JP2022123411A - 精密切削性に優れるマルテンサイト系快削ステンレス鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】精密切削加工時の優れた平坦度の切削表面性状と工具寿命を有するマルテンサイト系快削ステンレス鋼を提供する。【解決手段】本発明のマルテンサイト系快削ステンレス鋼は、質量%で、C:0.10~0.70%、Si:0.1~2.0%、Mn:0.1~3.0%、S:0.02以上、0.15%未満、P:0.10%以下、Cr:10.5~17.0%、B:0.001~0.01%、N:0.02~0.15%、Al:0.008%以下、O:0.015%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなる化学成分を有し、固溶N量が0.01~0.05%であり、0.5μm以下のBN系金属間化合物が100μm2中に20個以上あり、硬さが400Hv以下である。【選択図】なし
Description
本発明は、耐食性が必要な小型部品に切削される材料に関して、構成刃先の生成を抑制した精密切削性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼に関するものである。
400Hv以上の高硬度・高耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼は、耐摩耗性,疲労強度,耐食性の観点から、産業用機器や精密機器部品に使用される。特に棒線を素材とする磨棒から切削加工される精密機器部品では、回転体に使用されることが多く、とりわけ精密な切削加工性が必要になる。具体的には、切削加工時の工具寿命に優れ、かつ、構成刃先の脱落痕のない平滑な切削表面が求められる。構成刃先は切削工具先端上に母材が凝着により生成・成長する堆積物であり、切削途中に工具先端から脱落することで切削表面上に圧着されて表面性状を劣化させる。図1に構成刃先の脱落痕がある場合と、構成刃先の脱落痕が無い場合の、切削加工した時の切削製品の切削表面性状を示す。図1からわかるように、構成刃先痕により大きく表面性状が劣化する。
これまで、高硬度・高耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼においてSを添加し、硫化物組成・サイズと炭化物のサイズを規定して耐摩耗性と切削性を向上させたマルテンサイト系快削ステンレス鋼の提案がある(特許文献1)。
また、Cr、Mn、S量の関係を規定することで冷鍛性、熱間加工性を付与した高硬度・高耐食性のマルテンサイト系快削ステンレス鋼が提案されている(特許文献2)。
一方、Al、O量や硫化物中のCr/Mn比を規定した表面仕上げ性に優れた高硬度・高耐食性のS含有のマルテンサイト系ステンレス快削鋼が提案されている(特許文献3)。
さらに、高硬度・高耐食性のS含有のマルテンサイト系ステンレス快削鋼において、BとNを添加してBN系金属間化合物のサイズを規定した表面性状に優れる鋼が提案されている(特許文献4)。
特許文献1、特許文献2には切削表面性状に対する記載がなく、平滑な切削表面性状の技術課題を解決できていない。
特許文献3は粗大酸化物に起因した表面性状の劣化を防ぐための粗大な酸化物の抑制技術を開示しているが、構成刃先痕による表面性状の劣化の防止に関する開示はない。
特許文献4の技術は構成刃先痕の抑制が十分でなく、精密な切削表面性状の観点から課題がある。
本発明者らは、上記の背景技術に記載の公知の技術又はそれらの組み合わせでは、優れた切削性を付与した高硬度・高耐食マルテンサイト系快削ステンレス鋼において、優れた工具寿命と、構成刃先痕を抑制した優れた平滑な表面性状の両立ができないことを知見した。
本発明の解決すべき課題は、腐食環境の厳しい環境下で使用されるマルテンサイト系ステンレス鋼の精密部品用として、切削加工時の工具寿命に優れ、切削加工で優れた平坦度を有する切削表面性状を得ることができる、高硬度・高耐食性のマルテンサイト系快削ステンレス鋼を提供することを課題とするものである。
本発明者等は、上記課題を解決するために焼入れ処理で400Hv以上の高硬度が得られるS含有のマルテンサイト系快削ステンレス鋼において種々検討した結果、快削元素のS含有系にB、Nを添加し、N固溶化軟化処理によりBNを微細析出させて固溶N量を制御することで精密切削加工時の構成刃先痕を抑制して切削加工で平滑性に優れる表面性状が得られる知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.10~0.70%、Si:0.1~2.0%、Mn:0.1~3.0%、S:0.02以上、0.15%未満、P:0.10%以下、Cr:10.5~17.0%、B:0.001~0.01%、N:0.02~0.15%、Al:0.008%以下、及びO:0.015%以下を含有し、残部がFe及び不純物である化学成分を有し、固溶N量が0.010~0.050%であり、0.5μm以下のBN系金属間化合物が100μm2中に20個以上あり、硬さが400Hv以下であることを特徴とするマルテンサイト系快削ステンレス鋼。
(2)前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、Ni:1.5%以下、Mo:2.5%以下、Cu:1.5%以下、Co:1.5%以下、及びW:2.5%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)のマルテンサイト系快削ステンレス鋼。
(3)前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、Bi:0.20%以下、Sn:0.30%以下、Sb:0.30%以下、Ag:0.30%以下、及びTe:0.10%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)のマルテンサイト系快削ステンレス鋼。
(4)前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、V:0.8%以下、Nb:0.3%以下、Ti:0.3%以下、及びTa:0.3%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかのマルテンサイト系快削ステンレス鋼。
(5)前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、Mg:0.010%以下、Ca:0.010%以下、Hf:0.010%以下、及びREM:0.050%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)~(4)のいずれかのマルテンサイト系快削ステンレス鋼。
(6)前記(1)~(5)のいずれかの化学成分を有する鋳片を1150~1330℃に加熱する加熱工程、加熱した上記鋳片に熱間圧延又は熱間加工を施す加工工程、750~900℃で60~300分保定するバッチ焼鈍工程、700~850℃の温度域で保定し、500℃以上の温度範囲を1℃/s以上の冷却速度で冷却するストランド焼鈍工程を備えることを特徴とする本発明のマルテンサイト系快削ステンレス鋼の製造方法。
本発明によれば、マルテンサイト系快削ステンレス鋼において、金属組織と金属間化合物の制御のために適正な成分調整と熱処理を施すことで、良好な切削工具寿命と構成刃先痕を抑制した優れた平坦な切削表面性状が得られ、高硬度・耐摩耗性・耐食性に優れた精密部品に好適な材料を提供する。
以下に本発明の各要件について説明する。なお、以下の説明における(%)は特に断りのない限り、質量(%)である。
《鋼の必須成分組成》
本発明のマルテンサイト系快削ステンレス鋼は硬さが400Hv以下であるが、焼入れを施すと、一般的に耐摩耗性に有効な400Hv以上となる。したがって、鋼の成分組成は、焼入れ状態で少なくとも400Hv以上を発揮する高硬度マルテンサイト系ステンレス鋼がベースとする。
本発明のマルテンサイト系快削ステンレス鋼は硬さが400Hv以下であるが、焼入れを施すと、一般的に耐摩耗性に有効な400Hv以上となる。したがって、鋼の成分組成は、焼入れ状態で少なくとも400Hv以上を発揮する高硬度マルテンサイト系ステンレス鋼がベースとする。
Cは、母材の焼入れ後の硬さを400Hv以上にするため0.10%以上含有させる。しかしながら、0.70%を超えて添加すると粗大なCr炭化物が生成して、切削表面性状が劣化する。そのため、0.70%以下に限定する。高硬度が好ましく焼入れ後の製品硬さで500Hv以上を得るためには、0.20%超、0.50%以下が好ましい。
Nは、後述するN固溶軟化処理でBN系金属間化合物を得て、また、固溶N量を確保して構成刃先痕の生成を抑制するために0.02%添加する。しかしながら、0.15%以上を超えて含有させるとブローホールが生成して製品品質が劣化する。そのため、0.15%以下に限定する。好ましくは、0.03~0.10%の範囲である。
Siは、脱酸を行って切削表面性状を劣化させる粗大な介在物の生成を抑制するため、0.1%以上含有させる。しかしながら、2.0%を超えて含有させると硬質化して工具への母材の凝着を促進して構成刃先痕の生成を助長する。そのため、2.0%以下に限定する。好ましくは、0.2~1.0%の範囲である。
Mnは、脱酸を行って切削表面性状を劣化させる粗大な介在物の生成を抑制し、硫化物を形成して良好な工具寿命を確保するため、0.1%以上含有させる。しかしながら、3.0%を超えて含有させるとN固溶軟化処理で400Hv以下に軟質化することが難しく、工具寿命が劣化する。そのため、3.0%以下に限定する。好ましくは、0.2~2.0%の範囲である。
Sは、硫化物を形成して良好な工具寿命を確保するために0.02%以上添加する。しかしながら、0.15%以上を含有させると精密切削加工時の工具上の構成刃先痕の生成が顕著となり、切削表面上への構成刃先の脱落痕を防止できなくなる。そのため、0.15%未満に限定する。好ましくは、0.03以上、0.12%以下の範囲である。
Pは、原料から不可避的不純物として混入するが、0.1%を超えて含有すると粒界偏析により耐食性が劣化するばかりか製造性が著しく低下する。そのため、0.1%以下に限定する。好ましくは、0.05%以下である。
Crは、ステンレス鋼の耐食性の機能を得るための基本元素であり、10.5%以上を含有させる。しかしながら、17.0%を超えて含有させると、焼入れ時の硬さが400Hv以上を確保できなくなる。そのため、17.0%以下に限定する。好ましくは、11.0~15.0%である。
Bは、Nとともに添加することでN固溶軟化処理時に微細なBNを形成して工具表面での母材の凝着を抑制し、切削表面での構成刃先痕を防止する。そのため、0.0010%以上添加する。しかしながら、0.0100%を超えて添加すると粗大なボライドが生成して逆に構成刃先の生成を促進させる。そのため0.0100%以下に限定する。好ましくは、0.0020~0.0070%である。
Alは、脱酸のために添加してもよいが、0.008%を超えて添加すると粗大介在物が生成して表面性状が劣化する。そのため、0.008%以下に限定する。好ましくは、0.006%以下である。
Oは、不可避的不純物として混入するが、0.015%を超えて含有すると粗大介在物が生成して切削表面性状が劣化する。そのため、0.015%以下に限定する。好ましくは、0.012%以下である。
本発明のマルテンサイト系快削ステンレス鋼が含有するNのうち、固溶N量が0.01~0.05%である。
焼鈍状態のフェライト母相への固溶Nは、切削加工時の母材を脆化させて構成刃先の生成を抑制して良好な表面性状を得るのに有効である。そのため、固溶N量を0.01%以上に限定する。しかしながら、0.05%を超えてNを固溶させようとすると後述する固溶化温度を上げる必要があり、硬質なマルテンサイト組織が生成して工具寿命が劣化する。そのため、固溶N量の上限を0.05%とした。なお、通常のマルテンサイト系ステンレス鋼の焼鈍はバッチ焼鈍で実施されるため、炉冷の影響により窒化物を形成して固溶N量は0.01%未満である。本発明では、後述するようにバッチ焼鈍(徐冷)とストランド焼鈍(急冷)を組み合わせたによるN固溶軟化処理でNをフェライト母相に固溶させる。
本発明のマルテンサイト系快削ステンレス鋼の金属組織は、0.5μm以下のBN系金属間化合物を100μm2中に20個以上含む。
BNは、自己潤滑作用により工具上への母材の凝着を抑制して構成刃先の生成を防止して優れた切削表面性状を得るのに有効である。ただし、0.5μmサイズを超える粗大なBNが分散していると、工具先端で塑性変形した母材とBNが層状に積層・堆積されて構成刃先が生成・成長する。そのため、長径0.5μmサイズ以下のBNを微細分散させて積層・堆積を抑制する。なお、100μm2中に20個以上の数密度でBNが微細分散しているとその効果は顕著になる。好ましくは、100μm2中に30個以上である。
本発明のマルテンサイト系快削ステンレス鋼は、切削加工時の工具寿命を考慮して、400Hv以下とする。
前述したように硬質なマルテンサイト組織が生成すると工具寿命が著しく劣化する。そのため、切削加工の素材の硬さを400Hvに限定する。好ましくは、200~350Hvである。なお、軟化焼鈍で得られる下限のHv硬さは150Hvである。
《選択的含有成分》
本発明のステンレス鋼は、上述した元素以外は、Fe及び不純物からなる化学成分から構成される。さらに、前記成分組成に加え、Feの一部に替えて、選択的に以下に示す元素を含有してもよい。
本発明のステンレス鋼は、上述した元素以外は、Fe及び不純物からなる化学成分から構成される。さらに、前記成分組成に加え、Feの一部に替えて、選択的に以下に示す元素を含有してもよい。
Ni、CuやCoの元素は添加しなくてもよい。添加すれば製品の耐食性や靭性を向上させる効果を有する。しかしながら、1.5%を超えて添加すると、焼鈍で軟化しにくくなり、焼鈍後の硬さが400Hvを超えて工具寿命が劣化する。そのため、含有量を1.5%以下とする。上記効果を確実に得るには、各元素の含有量を0.01%以上、1.0%以下とすることが好ましい。
MoやWの元素は添加しなくてもよい。添加すれば製品の耐食性を向上させる効果を有する。しかしながら、2.5%を超えて添加すると、その効果は飽和するし、逆に切削加工時の工具寿命を劣化させる。そのため、含有量を2.0%以下とする。上記効果を確実に得るには、各元素の含有量を0.01%以上、2.0%以下とすることが好ましい。
Biの元素は添加しなくてもよい。添加すれば切削加工時に自己潤滑作用として働き、構成刃先の生成を抑制して切削表面性状を向上させる効果を有する。しかしながら、0.20%を超えて添加すると、熱間製造性が著しく劣化して製造できなくなる。そのため、含有量を0.20%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.005%以上、0.10%以下とすることが好ましい。
Sn、Sb,Agの元素は添加しなくてもよい。添加すれば切削加工時に自己潤滑作用として働き、構成刃先の生成を抑制して切削表面性状を向上させる効果を有する。しかしながら、0.30%を超えて添加すると、熱間製造性が著しく劣化して製造できなくなる。そのため、含有量を0.30%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.005%以上、0.20%以下とすることが好ましい。
Teの元素は添加しなくてもよい。添加すれば球状の硫化物を生成して、構成刃先の積層・成長を抑制して切削表面性状を向上させる効果を有する。しかしながら、0.10%を超えて添加すると、熱間製造性が著しく劣化して製造できなくなる。そのため、含有量を0.10%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.005%以上、0.05%以下とすることが好ましい。
Vの元素は添加しなくてもよい。添加すれば製品の耐食性を向上させる効果を有する。しかしながら、0.8%を超えて添加すると、粗大な炭窒化物が形成して構成刃先の積層・成長を助長して切削表面性状が劣化し、工具寿命も劣化させる。そのため、上限を0.8%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.05%以上、0.5%以下とすることが好ましい。
Nb、Ti、Taの元素は添加しなくてもよい。添加すれば製品の耐食性を向上させる効果を有する。しかしながら、0.3%を超えて添加すると、粗大な炭窒化物が形成して構成刃先の積層・成長を助長して切削表面性状が劣化し、工具寿命も劣化させる。そのため、上限を0.3%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.01%以上、0.2%以下とすることが好ましい。
Mg,Ca,Hfの元素は添加しなくてもよい。添加すれば熱間製造性を向上させる効果を有する。しかしながら、それぞれ0.010%を超えて添加しても、その効果は飽和するし、逆に粗大な酸化物を生成して切削表面性状を劣化させる。そのため、含有量を0.010%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.001%以上、0.005%以下とすることが好ましい。
REMの元素は添加しなくてもよい。添加すれば熱間製造性を向上させる効果を有する。しかしながら、0.050%を超えて添加しても、その効果は飽和するし、逆に粗大な酸化物を生成して切削表面性状を劣化さえる。そのため、含有量を0.050%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.001%以上、0.005%以下とすることが好ましい。REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で含有させてもよいし、混合物であってもよい。
本発明のステンレス鋼が含有する不純物について、代表的な不純物としては、Zn,Pb,Ge,Se,Ag,Se等が挙げられ、通常、鉄鋼の製造プロセスで不純物として、0.1%程度の範囲で混入する。
不純物である酸素は鋼中で主に介在物として存在するが、通常の精錬で製造されるステンレス鋼の酸素含有レベルは0.001~0.015%である。
また、任意添加元素について、代表的なものを上記(2)~(5)で規定しているが、本明細書中に記載されていない元素であっても、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
《マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法》
本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
0.5μmサイズ以下のBNを100μm2中に20個以上の数密度で微細分散させるためには、上述した成分を有する鋳片を1150~1330℃に一旦高温加熱して、熱間圧延や熱間加工を行ってBNを固溶させた後に、得られた鋼材(線材や鋼線等)に700~900℃で60~300分保定するバッチ焼鈍を施す。
鋳片の加熱温度が1150℃未満ではBNが固溶せずに上述の数密度を満たさなくなり、1330℃を超えると製造性が劣化する。そのため、加熱温度を1150~1330℃、さらにBNの固溶の観点から好ましくは1250℃超、1320℃以下とする。
また、バッチ焼鈍温度が700℃よりも低く、60分よりも短時間であるとBN析出量が減少して上述の数密度を満たさなくなる。一方、バッチ焼鈍温度が900℃よりも高く、300分よりも長時間であるとBNサイズが粗大化することで上述の数密度を満たさなくなる。そのため、バッチ焼鈍条件を700~900℃で60~300分保定に限定する。
上記BNの分散状態を保ったままでフェライト中の固溶N量を確保するためには、前記のバッチ焼鈍の後に、700~850℃の温度域で保定し、500℃以上の温度範囲を1℃/s以上の冷却速度で冷却するストランド焼鈍を施す。
通常のマルテンサイト系ステンレス鋼の軟化焼鈍では、線材や鋼線等のコイル全体がバッチ焼鈍により約650~950℃の温度範囲で保定されて炉冷されるため、例えば0.02℃/sオーダーの冷却速度で徐冷される。その結果、高温で固溶していたNは徐冷中に窒化物として存在状態を変えるため、通常のバッチ焼鈍では固溶N量は0.01%未満になる。
本発明においては、前述の焼鈍後に、フェライト相のN固溶限が0.01~0.05%で、BNが固溶しない700~850℃の温度域で保定し、窒化物が形成する500℃以上の温度範囲を1℃/s以上で急冷するストランド焼鈍を施す。これにより、前記のBNの微細分散状態を保ったままフェライト相中のN固溶を0.01~0.05%に保持できる。
ストランド焼鈍とは、リング状に捲かれた線材や鋼線コイルを直線状に展開して1本の直線状態で短時間熱処理(窒素、Arやアンモニア分解ガス等の雰囲気中)し、空冷や間接水冷する焼鈍方法を言う。この方法によれば、リング状コイル全体のバッチ焼鈍に比べて冷却速度を著しく早くすることが可能である。
この時、保定温度が700℃未満では固溶N量が0.010%よりも低くなり、850℃以上では硬質なマルテンサイト組織が生成して、BNも固溶し、前述するような十分な切削性(切削表面性状,工具寿命)が得られない。そのため、ストランド焼鈍温度は700~850℃の範囲に限定する。好ましくは、750~820℃である。在炉時間は任意であるが、30~1000sの範囲が素材の熱変形もなく、均一に熱が入るので好ましい。
また、前述のバッチ焼鈍とのストランド焼鈍の工程間に冷間伸線加工等の加工が入っても差し支えない。バッチ焼鈍,ストランド焼鈍を複数回実施してもよいが、最後の熱処理はストランド焼鈍とする必要がある。
以上説明した本発明によれば、精密切削加工される高硬度部品用として、切削加工時の表面切削表面性状を劣化さえる構成刃先の生成・成長を抑制できるマルテンサイト系快削ステンレス鋼を提供できる。
なお、本発明でマルテンサイト系ステンレス鋼とは、焼入れ時のマルテンサイト変態により硬化する鋼である。本発明のマルテンサイト系快削ステンレス鋼は、例えば、1050℃から空冷で焼入れした時に、金属組織の7割以上がマルテンサイト組織を示し、400Hv以上に硬化する鋼である。
(実施例1)
65kgの真空溶解炉にて表1及び表2に示す化学組成の鋼を1600℃で溶解した後、鋳型に鋳造した。その後、1200℃加熱後にφ9mmの線材に熱間加工して700~900℃で、85~120分のバッチ焼鈍を施し、φ6.3mmに冷間伸線を行い、800℃で200s保定のストランド焼鈍(アンモニア分解ガス中)を施した。その後、φ6.0mmに抽伸機で磨棒に仕上げ切削用の素材とした。
65kgの真空溶解炉にて表1及び表2に示す化学組成の鋼を1600℃で溶解した後、鋳型に鋳造した。その後、1200℃加熱後にφ9mmの線材に熱間加工して700~900℃で、85~120分のバッチ焼鈍を施し、φ6.3mmに冷間伸線を行い、800℃で200s保定のストランド焼鈍(アンモニア分解ガス中)を施した。その後、φ6.0mmに抽伸機で磨棒に仕上げ切削用の素材とした。
このようにして得られた棒材について、以下に示す評価方法により、BN化合物の数密度(単位面積当たりの個数)、素材硬さ,外周切削後の表面性状及び工具寿命,焼入れ硬さについて評価を実施した。その結果を表3及び表4に示す。表3は本発明鋼の評価結果、表4は比較鋼の評価結果である。
「金属間化合物(BN化合物)」
樹脂に埋め込み、鏡面研磨を行った棒線の縦断面をアルコール系腐食液で析出物を電解抽出した後にカーボン蒸着によりレプリカ試料を作製し、その後、透過型電子顕微鏡にて析出物のサイズと分布を調査した。100μm2の面積を5視野観察し、長径が0.5μm以下のBN化合物の100μm2中の数密度を求めた。
樹脂に埋め込み、鏡面研磨を行った棒線の縦断面をアルコール系腐食液で析出物を電解抽出した後にカーボン蒸着によりレプリカ試料を作製し、その後、透過型電子顕微鏡にて析出物のサイズと分布を調査した。100μm2の面積を5視野観察し、長径が0.5μm以下のBN化合物の100μm2中の数密度を求めた。
「素材硬さ」
樹脂に埋め込み、鏡面研磨を行った縦断面の中心部をJIS Z2244により1kg荷重のHv硬さを測定した。
樹脂に埋め込み、鏡面研磨を行った縦断面の中心部をJIS Z2244により1kg荷重のHv硬さを測定した。
「切削表面性状」
使用工具:超硬P種、刃先R0.4mm,切削速度:50m/min,送り量:0.02mm/rev,切込み:0.1mm,切削油(鉱物油):有りの送り量が0.05mm/rev.以下の精密切削加工の条件で、棒線の外周を周方向に切削加工し、切削加工後の表面について、100倍の拡大鏡にて観察して明確な構成刃先痕の有無で評価した。明確な構成刃先痕が認められる場合を×、微小な構成刃先婚が散見される場合を〇、明確に認められない場合を◎として評価した。
使用工具:超硬P種、刃先R0.4mm,切削速度:50m/min,送り量:0.02mm/rev,切込み:0.1mm,切削油(鉱物油):有りの送り量が0.05mm/rev.以下の精密切削加工の条件で、棒線の外周を周方向に切削加工し、切削加工後の表面について、100倍の拡大鏡にて観察して明確な構成刃先痕の有無で評価した。明確な構成刃先痕が認められる場合を×、微小な構成刃先婚が散見される場合を〇、明確に認められない場合を◎として評価した。
「工具寿命」
使用工具:超硬P種、刃先R0.4mm,切削速度:200m/min,送り量:0.02mm/rev,切込み:0.11mm,切削油(鉱物油):有りの送り量が005mm/rev.以下,切込み≦0.3mmの精密切削加工の条件で、棒線の外周を周方向に切削加工し、30分間切削加工した使用後の工具の状態を調べた。
使用後の工具のフランク摩耗量が境界摩耗,編摩耗を含めて20μm以下であれば◎、20μm超、50μm以下であれば○、50μm超の場合は×と評価した。
使用工具:超硬P種、刃先R0.4mm,切削速度:200m/min,送り量:0.02mm/rev,切込み:0.11mm,切削油(鉱物油):有りの送り量が005mm/rev.以下,切込み≦0.3mmの精密切削加工の条件で、棒線の外周を周方向に切削加工し、30分間切削加工した使用後の工具の状態を調べた。
使用後の工具のフランク摩耗量が境界摩耗,編摩耗を含めて20μm以下であれば◎、20μm超、50μm以下であれば○、50μm超の場合は×と評価した。
「焼入れ硬さ」
10mm長さに切断後、1100℃から空冷で焼入れを行い、樹脂に埋め込み、研磨後、縦断面の中心部をJIS Z2244により1kg荷重のHv硬さを測定した。
10mm長さに切断後、1100℃から空冷で焼入れを行い、樹脂に埋め込み、研磨後、縦断面の中心部をJIS Z2244により1kg荷重のHv硬さを測定した。
「固溶N量」
素材1gを無水マレイン酸中で電解して0.2μmメッシュのろ紙により析出物を抽出し、その後、抽出物を酸液で溶解後に原子吸光により析出物中の窒化物として析出しているN量を求め、鋼材のトータル窒素量から析出物中のN量を差し引いて、固溶N量を求めた。
素材1gを無水マレイン酸中で電解して0.2μmメッシュのろ紙により析出物を抽出し、その後、抽出物を酸液で溶解後に原子吸光により析出物中の窒化物として析出しているN量を求め、鋼材のトータル窒素量から析出物中のN量を差し引いて、固溶N量を求めた。
表3の本発明例1~45は、長径0.5μm以下のBNの数密度が100μm2中20個以上、固溶N量が0.01%以上であり、400Hv以下の素材硬さを示し、いずれも優れた切削表面性状や工具寿命を示す。
一方、表4の比較例1~9、11~35は、本発明の成分範囲,BNの数密度範囲、素材硬さ範囲,固溶N量範囲から外れており、優れた切削表面性状と工具寿命のすべてを満足することができなかった。比較例10は、Cr量が少なく、BNの数密度範囲、素材硬さ範囲,固溶N量範囲は本発明の範囲内であり、切削表面性状と工具寿命も優れていたが、耐食性が不足した。
(実施例2)
65kgの真空溶解炉にて1600℃で溶解、鋳型に鋳造した鋼Bについて、1100~1350℃加熱後にφ9mmの線材に熱間加工して650~1000℃で30~500分の軟化焼鈍を施し、φ6.3mmに冷間伸線を行い、650~900℃で20~1500s保定のストランド焼鈍(アンモニア分解ガス中)を施した。その後、φ6.0mmに抽伸機で磨棒に仕上げ切削用の素材とした。その後、BN化合物の数密度(単位面積当たりの個数)、素材硬さ,外周切削後の表面性状及び工具寿命,焼入れ硬さについて評価を実施した。その結果を表5に示す。
65kgの真空溶解炉にて1600℃で溶解、鋳型に鋳造した鋼Bについて、1100~1350℃加熱後にφ9mmの線材に熱間加工して650~1000℃で30~500分の軟化焼鈍を施し、φ6.3mmに冷間伸線を行い、650~900℃で20~1500s保定のストランド焼鈍(アンモニア分解ガス中)を施した。その後、φ6.0mmに抽伸機で磨棒に仕上げ切削用の素材とした。その後、BN化合物の数密度(単位面積当たりの個数)、素材硬さ,外周切削後の表面性状及び工具寿命,焼入れ硬さについて評価を実施した。その結果を表5に示す。
表2の本発明例46~53は、長径0.5μm以下のBNの数密度が100μm2中20個以上、固溶N量が0.01%以上であり、400Hv以下の素材硬さを示し、いずれも優れた切削表面性状や工具寿命を示す。
一方、表5の比較例36~42は、本発明の成分範囲,BNの数密度範囲、素材硬さ範囲,固溶N量範囲から外れており、優れた切削表面性状と工具寿命のすべてを満足することができない。
以上の各実施例から明らかなように、本発明により、精密切削加工時の優れた平坦度を有する切削表面性状と工具寿命を有するマルテンサイト系快削ステンレス鋼を提供することができ、腐食の厳しく、耐疲労強度や耐摩耗性が必要な環境下で使用される高硬度部品の耐久性を大幅に向上することができ、産業上極めて有用である。
Claims (6)
- 質量%で、
C :0.10~0.70%、
Si:0.1~2.0%、
Mn:0.1~3.0%、
S :0.02以上、0.15%未満、
P :0.10%以下、
Cr:10.5~17.0%、
B :0.0010~0.010%、
N :0.02~0.15%、
Al:0.008%以下、及び
O :0.015%以下
を含有し、残部がFe及び不純物である化学成分を有し、
固溶N量が0.010~0.050%であり、
0.5μm以下のBN系金属間化合物が100μm2中に20個以上あり、
硬さが400Hv以下である
ことを特徴とするマルテンサイト系快削ステンレス鋼。 - 前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、
Ni:1.5%以下、
Mo:2.5%以下、
Cu:1.5%以下、
Co:1.5%以下、及び
W :2.5%以下
の内、1種類以上を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のマルテンサイト系快削ステンレス鋼。 - 前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、
Bi:0.20%以下、
Sn:0.30%以下、
Sb:0.30%以下、
Ag:0.30%以下、及び
Te:0.10%以下
の内、1種類以上を含有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のマルテンサイト系快削ステンレス鋼。 - 前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、
V :0.8%以下、
Nb:0.3%以下、
Ti:0.3%以下、及び
Ta:0.3%以下
の内、1種類以上を含有する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のマルテンサイト系快削ステンレス鋼。 - 前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、
Mg:0.010%以下、
Ca:0.010%以下、
Hf:0.010%以下、及び
REM:0.050%以下
の内、1種類以上を含有する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のマルテンサイト系快削ステンレス鋼。 - 請求項1~5のいずれか1項に記載の化学成分を有する鋳片を1150~1330℃に加熱する加熱工程、
加熱した上記鋳片に熱間圧延又は熱間加工を施す加工工程、
750~900℃で60~300分保定するバッチ焼鈍工程、
700~850℃の温度域で保定し、500℃以上の温度範囲を1℃/s以上の冷却速度で冷却するストランド焼鈍工程
を備えることを特徴とする本発明のマルテンサイト系快削ステンレス鋼の製造方法。
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JP2021020730A JP2022123411A (ja) | 2021-02-12 | 2021-02-12 | 精密切削性に優れるマルテンサイト系快削ステンレス鋼 |
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