JP2590638B2 - 耐炎化糸の製造方法およびその装置 - Google Patents

耐炎化糸の製造方法およびその装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は耐炎化糸の製造方法およ
びその装置、より詳しくは品質に優れた無撚炭素繊維束
の製造に適した、前駆体繊維の耐炎化処理方法およびそ
の処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、炭素繊維はその卓越した力学的、
熱的、電気的性質および耐薬品性などを有しているた
め、航空・宇宙用構造材料からゴルフシャフト、テニス
ラケット、釣竿等のスポーツ・レジャー用品にいたるま
で広範囲の用途に用いられている。これらは主として炭
素繊維束を複数本引き揃えてエポキシ樹脂などに埋没さ
せたシート状のプリプレグとした後、さらに高次の成型
加工を施して製品とされる。
【0003】ところで、このような炭素繊維を得るため
の焼成工程は、一般に200〜300℃の温度に保たれ
た酸化性雰囲気中で前駆体繊維、たとえばアクリル系、
タール・ピッチ系、レーヨン系、ポリビニルアルコール
系等の繊維を加熱して耐炎化糸となし、しかる後800
℃以上の不活性ガス雰囲気中で加熱して炭素繊維とする
方法が工業的に広く採用されている。耐炎化糸を得るた
めの耐炎化工程は熱処理に通常0.5〜2hrという長
時間を要するため、耐炎化装置内に設けた移送ローラに
多数回捲回して処理する方法がとられており、その際前
駆体繊維が互いに交差したり絡み合ったりしないような
糸条間隔を維持する必要から、前記の移送ローラには溝
付きローラの使用が提案されている(たとえば特公昭5
9−28662号公報)。
【0004】一方、上述したシート状のプリプレグに
は、今日,より一層の薄物化ないし厚さの均一化が求め
られ、このため原料繊維(炭素繊維)には従来のいわゆ
るロープ状のものに代って無撚りの状態でしかも扁平状
のものを用いることが提案されている(たとえば特開平
1−292038号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記し
た溝付きローラは、前駆体繊維の移送用以外に前駆体繊
維の方向転換あるいは張力付与などの目的で前駆体繊維
と多数度にわたり接触する。このため繊維糸条には毛羽
の発生や糸切れなどのトラブルが起りやすく、毛羽や糸
切れなどの少ない高品位の炭素繊維が得がたいという問
題があった。また、かかる問題は前述した無撚りの炭素
繊維を得るため無撚状態の前駆体繊維を用いたときに、
特に顕著であった。すなわち、本発明の目的は実質的に
無撚状態の前駆体繊維を耐炎化する際の、毛羽、糸切
れ、ローラ巻付きなどのトラブルを軽減させ、安定操業
のもとで高品位かつ高品質の耐炎化糸を得ることにあ
る。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、 (1)加熱された酸化性雰囲気中で、前駆体繊維束を溝
付きローラにより連続的に走行させ、その間に該繊維束
を酸化する耐炎化糸の製造方法において、実質的に無撚
状態の前記前駆体繊維束に、撚り数0.1〜0.5T/
mの仮撚りを与えながら酸化することを特徴とする耐炎
化糸の製造方法 (2)加熱された酸化性雰囲気中で、前駆体繊維束を溝
付きローラにより連続的に走行させ、その間に該繊維束
を酸化する耐炎化糸の製造装置において、前記溝付きロ
ーラの複数個を、それぞれ前駆体繊維束の進入角θが
0.1°〜1.0°となるように配置したことを特徴と
する耐炎化糸の製造装置によって達成することができ
る。
【0007】以下、本発明を図面を参照しながら、具体
的に説明する。加熱された酸化性雰囲気(通常は200
〜300℃の温度に加熱された空気)中で、炭素繊維製
造用の前駆体繊維を、連続的に走行させながら耐炎化処
理するための熱処理装置の構造は、種々の形式のものが
あるが、多くの文献に記載され、よく知られているの
で、ここでは図1として、特に本発明に係る方法を実施
するための一熱処理装置における溝付きローラ部分の概
略斜視図を示した。また、図2は図1の溝付きローラに
おける繊維束の捲回走行状態を示す概略図、図3は図1
の溝付きローラにおける繊維束の加撚状態を説明するた
めの部分断面図である。
【0008】図1において、繊維束1は積極回転する一
対の溝付きローラ2a,2bにより連続的に走行させる
が、本発明においては繊維束1の溝付きローラに対する
進入角θが0.1°〜1.0°となるように、一対の溝
付きローラを設けている。
【0009】ここでの繊維束1の進入角θとは、図2に
示すように,繊維束1は相対する溝付きローラ2a,2
bの溝A,B,C…の順に進むが、その繊維束1が進入
する側の溝付きローラ2aまたは2bの回転軸(図示せ
ず)に対する直交線と、進入する繊維束1とがなす平面
角をいう。
【0010】この場合の溝付きローラは、繊維束移送用
の回転ローラとして、ローラ表面の周方向に溝を刻設し
た、たとえば前記特公昭59−28662号公報に記載
するようなものであり、溝の形状はたとえば図3に示す
ように、溝側壁の傾斜角αが5°以上で、底部が狭まっ
た形状のものが好ましい。この溝付きローラの配置に当
って、繊維束の1本を処理するには、図1に示すよう
に、相対する一対の溝付きローラを配置し、それに繊維
束1を多数回捲回させるものが好ましい。また多数本の
繊維束を同時に処理する場合には、後述する図4に示す
ように、相対する溝付きローラを多段に配置しておき、
これらに繊維束1を順次捲回させるものが好ましい。
【0011】なお、溝付きローラにおける溝ピッチは、
各ローラ間で同一である必要はなく、また相対する溝付
きローラは非平行の関係であってもよい。
【0012】次に、上記溝付きローラの作動および作用
について述べる。上述したように、溝付きローラにおけ
る繊維束の進入角θが所定値となるように、各溝付きロ
ーラを配置すると、まず図2に示すように、繊維束1は
溝付きローラ2aから2bに向って進入角θで走行す
る。溝付きローラ2bではその溝Bの右側側壁(繊維束
の進行方向からみて)と接触しながら走行し、その際,
繊維束1には回転する力が働き、前記溝付きローラ2a
と2bとの間を走行する繊維束1に仮撚りが生ずる。繊
維束1が溝付きローラ2aまたは2bの溝と所定の角度
で接触するとき、繊維束1に生ずる回転力は、図3に示
すように、繊維束1が溝側壁から受ける摩擦力である。
本例での繊維束は、溝付きローラ2bの溝Bの右側側壁
から摩擦を受けるため、撚りはS方向(S撚り)であ
り、この撚りに伴って繊維束1には集束する方向の力が
働く。次に、この繊維束1が溝付きローラ2bの溝Bを
離れて溝付きローラ2aの溝Cに進入するときにも、前
記と同様な原理により繊維束1には回転する力が働きS
方向の撚りがかかる。このように繊維束にはローラ間を
往復する度に同一方向の撚りが繰返される。溝側壁との
摩擦力によって生ずる回転力はこれにより生じた仮撚り
の復元力と釣合って安定化するため、安定後は溝部では
撚りが発生しない。したがって、繊維束は耐炎化工程を
出るときには無撚りの状態で次の工程に供給されること
はいうまでもない。
【0013】かかる繊維束1の溝付きローラ2a,2b
の溝への進入角θは、大きくすればする程繊維束に対す
る撚り効果は増大するが、上記の範囲を越えてθをあま
り大きくすると溝側壁との摩擦力が大きくなりすぎ、さ
らには繊維束1がローラ溝に進入する際に溝の肩部エッ
ジと摩擦するために毛羽が発生しやすい。また、繊維束
1の溝の乗り越えが生じる。一方、進入角θが上記範囲
をはずれてθを小さくすると繊維束の溝壁部への接触が
少なくなり、仮撚り現象が発現しない。
【0014】本発明は繊維束が溝付きローラに対して所
定の進入角θとなるよう、溝付きローラを配置したもの
で、これにより耐炎化処理中の繊維束に対して撚り数
0.1〜0.5T/mの仮撚りが付与される。繊維束1
はこのような仮撚り範囲に維持するとき、耐炎化工程で
の毛羽、糸切れおよびローラ巻付きなどのトラブルが一
挙に軽減し、安定操業のもとで高品位の耐炎化糸を製造
することができる。かかる作用効果は、原料とする繊維
束が実質的に無撚り状態であるとき、特に顕著である。
【0015】次に、本発明方法および装置の他の実施例
について説明する。図4は無撚の多繊維束を同時に耐炎
化処理する装置例を示す概略斜視図、図5,図6は図4
の溝付きローラ配置を糸道に沿って展開した模式図であ
る。
【0016】図4において、溝付きローラ2a,2b…
…2fは、直径、溝の形状、寸法および溝ピッチ等が実
質的に同一であり、同一表面速度で回転するものであ
る。その溝付きローラ2a,2b……2fは相対して多
段に配置しておき、その溝付きローラ2a,2b……2
fの溝上に、多数本の繊維束をジグザグに進むように捲
回させておく。
【0017】無撚りの繊維束1は、溝付きローラ2aの
溝から入り、次いで溝付きローラ2b、2c……2fの
溝へと順次進行させる。かかるローラ配置の場合も各繊
維束に対してそれぞれほぼ均一に撚り効果を与えること
ができる。すなわち、各溝付きローラ2a,2b……2
fを、その軸方向に平行移動することにより各繊維束1
に所定の進入角を与えるのである。図5は各溝付きロー
ラを順次軸方向に平行移動させた例であり、溝付きロー
ラの上方かつ繊維束1の進行方向からみて繊維束1は溝
付きローラ2aから2bの溝の右側側壁に接触して進入
する。このため溝付きローラ2aと2bとの間の繊維束
1はS撚りとなる。続いて溝付きローラ2cの溝に進入
する際にも、その溝の右側側壁に接触して進入するので
S撚りとなる。以下、溝付きローラの軸方向平行移動方
向が交互であるため、溝付きローラ上での捲回が繰返さ
れても、繊維束1にはS撚りが継続する。
【0018】一方、図6では、溝付きローラ2bに続い
て2cも同一方向に平行移動を繰返したもので、この場
合にはZZSSZのような撚り方向となる。このように
個々の溝付きローラ2a,2b……2fの配置を変える
ことで、繊維束1の撚り方向は、数多くの組合せが可能
である。撚り方向をどのように選択しようとも本発明の
効果には差異がないが、同一方向の撚りを繰返した場合
には、例えば分繊不良とか、毛羽等で繊維束同志の絡み
合った部分が混入すると、繊維束1は実撚りとなって耐
炎化炉から送出される場合がある。また、平行移動する
距離が大になるほど各溝付きローラの駆動源接続の問
題、また装置が広幅化し装置スペース確保の問題等が生
ずるので、これらを最小限に抑える点からは図5のよう
に繊維束がジグザグに進むように、すなわち撚り方向を
交互とするような溝付きローラ配置が最も好ましい。
【0019】耐炎化処理の溝付きローラに進入角をもた
して発生させる仮撚りは、ローラ溝側壁との摩擦により
発生するもので、その摩擦力はローラ表面の材質、粗
度、単繊維の素材、繊度、断面形状、本数、繊維束の形
態、交絡状態、張力および雰囲気温度条件などに支配さ
れる。したがってこれらの要因を適性条件に合わせてお
くことが望ましい。
【0020】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
る。本例中、進入角θ、仮撚り数、毛羽数およびローラ
巻付きは、次のようにして求めた。 進入角θ;進入角0°の状態からの平行移動距離xとロ
ーラ間距離Lから、式θ=arctan(x/L)により算出
した。 仮撚り数;耐炎化処理中の繊維束を相対する溝付きロー
ラの出口部、入口部で同時に複数本をクリップで止めた
後クリップの外側で切断し、耐炎化炉から取り出してそ
の撚り数を500m長について実測し、1m長当りに換
算した値で示す。 毛羽数 ;耐炎化処理装置から連続して出てくる繊維束
の5m長について長さ10mm以上の毛羽数を10回連続
して測定し、得られたデータの平均値を1m長当りに換
算した値である。 ローラ巻付き;8時間連続運転中に発生した単糸のロー
ラ巻付き回数であり、発生する毎に除去して新規発生分
を数えた。 実施例1、比較例1 無撚りのポリアクリロニトリル系の繊維束(単繊維の繊
度1.0デニール、断面形状は円形、フィラメント数1
2000、繊維束の断面は円形)48本をクリールより
供給して図4の装置を組込んだ熱風240℃の熱処理室
内で連続して耐炎化処理した。それぞれの溝付きローラ
は、直径200mmで、溝の深さh10mm、溝の幅w10
mm、溝底部の曲率半径r=3mm、溝肩部の曲率半径R=
1.2mm、溝側壁の傾斜角α=6°の溝がピッチP15
mmで50個あけられ、その表面は厚さ70μのNiメッ
キ、粗度1.7sのものであり、片側に3本ずつとしロ
ーラ間距離を6mとして平行配置した。速度1m/min
で供給した繊維束を各ローラに捲回させて、その張力
1.2kgで耐炎化処理した。ローラ2bの繊維束出側へ
の平行移動距離xを0から100mmの範囲で変えること
により繊維束の進入角θを変更して処理し、得られた耐
炎化繊維束の仮撚り数、毛羽数および処理中のローラ巻
付きを測定して得られた値を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【発明の効果】本発明の方法および装置によれば、無撚
りの前駆体繊維束を耐炎化処理するに際の、毛羽、糸切
れ、ローラ巻付きなどのトラブル発生が、大幅に軽減で
きる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法を実施するための一熱処理装置にお
ける溝付きローラ部分の概略斜視図である。
【図2】図1の溝付きローラにおける繊維束の捲回走行
状態を示す概略図である。
【図3】図1の溝付きローラにおける繊維束の加撚状態
を説明するための部分断面図である。
【図4】本発明の他の実施例として、多繊維束を同時に
耐炎化処理する装置例を示す概略斜視図である。
【図5】図4の溝付きローラ配置を糸道に沿って展開し
た模式図で、繊維束に対する撚り方向が交互となるよう
な配置例である。
【図6】図4の溝付きローラ配置を糸道に沿って展開し
た模式図で、繊維束に対する撚り方向が不規則となるよ
うな配置例である。
【符号の説明】
1:繊維束 2a〜2f:溝付きローラ 3:繊維束を誘導するローラ(入口側) 4:繊維束を誘導するローラ(出口側) A,B,C………G:溝付きローラ上の溝 θ:繊維束の溝付きローラに対する進入角 h:溝の深さ w:溝の幅 r:溝底部の曲率半径 R:溝肩部の曲率半径 α:溝側壁の傾斜角 P:溝ピッチ
フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭59−53719(JP,A) 特公 昭59−28662(JP,B1) 特公 昭41−9151(JP,B1) 実公 昭63−32140(JP,Y2)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】加熱された酸化性雰囲気中で、前駆体繊維
    束を溝付きローラにより連続的に走行させ、その間に該
    繊維束を酸化する耐炎化糸の製造方法において、実質的
    に無撚状態の前記前駆体繊維束に、撚り数0.1〜0.
    5T/mの仮撚りを与えながら酸化することを特徴とす
    る耐炎化糸の製造方法。
  2. 【請求項2】加熱された酸化性雰囲気中で、前駆体繊維
    束を溝付きローラにより連続的に走行させ、その間に該
    繊維束を酸化する耐炎化糸の製造装置において、前記溝
    付きローラの複数個を、それぞれ前駆体繊維束の進入角
    θが0.1°〜1.0°となるように配置したことを特
    徴とする耐炎化糸の製造装置。
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