JP2022181634A - オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに加工製品 - Google Patents

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Abstract

【課題】強度と延性とのバランスが良好であり、しかも耐食性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材を提供する。【解決手段】質量基準で、C:0.010~0.100%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.0300%以下、Ni:5.00~9.00%、Cr:18.0~22.0%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.100~0.200%を含み、残部がFe及び不純物からなり、下記式(1)で表されるMd30が-20.0~30.0℃であり、且つ下記式(2)で表されるδcalが10.0以下であるオーステナイト系ステンレス鋼材である。Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Mo ・・・(1)δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.2Cr-1.08Cu-28.8N ・・・(2)式(1)及び(2)中、各元素記号は、各元素の含有量を表す。【選択図】なし

Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに加工製品に関する。
強度と延性とのバランスが良好なステンレス鋼材として、特許文献1には、C:0.05~0.30質量%、Si:1.50質量%以下、Mn:2.5~7.0質量%、P:0.06質量%以下、S:0.005質量%以下、Ni:1.0質量%以上5.0質量%未満、Cr:15.0~19.0質量%、Mo:2.0質量%以下、Cu:1.0~3.5質量%及びN:0.05~0.30質量%を含有し、C+Nが0.20質量%以上であり、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Md30が10~30、SFEが15以上35未満、δcalが2.0以下であり、オーステナイト相及び加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有し、表面硬度が450HV以上であるステンレス鋼材が提案されている。
また、特許文献2には、C:0.05~0.30質量%、Si:1.50質量%以下、Mn:0.1~2.0質量%、P:0.06質量%以下、S:0.005質量%以下、Ni:5.0~7.0質量%、Cr:15.0~19.0質量%、Mo:0~2.0質量%、Cu:0~2.0質量%及びN:0.05~0.30質量%を含有し、C含有量とN含有量との合計が0.20質量%以上、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Md30が5~30、SFEが15以上25未満、δcalが1.0以下であり、オーステナイト相及び加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有するステンレス鋼材が提案されている。
しかしながら、これらのステンレス鋼材は、使用環境によっては耐食性が十分ではないため、SUS316のレベルの高い耐食性が求められている。なお、SUS316は、高価な元素(MoやNi)を多く含むため、製品価格が高く、強度も十分とはいえない。
一般的に、オーステナイト系ステンレス鋼材の強度及び延性を高める方法としては、オーステナイト相の一部を強度が高いマルテンサイト相に変態させる加工誘起変態(TRIP)効果を利用する方法が知られている。
しかしながら、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性を向上させるためにCrなどの元素を増量すると、TRIP効果が抑制されてしまうとともに、δフェライト相が生じるため延性が低下してしまう。したがって、強度と延性とのバランスを確保しつつ、耐食性を向上させる手法の開発が望まれていた。
特開2017-160492号公報 特開2018-003139号公報
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、強度と延性とのバランスが良好であり、しかも耐食性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに当該オーステナイト系ステンレス鋼材を用いた加工製品を提供することを目的とする。
本発明者らは、耐食性が良好なSUS316の組成をベースに様々な組成のオーステナイト系ステンレス鋼材を作製して分析を行った結果、各元素の量、Md30及びδcalを制御することにより、上記の問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。また、このような特性を有するオーステナイト系ステンレス鋼材が、各元素の量、Md30及びδcalが所定の範囲にある圧延鋼材を所定の条件で焼鈍した後、調質圧延を行うことで得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、質量基準で、C:0.010~0.100%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.0300%以下、Ni:5.00~9.00%、Cr:18.0~22.0%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.100~0.200%を含み、残部がFe及び不純物からなり、
下記式(1)で表されるMd30が-20.0~30.0℃であり、且つ下記式(2)で表されるδcalが10.0以下であるオーステナイト系ステンレス鋼材である。
Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Mo ・・・(1)
δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.2Cr-1.08Cu-28.8N ・・・(2)
式(1)及び(2)中、各元素記号は、各元素の含有量を表す。
また、本発明は、質量基準で、C:0.010~0.100%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.0300%以下、Ni:5.00~9.00%、Cr:18.0~22.0%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.100~0.200%を含み、残部がFe及び不純物からなり、下記式(1)で表されるMd30が-20.0~30.0℃であり、且つ下記式(2)で表されるδcalが10.0以下である圧延鋼板を950~1050℃の温度及び60秒以下の均熱時間で焼鈍する焼鈍工程と、
前記焼鈍工程で得られた焼鈍鋼板を調質圧延する調質圧延工程と
を含むオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法である。
Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Mo ・・・(1)
δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.2Cr-1.08Cu-28.8N ・・・(2)
式(1)及び(2)中、各元素記号は、各元素の含有量を表す。
さらに、本発明は、前記オーステナイト系ステンレス鋼材を含む加工製品である。
本発明によれば、強度と延性とのバランスが良好であり、しかも耐食性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに当該オーステナイト系ステンレス鋼材を用いた加工製品を提供することができる。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、C:0.010~0.100%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.0300%以下、Ni:5.00~9.00%、Cr:18.0~22.0%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.100~0.200%を含み、残部がFe及び不純物からなる。
ここで、本明細書において「ステンレス鋼材」とは、ステンレス鋼から形成された材料のことを意味し、その材形は特に限定されない。材形の例としては、板状(帯状を含む)、棒状、管状などが挙げられる。また、断面形状がT形、I形などの各種形鋼であってもよい。また、「不純物」とは、オーステナイト系ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
また、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、Mo:3.00%以下、B:0.0001~0.0100%から選択される1種以上を更に含むことができる。
また、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、Mg:0.0001~0.1000%、REM:0.0001~0.1000%、Ca:0.0001~0.1000%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Co:0.001~1.000%、Hf:0.001~1.000%、Ta:0.001~1.000%、Sn:0.001~0.100%、Ti:0.001~1.000%から選択される1種以上を更に含むことができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
<C:0.010~0.100%>
Cの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.060%に制御される。一方、Cの含有量は少なすぎると、精練コストの上昇につながる。そのため、Cの含有量の下限値は、0.010%、好ましくは0.015%、より好ましくは0.020%に制御される。
なお、本明細書において「耐食性」とは、海水や塩水などのNaClを含む腐食環境下における耐食性のことを意味する。
<Si:2.00%以下>
Siの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Siの含有量の上限値は、2.00%、好ましくは1.80%、より好ましくは1.50%に制御される。一方、Siの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
<Mn:3.00%以下>
Mnは、オーステナイト相(γ相)生成元素である。Mnの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Mnの含有量の上限値は、3.00%、好ましくは2.80%、より好ましくは2.50%に制御される。一方、Mnの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
<P:0.035%以下>
Pの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Pの含有量の上限値は、0.035%、好ましくは0.034%、より好ましくは0.033%に制御される。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.005%、更に好ましくは0.010%である。
<S:0.0300%以下>
Sの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の製造性が低下してしまう。そのため、Sの含有量の上限値は、0.0300%、好ましくは0.0250%、より好ましくは0.0200%に制御される。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0003%、更に好ましくは0.0005%である。
<Ni:5.00~9.00%>
Niは、Mnと同様にオーステナイト相(γ相)生成元素である。Niは高価であるため、含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Niの含有量の上限値は、9.00%、好ましくは8.50%、より好ましくは8.00%に制御される。一方、Niの含有量は少なすぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性や加工性が低下する。そのため、Niの含有量の下限値は、5.00%、好ましくは5.50%、より好ましくは6.00%に制御される。
<Cr:18.0~22.0%>
Crは、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性に有効な元素である。Crの含有量を増加させることにより、高価な元素であるMoやNiの量を相対的に低減することができる。ただし、Crの含有量は多すぎると、金属間化合物(σ相)の生成が促進されるため、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Crの含有量の上限値は、22.0%、好ましくは21.8%、より好ましくは21.5%に制御される。一方、Crの含有量は少なすぎると、耐食性が十分に得られない。そのため、Crの含有量の下限値は、18.0%、好ましくは18.5%、より好ましくは19.0%に制御される。
<Cu:0.01~3.00%>
Cuの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Cuの含有量の上限値は、3.00%、好ましくは2.50%、より好ましくは2.00%に制御される。一方、Cuの含有量は少なすぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Cuの下限値は、0.01%、好ましくは0.10%、より好ましくは0.15%に制御される。
<Al:0.200%以下>
Alの含有量は多すぎると、介在物の生成量が増加して品質を低下させてしまう。そのため、Alの含有量の上限値は、0.200%、好ましくは0.180%、より好ましくは0.150%に制御される。一方、Alの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.001%、更に好ましくは0.005%である。
<N:0.100~0.200%>
Nは、耐食性の向上に有効な元素である。Nを含有させることにより、高価な元素であるMoやNiの量を相対的に低減することができる。このようなNによる効果を得る観点から、Nの含有量の下限値は、0.100%、好ましくは0.105%、より好ましくは0.110%に制御される。一方、Nの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nの含有量の上限値は、0.200%、好ましくは0.190%、より好ましくは0.180%に制御される。
<Mo:3.00%以下>
Moは、耐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。ただし、Moは高価であるため、Moの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Moの含有量の上限値は、3.00%、好ましくは2.00%、より好ましくは1.50%に制御される。一方、Moの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.01%、更に好ましくは0.05%である。
<B:0.0001~0.0100%>
Bは、製造性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Bによる効果を得る観点から、Bの含有量の下限値は、0.0001%、好ましくは0.0010%に制御される。一方、Bの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Bの含有量の上限値は、0.0100%、好ましくは0.0060%、より好ましくは0.0040%に制御される。
<Mg:0.0001~0.1000%>
Mgは、熱間加工性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Mgによる効果を得る観点から、Mgの含有量の下限値は、0.0001%、好ましくは0.0005%、より好ましくは0.0010%に制御される。また、Mgの含有量は多すぎると、介在物の生成量が増加して品質を低下させてしまう。そのため、Mgの含有量の上限値は、0.1000%、好ましくは0.0500%、より好ましくは0.0100%に制御される。
<REM:0.0001~0.1000%>
REM(希土類元素)は、熱間加工性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。REMによる効果を得る観点から、REMの含有量の下限値は、0.0001%、好ましくは0.0005%、より好ましくは0.0010%に制御される。また、REMは高価であるため、REMの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、REMの含有量の上限値は、0.1000%、好ましくは0.0500%、より好ましくは0.0100%に制御される。
なお、REMは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。これらは単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
<Ca:0.0001~0.1000%>
Caは、熱間加工性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Caによる効果を得る観点から、Caの含有量の下限値は、0.0001%、好ましくは0.0005%、より好ましくは0.0010%に制御される。また、Caの含有量は多すぎると、介在物の生成量が増加して品質を低下させてしまう。そのため、Caの含有量の上限値は、0.1000%、好ましくは0.0500%、より好ましくは0.0100%に制御される。
<Nb:0.001~1.000%>
Nbは、オーステナイト系ステンレス鋼材中のCを固定して耐粒界腐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Nbによる効果を得る観点から、Nbの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Nbの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nbの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.900%、より好ましくは0.800%に制御される。
<V:0.001~1.000%>
Vは、オーステナイト系ステンレス鋼材中のCを固定して耐粒界腐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Vによる効果を得る観点から、Vの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Vの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Vの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
<Zr:0.001~1.000%>
Zrは、オーステナイト系ステンレス鋼材中のCを固定して耐粒界腐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Zrによる効果を得る観点から、Zrの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Zrの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Zrの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
<W:0.001~1.000%>
Wは、高温強度及び耐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Wによる効果を得る観点から、Wの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Wの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下するとともに、製造コストが上昇してしまう。そのため、Wの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
<Co:0.001~1.000%>
Coは、耐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Coによる効果を得る観点から、Coの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Coの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下するとともに、製造コストが上昇してしまう。そのため、Coの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
<Hf:0.001~1.000%>
Hfは、オーステナイト系ステンレス鋼材中のCを固定して耐粒界腐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Hfによる効果を得る観点から、Hfの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Hfの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Hfの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
<Ta:0.001~1.000%>
Taは、オーステナイト系ステンレス鋼材中のCを固定して耐粒界腐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Taによる効果を得る観点から、Taの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Taの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Taの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
<Sn:0.001~0.100%>
Snは、耐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Snによる効果を得る観点から、Snの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Snの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の製造性が低下してしまう。そのため、Snの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.050%、より好ましくは0.030%に制御される。
<Ti:0.001~1.000%>
Tiは、オーステナイト系ステンレス鋼材中のCを固定して耐粒界腐食性を向上させるために必要に応じて添加される元素である。Tiによる効果を得る観点から、Tiの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Tiの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Tiの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、下記式(1)で表されるMd30が-20.0~30.0℃、好ましくは-19.8~20.0、より好ましくは-19.6~10.0である。
Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Mo ・・・(1)
式(1)中、各元素記号は、各元素の含有量を表す。なお、所定の元素が含まれない場合は、当該元素の値を0とする。
Md30は、オーステナイト相の安定化を表す指標である。Md30の値が大きいほど、オーステナイト相から加工誘起マルテンサイト相への変態が起こり易くなる。Md30を-20℃以上に制御することにより、加工時に加工誘起マルテンサイト相を適度に生成させ、強度及び延性の両方を高めることができる。また、Md30を30℃以下に制御することにより、加工時に加工誘起マルテンサイト相が過度に生成し難くなるため、亀裂の発生や延性の低下を抑制することができる。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、下記式(2)で表されるδcalが10.0以下、好ましくは9.8以下である。
δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.2Cr-1.08Cu-28.8N ・・・(2)
式(2)中、各元素記号は、各元素の含有量を表す。なお、所定の元素が含まれない場合は、当該元素の値を0とする。
δcalは、δフェライト相の量を表す指標である。δcalを10.0以下に制御することにより、δフェライト相の量を低減できるため、延性の低下を抑制することができる。なお、δcalの下限値は、特に限定されないが、例えば0.0である。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、平均結晶粒径が20.0μm以下であることが好ましく、15.0μm以下であることがより好ましく、10.0μm以下であることが更に好ましい。このような範囲に平均結晶粒径を制御することにより、強度と延性とのバランスを確保しつつ、耐食性を安定して向上させることができる。平均結晶粒径が20.0μmを超えると、耐食性や強度が低下し易くなる。なお、平均結晶粒径の下限値は、特に限定されないが、好ましくは1.0μm、より好ましくは3.0μmである。
ここで、平均結晶粒径は、圧延方向に垂直な厚み方向断面(C断面)を光学顕微鏡で観察することによって求めることができる。具体的には、後述する方法で求めることができる。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、孔食電位が0.70V以上であることが好ましい。このような範囲の孔食電位であれば、SUS316よりも高いレベルの耐食性を有するということができる。なお、孔食電位の上限値は、特に限定されないが、例えば2.00V、好ましくは1.50Vである。
ここで、孔食電位は、後述する方法によって測定することができる。また、電位はAg/AgCl基準とする。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、δフェライト相の含有量が5.5%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましい。このような範囲にδフェライト相を制御することにより、延性の低下を抑制することができる。なお、δフェライト相は、少ないほどよいため、その下限値は0である。
δフェライト相の量は、後述する方法で測定することができる。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、0.2%耐力が900MPa以上であることが好ましく、950MPa以上であることがより好ましい。このような範囲の0.2%耐力であれば、強度が高いということができる。なお、0.2%耐力の上限値は、特に限定されないが、例えば2000MPaである。
ここで、0.2%耐力は、JIS Z2241:2011に準拠して測定することができる。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、全伸びが6.0%以上であることが好ましく、8.0%以上であることがより好ましい。このような範囲の全伸びであれば、延性が高いということができる。なお、全伸びの上限値は、特に限定されないが、例えば20%である。
ここで、全伸びは、JIS Z2241:2011に準拠して測定することができる。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、0.2%耐力(MPa)と全伸び(%)との積が10000以上であることが好ましく、10500以上であることがより好ましく、11000以上であることが更に好ましい。このような範囲の0.2%耐力(MPa)と全伸び(%)との積であれば、強度と延性とのバランスに優れるということができる。なお、0.2%耐力(MPa)と全伸び(%)との積の上限値は、特に限定されないが、例えば20000である。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、オーステナイト相のみを含むステンレス鋼材であってよいが、オーステナイト相と当該オーステナイト相の一部が加工誘起変態(TRIP)現象により変態したマルテンサイト相とを含むステンレス鋼材であってよい。また、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、オーステナイト相及びマルテンサイト相以外の相を含んでもよく、例えばδフェライト相を含んでいてもよい。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、上記のような特徴を有していれば、その種類は特に限定されない。例えば、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、熱延鋼材又は冷延鋼材のいずれであってもよいが、冷延鋼材であることが好ましい。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、組成、Md30及びδcalが上記の範囲を満たす圧延鋼板を950~1050℃の温度及び60秒以下の均熱時間で焼鈍する焼鈍工程と、焼鈍工程で得られた焼鈍鋼板を調質圧延する調質圧延工程とを含む方法によって製造することができる。このような方法を用いることにより、オーステナイト系ステンレス鋼材の強度と延性とのバランスを確保しつつ、耐食性を向上させることができる。特に、上記の焼鈍条件に制御することにより、平均結晶粒径を20.0μm以下に制御し易くなるため、オーステナイト系ステンレス鋼材の延性を確保しつつ、耐食性や強度が向上する。
調質圧延の圧下率は、特に限定されないが、好ましくは5~70%である。このような圧下率に制御することにより、オーステナイト系ステンレス鋼材の強度と延性とのバランス、及び耐食性を安定して向上させることができる。
焼鈍工程に用いられる圧延鋼材の製造方法としては、特に限定されず、上記の組成、Md30、及びδcalを満たすステンレス鋼を溶製すること以外は、当該技術分野において公知の方法を用いることによって製造することができる。具体的には、圧延鋼材が冷延鋼材である場合、次のようにして製造することができる。まず、上記の組成を有するステンレス鋼を溶製して鍛造又は鋳造した後、熱間圧延を行って熱延鋼材を得る。次に、熱延鋼材に対して焼鈍、酸洗、冷間圧延を適宜行って冷延鋼材を得る。なお、各工程における条件については、ステンレス鋼の組成に応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、強度と延性とのバランスが良好であり、しかも耐食性に優れるため、これらの特性が要求される様々な用途で用いることができる。例えば、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、車両用エンジンに用いられるガスケットや、ばね部品などの素材として用いることができる。
本発明の実施形態に係る加工製品は、上記のオーステナイト系ステンレス鋼材を含む。
オーステナイト系ステンレス鋼材は、一部又は全体が加工されていてもよい。加工方法としては、特に限定されないが、プレス加工、圧延加工、鍛造、押出加工、引き抜き加工などの各種方法が挙げられる。
加工製品としては、特に限定されないが、ガスケット、ばね部品などが挙げられる。
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
(実施例1~10及び比較例1~4)
表1に示す組成を有するステンレス鋼30kgを真空溶解で溶製し、厚さ30mmの板に鍛造した後、1230℃で2時間加熱し、厚さ4.0mmに熱間圧延して熱延鋼板を得た。次に、熱延鋼板を焼鈍して酸洗して熱延焼鈍鋼板を得た後、熱延焼鈍鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得た。次に、冷延鋼板を表2に示す条件で焼鈍した後、圧下率40%で調質圧延して厚さ0.2mmのオーステナイト系ステンレス鋼板を得た。
Figure 2022181634000001
上記で得られたオーステナイト系ステンレス鋼板に対して以下の評価を行った。
<平均結晶粒径>
調質圧延前の冷延焼鈍板の幅方向中央部から15mm×20mmの試験片を切り出して700℃で30分の鋭敏化熱処理を行い、圧延方向と垂直な厚み方向断面(C断面)を鏡面研磨してシュウ酸による電解エッチングを施した後、当該エッチング面について光学顕微鏡観察を行った。光学顕微鏡観察では、エッチング面内の約240μm×320μmを5視野観察し、切片法を用いて結晶粒の個数を算出し、平均結晶粒径を求めた。各視野では、長さ320μmの直線を引き、この直線が横切った結晶粒の個数を求め、「直線の長さ(320μm)/結晶粒の個数」をその視野における結晶粒径とし、5視野の平均を平均結晶粒径とした。また、直線の端の結晶粒は1/2個と数えた。なお、調質圧延後の冷延焼鈍板では、調質圧延によって結晶粒が圧延方向に延びたような形状となるため、圧延方向と平行な厚み方向断面(L断面)で結晶粒径を測定すると大きくなるが、C断面では調質圧延の前後で結晶粒径の変化はほとんどない。
<δフェライト相の含有量>
オーステナイト系ステンレス鋼板について、フェライトスコープ(Fischer社製FERITESCOPE(登録商標)FMP30)を用いてδフェライト相の含有量を測定した。測定は、任意の3箇所で行い、その平均値を結果とした。
<耐食性:孔食電位>
耐食性は、JIS G0577:2014に準拠して孔食電位を測定することによって評価した。具体的には、次のようにして孔食電位を測定した。オーステナイト系ステンレス鋼板から15mm×20mmの試験片を切り出した後、#600の湿式研磨を行った。次に、この試験片の電極面(露出部分)が10mm×10mmとなるように、電極面以外の部分をシリコーン樹脂で絶縁被覆して孔食電位測定用試験片を得た。次に、Ar脱気を十分に行った30℃の3.5%NaCl溶液中に孔食電位測定用試験片を浸漬し、自然電位から20mV/分で動電位アノード分極を行い、孔食電位を測定した。孔食電位は、電流が100μA/cm2流れたときの電位とした。この評価において、孔食電位が0.70V vs.Ag/AgCl(以下、電位はすべてAg/AgCl基準とする)以上であったものを合格とみなすことができる。
<引張試験:0.2%耐力及び全伸び>
オーステナイト系ステンレス鋼板からJIS13号B試験片を切り出し、JIS Z2241:2011に準拠して0.2%耐力及び全伸びを測定した。
上記の各評価結果を表2に示す。
Figure 2022181634000002
表2に示されるように、実施例1~10のオーステナイト系ステンレス鋼板は、組成、Md30及びδcalが所定の条件を満たしているため、耐食性、強度及び延性の全てが良好であった。
これに対して比較例1のオーステナイト系ステンレス鋼板は、Md30が低すぎたため、強度と延性とのバランスが十分でなかった。
比較例2のオーステナイト系ステンレス鋼板は、Crの含有量が少なすぎたため、耐食性が十分でなかった。
比較例3のオーステナイト系ステンレス鋼板は、Ni、Cr及びNの含有量に加えてMd30が所定の範囲になかったため、耐食性や強度が十分でなかった。
比較例4のオーステナイト系ステンレス鋼板は、δcalが高すぎたため、強度と延性とのバランスが十分でなかった。
以上の結果からわかるように、本発明によれば、強度と延性とのバランスが良好であり、しかも耐食性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに当該オーステナイト系ステンレス鋼材を用いた加工製品を提供することができる。

Claims (12)

  1. 質量基準で、C:0.010~0.100%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.0300%以下、Ni:5.00~9.00%、Cr:18.0~22.0%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.100~0.200%を含み、残部がFe及び不純物からなり、
    下記式(1)で表されるMd30が-20.0~30.0℃であり、且つ下記式(2)で表されるδcalが10.0以下であるオーステナイト系ステンレス鋼材。
    Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Mo ・・・(1)
    δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.2Cr-1.08Cu-28.8N ・・・(2)
    式(1)及び(2)中、各元素記号は、各元素の含有量を表す。
  2. 質量基準で、Mo:3.00%以下、B:0.0001~0.0100%から選択される1種以上を更に含む、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  3. 質量基準で、Mg:0.0001~0.1000%、REM:0.0001~0.1000%、Ca:0.0001~0.1000%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Co:0.001~1.000%、Hf:0.001~1.000%、Ta:0.001~1.000%、Sn:0.001~0.100%、Ti:0.001~1.000%から選択される1種以上を更に含む、請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  4. 平均結晶粒径が20.0μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  5. 孔食電位が0.70V以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  6. 0.2%耐力(MPa)と全伸び(%)との積が10000以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  7. δフェライト相の含有量が5.5%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  8. 質量基準で、C:0.010~0.100%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.0300%以下、Ni:5.00~9.00%、Cr:18.0~22.0%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.100~0.200%を含み、残部がFe及び不純物からなり、下記式(1)で表されるMd30が-20.0~30.0℃であり、且つ下記式(2)で表されるδcalが10.0以下である圧延鋼板を950~1050℃の温度及び60秒以下の均熱時間で焼鈍する焼鈍工程と、
    前記焼鈍工程で得られた焼鈍鋼板を調質圧延する調質圧延工程と
    を含むオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
    Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Mo ・・・(1)
    δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.2Cr-1.08Cu-28.8N ・・・(2)
    式(1)及び(2)中、各元素記号は、各元素の含有量を表す。
  9. 前記調質圧延の圧下率が5~70%である、請求項8に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
  10. 前記圧延鋼板は、質量基準で、Mo:3.00%以下、B:0.0001~0.0100%から選択される1種以上を更に含む、請求項8又は9に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
  11. 前記圧延鋼板は、質量基準で、Mg:0.0001~0.1000%、REM:0.0001~0.1000%、Ca:0.0001~0.1000%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Co:0.001~1.000%、Hf:0.001~1.000%、Ta:0.001~1.000%、Sn:0.001~0.100%、Ti:0.001~1.000%から選択される1種以上を更に含む、請求項8~10のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
  12. 請求項1~7のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材を含む加工製品。
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