JP7284984B2 - 熱可塑性樹脂組成物及び緩衝部材 - Google Patents

熱可塑性樹脂組成物及び緩衝部材 Download PDF

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Description

本発明は、例えば、靴底や靴の中敷き等の履物用の緩衝部材、スマートフォン等の携帯情報端末機器の保護ケース、及び鞄のグリップや肩当てパッド等に適用される熱可塑性樹脂組成物と、それを成形してなる緩衝部材に関する。
近年、履物のソールやスマートフォンの保護ケース、鞄のグリップや肩当てパッドなどのように、外部から視認可能な部位に緩衝作用を付与するにあたり、意匠性にも優れた緩衝部材が採用されている。例えば、スポーツシューズやウォーキングシューズ、コンフォートシューズ等の機能性が求められる分野のシューズ設計において、ソール等に組み込まれる緩衝部材は、使用者の動きを妨げないよう軽量であり、さらに、その機能性を需要者に訴求できるよう外部から視認できる態様でソールに組み込みするため、外観が透明であるなど高い意匠性を有するものが求められている。それゆえ、低比重であり、透明性も有するスチレン系熱可塑性エラストマーからなる緩衝部材が種々提案されてきた(特許文献1、2)。
例えば、履物に適用される場合、緩衝部材はEVA等からなるゴム弾性を有するソール部材に接着されてソールに組み込まれるところ、運動時に掛かる衝撃や応力により、緩衝部材及びソール部材は共に応力変形する。その際、緩衝部材とソール部材の接着面も伸縮変形することから、両者の接着面における接着状態の保持は重要である。しかしながら、緩衝部材とソール部材との接着は、緩衝部材の透明性を損なわないように行わなくてはならず、用いられる接着剤、プライマーや接着方法が制限されている。さらに、緩衝部材は、外部から視認できるよう、その一部が露出した状態でソールに組み込まれるため、緩衝部材とソール部材との接着領域も制限されている。それゆえ、接着されていない露出部と接着されたソール内部との境界、すなわち、露出部周縁から接着状態の剥離が生じやすい。この露出部周縁の剥離は、僅かの剥離であっても直接視認されることから、商品の機能と品質を確保するためには、きわめて高い信頼性の接着が要求される。この接着性の観点において、特許文献1、2に記載のスチレン系熱可塑性エラストマーから形成された緩衝部材には改善の余地があった。
そこで、上述のような問題を解消するべく、透明性と緩衝性を維持しつつ、接着性に優れる緩衝部材を形成できる組成物として、特許文献3では、SEBS、アミン変性SEBS及びSEEPSといった各ブロック共重合体を含有するスチレン系熱可塑性エラストマー(A)と軟化剤(B)とを、B/(A+B)=0.5~0.7の配合割合で含有する組成物であって、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)を構成する各ブロック共重合体の重量平均分子量及び配合割合が所定の範囲であり、SEBS又はアミン変性SEBSにおけるスチレン含有量が所定の割合である組成物が提案されている。
特開2003-12886号公報 特開2000-281850号公報 特許第5966110号公報
上述したように、特許文献3に記載の組成物から形成された緩衝部材は、透明性と緩衝性を維持しつつ、優れた接着性を示すところ、高い信頼度の接着性を発揮するためには、組成物の成形体にウレタン系コート剤を施して保護層を形成し、この保護層の表面を被接着面とする必要がある。そのため、特許文献3に記載の組成物からなる成形体を緩衝部材として他部材に組み込みする際には、その被接着面に少なくともウレタン系コート剤を被膜して保護層を形成する工程が必要であり、緩衝部材の生産性及び製造コストの観点において、さらなる改善の余地があった。
本発明は上述した問題点を解消するものであり、その目的は、透明性及び柔軟性(緩衝性)に優れ、被接着面にウレタン系コート剤等の保護層を形成しなくとも、接着性に優れた緩衝部材を形成することのできる熱可塑性樹脂組成物及びそれを用いた緩衝部材を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、透明性及び柔軟性(緩衝性)に優れ、他部材との接着面にウレタン系コート剤等の保護層を形成しなくとも、接着性に優れた緩衝部材を形成することのできる熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑材(C2)を含有し、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との配合割合が、質量比で(A):(B)=25:75~70:30であり、第1の可塑剤(C1)の配合割合が、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、85~135質量部であり、第2の可塑剤(C2)の配合割合が、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)100質量部に対して、3.5~18質量部であり、第1の可塑剤(C1)はパラフィンオイルであり、第2の可塑剤(C2)はカルボン酸エステルである。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑材(C2)を所定の配合割合で含有するものであるところ、これによって、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)が島相、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)が海相の2相の海島構造が形成され、スチレン系熱可塑性エラストマーによる透明性や柔軟性といった機能性と、ウレタン系熱可塑性エラストマーによる接着性とが両立されている。具体的には、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との配合割合が、質量比で(A):(B)=25:75~70:30であることにより、柔軟性及び機械強度を備えつつ、ウレタン系コート剤等の保護層が無い状態でも優れた接着性を有し、他部材との接着剤を介した接着状態が充分に保持され、接着状態の剥離が生じ難い成形体を形成できる組成物が得られる。また、第1の可塑剤(C1)の配合割合が、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して85~135質量部、かつ、第2の可塑剤(C2)の配合割合が、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)100質量部に対して3.5~18質量部であることにより、選択的に第1の可塑剤(C1)を含んだスチレン系熱可塑性エラストマーの屈折率と、選択的に第2の可塑剤(C2)を含んだウレタン系熱可塑性エラストマーの屈折率との値が近似するように調整されるため、透明性を保持しながら、接着性、柔軟性、機械強度を備えた成形体を形成できる組成物が得られる。さらに、第1の可塑剤(C1)としてパラフィンオイル、第2の可塑剤(C2)としてカルボン酸エステルをそれぞれ選択することにより、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)及びウレタン系熱可塑性エラストマー(B)にそれぞれ優先的に可塑性を付与するため、緩衝性能に寄与する優れた柔軟性並びに接着性、射出成形時の流動性を備えた成形体を形成できる組成物が得られる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)は、第1の可塑剤(C1)がスチレン系熱可塑性エラストマー(A)に混合された状態における混合物の屈折率と、第2の可塑剤がウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に混合された状態における混合物の屈折率との差が0.003以下となる配合割合で、配合されていることも好ましい。これにより、異なる2種類のエラストマーを混合したことによる透明性の低下が抑えられ、高い透明性を備えた成形体を形成する組成物が得られる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の第1の可塑剤(C1)は、重量平均分子量が400~1200のパラフィンオイルであることも好ましい。これにより、成形体の透明性や機械強度、射出成形時の流動性を向上させることのできる好適な構成成分が選択される。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の第2の可塑剤(C2)は、アジピン酸エステルであることも好ましい。これにより、成形体の柔軟性及び透明性を向上させることのできる好適な構成成分が選択される。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに、酸変性スチレン系エラストマー、ポリウレタン系ブロック共重合体及び酸変性ポリオレフィンからなる群から選択される1つ以上の相溶化剤を含有することも好ましい。これにより、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との間の相溶性が向上し、成形体の機械強度や剥離接着強さを向上させることのできる好適な構成成分が選択される。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の相溶化剤が、無水マレイン酸変性スチレン系エラストマーであることも好ましい。これにより、相溶化剤として特に好ましい構成成分が選択され、成形体の透明性及び柔軟性が保持されると共に、引張強度及び剥離接着強さを向上させることができる。
本発明の緩衝部材は、上述した熱可塑性樹脂組成物を成形してなる緩衝部材であって、ヘイズ値(JIS K713:2000準拠)が30%以下であり、硬度がアスカーC55未満(SRIS 0101規格)である。これにより、外観が透明で意匠性に優れ、緩衝性能に寄与する優れた柔軟性を有する緩衝部材が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、上述した熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)及びウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に対し、予め、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)のそれぞれを混合して、第1の混合物(I)及び第2の混合物(II)をそれぞれ得る予備混合工程と、予備混合工程を経た第1の混合物(I)と第2の混合物(II)とを混合し、混練する混練工程と、を有する。スチレン系熱可塑性エラストマー(A)に第1の可塑剤(C1)を混合して第1の混合物(I)を得ると共に、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に第2の可塑剤(C2)を混合して第2の混合物(II)を得る予備混合工程を設けることによって、混練工程において構成成分が均一分散され易くなる。それゆえ、透明性が高く、緩衝性能に寄与する優れた柔軟性を有すると共に、接着性、機械強度も備えた成形体を形成する組成物が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、上述した予備混合工程において、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)に、第1の可塑剤(C1)と相溶化剤とを混合して、第1の混合物(I)を得ることも好ましい。これにより、上述したスチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との間の相溶性が向上し、接着性及び機械強度がより安定した成形体を形成する組成物が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、予備混合工程において、第1の混合物(I)の屈折率と第2の混合物(II)の屈折率との差が0.003以下となるように、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)の配合量が調整されることも好ましい。これにより、異なる種類のエラストマーをそれぞれ含有する第1の混合物(I)と第2の混合物(II)の混練による透明性の低下が抑えられ、高い透明性を備えた成形体を形成する組成物が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)としてパラフィンオイル及び第2の可塑材(C2)としてカルボン酸エステルを混合し、混練する混練工程を有することも好ましい。これにより、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)として好適な構成成分が選択され、高い透明性、緩衝性能に寄与する優れた柔軟性、接着性及び機械強度を有する成形体を形成し、大量生産にも適した組成物が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、混練工程において、さらに相溶化剤を混合して混練することも好ましい。これにより、上述したスチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)間の相溶性が向上するため、接着性及び機械強度がより安定した成形性を形成する組成物が得られる。
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
(1)優れた透明性及び柔軟性(緩衝性)を有しつつ、成形体の被接着面にウレタン系コート剤等の保護層を形成しない状態でも接着性に優れた成形体を形成する。
(2)成形体の被接着面に保護層を形成する工程を省略できるため、緩衝部材等の生産性が向上すると共に製造コストも抑えることができる。
実施例及び比較例における成形体(緩衝部材)の剥離接着強さ試験のために作製した試験片の構成を概略的に示す(A)平面図及び(B)正面図である。 図2の試験片を用いて行った剥離接着強さ試験の方法を説明する図である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑材(C2)を所定の配合割合で含有する熱可塑性樹脂組成物であり、このうち、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)が島相、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)が海相の2相の海島構造をとることにより、スチレン系熱可塑性エラストマーによる機能性とウレタン系熱可塑性エラストマーによる接着性が両立される。また、第1の可塑剤(C1)であるパラフィンオイルがスチレン系熱可塑性エラストマー(A)を、第2の可塑剤(C2)であるカルボン酸エステルがウレタン系熱可塑性エラストマー(B)を、それぞれ優先的に可塑化することにより、スチレン系熱可塑性エラストマーの屈折率とウレタン系熱可塑性エラストマーの屈折率の値が近似するように調整されるため、高い透明性及び柔軟性を備えながら、剥離接着強さ、機械強度にも優れた成形体を形成する組成物が得られる。以下、各成分について説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成するスチレン系熱可塑性エラストマー(A)についてまず説明する。スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とは、スチレン系ブロック共重合体(TPS)のことをいい、特に限定されないが、一例として、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、アミン変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(アミン変性SEBS)、酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(酸変性SEBS)等の変性SEBS又はスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。なお、SEBSには、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体に水素添加して得られる水添ブロック共重合体も含まれ、アミン変性SEBSには、アミン変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体に水素添加して得られる水添ブロック共重合体も含まれる。また、SEEPSには、スチレン-エチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体に水素添加して得られる水添ブロック共重合体も含まれる。本発明のスチレン系熱可塑性エラストマー(A)としては、上述したスチレン系ブロック共重合体のうち1種類のみを用いることも、複数種類を組み合わせて用いることも可能であるが、成形体の透明性及び柔軟性(緩衝性)に優れる観点から、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が好適に用いられる。本発明のスチレン系熱可塑性エラストマー(A)として用いられるスチレン系ブロック共重合体の重量平均分子量Mwは、機械強度の観点から50000以上であることが好ましく、接着性及び成形時の流動性の観点から200000未満であることが好ましく、すなわち、50000~200000が好ましい。重量平均分子量Mwの範囲が50000~200000のスチレン系ブロック共重合体を採用することにより、優れた剥離接着強さや機械強度、成形時の良好な流動性が得られる。なお、本発明における分子量とは、重量平均分子量Mwであり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定された値をいう。
本発明の熱可塑性樹脂を構成するウレタン系熱可塑性エラストマー(B)とは、ウレタン系ブロック共重合体(TPU)のことをいい、主にジイソシアネートと短鎖ジオールとから構成されるハードセグメントと、主にジイソシアネートと長鎖ポリオールとから構成されるソフトセグメントとからなるものである。ハードセグメントを構成する短鎖ジオールとしては、具体的には、特に限定されないが、エチレングリコールやプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられ、ソフトセグメントを構成する長鎖ポリオールとしては、一例として、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオール等が挙げられ、得成形体の機械強度や耐久性を向上させる観点から、ポリエーテルポリオールが好ましい。また、イソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、芳香族系イソシアネート、脂肪族系イソシアネート又は脂環式系イソシアネート等が挙げられる。なかでも、具体的なウレタン系熱可塑性エラストマー(B)としては、柔軟性や機械強度、生産コストの観点から、芳香族系イソシアネートであるジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びポリエーテル系ポリオールであるポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)を主原料としたウレタン系ブロック共重合体が好ましく、その硬度がアスカーA65以下(JIS K 7215準拠)であるものがより好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、主にスチレン系熱可塑性エラストマー(A)に作用する第1の可塑剤(C1)と、主にウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に作用する第2の可塑剤(C2)との2種類の可塑剤を含有する。なお、本発明の作用効果を損なわない範囲で、第1の可塑剤(C1)がウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に作用し、第2の可塑剤(C2)がスチレン系熱可塑性エラストマー(A)に作用することを除外するものではない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成する第1の可塑剤(C1)としては、外観の透明性に優れる観点からパラフィンオイルが用いられる。パラフィンオイルの重量平均分子量は、剥離接着強さ及び機械強度の観点から400以上であることが好ましく、成形時の流動性の観点から重量平均分子量が1200以下であることが好ましい。それゆえ、重量平均分子量が400~1200のパラフィン系オイルが好適に用いられる。これにより、透明性に優れ、剥離接着強さ、機械強度及び成形時流動性が良好な熱可塑性樹脂組成物が得られる。
他方、本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成する第2の可塑剤(C2)としては、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に対する可塑化の効率性の観点からカルボン酸エステルが用いられる。カルボン酸エステルとしては、一般的に可塑剤として使用される各種のカルボン酸エステルを用いることができるが、具体的には、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、クエン酸エステル、セパシン酸エステル又はグリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル等が挙げられる。このうち、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)を低硬度化させて柔軟性を向上させると共に、屈折率の調整にも優れている観点から、アジピン酸エステルが好適に用いられる。これにより、透明性に優れ、柔軟性、剥離接着強さ、接着強度の良好な組成物が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成するスチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との配合割合は、柔軟性及び機械強度を備えつつ、ウレタン系コート剤等の保護層が無い状態でも優れた接着性を有する成形体が得られる観点から、質量比で(A):(B)=25:75~70:30とすることが好ましく、(A):(B)=30:70~50:50とすることがより好ましい。これにより、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)が島相、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)が海相の2相の海島構造を形成し、スチレン系熱可塑性エラストマーによる機能性とウレタン系熱可塑性エラストマーによる接着性が両立される。また、第1の可塑剤(C1)の配合割合は、成形体の透明性、接着性、機械強度及び成形時の流動性を向上させる観点から、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して85~135質量部とすることが好ましく、さらに、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との配合割合が質量比で(A)/(A)+(B)=25以上30未満の場合には、110~135質量部とすることがより好ましく、(A)/(A)+(B)=30以上50以下の場合には、85~135質量部とすることがより好ましく、(A)/(A)+(B)=50超70未満の場合には、85~120質量部とすることがより好ましい。さらに、第2の可塑剤(C2)の配合割合は、成形体の透明性、接着性、柔軟性及び機械強度を向上させる観点から、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)100質量部に対して3.5~18質量部とすることが好ましく、さらに、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との配合割合が質量比で(A)/(A)+(B)=25以上30未満の場合には、11.3~18質量部とすることがより好ましく、(A)/(A)+(B)=30以上50以下の場合には、3.5~18質量部とすることがより好ましく、(A)/(A)+(B)=50超70未満の場合には、3.5~14.0質量部とすることがより好ましい。熱可塑性樹脂組成物の構成成分の配合割合を上述した範囲とすることにより、スチレン系熱可塑性エラストマー材料の屈折率とウレタン系熱可塑性エラストマー材料の屈折率とが近似して透明性が確保されると共に、両材料の柔軟性が向上する。その結果、柔軟性、透明性及び軽量性を有しつつ、保護層が無い状態でも優れた接着性及び機械強度を備えた成形体を形成する組成物が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、さらに相溶化剤を含有させてもよい。相溶化剤としては、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との相溶性及び機械強度を向上させる観点から、例えば、酸変性スチレン系エラストマー、ポリウレタン系ブロック共重合体又は酸変性ポリオレフィン等が好適に用いられ、このうち、透明性及び相溶性に優れる観点から、酸変性スチレン系エラストマーがより好適に用いられ、マレイン酸変性スチレン系エラストマーが特に好適に用いられる。これにより、成形体の優れた透明性及び柔軟性を保持しつつ、剥離接着強さ及び機械強度をより向上させた成形体を形成する組成物を得ることができる。相溶化剤の配合割合としては、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)を合計した量(A+B+C1+C2)100質量部に対して、優れた接着性及び機械強度を維持する観点から、3~15質量部とすることが好ましく、5~10質量部とすることがより好ましい。
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の添加剤を含有させることも可能である。添加剤としては、顔料や着色剤、滑剤、離型剤、酸化防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤又は耐熱剤等が挙げられる。これらは単独でも複数を組み合わせて使用することもできる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各構成成分の配合割合を上述した範囲で調整することにより、成形体のヘイズ値(JIS K7136:2000準拠)が30%以下であり、硬度がアスカーC(SRIS 0101規格)55未満の物性を示す。それゆえ、本発明の組成物は、外観の透明性が高く、緩衝性に寄与する十分な柔軟性を備えた緩衝部材を形成する組成物として有用である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の樹脂組成物の製造方法により製造される。具体的には、一例として、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー又は加熱ロール等の溶融混練機を用いて、配合成分を所定の割合で添加し、配合成分を加熱し溶融状態にて各成分を均一に混練することにより得られる。具体的な製造工程としては、特に限定されないが、予め、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)に第1の可塑剤(C1)を混合して第1の混合物(I)を得ると共に、予め、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に第2の可塑剤(C2)を混合して第2の混合物(II)を得る予備混合工程と、この予備混合工程で得られた第1の混合物(I)と第2の混合物(II)とを混合し、混練する混練工程とを有することが好ましい。予備混合工程を有することにより、各エラストマーに好適な可塑剤が予め混合されるため、後に第1の混合物(I)と第2の混合物(II)を混練しても、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)は第1の可塑剤(C1)によって優先的に可塑化され、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)は第2の可塑剤(C2)によって優先的に可塑化された状態を保つため、より柔軟性、接着性及び機械強度に優れた成形体を形成する組成物を得ることができる。また、予備混合工程では、各熱可塑性エラストマーに各可塑剤を混合して吸収させる方法、各熱可塑性エラストマーに各可塑剤を混合して混練する方法、各熱可塑性エラストマーに各可塑剤を混合して吸収させたのち混練する方法等による混合方法を採用することができる。さらに、この予備混合工程の際に、第1の混合物(I)の屈折率と第2の混合物(II)の屈折率の差が0.003以下となるように、構成成分の配合割合が調整されることが好ましく、屈折率の差が0.001以下となるように調整されることがより好ましい。これにより、スチレン系熱可塑性エラストマー材料の屈折率とウレタン系熱可塑性エラストマー材料の屈折率が略同程度となるように調整されるため、更に透明性の優れた成形体を形成する組成物が得られる。
また、熱可塑性樹脂組成物に相溶化剤を含有させる場合には、上述した予備分散工程及び混錬工程のいずれの工程において混合し、混練させてもよいが、予備混合工程において、相溶化剤をスチレン系熱可塑性エラストマー(A)に添加し、第1の可塑剤(C1)と共に混合して、第1の混合物(I)を得ることも好ましい。これにより、第1の混合物(I)と第2の混合物(II)との間の相溶性が向上し、接着性及び機械強度がより安定した成形体を形成する組成物が得られる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各成分を一括混合して製造することもできる。具体的には、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)等を混合し、混練することにより製造することができる。これにより、上述した熱可塑性樹脂組成物の特性(優れた透明性、柔軟性及び接着性)を保持しつつ、より生産性に優れた製造方法で本発明の熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の構成成分として、相溶化剤を含有させる場合には、各成分を一括混合する際に相溶化剤も一緒に混合し、混練すればよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形又はカレンダー成形等の公知の方法により、ペレット状、シート状、チップ状の形状物とすることができる。また、以下詳述するように、各種成形体に成形することももちろん可能である。
本発明の緩衝部材は、熱可塑性樹脂組成物を上述した射出成型等の方法により所定の形状に成形して得られる。本発明の組成物により得られた緩衝部材は、ヘイズ値(JIS K7136:2000準拠)は30%以下であり、硬度はアスカーC(SRIS 0101規格)55未満の物性を示す。それゆえ、外観が透明であり、緩衝性に寄与する十分な柔軟性を備えた緩衝部材として有用である。そして、他部材との接着面にウレタン系コート剤等の保護層を形成しなくとも、接着剤を介した接着性に優れているため、生産性も高く、組み込みし易い緩衝部材として有用である。なお、他部材との接着にあたっては、成形体の表面に接着剤を直接塗布すること等により接着するほか、成形体の表面をプライマー剤等でプライマー処理してから接着剤等を塗布し、接着することも可能である。
本発明の緩衝部材は、インソール、ミッドソールまたはアウトソール等の靴底用部材や靴の中敷き等の履物の緩衝部材として活用されるほか、スマートフォンやタブレット端末等の携帯情報端末機器の保護ケース、鞄のグリップや肩当てパッド等の用途にも活用される。さらに、本発明の緩衝部材は、透明で意匠性に優れ、軽量で接着性にも優れているため、日用品、家電、家具、アパレル分野及び自動車用部品等にも広く用いることができる。
以下、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。以下の実施例及び比較例における熱可塑性樹脂組成物の物性値の測定方法及び評価方法は下記の通りである。
(1)ヘイズ値(透明性)
JIS K7136:2000に準拠して、分光ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製ヘーズメーター、SH 7000)を用いて各試験片のヘイズ測定を行った。試験片としては、実施例及び比較例における各熱可塑性樹脂組成物を縦50mm×横50mm×厚み3mmにそれぞれ成形したものを用いた。ヘイズ値が30%以下の場合を優良(○)、30%を超える場合を不可(×)とした。
(2)硬度(C硬度)
JIS K6253に準拠するアスカーCデュロメータ(SRIS 0101規格)を用いて、各試験片の硬度測定を行った。試験片としては、実施例及び比較例における各熱可塑性樹脂組成物を縦60mm×横60mm×厚み12mmにそれぞれ成形したものを用いた。柔軟性(緩衝性)の評価としては、アスカーC55未満を良好「○」、55以上を不適「×」と判定した。
(3)剥離接着強さ(表2~6においては、「接着強度」と記載)
JIS K6854-3に準拠して、各試験片の剥離接着強さの測定を行った。図1及び図2を用いて剥離接着強さの試験方法について具体的に説明する。図1は試料片50の構成を概略的に示しており、図2は試料片の剥離接着強さ試験方法を図示している。図1に示す試料片50は次のようにして作製した。実施例及び比較例における各熱可塑性樹脂組成物をストリップ状(幅20mm×長さ60mm×厚さ3mm)にそれぞれ成形して試験片51とした。この試験片51を同じくストリップ状に作製したウレタン片52(株式会社クラレ製 クラミロンU2195、幅20mm×長さ60mm×厚さ3mm)と接着剤53によって接着し、試料片50を得た。より詳しくは、試験片51及びウレタン片52の表面をアセトンに浸したキムワイプ(登録商標)で拭いた後、60℃で5分間乾燥させた。試験片51とウレタン片52の片面にそれぞれ接着剤(Henkel社製、LOCTITE(登録商標)BONDACE 812TF)を塗布し、60℃で5分間乾燥する工程を2回行った後、速やかに試験片51及びウレタン片52を貼り合わせた。試験片51側を上にした状態で載置し、ハンドローラにて2~3kgf/cmの力を加えて圧着させることによって、試料片50を得た。この試料片50を12時間養生した後、図2(A)及び(B)に示すように、引っ張り試験機(株式会社島津製作所製オートグラフ(登録商標)、AT-100N)により、試料片50の試験片51とウレタン片52とを剥離させ、剥離接着強さを測定した。なお、図2において、54は固定側引張り治具、55は可動側引張り治具である。ロードセルは1kN(100kgf)であり、試験スピードは50mm/分、固定側引張り治具54及び可動側引張り治具55間の初期間隙は20mmであった。
接着性の評価としては、剥離接着強さが2kgf/20mm以上かつ材料破壊した試験片は接着性が優良「○」と評価し、剥離接着強さが2kgf/20mm未満または界面剥離した試験片は、接着性が不良「×」と評価した。
また、以下の実施例及び比較例で使用した各構成成分の仕様を表1に示す。ここで、表1中の屈折率は、JIS K7105に準拠して、屈折率計(株式会社アタゴ、DR-M2)を用いて測定された。具体的には、波長589nmの偏光フィルタを用いて測定した値であり、試料は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)及びウレタン系熱可塑性エラストマー(B)は15mm×10mm×厚み6mmとして測定し、液状である第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)は液体試料測定用セルに充填して測定した。また、表1中のA硬度は、JIS K6253-2に準拠して、試験片(縦65mm×横65mm×厚み12mm)を用いてA硬度デュロメーター(高分子計器株式会社、アスカーゴム硬度計A型)で測定した値である。他方、C硬度の値は、JIS K6253に準拠するアスカーCデュロメータ(SRIS 0101規格)を用いて、縦60mm×横60mm×厚み12mmに成形した試験片の硬度を測定した値である。さらに、表1中の分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定された重量平均分子量である。具体的には、分子量Mwは、測定装置としてSHODEX(登録商標)GPC-104(昭和電工株式会社製品)[分離カラムLF-404(3本連結)、ガードカラムLF-G、RI検出器RI-74S(いずれも昭和電工株式会社製品)]を用いて、溶離液をテトラヒドロフランとして、サンプル濃度10mg/4ml、溶離液流量0.3ml/min及びカラム温度40℃の条件で測定した。
Figure 0007284984000001
[実施例1]
以下の手順で本実施例の熱可塑性樹脂組成物を製造し、その効果の評価を行った。表1に示す各構成成分を用い、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として、屈折率1.5173、A硬度87のSEBS(A1)を37.45g、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)として、屈折率1.5005、C硬度67のTPU(B1)を87.37g、第1の可塑剤(C1)として、分子量1200のパラフィンオイル(C11)を31.83g、第2の可塑剤(C2)として、屈折率1.4600のアジピン酸エステル(C21)を3.35gそれぞれ個別に秤量した。次にSEBS(A1)とパラフィンオイル(C11)とを室温で混合した後、100℃で12時間加熱し、SEBS(A1)にパラフィンオイル(C1)をよく吸収及び分散させ、第1の混合物(I)を得た(予備混合工程)。他方、TPU(B1)とアジピン酸エステル(C21)とを室温で混合した後、100℃で36時間加熱し、TPU(B1)にアジピン酸エステル(C21)をよく吸収及び分散させ、第2の混合物(II)を得た(予備混合工程)。第1の混合物(I)と第2の混合物(II)の屈折率をJIS K7105に準拠して、屈折率計(株式会社アタゴ、DR-M2)で波長589nmの偏光フィルタを用いて測定した。第1の混合物(I)の屈折率と第2の混合物の屈折率との差は、0.003以下であり、両者の屈折率は略同程度の近似した値であった。得られた第1の混合物(I)と第2の混合物(II)を手攪拌でドライブレンドした後、バッチ式の二軸混練機(株式会社トーシン製 TD3-10MDX型)で160~190℃、回転数40rpmで25分間混練し(混練工程)、160gの熱可塑性樹脂組成物を得た。この組成物を上述した熱可塑性樹脂組成物の各評価方法で用いる所定の試験片形状に170℃、総荷重5tonf(面圧13.9MPa)の条件下で10分間の加熱プレス成形し、得られた試験片を用いて物性等の評価を行った。なお、上記屈折率測定に用いた第1の混合物(I)と第2の混合物(II)の試料は、上記熱可塑性樹脂組成物の作製とは別に屈折率測定用として、同じ配合割合と手順で第1の混合物(I)と第2の混合物(II)を各160g準備し、それぞれバッチ式の二軸混練機(株式会社トーシン製 TD3-10MDX型)で160~210℃、回転数40rpmで25分間混練したのち、15mm×10mm×厚み6mmに加熱プレス成形したものを試験片とした。
[実施例2~6]
熱可塑性樹脂組成物の構成成分である、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)の配合比を以下表2に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、各実施例の熱可塑性樹脂組成物を得た。実施例1と同様に、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて物性評価用の試験片を成形し、物性等の評価を行った。
実施例1~6の結果を表2に示す。ここで、表2における「屈折率差」とは、第1の可塑剤(C1)がスチレン系熱可塑性エラストマー(A)に混合分散された状態の混合物(第1の混合物(I))の屈折率の値と、第2の可塑剤(C2)がウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に混合分散された状態の混合物(第2の混合物(II))の屈折率の値との差の値(絶対値)である(以降の表3~6も同じ)。
Figure 0007284984000002
[実施例7~11]
熱可塑性樹脂組成物の構成成分である、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)の配合比を以下表3に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、各実施例の熱可塑性樹脂組成物を得た。実施例1と同様に、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて物性評価用の試験片を成形し、物性等の評価を行った。実施例7~11の結果を表3に示す。
Figure 0007284984000003
[実施例12~14]
熱可塑性樹脂組成物の構成成分である、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)の配合比を以下表4に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、各実施例の熱可塑性樹脂組成物を得た。なお、実施例14においては、第2の可塑剤(C2)として、実施例1~13で用いたアジピン酸エステル(C21)に替えて、グリセリン脂肪酸エステル(C22)を用いた。実施例1と同様に、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて物性評価用の試験片を成形し、物性等の評価を行った。実施例12~14の結果を表4に示す。
[実施例15]
表1に示す各構成成分を用い、以下表4の配合割合に示すように、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)としてSEBS(A1)を32.94g、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)としてTPU(B1)を56.464g、第1の可塑剤(C1)としてパラフィンオイル(C11)を52.08g、第2の可塑剤(C2)としてアジピン酸エステル(C21)を7.536g、相溶化剤として無水マレイン酸変性SEBS(D1)を10.98gそれぞれ個別に秤量した。次にSEBS(A1)とパラフィンオイル(C11)と無水マレイン酸変性SEBS(D1)とを室温で混合した後、100℃で12時間加熱し、SEBS(A1)にパラフィンオイル(C1)と無水マレイン酸変性SEBS(D1)をよく吸収及び分散させ、第1の混合物(I)を得た(予備混合工程)。他方、TPU(B1)とアジピン酸エステル(C21)とを室温で混合した後、100℃で36時間加熱し、TPU(B1)にアジピン酸エステル(C21)をよく吸収及び分散させ、第2の混合物(II)を得た(予備混合工程)。第1の混合物(I)と第2の混合物(II)の屈折率をそれぞれ測定し、両者の差の値を絶対値として求めた。第1の混合物(I)の屈折率と第2の混合物の屈折率との差は、0.003以下であり、両者の屈折率は略同程度の近似した値であった。得られた第1の混合物(I)と第2の混合物(II)を実施例1と同様の方法で混練し、160gの熱可塑性樹脂組成物を得た。実施例1と同様に、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて物性評価用の試験片を成形し、物性等の評価を行った。実施例15の結果を表4に示す。
Figure 0007284984000004
[比較例1~4]
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)の配合比を以下表5に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、各比較例の組成物を得た。実施例1と同様に、得られた組成物を用いて物性評価用の試験片を成形し、物性等の評価を行った。比較例1~4の結果を表5に示す。
Figure 0007284984000005
[比較例5~8]
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑剤(C2)の配合比を以下表6に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、各比較例の組成物を得た。実施例1と同様に、得られた組成物を用いて物性評価用の試験片を成形し、物性等の評価を行った。比較例5~8の結果を表6に示す。
Figure 0007284984000006
表2~表4に示した実施例1~15の結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物の構成とすることによって、透明性、柔軟性及び接着性に優れた成形体を形成する熱可塑性樹脂組成物が得られることがわかった。この成形体はその被接着面にウレタン系コート剤等の保護層を形成しない状態でも高い接着強度を示し、成形体と直接、接着剤を介して他部材と強力に接着されていることが示された。
他方、実施例1~15と比較例1~2の結果を比較すると、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との配合割合が、質量比で(A):(B)=25:75~70:30の範囲を外れると、柔軟性又は接着性が低下することが分かった。また、実施例1~15と比較例3~6の結果から、第1の可塑剤(C1)の配合割合が、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、85~135質量部の範囲を外れると、透明性、柔軟性又は接着性の少なくとも1つの物性が低下することが確認された。さらに、実施例1~15と比較例3~4及び7~8の結果から、第2の可塑剤(C2)の配合割合が、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)100質量部に対して、3.5~18質量部の範囲を外れると、透明性、柔軟性又は接着性の少なくとも1つの物性が低下することがわかった。
これらのことから、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との配合割合を質量比で(A):(B)=25:75~70:30とし、第1の可塑剤(C1)の配合割合をスチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、85~135質量部とし、第2の可塑剤(C2)の配合割合をウレタン系熱可塑性エラストマー(B)100質量部に対して、3.5~18質量部とすることによって、透明性、柔軟性(緩衝性)及び接着性に優れた成形体を形成する熱可塑性樹脂組成物が得られたことが確認された。
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含まれるものである。
50 試料片
51 試験片(実施例又は比較例の緩衝部材(成形体))
52 ウレタン片
53 接着剤
54 固定側引張り治具
55 可動側引張り治具

Claims (10)

  1. スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、第1の可塑剤(C1)及び第2の可塑材(C2)を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
    前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と前記ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)との配合割合が、質量比で(A):(B)=25:75~70:30であり、
    前記第1の可塑剤(C1)の配合割合が、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、85~135質量部であり、
    前記第2の可塑剤(C2)の配合割合が、前記ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)100質量部に対して、3.5~18質量部であり、
    前記第1の可塑剤(C1)はパラフィンオイルであり、前記第2の可塑剤(C2)はカルボン酸エステルであり、
    前記第1の可塑剤(C1)及び前記第2の可塑剤(C2)は、
    前記第1の可塑剤(C1)が前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)に混合された状態における混合物の屈折率と、前記第2の可塑剤が前記ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に混合された状態における混合物の屈折率との差が0.003以下となる配合割合で、配合されていることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
  2. 前記第1の可塑剤(C1)は、重量平均分子量が400~1200のパラフィンオイルであることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  3. 前記第2の可塑剤(C2)は、アジピン酸エステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  4. さらに、酸変性スチレン系エラストマー、ポリウレタン系ブロック共重合体及び酸変性ポリオレフィンからなる群から選択される1つ以上の相溶化剤を含有することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  5. 前記相溶化剤が、無水マレイン酸変性スチレン系エラストマーであることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  6. 請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる緩衝部材であって、
    ヘイズ値(JIS K713:2000準拠)が30%以下であり、硬度がアスカーC55未満(SRIS 0101規格)であることを特徴とする緩衝部材。
  7. 請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
    前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)及び前記ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)に対し、予め、前記第1の可塑剤(C1)及び前記第2の可塑剤(C2)のそれぞれを混合して、第1の混合物(I)及び第2の混合物(II)をそれぞれ得る予備混合工程と、
    前記予備混合工程を経た第1の混合物(I)と第2の混合物(II)とを混合し、混練する混練工程とを有し、
    前記予備混合工程において、前記第1の混合物(I)の屈折率と前記第2の混合物(II)の屈折率との差が0.003以下となるように、前記第1の可塑剤(C1)及び前記第2の可塑剤(C2)の配合量が調整されることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
  8. 前記予備混合工程において、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)に、前記第1の可塑剤(C1)と相溶化剤とを混合して、第1の混合物(I)を得ることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
  9. 請求項7又は8に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
    前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、前記ウレタン系熱可塑性エラストマー(B)、前記第1の可塑剤(C1)としてパラフィンオイル及び前記第2の可塑材(C2)としてカルボン酸エステルを混合し、混練する混練工程を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
  10. 前記混練工程において、さらに相溶化剤を混合して混練することを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
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