JP2023112834A - 履物用緩衝部材の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】履物用緩衝部材に求められる透明性及び柔軟性を保持しつつ、流動変形(クリープ)によるソール部材との分離を改善する、履物用緩衝部材を提供する。【解決手段】スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する履物用緩衝組成物の成形体を得る工程と、この成形体の少なくとも一部の表面に、スチレン系ブロック共重合体を含有するプライマー剤を施し、プライマー層を形成する工程と、このプライマー層の表面に、ウレタン樹脂を含有するコート剤を施し、略透明の保護コート層を形成する工程と、保護コート層の外側から電子線を照射する工程と、を備え、プライマー層形成工程で用いられるプライマー剤に含有されているスチレン系ブロック共重合体は、少なくともアクリル変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体であり、電子線照射工程における電子線の照射は、加速電圧が100~300kV、かつ照射線量が100~300kGyの範囲で行われる。【選択図】図4

Description

本発明は、例えば、靴底や靴の中敷き等に用いられる履物用緩衝部材の製造方法に関する。
スポーツシューズ等の機能性が求められる分野のシューズ設計において、樹脂等で形成されたソール部材に緩衝性に優れた緩衝部材を組み込むことが行われている。この種の緩衝部材は、使用者の動きを妨げないように軽量であることが求められるほか、その機能性を需要者に訴求できるよう外部から視認される態様でソール部材に組み込むため、外観が透明であるなど、高い意匠性も求められている。それゆえ、低比重であり、透明性も有するスチレン系熱可塑性エラストマーからなる緩衝部材が種々提案されている(特許文献1、2)。
これら履物用緩衝部材は、EVA等からなるゴム弾性を有するソール部材に接着されて組み込まれるところ、運動時に掛かる衝撃や応力により、緩衝部材及びソール部材は共に応力変形する。その際、緩衝部材とソール部材の接着面も伸縮変形することから、両者の接着面における接着状態の保持は重要である。しかしながら、緩衝部材とソール部材との接着は、緩衝部材の透明性を損なわないように行わなくてはならず、用いられる接着剤、プライマーや接着方法が制限されている。さらに、緩衝部材は、外部から視認できるよう、その一部が露出した状態でソール部材に組み込まれるため、緩衝部材とソール部材との接着領域も制限されている。それゆえ、接着されていない露出部と接着されたソール内部との境界、すなわち、露出部周縁から接着状態の剥離が生じやすい。この露出部周縁の剥離は僅かの剥離であっても直接視認されることから、商品の機能と品質を確保するためには、きわめて高い信頼性の接着が要求される。
そこで、特許文献3には、少なくともスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、アミン変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(アミン変性SEBS)及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)から構成されるスチレン系熱可塑性エラストマーと軟化剤とを所定の配合割合で含有し、各ブロック共重合体の分子量、スチレン含有量及び配合割合を所定範囲とした履物用緩衝組成物を成形し、その表面にプライマー剤を塗布してプライマー処理層を形成した後、光硬化型のウレタン系コート剤を塗布して保護層を形成することで、接着性、柔軟性、軽量性及び透明性に優れ、さらに耐熱性にも優れた履物用緩衝部材が得られることが開示されている。
特開2003-12886号公報 特開2000-281850号公報 特許第5966110号公報
上述した特許文献3で提案された履物用緩衝部材により、ソール部材と緩衝部材との接着に係る課題は解決されていたところ、新たな高機能シューズの設計において、緩衝部材による機能性を追求するべく、ソール部材に組み込まれる緩衝部材のサイズを大きくしたり、図1及び図2(a)に示すように、緩衝部材10をソール部材20の側面にせり出すように配置して組み込みすることが求められるようになってきた。
緩衝部材を構成するスチレン系熱可塑性エラストマーは粘弾性体であり、さらに、柔軟性を向上させるためにオイル等の軟化剤も配合されている。それゆえ、緩衝部材に継続的に荷重がかかることによって緩衝部材は流動変形(クリープ)するが、このクリープはソール部材に組み込まれる緩衝部材のサイズが大きくなるほど顕著となる。さらに、図1及び図2(a)に示すように、緩衝部材とソール部材との接着面21がソールの厚み方向に対して傾斜して構成されている場合には、図2(b)に示すように、荷重方向が緩衝部材10とソール部材20との接着面21に対して垂直方向でなくなるため、接着面21にせん断力が生じるが、このように、緩衝部材10とソール部材20との接着面21にせん断力が生じた場合にも、緩衝部材の流動変形(クリープ)は大きくなる。このように、緩衝部材の流動変形が大きくなると、緩衝部材と比べて硬度が大きいソール部材は緩衝部材の流動変形(クリープ)に追従できず、ソール部材から緩衝部材が剥離し、両者が分離してしまうという問題が新たに生じるようになった。
本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、履物用緩衝部材に求められるソール部材との接着性、柔軟性及び透明性を保持しつつ、流動変形(クリープ)によるソール部材との分離を改善することのできる履物用緩衝部材を提供することにある。
本願発明者らは、特許文献3で提案された履物用緩衝部材について、流動変形(クリープ)による緩衝部材とソール部材との分離状態を解析すべく、X線光電子分光法(XPS)にて、剥離が生じた緩衝部材とソール部材の分離表面の化学結合状態の分析を行った。図3(a)及び図3(b)に示すように、観察されたXPSスペクトルのピーク(285eV)はC-C結合及びC-H結合であり、この緩衝部材のプライマー層を構成している成分のエステル結合のピーク(290eV近傍)は観察されなかった。このことから、分離界面は緩衝部材の成形体表面近傍であると推測された。この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決するため、本発明の履物用緩衝部材の製造方法は、ヘーズ値(JIS K7136:2000準拠)が20%以下であり、硬度がアスカーC55以下(SRIS 0101規格)の履物用緩衝部材の製造方法であって、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する履物用緩衝組成物の成形体を得る成形体形成工程と、この成形体の少なくとも一部の表面に、スチレン系ブロック共重合体を含有するプライマー剤を施し、プライマー層を形成するプライマー層形成工程と、このプライマー層の表面に、ウレタン樹脂を含有するコート剤を施し、略透明の保護コート層を形成する保護コート層形成工程と、この保護コート層形成工程後に、この保護コート層の外側から電子線を照射する電子線照射工程と、を備え、プライマー層形成工程で用いられるプライマー剤に含有されているスチレン系ブロック共重合体は、少なくともアクリル変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体であり、電子線照射工程における電子線の照射は、加速電圧が100~300kV、かつ照射線量が100~300kGyの範囲で行われる。
スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する履物用緩衝組成物からなる成形体の表面に、アクリル変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(以下、「アクリル変性SBS」とも称する。)を含有するプライマー剤からなるプライマー層と、ウレタン樹脂を含有するコート剤からなる保護コート層とを順に形成した後、保護コート層の外側から電子線を照射することによって、成形体を構成するスチレン系熱可塑性エラストマーとプライマー層を構成するアクリル変性SBSとの間で架橋反応が生じ、成形体の表面近傍とプライマー層との層間接着性が向上する。これによって、緩衝部材の成形体表面近傍とプライマー層との一体性が高まり、流動変形(クリープ)による分離が改善される。また、照射する電子線について、加速電圧が100~300kV、かつ照射線量が100~300kGyの範囲とすることにより、履物用緩衝部材としての接着性、柔軟性及び透明性といった物性を保持しながら、成形体の表面近傍とプライマー層との層間架橋に加えて成形体内部の表面近傍の内部架橋も生じさせることができるため、緩衝部材の成形体表面近傍の流動変形が抑制され、緩衝部材の流動変形(クリープ)による分離がより改善される。このように、上述した構成とすることにより、ソール部材との接着性が維持され、透明性が高く、緩衝性能に寄与する優れた柔軟性を有すると共に、流動変形(クリープ)によるソール部材との分離を改善できる履物用緩衝部材が得られる。
また、本発明の履物用緩衝部材の製造方法は、プライマー層形成工程で用いられるプライマー剤には、さらに、アクリルモノマーが含有されていることも好ましい。プライマー剤に含まれるアクリルモノマーが、保護コート層及び成形体表面近傍との電子線照射による層間架橋にそれぞれ寄与するため、プライマー層と保護コート層との層間接着性及びプライマー層と成形体との層間接着性が向上し、流動変形(クリープ)による部材の分離をより改善できる履物用緩衝部材が得られる。
また、本発明の履物用緩衝部材の製造方法は、成形体形成工程で用いられる履物用緩衝組成物に含有されているスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(以下、「SEBS」とも称する。)及びアミン変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(以下、「アミン変性SEBS」とも称する。)であることも好ましい。これにより、履物用緩衝部材として求められる物性を備え、成形体とプライマー層との層間接着性を向上させると共に成形体内部の表面近傍の内部架橋も生じさせて、流動変形(クリープ)による部材の分離を改善できる好適なスチレン系熱可塑性エラストマーの構成成分が選択される。
また、本発明の履物用緩衝部材の製造方法において、成形体形成工程で用いられる履物用緩衝組成物には、さらに、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(以下、「SEEPS」とも称する。)が含有されていることも好ましい。これにより、履物用緩衝部材として、さらに優れた物性を備え、成形体とプライマー層との層間接着性を向上させると共に成形体内部の表面近傍の内部架橋も生じさせて、流動変形(クリープ)による部材の分離を改善できる好適なスチレン系熱可塑性エラストマーの構成成分が選択される。
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する履物用緩衝部材の製造方法を提供することができる。
(1)美感を有する透明性、他部材(主にソール部材)との強い接着性及び優れた柔軟性を保持しながら、流動変形(クリープ)による他部材との分離が改善された履物用緩衝部材が得られる。
(2)履物用緩衝部材の製造の際に、保護コート層の外側から電子線を照射することのみで、流動変形(クリープ)による他部材との分離が改善される履物用緩衝部材が得られるため、製造が容易である。
履物用緩衝部材がソール部材の側面に組み込まれたスポーツシューズを概略的に示す図である。 図1の履物用緩衝部材及びソール部分の構成を概略的に示す(a)部分断面図及び(b)荷重がかかった際の状態を示す図である。 流動変形(クリープ)により緩衝部材とソール部材との剥離現象が生じたシューズについて、(a)ソール部材側の分離表面のXPSスペクトルを示す図、(b)緩衝部材側の分離表面のXPS分析結果を示す図である。 本発明の実施形態に係る履物用緩衝部材の製造方法を概略的に示すフローチャートである。 実施例及び比較例における履物用緩衝部材のクリープ試験及びピール強度測定試験のために作製した試料片の構成を概略的に示す(a)平面図及び(b)正面図である。 図5の試料片を用いて行ったクリープ試験の方法を説明する図である。 図5の試料片を用いて行ったピール強度測定試験の方法を説明する図である。
まず、図4を参照し、本発明の実施形態に係る履物用緩衝部材の製造方法について説明する。図4に示すように、本実施形態に係る履物用緩衝部材Pの製造方法は、履物用緩衝組成物の成形体を得る成形体の形成工程S1、この成形体の表面にプライマー層を形成するプライマー層の形成工程S2、プライマー層の表面に保護コート層を形成する保護コート層の形成工程S3及び保護コート層の外側から電子線を照射する電子線照射工程S4から概略構成されている。
[成形体の形成]
まず、図1に示す成形体の形成工程S1について説明する。本工程S1においては、主成分としてスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する履物用緩衝組成物から成形体を形成する。履物用緩衝組成物に含まれるスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されないが、いわゆるSEBSと呼ばれるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体が配合されていることが好ましい。また、SEBSに加えて、アミン変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(アミン変性SEBS)が配合されていることがより好ましい。これによって、履物用緩衝部材として求められる透明性、接着性及び柔軟性といった物性を備えた緩衝部材が得られる。さらに、SEBS及びアミン変性SEBSに加えて、いわゆるSEEPSと呼ばれるスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体が配合されていることがさらに好ましい。これによって、耐熱性が向上するとともに、履物用緩衝部材として求められる、他部材との強い接着性、外観の透明性及び柔軟性といった優れた物性を備えつつ、後述する電子線照射によって、成形体とプライマー層との層間接着性を向上させると共に成形体内部の表面近傍の内部架橋も生じさせて、流動変形による部材の分離を改善できる緩衝部材が得られる。
スチレン系熱可塑性エラストマーを構成する各ブロック共重合体のスチレン含有量は、緩衝部材の透明性及び機械強度を向上させる観点から、SEBS又はアミン変性SEBSを用いる場合には、スチレン含有量が20~55重量%であることが好ましく、25~45重量%であることがより好ましい。また、SEEPSを用いる場合には、スチレン含有量が25~35重量%であることが好ましい。
本発明に係るスチレン系熱可塑性エラストマーの具体的な配合内容について以下説明する。特に限定されないが、一例として、本発明に係るスチレン系熱可塑性エラストマーを、SEBS(a1)、アミン変性SEBS(a2)及びSEEPS(a3)の3種のブロック共重合体を組み合わせた配合とすることが挙げられる。これらa1~a3のブロック共重合体の重量平均分子量Mwはそれぞれ、機械強度の観点から50000以上であることが好ましく、プライマー層との接着性向上及び成形時の流動性向上の観点から200000未満であることが好ましく、すなわち、50000~200000が好ましい。a1~a3のブロック共重合体の重量平均分子量Mwをこの範囲とすることにより、プライマー層との接着性が向上して界面剥離が生じ難い成形体を形成でき、成形時にも良好な流動性が得られる。なお、本発明における分子量とは、重量平均分子量Mwであり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定された値をいう。また、スチレン系熱可塑性エラストマーの配合割合は、プライマー層との接着性、耐熱性及び機械強度の観点から、各ブロック共重合体(a1~a3)の配合割合を重量比で、a2/(a1+a2+a3)=0.08~0.8かつ、a3/a1=0.35~3.5とすることが好ましく、a2/(a1+a2+a3)=0.1~0.7かつ、a3/a1=0.45~2.5とすることがより好ましい。配合割合a2/(a1+a2+a3)は、スチレン系熱可塑性エラストマーのうちのアミン変性SEBS(a2)の配合割合であるが、0.08未満であるとプライマー層との接着性に劣り、0.8を超えると機械強度及び接着性が低下し、耐熱性も低下する傾向にある。また、配合割合a3/a1は、SEBS(a1)に対するSEEPS(a3)の配合割合であるが、0.35未満であるとプライマー層との接着性に劣り、耐熱性も低下する傾向にあり、3.5を超えると機械強度及び接着性が低下するなど物性が不安定となる。よって、各ブロック共重合体の配合割合を上記の範囲とすることにより、プライマー層との接着性、機械強度及び耐熱性に優れた成形体を形成することができる。
また、本発明に係る履物用緩衝組成物には、スチレン系熱可塑性エラストマーのほか、履物用緩衝部材の柔軟性に寄与する軟化剤が含まれる。軟化剤としては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル又は芳香族系オイル等のプロセスオイル、液状ポリブテン又は低分子量ポリブタジエン等の合成樹脂系軟化剤、ロジン等が用いられる。このうち、外観の透明性の観点からプロセスオイルの中でもパラフィン系オイルが好適に用いられ、成形体の表面近傍とプライマー層との層間接着性を向上させ、成形体の機械強度を向上させる観点から、重量平均分子量が400~1200のパラフィン系オイルが特に好適に用いられる。軟化剤の配合割合については、特に限定されないが、一例として、スチレン系熱可塑性エラストマーと軟化剤の和に対する軟化剤の配合割合[軟化剤/スチレン系熱可塑性エラストマー+軟化剤]が、重量比で、0.5~0.7であることが好ましく、0.55~0.65であることがより好ましい。この値が0.5未満であると十分な柔軟性が得られず、0.7を超えると耐熱性及び機械強度が低下すると共に軟化剤の滲み出しによる接着性の低下が生じる。よって、軟化剤の配合割合を上述の範囲とすることにより、他の物性を低下させずに、柔軟性を調整することができる。
さらに、本発明に係る履物用緩衝組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の添加剤を含有させることも可能である。添加剤としては、顔料や着色剤、滑剤、離型剤、酸化防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤又は耐熱剤等が挙げられる。これらは単独でも複数を組み合わせて使用することもできる。
本発明に係る履物用緩衝組成物は、公知の樹脂組成物の製造方法により製造される。具体的には、一例として、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー又は加熱ロール等の溶融混練機を用いて、スチレン系熱可塑性エラストマー及び軟化剤等の配合成分を所定の割合で添加し、配合成分を加熱し溶融状態にて各成分を均一に混練することにより得られる。
上述のようにして得られた履物用緩衝組成物を、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形又はカレンダー成形等の公知の方法で所定の形状に成形することにより、本発明の履物用緩衝組成物の成形体が得られる。本発明の履物用緩衝組成物の成形体のヘーズ値(JIS K7136:2000準拠)は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。また、硬度はアスカーC(SRIS 0101規格)55以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。それゆえ、外観の透明性が高く、緩衝性に寄与する十分な柔軟性を備えた履物用緩衝部材を構成する成形体として有用である。これらの物性は、後述する電子線照射工程の後においても、同様の物性が保持されることが好ましい。
[プライマー層の形成]
次に、プライマー層の形成工程S2について説明する。本工程S2においては、S1で形成された成形体の表面にプライマー剤を施し、プライマー層を形成する。従来、プライマー層とは、透明な保護コート層を成形体の表面に設けるにあたり、成形体を構成するスチレン系熱可塑性エラストマーと保護コート層を構成する透明ウレタン樹脂との接着性が弱いことから、両者との接着性を高めるために成形体表面と保護コート層との間に設けられる層である。そのため、従来では、プライマー剤として、成形体表面を溶解させると共に保護コート層を構成する透明ウレタン樹脂との反応性に富むポリオール末端ウレタンプレポリマーとイソシアネートと溶剤とを主成分として含むプライマー剤が利用されてきた(特許第5631689号参照)。しかしながら、本発明においては、スチレン系ブロック共重合体を含有するプライマー剤を利用する点が従前の技術と大きく異なっている。
本発明で用いられるプライマー剤には、スチレン系ブロック共重合体として、アクリル変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(アクリル変性SBS)が含まれている。これにより、プライマー剤に含まれるスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体が、後述する電子線照射によって、成形体を構成するスチレン系熱可塑性エラストマーと架橋反応し、成形体の表面近傍とプライマー層との層間接着性を向上させることができる。さらに、共重合体中のアクリル基が保護コート層を構成する透明ウレタン樹脂と反応するため、プライマー層と保護コート層との層間接着性も高められる。プライマー剤には、さらに、アクリルモノマーが含まれることが好ましい。なお、アクリルモノマーの他にダイマーやトリマー等が含まれていてもよい。アクリルモノマーが含まれることにより、プライマー層と保護コート層との接着性が向上し、電子線照射後の保護コート層の劣化も抑制される。
このプライマー層は、履物用緩衝組成物から形成された成形体の表面に上述したプライマー剤を塗布したり、成形体をプライマー剤に浸漬して、乾燥させることにより形成される。プライマー層の層厚は特に限定されないが、通常、5μm~100μm程度の厚みに形成され、10μm~50μm程度の厚みに形成されることが好ましい。
[保護コート層の形成]
次に、保護コート層の形成工程S3について説明する。本工程S3においては、前工程S2で形成されたプライマー層の表面にコート剤を施し、保護コート層を形成する。コート剤には、略透明な保護コート層を形成できるウレタン樹脂が用いられる。ウレタン樹脂としては、例えば、光硬化型、熱硬化型、湿気硬化型のものが挙げられるが、室温環境で短時間に硬化でき生産性に優れるという理由から、紫外線等の光を照射することにより硬化する光硬化型ウレタンコート剤が好適に用いられる。光硬化型ウレタンコート剤の反応性ウレタンの種類としては、エーテル系ウレタン、エステル系ウレタン、カーボネート系ウレタン、ポリカプロラクトン系ウレタンなど公知の略透明な反応性ウレタンが適用でき、特に耐溶剤性と柔軟性、耐加水分解性の観点からカーボネート系ウレタンが好ましい。カーボネート系ウレタンを適用した光硬化型ウレタンコート剤の組成としては、反応性カーボネート系ウレタン、光重合開始剤、増粘剤及び水を含有している。反応性カーボネート系ウレタンとしては、特に限定されないが、例えば、少なくともポリカーボネートジオールとポリイソシアネートとを原料として反応させて得られた重合性不飽和結合を有するカーボネート系ウレタンなどが用いられる。また、光重合開始剤としては、公知のものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインn-プロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインジメチルケタール、チオキサントン、p-イソプロピル-α-ヒドロキシイソブチルフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,4,6,-トリメチルベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン又は2,2-ジメトキシ-1、2-ジフェニルエタノン等が挙げられる。中でも、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。また、増粘剤としては、エタノールをはじめとする脂肪族アルコール、グリコール又はエチレングリコールモノエチルエーテルのいずれか又はこれらの組合せが好適に用いられる。また、水は、上述した成分の分散媒として機能しており、水系エマルジョン形態の光硬化型ウレタンコート剤が得られる。
光硬化型ウレタン系コート剤を構成する各成分の配合割合としては、光硬化型ウレタン系コート剤の硬化性の観点から、反応性カーボネート系ウレタン(C1)に対する光重合開始剤(C2)の配合割合C2/C1が重量比で、0.01~0.1であり、0.025~0.075であることがより好ましい。C2/C1が0.01未満であると、十分な硬化反応が進まずに硬化不良となり、0.1を超えると、硬化性が阻害されて硬化不良を起こしたり、硬化後の臭気も残る場合があるため、好ましくない。また、反応性カーボネート系ウレタン(C1)に対する水(C4)の配合割合C4/C1が、重量比で、1.9~3.0とすることが好ましく、2.1~2.7であることがより好ましい。C4/C1が1.9未満であると、光硬化型ウレタン系コート剤のエマルジョン状態が保てないため、均一な塗工が困難となり、3.0を超えると、光硬化型ウレタン系コート剤の粘度が低くなり過ぎて塗工表面に弾かれて均一な塗工が困難となり、ともに均質な保護層が形成できないため、好ましくない。また、反応性カーボネート系ウレタン(C1)に対する増粘剤(C3)の配合割合C3/C1は、コート剤を適切な粘度とし、保護層を形成する際の塗工性を向上させる観点から、重量比で、0.3~3.5であることが好ましく、0.6~1.7であることがより好ましい。
この保護コート層は、プライマー層の表面に上述したコート剤を塗布したり、プライマー層で被覆された成形体をコート剤に浸漬し、その後、光照射させて光硬化させることにより形成される。保護コート層の層厚は特に限定されないが、通常、1μm~100μm程度の厚みに形成され、5μm~50μm程度の厚みに形成されることが好ましい。
[電子線照射]
次に、電子線照射工程S4について説明する。本工程S4においては、前工程S3で形成された保護コート層の外側から電子線を照射する。本発明では、緩衝部材の流動変形(クリープ)による他部材からの分離を改善するために、電子線照射によって、成形体の表面近傍とプライマー層との層間架橋及び成形体内部の少なくとも表面近傍の内部架橋を生じさせている。そのため、保護コート層の外側から電子線を照射するのではなく、保護コート層を形成する前の段階で、プライマー層の外側から電子線を照射すれば、電子線照射による保護コート層の劣化や気泡も生じることもなく、効率よく上述のような成形体とプライマー層との層間架橋及び成形体内部の表面近傍の内部架橋が生じ、緩衝部材の流動変形も抑制されるとも推測された。しかしながら、後述する比較例1に示すように、プライマー層の外側から電子線照射したのちに保護コート層の形成工程S3を実施した場合では、興味深いことに、緩衝部材の流動変形は抑制されないことが本願発明者らによって示されている。
保護コート層の外側から緩衝部材に電子線を照射することによって、成形体の表面近傍とプライマー層との層間架橋及び成形体内部の少なくとも表面近傍の内部架橋が生じるメカニズムとしては、本願発明者らは以下の通り推測している。まず、電子線の照射により生じる架橋反応としては、(1)プライマー層を構成するプライマー剤の主成分であるアクリル変性SBSのブタジエンブロック中のC=C結合の開裂と、成形体を構成するスチレン系熱可塑性エラストマー中の-C-H基の脱水素化とによる第一の架橋反応と、(2)プライマー層を構成するプライマー剤の主成分であるアクリル変性SBS中の-C-H基と成形体を構成するスチレン系熱可塑性エラストマー中の-C-H基にそれぞれ電子線によってラジカルが発生して反応点となり脱水素化を伴って反応する第2の架橋反応とが起こる。これら(1)第一の架橋反応、及び(2)第二の架橋反応の二つの架橋反応によって、成形体の表面近傍とプライマー層との層間架橋及び成形体内部の表面近傍の内部架橋が強固になるため流動変形(クリープ)による分離が改善される。それゆえ、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する成形体に対してアクリル変性SBSを主成分とするプライマー剤を適用したプライマー層を形成することが本発明において非常に重要であるといえる。
本工程S4における電子線の照射は、加速電圧が100~300kVかつ照射線量が100~300kGyの範囲で行われることが好ましく、加速電圧が150~250kVかつ照射線量が150~250kGyの範囲で行われることがさらに好ましい。電子線照射の条件を上述のようにすることにより、成形体の表面近傍とプライマー層との層間架橋に加えて成形体内部の表面近傍の内部架橋も生じさせることができるため、緩衝部材の流動変形(クリープ)による他部材からの分離が改善される。そして、このクリープ抑制効果と共に、緩衝部材の柔軟性、外観の透明性、他部材との接着性や機械強度等の物性についても、電子線照射前の物性を保持することができる。他方、加速電圧を100kV未満若しくは照射線量を100kGy未満とすると、電子線の照射量が不足して架橋反応が生じ難くなるために流動変形の抑制効果が不十分となり、加速電圧を300kV超若しくは照射線量を300kGy超とすると、電子線の照射量が大き過ぎて架橋反応が過大となるために保護コート層に気泡が発生して外観の透明性が損なわれたり、各層の劣化が大きくなることによる不具合が生じる。
上述のようにして得られた電子線照射後の履物用緩衝部材Pは、流動変形が抑制され、せん断力にも耐えることができ、他部材からの分離が改善される。また、電子線照射後においても、ポリウレタン系接着剤やクロロプレンゴム用接着剤など製靴用の接着剤によって接着されたソール部材等の他部材に対し、優れたピール強度(剥離接着強さ)を保持している。これにより、この履物用緩衝部材Pが靴の使用時にソール部材との接着面で剪断応力が発生するような設計で組込まれた際においても、運動時の応力変形にも耐えることができ、高い接着信頼性が実現される。さらに、履物用緩衝部材Pは、電子線照射後においても、優れた透明性と柔軟性を保持する。具体的には、透明性に係るヘーズ値(JIS K7136:2000準拠)が20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。また、柔軟性に係るアスカーC(SRIS 0101規格)硬度が、55以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。
以下、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。以下の実施例及び比較例における履物用緩衝部材の接着性、透明性等の物性の評価方法は下記の通りである。
(1)クリープ試験(流動変形性)
図5及び図6を用いて具体的なクリープ試験方法について説明する。図5は試料片50の構成を概略的に示しており、図6は試料片のクリープ試験方法を図示している。図5に示す試料片50は次のようにして作製した。実施例及び比較例における各緩衝部材の成形体をストリップ状(幅20mm×長さ60mm×厚さ3mm)にそれぞれ成形し、ストリップ表面を各プライマー剤で処理してプライマー層を形成した後、ウレタン系コート剤で処理して保護コート層を形成して試験片51とした。試験片51と同様のストリップ状に作製したウレタン片52(株式会社クラレ製 クラミロンU2195、幅20mm×長さ60mm×厚さ3mm)を接着剤53で試験片51と接着し、試料片50を得た。より詳しくは、試験片51及びウレタン片52の表面をメチルエチルケトン(MEK)に浸したキムワイプ(登録商標)で拭いた後、60℃で3分間乾燥させた。試験片51のウレタン系コート剤で処理された面及びウレタン片52の片面にプライマー(ノーテープ工業株式会社製、G-6626)を塗布し、60℃で5分間乾燥させた。その上に接着剤(ノーテープ工業株式会社製、No.4950)を塗布し、60℃で5分間乾燥した後、速やかに試験片51及びウレタン片52を貼り合わせた。試験片51側を上にした状態で載置し、ハンドローラにて2~3kgf/cm2の力を加えて圧着させることによって、試料片50を得た。ここで、接着剤53による、試験片51とウレタン片52との貼り合わせにおいては、図5(b)に示すように、長尺方向の片端は、末端から長尺方向の他端側に向かって15mmの部分を未接着部とした。この試料片50を12時間養生した後、クリープ試験に用いた。試験を行うにあたっては、試料片50の接着部の端部Q0に接着剤溜り等が存在すると見かけ上の強度上昇が生じてしまうため、図5(b)に示す試料片50の接着部の端部Q0から接着部側に接着剤層に沿ってカッターナイフで約1mm切れ込みを入れてノッチを形成してから試験を行った。図6(a)に示すように、試料片50のウレタン片52側を上面にして水平に治具に固定し、試験片51の未接着部側の端部に200gの錘Wをビニールテープで固定して重力方向に引っ張り負荷をかけた状態で、40℃の熱風オーブン(東京理科器械株式会社製、型番:WFO-520W)中で24時間放置した。24時間後に、図6(b)に示すように試験前の接着部の端部の位置Q0から、クリープによる剥離が生じて試験後の接着部の端部となった位置Q1までの距離(Q0-Q1間の距離)を測定した。
クリープ試験に係る接着性の評価は、剥離が生じた距離(Q0-Q1間の長さ)の測定値が0~1mm以内を優「◎」、測定値が1超~10mm以下を良「○」、測定値が10mm超~20mm以下を可「△」、測定値が20mm超のものを不良「×」と評価した。
(2)ピール強度(接着性)
各試験片のピール強度の測定はJIS K6854-3に準拠して行った。試料片は上術したクリープ試験における試料片50と同様にして作成した。この試料片50を12時間養生した後、ピール強度試験に用いた。試験を行うにあたっては、試料片50の接着部の端部Q0に接着剤溜り等が存在すると見かけ上の強度上昇が生じてしまうため、クリープ試験と同様に、図5(b)に示す試料片50の接着部の端部Q0から接着部側に接着剤層に沿ってカッターナイフで約1mm切れ込みを入れてノッチを形成してから試験を行った。図7(A)及び(B)に示すように、引っ張り試験機(株式会社島津製作所製オートグラフ(登録商標)、AT-100N)により、試料片50の試験片51とウレタン片52とを剥離させ、ピール強度を測定した。なお、図7において、54は固定側引張り治具、55は可動側引張り治具である。ロードセルは1kN(100kgf)であり、試験スピードは50mm/分、固定側引張り治具54及び可動側引張り治具55間の初期間隙は20mmであった。(なお、図7(A)(B)における試料片50を構成する接着剤53の図示は省略した。)
また、ピール強度の測定後の各試験片51における成形体とプライマー層との界面の剥離状態(剥がれモード)の評価は次のようにして行った。各試料片50のウレタン片52側の剥離表面と試験片51側の剥離表面のそれぞれについて、FT-IR装置(PerkinElmer社製、赤外顕微鏡システムSpotlight200)を用い、380~4000cm-1の波数範囲において全反射測定法(ATR法)で分析した。分析によって、ウレタン片52側の剥離表面に各試験片51の成形体の構成成分であるSEBSのスペクトルが検出されず、試験片51側の剥離表面に当該SEBSのスペクトルが検出された場合を「界面剥離」とした。他方、この「界面剥離」に該当しない場合には、主に成形体内における破壊であるか、プライマー層、保護コート層若しくは接着剤層のいずれかの層内における破壊、又はこれらの層間での界面剥離であって、プライマー層と成形体との界面剥離ではないものとして一括して「成形体破」とした。ここで、SEBSのスペクトルとは、各試験片51を構成する成形体の表面をFT-IRで測定して得られたものであり、試料片50のウレタン片52側の剥離表面及び試験片51側の剥離表面を測定して得られたそれぞれのスペクトルと、SEBSのスペクトルの各特性吸収帯を比較することにより材料を同定してSEBSの有無を判断した。なお、スペクトルの同定方法は、JIS K6230に準拠した。
ピール強度に係る接着性の評価は、以下表1に示すように、成形体の内部での材料破壊が生じた試験片については、測定値が4kgf/20mm以上のものを優「◎」、測定値が2kgf/20mm超~4kgf/20mm未満のものを良「○」、測定値が2kgf/20mm以下のものを可「△」と評価した。また、界面剥離が生じた試験片については、測定値が4kgf/20mm以上のものを良「○」、測定値が2kgf/20mm超~4kgf/20mm未満のものを可「△」、測定値が2kgf/20mm以下のものを不良「×」と評価した。
Figure 2023112834000002
(3)ヘーズ値(透明性)
JIS K7136:2000に準拠して、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製ヘーズメーター、HZ-1)を用いて各試験片のヘーズ測定を行った。試験片としては、実施例及び比較例における各緩衝部材の成形体をシート状(縦50mm×横50mm×厚さ3mm)にそれぞれ成形し、その表面を各プライマー剤で処理してプライマー層を形成した後、ウレタン系コート剤で処理して保護コート層を形成することにより作製した。ヘーズ値が20%以下の場合を優良「○」、20%を超える場合を不良「×」とした。なお、ヘーズ価が20%以下であっても、気泡が生じた場合は不良「×」と評価した。
(4)引張破断強度
JIS K6252-1 B法に準拠し、実施例及び比較例に示す構成の履物用緩衝部材を切り込み無しアングル形状(ダンベルB型)に形成した試験片5枚について、引っ張り試験機(株式会社島津製作所製オートグラフ(登録商標)、AT-100N)で引っ張り速度500mm/minにて破断に至る最大荷重値F[N]を測定し、試験片の厚さt[m]で除して引張破断強度(MPa)を算出した。試験片5枚の引張破断強度の中央値を挟む2つの値の平均値を引張破断強度(MPa)とした。
引張破断強度の評価は、履物用緩衝部材への電子線照射による保護コート層の劣化の度合いを評価するものである。まず、「変化率(%)=(電子線照射前の試験片の引張破断強度の測定値から、電子線照射後の試験片の引張破断強度の測定値を減じた値の絶対値)/(電子線照射前の試験片の引張破断強度の測定値)」の式により、電子線照射前後での引張破断強度の変化率を求めた。この変化率が、10%以下の場合には優「◎」、変化率が10%超~20%以下の場合には良「○」、変化率が20%超~50%以下の場合には可「△」、変化率が50%超の場合には不良「×」と評価した。
(5)引張伸び
JIS K6251に準拠し、実施例及び比較例に示す構成の履物用緩衝部材を3号ダンベル形状に形成した各試験片3枚について、引っ張り試験機(株式会社島津製作所製オートグラフ(登録商標)、AT-100N)にて引っ張り速度500mm/minの条件での引張伸び(破断伸度)[%]を測定した。
上述した引張破断強度と同様に、引張伸びの評価も履物用緩衝部材への電子線照射による保護コート層の劣化の度合いを評価するものである。まず、「変化率(%)=(電子線照射前の試験片の引張伸びの値から、電子線照射後の試験片の引張伸びの値を減じた値の絶対値)/(電子線照射前の試験片の引張伸びの値)」の式により、電子線照射前後での引張伸びの変化率を求めた。この変化率が、10%以下の場合には優「◎」、変化率が10%超~20%以下の場合には良「○」、変化率が20%超~50%以下の場合には可「△」、変化率が50%超の場合には不良「×」と評価した。
(6)硬度(アスカーC)
JIS K6253に準拠するアスカー Cデュロメータ(SRIS 0101規格)を用いて、各試験片の硬度測定を行った。試験片としては、実施例及び比較例における各緩衝部材の成形体を縦60mm×横60mm×厚み12mmにそれぞれ成形し、その表面を各プライマー剤で処理してプライマー層を形成した後、ウレタン系コート剤で処理して保護コート層を形成することにより作製した。アスカーC55以下を優良「○」、55を超えた場合を不良「×」と判定した。
また、以下の実施例及び比較例で作製した履物用緩衝部材のうち、成形体の構成成分の仕様を表2に、プライマー層の構成成分の仕様を表3に示す。
Figure 2023112834000003
Figure 2023112834000004
[実施例1]
以下の手順で本実施例の履物用緩衝部材を作製し、電子線照射を行わないサンプルと、電子線照射を行ったサンプルについて、各物性の測定及び評価を行った。表2に示す成形体No.aのスチレン系熱可塑性エラストマー成分のうち、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体)を615g(20.5重量%)、アミン変性SEBSを210g(7重量%)、SEEPS(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体)を330g(11重量%)それぞれ個別に秤量した。次に、パラフィンオイルを1845g(61.5重量%)秤量した。このパラフィンオイルのうち、1020g(34重量%)をSEBSに、210g(7重量%)をアミン変性SEBSに、615g(20.5重量%)をSEEPSに、それぞれ添加した。各ブロック共重合体とパラフィンオイルとを室温でそれぞれ混合した後、100℃で12時間加熱し、各スチレン系熱可塑性エラストマーにパラフィンオイルをそれぞれ吸収・分散させた。パラフィンオイルを吸収させたSEBS、アミン変性SEBS及びSEEPSを手攪拌でドライブレンドした後、バッチ式の二軸混練機(株式会社トーシン製 TD3-10MDX型)で160~180℃、回転数40rpmで15分間混練し、3kgの履物用緩衝組成物を得た。この組成物を上述した履物用緩衝部材の各評価方法で用いる所定の試験片形状に150~170℃の条件下で射出成形して成形体を得た。得られた成形体表面に表3に示すプライマー層No.Aの構成成分を含むプライマー剤(友信行有限公司製品、中部樹脂P155)を塗布し、70℃で乾燥させて略15μmのプライマー層を形成した。そして、このプライマー層表面に、以下表4に示す組成のウレタン樹脂を含有するコート剤を塗布し、室温で20分及び70℃で7分乾燥させ、次いで紫外線を照射(高圧水銀灯、積算光量2000mJ/cm)して硬化させ、保護コート層を形成して履物用緩衝部材の試験片を得た。なお、ウレタン樹脂を含有するコート剤の構成成分であるウレタンエマルジョン液(C1及びC4)、光重合開始剤(C2)及びエタノール(C3)の配合割合は、重量比でC2/C1=0.04、C4/C1=2.3、C3/C1=0.83とした。この試験片を用いて、電子線照射を行わない(電子線照射前)サンプルの物性等の評価を行った。
Figure 2023112834000005
他方、別の試験片に加速電圧200kV、照射線量200kGyの条件で電子線を照射した。この試験片を用いて、電子線照射を行った(電子線照射後)サンプルの物性等の評価を行った。実施例1の結果を表5に示す。
[実施例2~8]
電子線の照射条件を以下表5及び表6に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、各実施例の履物用緩衝部材の試験片を得た。実施例1と同様に、得られた試験片の電子線照射前後の物性等の評価を行った。実施例2~6の結果を表5に、実施例7、8の結果を表6に示す。
[実施例9]
プライマー層を形成するためのプライマー剤を以下表6及び表3に示すように変更し、電子線の照射条件を以下表6に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例9の履物用緩衝部材の試験片を得た。実施例1と同様に、得られた試験片の電子線照射前後の物性等の評価を行った。実施例9の結果を表6に示す。
[実施例10、11]
成形体を形成するための履物用緩衝組成物の構成成分を以下表6及び表2に示すように変更し、電子線の照射条件を以下表6に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例10、11の履物用緩衝部材の試験片を得た。なお、実施例10及び実施例11に用いた成形体は、表2のNo.b及びNo.cに示す配合割合でそれぞれ合計3kgとなるように調合した。また、履物用緩衝組成物を構成するスチレン系熱可塑性エラストマーにパラフィンオイルを吸収・分散させる工程については、実施例10では、表2のNo.bに記載のSEBSにパラフィンオイル配合量1500g(3kg×50重量%)の全量を添加して実施し、実施例11では、表2のNo.cに記載のパラフィンオイル配合量1560g(3kg×52重量%)のうち、SEBSに対して1212g、アミン変性SEBSに対して348gとなるようにそれぞれ添加して実施した。実施例1と同様に、得られた試験片の電子線照射前後の物性等の評価を行った。実施例10、11の結果を表6に示す。
Figure 2023112834000006
Figure 2023112834000007
[比較例1]
本比較例1では、電子線の照射を保護コート層の表面ではなく、プライマー層の表面に対して行い、電子線照射後に保護コート層を形成した。それゆえ、電子線照射を行わないサンプルは実施例1と同様に作製されたが、電子線照射を行ったサンプルの試験片は以下のようにして作製された。実施例1と同様にして履物用緩衝組成物から成形体を得たのち、得られた成形体表面にプライマー層No.Aの構成成分を含むプライマー剤(友信行有限公司製品、中部樹脂P155)を塗布し、70℃で乾燥させて略15μmのプライマー層を形成した。この状態の試験片に対し、加速電圧300kV、照射線量100kGyの条件で電子線を照射した。電子線照射後のプライマー層表面に、実施例1と同様の組成のウレタン樹脂を含有するコート剤を塗布し、室温で20分及び70℃で7分乾燥させ、次いで紫外線を照射(高圧水銀灯、積算光量2000mJ/cm)して硬化させ、保護コート層を形成して履物用緩衝部材の試験片を得た。得られた両試験片の物性等の評価を行った。比較例1の結果を表7に示す。
[比較例2]
プライマー層を形成するためのプライマー剤を以下表7及び表3に示すように変更し、電子線の照射条件を以下表7に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の履物用緩衝部材の試験片を得た。実施例1と同様に、得られた試験片の電子線照射前後の物性等の評価を行った。比較例2の結果を表7に示す。
[比較例3~5]
電子線の照射条件を以下表7に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、各比較例の履物用緩衝部材の試験片を得た。実施例1と同様に、得られた試験片の電子線照射前後の物性等の評価を行った。比較例3~5の結果を表7に示す。
[比較例6~9]
プライマー層を形成するためのプライマー剤を以下表7、8及び表3に示すように変更し、電子線の照射条件を以下表7及び8に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例6~9の履物用緩衝部材の試験片を得た。実施例1と同様に、得られた試験片の電子線照射前後の物性等の評価を行った。比較例6~9の結果を表7及び8に示す。
Figure 2023112834000008
Figure 2023112834000009
表5、6に示した実施例1~11及び表7、8に示した比較例1~9の結果から、本発明に係る製造方法により、流動変形が抑制され、他部材との接着性、外観の透明性及び柔軟性に優れた履物用緩衝部材が得られることがわかった。
具体的には、電子線照射の条件を変化させた実施例1~8と比較例3~5との結果を比較すると、加速電圧が100~300kVかつ照射線量が100~300kGyの範囲とすることにより、流動変形が抑制され、他部材との接着性、外観の透明性及び柔軟性に優れた履物用緩衝部材が得られた。他方、加速電圧を100kV未満若しくは照射線量を100kGy未満とすると、電子線の照射量が不足して架橋反応が生じ難くなるために流動変形が抑制されず、加速電圧を300kV超若しくは照射線量を300kGy超とすると、電子線の照射量が大き過ぎて架橋反応が過大となるために保護コート層に気泡が発生したり、劣化が大きくなることがわかった。さらに、実施例1~8の物性評価の結果から、加速電圧を150~250kVかつ照射線量を150~250kGyの範囲とすることにより、さらに優れた物性を有する緩衝部材が得られることがわかった。
また、緩衝部材を構成する成形体の成分については、実施例8と実施例10、11との結果より、SEBS、アミン変性SEBS及びSEEPSを組み合わせることによって、高度に流動変形性が改善した緩衝部材が得られることがわかった。
また、緩衝部材を構成するプライマー層の成分については、実施例8及び実施例9、比較例2、比較例6~9の結果より、アクリル変性SBSを選択することにより、流動変形が充分に抑制され、他部材との接着性、外観の透明性及び柔軟性に優れる履物用緩衝部材が得られることが示された。
さらに、電子線照射対象について検討した実施例6と比較例1の結果より、保護コート層に電子線を照射することにより、プライマー層に直接電子線を照射するよりも、流動変形性が抑制されることがわかった。このことから、緩衝部材を保護コート層まで形成された状態としてから、電子線照射処理を行うのみで流動変形(クリープ)を抑制できる緩衝部材を得ることができ、製造が容易である。
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含まれるものである。
1 シューズ
10 履物用緩衝部材
11 成形体
12 プライマー層
13 保護コート層
20 ソール部材
21 履物用緩衝部材とソール部材との接着面
50 試料片
51 試験片(実施例又は比較例の緩衝部材)
52 ウレタン片
53 接着剤
54 固定側引張り治具
55 可動側引張り治具
Q0 接着部の端部
Q1 試験後の接着部の端部
W 錘

Claims (4)

  1. ヘーズ値(JIS K7136:2000準拠)が20%以下であり、硬度がアスカーC55以下(SRIS 0101規格)の履物用緩衝部材の製造方法であって、
    スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する履物用緩衝組成物の成形体を得る成形体形成工程と、
    前記成形体の少なくとも一部の表面に、スチレン系ブロック共重合体を含有するプライマー剤を施し、プライマー層を形成するプライマー層形成工程と、
    前記プライマー層の表面に、ウレタン樹脂を含有するコート剤を施し、略透明の保護コート層を形成する保護コート層形成工程と、
    前記保護コート層形成工程後に、前記保護コート層の外側から電子線を照射する電子線照射工程と、を備え、
    前記プライマー層形成工程で用いられる前記プライマー剤に含有されている前記スチレン系ブロック共重合体は、少なくともアクリル変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体であり、
    前記電子線照射工程における前記電子線の照射は、加速電圧が100~300kV、かつ照射線量が100~300kGyの範囲で行われることを特徴とする履物用緩衝部材の製造方法。
  2. 前記プライマー層形成工程で用いられる前記プライマー剤には、さらに、アクリルモノマーが含有されていることを特徴とする請求項1に記載の履物用緩衝部材の製造方法。
  3. 前記成形体形成工程で用いられる前記履物用緩衝組成物に含有されているスチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体及びアミン変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の履物用緩衝部材の製造方法。
  4. 前記成形体形成工程で用いられる前記履物用緩衝組成物には、さらに、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体が含有されていることを特徴とする請求項3に記載の履物用緩衝部材の製造方法。
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