JP5834355B2 - 知覚過敏抑制剤及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は露出した象牙質の象牙細管を封鎖することのできる象牙質石灰化剤に関する。
80歳になっても20本以上自分の歯を保とうとする、いわゆる8020運動(口腔衛生の向上、歯質の保存(MI:Minimal Intervention))に伴い、高齢者に多くの歯が残る率が飛躍的に高まった。しかしながら、これに伴い新たな歯科疾患(歯の磨耗、歯周病による歯槽骨喪失等)による象牙質露出の問題が発生している。露出象牙質は、エナメル質と異なり象牙質を構成する組織のミネラル濃度が低いため、耐う蝕性が良好ではなく、また、象牙細管が口腔内の酸による作用で開孔して知覚過敏症が発病するなどの原因となる。これを改善する方法として、ポリマー系の材料を被覆する方法や、2種類の材料を交互に塗布して無機塩を析出させ、物理的な障壁を形成させることにより象牙細管を封鎖させる方法が知られている。しかしながら、これらの方法では象牙細管開口部付近の浅い部分や表面が覆われるのみであり、歯ブラシ等で磨耗されることにより容易に破壊されてしまう問題があった。また、生体親和性の高い材料とは言え、材料の塗布によりプラークが付着して炎症・根面う蝕の原因となる問題もあった。
硬化性を有するリン酸カルシウム組成物として、リン酸四カルシウム(以下「TTCP」と略記することがある)と無水リン酸一水素カルシウム(以下「DCPA」と略記することがある)とを組み合わせたリン酸カルシウムセメント(以下「CPC」と略記することがある)が知られており、生体内や口腔内において生体吸収性のヒドロキシアパタイト(以下「HAp」と略記することがある;Ca10(PO(OH))へ徐々に転化し、さらに形態を保ったままで生体硬組織と一体化し得るとされている。一方、TTCPを用いないリン酸カルシウムセメントとして、DCPA等の酸性リン酸カルシウムとリン酸イオンを含まないカルシウム化合物とを組み合わせたリン酸カルシウムセメントが知られている。
例えば、非特許文献1には、DCPA等に代表される酸性リン酸カルシウムと、水酸化カルシウムや炭酸カルシウム等のカルシウム化合物とからなる自己硬化性リン酸カルシウムセメントについて記載されている。また、リン酸塩濃度を高くするためにリン酸一水素二ナトリウム(NaHPO)等のリン酸のアルカリ金属塩を加えてもよいことが記載されている。しかしながら、DCPA等に代表される酸性リン酸カルシウム、リン酸のアルカリ金属塩を一定量配合した構成とすることで、象牙細管を封鎖できる等、象牙質表面に対して顕著な効果を有することについては記載されていなかった。
また、特許文献1には、ヒト又は他の動物への局所口腔投与のための口腔ケア組成物であって、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースを含む保持剤、並びに局所口腔ケアキャリアを含む咀嚼可能な固体単位剤形組成物について記載されている。これによれば、咀嚼可能な固体単位剤形を用いて、口腔ケア活性剤を歯の表面に直接送達することができるとされており、口腔ケア活性剤の一つとして、例えば、再石灰化剤が挙げられている。しかしながら、DCPA等に代表される酸性リン酸カルシウム、リン酸のアルカリ金属塩を一定量配合した構成とすることで、象牙細管を封鎖できる等、象牙質表面に対して顕著な効果を有することについては記載されていなかった。
一方、特許文献2には、リン酸四カルシウムとリン酸水素カルシウム無水物を含むリン酸カルシウム組成物が水の存在下で反応してヒドロキシアパタイトを生成することが記載されている。こうして得られたヒドロキシアパタイトは、生体硬組織と接触することによって骨へと徐々に置換することが可能であり、また、上記リン酸カルシウム組成物は石灰化能を有するため、石灰化剤としても使用できるとされている。一方、上記リン酸カルシウム組成物を迅速に硬化させる目的で、リン酸一水素二ナトリウム(NaHPO)等のリン酸のアルカリ金属塩を加えることが記載されている。しかしながら、石灰化の効果を向上させる目的でリン酸のアルカリ金属塩を添加することについては記載されていなかった。
また、特許文献3には、リン酸四カルシウム、Ca/Pモル比が1.67未満のリン酸カルシウム、及び増粘剤よりなる知覚過敏症治癒用組成物について記載されている。これによれば、歯牙の知覚過敏部位へ塗布して所定時間保持することにより、知覚過敏を著しく軽減させることができるとされている。知覚過敏が著しく低減する理由として、該組成物の水等との練和物中から溶出したカルシウムイオンやリン酸イオンが象牙細管へ拡散浸透して、この象牙細管中でヒドロキシアパタイトが析出沈積することにより外界からの機械的刺激、熱刺激、及び化学的刺激を遮断するためとされている。一方、上記知覚過敏症治癒用組成物に、水との練和性やペースト粘度の調節のために、ヒドロキシアパタイト、フッ化カルシウム、酸化チタン、水酸化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸アンモニウム、アルミナ、シリカ等の他の成分を添加してもよいことが記載されている。しかしながら、石灰化の効果を向上させる目的でリン酸のアルカリ金属塩を添加することについては記載されていなかった。
特開2007−314564号公報 特許第3017536号公報 特開平1−163127号公報
S. Takagi et al., Formation ofhydroxyapatite in new calcium phosphate cements, Biomaterials 19 1998,p.1593-1599
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、象牙細管に侵入し物理的に封鎖するだけでなく、長期的には象牙細管の深部にまでHApが析出して象牙細管を封鎖することができる象牙質石灰化剤を提供することを目的とするものである。
上記課題は、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を含有する象牙質石灰化剤からなる知覚過敏抑制剤であって、酸性リン酸カルシウム粒子(A)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO ]粒子、β−リン酸三カルシウム[β−Ca (PO ]粒子、及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO ・2H O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、リン酸のアルカリ金属塩(B)がリン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムであり、該知覚過敏抑制剤に含まれるリン源とカルシウム源が、酸性リン酸カルシウム粒子(A)並びにリン酸のアルカリ金属塩(B)のみからなり、知覚過敏抑制剤の全量100重量部に対して酸性リン酸カルシウム粒子(A)を15〜80重量部、及び水(C)を15〜84重量部含み、かつ酸性リン酸カルシウム粒子(A)100重量部に対するリン酸のアルカリ金属塩(B)の配合量が0.1〜80重量部であり、象牙質表面にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものであることを特徴とする知覚過敏抑制剤を提供することによって解決される。
このとき酸性リン酸カルシウム粒子(A)が無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子及び/又はリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子であることが好適である更にフッ素化合物(D)を含有することが好適であり、フッ素化合物(D)がフッ化ナトリウムであることが好適である。酸性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径が0.1〜20μmであることが好適である。
また、象牙質石灰化剤を含有する粉剤、ペースト等が本発明の好適な材型である。
また、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを混合する象牙質石灰化剤からなる知覚過敏抑制剤の製造方法であって、該知覚過敏抑制剤が象牙質表面にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものであり、酸性リン酸カルシウム粒子(A)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO ]粒子、β−リン酸三カルシウム[β−Ca (PO ]粒子、及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO ・2H O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、リン酸のアルカリ金属塩(B)がリン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムであり、該知覚過敏抑制剤に含まれるリン源とカルシウム源が、酸性リン酸カルシウム粒子(A)並びにリン酸のアルカリ金属塩(B)のみからなり、酸性リン酸カルシウム粒子(A)100重量部に対してリン酸のアルカリ金属塩(B)を0.1〜80重量部配合し、知覚過敏抑制剤の全量100重量部に対する酸性リン酸カルシウム粒子(A)の配合量を15〜80重量部とし、かつ知覚過敏抑制剤の全量100重量部に対する水(C)の配合量が15〜84重量部となるように水を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合する知覚過敏抑制剤の製造方法を提供することが本発明の好適な実施態様である。
このとき酸性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合することが好適である。また、酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好適であり、水(C)を主成分とし酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストに、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好適である。
本発明により、象牙細管に侵入し物理的に封鎖するだけでなく、象牙細管の深部にまでHApが析出して象牙細管を封鎖することが可能な象牙質石灰化剤が提供される。このことにより、知覚過敏症の治療が可能となる。また、本発明の象牙質石灰化剤を象牙質表面にすり込むことにより、象牙細管を本発明の象牙質石灰化剤で封鎖することが可能である。本発明の象牙質石灰化剤は、水を含むペーストの状態であっても長期保存が可能である。
実施例1において、象牙細管がHApで封鎖された牛歯象牙質表面と、象牙細管が露出された牛歯象牙質表面とを比較したSEM写真である。 実施例1において、試験前の象牙細管が露出された牛歯象牙質表面のSEM写真である。 実施例1において、象牙細管が本発明の象牙質石灰化剤で封鎖された牛歯象牙質表面のSEM写真である。 実施例1において、象牙細管が本発明の象牙質石灰化剤で封鎖された牛歯象牙質断面のSEM写真である。
本発明の象牙質石灰化剤は、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を一定量含有するものである。本発明者らにより、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を一定量含有する象牙質石灰化剤を用いることにより、石灰化効果が高く、特に象牙細管の深部にまでHApが析出して象牙細管を封鎖できることが明らかとなった。この理由については必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムが推定される。
すなわち、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を一定量含有する象牙質石灰化剤を調製して用いた際に、酸性リン酸カルシウム粒子(A)が溶解して得られるカルシウムイオン及びリン酸イオンと、リン酸のアルカリ金属塩(B)が溶解して得られるリン酸イオンとが象牙細管内で歯質中のHApを核として反応し、エネルギー的に安定なHApが析出するようである。その結果、象牙細管の深部にまでHApが析出して象牙細管が封鎖されるようである。このように、象牙細管の深部にまでHApが析出して象牙細管が封鎖されるため、知覚過敏症の治療が可能となる。また、見掛け上の象牙質ミネラル濃度が向上し耐摩耗性も良好となる。ここで本発明者らは、上記効果を奏するにはカルシウムイオンとリン酸イオンとが供給される速度のバランスならびに液剤中でのイオン濃度が重要であると推察している。また、カルシウムイオンを供給する化合物及びリン酸イオンを供給する化合物の溶解度が極端に低い場合や極端に高い場合には、HApの析出が良好ではないことを確認している。したがって、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)及び水(C)を一定量含有することで、カルシウムイオンとリン酸イオンの象牙質への供給速度ならびに供給バランスが適切となる本発明の構成を採用する意義が大きい。
本発明で用いられる酸性リン酸カルシウム粒子(A)としては特に限定されず、Ca/Pモル比が1.67未満の酸性リン酸カルシウム化合物であれば好適に採用でき、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子、無水リン酸二水素カルシウム[Ca(HPO]粒子、リン酸三カルシウム[Ca(PO]粒子(非晶質リン酸カルシウム[Ca(PO・nHO]粒子を含む)、ピロリン酸カルシウム[Ca]粒子、酸性ピロリン酸カルシウム[CaH]粒子、リン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子、リン酸八カルシウム5水和物[Ca(PO・5HO]、ピロリン酸カルシウム2水和物[Ca・2HO]、及びリン酸二水素カルシウム1水和物[Ca(HPO・HO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、HApの析出が良好となり、且つ、象牙細管内に侵入し象牙細管を封鎖する観点から難溶性の酸性リン酸カルシウム粒子(A)が好ましく用いられる。ここで、「難溶性」とは、25℃の水100gに0.1g未満の溶解性を示すことを意味する。難溶性の酸性リン酸カルシウム粒子(A)としては、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子、リン酸三カルシウム[Ca(PO]粒子、ピロリン酸カルシウム[Ca]粒子、リン酸八カルシウム5水和物[Ca(PO・5HO]、ピロリン酸カルシウム2水和物[Ca・2HO]、リン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用される。中でも、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子、リン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子、及びリン酸三カルシウム[Ca(PO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種がより好適に使用され、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子、及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種が更に好適に使用される。
本発明で用いられる酸性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径は、0.1〜20μmであることが好ましい。平均粒径が0.1μm未満の場合、液剤への溶解が過多となるためカルシウムイオンとリン酸イオンの供給バランスが崩れるだけでなく、液剤中のイオン濃度が過多となるおそれがある。更には液剤との混合により得られるペーストの粘度が高くなり過ぎるおそれがあり、塗布性が低下し、その結果象牙質の封鎖性が低下する恐れがある。酸性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径は、より好適には0.3μm以上であり、更に好適には1μm以上である。一方、平均粒径が20μmを超える場合、酸性リン酸カルシウム粒子(A)が液剤へ溶解しにくくなるため、カルシウムイオンとリン酸イオンの供給バランスが崩れるとともに、液剤中でのこれらイオン濃度が過少となることでヒドロキシアパタイトの析出が円滑でなくなり、石灰化効果が低下するおそれがある。また、酸性リン酸カルシウム粒子(A)が象牙細管内に進入することができず、封鎖性が低下する恐れがある。酸性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径は、より好適には15μm以下であり、更に好適には10μm以下であり、特に好適には5μm以下であり、最も好適には2μm以下である。酸性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定し、算出したものである。
このような平均粒径を有する酸性リン酸カルシウム粒子(A)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよいが、市販品を更に粉砕することが好ましい場合が多い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、酸性リン酸カルシウム原料粉体をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることにより酸性リン酸カルシウム粒子(A)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナやジルコニアが採用される。
本発明は、象牙質石灰化剤の全量100重量部に対して酸性リン酸カルシウム粒子(A)を15〜80重量部含む。酸性リン酸カルシウム粒子(A)の含有量が15重量部未満の場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、また、象牙質表面にすり込んだ際、象牙細管に侵入しても隙間が多くなり、効果的に象牙細管を封鎖できなくなる恐れがある。酸性リン酸カルシウム粒子(A)の含有量は、20重量部以上であることが好ましく、25重量部以上であることがより好ましく、30重量部以上であることが更に好ましい。一方、酸性リン酸カルシウム粒子(A)の含有量が80重量部を超える場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、また、ペースト性状が悪く塗布性が低下するため、象牙質表面にすり込む際、すり込み難くなる恐れがある。酸性リン酸カルシウム粒子(A)の含有量は、75重量部以下であることが好ましく、72重量部以下であることがより好ましく、70重量部以下であることが更に好ましい。
本発明で用いられるリン酸のアルカリ金属塩(B)としては特に限定されず、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一リチウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ならびにこれらの水和物等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が用いられる。中でも、安全性や純度の高い原料が容易に入手できる観点から、リン酸のアルカリ金属塩(B)がリン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムであることが好ましい。
本発明で用いられるリン酸のアルカリ金属塩(B)の配合量は、酸性リン酸カルシウム粒子(A)100重量部に対して0.1〜80重量部である。リン酸のアルカリ金属塩(B)の配合量が0.1重量部未満の場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、0.2重量部以上であることが好ましく、1重量部以上であることがより好ましく、2重量部以上であることが更に好ましい。一方、リン酸のアルカリ金属塩(B)の含有量が80重量部を超える場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、60重量部以下であることが好ましく、50重量部以下であることがより好ましく、40重量部以下であることが更に好ましい。
リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径は、1〜20μmであることが好ましい。平均粒径が1μm未満の場合、液剤への溶解が早すぎて、象牙質石灰化剤組成物中のリン酸イオン濃度が高くなるため、カルシウムイオンとリン酸イオンの供給バランスが崩れ、ヒドロキシアパタイトの析出速度が低下し、石灰化効果が低下するおそれがある。更には、リン酸のアルカリ金属塩粒子同士の二次凝集が発生し、同時に混合する他の粒子との分散性が低下するおそれがある。リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径は、より好適には3μm以上である。一方、平均粒径が20μmを超える場合、リン酸のアルカリ金属塩(B)が液剤へ溶解しにくくなり、HApの析出速度が低下し、石灰化効果が低下するおそれがある。リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径は、より好適には15μm以下である。リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定し、算出したものである。
このような平均粒径を有するリン酸のアルカリ金属塩(B)の製造方法は、上述した酸性リン酸カルシウム粒子(A)と同様に行うことができる。
本発明の象牙質石灰化剤は、酸性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)に加えて、象牙質石灰化剤の全量100重量部に対して更に水(C)を、15〜84重量部配合されてなる。水の配合量が15重量部未満の場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、また、ペースト性状が悪く塗布性が低下するため、象牙質表面にすり込む際、すり込み難くなる恐れがある。水の配合量は、20重量部以上であることが好ましく、30重量部以上であることがより好ましい。一方、水の配合量が84重量部を超える場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、また、象牙質表面にすり込んだ際、象牙細管に侵入しても隙間が多くなり、効果的に象牙細管を封鎖できなくなる恐れがある。水の配合量は、80重量部以下であることが好ましく、70重量部以下であることがより好ましい。
本発明の象牙質石灰化剤は、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を含有した粉剤と液剤、あるいはペーストとの組み合わせによる2材型、あるいは、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を含有したペーストによる1材型で提供することが可能である。象牙質石灰化剤を象牙質に適応することにより、カルシウムイオンとリン酸イオンが供給され、歯質中のHApを核とし反応が起こり、HApが析出するようである。これらを歯質病変部に適応し、レジン系の歯面コート材等を上塗りし、硬化させることにより、有効成分の他部位への散逸を防止し、長期的な治療が可能となる。また、象牙質石灰化剤を、アプリケーター等により象牙質表面にすり込んで使用することも可能である。本発明の象牙質石灰化剤は、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を含有したペーストによる1材型が好適な材型である。
本発明の象牙質石灰化剤に含有されるリン源とカルシウム源は、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、並びにリン酸のアルカリ金属塩(B)のみからなることが好ましい。酸性リン酸カルシウム粒子(A)として例示した無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子等は、リン酸四カルシウムに代表される塩基性リン酸カルシウム、或いは水酸化カルシウムに代表される塩基性カルシウムと混合し、水に接触すると硬化し、HApを生成する。水系の1ペーストで象牙質石灰化剤を提供しようとする際、塩基性リン酸カルシウム、或いは塩基性カルシウムが含有されていると、保存中に組成物が固化し、使用不可能となるため好ましくない。
本発明の象牙質石灰化剤は、更にフッ素化合物(D)を含有することが好ましい。このことにより、歯質に耐酸性を付与させるとともに石灰化を促進させることが可能となる。本発明で用いられるフッ素化合物(D)としては特に限定されず、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化銅、フッ化ジルコニウム、フッ化アルミニウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化水素酸、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタンカリウム、ヘキシルアミンハイドロフルオライド、ラウリルアミンハイドロフルオライド、グリシンハイドロフルオライド、アラニンハイドロフルオライド、フルオロシラン類、フッ化ジアミン銀等が挙げられる。中でも石灰化促進効果が高い観点からフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズが好適に用いられる。
本発明で用いられるフッ素化合物(D)の使用量は特に限定されず、象牙質石灰化剤の全量100重量部に対してフッ素化合物(D)の換算フッ化物イオンを0.01〜3重量部含むことが好ましい。フッ素化合物(D)の換算フッ化物イオンの使用量が0.01重量部未満の場合、石灰化を促進する効果が低下するおそれがあり、0.05重量部以上であることがより好ましい。一方、フッ素化合物(D)の換算フッ化物イオンの使用量が3重量部を超える場合、安全性が損なわれるおそれがあり、1重量部以下であることがより好ましい。
本発明の象牙質石灰化剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)及びフッ素化合物(D)以外の成分を含有しても構わない。例えば、必要に応じて増粘剤を配合することができる。増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩、ポリアスパラギン酸、ポリアスパラギン酸塩、ポリLリジン、ポリLリジン塩、セルロース以外のデンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、カラジーナン、グアーガム、キタンサンガム、セルロースガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、ペクチン、ペクチン塩、キチン、キトサン等の多糖類、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の酸性多糖類エステル、またコラーゲン、ゼラチン及びこれらの誘導体などのタンパク質類等の高分子などから選択される1つ又は2つ以上が挙げられるが、水への溶解性及び粘性の面からはカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸塩、キトサン、ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩から選択される少なくとも1つが好ましい。増粘剤は、粉体に配合してもよいし液剤に配合してもよく、また混合中のペーストに配合してもよい。
また、必要に応じてシリカ等に代表される無機フィラー、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出液、サッカリン、サッカリンナトリウム等の人工甘味料などを加えてもよい。更に、薬理学的に許容できるあらゆる薬剤等を配合することができる。セチルピリジニウムクロリド等に代表される抗菌剤、消毒剤、抗癌剤、抗生物質、アクトシン、PEG1などの血行改善薬、bFGF、PDGF、BMPなどの増殖因子、骨芽細胞、象牙芽細胞、さらに未分化な骨髄由来幹細胞、胚性幹(ES)細胞、線維芽細胞等の分化細胞を遺伝子導入により脱分化・作製した人工多能性幹(iPS:induced Pluripotent Stem)細胞ならびにこれらを分化させた細胞など硬組織形成を促進させる細胞などを配合させることができる。
本発明では、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを混合することにより、ペースト状の象牙質石灰化剤を得ることができる。水(C)を含むこのペースト状の象牙質石灰化剤は、長期保存も可能であり、また、医療現場で使用する直前に混合して調製することも可能である。したがって、1剤型である水(C)を含むペースト状の象牙質石灰化剤が本発明の好適な実施態様であり、医療現場で適宜調製されるような2剤型である象牙質石灰化剤も本発明の好適な実施態様である。混合操作としては特に限定されず、手混合、スタティックミキサーを用いた混合等が好ましく採用される。ここで、本発明者らは、酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとを混合する際に、リン酸のアルカリ金属塩(B)を粉体のまま加えて混合してもよいし、液剤として加えて混合してもよく、いずれの場合であっても石灰化効果の高い象牙質石灰化剤が得られることを確認している。石灰化効果のより高い象牙質石灰化剤を得ることができる観点から、リン酸のアルカリ金属塩(B)を液剤として加えて混合する方法が好適に採用される。
こうして得られた象牙質石灰化剤は、象牙質表面に塗布等すること、或いは象牙質表面にすり込むことにより好適に使用される。ここで、水を主成分とする液体とは、純水であっても、水を主成分とし他の成分を含有する液体であってもよく、また、水を主成分とする水系ペーストとは、水を主成分とし他の成分を含有するペースト状の液体を示す。他の成分としては特に限定されず、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルなどが例示される。
ここで、本発明の象牙質石灰化剤を象牙質表面にすり込むことにより、効果的に象牙細管を封鎖することが可能であることが明らかとなった。この理由については以下のようなメカニズムが推定される。すなわち、本発明の象牙質石灰化剤を水の存在下で調製して象牙質表面にすり込んだ際に、カルシウムイオンとリン酸イオンが供給され、歯質中のHApを核として反応が起こり、HApが析出するようである。その結果、析出されたHApがカルシウムイオンとリン酸イオンとにより結晶成長し、緻密化して象牙質と一体化するようである。このことにより、象牙細管の封鎖性が良好となり、特に知覚過敏を抑制する効果が高くなる。したがって、象牙質表面にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものである象牙質石灰化剤が本発明の好適な実施態様である。また、このような象牙質石灰化剤を象牙質表面にすり込むことによる象牙質知覚過敏抑制方法も本発明の好適な実施態様である。
本発明では、酸性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合することによってペースト状の象牙質石灰化剤を得ることができる。また、本発明では、酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することによってもペースト状の象牙質石灰化剤を得ることができる。更に、本発明では、水(C)を主成分とし酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストに、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することによってもペースト状の象牙質石灰化剤を得ることができる。
酸性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は水(C)以外の他の溶媒を主成分とする非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとを混合する方法が好適に採用される。また、酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は水(C)以外の他の溶媒を主成分とする非水系ペーストと、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストと混合する方法も好適に採用される。更に、水(C)を主成分とし酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストと、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストとを混合する方法も好適に採用される。これらの方法は、使用直前に混合して調製する際の操作が簡便である利点も有する。非水系ペーストに使用される水以外の溶媒としては特に限定されず、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルなどが例示される。
本発明の象牙質石灰化剤は、歯面処理材、歯磨材の各種用途に好ましく用いられる。酸性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)は、水の存在下で、カルシウムイオンとリン酸イオンを供給する。これらは、象牙質に浸透し象牙質中のHApを核として、沈着することにより象牙質の再石灰化を引き起こす。また、本発明の象牙質石灰化剤を象牙質表面にすり込み、象牙細管内に象牙質石灰化剤を侵入させ物理的に封鎖させることも可能である。したがって、これらの中でも、象牙質石灰化剤を含有する歯面処理材が本発明の好適な実施態様であり、特に、歯面処理材からなる知覚過敏抑制剤、及び/又は歯面処理材からなる根面う蝕予防剤が本発明のより好適な実施態様である。また、象牙質石灰化剤を含有する歯磨材も本発明の好適な実施態様である。
上述のように、水の存在下では、酸性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含有する象牙質石灰化剤は、カルシウムイオンとリン酸イオンを供給する。これらは、象牙質に浸透し象牙質中のHApを核として、沈着することにより象牙質の再石灰化を引き起こすため、酸性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる象牙質石灰化剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。また、酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストとからなる象牙質石灰化剤キットであることも本発明の実施態様の一つである。また、酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる象牙質石灰化剤キットであることも本発明の実施態様の一つである。更に、水(C)を主成分とし酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストと、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストとからなる象牙質石灰化剤キットであることも本発明の実施態様の一つである。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。本実施例において酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及びフッ化ナトリウム(D)粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD−2100型」)を用いて測定し、測定の結果から算出されるメディアン径を平均粒径とした。
[石灰化用牛歯の調製]
健全牛歯切歯の頬側中央を#80,#1000研磨紙を用いて回転研磨機により研磨し、象牙質を露出させた。この牛歯研磨面をさらにラッピングフィルム(#1200,#3000,#8000,住友スリーエム社製)を用いて研磨し、平滑とした。この象牙質部分に歯に対して縦軸方向及び横軸方向に各7mm試験部分の窓を残し(以下、「象牙質窓」と称する)、周りをマニキュアでマスキングし、1時間風乾した。この牛歯に対して、0.5M EDTA溶液(和光純薬工業株式会社製)を5倍に希釈した溶液を30秒間象牙質窓に作用させ脱灰を行った後、30分以上水洗した。更に10%次亜塩素酸ナトリウム溶液(ネオクリーナー「セキネ」、ネオ製薬工業株式会社製)を2分間作用させ清掃した後、更に約1時間水洗することで石灰化に用いる牛歯を調製した。
[擬似唾液の調製]
塩化ナトリウム(8.77g,150mmol)、リン酸二水素カリウム(122mg,0.9mmol)、塩化カルシウム(166mg,1.5mmol)、Hepes(4.77g,20mmol)をそれぞれ秤量皿に量り取り、約800mlの蒸留水を入れた2000mlビーカーに攪拌下に順次加えた。溶質が完全に溶解したことを確認した後、この溶液の酸性度をpHメータ(F55、堀場製作所製)で測定しながら、10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH7.0とした。次にこの溶液を1000mlメスフラスコに加えてメスアップし、擬似唾液1000mlを得た。
[酸性リン酸カルシウム粒子(A)]
DCPA:10.2μm 無水リン酸一水素カルシウム〔CaHPO〕 和光純薬工業株式会社製
DCPD:5.1μm リン酸一水素カルシウム二水和物〔CaHPO・2HO〕 太平化学産業株式会社製
β-TCP:1.0μm β−リン酸三カルシウム〔β−Ca(PO〕 太平化学産業株式会社製
[リン酸のアルカリ金属塩(B)]
NaHPO:リン酸水素二ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
NaHPO:リン酸二水素ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
[フッ素化合物(D)]
NaF:フッ化ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
MFP:モノフルオロリン酸ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
[シリカ粒子(E)]
Ar130:「アエロジル130(商品名)」日本アエロジル社製
[その他のリン酸カルシウム]
TTCP:10.8μm リン酸四カルシウム 〔Ca(POO〕 太平化学産業株式会社製
[各粉体の調製]
DCPA:平均粒径1.1μmの調製
DCPA:平均粒径1.1μmは、DCPA:10.2μm 50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。0.7μm、ならびに5.0μmのDCPAは、上記方法と同様にし、粉砕時間をそれぞれ、30時間、並びに7時間とすることにより得た。
DCPD:平均粒径1.1μmの調製
DCPD:平均粒径1.1μmは、DCPD:5.1μm50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で10時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。
NaHPO:4.6μmの調製
NaHPO:平均粒径4.6μmは、ナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジーズ社製))で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
NaHPO:9.7μmの調製
NaHPO:平均粒径9.7μmは、NaHPOをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.3MPa/粉砕圧:0.3MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
NaHPO:19.7μmの調製
NaHPO:平均粒径19.7μmは、NaHPOをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.2MPa/粉砕圧:0.1MPa、処理量条件を20kg/hrとし、1回処理することにより得た。
NaHPO:1.45μmの調製
NaHPO:平均粒径1.45μmは、NaHPOをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:1.3MPa/粉砕圧:1.3MPa、処理量条件を1kg/hrとし、4回処理することにより得た。
NaHPO:4.8μmの調製
NaHPO:平均粒径4.8μmは、NaHPOをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
[象牙質石灰化剤の調製]
(1)象牙質石灰化剤用粉体の調製
表1〜2に示す組成で秤量した各粉体成分を高速回転ミル(アズワン株式会社「SM−1」)中に加え、22000rpmの回転速度で3分間混合することで象牙質石灰化剤の粉体を調製した。混合の必要ない粉体は、そのまま象牙質石灰化剤の粉体として使用した。
(2)象牙質石灰化剤用液剤の調製
表1〜2に示す組成で秤量した各液剤成分を蒸留水に溶解させることで象牙質石灰化剤用の液剤を得た。液剤成分を含有しない組成の場合は、蒸留水をそのまま象牙質石灰化剤用の液剤として使用した。
(3)象牙質石灰化剤の調製
表1〜2に示す組成の上記(1)で得た粉体と、上記(2)で得た液剤を加え混合することで象牙質石灰化剤を調製した。
実施例1〜27
上記(1)〜(3)の手順で表1〜5に記載の組成で象牙質石灰化剤を調製し、石灰化試験を行った。また、SEM観察、並びに硬化時間測定試験を行った。得られた評価結果を表6にまとめて示す。
(4)歯牙石灰化剤用ペーストの調製
表3〜4に示す組成で秤量した精製水とグリセリン以外の各成分を高速回転ミル(アズワン株式会社「SM−1」)中に加え、22000rpmの回転速度で3分間混合した後、秤量した精製水とグリセリンを加え、混合することで象牙質石灰化剤を調製した。
実施例31〜43、比較例6〜8
上記(4)の手順で表3〜4に記載の組成で象牙質石灰化剤を調製し、短時間、並びに長時間接触石灰化試験を行った。また、硬化時間測定試験を行った。得られた評価結果を表6にまとめて示す。
比較例1〜5
上記(1)〜(3)の手順で表2に記載の象牙質石灰化剤を調製し、短時間、並びに長時間接触石灰化試験を行った。また、硬化時間測定試験を行った。得られた評価結果を表6にまとめて示す。
実施例44
DCPA:1.1μm 30g、NaF 0.21g、Ar130 0.5g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)19.29gを混合し、第一液状ペーストを調製した。NaHPO 3g、サッカリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5g、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、三洋化成工業株式会社製)3g、グリセリン5g、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)5g、セチルピリジニウムクロリド一水和物(和光純薬工業株式会社製)0.05g、Ar130 3.5g、蒸留水29.95gを混合し、第二液状ペーストを調製した。上記で作製した第一液状ペースト50gと水系ペースト50gを加え混合することで象牙質石灰化剤を調製した。実施例1と同様にして、短時間、並びに長時間接触石灰化試験を行った。また、硬化時間測定試験を行った。得られた評価結果を表6にまとめて示す。
実施例45
実施例44と同様にして表5に記載の象牙質石灰化剤を調製し、短時間、並びに長時間接触石灰化試験を行った。また、硬化時間測定試験を行った。得られた評価結果を表6にまとめて示す。
[象牙質石灰化剤の評価]
(1)石灰化用牛歯ディスクの調製
健全牛歯切歯の頬側中央を#80,#1000研磨紙を用いて回転研磨機によりトリミングし、直径約7mm、厚さ0.9mmのディスク状に成形した。この牛歯研磨面をさらにラッピングフィルム(#1200,#3000,#8000,住友スリーエム社製)を用いて研磨し、厚さ0.7mmまで研磨し、平滑とした。この牛歯ディスクの両面に対して、0.5M EDTA溶液(和光純薬工業株式会社製)を5倍に希釈した溶液を30秒間象牙質窓に作用させ脱灰を行った後、約60秒以上水洗した。更に10%次亜塩素酸ナトリウム溶液(ネオクリーナー「セキネ」、ネオ製薬工業(株)製)を1分間作用させて清掃し、象牙質透過抑制率評価に用いる牛歯ディスクを調製した。
(2)石灰化試験(すり込み初期)試料の作製
上記(1)で調製した石灰化用牛歯ディスクの頬側象牙質表面に対して、スパーテルを用いて上記で調製した象牙質石灰化剤約0.1gを付着させ、続いてマイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて、象牙質処理面中央部における直径5mmの象牙質に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去し、直ちに象牙質透過抑制率評価試験、並びにSEM観察を実施した(n=5)。
(3)石灰化試験(すり込み長期)試料の作製
上記(1)で調製した石灰化用牛歯ディスクの頬側象牙質表面に対して、スパーテルを用いて上記で調製した象牙質石灰化剤約0.1gを付着させ、続いてマイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて、象牙質処理面中央部における直径5mmの象牙質に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去し、擬似唾液中に2週間浸漬した後、象牙質透過抑制率評価試験、並びにSEM観察を実施した(n=5)。
(4)象牙質透過抑制率評価試験
象牙質透過抑制率の評価には、Pashleyらの方法(D.H.PASHLEY et al.,J.Dent.Res.65:417−420,1986.;K.C.Y.TAY et al.,J.Endod.33:1438−1443,2007.)に準じる方法を用いて実施した。同様の装置を設置し、上記で得た石灰化牛歯を歯髄からエナメル質の方向に液が透過する様に分割可能なチャンバー治具中に設置、固定した。Phosphate-buffered saline(Dulbecco’s PBS, Grand Island Biological Company, Grand Island, NY)の圧力を加える象牙質表面は、Oリングを用いて表面積を78.5mm(直径5mm)に規格化し、10psi(69kPa)で加圧し、24時間経過した際の透過量を測定した。また、同様の操作で上記の石灰化(象牙細管封鎖)を行う前の同一の牛歯ディスクの透過量測定結果から、下記式を用いて象牙質透過抑制率を算出した。実施例1により石灰化した牛歯ディスクの、象牙質透過抑制率(すりこみ初期)は67%であり、象牙質透過抑制率(すりこみ長期)は69%であった。得られた結果を表6にまとめて示す。
象牙質透過抑制率(%)={1−(石灰化(象牙細管封鎖)した牛歯ディスクの透過量)/(石灰化(象牙細管封鎖)を行っていない牛歯ディスクの透過量)}×100
(5)SEM観察
浸漬液より石灰化牛歯を取り出し、水洗した後、室温で真空乾燥を1時間行い、金属蒸着処理した後、石灰化処理面を、走査型電子顕微鏡(S−3500N、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率3000倍で観察した。実施例1により石灰化した牛歯ディスクの牛歯象牙質表面の観察を行い、象牙細管が象牙質石灰化剤で封鎖されていることを確認した。また、牛歯ディスクを割断し、牛歯象牙質断面の観察を行い、約10μmの深さまで塊状封鎖物が侵入していることを確認した。
(6)硬化時間測定
ペースト状の象牙質石灰化剤を、顕微鏡用スライドグラス上に約30mg取り出した後、もう一枚の顕微鏡用スライドグラスで挟み、剪断力が加わるように押し付け、ペーストに不均一部分が発生していないか否かを目視にて検査した。不均一部分が発生した時点を硬化時間とした。硬化時間測定用試料は、調製後25℃で保存し、測定も25℃で実施した。30日以上保存し、硬化が認められない場合を硬化しないと判定した。


1 未処理部分
2 HApで封鎖された象牙細管

Claims (9)

  1. 酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を含有する象牙質石灰化剤からなる知覚過敏抑制剤であって、
    酸性リン酸カルシウム粒子(A)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO ]粒子、β−リン酸三カルシウム[β−Ca (PO ]粒子、及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO ・2H O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、
    リン酸のアルカリ金属塩(B)がリン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムであり、
    該知覚過敏抑制剤に含まれるリン源とカルシウム源が、酸性リン酸カルシウム粒子(A)並びにリン酸のアルカリ金属塩(B)のみからなり、
    知覚過敏抑制剤の全量100重量部に対して酸性リン酸カルシウム粒子(A)を15〜80重量部、及び水(C)を15〜84重量部含み、かつ酸性リン酸カルシウム粒子(A)100重量部に対するリン酸のアルカリ金属塩(B)の配合量が0.1〜80重量部であり、
    象牙質表面にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものであることを特徴とする知覚過敏抑制剤
  2. 酸性リン酸カルシウム粒子(A)が無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子及び/又はリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子である請求項に記載の知覚過敏抑制剤
  3. 更にフッ素化合物(D)を含有する請求項1又は2に記載の知覚過敏抑制剤
  4. フッ素化合物(D)がフッ化ナトリウムである請求項記載の知覚過敏抑制剤
  5. 酸性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径が0.1〜20μmである請求項1〜のいずれか記載の知覚過敏抑制剤
  6. 酸性リン酸カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを混合する象牙質石灰化剤からなる知覚過敏抑制剤の製造方法であって、
    該知覚過敏抑制剤が象牙質表面にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものであり、
    酸性リン酸カルシウム粒子(A)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO ]粒子、β−リン酸三カルシウム[β−Ca (PO ]粒子、及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO ・2H O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、
    リン酸のアルカリ金属塩(B)がリン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムであり、
    該知覚過敏抑制剤に含まれるリン源とカルシウム源が、酸性リン酸カルシウム粒子(A)並びにリン酸のアルカリ金属塩(B)のみからなり、
    酸性リン酸カルシウム粒子(A)100重量部に対してリン酸のアルカリ金属塩(B)を0.1〜80重量部配合し、知覚過敏抑制剤の全量100重量部に対する酸性リン酸カルシウム粒子(A)の配合量を15〜80重量部とし、かつ知覚過敏抑制剤の全量100重量部に対する水(C)の配合量が15〜84重量部となるように水を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項1記載の知覚過敏抑制剤の製造方法。
  7. 酸性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項記載の知覚過敏抑制剤の製造方法。
  8. 酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項記載の知覚過敏抑制剤の製造方法。
  9. 水(C)を主成分とし酸性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストに、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項記載の知覚過敏抑制剤の製造方法。
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