JP2606904B2 - 耐触性が良好な永久磁石及びその製造方法 - Google Patents

耐触性が良好な永久磁石及びその製造方法

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【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、従来とは異なった新規なクロメート皮膜と
樹脂膜の積層被覆により耐蝕性を顕著に改善した高性能
永久磁石及びその製造方法に関する。
[従来の技術] 近年のいわゆる軽薄短小を追求する技術革新はエレク
トロニクス材料としての永久磁石にも同様のことを要求
し、特にその要求に応じ得るものとして希土類系永久磁
石の需要が急増している。
なかでも高価でかつ原料供給に不安のあるCo離れした
希土類・鉄・ホウ素系(以下RFeB系と略記する。Rは希
土類元素を表示する略号である。)永久磁石への期待は
大きく新素材として注目されている。
しかし、RFeB系磁石の代表的組成は原子百分比で8〜
30%の希土類元素、2〜20%のホウ素(B)、残部が実
質的に鉄(特公昭61−34242号公報参照)と、酸化しや
すい鉄と希土類元素が大部分であるため耐蝕性が劣ると
いう問題点があつた。
その解決手段としては、合金成分を添加する方法(例
えば特開昭59−64733号,60−162754号,61−217549号公
報参照)と表面被覆による方法に大別される。
前者は高価な添加元素を必要とすることと、耐蝕性を
向上しようとすると磁気特性が低下する等の問題点があ
り、工業的には後者への期待が大きい。
後者には樹脂被覆法,クロメート被覆法,メッキ法,P
VD法,CVD法等の多様な方法が知られている。なかでも樹
脂被覆法とクロメート被覆法は簡便な割には防食性に優
れているので盛んに用いられている。
そして、焼結磁石自体に耐酸化性化成被膜を被覆して
なる永久磁石が知られている(特開昭60−63903号)。
この発明におけるクロム酸塩処理は別名クロメート処理
とも呼ばれ、炭酸ソーダ,クロム酸ソーダ,けい酸ソー
ダの混合液によるものである。
あるいは、樹脂被覆した永久磁石においては単にエポ
キシ樹脂等をコーティングしたのでは永久磁石本体との
密着性が不十分であり層状剥離を起こすことが多かっ
た。
更に、化成被膜処理した後に樹脂層を順次積層被覆し
てなる永久磁石の発明も知られている(特開昭60−6390
2号)。この場合の化成処理は前述のものと全く同様で
ありソーダを用いたものである。樹脂としてはエポキシ
樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、アルキド樹脂、メラミン
樹脂、シリコン樹脂等があげられている。
[発明が解決しようとしている問題点] しかし、クロム酸塩処理で化成被膜を設けた従来のク
ロメート処理のものにも長時間の耐蝕性に難点があっ
た。重クロム酸ナトリウムを使用することにより残留ナ
トリウム等のアルカリ金属が長時間の耐蝕性を低下させ
る為である。このことはコンピュータ等の高信頼性を要
求される用途には致命的であった。使用中に於ける発錆
により磁気特性の劣化を来たすからである。
ここで注意すべきことは、永久磁石の場合は単なる鋼
板の場合と異なり、磁気特性の劣化をも伴うという特殊
性である。また、脱離した錆によって電子機器のロック
事故に発展する恐れが大きいという特殊性にも注意する
必要がある。この要請は益々高度化する情報化社会にお
いて強まる一途である。
そこで、本発明は永久磁石体との密着性が良好であ
り、かつ長時間の耐蝕性が良好で信頼性が優れた表面処
理された永久磁石を安価に提供することにある。
[問題点を解決するための手段] 本発明は、希土類・鉄・ホウ素系(RFeB系)永久磁石
体表面にクロメート皮膜と樹脂膜を積層した耐蝕性が良
好な永久磁石であり、またRFeB系永久磁石を特定濃度の
クロム酸水溶液で化成処理し、その後樹脂を被覆する耐
蝕性が良好な永久磁石の製造方法である。
すなわち、本発明者は従来のクロム酸塩を用いたクロ
メート処理(以下、この明細書では「従来のクロメート
処理」と呼ぶ。)が何故長時間の耐蝕性に劣るのかを研
究した結果、クロメート皮膜内に含有されるNa,K等のア
ルカリ金属が長時間の間に空気中の水分と反応して錆を
発生させていることを究明して完成させたものである。
本発明において、クロメート皮膜は従来のようにクロ
ム酸塩や重クロム酸塩を用いるのではなく、特定範囲の
クロム酸濃度の水溶液を用いる点に特徴がある。
すなわち、本発明に係る新規なクロメート処理におい
て、クロム酸(CrO3)濃度が1〜50g/1の無水クロム酸
の水溶液を用いる。ここで1g/1未満では耐蝕性が不十分
であり、50g/1を越えるとクロメート皮膜の形成が不十
分である。より好ましい範囲は2〜30g/1であり、最も
好ましいのは4〜9g/1である。
本発明のクロム酸濃度は水溶液のpH値に関係がある。
即ち、クロメート皮膜(Cr(OH)・Cr(OH)・CrO4
の形成反応式; Fe+2H+2H2+2CrO3+H2O =Fe2+2H2CrO4+Cr(OH)・Cr(OH)・CrO4 (大谷「金属表面工学」日刊工業1969年、p.221参照)
におけるpH値の低下(水素イオン濃度(H+)の増加)に
伴いクロメート皮膜の形成が促進されるからだと考えら
れる。
このような新規なクロメート皮膜処理法によると耐蝕
性、特に長時間の耐蝕性が改善される訳である。本発明
のクロメート皮膜のアルカリ金属の含有量が1000ppmを
越えると、当初の耐蝕性は有意差は見られないものの、
長時間経過後ではこれらが空気中の水分と反応を起こし
クロメートの耐蝕性が失われるからである。この差は耐
蝕性の加速試験、例えばPCT試験(プレッシャ・クッカ
ー・テスト)等で比較的短時間で顕著な差となって現わ
れる。
更に本発明はそのようなクロメート皮膜と樹脂皮膜の
積層によって相乗効果が発揮されることを見出したもの
である。すなわち、クロメート皮膜は耐蝕性の向上に効
果がある反面、ヒッカキによる傷等を受け易く下地が露
出することがある。その場合には、耐蝕性が急速に劣化
する。従って、ヒッカキ傷の防止を樹脂皮膜が担って相
乗効果が得られる。
本発明において樹脂膜は特にフラン系樹脂、エポキシ
系樹脂の1種以上またはそれらの混合物を用いることが
好ましい。フラン系樹脂はフルフリルアルコールを原料
として製造され、一般にはフェノール樹脂で変性して使
用されることが多く、耐酸性等の耐蝕性が良好であるば
かりではなく、焼き付けをしなくても常温で硬化させる
ことができる。エポキシ樹脂は粘度10,000cp以下の液状
のものに樹脂族アミンや芳香族アミンなどを硬化剤とし
たものでもよい。エポキシ樹脂も広く塗装、表面被覆に
用いられているものである。
本発明において樹脂の被覆方法は吹き付け塗装,電着
塗装,粉体静電塗装等のいずれでもよい。
本発明におけるブラスト処理は永久磁石体への塗膜の
投鋲効果があり耐蝕性の改善に大きく寄与する。またブ
ラスト処理は磁石表面の黒皮、酸化層、加工歪層等の表
面層を除去して酸化や切削加工等に伴う磁石特性の劣化
を改善し、清浄化された磁石体表面にクロメート皮膜を
被覆する。ブラスト処理に用いる粒子としてはAl2O3
特に好ましい。研削力が強いからである。
本発明に用いるRFeB系磁石は、焼結磁石、超急冷磁
石、鋳造磁石等、その製造方法に無関係に選ぶことがで
きる。とりわけ、超急冷磁石は結晶粒の間にRリッチな
相の塊が存在せず、低い希土類元素含有量のものが容易
に得られること、表面の孔が少なくクロメートののり具
合が良好であること、等の理由から最も好ましい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[実施例] (実施例1) 重量%でNd 28.6%,Dy 3.8%,B 1.0%,Al 0.3%,
Si 0.1%,Nb 1.5%,残部Feなる組成を有する合金を
アーク溶解により作製した。得られたインゴットをスタ
ンプミル及びディスクミルにて粗粉砕し32メッシュ以下
に調整後、ジェットミルで微粉砕した。粉砕媒体は窒素
ガスであり、粉砕粒度は3.5μm(F.S.S.S)である。
ここで、F.S.S.Sはフィッシュー社のサブシーブサイ
ザ(空気透過法)による粒径測定器によって測定した粒
径を示す。
得られた微粉砕粉を15kOeの磁場中で横磁場成形(加
圧方向と磁場方向が直交)した。成形圧力は2ton/cm2
ある。得られた成形体をアルゴン雰囲気中で1100℃で1
時間焼結し、焼結後アルゴン気流中で急冷した。
次に、得られた永久磁石体から22x15x4mmの試験片を
切り出し平均粒径50μmの不定形のAl2O3粒子でブラス
ト処理した。媒体は圧力2.5kg/cm2の窒素ガスを用い20
分間処理した。
その後、脱脂して濃度6.0g/l(PH1.3)の無水クロム
酸水溶液に50℃で5分間浸漬し常温放冷で乾燥したとこ
ろ、良質なクロメート皮膜が得られた。
比較例として試験片を炭酸ソーダ55.0g/l,クロム酸ソ
ーダ17.5g/l,ケイ酸ソーダ0.8g/lからなり浴温95℃の水
溶液中に10分間浸漬してクロメート皮膜を形成させた
(比較例)。
これらのクロメート皮膜のアルカリ金属の含有量をEP
MA(Electron Probe Micro Analyser)で分析した結果
を第1表に示す。本発明によるとアルカリ金属の含有量
が著しく低減していることがわかる。
次にエポキシ系樹脂を水溶液中で酸との反応により正
イオン化させ、永久磁石を陰極にしてSUS316材を陽極
に、温度28℃、電圧150V,3分の条件で永久磁石にエポキ
シ樹脂を電気的に付着させ熱硬化により架橋反応を起こ
させて凝固塗着(電着塗装)させた。この時の塗膜厚さ
は20μmであった。比較例の場合も同様に電着塗装し
た。塗膜厚さは同様に20μmであった。
こうして得られた永久磁石を恒温恒湿槽の中に入れ
て、試験前後で外観,テーピング剥離テスト,酸化増量
の測定及び耐溶剤試験を行なった。
ここで、テーピング剥離テストとは幅18mmの特定のセ
ロファンテープを貼り付けた後はがした時の皮膜の剥離
状態を目視観察する相対的な試験方法であり、酸化増量
は80℃,90%RHで600時間保持した時の重量変化(含水及
び酸化による重量の増加)を測定する試験である。測定
には電子天秤を使い、耐湿試験後30℃,40%RHにて2時
間、更に大気中に1時間放置後、重量を測定した。耐溶
剤試験は塗装後、I.I.Iトリクロルエタン及びIPA(イソ
プロピルアルコール)を使用し、30℃にて24時間浸漬し
た後の外観目視、及び400回(200往復)のラビングテス
ト(往復摩擦試験)を行なった。
その結果、外観、テーピング剥離テスト、耐溶剤性試
験及びラビングテストの結果は極めて良好であった。60
0時間保持後の酸化増量も比較例の場合が0.94mg/cm2
も達したのに比べ、本発明の場合は0.07mg/cm2という顕
著な耐蝕効果があった。
(実施例2) 実施例1と同様な方法で作成した永久磁石体から第1
表(a)に示す種々の樹脂塗装を施した試料を作成して
試験した結果を第1表(b)〜(d)に示す。耐湿試験
(80℃,90%RHの恒温恒湿槽を用いた。),重量変化に
ついては第1図に示す。この場合はフラン系樹脂を使用
した場合が最も耐蝕制が良好であることがわかる。なお
試料No.9のエポキシ樹脂は粉体静電塗装による。
第1表(a)において、1コートとは塗装を一回で、
2コートとは二回塗りを行うものをいう。
各種試験の評価基準は下記の表に示す。
(実施例3) 実施例1とクロム酸の化成条件のみを変えて、他の条
件は同一にして80℃で90%RH耐湿試験を行なった。結果
を第2表及び第3表に示す通りクロム酸(CrO3)濃度は
1〜50g/lが適当であることがわかる。
そして外観の比較をより詳細に行なった結果、2〜30
g/lがより好ましく、更に好ましくは4〜9g/lであるこ
とがわかった。
ここで表中の外観,テーピングの判断基準は第1表の
場合と同様であり、○○○は秀、○○は優、○は良好で
あることを示す。外観試験とテーピング剥離試験の間に
は良好な相関がある。
(比較例1) 実施例1と同一条件で作成した本発明の永久磁石と同
一の同質・形状のものであるが表面処理を炭酸ソーダ5
5.0g/l,クロム酸ソーダ17.5g/l,ケイ酸ソーダ0.8g/lで
浴温95℃、保持時間10分として化成皮膜を形成させた
後、実施例1と同一条件でフラン系樹脂を吹き付け塗装
したところ膜厚が100μmであった。
実施例1と比較例1の試料を各50個、80℃で90%RHの
恒温恒湿槽に入れて耐蝕性の比較試験をした。第4表
(a),(b)にその評価結果を示す。表中の数値は第
1表の評価基準で○(外観の変化なし、テーピングの剥
離なし)の個数である。
比較例1によるクロム酸ソーダによる化成皮膜では長
時間経過時の耐蝕性があまり良くないことがわかる。
(比較例2,3) クロメート処理と樹脂被膜の相乗効果を確かめる為
に、本発明にかかる積層処理をしたものと、クロメート
処理のみのもの(比較例2)、あるいは樹脂被膜のみの
もの(比較例3)を同時に恒温恒湿槽に入れて耐食性の
評価試験を行った。試験片の作製方法、ならびに試験方
法は比較例1の場合と同様とした。その結果を第5表
(a),(b)に示す。この表からクロメート処理のみ
でも相当の耐食性があるものの、特にテーピング剥離試
験でやや耐食性に劣ることがわかる。なお、樹脂被覆の
みの場合はそれよりも耐食性が劣ることがわかる。
[発明の効果] 本発明によれば従来のクロメート処理、及び樹脂被膜
では不十分であった希土類・鉄・ホウ素系永久磁石の長
時間耐蝕性が著しく改善され、電子機器等に用いた場合
の信頼性の向上は顕著である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の永久磁石の耐湿試験と酸化増量との関
係を示す図である。

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】希土類・鉄・ホウ素系永久磁石体表面にア
    ルカリ金属の含有量が1000ppm(重量比)以下であるク
    ロメート皮膜と樹脂膜(フラン系樹脂、エポキシ系樹脂
    の一種または二種以上)とを積層した耐蝕性が良好な永
    久磁石。
  2. 【請求項2】希土類・鉄・ホウ素系永久磁石体表面に、
    アルカリ金属の含有量が1000ppm(重量比)以下である
    クロメート皮膜を被覆した耐蝕性が良好な永久磁石。
  3. 【請求項3】希土類・鉄・ホウ素系永久磁石体を、クロ
    ム酸濃度が1〜50g/であるクロム酸水溶液で化成処理
    し、その後樹脂を被覆する耐蝕性が良好な永久磁石の製
    造方法。
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