すれば入口付近の酸化性ガス濃度を低くする。また、不
融化時間は繊維の太さによって異なる。
不融化を終ったピッチ繊維は極めて弱いので、繊維に
力を加えるような処理をすることは出来ない。そのまま
搬送用ベルトに載せて炭化装置に送入する。この間に油
剤やサイジング剤を霧状にして付与することは可能であ
る。
(iv)炭化: 炭化は、不活性雰囲気中700〜1800℃の温度で、ピッ
チ繊維の強度が15〜250kgf/mm2、伸度が0.3〜8.0%、弾
性率が400〜40,000kgf/mm2になるまでの処理を行う。
炭化処理の初期は、400℃付近の温度で酸化性雰囲気
の不活性ガスによる置換から始めることが好ましい。
不活性ガスによる置換が不十分である場合、繊維がや
せたり、強度上昇が不十分となるなどの問題を生じる。
処理時間は繊維の太さによって異なるが、初期には10
〜100℃/分でゆっくりと昇温するとともに、十分に雰
囲気の不活性ガスによる置換を行い、終期には数秒〜数
百秒の間一定温度に保つことが好ましい。
(v)加工の際の搬送用ベルト上での逆転: 1)得られた繊維は引き続きボビン等に巻き取って次段
の製織等の加工を行うことができる。
また、引き続きさらに炭化を進めて、高強度、高弾性
率の炭素繊維とすることができる。また、さらに高温で
処理して黒鉛繊維とすることもできる。
このように、引き続き炭化を進めるに当たっては、繊
維に緊張を与えながら行うことができ、強度、弾性率を
大きくすることができる。
2)本発明のピッチ系前駆体炭素繊維を製織等の加工す
る場合、得られた繊維を搬送用ベルトの上からボビン等
に巻き取ったり、次段の高温処理による加工に送る場
合、ローラー等により引っ張ることが必要である。
この際、搬送用ベルト上の繊維層を逆転させることが
必要である。この後、引き出して張力を加え、直線状に
形を修正してやることが好ましい。
3)繊維層を逆転させないと、最初に紡糸された繊維が
繊維層の最下層になっているので、繊維を引き出す際に
繊維が接触して傷付いたり、繊維が絡まって加工に適さ
なくなることが生じ易い。繊維層を逆転させれば、繊維
の引き出しが紡糸の順となり、繊維を最上層から引き出
すことが可能となりこのような問題は生じない。
4)搬送用ベルト上の繊維層を逆転させるためには、種
々の方法を考えられるが、繊維層の上に第二のベルトを
接触させ、両方のベルトで繊維層を挟んで上下を反転さ
せた後、第二のベルト上に繊維層を載せ、その上から得
られた繊維を引き出す方法が最も好ましい。
5)得られたピッチ系前駆体炭素繊維に張力を与え、更
に炭化・黒鉛化する場合には、該炭素繊維の弾性率は他
の繊維に比べて非常に大きいので、通常の張力付与装置
では張力の均一化が困難である。
従って、この場合、流体の粘性により抵抗を与えるこ
とが好ましく、油剤やサイジング剤を含んだ液を通して
抵抗を与えることがとくに好ましい。この際液は溝や管
の中を流して置くことが好ましい。
ピッチ系前駆体炭素繊維の特徴: 1)このようにして得られたピッチ系前駆体炭素繊維
は、高度に炭化を進めた繊維と異なり、弾性率が小さ
く、油剤やサイジング剤のような液体に濡れやすく、集
束性が優れており、製織や製編などの小さい曲率半径で
曲げる工程を有する加工に対して優れた加工性を有す
る。
2)また、炭化を進めた繊維よりも低コストであるた
め、加工ロスの多い織物製品の場合非常に有利である。
3)また、その後の炭化等の加工に際して歪みの緩和が
起こるため、小さい曲率半径で曲げた部分の耐摩耗性や
耐疲労性が優れている。また、摩耗によっても毛羽だち
難く、耐屈曲性や耐スクラッチ性も優れている。
4)このような製織等の加工を行った後、本発明の炭素
繊維は炭化処理或いはさらに黒鉛化処理を行って織物製
品とすることができる。
〔実施例〕
本発明は下記の実施例及び比較例により具体的に説明
されるが、これらは本発明の範囲を限定しない。
(実施例1及び比較例1) 熱接触分解(FCC)残油の初溜404℃、終溜560℃(常
圧換算)の溜分にメタンガスを送入しながら420℃で2
時間熱処理し、さらに320℃で18時間加熱してメソフェ
ースを成長させ比重差によりメソフェースを沈降分離し
た。このピッチは光学異方性成分を96%含有し、キノリ
ン不溶分47%、トルエン不溶分82%を含有していた。
このピッチを出口に拡張部を有する紡糸孔より紡糸
し、油剤のエマルジョンを常法により塗布した後270m/
分で引き取り、搬送用ベルトの上に螺旋状の軌跡を描く
ように、揺動させながら堆積させた。
引き続き、入口200℃、出口400℃の炉の中で、昇温速
度20℃/分で空気による酸化処理を行い、不融化した。
炉から出た繊維に油剤をエアゾール状で付与した後、炭
化炉に送入した。炉の入口の温度は450℃で、600℃にな
るまでは5℃/分、800℃になるまでは20℃/分で昇温
しながら、雰囲気の不活性ガスによる置換を行った。そ
の後100℃/分の昇温速度で950℃まで昇温し、45秒間95
0℃で処理を行った後、炉から取り出し、搬送用ベルト
と第二のベルトで挟んで上下を反転させて巻き取った。
得られたピッチ系前駆体炭素繊維は強度35kgf/mm2
伸度4.7%、弾性率740kgf/mm2であった。
このピッチ系前駆体炭素繊維を2800℃のアルゴン中で
2分間熱処理したところ、強度288kgf/mm2、伸度0.4
%、弾性率78,000kgf/mm2の高強度、高弾性率繊維とな
った。
このピッチ系前駆体炭素繊維は、強度、弾性率が熱処
理前の夫々約8倍、105倍であり、上記熱処理により熱
処理前の1.1倍以上の能力を有することが分かった。
アルゴン中での上記熱処理前(発明品)と熱処理後
(比較品)の該炭素繊維を用いてその製織性を調べた。
平織の場合には両者の差は顕著でなかったが、二重織り
では熱処理前の繊維(発明品)が製織し易く、多軸織り
や三次元織りでは熱処理後の繊維(比較品)の製織が困
難であって、熱処理前、即ち本発明による前駆体炭素繊
維の段階で二重織り、多軸織りや三次元織りを行う必要
があることが分かった。
更に、アルゴン中での熱処理前(発明品)と熱処理後
(比較品)の該炭素繊維を平織したものの物理的性能を
調べた。この場合、熱処理前の該炭素繊維(発明品)の
織物はアルゴン中で上記2800℃で2時間熱処理して両者
を比較した。
両者とも強度、伸度、弾性率については殆ど差がなか
ったが、該炭素繊維で熱処理後平織りしたもの(比較
品)は、やや嵩高く、摩耗時に毛羽だち易い傾向があ
り、耐屈曲性、耐スクラッチ性がやや劣り、耳部の耐摩
耗性が大幅に劣っていた。
(比較例2) 実施例1の紡糸後のピッチ繊維をアルミナ磁器製のボ
ビンに巻き取り、実施例1とほぼ同様の昇温条件で不融
化及び炭化処理を行った。得られた繊維の強度、伸度、
弾性率は実施例1と大差なかったが、製織性は大幅に劣
り、多軸織物や三次元織物の製織は困難であった。
(比較例3) 実施例1の紡糸後のピッチ繊維を耐熱合金製のケンス
に取り、実施例1とほぼ同様の昇温条件で不融化及び炭
化処理を行った。得られた繊維の強度、伸度、弾性率は
実施例1と大差なかったが、ケンスから取り出すことが
難しく、製織性の評価は困難であった。
(実施例2) 実施例1と同じピッチを用い、同じ紡糸条件で紡糸
し、実施例1と同様に搬送用ベルト上に積層した状態で
不融化処理した繊維を、炭化炉の最高温度を変えた以外
実施例1と同様に炭化処理した後、実施例1と同様に上
下を反転して巻き取り、製織により加工性を評価した。
その結果を第1表に示す。
(発明の効果) 本発明の製造方法は、(イ)ピッチ原料として光学異
方性ピッチを選択したので、無緊張下(弛緩状態)での
炭化においても高弾性率の炭素繊維を生じる。
(ロ)ピッチ繊維を搬送用ベルトに載せて連続して不
融化と炭化とを行うことにより、加工に際し集束性が優
れている。
(ハ)該特定のピッチ原料の使用と相俟って、炭化を
比較的低温で行うことにより、製織等の加工に適する特
定の物性値に調整され、且つその後の弛緩状態での炭化
によって高強度、高弾性率の炭素繊維になる性能を持つ
加工用前駆体炭素繊維を提供できる。
(ニ)次段の加工に移行する前に、搬送用ベルト上で
逆転させることにより、加工に際して繊維が接触して傷
ついたり、繊維が絡まって加工に適さなくなることがな
い利点がある。
また、本発明の方法によって製造されたピッチ系前駆
体炭素繊維は、(イ)炭化程度が高いものより加工が容
易であり、低コストである。
(ロ)炭化程度が高いものに比べて、曲率半径の小さ
い曲げに対して丈夫であり、その曲げた部分が後段の炭
化処理によって応力緩和し、その曲げた部分の耐摩耗
性、耐屈曲性及び耐スクラッチ性が優れている。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭55−90621(JP,A) 特開 昭58−60019(JP,A) 特開 昭61−28020(JP,A) 特開 昭61−34227(JP,A)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】光学異方性ピッチを溶融紡糸して引き取
    り、搬送用ベルト上に堆積させ、引き続いてピッチ繊維
    を搬送ベルトに載せたまま200〜400℃の酸化性雰囲気中
    に連続的に導入して該ピッチ繊維を不融化させ、引き続
    いて搬送用ベルトに載せて不活性雰囲気中で700〜1800
    ℃の温度で、該ピッチ繊維の強度が15〜250kgf/mm2、伸
    度が0.3〜8.0%、弾性率が400〜40,000kgf/mm2、前記不
    活性雰囲気中の熱処理温度よりも高い温度での弛緩・熱
    処理で前記強度及び弾性率が1.1倍以上になるまで炭化
    処理を行った後、搬送用ベルト上の繊維層を逆転させて
    から次段の加工に移すことを特徴とする、加工用ピッチ
    系前駆体炭素繊維の製造方法。
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