JP7032666B2 - α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの製造方法 - Google Patents

α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの製造方法に関する。
式[1]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドは、先端材料分野の材料もしくは医農薬用の中間体として有用な化合物である。
Figure 0007032666000001
特にそのジフルオロメチル基(-CHF2)は、高い電気陰性度を持つフッ素原子2つおよび水素原子1つが、同一の炭素原子に結合している。この特異な構造が、それを用いて合成した各種材料の撥水性、透明性、低誘電性、特異な生理活性、ミミック効果、などの特徴に深く関係すると考えられている。このため、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドをビルディングブロックとして用いた物質は、先端材料分野及び医農薬中間体などの分野で、活発な研究開発の対象となっている。
α,α-ジフルオロアセトアルデヒド類の製造方法として、触媒存在下、ジフルオロメチル基を持つエステル類に対し、水素化リチウムアルミニウム等のヒドリド還元剤を用いた還元反応が知られている(非特許文献1)。また、本出願人は、α,α-ジフルオロ酢酸エステル類に対し、ルテニウム触媒の存在下、水素(H2)による還元反応による方法を開示している(特許文献1)。
一方、アルデヒドという物質は不安定で、次第に他のアルデヒド分子と重合することが知られている(非特許文献2)。本発明で対象とするアルデヒドは、強力な電子求引基であるジフルオロメチル基が直結しているため、自己重合体、水和体、ヘミアセタール、アセタール及びこれらの構造的特徴が組み合わさった化合物等、複数の安定な等価体として得られることも特許文献1に開示されている。
このように、ジフルオロメチル基が直結しているアルデヒドは、複数の化合物に変換されやすい傾向があった。そこで、本出願人は、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドは一般式[2]で表されるアルコールとの共存下、一般式[3]で示されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを形成し、かつ、共存するアルコールの量を調整することで、該ヘミアセタールが系内に安定に存在しやすくなる、すなわち、保存安定性が向上する旨を、特許文献2で報告している。
Figure 0007032666000002
[式中、R4はアルキル基または置換アルキル基を表す。]
Figure 0007032666000003
[式中、R1は一般式[2]におけるR1と同じ。]
ところで、本出願人は特許文献1及び2において、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの精製時に、一般式[4]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドの二量体(以下、本明細書で単に「二量体」と言うことがある)が生成することを報告している。
Figure 0007032666000004
[式中、R3は一般式[2]におけるR1と同じ。]
この化合物は、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールと比べて安定な化学種であり、一旦生成してしまうと、このままではα,α-ジフルオロアセトアルデヒドとして目的の反応を進行させるには、二量体をα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールに収束させる工程が増えることになる。そのため、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタール中に二量体は発生させない、もしくはできる限り低減させておくことが望ましいと言える。
しかし、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールは気相中では不安定な化合物である為、合成後、反応液中の中和塩やヒドリド還元剤を除去する為に蒸留操作等を行うと、一定量の二量体が発生してしまう。そこで本出願人は、保存安定性の向上、該ヘミアセタール以外の化合物(二量体)を格段と生成しにくくなるという特異的な現象をも見出し、特許文献2でその旨を報告している。
国際公開2014/115801号 国際公開2016/017318号
The Journal of Organic Chemistry, 1997, 62(25), 8826-8833. 有機合成化学第19巻第3号(1961年)、254~260頁
α,α-ジフルオロアセトアルデヒドは、自己重合体、水和体、ヘミアセタール等の安定な等価体の他、二量体が得られることは、前述した特許文献2に記載の方法で公知である。さらに、該文献によれば、二量体に対して酸を加えて強く加熱する等の操作により、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドに戻すことが出来るとする旨の記載もなされている。
しかしながら、特許文献2に記載されているように、前述した二量体が一旦生成すると、それを分解させて対応するα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを安定的に得る条件を見出すことは難しい。仮にこの二量体をα,α-ジフルオロアセトアルデヒドに戻すべく、酸を加えて加熱等行ったとしても、実際、二量体が分解してα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールとなる際の変換率は、処理条件により大きなばらつきがあった(後述の比較例)。また変換率が低い場合は長時間反応を行っても二量体が所定の割合から減少しない場合もあった。
一方、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの保管中に分解が進行し分解してジフルオロ酢酸が副生してしまうこともあった。一旦、ジフルオロ酢酸が生成してしまうと、この化合物自体、強酸性物質であり、この量が増えることで反応容器の材質に影響を与えることから、α,α-ジフルオロアルデヒドの長期保存には不向きであった。
そこで、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの精製時に副生する、該ヘミアセタールに含まれる二量体を低減させ、かつ、ジフルオロ酢酸の副生を抑えることのできる、効率的なα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの製造方法が求められていた。
本発明者らは、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールと二量体を含む混合液が酸性状態であると二量体が安定化される、特に、該混合液のpHが3.5未満である場合、安定性が顕著に高くなり、二量体の分解反応が低下するという知見を得た。
通常、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを製造する際に存在する可能性のある酸としては、ヒドリド還元剤や塩基の中和プロセスに用いる酸と、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの分解によって生じるジフルオロ酢酸が考えられる。これらのうち、ジフルオロ酢酸は強酸であり、該混合液中の含量が数十ppm程度と微量であっても液全体のpHは3.5未満となる。ジフルオロ酢酸が系内に存在すると、二量体に対しアルコールを反応させても、二量体の分解反応、すなわち、ヘミアセタールへ進行しにくくなってしまうという問題があった。
そこで本発明者らが鋭意検討を行った結果、より高純度のα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを製造するための条件として、下記の3つの工程を含む製造方法を採用することで、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールからの分解物であるジフルオロ酢酸の生成を抑え、かつ、該ヘミアセタールの精製時に副生するα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの二量体を低減できると言った、大変好ましい知見を得、本発明を完成するに至った。
第1工程:
一般式[5]で表されるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類を、一般式[2]で表されるアルコールを溶媒とし、塩基及びルテニウム触媒の存在下、水素(H2)と反応させる、または、一般式[5]で表されるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類を、ヒドリド還元剤と反応させる、ことにより、一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を製造する工程。
Figure 0007032666000005
[式中、R2は一般式[3]におけるR1と同じである]
第2工程:
第1工程で得られた前記混合物に対し、中和処理を行い、その後、該混合物を反応容器に充填し、遮光条件下、該反応容器内の酸素(O2)濃度を5000ppm以下となるように調整し、続いて蒸留操作を行うことで、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールと、一般式[4]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドの二量体を含む、pHが3.5~10.0の混合物を得る工程。
第3工程:
第2工程で得られた前記混合物を反応容器に充填させ、遮光条件下、該反応容器内の気相部の酸素濃度を5000ppm以下となるよう調整した後、該混合物に対し、一般式[2]で表されるアルコールを反応させることで、該混合物中に含まれる二量体の少なくとも1部が減少した、もしくは該混合物中に含まれる二量体を実質的に含まない、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を得る工程。
すなわち、本発明は、以下の[発明1]-[発明12]を提供する。
[発明1]
次の工程を含む、一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの製造方法。
第1工程:
一般式[5]で表されるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類を、一般式[2]で表されるアルコールを溶媒とし、塩基及びルテニウム触媒の存在下、水素(H2)と反応させる、または、一般式[5]で表されるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類を、ヒドリド還元剤と反応させる、ことにより、一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を製造する工程。
第2工程:
第1工程で得られた前記混合物に対し、中和処理を行い、その後、該混合物を反応容器に充填し、遮光条件下、該反応容器内の気相部の酸素濃度を5000ppm以下となるように調整し、続いて蒸留操作を行うことで、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールと、一般式[4]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドの二量体とを含む、pHが3.5~10.0の混合物を得る工程。
第3工程:
第2工程で得られた前記混合物を反応容器に充填させ、遮光条件下、該反応容器内の気相部の酸素濃度を5000ppm以下となるよう調整した後、該混合物に対し一般式[2]で表されるアルコールを反応させることで、該混合物に含まれる二量体の少なくとも1部が減少した、もしくは該混合物に含まれる二量体を実質的に含まない、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を得る工程。
[発明2]
第1工程において、ルテニウム触媒が式[6]または式[7]で表される触媒である、発明1に記載の製造方法。
Figure 0007032666000006
[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Arはそれぞれ独立に芳香環基または置換芳香環基を表し、Xはそれぞれ独立に形式電荷が-1または0の配位子(但し、3つのXの形式電荷の合計は-2)を表し、nはそれぞれ独立に1または2の整数を表す。]
Figure 0007032666000007
[式中、Phはフェニル基を表す。]
[発明3]
式[6]で表されるルテニウム触媒が、下記式で表される触媒である、発明1または2に記載の製造方法。
Figure 0007032666000008
[式中、Phはフェニル基を表す。]
[発明4]
第1工程において、ルテニウム触媒が、ルテニウム化合物を担体に担持した触媒である、発明1に記載の製造方法。
[発明5]
担体が、金属酸化物もしくは活性炭に担持した触媒である、発明4に記載の製造方法。
[発明6]
ルテニウム化合物が、ルテニウムのフッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物、及びオキシフッ化塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明4または5に記載の製造方法。
[発明7]
第1工程において、ヒドリド還元剤が金属水素化物である、発明1に記載の製造方法。
[発明8]
金属水素化物が、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムまたは水素化シアノホウ素ナトリウムである、発明7に記載の製造方法。
[発明9]
第2工程において、混合物のpHの調整を、酸を加えることにより行う、発明1乃至8の何れかに記載の製造方法。
[発明10]
酸が、酢酸、安息香酸またはパラ-トルエンスルホン酸である、発明9に記載の製造方法。
[発明11]
第3工程において、アルコールがメタノール又はエタノールである、発明1乃至10の何れかに記載の製造方法。
[発明12]
第2工程または第3工程において、酸素濃度の調整を、容器内に不活性ガスをバブリングさせることにより行う、発明1乃至11の何れかに記載の製造方法。
なお、このような「二量体」にあたる化合物の生成における経時的な変化は、本発明の対象とする2,2-ジフルオロアセトアルデヒドと類似の構造体である、一般式[8]で表されるα,α,α-トリフルオロアセトアルデヒドのヘミアセタールの場合には、有意には観測されない。すなわち、このような「二量体」の生成はα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールにおける特有の現象(固有の課題)である。
Figure 0007032666000009
[式中、R5はアルキル基または置換アルキル基を表す。]
本発明によれば、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの製造において、該ヘミアセタールの精製時に副生する二量体を低減させ、かつ、ジフルオロ酢酸の含有量を低減できるという効果を奏する。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
[第1工程]
まず、第1工程について説明する。第1工程は、一般式[5]で表されるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類を、一般式[2]で表されるアルコールを溶媒とし、塩基及びルテニウム触媒の存在下、水素(H2)と反応させる、または、一般式[5]で表されるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類を、ヒドリド還元剤と反応させる、ことにより、一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を製造する工程である。
本工程は公知の方法であり、特許文献1に記載の方法を採用するのが、大量規模で該ヘミアセタールを製造する上で特に有利である。本工程を採用することは、本発明を実施する上で重要である為、以下、この製造方法について説明する。
本工程の出発原料であるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類の製造方法は、公知の製造方法を参考に当業者が容易に製造できる。
本工程で用いる、一般式[5]で表されるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類のR2はアルキル基または置換アルキル基を表す。なお、一般式[4]で表される二量体におけるR3についても前記酢酸エステル類におけるR2と同義である。
アルキル基(本明細書で言う「アルキル基」は、「非置換のアルキル基」のことを示す)は炭素数1~10の直鎖状または分岐状のアルキル基を示す。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-オクチル基、n-デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
置換アルキル基は、前記アルキル基の任意の炭素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、置換基を有する。係る置換基は、ハロゲン原子、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基または低級アルコキシカルボニル基等である。具体的には、フッ素、塩素、臭素、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基およびプロポキシカルボニル基等が挙げられる。なお、本明細書において、“低級”とは、炭素数1~6の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)であるものを意味する。
本工程で用いる塩基は、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、水酸化テトラアルキルアンモニウム、アルカリ金属のアルコキシド、有機塩基、アルカリ金属のビス(トリアルキルシリル)アミド、ならびにアルカリ金属の水素化ホウ素等である。具体的には、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラn-プロピルアンモニウム、水酸化テトラn-ブチルアンモニウム、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リチウムイソプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、リチウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素カリウム等が挙げられる。これらの中でもアルカリ金属のアルコキシド(アルコキシドの炭素数は1~6)が好ましく、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシドおよびカリウムメトキシドが特に好ましい。なお、後述の実施例に記載の通り、ナトリウムメトキシドは通常メタノール溶液として入手できる。このため、反応系中には、メタノールが残存することになる。すなわち、メタノールが、前記で述べた一般式[2]で表されるアルコールとしての役割を少なくとも一部は果たすことになる。
ここで言う一般式[2]で表されるアルコールのうち、R4は一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールのR1と同義である。アルコールの具体的な化合物はメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、ベンジルアルコール等が挙げられるが、これらのうち、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールが好ましく、中でも、メタノールとエタノールは、無水試薬を大量規模で容易に入手でき、しかもα,α-ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタールの安定性向上の効果も大きいため、特に好ましい。
アルコールの使用量は、原料のα,α-ジフルオロ酢酸エステル類1モルに対して0.001モル以上を用いれば良く、0.005~5モルが好ましく、0.01~3モルが特に好ましい。
本工程で用いるルテニウム触媒は、特に制限はないが、例えば、下記の一般式[6]または式[7]で表されるルテニウム触媒を用いるのが好ましい。
Figure 0007032666000010
[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Arはそれぞれ独立に芳香環基または置換芳香環基を表し、Xはそれぞれ独立に形式電荷が-1または0の配位子(但し、3つのXの形式電荷の合計は-2)を表し、nはそれぞれ独立に1または2の整数を表す。]
Figure 0007032666000011
[式中、Phはフェニル基を表す。]
また、ルテニウム触媒として、ルテニウム化合物を担体に担持した触媒を用いることもできるが、詳細は後述する。
一般式[6]で表されるルテニウム触媒のアルキル基の定義は、一般式[4]または一般式[5]におけるR1と同義である。該ルテニウム触媒の芳香環基は、芳香族炭化水素基、または窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基である。芳香族炭化水素基の具体例としては炭素数6~18の、フェニル基、ナフチル基及びアントリル基等であり、ヘテロ原子を含む芳香族複素環基の具体例としてはピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等である。
一般式[6]で表されるルテニウム触媒の、置換アルキル基及び置換芳香環基における「置換基」は、前記のアルキル基又は芳香環基の、任意の炭素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、存在する。係る置換基は、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基、ならびにヒドロキシル基の保護体等である。具体的には、フッ素、塩素、臭素、メチル基、エチル基、プロピル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシルボニル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等が挙げられる。
さらに、一般式[6]で表されるルテニウム触媒の置換アルキル基は、前記のアルキル基の任意の炭素-炭素単結合が、任意の数および任意の組み合わせで、炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合に置き換わることもできる(当然、これらの不飽和結合に置き換わったアルキル基は、前記の置換基を同様に有することもできる)。置換基の種類に依っては置換基自体が副反応に関与する場合もあるが、好適な反応条件を採用することにより最小限に抑えることができる。
また、前記の“係る置換基は”の“芳香環基”には、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基およびヒドロキシル基の保護体等が置換することもできる。さらに、ピロリル基、インドリル基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基の保護基は、Protective Groups in Organic Synthesis, Third Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.等に記載された保護基である。
一般式[6]で表されるルテニウム触媒のうち、下記式で表されるルテニウム触媒{(商品名「Ru-MACHO」、高砂香料工業株式会社製)として市販されている}は活性が高く、特に好ましい。
Figure 0007032666000012
[式中、Phはフェニル基を表す。]
水素と反応させる際、塩基の存在下で行うことが必要であるが、該ルテニウム触媒の3つのX配位子のうち、少なくとも1つがBH4を採る場合は、塩基の非存在下に反応を行うこともできる。
一方、一般式[7]で表されるルテニウム触媒は、公知の方法で調製することも可能であるが、商品名「Ru-SNS」(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)として市販されているものを用いるのが便利である。
更に、前述したルテニウム触媒以外にも、例えば、Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 2538-2542, Organometallics 2012, 31, 5239-5242, Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 2772-2775およびAngew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 1113-1115等に記載されたルテニウム触媒が挙げられる。その代表的なもの(均一系のルテニウム触媒)を図1に示すが(略記号/Et;エチル基、t-Bu;tert-ブチル基、Ph;フェニル基、i-Pr;イソプロピル基)、当然これらに限定されるものではない。これらのルテニウム触媒でも同様の反応条件で用いることが可能である。
Figure 0007032666000013
次に、ルテニウム触媒として、ルテニウム化合物を担体に担持した触媒を用いることも可能である。ここで言うルテニウム化合物とは、ルテニウムのフッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物、及びオキシフッ化塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、担体としては、金属酸化物または活性炭である。金属酸化物の種類としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、及びマグネシムからなる群より選ばれる少なくとも一種である。
なお、前記の活性炭は、市販されているものから選んで使用でき、例えば、瀝青炭から製造された活性炭(例えば、カルゴン粒状活性炭CAL(東洋カルゴン株式会社製)、椰子殻炭(例えば、日本エンバイロケミカルズ株式会社製)などを挙げることができるが、当然これらの種類に限られることはない。
本発明で用いる触媒を調製する方法は限定されないが、例えばルテニウム化合物を溶液に溶かし、この溶液を担体に含浸させた後、加熱しながら水素で還元処理することで調整できる。または、担体を予めフッ化水素、塩化水素、塩素化フッ素化炭化水素などによりハロゲンで修飾処理した化合物に、ルテニウム化合物の可溶性化合物を溶解した溶液を含浸するか、スプレーすることで調製できる。ここで言う可溶性化合物としては、水、塩酸、アンモニア水、エタノール、アセトンなどの溶媒に溶解するルテニウム化合物の硝酸塩、リン酸塩、塩化物、酸化物、オキシ塩化物、オキシフッ化物、などが挙げられる。ルテニウム化合物の担体に対する担持量は、担体との合計量に占める割合が、0.1から80質量%、好ましくは1から40質量%が適当である。
このように、ルテニウム化合物を担体に担持した触媒は、前記の方法により各種調製することもできるが、市販されているものを用いることもできる。例えば、エヌ・イ-ケムキャット社製のルテニウム活性炭粉末(脱水品)であるAタイプ、Bタイプ、Kタイプ、そしてRタイプ等の不均一系触媒を利用するのが便利である。
ルテニウム触媒の使用量は、一般式[6]または式[7]で表されるルテニウム触媒を用いる場合、α,α-ジフルオロ酢酸エステル類1モルに対して0.000001モル以上を用いれば良く、0.00001~0.005モルが好ましく、0.00002~0.002モルが特に好ましい。
一方、ルテニウム触媒としてルテニウム化合物を担体に担持した触媒を用いる場合、α,α-ジフルオロ酢酸エステル類1モルに対して0.00001モル%以上を用いれば良く、0.001から10モル%が好ましく、0.01から5モル%が特に好ましい。
水素ガスの使用量は、α,α-ジフルオロ酢酸エステル類1モルに対して1モル以上を用いれば良く、大過剰が好ましく、加圧下(水素圧は後述する)での大過剰が特に好ましい。
水素圧は、特に制限はないが、通常、0.01~10MPa(絶対圧基準。以下、本明細書で同じ)であり、0.1~6MPaが好ましく、0.3~5MPaがより好ましい。
なお、本工程で用いるヒドリド還元剤は、アルミニウムヒドリド系、ホウ素ヒドリド系が挙げられる。具体例としては(i-Bu)2AlH、LiAlH4、NaAlH2(OCH2CH2OCH32、ジボラン、BH3・THF、BH3・SMe2、BH3・NMe3、BH3・NPhEt2、NaBH4、LiBH4等が挙げられる(Buはブチル基、THFはテトラヒドロフラン、Meはメチル基、Phはフェニル基、Etはエチル基をそれぞれ表す)。
ヒドリド還元剤の使用量としてはα,α-ジフルオロ酢酸エステル類1モルに対してヒドリド還元剤が0.3~2.0当量が好ましく、0.7~1.3当量が特に好ましい。ヒドリド還元剤が0.3当量未満の場合は反応の添加率が十分でなく、一方、2.0当量を超えると副反応の過還元が増大し、目的物の収率が大きく低下することがある。
ヒドリド還元剤を用いる場合、反応溶媒を用いると良い。反応溶媒は脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素系、ニトリル類、酸アミド類、エーテル類、アルコール類が挙げられる。具体的な化合物としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンアセトニトリル、プロピオニトリル、フェニルアセトニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N-メチルピロリドン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、1,2-エポキシエタン、1、4-ジオキサン、ジブチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、置換テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
反応溶媒の使用量は、原料のα,α-ジフルオロ酢酸エステル類1モルに対して0.03L(リットル)以上を用いれば良く、0.05~10Lが好ましく、0.07~7Lが特に好ましい。
反応時間は、72時間以内で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の減少が殆ど認められなくなった時点を終点とすれば良い。これにより、一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を得ることができる。
なお、本工程の反応は、一旦、α,α-ジフルオロアセトアルデヒド(前記一般式[1]に相当)が生成するが、系内に存在するアルコールと反応し、安定なアルキルヘミアセタール(一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタール)に速やかに変換される。また、本工程における出発原料には、一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタールの他、一般式[2]で表されるアルコール、及び一般式[4]の二量体が含まれることがあるが(後述の実施例)、このような出発原料であっても、続く第2工程における出発原料として好適に利用できる。
[第2工程]
次に、第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で得られた前記混合物に対し、中和処理を行い、その後、該混合物を反応容器に充填し、遮光条件下、該反応容器内の気相部の酸素濃度を5000ppm以下となるように調整し、遮光条件下で蒸留操作を行うことで、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールと一般式[4]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドの二量体を含む、pHが3.5~10.0の混合物を得る工程である。
第1工程で得られた混合物は、ルテニウム触媒を用いた水素添加、ヒドリド還元剤による還元のどちらの製法を採っても塩基を含む反応液となっており、強い塩基性(pH11.0以上)を示す為、本工程では、精製操作を行う反応液が中性から弱塩基性とする為、中和処理を行う。ここで言う「中性から弱塩基性」とは、液を採取してpH試験紙に浸すが、pHメーターで測定した際にpHが3.5~10.0であるような液性(すなわち、「中性から弱塩基性近傍」と定義できる液性)をいい、さらに好ましくは6~10である。これらのpHの範囲を外れて酸性側になると、第3工程に供する液が酸性となり、生成した二量体が安定化されてしまうため好ましくない。また逆に、これらのpHの範囲を外れてアルカリ性側になると、カニッツァロ反応等の副反応が起こりやすく、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの収率低下が発生するため好ましくない。
本工程において、pHを3.5~10.0の範囲に調整するには、酢酸、安息香酸またはパラ-トルエンスルホン酸等で行えば良い(後述の実施例参照)。
本工程は、遮光条件下で実施する。遮光条件としては不透明な外壁により全ての波長を遮断するものが最も望ましいが、茶褐色の遮光ガラス等により短波長、具体的には450nm未満の波長が遮断できる材質であれば使用可能である。
さらに本工程では、気相部分の酸素濃度を管理する必要がある。酸素濃度は一般的な酸素濃度計を用いて測定が可能である。
酸素濃度を低減させる際は該ヘミアセタールの反応液を容器に供給後、窒素、アルゴン等の不活性ガスを充填することにより行うが、不活性ガスを容器内に充填する方法について特に制限はない。例えば、後述の実施例で記載するように、
容器に第1工程で得られたα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を容器内に供給した後、不活性ガスを容器内の液相部にバブリングを行った後、容器内を密閉する、または、
前記混合物を容器内に供給した後、容器内を密閉し、混合物が容器外に排出されない程度に減圧操作を行った後、不活性ガスを容器内の液相部に吹き付ける、もしくは液相部に不活性ガスをバブリングさせる、
等が挙げられる。何れの場合も、液相部の溶存酸素濃度を低下すると共に、同時に容器内の気相部が不活性ガスに徐々に置換されることになる。
なお、溶存酸素の除去効率を上げるため、これらの方法に液相部の攪拌操作、または脱気操作を併用することは好ましい。該ヘミアセタールの保存の規模に応じ、これらの方法を適宜組み合わせることで効率よく酸素濃度を減少させることが可能である。
不活性ガスの種類としては窒素、アルゴン等の反応に影響を及ぼさないガスを用いる。
次に、本工程では、気相部の酸素濃度を、5000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは300ppm以下となるように容器内の酸素を調整する。酸素濃度の調整方法についての具体的な方法に制限はなく、例えば、
(1)不活性ガスを容器へ導入することで前記の酸素濃度範囲になるように調整する、または、
(2)酸素と、窒素、アルゴン等の不活性ガスとの混合ガスを吹き込み、容器内の酸素濃度を適切な範囲まで低下させる、または、
(3)α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む容器内を密閉し、容器内を減圧する、
等の方法が挙げられる。
なお、酸素と、窒素、アルゴン等の不活性ガスとの混合ガスを吹き込む場合、酸素と不活性ガスとの混合ガスにおけるそれぞれの比率は特に制限はない。
これらの条件を採用することで、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの重合、酸化等の反応を十分に防止することができるが、これらのうち、(1)または(2)の調整方法が、気相部の酸素濃度を、5000ppm以下に調整しやすい為、好ましく用いられる。
本工程の蒸留操作は、通常の蒸留操作に加え、副生成物(ジフルオロエタノール等)を除去する為、精密蒸留(fractional distillation)(なお、ここで言う「精密蒸留」についての説明を行うにあたり、便宜上、「分別蒸留」または「蒸留」と言うときがある)を組み合わせることで、化学純度を高めることが可能である。
ここで言う蒸留操作の条件、装置については、特に制限はなく、当業者の技術常識に照らし合わせ、適宜条件を設定できる。例えば、精密蒸留の場合、蒸留搭の段数は、例えば、2以上、50以下であればよい。
蒸留塔に充填する充填物としては、規則性充填物、不規則性充填物の何れも利用できる。規則性充填物としては、通常用いられるもので良く、例えば、スルザーパッキング、メラパック、テクノパック、フレキシパック等が挙げられる。不規則性充填物としては、通常用いられるもので良く、例えば、ヘリパック、ラシヒリング、ディクソンパッキング等が挙げられる。還流比は0.5~8.0、好ましくは0.5~7.0、より好ましくは0.5~6.0である。
蒸留時の圧力、温度に関しては特に制限はなく、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールが気化される条件であればよい。また、反応時間に関しても、特に限定されない。
本工程を経ることにより、反応系内にジフルオロ酢酸を生成することなく、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールと、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドの二量体を含む、pHが3.5~10.0の混合物を得ることとなる。
なお、該ヘミアセタールはジフルオロメチル基が直結したアルデヒド類である為、前記で述べたように、蒸留後の留分には、自己重合体、水和体、アセタール、ヘミアセタール、及びこれらの構造的特徴が組み合わさった化合物等の安定な等価体として得られることが多い。本工程についても、後述の実施例で示す通り、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの他、一般式[4]の二量体が生成する。そこで、続く第3工程を経由することにより、二量体を効率的に該ヘミアセタールに変換させることができる。
[第3工程]
次に、第3工程について説明する。第3工程については、第2工程で得られたα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールと二量体とを含む混合物を反応容器に充填させ、遮光条件下、該反応容器内の気相部の酸素濃度を5000ppm以下となるよう調整した後、該混合物に対し、一般式[2]で表されるアルコールを加えることで、該混合物に含まれる二量体の少なくとも1部が減少した、もしくは該混合物に含まれる二量体を実質的に含まない、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を得る工程である。
本工程では、反応容器に導入した上記混合物に対し、遮光条件下で反応容器内の酸素濃度を5000ppm以下となるように調整するが、用いる反応容器、酸素を導入する際の条件は、前記第2工程で記載した条件と同様の条件で実施できる為、本工程では酸素の導入条件についての繰り返しの記載を省略する。
また、本工程は、第2工程で得られた混合物に対し、一般式[2]で表されるアルコールを加える際、該混合物のpHが3.5~10.0の範囲で行うことが好ましい。ここで該混合物に酸等を加え、pHが3.5~10.0の範囲から外れるように調整した場合、該混合物に含まれる二量体の一部は減少するものの、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの量が低下することがある(後述の比較例4~8)。従って、本工程は、第2工程と同様、pHを3.5~10.0の範囲でもって、混合物に対しアルコールを反応させることは好ましい態様である(なお、本工程は、第2工程で得られた、pHが3.5~10.0の混合物をそのまま利用する為、酸を積極的に加える必要は必ずしもない)。
本工程で使用するアルコールは一般式[2]で表される(なお、第1工程で必要に応じて用いたアルコールと必ずしも同じものでなくても良い)。中でも、メタノールとエタノールは、無水試薬を大量規模で容易に入手でき、かつ、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタールの安定性向上の効果も大きいため、より好ましい。
なお、本工程はアルコールを用いるが、反応系内に本発明に記載の反応に実質的に影響を与えない程度に水やその他の有機溶剤を加えた実施態様であっても、それは本発明の範囲に含まれるものとして扱う。
本工程におけるアルコールの添加は、仕込み時に一括で加えても良く、一方、反応の進行を見計らいながら逐次加えても良く、特に制限はない。例えば、二量体に対し、アルコールを少なくとも二量体のモル数に対して1.0当量以上、好ましくは1.5当量以上加えることで、二量体がα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールに徐々に分解され、結果として、該ヘミアセタールへの選択率が向上する。なお、アルコールを二量体に対して5当量以上添加することは、必要以上の試薬を用いることとなり、経済的でない。
本工程の反応温度は特に限定されないが、5℃~35℃の室温下で行うことは、負荷がかからず、好ましい。
本工程の反応時間は特に限定されないが、ガスクロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)等の分析機器を用いて、出発原料である二量体の減少が殆ど確認できなくなった時点を反応の終点とすることが好ましい。
第2工程と第3工程は、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。反応器または保存容器は、有機溶媒、またα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールに対する耐食性を有する材質で作られ、かつ、常圧又は加圧下で十分反応を行うことができるものであれば良く、ステンレス鋼、モネルTM、ハステロイTM、ニッケルなどの金属製容器や、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ポリプロピレン樹脂、そしてポリエチレン等、化学工業において一般的な材質を用いることが可能である。
以上、第1工程~第3工程の条件を採用することにより、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタール中の二量体の含有量が、後述の実施例で示すように、例えば10質量%未満まで低減できる。さらに、ジフルオロ酢酸の生成についても、例えば200ppm未満(後述の実施例では未検出)であり、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの効率的な製造方法として有用な方法である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ここで、生成物の定量(組成比や収率)については、反応混合液を核磁気共鳴分析装置(NMR)によって測定して得られた組成の「モル%」を基に算出した。pHは溶液と超純水を1:1の重量比で混合したものをpHメーターで測定した値である。
[実施例1]
第1工程:
ステンレス鋼製耐圧反応容器にα,α-ジフルオロ酢酸エチル109g(0.88モル)、下記式で表されるルテニウム触媒0.107g(0.18ミリモル)、ナトリウムメトキシド28%メタノール溶液42g(ナトリウムメトキシドとして0.22モル)、メタノール290mLを加え、反応器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、15℃で8時間攪拌し反応した。
Figure 0007032666000014
反応終了後に19F-NMR分析より、α,α-ジフルオロ酢酸エチルの変換率65%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの選択率は91%であった。19F-NMRは内部標準物質(α,α,α-トリフルオロトルエン)で定量した。
第2工程:
反応終了液に酢酸13.2g(0.22モル)を加えたところ、pHは8となったため、添加を終了した。反応液に対して窒素ガスでバブリング操作を行った。バブリング操作により、容器内の酸素濃度が3000ppmとなったことを確認した。この液体を遮光条件下で直接、蒸留(ボトム温度;室温(25℃)~66℃、減圧度;常圧(0.1MPa)~2.0kPa)に付すことにより、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール、ジフルオロエタノール、及びメタノールを含む溶液を得た(α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールとしての収率は90%であった)。
次に、得られた該溶液に対し、再び窒素ガスでバブリング操作を行い、気相部の酸素濃度が2000ppmであることを確認した後、この液体を遮光条件下、精密蒸留(理論段数35段、留出温度;室温(25℃)~92℃、減圧度;常圧(0.1MPa)~35kPa)することによりジフルオロエタノール、及び大部分のメタノールを分離した。
精密蒸留後、得られた留分には、エタノール、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール、及び下記式で示される該ヘミアセタール由来の「二量体」が含まれ、それぞれの組成比はエタノールが6.3wt%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールが72.1wt%、二量体が21.6wt%であった。
Figure 0007032666000015
組成比を考慮した第1工程と第2工程を通してのジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの収率は51%であり、液のpHは4.5であった。
第3工程:
100mlの遮光したガラス製容器内に攪拌子を入れ、第2工程で得られた精密蒸留後の溶液50gを窒素雰囲気下で充填した後、該溶液に対し、第2工程と同様、窒素ガスでバブリング操作を行った。容器内の酸素濃度が3000ppmとなったところで、エタノールを二量体に対して1.8当量添加して25℃の室温下で1時間攪拌した。
1時間経過後、溶液を19F-NMRによって測定した。溶液の組成はエタノール7.5wt%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールが84.2wt%、二量体が8.3wt%であり、ジフルオロ酢酸は19F-NMRで検出されなかった。
[比較例1]
第1工程:
ステンレス鋼製耐圧反応容器にα,α-ジフルオロ酢酸エチル109g(0.88モル)、下記式で表されるルテニウム触媒0.107g(0.18ミリモル)、ナトリウムメトキシド28%メタノール溶液42g(ナトリウムメトキシドとして0.22モル)、メタノール290mLを加え、反応器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、15℃で8時間攪拌し反応した。
Figure 0007032666000016
8時間後、反応液を19F-NMRで分析したところ、α、α-ジフルオロ酢酸エチルの変換率は64%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの選択率は90%であった。19F-NMRは内部標準物質(α、α、α-トリフルオロトルエン)で定量した。
第2工程:
反応終了液に酢酸7.5g(0.13モル)を加えたところ、pHは12となったため、添加を終了した。中和した液に対して窒素ガスでバブリング操作を行い、容器内の酸素濃度が3000ppmとなったことを確認した。この液体を直接、遮光条件下で蒸留(ボトム温度;室温(25℃)~66℃、減圧度;常圧(0.1MPa)~2.1kPa)に付すことにより、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール、ジフルオロエタノール及びメタノールを含む溶液を得た(α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールとしての収率は5%、原料のジフルオロ酢酸エチルとしての収率は40%、ジフルオロエタノールとしての収率は38%であった)。
このように、比較例1では、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの収率が実施例1と比較しても大幅に低下している。これは、第2工程におけるpHが高すぎた為、副反応(カニッツァロ反応)が進行したことに起因している。このことにより、第2工程の精製操作に供する反応液は中性から弱塩基性を維持するのが必要であると言える。
[比較例2]
第1工程:
ステンレス鋼製耐圧反応容器にα,α-ジフルオロ酢酸エチル109g(0.88モル)、下記式で表されるルテニウム触媒0.107g(0.18ミリモル)、ナトリウムメトキシド28%メタノール溶液42g(ナトリウムメトキシドとして0.22モル)、メタノール290mLを加え、反応器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、15℃で8時間攪拌し反応した。
Figure 0007032666000017
8時間後、反応液を19F-NMRで分析したところ、α、α-ジフルオロ酢酸エチルの変換率は64%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの選択率は90%であった。19F-NMRは内部標準物質(α、α、α-トリフルオロトルエン)で定量した。
第2工程:
反応終了液に酢酸13.2g(0.22モル)を加えたところ、pHは8となったため、添加を終了した。中和した液に対して窒素ガスでバブリング操作を行い、容器内の酸素濃度が3000ppmとなったことを確認した。この液体を蛍光灯照射条件下で直接、蒸留(ボトム温度;室温(25℃)~67℃、減圧度;常圧(0.1MPa)~1.9kPa)に付すことにより、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールを含むメタノール溶液をジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの収率90%で得た。
次に、得られた該溶液に対し、再び窒素ガスでバブリング操作を行い、気相部の酸素濃度が2000ppmであることを確認した後、この液体を蛍光灯照射条件下で精密蒸留(理論段数35段、留出温度;室温(25℃)~92℃、減圧度;常圧(0.1MPa)~36kPa)することにより大部分のメタノールを分離した。
留分には、エタノール、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール、及び下記式で示される該ヘミアセタール由来の「二量体」が含まれており、それぞれの組成比はエタノール6.6wt%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタールが71.9wt%、二量体が21.5wt%であった。
Figure 0007032666000018
純度を考慮した第1工程と第2工程を通してのジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの収率は51%であり、液のpHは2.7であった。
第3工程:
100mlの遮光したガラス製容器内に、攪拌子を入れ、第2工程で得られた溶液50gを窒素雰囲気下で充填した後、混合液に対し、第2工程と同様、窒素ガスでバブリング操作を行った。容器内の酸素濃度が3000ppmとなったところで、エタノールを二量体に対して1.8当量添加して25℃の室温下で24時間攪拌した。
24時間経過後、溶液を19F-NMRによって測定した。溶液の組成はエタノール6.4wt%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールが73.0wt%、二量体が20.6wt%であり、ジフルオロ酢酸エチルが710ppm含有されていた。
このように、第2工程において非遮光条件で実施したことでpHが低くなり、第3工程での二量体の分解が抑制され、同時に副生成物であるジフルオロ酢酸が精留後のα,α-ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタール中に残存した。
[比較例3]
第1工程:
ステンレス鋼製耐圧反応容器にα,α-ジフルオロ酢酸エチル109g(0.88モル)、下記式で表されるルテニウム触媒0.107g(0.18ミリモル)、ナトリウムメトキシド28%メタノール溶液42g(ナトリウムメトキシドとして0.22モル)、メタノール290mLを加え、反応器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、15℃で8時間攪拌し反応した。
Figure 0007032666000019
8時間後、反応液を19F-NMRで分析したところ、α、α-ジフルオロ酢酸エチルの変換率は66%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの選択率は90%であった。19F-NMRは内部標準物質(α、α、α-トリフルオロトルエン)で定量した。
第2工程:
反応終了液に酢酸13.2g(0.22モル)を加えたところ、pHは8となった。中和した液に対して窒素ガスでバブリング操作を行い、容器内の酸素濃度が7000ppmとなったことを確認した。この液体を直接、遮光条件下で蒸留(ボトム温度;室温(25℃)~66℃、減圧度;常圧(0.1MPa)~2.1kPa)に付すことにより、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールを含むメタノール溶液を得た。この溶液を遮光条件下で精密蒸留(理論段数35段、留出温度;室温(25℃)~92℃、減圧度;常圧(0.1MPa)~35kPa)することにより大部分のメタノールを分離した。
留分には、エタノール、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール、及び下記式で示される該ヘミアセタール由来の「二量体」が含まれ、それぞれの組成比はエタノール6.3wt%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールが72.1wt%、二量体が21.6wt%であった。
Figure 0007032666000020
純度を考慮したジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの収率は51%であり、液のpHは3.2であった。
第3工程:
100mlの遮光したガラス製容器内に攪拌子を入れ、第2工程で得られた精密蒸留後の溶液50gを窒素雰囲気下で充填した後、混合液に対し、第2工程と同様、窒素ガスでバブリング操作を行った。容器内の酸素濃度が2000ppmとなったところで、エタノールを二量体に対して1.8当量添加して25℃の室温下で24時間攪拌した。24時間経過後、溶液を19F-NMRによって測定した。溶液の組成はエタノール7.8wt%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールが76.9wt%、前記二量体が15.3wt%であり、ジフルオロ酢酸エチルが530ppm含有されていた。
このように、第2工程において気相の酸素濃度を5000ppmを越える条件で実施したためにpHが低くなり、続く第3工程での二量体の分解が抑制される結果となった。また、精留後のα,α-ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタール中に副生成物であるジフルオロ酢酸も残存した。
[実施例2―5、比較例4-8]
第1工程:
ステンレス鋼製耐圧反応容器にα,α-ジフルオロ酢酸エチル218g(1.76モル)、下記式で表されるルテニウム触媒0.214g(0.36ミリモル)、ナトリウムメトキシド28%メタノール溶液84g(ナトリウムメトキシドとして0.44モル)、メタノール580mLを加え、反応器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、15℃で8時間攪拌し反応した。
Figure 0007032666000021
8時間後、反応液を19F-NMRで分析したところ、α、α-ジフルオロ酢酸エチルの変換率は64%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの選択率は91%であった。19F-NMRは内部標準物質(α、α、α-トリフルオロトルエン)で定量した。
第2工程:
反応終了液に酢酸26.4g(0.44モル)を加えたところ、pHは8となったので、中性から弱塩基性になったと判断し、添加を終了した。中和した液に対して窒素ガスでバブリング操作を行い、容器内の酸素濃度が3000ppmとなったことを確認した。この液体を遮光条件下で直接、蒸留(ボトム温度;室温(25℃)~67℃、減圧度;常圧(0.1MPa)~2.0kPa)に付すことにより、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール、ジフルオロエタノール、及びメタノールを含む溶液を得た(α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールとしての収率は90%であった)。
次に、得られた該溶液に対し、再び窒素ガスでバブリング操作を行い、気相部の酸素濃度が2000ppmであることを確認した後、この液体を遮光条件下で精密蒸留(理論段数35段、留出温度;室温(25℃)~91℃、減圧度;常圧(0.1MPa)~38kPa)することによりジフルオロエタノール、及び大部分のメタノールを分離した。
留分には、エタノール、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタール、及び下記式で表される二量体が含まれており、それぞれの組成比はエタノールが4.5wt%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールが78.4wt%、二量体が15.3wt%であった。
Figure 0007032666000022
組成比を考慮した第1工程と第2工程を通してのジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの収率は51%であり、液のpHは5.0であった。
第3工程:
30mlの遮光したガラス製容器内に、攪拌子を入れ、第2工程で得られた精密蒸留後の溶液20g(液組成はエタノールが4.5wt%、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールが78.4wt%、二量体が15.3wt%)を窒素雰囲気下で充填した。続いて、各種酸を添加し、液のpHを調整した(このpHの調整は、実施例3-5及び比較例4-8に対して行った)。その後、混合物に対し窒素ガスでバブリング操作を行った。バブリング操作により、容器内の酸素濃度が4000ppmとなったところで、エタノールを二量体に対して所定量添加して所定の温度で24時間攪拌し、第2工程終了時の溶液のpHが第3工程の二量体の変換率に与える影響を確認した。72時間経過後、内容液を19F-NMRによって測定した。以下を表1に示す。
Figure 0007032666000023
表1から、実施例2~5では、72時間後の組成において、二量体の含量が10質量%未満となっており、pH3.5以上であれば、酸の種類に依らず二量体がα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールに効率的に変換されていることがわかる。なお、実施例2~5において、ジフルオロ酢酸は検出されなかった。
それに対して、比較例4~8では、酸の添加前と比べ、二量体は減少しているものの、72時間後の組成において二量体が10質量%以上残存していることが判った。本発明の第3工程における液のpHの調整は、二量体をα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールに変換する上で、特に好ましい態様の一つと言える。
[比較例9-11]
第1工程~第2工程については、実施例1と同様の条件で行い、精密蒸留後の留分(後述)を得た。その留分を用い、以下の第3工程を行った。
第3工程:
100mlのガラス製容器内に、攪拌子を入れた後にα,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの組成比72.1wt%、エタノール6.3wt%とα,α-ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの二量体が21.6wt%の、pH4.0である混合液50gを窒素雰囲気下で充填した。エタノールを二量体に対して1.8当量添加して、混合物に対し窒素ガスでバブリング操作を行った。バブリング操作により、容器内の酸素濃度が10000ppmとなったところで、窒素の混合ガスを、容器内の酸素濃度が以下の表2に示す値となるように充填した後、密封し、25℃で24時間攪拌した。
24時間経過後、内容液を19F-NMRによって測定した。以下を表2に示す。なお、実施例6について、ジフルオロ酢酸は19F-NMRで検出されなかった。なお、表2中、「N.D.」は未検出であることを示す。
Figure 0007032666000024
表2より、実施例6では、72時間後の組成において、二量体の含有量が10質量%未満となり、二量体がα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールに効率的に変換され、かつ、ジフルオロ酢酸は19F-NMRで検出されなかった。
一方、比較例9-11では、酸の添加前と比べ、二量体は減少しているものの、72時間後の組成において、二量体が10質量%以上残存し、ジフルオロ酢酸が300ppm以上含有されていることがわかる。
以上の実験結果より、本発明の酸素濃度と遮光条件の規定方法は二量体をα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールに変換する製造方法として有効であることがわかる。
本発明で対象とするα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールは、先端材料分野の材料もしくは医農薬用の中間体として利用できる。

Claims (12)

  1. 次の工程を含む、一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの製造方法。
    Figure 0007032666000025
    [式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。]
    第1工程:
    一般式[5]で表されるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類を、一般式[2]で表されるアルコールを溶媒とし、塩基及びルテニウム触媒の存在下、水素と反応させる、または、一般式[5]で表されるα,α-ジフルオロ酢酸エステル類を、ヒドリド還元剤と反応させる、ことにより、一般式[3]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を製造する工程。
    Figure 0007032666000026
    [式中、Rは一般式[3]におけるRと同じである]
    Figure 0007032666000027
    [式中、Rは一般式[3]におけるRと同じである]
    第2工程:
    第1工程で得られた前記混合物に対し、pHが3.5~10.0となるように中和処理を行い、その後、該混合物を反応容器に充填し、遮光条件下、該反応容器内の酸素濃度を5000ppm以下となるように調整し、続いて蒸留操作を行うことで、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールと、一般式[4]で表されるα,α-ジフルオロアセトアルデヒドの二量体を含む、pHが3.5~10.0の混合物を得る工程。
    Figure 0007032666000028
    [式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。]
    第3工程:
    第2工程で得られた前記混合物を反応容器に充填させ、遮光条件下、該反応容器内の気相部の酸素濃度を5000ppm以下となるよう調整した後、該混合物に対し、一般式[2]で表されるアルコールを加えることで、該混合物に含まれる二量体の少なくとも1部が減少した、もしくは該混合物に含まれる二量体を実質的に含まない、α,α-ジフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを含む混合物を得る工程。
  2. 第1工程において、ルテニウム触媒が式[6]または式[7]で表される触媒である、請求項1に記載の製造方法。
    Figure 0007032666000029
    [式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Arはそれぞれ独立に芳香環基または置換芳香環基を表し、Xはそれぞれ独立に形式電荷が-1または0の配位子(但し、3つのXの形式電荷の合計は-2)を表し、nはそれぞれ独立に1または2の整数を表す。]
    Figure 0007032666000030
    [式中、Phはフェニル基を表す。]
  3. 式[6]で表されるルテニウム触媒が、下記式で表される触媒である、請求項1または2に記載の製造方法。
    Figure 0007032666000031
    [式中、Phはフェニル基を表す。]
  4. 第1工程において、ルテニウム触媒が、ルテニウム化合物を担体に担持した触媒である、請求項1に記載の製造方法。
  5. 担体が、金属酸化物もしくは活性炭に担持した触媒である、請求項4に記載の製造方法。
  6. ルテニウム化合物が、ルテニウムのフッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物、及びオキシフッ化塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4または5に記載の製造方法。
  7. 第1工程において、ヒドリド還元剤が金属水素化物である、請求項1に記載の製造方法。
  8. 金属水素化物が、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムまたは水素化シアノホウ素ナトリウムである、請求項7に記載の製造方法。
  9. 第2工程において、混合物のpHの調整を、酸を加えることにより行う、請求項1乃至8の何れかに記載の製造方法。
  10. 酸が、酢酸、安息香酸またはパラ-トルエンスルホン酸である、請求項9に記載の製造方法。
  11. 第3工程において、アルコールがメタノール又はエタノールである、請求項1乃至10の何れかに記載の製造方法。
  12. 第2工程または第3工程において、酸素濃度の調整を、容器内に不活性ガスをバブリングさせることにより行う、請求項1乃至11の何れかに記載の製造方法。
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