JP2024005110A - 歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント - Google Patents

歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント Download PDF

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Abstract

【課題】象牙細管の封鎖性に優れるとともに、ミネラル密度の低い脱灰した象牙質に対してもミネラル密度の回復能に優れる歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを提供すること。【解決手段】粉体である第1材と、液体である第2材から構成され、前記第1材が、リン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)、及び2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を含み、前記第2材が、水(D)を含み、前記2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の全量中において、体積基準の積算粒子径分布における粒子径0μmから3μmまでの積算頻度が3%以上である、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。【選択図】なし

Description

本発明は歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントに関する。
80歳になっても20本以上自分の歯を保とうとする、いわゆる8020運動(口腔衛生の向上、歯質の保存(MI:Minimal Intervention))に伴い、高齢者の歯の残存率が飛躍的に高まった。しかしながら、これに伴い新たな歯科疾患(歯の磨耗、歯周病による歯槽骨喪失等)による象牙質露出の問題が発生している。露出象牙質は、エナメル質と異なり象牙質を構成する組織のミネラル濃度が低いため、耐う蝕性が良好ではなく、また、直径約1μmから約3μmの象牙細管が口腔内の酸による作用で開孔して知覚過敏症が発病するなどの原因となる。
これを改善する方法として、ポリマー系の材料を被覆する方法や、2種類の材料を交互に塗布して無機塩を析出させ、物理的な障壁を形成させることにより象牙細管を封鎖させる方法が知られている。しかしながら、これらの方法では象牙細管開口部付近の浅い部分や表面が覆われるのみであり、歯ブラシ等で磨耗されることにより容易に破壊されてしまう問題があった。また、生体親和性の高い材料とは言え、材料の塗布によりプラークが付着して炎症又は根面う蝕の原因となる問題もあった。
一方、硬化性を有するリン酸カルシウム組成物として、リン酸四カルシウムと無水リン酸一水素カルシウムとを組み合わせたリン酸カルシウムセメントが知られており、生体内や口腔内において生体吸収性のヒドロキシアパタイト(Ca10(PO46(OH)2)へ徐々に転化し、さらに形態を保ったままで生体硬組織と一体化し得るとされている。このようなリン酸カルシウムセメントを象牙細管の封鎖に用いた例の一つとして、特許文献1にはリン酸四カルシウム粒子に対してリン酸のアルカリ金属塩を特定量含む象牙質再石灰化剤が開示されており、象牙質表面に緻密なヒドロキシアパタイト層が形成されるとともに、象牙細管の深部にまでヒドロキシアパタイトが析出して象牙細管を封鎖することができるとの記載がある。
さらに、特許文献1には、フッ素化合物を含むリン酸カルシウムセメントが開示されており、フッ素化合物を含むことにより、歯質に耐酸性が付与されるとともに石灰化も促進されることが記載されている。具体的なフッ素化合物としては、フッ化ナトリウムが用いられており、フルオロアパタイトが形成されることで歯質に耐酸性が付与されることが示唆されている。
また、特許文献1には、リン酸のアルカリ金属塩として、リン酸一水素二ナトリウム(Na2HPO4)を添加することにより、象牙細管の深部においても象牙細管封鎖性が向上する効果も具体的に記載されている。
また、リン酸カルシウムセメントとして、特許文献2も提案されている。
国際公開第2010/113800号 特開平06-321515号公報
しかしながら、以下に説明するように、本発明者が検討したところ、従来のリン酸カルシウムセメントを、初期根面う蝕部位などのミネラル密度の低い脱灰した象牙質(以下、「脱灰象牙質」とも称する。)に使用した場合、ミネラル密度の回復率が低いことから、初期根面う蝕抑制材として使用した場合には効果に改善の余地があった。
加齢、歯周病などの影響で歯ぐきが下がり、それまで歯肉に覆われていた歯根部が口腔内で露出することがある。厚いエナメル質を有する歯冠部と異なり、歯根部では、象牙質がエナメル質に覆われない状態で存在している。象牙質は、無数の細管構造を保有するとともに、コラーゲンを主とする有機質層を多く含有するためミネラル密度が50%程度と低く、ミネラル密度が97%程度のエナメル質と比較して、物理的、化学的に脆弱である。そのため、口腔内で露出した歯根部には、う蝕が発生しやすい。ここで、「う蝕」とは、口腔内の細菌が糖質を代謝して産生する酸がエナメル質や象牙質を脱灰(ミネラル成分の溶出)することによる歯の実質欠損をいう。う蝕の中でも、歯根部において発生する象牙質う蝕は、「根面う蝕」と呼称されている。
根面う蝕において、下がった歯ぐきから露出された象牙質は、口腔内の微生物が産生する酸によりミネラルが溶け出すことで、ミネラル密度がより低くなる脱灰された状態である。ミネラル密度がより低い状態である脱灰象牙質に対して、従来のリン酸カルシウムセメントを使用しても十分なミネラル密度の回復が得られず、根面う蝕において、初期う蝕を抑制又は治療することが困難になっていた。
上記のように、従来のリン酸カルシウムセメントを初期根面う蝕部位に適用した場合には、根面という部位に起因して、初期う蝕の抑制又は治療が困難になっていた。
また、特許文献1及び2において、脱灰した象牙質におけるミネラル密度の回復能は開示されておらず、根面う蝕における脱灰した象牙質に使用した場合における問題も開示されていない。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、象牙細管の封鎖性に優れるとともに、ミネラル密度の低い脱灰した象牙質に対してもミネラル密度の回復能に優れる歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の組成の歯科用組成物が上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]粉体である第1材と、液体である第2材から構成され、
前記第1材が、リン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)、及び2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を含み、
前記第2材が、水(D)を含み、
前記2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の全量中において、体積基準の積算粒子径分布における粒子径0μm以上3μm以下の積算頻度が3%以上である、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[2]前記フッ化物塩(B)が、フッ化亜鉛及びフッ化ストロンチウムである、[1]に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[3]前記2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)が、タンニン酸、カテコール、タイロン一水和物、プロトカテク酸、プロトカテク酸エステル、ピロカテコール、ピロガロール、シキミ酸、没食子酸、没食子酸エステル、及びカテキンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[4]前記2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の平均粒子径が、34μm未満である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[5]前記リン酸カルシウム化合物(A)が、リン酸四カルシウム、無水リン酸一水素カルシウム(CaHPO4)、無水リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO42)、α-リン酸三カルシウム(α-TCP)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、非晶質リン酸カルシウム(Ca3(PO42・nH2O)、ピロリン酸カルシウム(CaH227)、リン酸八カルシウム(Ca82(PO46・5H2O)、リン酸一水素カルシウム2水和物(CaHPO4・2H2O)、及びリン酸二水素カルシウム1水和物(Ca(H2PO42・H2O)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[6]前記第1材又は第2材がpH調整材をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[7]前記pH調整材が、リン酸のアルカリ金属塩である、[6]に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[8]前記第1材又は第2材が無機フィラーをさらに含む、[1]~[7]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[9]前記無機フィラーが、軽質無水ケイ酸及び金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[8]に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[10]前記第2材が抗菌剤をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[11]前記リン酸カルシウム化合物(A)が粒子の形態であり、平均粒子径が0.1~40μmである、[1]~[10]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[12]前記2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)が粒子の形態であり、平均粒子径が5.0~100μmである、[1]~[11]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
[13][1]~[12]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む、歯面処理材。
[14][1]~[12]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む、象牙質知覚過敏抑制材。
[15][1]~[12]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む、歯磨材。
[16][1]~[12]のいずれかに記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む、根面う蝕治療材。
本発明によれば、象牙細管の封鎖性に優れるとともに、ミネラル密度の低い脱灰した象牙質に対してもミネラル密度の回復能に優れる歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、粉体である第1材と、液体である第2材から構成され、前記第1材が、リン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)(以下、「フッ化物塩(B)」とも称する。)、及び2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)(以下、「多価有機酸(C)」とも称する。)を含み、前記第2材が、水(D)を含み、前記2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の全量中において、体積基準の積算粒子径分布における粒子径0μm以上3μm以下の積算頻度が3%以上である。
上記の構成とすることにより、象牙細管の封鎖性に優れるとともに、ミネラル密度の低い脱灰した象牙質に対してもミネラル密度の回復能に優れる歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントとなる。
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、平均粒子径等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
本発明を何ら限定するものではないが、上記のような優れた効果が奏される理由としては、次のようなことが考えられる。まず、象牙質に存在している直径約1~3μmの「象牙細管」内に、リン酸カルシウム化合物(A)、及び2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)のうち、粒子径分布における粒子径が約3μm以下であるものを粒子として侵入させ、かつ多価有機酸(C)を水への溶解物として侵入させることで、象牙細管が封鎖され、かつミネラル密度の回復が促進される。なお、多価有機酸(C)は、粒子状である場合においても、象牙細管内に侵入させることで、より優れた効果が得られる。
より具体的には、まずリン酸カルシウム化合物(A)、フッ化物塩(B)、及び多価有機酸(C)を含む第1材(以下、「粉材」とも称する。)と、水(D)を含む第2材(以下、「液材」とも称する。)とを混合して得られるペーストを患部(例えば、脱灰した象牙質)に適用することによって、リン酸カルシウム化合物(A)とフッ化物塩(B)のうち、粒子径分布における粒子径が約3μm以下であるものが粒子の形態で象牙細管内に侵入する。同時に、水(D)との混合により溶解した多価有機酸(C)の一部も象牙細管内に侵入する。このとき、水(D)に多価有機酸(C)の表層部分が溶解したため、粒子径が小さくなった粒子の形態の多価有機酸(C)も象牙細管内に侵入することがあり、その場合、溶解物の多価有機酸(C)と、粒子の形態の多価有機酸(C)がいずれも作用し、より優れた効果が得られる。
当該象牙細管内に留まった粒子から、ミネラル密度回復の必須成分である、カルシウムイオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、(亜鉛等の)2価以上の陽イオン(2価以上の金属イオン)、及び(タンニン酸等の)多価有機酸(C)が象牙細管内部へと溶出し、象牙細管内部に存在することとなる。
その結果、これらの成分が一体となって作用し、象牙細管の周囲にある象牙質(特に初期う蝕などの脱灰により軟化した象牙質)のミネラル密度が回復される。ここで、特に多価有機酸(C)の存在により、象牙質のコラーゲン線維が再架橋されることによって、ヒドロキシアパタイト等の歯質を構成する無機塩を析出させる「足場」が再構築されることが重要であると考えられる。
・リン酸カルシウム化合物(A)
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、第1材である粉体にリン酸カルシウム化合物(A)を含む。本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントはリン酸カルシウム化合物(A)を用いることで象牙細管封鎖性に優れる。また、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントはリン酸カルシウム化合物(A)を他の成分と組み合わせることで、ミネラル密度の低い脱灰した象牙質に対してもミネラル密度の回復能に優れる。
本発明で使用されるリン酸カルシウム化合物(A)としては、特に限定されず、リン酸四カルシウム(Ca4(PO42O;TTCP)、無水リン酸一水素カルシウム(CaHPO4;DCPA)、無水リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO42)、α-リン酸三カルシウム(Ca3(PO42;α-TCP)、β-リン酸三カルシウム(Ca3(PO42;β-TCP)、非晶質リン酸カルシウム(Ca3(PO42・nH2O、ACP)、ピロリン酸カルシウム(CaH227)、リン酸八カルシウム(Ca82(PO46・5H2O)等が挙げられる。リン酸カルシウム化合物(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ある好適な実施形態としては、リン酸カルシウム化合物(A)が、リン酸四カルシウムと、無水リン酸一水素カルシウム(DCPA)、無水リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO42)、α-リン酸三カルシウム(α-TCP)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、ピロリン酸カルシウム(CaH227)、及びリン酸八カルシウム(Ca82(PO46・5H2O)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントが挙げられる。
リン酸カルシウム化合物(A)は、粒子の形態であることが好ましい。
リン酸カルシウム化合物(A)の平均粒子径は、特に限定されないが、平均粒子径が0.1μm以上の場合、リン酸カルシウムの凝集が急激に起こらないため、製造中に凝集を起こさず、組成調整が容易になる。したがって、リン酸カルシウム化合物(A)の平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。一方、リン酸カルシウム化合物(A)の平均粒子径が40μm以下の場合、後述する第2材である液体との混合により得られるペーストが十分な粘性を示すため好ましいペースト性状となる。また、ペースト練和時のざらつき感が小さくなり、良好な操作性を保つことができる。したがって、リン酸カルシウム化合物(A)の平均粒子径は、40μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
ここで、本発明で使用するリン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)、2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)等の各成分の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-2300型」)を用いて測定し、算出したものである。例えば、後記する実施例に記載の方法で算出できる。
本発明で使用されるリン酸カルシウム化合物(A)の製造方法は特に限定されない。市販品をそのまま用いてもよいし、市販品を適宜粉砕して粒子径を整えて使用してもよい。市販品を粉砕する場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、リン酸カルシウム化合物(A)の原料粉体をアルコールなどの液体の媒体とともにライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることによりリン酸カルシウム化合物(A)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナ、ジルコニア等が採用される。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント中のリン酸カルシウム化合物(A)の含有量は、特に限定されないが、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントの第1材の全量100質量部において、40~95質量部であることが好ましく、45~90質量部であることがより好ましく、50~85質量部であることがさらに好ましい。リン酸カルシウム化合物(A)の含有量が40質量部以上である場合、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントの象牙細管封鎖性が向上する。一方、リン酸カルシウム化合物(A)の含有量が80質量部以下である場合、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントの粘度が適正な範囲となり、操作性のよいペーストを得ることができる。
・2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、第1材である粉体に2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)を含む。フッ化物塩(B)を構成する陽イオンが2価以上であることで、象牙細管内部へと陽イオンが溶出した際に、象牙細管内部で2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)と反応し、不溶性の塩を形成できる。象牙細管内部で不溶性の塩として存在することで、象牙細管封鎖性が向上する。さらに、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)を含み、後述する所定の粒子径分布における割合で用いることで、フッ化物塩(B)が粒子の形態で象牙細管内に侵入し、当該象牙細管内に留まった粒子から、ミネラル密度回復の必須成分であるフッ化物イオン、2価の金属イオンが象牙細管内部へと溶出しつつ、象牙細管内に十分に残存でき、ミネラル密度の低い脱灰した象牙質に対してもミネラル密度の回復能に優れる。
2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)としては、特に限定されず、フッ化亜鉛、フッ化ストロンチウム、フッ化マグネシウム、フッ化チタン(IV)等が挙げられる。2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ミネラル密度回復能をより向上させる観点から、フッ化亜鉛及び/又はフッ化ストロンチウムを含むことが好ましく、フッ化亜鉛及びフッ化ストロンチウムを含むことがより好ましい。フッ化物塩(B)を構成する陽イオンは、2価であってもよく、3価以上であってもよい。
2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)は、粒子の形態であることが好ましい。
脱灰した象牙質に対してもミネラル密度の回復能により優れる点から、本発明で用いられる2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の全量中において、体積基準の積算粒子径分布における粒子径0μm以上3μm以下の積算頻度(積算粒子径体積の割合)が3%以上である。
フッ化物塩(B)の全粒子径体積に対する粒子径0μm以上3μm以下の積算頻度が3%未満の場合、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)が象牙細管内に十分に残存できず、ミネラル密度回復能が十分ではない。2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の全粒子径に対する粒子径が0μm以上3μm以下の積算頻度は、3%以上であり、脱灰した象牙質に対するミネラル密度回復能がより優れる点から、5%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましく、30%以上が最も好ましい。
2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)をi種類(iは1以上の正の整数)含有する場合、それぞれの2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)を(B)(1)、(B)(2)・・・・(B)(i)と置き、体積基準の積算粒子径分布において、フッ化物塩(B)の全粒子径体積に対する粒子径が0μm以上3μm以下の積算頻度(%)を次のように求めた。
Figure 2024005110000001
式中、「(B)(i)の粒子径が0μm以上3μm以下の積算頻度」は、後記する実施例に記載のレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-2300型」)を用いた測定方法で得られる体積基準の粒度分布から、粒子径0μm以上3μm以下のときの積算頻度(%)を読み取った。
また、「粉材中の(B)(i)の含有率」とは、「粉材中の2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)中の(B)(i)の含有率」を意味する。
例えば、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)が、フッ化亜鉛及びフッ化ストロンチウムである場合、上記式に用いるフッ化亜鉛(無水物)の密度は、4.95g/cm3である。また、上記式に用いるフッ化ストロンチウムの密度は、4.24g/cm3である。
また、上記式に用いるフッ化マグネシウム(MgF2)の密度は3.15g/cm3である。上記式に用いるフッ化チタン(IV)の密度は2.8g/cm3である。上記式には、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の化合物の真密度を使用できる。
2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の平均粒子径は、特に限定されないが、平均粒子径が0.1μm以上の場合、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の凝集が急激に起こらないため、製造中に凝集を起こさず、組成調整が容易になる。したがって、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。一方、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の平均粒子径が34μm未満の場合、第2材である液体との混合により得られるペーストが十分な粘性を示すため好ましいペースト性状となる。また、ペースト練和時のざらつき感が小さくなり、良好な操作性を保つことができる。したがって、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の平均粒子径は、34μm未満が好ましく、前記した粒子径が0μm以上3μm以下の積算頻度を調整しやすい点から、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の製造方法は特に限定されない。市販品をそのまま用いてもよいし、市販品を適宜粉砕して粒子径を整えて使用してもよい。市販品を粉砕する場合、リン酸カルシウム化合物(A)の製造方法における粉砕と同様の方法が使用できる。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント中の2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の含有量は、第1材の全量100質量部において、0.6~40質量部であることが好ましい。2価の陽イオンのフッ化物塩(B)の含有量が0.6質量部以上である場合、十分な有機質強化が起こり、脱灰した象牙質に対するミネラル密度の回復能が得られ、ミネラルが脱灰した象牙質に沈着する。
2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の含有量は、第1材の全量100質量部において、0.6質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。一方、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の含有量が40質量部以下である場合、良好な象牙細管封鎖性が得られる。2価の陽イオンのフッ化物塩(B)の含有量は、第1材の全量100質量部において、40質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントにおいて、第1材:第2材を質量比1.6:1.0の比率で、練和した場合、練和後のペースト(粉液混合物)に含まれる2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の含有量としては、ペーストを患部(例えば、脱灰した象牙質)に適用した際に、ミネラル密度の回復能が得られやすい点から、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
また、練和後のペーストに含まれる2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の含有量としては、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。
・2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、第1材に2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を含む。多価有機酸(C)を含むことにより、象牙質のコラーゲン線維が再架橋され、コラーゲンの分解抑制効果をより高めることができ、他の成分と組み合わせることで、脱灰した象牙質に対してもミネラル密度の回復能を向上させることができる。
本発明で用いられる多価有機酸(C)としては、ポリフェノール化合物が挙げられる。多価有機酸(C)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ポリフェノール化合物としては、タンニン酸、カテコール、タイロン一水和物、プロトカテク酸、プロトカテク酸エステル(プロトカテク酸メチル、プロトカテク酸エチル)、ピロカテコール、ピロガロール、シキミ酸、没食子酸、没食子酸エステル(没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル)、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、カテキン等の水酸基を2個以上有する芳香環を含むポリフェノール化合物が挙げられ、タンニン酸、カテコール、タイロン一水和物、プロトカテク酸、プロトカテク酸エステル(プロトカテク酸メチル、プロトカテク酸エチル)、ピロカテコール、ピロガロール、シキミ酸、没食子酸、没食子酸エステル(没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル)、及びカテキンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、脱灰した象牙質に対するミネラル密度の回復能により優れる点から、タンニン酸が特に好ましい。
多価有機酸(C)は、粒子の形態であることが好ましい。
多価有機酸(C)の平均粒子径は、特に限定されないが、平均粒子径が5.0μm以上の場合、脱灰した象牙質に対するミネラル密度回復能により優れる。したがって、多価有機酸(C)の平均粒子径は、5.0μm以上が好ましく、7.5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。一方、多価有機酸(C)の平均粒子径が100μm以下の場合、第2材である液体との混合により得られるペーストの練和時のざらつき感が小さくなり、良好な操作性を保つことができる。したがって、多価有機酸(C)の平均粒子径は、100μm以下が好ましく、脱灰した象牙質に対するミネラル密度回復能により優れる点から、75μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。
多価有機酸(C)は水溶性でもよく、ペースト調整時に水に溶解した後に、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)と不溶性の塩を作ってもよい。
また、多価有機酸(C)は、象牙細管に入ることができる程度まで溶解するため、象牙細管のサイズに対して大きい平均粒子径の粒子であっても、本発明の効果を奏することができる。
多価有機酸(C)の製造方法は特に限定されない。市販品をそのまま用いてもよいし、市販品を適宜粉砕して粒子径を整えて使用してもよい。市販品を粉砕する場合、リン酸カルシウム化合物(A)の製造方法における粉砕と同様の方法が使用できる。
多価有機酸(C)の含有量は、第1材の全量100質量部において、0.1~25質量部であることが好ましい。多価有機酸(C)の含有量が0.1質量部以上である場合、十分な有機質強化が起こり、脱灰した象牙質に対するミネラル密度の回復能が得られ、ミネラルが脱灰した象牙質に沈着する。
多価有機酸(C)の含有量は、第1材の全量100質量部において、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。一方、多価有機酸(C)の含有量が40質量部以下である場合、良好な象牙細管封鎖性が得られる。多価有機酸(C)は、第1材の全量100質量部において、25質量部であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。
・水(D)
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、第2材が水(D)を含む液体である。ある実施形態では、第2材は、水(D)を主成分とする液体である。主成分とは、含有量が一番多い成分である。第2材における水(D)の含有量は、例えば、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。水(D)を主成分とする液体は、水(D)を主成分とし他の溶媒を含有する液体であってもよい。他の溶媒としては特に限定されず、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール;キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルなどが挙げられる。他の溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
・pH調整材
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、第1材又は第2材の少なくとも一方に、pH調整材を含んでもよい。pH調整材は特に限定されず、リン酸一水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸一水素二カリウム(K2HPO4)、リン酸二水素一リチウム(LiH2PO4)、リン酸二水素一ナトリウム(NaH2PO4;MSP)、リン酸二水素一カリウム(KH2PO4;KDP)、リン酸三ナトリウム(Na3PO4;TSP)、リン酸三カリウム(K3PO4)等のリン酸のアルカリ金属塩;水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物等が挙げられ、リン酸のアルカリ金属塩が好ましく、リン酸のナトリウム塩がより好ましく、リン酸一水素二ナトリウムがさらに好ましい。
第1材又は第2材を練和30秒後のペーストのpHは、歯牙の溶解を防ぐために5.5以上が好ましく、6.0以上がより好ましく、6.5以上がさらに好ましい。また、ペーストのpHは、14以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
pH調整材は、ヒドロキシアパタイト(HAp)の溶解度最も低くなる、pH6.5~10の範囲に調整することで、硬化時間を早めること、口腔内で使用できるpHとすることを目的として使用できる。
驚くべきことに、2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を含む系では、pHの変化がない範囲のpH調整材の添加量の調整で、HApの形成速度が変化する。
pH調整材は、粒子の形態であることが好ましい。
pH調整材の平均粒子径は特に限定されないが、pH調整材の平均粒子径が0.5μm以上の場合、顕著な凝集が起こらず、ペースト又は粉体中に均一に分散させることができ、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントがヒドロキシアパタイトに転化した際に、当該ヒドロキシアパタイトに孔を生じさせず、高い象牙細管封鎖率を保つことができる。したがって、粒子の形態のpH調整材の平均粒子径は0.5μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、8μm以上であることがさらに好ましい。一方、粒子の形態のpH調整材の平均粒子径が20μm以下の場合、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントがヒドロキシアパタイトに転化した際に、当該ヒドロキシアパタイトに孔が生じず、高い象牙細管封鎖率を保つことができ、知覚過敏を抑制することができる。さらに、象牙質表面にすり込んで象牙質知覚過敏を抑制する際に未溶解のpH調整材がペースト中に残存することによる、ざらつき感の増大と操作性の低下を防ぐことができる。したがって、pH調整材の平均粒子径は20μm以下であることが好ましく、16μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましい。pH調整材の平均粒子径は、リン酸カルシウム化合物(A)の平均粒子径の測定方法と同様の記載の方法で算出できる。
本発明で使用されるpH調整材の製造方法は特に限定されない。市販品をそのまま用いてもよいし、市販品を適宜粉砕して粒子径を整えて使用してもよい。粉砕方法としては、リン酸カルシウム化合物(A)の粉砕方法と同様の方法を採用できる。
・抗菌剤
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、第1材又は第2材の少なくとも一方に、歯質内部に感染したう蝕原因菌を殺菌するために、抗菌剤を含んでもよい。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントがそのペースト中に抗菌剤を含む場合において、抗菌剤がカチオン性抗菌剤、アニオン性抗菌剤等の水溶性の高い抗菌剤を含む場合、ペースト中から、抗菌剤が溶出して抗菌性を発揮しやくなるため、歯質内部のう蝕原因菌の殺菌が可能となる。
ある好適な実施形態としては、第2材が、抗菌剤を含む、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントが挙げられる。
抗菌剤としては、各種のアニオン性抗菌剤、非イオン性抗菌剤、カチオン性抗菌剤、両イオン性抗菌剤を使用することができ、コラーゲンの分解抑制効果が得られる点から、アニオン性抗菌剤、非イオン性抗菌剤、カチオン性抗菌剤が好ましい。
また、抗菌剤の水溶性が高く、抗菌剤の徐放性を制御しやすい点からは、アニオン性抗菌剤、カチオン性抗菌剤が好ましい。
抗菌剤としては、第四級アンモニウム塩化合物を含むカチオン性抗菌剤がより好ましく、第四級アンモニウム塩化合物がさらに好ましい。第四級アンモニウム塩化合物としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。抗菌剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
抗菌剤が第2材に配合された場合、抗菌剤の含有量は、第2材の全量100質量部において、0.0005質量部以上が好ましく、0.005質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上がさらに好ましく、0.1質量部が特に好ましい。
抗菌剤の含有量が0.0005質量部以上である場合、十分な抗菌性が得られる。第2材における抗菌剤の含有量は、10質量部以下が好ましく、5質量部がより好ましく、2.5質量部がさらに好ましい。抗菌剤の含有量が10質量部以下である場合、細胞毒性、遺伝毒性等の問題も生じず安全性に優れる。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、特に限定されず、リン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)及び2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を含む粉体を予め混合することが好ましい。これにより、臨床時に各粉を計量することがなく、利便性が向上する利点を有する。
前記混合には、ハイスピードミキサー、V型混合機、ラボミル、タッチミキサー、ワンダークラッシャー、ジェットミル、ライカイ機、ボールミル、高速回転ミル、遊星ミル、ハイブリダイザー、メカノフュージョン又は混合押出し機を用いることが好ましい。混合時に過度な粉砕を起こさず、混合するためにハイスピードミキサー、V型混合機、ラボミル、タッチミキサー、又はワンダークラッシャーを用いることが好ましく、ハイスピードミキサー、V型混合機がより好ましい。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、水の存在下ではリン酸カルシウム化合物(A)が溶解して徐々にヒドロキシアパタイトに転化する反応が起こるため、使用直前に第1材と第2材とを混合する。また、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、象牙細管の深部にまでヒドロキシアパタイトが析出して象牙細管を封鎖することが可能である。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントはペースト状態で使用される。本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、製品形態として、分包されていてもよい。例えば、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、第1材と第2材の組み合わせとして分包されたキットの製品形態であってよい。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントの製造方法は、特に限定されず、粉体である第1材を構成する各成分(リン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)、2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)、さらに必要に応じてpH調整材、抗菌剤の任意成分等)を混合して分包することができる。
また、液体である第2材を構成する各成分(水(D)、さらに必要に応じて他の溶媒、pH調整材、抗菌剤等)を混合して分包することができる。
第1材及び第2材の混合の方法は、特に限定されず、粉体と、液体との形態に応じた公知の方法及び装置を使用できる。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、歯質の窩洞や欠損部に充填して使用される充填修復材、裏層材、合着材、仮封材、根管充填材、仮着材、コーティング材、シーラント材、歯面処理材、歯磨材、根面う蝕治療材、象牙質知覚過敏抑制材等として用いることができ、特に歯磨材、歯面処理材、根面う蝕治療材、象牙質知覚過敏抑制材に好適である。
本発明において、第1材(粉材)と第2材(液材)との練和比は、練和時の操作性に直接影響することから、第1材と第2材の比率を基準に設定することができる。第1材と第2材との混合比は特に限定されるものではないが第1材/第2材の質量比が1.1以上であると、練和後のペーストの稠度が緩くなりすぎないため好ましく、1.2以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましい。一方、第1材/第2材の質量比は2.1以下であると、練和後のペーストの稠度が固くなりすぎないため好ましく、2.0以下がより好ましく、1.9以下がさらに好ましい。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、本発明の効果を阻害しない範囲でリン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)、2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)、及び水(D)、pH調整材、抗菌剤以外の他の成分を含有しても構わない。前記他の成分としては、例えば、増粘剤、甘味料(人口甘味料等)、防腐剤、発泡剤、保湿剤、香料等の各種添加剤;γ-ラクタム骨格、δ-ラクタム骨格、又はε-ラクタム骨格のいずれかのラクタム骨格を有し、かつ酸性基を有するラクタム化合物、カルボジイミド化合物、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)以外のフッ素化合物が挙げられる。
増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ-L-リジン、ポリ-L-リジン塩、セルロース以外のデンプン、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガム、セルロースガム、ペクチン、ペクチン塩、キチン、キトサン等の多糖類;グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール;キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル;アルギン酸プロピレングリコールエステル等の酸性多糖類エステル;ヒアルロン酸及びその塩、コラーゲン、ゼラチン及びこれらの誘導体などのタンパク質類等;ポリグルタミン酸及びその塩、ポリアスパラギン酸及びその塩、ポリスチレンスルホン酸及びその塩、ポリアクリル酸の高分子、又は軽質無水ケイ酸、金属酸化物等に代表される無機フィラーなどが挙げられる。増粘剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。増粘剤をペーストに配合する場合は、水への溶解性及び粘性の面からはカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサンから選択される少なくとも1つが好ましい。増粘剤は、第1材に配合してもよいし第2材に配合してもよい。粉体へ増粘剤を配合する場合は、無機フィラーを含有させることが好ましく、平均粒子径が0.002~20μmである軽質無水ケイ酸及び金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の粒子を含有させることがより好ましく、平均粒子径が0.002~20μmである軽質無水ケイ酸粒子を含有させることがさらに好ましい。
甘味料としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出液、サッカリン、サッカリンナトリウム等の人工甘味料などが挙げられる。
防腐剤、発泡剤、保湿剤、香料等は、公知の材料を特に限定されず、使用できる。
γ-ラクタム骨格、δ-ラクタム骨格、又はε-ラクタム骨格のいずれかのラクタム骨格を有し、かつ酸性基を有するラクタム化合物としては、国際公開第2013/047826号に記載のものが挙げられる。
前記ラクタム化合物としては、具体的には、コラーゲンの分解抑制の点から、ピロリドンカルボン酸(γ-ラクタム化合物)、6-オキソ-2-ピペリジンカルボン酸(δ-ラクタム化合物)、3-(2-オキソ-1-アゼパニル)プロパン酸(ε-ラクタム化合物)等が挙げられる。
カルボジイミド化合物としては、環状構造を有するカルボジイミド化合物、環状構造を有しないカルボジイミド化合物等が挙げられる。カルボジイミド化合物としては、炭素数5~30のカルボジイミド化合物が好ましく、炭素数6~28のカルボジイミド化合物がより好ましく、炭素数7~25のカルボジイミド化合物がさらに好ましい。前記カルボジイミド化合物を用いることで、象牙質のコラーゲンの分解を阻害し、脱灰した象牙質の再石灰化を促進する効果がより優れる。
カルボジイミド化合物としては、具体的には、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-tert-ブチルカルボジイミド、及び1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-p-トルエンスルホナート等が挙げられる。
2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)以外のフッ素化合物としては、前記した成分による脱灰した象牙質の再石灰化を促進できる点から、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム等のアルカリ金属フッ化物;モノフルオロリン酸ナトリウム(Na2FPO3)、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のモノフルオロリン酸塩等が挙げられる。
さらに、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントには、薬理学的に許容できるあらゆる薬剤等を配合することができる。薬剤としては、前記した抗菌剤以外に、例えば、消毒剤、抗癌剤、抗生物質、アクトシン、PEG1などの血行改善薬、bFGF、PDGF、BMPなどの増殖因子、骨芽細胞、象牙芽細胞、さらに未分化な骨髄由来幹細胞、胚性幹(ES)細胞、線維芽細胞等の分化細胞を遺伝子導入により脱分化・作製した人工多能性幹(iPS:induced Pluripotent Stem)細胞ならびにこれらを分化させた細胞など硬組織形成を促進させる細胞などを配合させることができる。
本発明では、リン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)及び2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を含む粉体と、水(D)を含む液体とを練和することにより、ペースト状の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを得ることができる。水を含むこのペースト状の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、医療現場で使用する直前に練和して調製することが好ましい。練和操作としては特に限定されず、手練和、スタティックミキサーを用いた練和等が好ましく採用される。
また、第2材に使用される水以外の溶媒としては特に限定されず、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルなどが例示される。
また、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、象牙細管の深部にまでヒドロキシアパタイトが析出して象牙細管を封鎖することが可能である。そのため、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む象牙質知覚過敏抑制材によって、所定時間後に自己硬化し、象牙細管を封鎖することが可能である。本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む象牙質知覚過敏抑制材は、生体親和性に優れ、皮膚刺激も少なく、安全性に優れる。さらに、象牙細管内に象牙質知覚過敏抑制材を擦りこむように、擦り塗りした後に、余剰ペーストを水洗で簡便に除去でき、特別な使用方法も不要であるため、使用性に優れる。本発明の象牙質知覚過敏抑制材は、特に限定されず、公知の添加剤を含有してもよい。公知の添加剤としては、歯磨材で例示したものと同様のものが挙げられる。
本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、象牙細管封鎖率(%)が70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、85%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。
象牙細管封鎖率(%)の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
また、本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、脱灰した象牙質に対するミネラル密度回復能(%)が22%以上であることが好ましく、23%以上であることがより好ましく、24%以上であることがさらに好ましく、26%以上であることが特に好ましく、27%以上であることが最も好ましい。
ミネラル密度回復能(%)の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
また、他の実施形態としては、粉体である第1材と、液体である第2材から構成され、前記第1材が、リン酸カルシウム化合物(A)、及び2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)を含み、
前記第2材が、2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)、及び水(D)を含み、
前記2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の全量中において、体積基準の積算粒子径分布における粒子径0μm以上3μm以下の積算頻度が3%以上である、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントが挙げられる。上述のように、本発明の好適な実施形態においては、第1材が2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を含む。一方で、第2材の着色を生じない等、製品の品質を維持できる場合、第1材への2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)の配合に加えて、又は第1材への配合に代えて、2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を第2材に配合することもできる。
また、他の実施形態としては、粉体である第1材と、液体である第2材から構成され、
象牙細管封鎖率(%)が、70%以上であり、
脱灰した象牙質に対するミネラル密度回復能(%)が、22%以上である、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントが挙げられる。
前記実施形態においては、第1材が、リン酸カルシウム化合物(A)を含み、前記第2材が、水(D)を含む。前記実施形態においては、第1材及び/又は第2材が、2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を含む。前記実施形態においては、第1材が、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)を含む。
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、リン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)、及び2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)、及びpH調整材の各粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-2300型」)を用いて体積基準で測定し、測定の結果から算出されるメディアン径(d50)を平均粒子径とした。
[リン酸カルシウム化合物(A)の調製]
・リン酸四カルシウムの調製
本実施例で使用するリン酸四カルシウムの粒子(平均粒子径d50:1.5μm)は、以下の通りに調製した粗リン酸四カルシウムを粉砕することにより得た。市販の無水リン酸一水素カルシウムの粒子(Product No. 1430, J.T.Baker Chemical Co., NJ)及び炭酸カルシウム(Product No.1288,J.T.Baker Chemical Co.,NJ)を等モルとなるように水中に加え、1時間撹拌した後、ろ過、乾燥することで得られたケーキ状の等モル混合物を電気炉(FUS732PB,アドバンテック東洋株式会社製)中で1500℃、24時間加熱し、その後デシケータ中で室温まで冷却することでリン酸四カルシウム塊を調製した。さらに、乳鉢中で荒く砕き、その後篩がけを行うことで微粉ならびにリン酸四カルシウム塊を除き、0.5~1.0mmの範囲に粒度を整え、粗リン酸四カルシウムを得た。この粗リン酸四カルシウム50g、直径が10mmのジルコニアボール200g、及び99.5%脱水エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)100gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD-B-104ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で20時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することでリン酸四カルシウムの粒子(平均粒子径d50:1.5μm)を得た。
・無水リン酸一水素カルシウムの調製
本実施例で使用する無水リン酸一水素カルシウムの粒子(平均粒子径d50:4.4μm)は、市販の無水リン酸一水素カルシウムの粒子(Product No.1430,J.T.Baker Chemical Co.,NJ、平均粒子径10.2μm)50g、95%エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製「Ethanol(95)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD-B-104ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで無水リン酸一水素カルシウムの粒子(平均粒子径d50:4.4μm)を得た。
・α-リン酸三カルシウムの調製
本実施例で使用するα-リン酸三カルシウムの粒子(平均粒子径d50:3.2μm)は、市販のα-リン酸三カルシウムの粒子(富士フイルム和光純薬株式会社製)50g、95%エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製「Ethanol(95)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD-B-104ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で1時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで、α-リン酸三カルシウムの粒子(平均粒子径d50:3.2μm)を得た。
[2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の調製]
・フッ化亜鉛
フッ化亜鉛(Fluorochem社製、平均粒子径:34μm)をそのまま使用、又はフッ化亜鉛(株式会社白辰化学研究所製、平均粒子径:24μm)をそのまま使用した。
フッ化亜鉛(株式会社白辰化学研究所製、平均粒子径:24μm)をラボミル(大阪ケミカル株式会社製)で、1分×9回粉砕することで、平均粒子径が3μmのフッ化亜鉛を得た。
・フッ化ストロンチウム
フッ化ストロンチウム(株式会社白辰化学研究所製、平均粒子径:20μm)をそのまま使用した。
フッ化ストロンチウム(株式会社白辰化学研究所製、平均粒子径:20μm)をラボミル(大阪ケミカル株式会社製)で、1分×9回粉砕することで、平均粒子径が3μmのフッ化亜鉛を得た。
[2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の全量中の、体積基準の積算粒子径分布における粒子径0μm以上3μm以下の積算頻度(%)の評価]
実施例及び比較例で使用された2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)i種類(iは1以上の正の整数)含有する場合、それぞれの2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)を(B)(1)、(B)(2)・・・・(B)(i)と置き、体積基準の積算粒子径分布において、(B)の全粒子径に対する粒子径が0μm以上3μm以下の積算粒子径体積の割合を次のように求めた。実施例1~10及び13並びに比較例2では、i=2とし、実施例11~12及び比較例1及び4では、i=1とした。
粒度分布測定条件を下記に示す。
屈折率 : フッ化亜鉛 1.70-0.20i、フッ化ストロンチウム 1.70-0.20i
セル形態: 回分セル
分散媒 : エタノール
前処理 : タッチミキサー10秒、超音波5分実施
Figure 2024005110000002
式中、「(B)(i)の粒子径が0μm以上3μm以下の積算頻度」は、上記した実施例に記載のレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-2300型」)を用いた粒子の平均粒子径の測定方法で得られる体積基準の粒度分布から、粒子径0μm以上3μm以下のときの積算頻度(%)を読み取った。
また、「粉材中の(B)(i)の含有率」とは、「粉材中の2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)中の(B)(i)の含有率」を意味する。
[2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)の調製]
市販のタンニン酸(富士化学工業株式会社製、平均粒子径:40μm)をそのまま使用した。
市販のタンニン酸(富士化学工業株式会社製、平均粒子径:40μm)をラボミル(大阪ケミカル株式会社製)で、15秒粉砕することで、平均粒子径40μmのタンニン酸を得た。ラボミル(大阪ケミカル株式会社製)で、1分×9回粉砕することにより、平均粒子径が5μmのタンニン酸を得た。
[pH調整材]
市販のリン酸一水素二ナトリウム(太平化学産業株式会社製、平均粒子径:1.5μm)をそのまま使用した。
[無機フィラー]
市販の軽質無水ケイ酸(日本アエロジル株式会社製、アエロジル(登録商標)130、平均粒子径:16μm)をそのまま使用した。
[水(D)]
精製水をそのまま使用した。
[抗菌剤]
塩化セチルピリジニウム無水物(富士フイルム和光純薬株式会社製)をそのまま使用した。
[歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントの調製]
<実施例1~13、比較例1~4>
(1)第1材(粉体)の調製
表1及び表2に示す組成で秤量した、リン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)、2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)等の各成分をワンダークラッシャー(大阪ケミカル株式会社製)で3500rpm、10分混合することで、第1材である粉材を得た。
(2)第2材(液体)の調製
表1及び表2に示す組成で秤量した、抗菌剤を水(D)に添加し、溶解するまで撹拌することで、第2材である液体を得た。
(3)歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントペーストの調製
歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、使用の直前に第1材:第2材を質量比1.6:1.0の比率で、30秒練和することにより、調製された。得られた歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントの組成を表1及び表2に示す。
[象牙細管封鎖性の評価]
(1)象牙細管封鎖性評価用牛歯の作製
健全牛歯切歯の頬側中央を#80,#1000研磨紙を用いて回転研磨機により研磨してトリミングし、頬側象牙質が露出した厚さ2mmの象牙質板を作製した。この頬側象牙質表面をさらにラッピングフィルム(#1200,#3000,#8000,住友スリーエム株式会社製)を用いて研磨し、平滑とした。この頬側象牙質部分に歯に対して縦軸方向及び横軸方向に各2mm試験部分の窓を残した。この牛歯をEDTA3%溶液に浸漬させながら、超音波を10分かけ、象牙質窓の脱灰を行った後、水洗することで象牙細管封鎖性評価に用いる牛歯を調製した。上記牛歯の頬側象牙質表面に対して、前記の通り調製した本発明の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントペーストを十分量付着させ、マイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて象牙質窓全面に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去した(n=3)。
(2)SEM観察用サンプルの作製
上記処理後、牛歯をエアブロー、乾燥し、象牙細管観察用サンプルとした。
(3)SEM観察
SEM観察にはSU-3500(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用した。加速電圧は5kVの条件で、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントペーストの塗布前の象牙質表面とペースト塗布時の牛歯表面の形態観察を行った(n=3)。一つのSEM観察用サンプルにつき任意の3点を観察し、象牙細管封鎖性は次式で表される。3点の象牙細管封鎖率の平均値を算出した。得られた結果を表1及び表2に示す。
象牙細管封鎖率(%)=封鎖された象牙細管(本)/観察される象牙細管(本)×100
[ミネラル密度回復能の評価]
象牙質の脱灰部の再石灰化を促進できる特性を、ミネラル密度回復能として、以下の方法で評価した。
(1)脱灰液の作製
酢酸(東京化成工業株式会社製)50mM水溶液と酢酸ナトリウム3水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)50mM水溶液を混合させ、pH4.5に調整した。
(2)人工唾液の調整
塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)87.6mg、リン酸二水素カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)122mg、塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)166mg、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)(株式会社同仁化学研究所製)477mgを約800mLの水に溶解し、NaOH(富士フイルム和光純薬株式会社製)飽和水溶液で、pH7.0に調整、1.0Lにメスアップした。
(3)試験片の作製に使用する試薬
試験片作製に使用した試薬は下記の化合物を使用した。
エタノール:関東化学株式会社製
プロピレンオキシド:富士フイルム和光純薬株式会社製
エポキシ樹脂主剤:(エポキュア2主剤、ビューラー(BUEHLER)社製)
硬化剤(エポキュア2硬化剤、ビューラー(BUEHLER)社製)
(4)試験片の作製
牛歯の歯頚部を用いて試験片の作製を行った。
牛歯の歯頚部に対して、表面を#80の研磨紙を用いて研磨し、象牙質を露出させた後、#1000の研磨紙を用いてさらに研磨し、5分間超音波処理を行った。牛歯の歯頚部の試験片の表面の一部に約5mm×2mmの試験窓を作製し、ダイヤモンドカッター(Isomet 1000 ビューラー(BUEHLER)製)を用いて、分割した面を中心に左右対称になるように牛歯の歯頚部の試験片を2つに分割した。
分割した双方の試験片において試験窓以外の部分にマニキュアを塗布し、それぞれが5mm×1mmの試験窓を有する試験片を2つ作製した。双方の試験片を脱灰液に浸漬し、37℃で2週間脱灰させた。脱灰液への浸漬開始から、3日に1回の頻度で脱灰液を交換した。
試験窓の一方(試験窓A)を、マニキュアで塗布し、乾燥させた。
もう一方の試験片の試験窓(試験窓B)には、サンプル(各実施例及び比較例の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント)を30秒擦り塗りした。その後、双方の試験片を30分間、恒温恒湿機内で37℃、95%RH保管した。当該保管後の試験片を人工唾液に浸漬し、浸漬開始から7日間経過時までに5回人工唾液を交換し、37℃で2週間保管した。
得られた試験片からマニキュアを剥がし、70%エタノール、80%エタノール、90%エタノール、99%エタノール、100%エタノールに10分ずつ浸漬後、100%エタノールに1日浸漬した。プロピレンオキシド/エタノール=1/1の混合液、プロピレンオキシドに10分ずつ浸漬後、プロピレンオキシドに1日浸漬した。エポキシ樹脂主剤/プロピレンオキシド=1/1の混合液、エポキシ樹脂主剤/プロピレンオキシド=4/1、エポキシ樹脂主剤に2時間ずつ浸漬後、エポキシ樹脂主剤/硬化剤=4/1に浸漬し、浸漬したまま60℃で1日保管し、硬化させた。硬化物である試験片をダイヤモンドカッター(Isomet 1000 ビューラー(BUEHLER)社製)で試験窓の長辺に垂直に、約1.2mmの厚みに切断し、ラッピングフィルム(#1200,#3000,#8000,スリーエムジャパン株式会社製)を使用して、試験片の厚みを0.060mm~0.110mmとした。
(5)CMR(Contact Micro Radiography)
得られた双方の試験片について、軟X線検査装置(商品名「CMR-2」、ソフテックス株式会社製)とガラス乾板(HIGH PRECISION PHOTO PLATE HPP-SN2 2×2、コニカミノルタ株式会社製)を使用し、管電圧10kV、管電流2.0mA、照射時間10分で試験片全体を撮影した。撮影した試験片(乾板)を現像液(医療用X線液体現像液「ハイレンドール」、富士フイルム株式会社)に5分浸漬し、蒸留水で1分洗浄し、定着液(定着剤「ハイレンフィックス」、富士フイルム株式会社)に5分浸漬し、蒸留水で30秒洗浄した。
(6)解析
得られたCMR像を顕微鏡(Nikon DS-Ri1、株式会社ニコンソリューションズ製)で撮影し、未脱灰部分のマニキュア保護直下、100μmの輝度値を基準として、画像解析ソフトウェア(ImageJ、オープンソース、パブリックドメイン)を用いて試験窓の表面から試験窓の深さ方向に輝度値を測定し(n=3)、下記式より、ミネラル密度回復能(%)を求めた。以下の各式において、「コントロール」は、サンプル(各実施例及び比較例の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント)で処理していない場合を意味する。
任意の深さのコントロールミネラル密度=
任意の深さのコントロール輝度値/未脱灰部分のマニキュア保護直下100μmの輝度値
任意の深さの処理面ミネラル密度=
任意の深さの処理面輝度値/未脱灰部分のマニキュア保護直下100μmの輝度値
7μmから497μmまでの範囲について測定間隔を7μmに設定し、以下の方法で算出した。
Figure 2024005110000003
Figure 2024005110000004
Figure 2024005110000005
上記の結果からも明らかなように、本発明に係る歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント(実施例1~13)は、優れた象牙細管封鎖性を有し、かつ脱灰した象牙質に対するミネラル密度回復能においても高いことが確認された。
これに対して、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の全量中において、体積基準の積算粒子径分布における粒子径0μm以上3μm以下の積算頻度(%)が3%未満である2価以上の陽イオンのフッ化物塩を用いた比較例1はミネラル密度回復能が不十分であった。
リン酸カルシウム粉末を配合しない比較例2は、ペースト状にならず、象牙細管封鎖性がなく、歯質に残存しないため、ミネラル密度回復能も確認できなかった。
2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)と2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を十分な量を配合していない比較例3及び4は、ミネラル密度回復能が不十分であった。
本発明に係る歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントは、歯科医療の分野において、歯面処理材(例えば、象牙質知覚過敏抑制材、根面う蝕治療材等)、歯磨材として好適に用いられる。

Claims (16)

  1. 粉体である第1材と、液体である第2材から構成され、
    前記第1材が、リン酸カルシウム化合物(A)、2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)、及び2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)を含み、
    前記第2材が、水(D)を含み、
    前記2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の全量中において、体積基準の積算粒子径分布における粒子径0μm以上3μm以下の積算頻度が3%以上である、歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  2. 前記フッ化物塩(B)が、フッ化亜鉛及びフッ化ストロンチウムである、請求項1に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  3. 前記2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)が、タンニン酸、カテコール、タイロン一水和物、プロトカテク酸、プロトカテク酸エステル、ピロカテコール、ピロガロール、シキミ酸、没食子酸、没食子酸エステル、及びカテキンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  4. 前記2価以上の陽イオンのフッ化物塩(B)の平均粒子径が、34μm未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  5. 前記リン酸カルシウム化合物(A)が、リン酸四カルシウム、無水リン酸一水素カルシウム(CaHPO4)、無水リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO42)、α-リン酸三カルシウム(α-TCP)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、非晶質リン酸カルシウム(Ca3(PO42・nH2O)、ピロリン酸カルシウム(CaH227)、リン酸八カルシウム(Ca82(PO46・5H2O)、リン酸一水素カルシウム2水和物(CaHPO4・2H2O)、及びリン酸二水素カルシウム1水和物(Ca(H2PO42・H2O)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  6. 前記第1材又は第2材がpH調整材をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  7. 前記pH調整材が、リン酸のアルカリ金属塩である、請求項6に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  8. 前記第1材又は第2材が無機フィラーをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  9. 前記無機フィラーが、軽質無水ケイ酸及び金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  10. 前記第2材が抗菌剤をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  11. 前記リン酸カルシウム化合物(A)が粒子の形態であり、平均粒子径が0.1~40μmである、請求項1~10のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  12. 前記2価以上の陽イオンと不溶性の塩を形成する多価有機酸(C)が粒子の形態であり、平均粒子径が5.0~100μmである、請求項1~11のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメント。
  13. 請求項1~12のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む、歯面処理材。
  14. 請求項1~12のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む、象牙質知覚過敏抑制材。
  15. 請求項1~12のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む、歯磨材。
  16. 請求項1~12のいずれか1項に記載の歯科用硬化性リン酸カルシウムセメントを含む、根面う蝕治療材。
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