JP2022174140A - 焼結部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】静的強度が高く、疲労強度にも優れる焼結部材を提供する。【解決手段】鉄基合金からなる焼結部材であって、前記鉄基合金全体におけるNiの含有量が4質量%を超え6質量%以下であり、Cの含有量が0質量%を超え2.0質量%以下であり、Mo,Mn,Cr,B,及びSiから選択される1種以上の元素の含有量が合計で0質量%を超え5.0質量%以下であり、残部がFe及び不可避不純物である。3以上の任意の断面からそれぞれ一つの測定視野をとり、各測定視野内におけるNiの含有量が1質量%以上12質量%以下である。酸素の含有量が2000質量ppm以下である。相対密度が97%以上である。引張強さが1455MPa超である。【選択図】図1

Description

本開示は、焼結部材に関する。本出願は2017年7月26日出願の日本特許出願第2017-144801号に基づく優先権を主張し、前記日本特許出願に記載された全ての内容を援用するものである。
特許文献1は、Ni,Mo,Mn,Cを特定の範囲で含み、残部がFeからなる組成を有し、焼戻しマルテンサイトからなる組織にNiリッチマルテンサイト部を点在させた鉄系の焼結体を開示する。
特開平11-246951号公報
本開示の焼結部材は、
鉄基合金からなる焼結部材であって、
鉄基合金全体における、Niの含有量が0.2質量%を超え10質量%以下であり、Cの含有量が0質量%を超え2.0質量%以下であり、Mo,Mn,Cr,B,及びSiから選択される1種以上の元素が合計で0質量%を超え5.0質量%以下であり、残部がFe及び不可避不純物であり、
鉄基合金の局所的な領域におけるNiの含有量が0.2質量%を超え21質量%未満であり、
相対密度が97%以上である。
図1は、試験例1において、焼結部材の相対密度と引張強さとの関係を示すグラフである。 図2は、試験例2において、焼結部材のNi量と引張強さとの関係を示すグラフである。 図3は、試験例3において、焼結部材の酸素量と引張強さとの関係を示すグラフである。
[本開示が解決しようとする課題]
静的強度がより高く、疲労強度にも優れる焼結部材が望まれている。
特許文献1に記載される鉄系の焼結体では、引張強さが1400MPa程度に過ぎず、静的強度の更なる向上が望まれる。特に、溶製材の引張強さと同等程度以上の強度を有する焼結部材が好ましい。
引張強さだけでなく、繰り返しの曲げなどを受けても破断し難いこと、即ち疲労強度といった動的な強度にも優れることも望まれる。
そこで、静的強度が高く、疲労強度にも優れる焼結部材を提供することを目的の一つとする。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る焼結部材は、
鉄基合金からなる焼結部材であって、
鉄基合金全体における、Niの含有量が0.2質量%を超え10質量%以下であり、Cの含有量が0質量%を超え2.0質量%以下であり、Mo,Mn,Cr,B,及びSiから選択される1種以上の元素が合計で0質量%を超え5.0質量%以下であり、残部がFe及び不可避不純物であり、
鉄基合金の局所的な領域におけるNiの含有量が0.2質量%を超え21質量%未満であり、
相対密度が97%以上である。
本開示において、「鉄基合金の局所的な領域におけるNiの含有量が0.2質量%を超え21質量%未満」とは、以下を意味する。
焼結部材の断面をとり、この断面から所定の大きさの測定視野をとる。この測定視野内におけるNiの含有量をSEM-EDX装置によって測定する。測定視野におけるNiの最大含有量が21質量%未満であり、かつNiの最小含有量が0.2質量%を超える。測定方法については後に詳しく述べる。
上記の焼結部材は、相対密度が97%以上と高く緻密であるため、相対密度が97%未満である焼結部材と比較して、引張強さが高く、静的強度に優れる。かつ、上記の焼結部材は、Niの濃度分布が上述の特定の範囲を満たしており、上述のNiリッチマルテンサイト部が存在するというNiが不均一に分布する焼結部材と比較して、Niが均一的に分布しているといえる。このような上記の焼結部材は、引っ張った場合に割れ難いだけでなく、繰り返しの曲げを受けた場合でも破断し難く、疲労強度にも優れる。この理由の一つは、以下のように考えられる。
従来、焼結部材の引張強さを高めるには、相対密度をより高くして緻密にすることが好ましいと考えられている。気孔が割れや破断の起点になり易いからである。気孔の周囲に上述のNiリッチマルテンサイト部を備えていれば、Niによって気孔の周囲材料の機械的特性を局所的に高められて、気孔が割れや破断の起点となることを低減できると考えられる。しかし、本発明者らが検討した結果、相対密度が97%以上である緻密な焼結部材では、上記Niリッチマルテンサイト部を備えるといった、焼結部材全体に対してNiが不均一に存在する組成では、引張強さが低下するとの知見を得た。上述のNiが不均一な組成では、Niの含有量が局所的に多い箇所を含む反面、局所的に少ない箇所も含み、このNiの低濃度箇所が強度の低下を招くと考えられる。
一方、焼結後に焼入れ及び焼戻しを行うと、焼入れ焼戻しの双方を行わない場合や焼入れのみを行う場合に比較して、特に強度を高められ、高い引張強さと高い疲労強度とをバランスよく有し易い。上述のNiの低濃度箇所は、焼入れ性に劣るため、焼入れを行った場合にマルテンサイトに変態せず、強度に劣る残留オーステナイトとなり易く、割れや破断の起点になり得ると考えられる。
これに対し、相対密度が97%以上であり、かつNiの濃度分布が上述の特定の範囲を満たせば、Niの不均一な存在に起因する強度の低下を招き難く、静的強度や疲労強度に優れると考えられる。焼入れ焼戻しを行った場合には、Niが均一的に存在することで、実質的にその全体が(焼戻し)マルテンサイトに変態でき、残留オーステナイトが少なく、好ましくは実質的に存在せず、静的強度や疲労強度により一層優れると考えられる。
(2)上記の焼結部材の一形態として、
鉄基合金全体における、Niの含有量が2質量%を超え8質量%未満である形態が挙げられる。
上記形態は、Niの含有量が上記の特定の範囲を満たすことで、引張強さがより高く、静的強度により優れる上に、疲労強度にもより優れる。
(3)上記の焼結部材の一形態として、
酸素の含有量が3000質量ppm未満である形態が挙げられる。
本発明者らは、相対密度が97%以上である緻密な焼結部材について、引張試験を行って破断面を調べたところ、破断面に酸化物が存在し、この酸化物が破断の起点となり得るとの知見を得た。上記形態は、酸素の含有量が上述の特定の範囲を満たしており酸素が少ないため、割れや破断の起点となり得る酸化物を低減し易い。従って、上記形態は、引張強さがより高く、静的強度により優れる上に、疲労強度にもより優れる。
(4)上記の焼結部材の一形態として、
マルテンサイトからなる組織を有する形態が挙げられる。
上記形態は、代表的には焼結後に焼入れ焼戻しを施されてなるものである。このような上記形態は、焼入れ焼戻しが施されていない場合に比較して、引張強さがより高く、静的強度により優れる上に、疲労強度にもより優れる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施の形態を詳細に説明する。以下の説明において元素の含有量は、質量割合(質量%又は質量ppm)を示す。
[実施形態]
<焼結部材>
実施形態の焼結部材は、Feを主体とする鉄基合金からなる複数の金属粒子が結合されてなり、気孔が非常に少なく、緻密なものである。詳しくは、実施形態の焼結部材は、鉄基合金からなる焼結部材であって、鉄基合金全体における、Niの含有量が0.2質量%を超え10質量%以下であり、Cの含有量が0質量%を超え2.0質量%以下であり、Mo,Mn,Cr,B,及びSiから選択される1種以上の元素が合計で0質量%を超え5.0質量%以下であり、残部がFe及び不可避不純物であり、相対密度が97%以上である。
特に、実施形態の焼結部材ではNiが均一的に存在する。詳しくは、実施形態の焼結部材は、鉄基合金の局所的な領域におけるNiの含有量が0.2質量%を超え21質量%未満である。以下、より詳細に説明する。
《全体組成》
実施形態の焼結部材は、Feに加えて、強度向上効果を有するNi,C,及び上述のMo等の元素を含むため、強度に優れる。
鉄基合金全体においてNiを10%以下の範囲で含有することで焼入れ性にも優れ、焼入れ焼戻しを施した場合に残留オーステナイトを低減し、マルテンサイト組織を有し易い。そのため、焼結部材の機械的特性を向上し易い。Niの含有量が1%以上であると、引張強さをより高められ、2%以上であることがより好ましい。更なる高強度化を望む場合には、Niの含有量は2%を超え8%未満であることが好ましく、2.5%以上7.5%以下、更に3%以上7%以下、4%以上6%以下であると、より高強度な焼結部材とし易い。
Cを2.0%以下の範囲で含有することで強度に優れる。特に、Cの含有量が0.1%以上1.5%以下、更に0.2%以上1.0%以下、0.2%以上0.8%以下であると、より高強度な焼結部材とし易い。
Mo等の元素を合計で5.0%以下の範囲で含有することで強度に優れる。特に、これらの元素の含有量が合計で0.1%以上3.0%以下、更に0.2%以上2.0%以下であると、より高強度な焼結部材とし易い。また、特に、Mo及びMnの少なくとも一方、好ましくは双方を含むと、更に高強度な焼結部材とし易い。Moの含有量及びMnの含有量はそれぞれ、0.1%以上1.0%以下、更に0.15%以上0.8%以下が挙げられる。
焼結部材の全体組成の測定には、例えば、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)などを利用できる。
《局所的な領域におけるNiの濃度分布(含有量)》
実施形態の焼結部材では、鉄基合金の局所的な領域におけるNiの含有量(以降、単にNiの濃度分布と記載する場合がある)が0.2質量%を超え21質量%未満である。つまり、Niの含有量が0.2%以下である箇所(以下、低Ni領域と呼ぶ)、及び21%以上である箇所(以下、高Ni領域と呼ぶ)の双方が実質的に存在しない。低Ni領域では、Niの含有量が少な過ぎるため、特に焼入れ性に劣り、焼入れ焼戻しを施した場合に残留オーステナイトとなって存在し易い。高Ni領域は、Niの含有量が多過ぎるため、オーステナイトが安定化し易く、焼入れ焼戻しを施した場合にマルテンサイトに変態し難く、上述の低Ni領域と同様に残留オーステナイトとして存在し易い。即ち、低Ni領域及び高Ni領域を有する焼結部材では、焼入れ焼戻しを行っても、(残留)オーステナイトが局所的に存在して、引張強さや疲労強度に劣る。
Niの濃度分布の幅が小さいほど、即ちNiの含有量のうち、最大値と最小値との差が小さいほど、Niがより均一的に存在して、割れや破断の起点となり得る低Ni領域などを低減し易い。Niの濃度分布は、0.3%以上20%以下、更に0.4%以上18%以下、0.5%以上16%以下、1%以上12%以下が好ましい。Niの濃度分布の幅(上記の差)が実質的にゼロであることがより好ましい。この場合、焼結部材の全体組成におけるNiの含有量と、Niの濃度分布における上述の最大値及び最小値とが実質的に等しい。
《酸素量》
実施形態の焼結部材は、更に酸素の含有量が少ないと、割れや破断の起点となり得る酸化物を低減でき、引張強さや疲労強度により優れて好ましい。定量的には、酸素の含有量は3000ppm未満であることが好ましく、2500ppm以下、更に2000ppm以下がより好ましい。
《組織》
実施形態の焼結部材は、焼結されたままのものとすることができるが、焼結後、焼入れ焼戻しが施されたものであると、引張強さがより高く、疲労強度にも優れて好ましい。この場合、実施形態の焼結部材は、(焼戻し)マルテンサイトからなる組織を有する。特に、実施形態の焼結部材は、上述のようにNiを均一的に含むため、焼結部材全体がマルテンサイトに変態し易く、残留オーステナイトが局所的に存在することを低減できる。好ましくは、焼結部材全体が実質的にマルテンサイトからなり、残留オーステナイトが実質的に含有しない組織とすることができる。
《密度》
実施形態の焼結部材は、上述のようにNiを均一的に含有することに加えて、相対密度が97%以上と緻密であり、気孔が非常に少ないため、気孔に起因する割れや破断も生じ難く、高強度である。上記相対密度を97.5%以上、更に98%以上、98.5%以上とすることができる。
焼結部材の相対密度(%)は、例えば、(焼結部材の見かけ密度/焼結部材の真密度)×100によって求めることが挙げられる。焼結部材の見かけ密度は、例えば、アルキメデス法に準拠して求めることが挙げられる。詳細は後述する。
又は、焼結部材の相対密度(%)は、焼結部材の断面を市販の画像解析ソフトで画像解析することで求めることが挙げられる。詳しくは、焼結部材の断面において、複数の観察視野の画像を取得し、複数の視野を観察する(例えばn≧10)。断面は任意の断面とする。1断面につき1視野として、複数の断面をとってもよいし、1断面につき複数の視野をとってもよい。各視野のサイズは、500μm×600μmとする。各視野の画像を二値化処理して、各視野に占める金属部分の面積割合を求め、この面積割合を各視野の相対密度と見做す。そして、複数の視野の相対密度を平均し、この平均値を焼結部材の相対密度とする。
《機械的特性》
実施形態の焼結部材は、上述のように緻密な上に、Niを均一的に含むため、引張強さが高く、静的強度に優れる。定量的には、引張強さが1455MPa超、更に1460MPa以上、1500MPa以上、1550MPa以上、1580MPa以上、1600MPa以上であることが挙げられる。上述の相対密度がより高いこと(後述の試験例1)、Niの濃度分布の幅がより小さいこと(同)、Niの含有量が5%に近いこと(後述の試験例2)、及び酸素の含有量がより少ないこと(後述の試験例3)の少なくとも一つを満たすと、引張強さがより高い傾向にある。
《用途》
実施形態の焼結部材は、各種の一般構造用部品、例えばスプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどの機械部品などの焼結部品に好適に利用できる。
<焼結部材の製造方法>
実施形態の焼結部材は、例えば、原料粉末を準備する工程と、原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、圧粉成形体を焼結して焼結材を作製する工程とを経て製造することが挙げられる。更に、焼結材に焼入れ焼戻しを施して熱処理材を作製する工程を行うことが挙げられる。以下、各工程を詳細に説明する。
《原料準備工程》
この工程では、鉄系粒子を複数有する鉄系粉末を含む原料粉末を準備する。鉄系とは、純鉄、又は鉄を主成分とする鉄合金をいう。原料粉末は、(1)Niを粉末として含む混合粉、(2)Niを添加元素として含む鉄合金粉、(3)混合粉と鉄合金粉との両方を含む複合粉のいずれか一つを有することが挙げられる。原料粉末に鉄合金粉を含むと、鉄系粉末自体がNiを均一的に含むため、上述のNiの濃度分布が特定の範囲を満たす実施形態の焼結部材を製造し易く、工業的な量産に適すると考えられる。
(1)混合粉は、代表的には、純鉄粉と、Ni粉と、C粉と、Mo,Mn,Cr,B,及びSiから選択される1種以上の元素の粉末とを含むことが挙げられる。各粉末の配合割合は、所望の組成の焼結部材(但し、Ni,C,Mo等の元素の含有量は上述の範囲を満たす)が得られるように調整するとよい。この点は後述する(3)複合粉も同様である。
(2)鉄合金粉は、代表的には、Feを主成分とし、Niと上述のMo等の元素とを含有するFe-Ni系合金粉が挙げられる。Fe-Ni系合金におけるNiやMo等の元素の含有量は、所望の組成の焼結部材(但し、Ni,Mo等の元素の含有量は上述の範囲を満たす)が得られるように調整するとよい。鉄合金粉を用いる場合、C(炭素)は、鉄合金の添加元素として含まず、独立した粉末(C粉)として原料粉末に含むことが挙げられる。
(3)複合粉は、代表的には、純鉄粉と、Ni粉と、Niを含む鉄合金粉と、C粉とを含むことが挙げられる。複合粉を用いる場合、Ni粉と、Niを含む鉄合金粉とにおけるNiの合計含有量が上述の範囲(10%以下)を満たすように配合割合を調整する。
鉄系粉末は、水アトマイズ粉、還元粉、ガスアトマイズ粉、カルボニル粉などが利用できる。鉄系粉末の平均粒径は、例えば20μm以上200μm以下が挙げられる。上記平均粒径が上記の範囲内であれば、鉄系粉末を取り扱い易く、加圧成形を行い易い。また、上記平均粒径が20μm以上であれば、鉄系粉末の流動性を確保し易く、成形性に優れる。上記平均粒径が200μm以下であれば、緻密な組織の焼結部材を得易い。上記平均粒径は更に50μm以上150μm以下とすることができる。
Ni粉、Mo等の元素の粉末の平均粒径は、例えば1μm以上50μm以下程度が挙げられる。C粉の平均粒径は、例えば1μm以上30μm以下程度が挙げられ、鉄系粉末よりも小さいものを利用することが挙げられる。
上述の平均粒径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)とする。
原料粉末は、潤滑剤及び有機バインダーの少なくとも一方を含有することができる。この場合、潤滑剤及び有機バインダーの合計含有量が0.1%以下であると、緻密な圧粉成形体を得易く好ましい。潤滑剤及び有機バインダーを含有しなければ、緻密な圧粉成形体をより得易い上に、後工程で圧粉成形体を脱脂する必要もない。
《成形工程》
この工程では、原料粉末を加圧成形して、相対密度が96%以上、更に97%以上の圧粉成形体を作製することが好ましい。相対密度が97%以上である焼結部材をより確実に得られるからである。圧粉成形体の相対密度が高いほど、相対密度が高く緻密な焼結部材を得易いことから、圧粉成形体の相対密度を98%以上、更に99%以上とすることが挙げられる。
圧粉成形体の形状は、焼結部材の最終形状に沿った形状や、後工程の切削加工に適した形状(例、円柱状や円筒状など)が挙げられる。圧粉成形体の作製には、上記形状を成形可能な適宜な成形装置を用いることが挙げられる。特に、円柱や円筒の軸方向に沿って一軸加圧が可能なプレス成形装置を用いると、上述のような緻密な圧粉成形体を得易く好ましい。一軸加圧には、上下に開口部を有するダイと、その上下の開口部に嵌め込まれる上パンチ及び下パンチとを備える金型を用いることが挙げられる。上記金型におけるダイのキャビティ内に原料粉末を充填し、キャビティ内の原料粉末を上パンチと下パンチとで圧縮することで圧粉成形体を作製する。
成形圧力(面圧)を1560MPa(≒16ton/cm)以上とすると、上述のような緻密な圧粉成形体を作製できる。成形圧力が大きいほど圧粉成形体の相対密度を高め易く、1660MPa(≒17ton/cm)以上、更に1760MPa(≒18ton/cm)以上、1860MPa(≒19ton/cm)以上、1960MPa(≒20ton/cm)以上とすることができる。原料粉末に上述の鉄合金粉を含む場合には、成形圧力を高めにすると成形性に優れる。
上述の金型の内周面(上述のダイの内周面やパンチの押圧面)に潤滑剤を塗布すると、原料粉末が金型に焼付くことを防止でき、緻密な圧粉成形体を成形し易く好ましい。潤滑剤には、例えば、高級脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミドなどが利用できる。
《焼結工程》
この工程では、圧粉成形体を焼結して、相対密度が97%以上であり、かつNiの濃度分布が上述の特定の範囲を満たす焼結材を作製する。焼結時、圧粉成形体は収縮するため、上述のように圧粉成形体の相対密度を96%以上、更に97%以上とすれば、相対密度が97%以上である焼結材をより確実に作製できる。圧粉成形体の相対密度が上述のように非常に高密度であると、焼結時の収縮量は小さいものの、焼結材の相対密度を圧粉成形体の相対密度超とすることができる。
焼結条件は、原料粉末の組成に応じて適宜選択するとよい。
焼結温度は、例えば、1100℃以上1400℃以下、更に1110℃以上1300℃以下、1120℃以上1250℃以下が挙げられる。
焼結時間は、例えば、15分以上150分以下、更に20分以上60分以下が挙げられる。
焼結時の雰囲気は、窒素雰囲気などの不活性雰囲気が挙げられる。
その他、焼結条件は、公知の条件を参照できる。
《その他の工程》
焼結工程後に、以下の成形体加工工程、熱処理工程、及び仕上げ加工工程の少なくとも一つの工程を行うことが挙げられる。
〈成形体加工工程〉
この工程は、上述の成形工程後、焼結工程前に、圧粉成形体に切削加工を施す。切削加工には、加工内容に応じた適宜な切削工具を用いるとよい。焼結前の圧粉成形体に切削加工を施すと、焼結材や溶製材に比較して加工し易い。特に、この圧粉成形体は、焼結材や溶製材に比較すると軟らかいものの、相対密度が上述のように高く緻密であり、ある程度強度に優れるため、切削加工による欠けや亀裂の発生も抑制し易い。切削加工は、例えば、転削加工(穴あけ加工を含む)、旋削加工などが挙げられる。
切削加工に供する前に、有機バインダー(例、パラフィンや各種のワックスなど)を溶かした揮発性溶液や、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂の溶液を圧粉成形体の表面に塗布したり、上記溶液に圧粉成形体を浸漬したりすると、切削加工時に圧粉成形体の表層が割れたり欠けたりすることを抑制し易い。
その他、切削加工は、圧粉成形体に作用する引張応力を打ち消す方向に、圧粉成形体に圧縮応力を付与しながら行うと、圧粉成形体の割れや欠けを抑制し易い。
〈熱処理工程〉
この工程は、焼結材に焼入れ焼戻しを施す。焼入れによってマルテンサイト組織とし、焼戻しによってマルテンサイト組織を安定化させる。焼入れ焼戻しによって、特に硬度及び靭性を向上でき、焼結のままの場合と比較して機械的特性により優れる焼結部材とすることができる。特に、焼入れ焼戻し前の焼結材は上述のようにNiの濃度分布が0.2%超21%未満であることから、焼入れ焼戻し後の熱処理材(実施形態の焼結部材の一例)は残留オーステナイトを低減でき、上記熱処理材全体が実質的にマルテンサイト組織(焼戻しマルテンサイト組織)からなる焼結部材をより確実に製造できる。
焼入れは、代表的には、浸炭焼入れを行うことが挙げられる。
浸炭条件は、カーボンポテンシャル(C.P.)を0.8質量%以上1.4質量%以下、処理温度を910℃以上950℃以下、処理時間を60分以上150分以下とすることが挙げられる。
オーステナイト化条件は、処理温度を850℃以上1000℃以下、処理時間を10分以上150分以下とし、その後油冷又は水冷にて急冷することが挙げられる。
焼戻し条件は、処理温度を150℃以上230℃以下、処理時間を60分以上150分以下とすることが挙げられる。
なお、焼入れ焼戻し前の焼結材におけるNiの濃度分布は、焼入れ焼戻しによって実質的に変化しない。従って、焼入れ焼戻し後の熱処理材におけるNiの濃度分布は、焼入れ焼戻し前の焼結材におけるNiの濃度分布と同様の範囲、即ち0.2%超21%未満をとる。
〈仕上げ加工工程〉
この工程は、焼結材の表面粗さを小さくすると共に、焼結材の寸法を設計寸法に適合させるための加工を行う。仕上げ加工は、例えば、研磨加工などが挙げられる。
上述の焼結部材の製造方法によって製造された焼結部材は、その表面領域(代表的には、表面から内部に向かって厚さ1mmの領域)において密度の変化が実質的に無く、密度が実質的に均一である。焼結材に転造加工を施していないからである。また、この焼結部材の金属組織は、金属粒子が引き伸ばされた流線状の組織が形成されていない。焼結材に鍛造加工を施していないからである。
<主な効果>
実施形態の焼結部材は、相対密度が非常に高く緻密である上に、Niを均一的に含むため、割れや破断の起点となり得る箇所が少ない。従って、実施形態の焼結部材は、静的強度に優れる上に、疲労強度にも優れる。高強度であることを以下の試験例で具体的に説明する。
[試験例1]
種々の相対密度の焼結部材を作製して、相対密度と引張強さとの関係を調べた。
この試験では、原料粉末として、混合粉(原料No.2)、鉄合金粉(原料No.1)、混合粉と鉄合金粉とを含む複合粉であって、Ni粉の配合が異なるもの(原料No.31,32,33)を用意し、各原料粉末を用いて、相対密度が異なる圧粉成形体を作製する。圧粉成形体の相対密度は、約91%以上約99%以下の範囲から選択する。所定の相対密度の圧粉成形体が得られるように、成形圧力を1560MPa(16ton/cm)~1960MPa(20ton/cm)の範囲から選択する。成形圧力が大きいほど、相対密度が高い圧粉成形体を得易い。また、圧粉成形体の相対密度が高いほど、相対密度が高い焼結部材を得易い。
各原料粉末は、Fe-5質量%Ni-0.5質量%Mo-0.2質量%Mn-0.3質量%Cという基本組成を満たすように、配合割合などを調整して用いる。この試験では、各原料粉末は、潤滑剤及び有機バインダーを含有していない(内部潤滑せず)。
原料No.2の粉末は、純鉄粉、純Ni粉、純Mo粉、純Mn粉、純C粉を混合したものである。
原料No.1の粉末は、Fe-5質量%Ni-0.5質量%Mo-0.2質量%Mnという組成の鉄合金粉と、純C粉とを混合したものである。
原料No.31の粉末は、Fe-3質量%Ni-0.5質量%Mo-0.2質量%Mnという組成の鉄合金粉と、純Ni粉と、純C粉とを混合したものである。
原料No.32の粉末は、Fe-2質量%Ni-0.5質量%Mo-0.2質量%Mnという組成の鉄合金粉と、純Ni粉と、純C粉とを混合したものである。
原料No.33の粉末は、Fe-0.5質量%Ni-0.5質量%Mo-0.2質量%Mnという組成の鉄合金粉と、純Ni粉と、純C粉とを混合したものである。
ここでは、純鉄粉、鉄合金粉、Ni粉、Mo粉、Mn粉といった金属粉末はいずれも水アトマイズ法などの公知の方法により作製したものである。純鉄粉の平均粒径(D50)は75μm、鉄合金粉の平均粒径(D50)は70μm、Ni粉の平均粒径(D50)は5μm、Mo粉及びMn粉の平均粒径(D50)は10μm、C粉の平均粒径(D50)は5μmである。上述の金属粉末に適宜、還元処理などを施して酸素の含有量を低減する。
原料粉末を加圧成形して円柱状の圧粉成形体を作製する。圧粉成形体の作製には、一軸加圧が可能な金型を用いる。この金型におけるダイの内周面に潤滑剤としてミリスチン酸のアルコール溶液を塗布する(外部潤滑有り)。
作製した各圧粉成形体を焼結し、得られた円柱状の焼結材に切削加工を施して、所定の引張試験片の形状に加工し、その後に熱処理を施し、得られた熱処理材を各試料の焼結部材とする。ここでの熱処理は、浸炭焼入れ焼戻しとする。焼結条件、浸炭焼入れ条件、焼戻し条件は以下の通りである。
(焼結)1130℃×30分、窒素雰囲気
(浸炭焼入れ)930℃×90分、カーボンポテンシャル:1.2質量%⇒850℃×30分⇒油冷
(焼戻し)200℃×90分
作製した各試料の焼結部材について、相対密度、引張強さを測定した。その結果を表1及び図1に示す。
表1では、相対密度ごとに試料No.を付す。以下の説明では、各焼結部材を、試料No.と原料No.とを合わせた番号で呼ぶ。例えば、「試料No.5-1」の焼結部材とは、原料No.1の粉末を用いて作製され、相対密度が99%である焼結部材を意味する。
図1は、横軸が焼結部材の相対密度(%)、縦軸が焼結部材の引張強さ(MPa)を示すグラフである。図1では、後述する溶製材(相対密度100%)の引張強さも示す。
焼結部材の相対密度は、(焼結部材の見かけ密度/焼結部材の真密度)×100によって求める。焼結部材の見かけ密度は、アルキメデス法に準拠して求める。詳しくは、焼結部材における空中での質量と純水中での質量とを測定し、「(純水の密度×空中での質量)/(空中での質量-純水中での質量)」によって、焼結部材の見かけ密度を算出する。
焼結部材の真密度は、例えば、ICP-OESなどによって焼結部材の成分分析を行って各元素の含有割合を求め、この含有割合と、各元素の密度と、焼結部材の質量とを用いて算出することが挙げられる。この試験では、原料粉末の基本組成から焼結部材の真密度を求めることができる。ここでの焼結部材の真密度は、7.82g/cmである。
引張強さは、汎用の引張試験機を用いて引張試験を行って測定する。試験片は、細幅部と、細幅部の両端に形成される太幅部とで構成される平板状とする。試験片の厚みを5mm、長さを72mmとする。細幅部は、中央部と、中央部から太幅部にかけて形成される円弧状の側面を有する肩部とで構成される。中央部の長さを32mm、中央の幅を5.7mm、両端の幅を5.96mm、肩部の側面の半径Rを25mm、太幅部の幅を8.7mmとする。この試験片は、日本粉末冶金工業会の規格、JPMA M 04-1992 焼結金属材料引張試験片に準ずるものである。
比較として、上述の基本組成を有する溶製材(相対密度100%)を用意し、上述の試験片を作製して、引張強さを測定したところ、1695MPaである。
作製した各試料の焼結部材について、Niの局所的な濃度分布(含有量)を以下のようにして測定した。
相対密度が99%である試料No.5-1,No.5-31~33,No.5-2の焼結部材について、任意の断面を複数とる(n≧3)。また、断面ごとに一つずつ、測定視野(400μm×500μm)をとる。各測定視野内のNiの含有量をSEM-EDX装置で測定し、各測定視野内におけるNiの含有量のうち、最大値と最小値とを調べる。SEM‐EDX装置で用いる電子線は半径約5μm程度である。つまり空間分解能は約5μmφである。複数(n≧3)の各測定視野の最大値、最小値のうち、更に最大の値、最小の値を、各試料の焼結部材におけるNiの最大値、最小値とし、表2に示す。
なお、相対密度が91%~97%である焼結部材におけるNiの濃度分布は、相対密度が99%である焼結部材における原料No.が同じもののNiの濃度分布と概ね同様である。例えば、原料No.33の粉末を用いて作製され、相対密度が95%である試料No.3-33の焼結部材のNiの濃度分布は、試料No.5-33のNiの濃度分布と概ね同様な値である。
その他、作製した各試料の焼結部材について、酸素の含有量を測定したところ、いずれも2000質量ppm以下である。酸素の含有量の測定は、試料を不活性ガス中で加熱して溶融して酸素を抽出し、抽出した酸素を測定する不活性ガス融解赤外線吸収法を用いる。この測定には市販の酸素分析装置を利用できる。なお、各試料の焼結部材について、その全体組成をICP-OESにて測定したところ、上述の原料粉末の基本組成と概ね同様である。
Figure 2022174140000002
Figure 2022174140000003
表1,図1に示すように、相対密度が97%未満の範囲では、相対密度が高いほど、引張強さが高くなり比例的に大きくなることが分かる。しかし、相対密度が97%以上の範囲では、原料No.が同じものごとに着目すれば、相対密度が高くなっても、引張強さの変化が非常に小さいことが分かる。このことから、相対密度が97%以上の焼結部材では、相対密度をより高めることによる引張強さの更なる向上が難しいといえる。相対密度をより高めて、気孔をより少なくしても引張強さを向上し難いことから、相対密度が97%以上の焼結部材では、気孔以外の原因によって、割れや破断が生じ得ると考えられる。気孔以外の原因として、表1,図1から製造条件の相違、ここでは特に原料粉末の相違が考えられる。
製造条件の相違は、焼結部材の組成や組織に相違が生じ得ると考えられる。そこで、相対密度が99%と高いにも関わらず、引張強さが1450MPa未満である試料No.5-2の組織を調べた。原料粉末に混合粉を用いた試料No.5-2の焼結部材について、その断面をSEM-EBSD装置で組織解析を行った。この解析箇所におけるNiの含有量をSEM-EDX装置で測定し、Niマッピング像を得た。Niマッピング像においては、色が濃いほど(モノクロ画像では暗いほど)Niの含有量が少なく、色が薄いほど(モノクロ画像では明るいほど)Niの含有量が多いこと示す。
組織解析像において、緑色の領域(モノクロ画像では薄いグレーの領域)は、面心立方格子(fcc)である、その他の赤色の領域(モノクロ画像では濃いグレーの領域)は概ね体心立方格子(bcc)である。fcc領域は、残留オーステナイトであり、bcc領域はマルテンサイトである。そして、fcc領域はNiマッピング像では明るく見え、Niの含有量が局所的に高いことが分かる。反面、bcc領域はNiマッピング像では暗く見え、Niの含有量が局所的に低い箇所が存在する。即ち、試料No.5-2の焼結部材は、Niが不均一に存在すると言える。このような不均一組成によって強度の低下を招き易くなり、焼入れ焼戻しを行うと強度に劣る残留オーステナイトを含み易く、引張強さが更に低下し易くなったと考えられる。
以上の知見を踏まえて、相対密度が97%以上であり、Niの濃度分布が0.2質量%超21質量%未満である試料No.4-1,No.4-33,No.5-1,No.5-31~No.5-33(以下、均一試料群と呼ぶ)の焼結部材はいずれも、引張強さが1460MPa以上、更に1500MPa以上、1550MPa以上と高く、静的強度に優れる。特に、試料No.4-1,No.5-1の焼結部材はいずれも、引張強さが1692MPa以上であり、溶製材(1695MPa)と同等程度以上の強度を有する。
均一試料群の焼結部材が上述のように高強度である理由の一つとして、焼結部材全体に亘ってNiが均一的に存在することが挙げられる。このことは、相対密度が99%である試料No.5について、原料No.1,No.31~33,No.2を比較することから裏付けられる。試料No.5-1,No.5-31~No.5-33,No.5-2の順に、Niの濃度分布の幅が小さく、Ni量における最大値と最小値との差が小さい。具体的には、試料No.5-1では、上記差が実質的に無く、焼結部材の全体に亘ってNiが均一的に存在するといえる。試料No.5-31~No.5-33では順に、上記幅が3質量%~8質量%及び上記差が5質量%、上記幅が2質量%~10質量%及び上記差が8質量%、上記幅が0.5質量%~16質量%及び上記差が10質量%超と大きくなっている。試料No.5-2では、上記差が20質量%以上であり、Niが不均一に存在するといえる。
鉄合金粉を用いた試料No.5-1と、混合粉を用いた試料No.5-2について、その断面をSEMで観察し、この観察箇所におけるNiの含有量をSEM-EDX装置で測定した。試料No.5-1の焼結部材では、Niマッピング像の全体が暗く、Niが全体的に一様に存在することが分かった。このようなNiの分布状態から、試料No.5-1の焼結部材は、残留オーステナイトが実質的に存在せず、その全体に亘ってマルテンサイト組織を有すると考えられる。また、このことから、相対密度が97%以上であり、上述のようにNiの濃度分布の幅が小さい試料No.5-31~No.5-33の焼結部材は、残留オーステナイトを若干含み得るものの、概ねマルテンサイト組織を有すると考えられる。
一方、試料No.5-2の焼結部材では、明るく見える箇所も暗く見える箇所も見られ、Niが全体的に不均一に存在することが分かった。
上述のように、この試験から、相対密度が97%以上の焼結部材では、Niの濃度分布が0.2質量%超21質量%未満を満たすことで、引張強さがより高く、好ましくは同じ組成の溶製材と同等程度の引張強さを有し、強度に優れることが示された。
また、この試験から、相対密度が97%以上であって、Niの濃度分布が0.2質量%超21質量%未満を満たす焼結部材は、原料粉末に鉄合金粉を含むと(ここでは、原料No.1,No.31~33を用いると)、製造し易いといえる。特に、原料No.1の粉末を用いること、即ち、鉄合金粉を主として用いることが好ましいといえる。
[試験例2]
Niの含有量を変化させて、引張強さに対する影響を調べた。
ここでは、試験例1で作製した試料No.5-1に対して、原料粉末に用いる鉄合金粉中のNiの含有量を異ならせた点を除いて、試験例1と同様にして焼結部材を作製する。
試料No.2-1は、Fe-0.5質量%Mo-0.2質量%Mnという組成の鉄合金粉と、純C粉とを混合したものであり、原料粉末にNiを含まない。なお、試験例2における試料No.2-1は、試験例1(表2)におけるNo.2-1とは異なる試料である。
作製した各試料の焼結部材について、試験例1と同様にして引張強さ(MPa)を測定し、結果を表3及び図2に示す。図2は、横軸が焼結部材の全体組成(鉄基合金全体)におけるNiの含有量(Ni量、質量%)、縦軸が焼結部材の引張強さ(MPa)を示すグラフである。
作製した各試料の焼結部材について、Niの局所的な濃度分布(含有量)を試験例1と同様にして調べ、結果を表3に示す。その他、各試料の焼結部材について、試験例1と同様にして測定したところ、相対密度は99%、酸素の含有量は2000質量ppm以下、全体組成は原料粉末の基本組成(Fe-(表3の値)Ni-0.5質量%Mo-0.2質量%Mn-0.3質量%C)と概ね同様である。
Figure 2022174140000004
表3,図2に示すように、この試験では、相対密度が97%以上であり、Niを均一的に含む焼結部材について、Niの局所的な濃度分布(含有量)は引張強さに影響を与えることが分かる。Niを含まないと引張強さが低い(試料No.2-1)。Niの含有量が多くなると引張強さが高くなる。ここではNiの含有量が1質量%以上であると引張強さが1460MPa以上である。特にNiの含有量が2質量%超8質量%未満であると、引張強さが1600MPa以上となり、5質量%に近づくほど引張強さがより高く、5質量%で引張強さが最大になる(ピークをとる)ことが分かる。この理由は定かではないが、この試験結果から、相対密度が97%以上であって、Niの濃度分布が0.2質量%超21質量%未満を満たす焼結部材では、焼結部材の全体組成におけるNiの含有量を2質量%超8質量%未満、更には3質量%以上7質量%以下とすると、引張強さをより向上でき、1600MPa以上の引張強さを有し得ることが示された。
[試験例3]
酸素の含有量を変化させて、引張強さに対する影響を調べた。
ここでは、試験例1で作製した試料No.5-1に対して、原料粉末に用いる鉄合金粉に対する還元処理の度合いを異ならせた点を除いて、試験例1と同様にして焼結部材を作製する。
作製した各試料の焼結部材について、試験例1と同様にして、酸素の含有量(酸素量、質量%)と引張強さ(MPa)とを測定し、結果を表4,図3に示す。図3は、横軸が焼結部材の全体組成における酸素の含有量(酸素量、質量ppm)、縦軸が焼結部材の引張強さ(MPa)を示すグラフである。
また、作製した各試料の焼結部材について、Niの局所的な濃度分布(含有量)を試験例1と同様にして調べたところ、試料No.5-1のNiの局所的な濃度分布(含有量)と実質的に同じである。その他、各試料の焼結部材について、試験例1と同様にして測定したところ、相対密度は99%、全体組成は原料粉末の基本組成(Fe-5質量%Ni-0.5質量%Mo-0.2質量%Mn-0.3質量%C)と概ね同様であり、実質的にマルテンサイト組織から構成されている。
Figure 2022174140000005
表4,図3に示すように、この試験では、相対密度が97%以上であり、Niを均一的に含む焼結部材について、酸素の含有量は引張強さに影響を与えることが分かる。この試験では、酸素の含有量が少ないほど、引張強さを高められることが分かる。表4,図3から酸素の含有量が3000質量ppm以下であれば、引張強さが1600MPaであり、高強度な焼結部材といえる。更に、酸素の含有量が3000質量ppm未満であれば、引張強さが1650MPa以上、更に1700MPa程度であり、上述の溶製材と同等程度の強度を有することが分かる。この理由の一つは、酸素の含有量が少ないことで、割れや破断の起点となり得る酸化物が低減されたためと考えられる。この試験結果から、相対密度が97%以上であって、Niの濃度分布が0.2質量%超21質量%未満を満たす焼結部材では、焼結部材の全体組成における酸素の含有量を3000質量ppm未満、更に2000質量ppm以下とすると、引張強さを更に向上できることが示された。また、酸素の含有量は、原料粉末に適宜還元処理などして、酸素を除去することで調整できることが示された。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、上述の試験例1~3において、組成を変更したり(Mo,Mnの含有量の変更、SiやBを含むなど)、製造条件を変更したりすることができる。

Claims (4)

  1. 鉄基合金からなる焼結部材であって、
    前記鉄基合金全体におけるNiの含有量が4質量%を超え6質量%以下であり、Cの含有量が0質量%を超え2.0質量%以下であり、Mo,Mn,Cr,B,及びSiから選択される1種以上の元素の含有量が合計で0質量%を超え5.0質量%以下であり、残部がFe及び不可避不純物であり、
    3以上の任意の断面からそれぞれ一つの測定視野をとり、各測定視野内におけるNiの含有量が1質量%以上12質量%以下であり、
    酸素の含有量が2000質量ppm以下であり、
    相対密度が97%以上であり、
    引張強さが1455MPa超である、
    焼結部材。
  2. マルテンサイトからなる組織を有する、請求項1に記載の焼結部材。
  3. 前記鉄基合金全体におけるCの含有量が0.2質量%以上0.8質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の焼結部材。
  4. 前記鉄基合金全体におけるMoの含有量が0.15質量%以上0.8質量%以下であり、
    前記鉄基合金全体におけるMnの含有量が0.15質量%以上0.8質量%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の焼結部材。
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