JP2023006417A - イタコン酸クロリドの製造方法 - Google Patents

イタコン酸クロリドの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】危険な試薬や廃棄物を扱うことなくイタコン酸クロリドを好収率で得ることができるイタコン酸クロリドの製造方法を提供する。【解決手段】ルイス酸触媒の存在下、イタコン酸又は無水イタコン酸と下記一般式(1)で表されるジクロロメチルアルキルエ-テルとを反応させる、イタコン酸クロリドの製造方法。TIFF2023006417000008.tif24161上記式中、Rは炭素数1~4のアルキル基を示す。【選択図】なし

Description

本発明は、イタコン酸クロリドの製造方法に関する。
イタコン酸は植物由来の高分子モノマーとしての用途が期待されている。しかし、イタコン酸が有するカルボキシ基を利用した重縮合ポリマーの重合条件下では、イタコン酸の内部オレフィンを保持したまま高分子量のポリマーを製造することは難しい。一方、イタコン酸クロリドはイタコン酸よりも反応性が高いため、重合条件を緩和し、内部オレフィンを有する重縮合ポリマーを得ることが期待できる。
例えば、イタコン酸を原料にしてイタコン酸クロリドを合成する方法として、特許文献1又は2に塩化チオニルを塩素化剤として用いる方法が記載され、非特許文献1には五塩化リンを塩素化剤として用いる方法が記載されている。また、無水イタコン酸を原料にして五塩化リンを反応しイタコン酸クロリドを合成する文献も知られている(非特許文献2)。しかし、これらの方法以外には、イタコン酸クロリドの製造方法はほとんど知られていない。
中国特許出願公開第102731440号明細書 中国特許出願公開第104030916号明細書
H.Feuer,S.M.Pier,Org.Synth.1953年,第33巻,p.41. W.Petri,Chem.Ber.1881年、14巻,p.1634-1637.
しかし、本発明者らの検討の結果、上記特許文献1又は2に記載の方法では、収率良くイタコン酸クロリドを得ることはできないことがわかってきた(本願明細書における比較例2及び3参照)。また、詳細な条件検討により収率良くイタコン酸クロリドを得ることができたとしても、副生する二酸化硫黄の処理には特殊な設備が必要であり、工業的実施には不向きである。非特許文献1又は2に記載の方法で使用される五塩化リンは毒物指定されており、大量に取り扱うには難があり、工業的実施には向いていない。
従来のイタコン酸クロリドの製造方法は上記の問題があり、工業的実施の観点からイタコン酸クロリドの新たな製造方法が求められている。
そこで本発明は、危険な試薬や廃棄物を扱うことなくイタコン酸クロリドを好収率で得ることができるイタコン酸クロリドの製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題に鑑み、イタコン酸クロリドを得るためのイタコン酸の塩素化反応を、塩素化剤や触媒の視点から検討を重ねた。その結果、亜鉛触媒等のルイス酸触媒の存在下、ジクロロメチルアルキルエーテルをイタコン酸と反応させると、高純度のイタコン酸クロリドが高収率で得られることを見出した。また、本発明者らが見出した上記方法により、無水イタコン酸を原料とした場合にも、高純度のイタコン酸クロリドが高収率で得られることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
即ち、上記の課題は以下の手段により解決された。
〔1〕
ルイス酸触媒の存在下、イタコン酸又は無水イタコン酸と下記一般式(1)で表されるジクロロメチルアルキルエ-テルとを反応させる、イタコン酸クロリドの製造方法。
Figure 2023006417000001
上記式中、Rは炭素数1~4のアルキル基を示す。
〔2〕
前記ルイス酸触媒が塩化亜鉛又は酸化亜鉛である、〔1〕に記載のイタコン酸クロリドの製造方法。
〔3〕
前記一般式(1)で表されるジクロロメチルアルキルエ-テルがジクロロメチルプロピルエ-テル又はジクロロメチルブチルエ-テルである、〔1〕又は〔2〕に記載のイタコン酸クロリドの製造方法。
本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明のイタコン酸クロリドの製造方法によれば、危険な試薬や廃棄物を扱うことなくイタコン酸クロリドを好収率で得ることができる。
また、本発明のイタコン酸クロリドの製造方法によれば、副生するギ酸アルキルを回収してジクロロメチルアルキルエーテルの原料として再利用することができる。
<イタコン酸クロリドの製造方法>
本発明のイタコン酸クロリドの製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも称す。)においては、上述のように、ルイス酸触媒の存在下、イタコン酸又は無水イタコン酸と下記一般式(1)で表されるジクロロメチルアルキルエ-テルとを反応させる塩素化反応により、イタコン酸クロリド(ClC(=O)C(=CH)CHC(=O)Cl)が好収率で生成される。
上記塩素化反応により、イタコン酸クロリドは、通常はイタコン酸クロリドとギ酸エステルと無水イタコン酸との混合物(以下、「反応混合物」とも称す。)として得られる。この塩素化反応の反応混合物を蒸留処理する簡便な精製処理により、高純度のイタコン酸クロリドを高い収率で得ることができる。
本発明の製造方法に使用される、一般式(1)で表されるジクロロメチルアルキルエーテル(以下、単に「ジクロロメチルアルキルエーテル」とも称す。)及びルイス酸触媒、上記塩素化反応において使用してもよい溶媒、塩素化反応における反応条件、蒸留処理について以下に説明する。
(一般式(1)で表されるジクロロメチルアルキルエーテル)
Figure 2023006417000002
上記式中、Rは炭素数1~4のアルキル基を示す。
上記Rとして採り得る炭素数1~4のアルキル基は、第1級アルキル基が好ましい。Rとして採り得る炭素数1~4のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、isoブチル基が挙げられる。
上記塩素化反応の結果、目的物であるイタコン酸クロリドと共に、使用したジクロロメチルアルキルエーテルに対応するギ酸アルキルが副生してくる。
従来より、ジクロロメチルメチルエーテルは塩素化剤又はホルミル化剤として広く利用されており、その際ジクロロメチルメチルエーテルはギ酸メチルに変換される。ギ酸メチルは、沸点31℃、引火点マイナス20℃の特殊引火物であり、工業的実施における取り扱いにおいては、安全面から好ましくはない。副生するギ酸アルキルの引火点を上げることができ、工業的実施においてより安全に取り扱うことができる観点からは、ジクロロメチルプロピルエーテル又はジクロロメチルブチルエーテルを使用することが好ましい。
なお、構造が類似しているジクロロメチルアルキルエーテルが全て同様の反応性を示すとは限らない。実際、本発明者らはジクロロメチルアルキルエーテルを使用するベンゼンのホルミル化の研究において、アルキル基が長くなるにしたがってベンズアルデヒドの収率が低下し、ジクロロメチルプロピルエーテル又はジクロロメチルブチルエーテルではベンズアルデヒドが非常に低収率でしか得られないことを報告した(Warashina,T.et.al.,Tetrahedron,2019年,第75巻,p.608-616.)。
即ち、ジクロロメチルプロピルエーテル又はジクロロメチルブチルエーテルが本発明の製造方法において有効な塩素化剤であることは、ジクロロメチルメチルエーテルを用いた類似の反応があるからと言って容易に類推できる結果ではない。しかしながら、上記一般式(1)においてRを炭素数5以上の長鎖アルキル基としたジクロロメチルアルキルエーテルを用いた場合には、後述の比較例4及び5に示すように、反応性が極端に低下する。このため、本発明の製造方法において、上記一般式(1)におけるRの上限値は4以下となっている。
ジクロロメチルアルキルエーテルの使用量は、イタコン酸を原料とする塩素化反応においては、イタコン酸1当量に対し2.0~3.0当量が好ましく、2.3~2.8当量がより好ましい。
一方、無水イタコン酸を原料とする塩素化反応においては、無水イタコン酸1当量に対するジクロロメチルアルキルエーテルの使用量は、1.0~2.0当量が好ましく、1.2~1.4当量がより好ましい。
上記ジクロロメチルアルキルエーテルは、特開2015-231961号記載の方法により高収率、高純度で製造することができる。
(ルイス酸触媒)
本発明の製造方法では、後述するように、上記ジクロロメチルアルキルエーテルを塩素化剤とする塩素化反応を、ルイス酸触媒の存在下で行うことにより、イタコン酸クロリドを得ることができる。
ルイス酸触媒として用いられるルイス酸としては、一般的に知られているルイス酸であって、本発明の製造方法によりイタコン酸クロリドを得ることができる限り特に制限されない。例えば、塩化亜鉛、酸化亜鉛、塩化チタン、塩化ジルコニウム等が挙げられる。すなわち、発明の製造方法において、塩化亜鉛、塩化チタン又は塩化ジルコニウム等のルイス酸は、ジクロロメチルアルキルエーテルを塩素化剤とする塩素化反応においてルイス酸触媒として機能する。また、後述するように、酸化亜鉛等のルイス酸は、自身はジクロロメチルアルキルエーテルとの反応によって別のルイス酸へと変化し、得られたルイス酸が、ジクロロメチルアルキルエーテルを塩素化剤とする塩素化反応においてルイス酸触媒として機能する。
これらの中でも、触媒能の観点から、塩化亜鉛又は酸化亜鉛であることが好ましく、工業化の観点からは、酸化亜鉛がより好ましい。
塩化亜鉛は、一般的には、酸化亜鉛に塩化水素を反応させることにより製造される。塩化亜鉛は潮解性、吸湿性が高いゆえに空気中の水分と反応しやすく、ブロッキングしやすく、大量に扱う時には刺激臭がある。これに対して、酸化亜鉛は空気中の水分との反応性が低く安定であるため取り扱いが容易な粉体であり、安価である。
本発明者らは、塩化亜鉛と酸化亜鉛の触媒能を比較し、細かい粉体である酸化亜鉛を用いた方が反応はスムーズであることを見出した。
また、酸化亜鉛がジクロロメチルアルキルエーテルと速やかに反応して塩化亜鉛に変化しているとする傍証を後述の参考例1により明らかとした。反応系内で生成される塩化亜鉛触媒表面は水分を含む大気と接触していないので触媒表面活性が高いことも実験結果を支持する。このことは、いずれの先行技術文献にも記載されていない事項である。
ルイス酸触媒の使用量は、イタコン酸又は無水イタコン酸100モル%に対し0.01~10モル%の範囲から選ばれる。通常は1~2モル%で十分である。
(溶媒)
本発明の製造方法においては、無溶媒下で行ってもよく、溶媒を用いてもよい。
溶媒を用いる場合、本発明の反応条件下で安定な溶媒(反応試薬、イタコン酸クロリドと実質的に反応しない溶媒)である限り特に制限なく用いることができ、例えば、塩素化炭化水素溶媒(ジクロロメタン、トリクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン等)が挙げられる。
これらは1種を単独で用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。溶媒を使用する場合、原料であるイタコン酸又は無水イタコン酸1モル当たり使用する溶媒の使用量は、好ましくは100ml以上、より好ましくは200~2000mlである。
工業的には、溶媒を使用しない方が釜効率が良く、後処理も簡便で環境にも優しく、好ましい。
(塩素化反応の反応条件)
ルイス酸触媒の存在下、イタコン酸又は無水イタコン酸と上記ジクロロメチルアルキルエーテルとを反応させる塩素化反応において、これらの各原料及び触媒の混合物は、最初はスラリー(懸濁液)の状態で攪拌されているが、次第に均一な溶液状態になる。
上記塩素化反応における反応温度は、通常5~30℃、好ましくは室温(25℃)付近で行うことができる。副生するギ酸エステルの種類によりそれらの沸点(ギ酸ブチルの沸点:約107℃、ギ酸プロピルの沸点:約81℃)以下であれば少し加熱してもよく、例えば、40~60℃まで加熱することもできる。
上記塩素化反応における反応時間は、反応スケール、使用するルイス酸触媒、上記ジクロロメチルアルキルエーテルの種類、反応温度等により変化するが、通常は1~30時間である。
(蒸留処理)
蒸留処理の方法に特に制限はなく、通常の方法を採用することができる。例えば、ギ酸アルキルとイタコン酸クロリドは単蒸留で容易に分離できるが、無水イタコン酸とイタコン酸クロリドの分離は必要があれば精留塔を備えた設備で減圧下蒸留を行い、イタコン酸クロリドを反応混合物から分離することができる。
本発明の製造方法では、反応条件を調整することにより、反応終了時に4%未満の無水イタコン酸が残るだけ(反応混合物中のイタコン酸クロリドの純分が96%以上)となるように調整することも可能であり、この場合には、単蒸留で実務的に必要な純度98%以上のイタコン酸クロリドを得ることができる。
原料としてイタコン酸を用いる態様(実施形態1)、原料として無水イタコン酸を用いる態様(実施形態2)に分けて、以下により詳細に説明する。
[実施形態1]
Figure 2023006417000003
本発明の実施形態1においては、上記反応スキームに示すように、触媒量のルイス酸触媒の存在下、イタコン酸と2当量以上の上記ジクロロメチルアルキルエーテルとを攪拌することにより、イタコン酸クロリドを生成することができる。
上記塩素化反応の反応混合物(反応液)中には、目的物であるイタコン酸クロリドに加えて、副生物であるギ酸アルキルと、反応中間体である無水イタコン酸とが含まれる。これらの反応混合物を蒸留処理することにより、目的物であるイタコン酸クロリドを高収率で容易に分離し、得ることができる。また、蒸留により分離されたギ酸アルキルは、特開2015-231961号に記載されるように、上記ジクロロメチルアルキルエーテルの合成原料として再利用することができる。
ジクロロメチルアルキルエーテルとしてジクロロメチルメチルエーテルを塩素化剤として用い、モノカルボン酸を対応するカルボン酸クロリドに変換する方法自体は知られている。例えば、Organic Syntheses,Coll.1990年,第7巻,p.467には、α-ケトカルボン酸クロリドの有用な調製方法として、ピルビン酸とジクロロメチルメチルエーテルとを触媒を用いることなく反応させ、ピルビン酸クロリドに変換する方法が記載されている。また、塩化チオニル、三塩化リンのような一般的な塩素化剤では非常に低収率でしかピルビン酸クロリドを得られないことも併せて記載されている。
しかし、本発明のモノカルボン酸ではないイタコン酸を出発原料とするイタコン酸クロリドの製造方法に、上記のピルビン酸クロリドを得る方法、すなわち、イタコン酸にジクロロメチルメチルエーテルを無触媒で反応させる方法を適用したとしても、イタコン酸クロリドは全く得られず、無水イタコン酸が定量的収率で得られるのみであった(後述の比較例1参照)。イタコン酸は分子内で環状酸無水物構造を採りやすく、このようなジカルボン酸の酸クロリドへの変換は、単に既知の方法を当てはめるだけでは上手くいかないことが明らかとなった。
また、特許文献1又は2の記載に準じて、イタコン酸に塩化チオニルとジメチルホルムアミド(DMF)を作用させてもイタコン酸クロリドは僅かに生成するだけであった(後述の比較例2参照)。また、ここに塩化亜鉛又は酸化亜鉛をさらに加えてもイタコン酸クロリドはほとんど得られなかった。このことは、無水イタコン酸にオキサリルクロリドとDMFと酸化亜鉛を作用させた場合でも同様であり、イタコン酸クロリドは僅か3%しか生成しなかった(後述の比較例3参照)。
[実施形態2]
Figure 2023006417000004
上記実施形態1で述べたように、イタコン酸はジクロロメチルアルキルエーテルにより無水イタコン酸に容易に変換される。この無水イタコン酸に、ルイス酸触媒の存在下でジクロロメチルアルキルエーテルを反応させることにより、開環し、イタコン酸クロリドが生成することは実施例、比較例から推定される。それゆえ、原料として無水イタコン酸を使用するイタコン酸クロリドの製造方法により、高価なジクロロメチルアルキルエーテルの使用量を減らすことが期待される。
よって、本発明の実施形態2においては、上記反応スキームに示すように、触媒量のルイス酸触媒の存在下、無水イタコン酸と1当量の上記ジクロロメチルアルキルエーテルとを撹拌することにより、イタコン酸クロリドを生成することができる。上記実施形態1と同様に、塩素化反応の反応混合物(イタコン酸クロリドとギ酸アルキルと無水イタコン酸との混合物)を蒸留処理することにより、目的物であるイタコン酸クロリドを高収率で容易に分離し、得ることができる。
上記実施形態1では無水イタコン酸を形成する際に当量の塩化水素が発生するのに対して、実施形態2の反応では塩化水素が発生しない観点から好ましい。
2つのカルボキシ基が近傍に存在する時には、酸無水物が生成しやすい性質があり、環状酸無水物を開環してジカルボン酸クロリドに変換する試みについては、先人により研究されている。例えば、F.M.Menge et.al,Angew.Chem.Int.Ed.2002年,第41巻,p.2581-2584には、1,3,5-シスシクロヘキサントリカルボン酸が有する3つのカルボキシ基の全てを酸クロリドに変換し、目的化合物の原料として利用する方法が記載されている。その方法は、まず、1,3,5-シスシクロヘキサントリカルボン酸に塩化チオニルを反応させることによって、分子中に1つの酸クロリドと酸無水物構造とを有する化合物を得る。この化合物に、続いて、塩化亜鉛の存在下ジクロロメチルメチルエーテルを反応させることにより、分子中に3つの酸クロリドを有する1,3,5-シスシクロヘキサントリカルボン酸クロリドを得るという方法である。また、F.Johnson et.al.,J.Am.Chem.Soc.1982年,第104巻,p.2190-2198.によると、無水リンゴ酸アセチルを塩化亜鉛の存在下ジクロロメチルメチルエーテルと還流することで、相当する酸クロリドを収率80%で得ている。
本発明者らは、無水イタコン酸に上記反応条件を適用することにより、過去に合成方法が知られていなかった、無水イタコン酸からイタコン酸クロリドを効率的に製造する反応ルートを見出した。さらには、先行技術文献が塩化亜鉛とジクロロメチルメチルエーテルを用い酸無水物を開環しジカルボン酸を合成できることに言及しているところを、工業的な観点から酸化亜鉛とジクロロメチルプロピルエーテル又はジクロロメチルブチルエーテルに変更することができることを本発明では明らかとした。
以下、本発明について実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。室温とは25℃を意味する。
本願実施例において単離したイタコン酸クロリドは、実施例3を除き純度98%以上であった。
なお、測定は、以下に示す方法に従って行った。
- 反応終了後の溶液の組成比の測定 -
・測定装置:質量分析装置付きガスクロマトグラフィー(GCMS)(検出器:TCD)
・転化率及びGC収率(%)={(イタコン酸クロリドのピーク面積)/(イタコン酸クロリドのピーク面積+無水イタコン酸のピーク面積)}×100
<実施例1>
イタコン酸6.50g(50ミリモル)をジクロロメタン15mLに懸濁し、塩化亜鉛134mg(0.98ミリモル)とジクロロメチルメチルエ-テル18.3g(159ミリモル)を加え室温(rt)で3時間攪拌した。攪拌の途中で、次第に均一溶液になった。反応終了後の溶液を減圧蒸留し、イタコン酸クロリドを7.2g(収率86%)得た。
(イタコン酸クロリドの同定)
bp:74~75℃/2torr.(非特許文献1記載の文献値 bp:71~72℃/2torr.)
GCMS:m/z=131(M-Cl),103(base peak,M-COCl).
300MHz H-NMR(CDCl):δ=3.93(J=0.9Hz,2H),6.32(J=0.9Hz,1H),6.85(J=0.3Hz,1H)
75MHz 13C-NMR(CDCl):δ=48.67,136.43,138.10,167.70,170.15.
IR(neat):1794cm-1,1734cm-1
得られたイタコン酸クロリドの一部にメタノ-ルとピリジン1滴を加え0.5時間攪拌し、イタコン酸ジメチルエステルの生成をGCMSにて確認した。
GCMS:m/z=158(M),143(M-CH),127(M-OCH),99(base peak,M-COOCH).
<実施例2>
無水イタコン酸5.6g(50ミリモル)、塩化亜鉛135mg(1.0ミリモル)、ジクロロメチルメチルエーテル7.27g(71.5ミリモル)、ジクロロメタン20mLを100mLのフラスコに入れ、室温(rt)で0.5時間攪拌した後、40℃で2時間攪拌した。反応終了後の溶液において、転化率は96.0%であった。反応終了後の溶液を蒸留し、イタコン酸クロリドを6.5g(収率78%)得た。
<実施例3~8,比較例4>
実施例1に準じて、イタコン酸(ITA)1.95g(15ミリモル)を用い、下記表1に記載した条件下で反応し、クーゲルロールにて蒸留(95~100℃/2torr)した結果を表1に示す。
Figure 2023006417000005
<実施例9~15,比較例5>
実施例2に準じて、無水イタコン酸(ITAH)3.36g(30ミリモル)を用い、下記表2に記載した条件下で反応し、クーゲルロールにて蒸留(95~100℃/2torr)した結果を表2に示す。
Figure 2023006417000006
(表の注)
溶媒を使用する例においては、原料であるITA又はITAH(モル)/溶媒(L)=3Mまたは2.5Mとなるようにして、溶媒を使用した。
ITOC収率のGC又は単離の欄における「-」は、該当する欄に記載の方法による確認を行っていないことを意味する。
ITOC収率の単離の欄における値は、蒸留処理により得られたITOCの収率(%)を意味する。
上記表1及び2の結果並びに後述の実施例16及び比較例1~3の結果から、以下のことが分かる。
後述の比較例1に示すように、無触媒下でのジクロロメチルアルキルエーテルとの反応ではイタコン酸クロリドは全く得られず、無水イタコン酸が定量的収率で得られるのみであった。また、特許文献1又は2に記載の方法に準じて、イタコン酸に塩化チオニルとジメチルホルムアミド(DMF)を作用させたとしてもイタコン酸クロリドは僅かに生成するだけであり(比較例2)、無水イタコン酸にオキサリルクロリドとDMFと酸化亜鉛を作用させたとしても、イタコン酸クロリドは僅か3%しか生成しなかった(比較例3)。
また、上記比較例4及び5に示すように、ジクロロメチルヘキシルエ-テルを用いた場合には反応性が極端に低下し、GC分析によりトレース量観測されるだけであった。
これらに対して、本発明の製造方法に沿った実施例1~16では、目的物であるイタコン酸クロリドを42%以上の好収率に得られたことを確認した。
<実施例16:大量合成>
無水イタコン酸(40g、0.36モル)、ジクロロメチルn-ブチルエーテル(72.3g、0.46モル、1.27eq)、酸化亜鉛(0.58g、0.007モル、0.02eq)を200mLフラスコに入れ室温で16時間攪拌した。GC分析の結果、転化率は97.8%であった。反応終了後の溶液を減圧蒸留(沸点73~74℃/4~5torr)し、イタコン酸クロリドを72.8g(収率79%)得た。単離したイタコン酸クロリドのGC測定による純度は99.3%であった。
<比較例1:無触媒下での反応>
イタコン酸1.34g(10.3ミリモル)をジクロロメタン3mLに懸濁し触媒を加えずにジクロロメチルメチルエ-テル3.48g(30.3ミリモル)を加え室温で2時間攪拌した後、さらに40℃で1時間15分攪拌した。GCMSでは無水イタコン酸のみを検出した。溶媒を留去すると白色結晶1.12gが得られ、融点64~68℃の無水イタコン酸を定量的収率で得た。
GCMS:m/z=112(M,相対強度0.12%),68(M-CO,相対強度68%),40(basepeak).
<比較例2:塩化チオニルとDMFを使用>
イタコン酸3.2g(24.6ミリモル)をジクロロメタン6mLに懸濁し、DMF1滴を加えた。塩化チオニル7.18g(60.3ミリモル)を室温で加え、50℃のオイルバス中で(わずかに還流させた状態で)5時間攪拌した。反応液についてGCMSで分析した結果、大量の無水イタコン酸が検出され、イタコン酸クロリドはトレース量観測されるだけであった。
<比較例3:オキサリルクロリドとDMFと酸化亜鉛を使用>
無水イタコン酸3.36g(30.0ミリモル)、酸化亜鉛15mg、オキサリルクロリド5.0g(40.0ミリモル)、DMF1滴を順次加え、50℃で3時間攪拌した。褐色の反応液についてGCで分析した結果、無水イタコン酸が大量に残っており、イタコン酸クロリドは3%しか生成していなかった。
<参考例:酸化亜鉛の反応系中での塩化亜鉛への変化>
ジクロロメチルブチルエ-テル162.7mg(1.02mmol)を無水ジクロロメタン0.5mLに溶かした。この溶液に酸化亜鉛35mg(0.43mmol)を加え室温で10分間攪拌し、反応液をGCで分析したところ、全面積値で55%のギ酸ブチルが生成していた。
この結果から、酸化亜鉛が塩化亜鉛へと速やかに変化し、かつ定量的な変化であったことが推定できる。
以上の通り、ルイス酸触媒の存在下、塩素化剤として本発明で規定する一般式(1)で表されるジクロロメチルアルキルエーテルを用い、イタコン酸又は無水イタコン酸の塩素化反応を行うことにより、目的物であるイタコン酸クロリドを高い収率で生成しており、反応終了後の溶液を簡便な蒸留処理に付すことによって、イタコン酸クロリドを高収率で得ることが可能となる。

Claims (3)

  1. ルイス酸触媒の存在下、イタコン酸又は無水イタコン酸と下記一般式(1)で表されるジクロロメチルアルキルエ-テルとを反応させる、イタコン酸クロリドの製造方法。
    Figure 2023006417000007
    上記式中、Rは炭素数1~4のアルキル基を示す。
  2. 前記ルイス酸触媒が塩化亜鉛又は酸化亜鉛である、請求項1に記載のイタコン酸クロリドの製造方法。
  3. 前記一般式(1)で表されるジクロロメチルアルキルエ-テルがジクロロメチルプロピルエ-テル又はジクロロメチルブチルエ-テルである、請求項1又は2に記載のイタコン酸クロリドの製造方法。
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