JP2599031B2 - 高純度亜硝酸アルキルエステルの製造法 - Google Patents

高純度亜硝酸アルキルエステルの製造法

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 この発明は、高純度の亜硝酸アルキルエステルの製造
法に関するものである。
亜硝酸アルキルエステルは、有機合成反応の原料とし
て、例えば、ジアゾ化、オキシム化、ニトロソ化などに
使用することができ、また、よく知られているように、
亜硝酸エチルや亜硝酸アミル等は、血管拡張作用を有し
ており、そのものが医薬品として使用されるなど、有用
な化合物である。
〔従来技術の説明〕
亜硝酸エステルの製造方法としては、これまでに幾つ
か知られているが、大きく分けて次の2つの方法があ
る。
一つは、最も一般的な方法としてよく使われている亜
硝酸塩(ナトリウム塩またはカリウム塩)と強酸とを使
用する方法であり、例えば、オルガニック・シンセシス
(Org.Syn.)16巻(1936年)やジャーナル・オブ・アメ
リカン・ササイアティー(J.Am.Chem.Soc.)55巻3888頁
(1933年)などにその製法が開示されている。
もう一つは、アルコールにNOx(窒素酸化物)を接触
させて製造する方法である。
その他の方法として、塩化ニトロシルや硫酸ニトロシ
ルをアルコールに作用させる方法、無水亜硝酸をアルコ
ールに作用させる方法、ハロゲン化アルキルと亜硝酸銀
とを反応させる方法などが小規模の合成で実施されてい
る。
そして、上記第一の方法においてこれまで実施されて
きた方法は、アルコールに亜硝酸を作用させる方法であ
り、具体的には、亜硝酸ナトリウムの水溶液に、目的と
する亜硝酸アルキルエステルのエステル部分と同一のア
ルキル基を有するアルコールを加え、これに硫酸を添加
していく方法が大部分を占めるが、塩酸を使用する方法
や、一部、モノクロル酢酸や蟻酸等の有機酸を使用する
方法も行われている。
上記の公知の方法にて、亜硝酸アルキルエステルを製
造する場合、何れの方法を用いても収率よく製造するこ
とが可能である。
しかしながら、これら公知の方法で亜硝酸アルキルエ
ステルを製造した場合は、それぞれ、以下に述べるよう
な欠点を有する。
まず、最も一般的な方法である硫酸を使用する製法で
あるが、亜硝酸塩とアルコールとの反応は、不純物を生
ずる副反応を抑えるために、低い温度で行う必要がある
が、高い濃度の硫酸を使用すると、硫酸の溶解熱が極め
て大きいため、如何に撹拌を強くしても局部的に高温部
分が生じ、不純物の生成が顕著に起こる。この不純物は
アルコールの酸化生成物であるアルデヒドおよびその派
生物であり、高純度の亜硝酸アルキルエステルを製造す
るためには、さらに蒸留等の精製を実施しなければなら
ないという問題がある。従って、硫酸を使用する亜硝酸
アルキルエステルの製法では、亜硝酸塩とアルコールと
の反応を不純物を生成しないように行わせるため、かな
り希釈した硫酸を前記反応に供する必要があり、装置的
に不利である。また、前記亜硝酸塩とアルコールとの反
応によって生成する硫酸ナトリウムの溶解度が低温では
かなり低いので、反応液が硫酸ナトリウムのスラリーと
なるなど、工業的に製造する方法としては問題が大き
い。
次に、塩酸を使用する方法であるが、この場合、不純
物の生成は抑えられるが、塩酸を使用するために装置腐
食の問題があり、工業的規模で生産するには特殊な装置
が要求されるなどの欠点を有する。
その他、有機酸を使用する方法や、ニトロシル化合物
を使用する方法などは、そのものが高価であり、工業的
製法としては意味がない。
また、NOxガスを使用する方法は、ラジカル反応等を
含み、やはり不純物の生成は避けられない。
〔発明が解決しようとする課題〕
従来公知の亜硝酸アルキルエステルの製造方法は、前
述したように、何れの方法も、高純度の亜硝酸アルキル
エステルを製造する方法としては、工業的に満足の行く
ものではないという欠点があったのである。
そこで、この発明の目的は、不純物の生成を抑制し、
簡便かつ安価に高純度の亜硝酸アルキルエステルを高収
率で製造し得る工業的に好適な亜硝酸アルキルエステル
の製造法を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
この発明者らは、従来法における前述したような問題
点を解決し、高純度の亜硝酸アルキルエステルを簡便に
製造する方法について鋭意検討を行ってきた。その結
果、亜硝酸塩使用による亜硝酸アルキルエステルの製法
において、硫酸に代えて硝酸を使用した場合、不純物が
殆ど生成しない事実を発見し、この発明に到達した。
すなわち、この発明は、 アルコールに亜硝酸を作用させて亜硝酸アルキルエステ
ルを製造する方法において、 (1) 炭素数4〜6の脂肪族一価アルコールと、亜硝
酸のアルカリ金属塩の水溶液とを混合・撹拌しながら、
該混合溶液に、その温度を0〜30℃に保つようにして、
生成する反応液の水相のpH値が1〜3の範囲になるまで
硝酸水溶液を滴下する第一工程;および、 (2) 第一工程で得られた反応液の水相を分離・除去
し、さらに、有機相を、洗浄液のpH値が4以上になるま
で水洗する第二工程; からなることを特徴とする高純度亜硝酸アルキルエステ
ルの製造法に関する。
〔本発明の各要件の詳しい説明〕
以下に、この発明の方法を詳しく説明する。
前述のように、亜硝酸塩を使用する方法においては、
その殆どが硫酸を使用しており、硝酸を反応に具してい
る例はない。その理由は2つ考えられる。1つは、亜硝
酸塩とアルコールとの反応であるために、極めて高い爆
発性を有する硝酸エステルの生成が考えられるためであ
る。しかしながら、この発明の方法における亜硝酸塩と
アルコールとの反応は、後述するように、温和な条件で
操作され、かつ、添加される硝酸は速やかに亜硝酸塩と
反応するため、反応液中には極めて低濃度でしか存在せ
ず、実質的に硝酸エステルの生成は起こらない。もう1
つの理由は、過去において多量の高純度の亜硝酸エステ
ルの需要が高くなかったためである。しかし、前述した
ように、昨今、該亜硝酸エステルの用途が拡大し、同時
に純度の高い製品が要求されているのである。
この発明で使用される亜硝酸塩としては、亜硝酸のア
ルカリ金属塩であり、具体的には、亜硝酸リチウム、亜
硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどが好適に挙げられ
るが、特に亜硝酸ナトリウムと亜硝酸カリウムが好まし
く、中でも亜硝酸ナトリウムが最も好ましい。
また、この発明で用いられるアルコールとしては、n
−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブ
チルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミル
アルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコー
ルなど、炭素数4〜6の直鎖または分岐鎖の飽和脂肪族
一価アルコールが好適に挙げられる。
この発明の操作方法としては、公知の硫酸を使用する
方法〔例えば、オルガニック・シンセシーズ(Organic
Syntheses)第II巻、108頁〕に準ずるものである。
すなわち、この発明の製造法の第一工程においては、
まず前記亜硝酸のアルカリ金属塩を水に溶解する。この
ときの得られる水溶液の濃度は特に限定されないが、後
述する亜硝酸塩とアルコールの反応を操作上容易に行え
るようにするため、通常、生成する硝酸塩の溶解度も考
慮して、飽和濃度以下で行うのが好ましい。
次に、この水溶液に目的とする亜硝酸アルキルエステ
ルと同一のアルキル基を有する前述したようなアルコー
ルを加える。添加量は、亜硝酸塩1モルに対して0.8〜
1.2モル、好ましくは0.95〜1.05モルの範囲であること
が望ましい。もちろん、この範囲に限定されるものでは
ないが、アルコールが少なければ、亜硝酸塩が残り経済
的でなく、また、アルコールが多ければ、生成物中に未
反応アルコールが不純物として残り、精製が必要とな
り、あまり好ましいことではない。この亜硝酸塩とアル
コールの反応は、濃度が低くても十分な速度で進行する
ため、亜硝酸塩とアルコールを等モル量混合することが
最も好ましい。
この発明の方法においては、次に、前述のようにして
得られた亜硝酸塩とアルコールとの混合溶液を撹拌しな
がら、該混合溶液に硝酸水溶液を、得られる反応液の水
相のpH値が1〜3の範囲になるまで滴下していくのであ
る。従って、滴下する硝酸の量は、溶液中の亜硝酸塩1
モルに対して0.9〜1.1モル、好ましくは0.95〜1.05モル
の範囲であることが望ましい。この滴下量の範囲の限定
は、前述のアルコールの添加量の限定と同じ理由による
ものである。硝酸の濃度としては、特に限定されるもの
ではないが、生成する硝酸塩の回収を考慮する場合に
は、あまり薄い濃度であると不利である。
前記混合溶液に硝酸を滴下するに際して、得られる反
応液の温度は、生成する亜硝酸アルキルエステルが分解
し易い物質であるため低い方が好ましく、従って、前記
亜硝酸塩とアルコールとの反応は、通常0〜30℃の範囲
で行われるが、0〜15℃の範囲で行われるのが最も好ま
しい。このように、この発明では、亜硝酸塩とアルコー
ルとの反応が温和な条件下で行われるのが特に特徴的で
あり、前記反応操作が発熱を伴う操作であるため、反応
中、外部より冷却しなけれはならないことは言うまでも
ない。
そこで、この発明において、硝酸の滴下速度は、前記
混合溶液への硝酸の滴下中、得られる反応液が前記の温
度範囲に維持されるよう調整されればよく、反応液の冷
却設備能力や撹拌の程度により決められるべきである
が、前記混合溶液への硝酸の滴下が通常1〜10時間の範
囲で終了するような速度であることが好ましい。
なお、硝酸の滴下量は、反応液の水相のpHで知ること
ができ、前記のような条件で行えば、約pH2に当量点が
あることからこれを利用すれば操作が容易である。
次に、この発明の製造法における第二工程について説
明する。
前述のようにして硝酸水溶液の滴下が終了した後、反
応液の撹拌を止めて静置し、有機相と水相とに分液を行
い、水相を抜き出す。
目的生成物の亜硝酸アルキルエステルからなる有機相
は、この段階で既に高い純度を有しているが、なお残存
する微量の酸やアルコールを除去するため、引き続き水
洗を行うのである。
水洗に使用する水の量は特に制限はないが、亜硝酸ア
ルキルエステルの安定性を増すために、有機相中に残存
する酸量を50重量ppm以下にすることが好ましい。従っ
て、水洗時の水相のpH値が4以上になるまで水洗を行う
ことが好ましい。
もちろん、一般的に実施されるように、水洗時に炭酸
ナトリウム等のアルカリを加えて行うことも有効ではあ
るが、有機相中に残存する酸は水洗のみで十分に除去で
き、有機相、すなわち、亜硝酸アルキルエステル中の酸
量について特に厳密であることが必要であるとき以外
は、特に必要ではない。
〔実施例〕
次に、実施例および比較例を挙げて、この発明の方法
を具体的に説明するが、これらは、この発明の方法を何
ら限定するものではない。
実施例1 4つ口フラスコ(容量2)に撹拌機、温度計、滴下
ロート、pH計、およびドラフトへの排気管を取付け、こ
れに36重量%亜硝酸ナトリウム水溶液958g(亜硝酸ナト
リウム分;5.0モル)とn−ブタノール370g(5.0モル)
を入れ、撹拌しながら氷水バスで5℃に冷却した。
次に滴下ロートに60重量%硝酸を仕込み、撹拌下の前
記亜硝酸ナトリウム水溶液とn−ブタノールの混合溶液
中にゆっくり滴下していった。この間、得られる反応液
の温度を5〜15℃に保つように、硝酸の滴下速度を調整
した。そして、反応液のpHが2.0になったところで硝酸
の滴下および反応液の撹拌を止めた。硝酸の滴下量は、
全部で530g(硝酸分;5.05モル)であった。
そこで、反応液を分液ロートに移して静置・分液し、
水相を抜き出した。さらに、分液ロート内の有機相に水
300mlを加えて水洗し、分液した。この操作を2回繰り
返したとき、分液ロートから抜き出した水相のpHが4.3
になった。
以上のようにして得られた有機相の重量は508gで、こ
れをガスクロマトグラフで分析したところ、亜硝酸ブチ
ルの含量98.5重量%、n−ブタノールの含量1.4重量%
および蟻酸ブチルの含量0.05重量%で、その他の不純物
は確認されなかった。また、水分含量80重量ppmであっ
た。
実施例2 n−ブタノール370g(5.0モル)に代えてイソアミル
アルコール440g(5.0モル)を使用したことのほかは、
実施例1と同様の操作を行って、主として亜硝酸イソア
ミルを含有する有機相573gを得た。
この有機相をガスクロマトグラフで分析したところ、
亜硝酸イソアミルの含量99.1重量%およびイソアミルア
ルコールの含量0.7重量%で、その他の不純物は確認さ
れなかった。また、水分含量50重量ppmであった。
比較例1 60重量%硝酸に代えて濃硫酸を使用したことのほか
は、実施例1と同様の操作を行った。このとき、濃硫酸
の滴下量は255gであった。
得られた主として亜硝酸ブチルを含有する有機相は51
2gであった。さらに、この有機相をガスクロマトグラフ
で分析したところ、その組成は、亜硝酸ブチル;94.8重
量%、n−ブタノール;1.8重量%、蟻酸ブチル;0.7重量
%、酪酸ブチル;0.1重量%およびブチルアルデヒドジブ
チルアセタール1.5重量%であり、その他酢酸ブチル、
プロピオン酸ブチル、吉草酸ブチル等が確認された。な
お、水分は120重量ppmであった。
比較例2 4つ口フラスコ(容量1)に撹拌機、温度計、ガス
吹き込みノズル、およびドラフトへの排気管を取付け、
これにn−ブタノール370g(5.0モル)を仕込み、撹拌
しながら氷水バスで5℃に冷却した。
これにNOxガス(NO;10容量%、NO2;10要領%、N2;80
容量%の混合ガス)を、約1/分の流量で前記ガス吹
き込みノズルから1時間吹き込んだ。ガスを吹き込んで
いる間、反応液の温度を5〜10℃に維持した。
ガス吹き込み終了後、反応液を分液ロートに移し、30
0mlの水を加えて洗浄した。この水洗操作を2回行った
後、得られた有機相は502gであり、次にこの有機相をガ
スクロマトグラフにて分析した。その結果、亜硝酸ブチ
ル;91.2重量%、n−ブタノール;5.4重量%、蟻酸ブチ
ル;1.2重量%、酪酸ブチル;0.2重量%およびブチルアル
デヒドジブチルアセタール;1.8重量%が含まれており、
その他、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、吉草酸ブチ
ル等が確認された。なお、水分は140重量ppm含有されて
いることが判った。
〔作用効果の説明〕
この発明の方法は、前述したように、従来公知の亜硝
酸アルキルエステルの製造法が、操作の容易性、経済
性、製品純度等において工業的には十分満足の行くもの
ではないという問題があったのに対し、亜硝酸アルカリ
金属塩の水溶液とアルコールとを、反応液のpHを硝酸で
調整しながら、反応させることによって、不純物の生成
を抑制しながら、温和な条件下で簡便かつ安価に高純度
の亜硝酸アルキルエステルを高収率で製造する方法を提
供し得る効果を奏するものである。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】アルコールに亜硝酸を作用させて亜硝酸ア
    ルキルエステルを製造する方法において、 (1) 炭素数4〜6の脂肪族一価アルコールと、亜硝
    酸のアルカリ金属塩の水溶液とを混合・撹拌しながら、
    該混合溶液に、その温度を0〜30℃に保つようにして、
    生成する反応液の水相のpH値が1〜3の範囲になるまで
    硝酸水溶液を滴下する第一工程;および、 (2) 第一工程で得られた反応液の水相を分離・除去
    し、さらに、有機相を、洗浄液のpH値が4以上になるま
    で水洗する第二工程; からなることを特徴とする高純度亜硝酸アルキルエステ
    ルの製造法。
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