JP2022141117A - 精密切削性に優れるフェライト系快削ステンレス鋼 - Google Patents

精密切削性に優れるフェライト系快削ステンレス鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】精密切削加工時の優れた平坦度の切削表面性状と工具寿命を有するフェライト系ステンレス鋼を提供する。【解決手段】本発明のフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.10未満、Si:0.1~2.0%、Mn:0.1~3.0%、S:0.02~0.40%、P:0.10%以下、Cr:13.0~22.0%、B:0.001~0.01%、N:0.015~0.15%、Al:0.008%以下、及びO:0.015%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学成分を有し、0.5μm以下のBN系金属間化合物が100μm2中に20個以上あり、固溶N量が0.010~0.060%であることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、耐食性が必要な小型部品に切削される材料に関して、構成刃先の生成を抑制した精密切削性に優れるフェライト系ステンレス鋼に関するものである。
フェライト系ステンレス鋼は、耐食性,低熱膨張率等の観点から、耐久性を要する精密機器部品に使用される。特に棒線を素材とする磨棒から切削加工される精密機器部品では、回転体に使用されることが多く、とりわけ精密な切削加工性が必要になる。具体的には、切削加工時の工具寿命に優れ、かつ、構成刃先の脱落痕のない非常に平滑な切削表面が求められる。構成刃先は切削工具先端上に母材が凝着により生成・成長する堆積物であり、切削途中に工具先端から脱落することで切削表面上に圧着されて表面性状を劣化させる。
これまで、高耐食性フェライト系ステンレス鋼において、Bを添加して酸素とBの比率を制御することでBを含む酸化物系介在物を析出させ、Pb並みの切削性を有するフェライト系快削ステンレス鋼の提案がある(特許文献1)。
また、PbやMnSの切削粒子の代替として窒化ホウ素粒子を0.1%以上分散したフェライト系快削ステンレス鋼の提案がある(特許文献2)。快削性付与材を添加してなるオーステナイト系ステンレス鋼にBを添加してh-BN(六方昌系窒化ホウ素)粒子を鋼中に均一に分散して切削性を付与することも提案されている(特許文献3)。
さらに、Pb等の代替としてS添加のフェライト系ステンレス鋼にBとNを添加し、B,N,Sを含む金属間化合物のサイズと個数密度を制御したフェライト系快削ステンレス鋼が提案されている(特許文献4)。
特開2008-274361号公報 特開2003-129191号公報 特許第5142289号公報 特許第5957241号公報
特許文献1~4には、構成刃先痕の抑制が十分でなく、平滑な切削表面性状の課題が解決できずに精密な切削表面性状の観点から課題がある。
本発明者らは、上記の背景技術に記載の公知の技術又は組み合わせでは、優れた切削性を付与した高耐食フェライト系快削ステンレス鋼において、優れた工具寿命と、構成刃先痕を抑制した優れた平滑な表面性状の両立ができないことを知見した。
本発明の解決すべき課題は、腐食環境の厳しく、精度が求められる環境下で使用されるフェライト系ステンレス鋼の精密部品用として、切削加工時の工具寿命に優れ、切削加工で優れた平坦度を有する切削表面性状を得ることができる、高耐食性のフェライト系快削ステンレス鋼を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するためにS含有のフェライト系快削ステンレス鋼において種々検討した結果、快削元素のS含有系にB、Nを添加し、N固溶化軟化処理によりBNを微細析出させて固溶N量を制御することで精密切削加工時の構成刃先痕を抑制して切削加工で平滑性に優れる表面性状が得られる知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.10%未満、Si:0.1~2.0%、Mn:0.1~3.0%、S:0.02~0.40%、P:0.10%以下、Cr:13.0~22.0%、B:0.001~0.01%、N:0.015~0.08%、Al:0.008%以下、及びO:0.015%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなる化学成分を有し、固溶N量が0.010~0.060%であり、0.5μm以下のBN系金属間化合物が100μm2中に20個以上あることを特徴とするフェライト系快削ステンレス鋼。
(2)前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、Ni:1.5%以下、Mo:2.5%以下、Cu:1.5%以下、Co:1.5%以下、及びW:2.5%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)のフェライト系快削ステンレス鋼。
(3)前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、Bi:0.20%以下、Sn:0.30%以下、Sb:0.30%以下、Ag:0.30%以下、及びTe:0.10%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)のフェライト系快削ステンレス鋼。
(4)前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、V:0.8%以下、Nb:0.5%以下、Ti:0.5%以下、及びTa:0.5%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかのフェライト系快削ステンレス鋼。
(5)前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、Mg:0.010%以下、Ca:0.010%以下、Hf:0.010%以下、及びREM:0.050%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)~(4)のいずれかのフェライト系快削ステンレス鋼。
(6)前記(1)~(5)のいずれかの化学成分を有する鋳片を1150~1330℃に加熱する加熱工程、加熱した上記鋳片に熱間圧延又は熱間加工を施す加工工程、700~900℃で60~300分保定するバッチ焼鈍工程、700~900℃の温度域で保定し、1℃/s以上の冷却速度で冷却するストランド焼鈍を備えることを特徴とする本発明のフェライト系快削ステンレス鋼の製造方法。
本発明によれば、フェライト系快削ステンレス鋼において、金属組織と金属間化合物の制御のために適正な成分調整と熱処理を施すことで、良好な切削工具寿命と構成刃先痕を抑制した優れた平坦な切削表面性状が得られ、耐食性に優れた精密部品に好適な材料を提供する。
以下に本発明の各要件について説明する。なお、以下の説明における「%」は特に断りのない限り、「質量%」である。
《鋼の必須成分組成》
本発明の高耐食性フェライト系快削ステンレス鋼は、一般的に耐久性と低熱膨張率を必要とする部品が対象であり、高耐食性フェライト系ステンレス鋼がベースとなる。
Cは、母材の強度を確保するためにため0.10%未満含有できる。しかしながら、0.10%以上を添加するとCr炭化物が多量に生成して、耐食性が劣化するばかりか、切削表面性状,工具寿命が劣化する。そのため、0.10%未満に限定する。好ましくは、0.08%以下である。
Nは、後述するN固溶軟化処理でBN系金属間化合物を得て、また、固溶N量を確保して構成刃先痕の生成を抑制するために0.015%添加する。しかしながら、0.08%を超えて含有させるとCr窒化物による耐食性劣化が生じるばかりか、切削表面性状が劣化する。そのため、0.08%以下に限定する。好ましくは、0.02~0.06%の範囲である。
Siは、脱酸を行って切削表面性状を劣化させる粗大な介在物の生成を抑制するため、0.1%以上含有させる。しかしながら、2.0%を超えて含有させると硬質化して工具への母材の凝着を促進して構成刃先痕の生成を助長する。そのため、2.0%以下に限定する。好ましくは、0.2~1.0%の範囲である。
Mnは、脱酸を行って切削表面性状を劣化させる粗大な介在物の生成を抑制し、硫化物を形成して良好な工具寿命を確保するため、0.1%以上含有させる。しかしながら、3.0%を超えて含有させると固溶硬化で硬化して工具寿命が劣化する。そのため、3.0%以下に限定する。好ましくは、0.2~2.0%の範囲である。
Sは、硫化物を形成して良好な工具寿命を確保するために0.02%以上添加する。しかしながら、0.40%を超えて含有させると精密切削加工時の工具上の構成刃先痕の生成が顕著となり、切削表面上への構成刃先の脱落痕を防止できなくなる。そのため、0.40%以下に限定する。好ましくは、0.03~0.30%の範囲である。
Pは、原料から不可避的不純物として混入するが、0.10%を超えて含有すると粒界偏析により耐食性が劣化するばかりか製造性が著しく低下する。そのため、0.10%以下に限定する。好ましくは、0.05%以下である。
Crは、ステンレス鋼の耐食性の機能を得て低熱膨張率で軟質な切削性の良好なフェライト組織を得るために、13.0%以上を含有させる。しかしながら、20.0%を超えて含有させると、工具との焼き付きが激しくなり、切削表面性状を確保できなくなる。そのため、22.0%以下に限定する。好ましくは、15.0~20.0%である。
Bは、Nとともに添加することでN固溶軟化処理時に微細なBNを形成して工具表面での母材の凝着を抑制し、切削表面での構成刃先痕を防止する。そのため、0.001%以上添加する。しかしながら、0.0100%を超えて添加すると粗大なボライドが生成して逆に構成刃先の生成を促進させるばかりか製造性を著しく劣化させる。そのため0.0100%以下に限定する。好ましくは、0.0020~0.0070%である。
Alは、脱酸のために添加してもよいが、0.008%を超えて含有すると粗大介在物が生成して表面性状が劣化する。そのため、0.008%以下に限定する。好ましくは、0.006%以下である。
Oは、不可避的不純物として混入するが、0.015%を超えて含有すると粗大介在物が生成して切削表面性状が劣化する。そのため、0.015%以下に限定する。好ましくは、0.012%以下である。
発明のフェライト系快削ステンレス鋼が含有するNのうち、固溶N量が0.01~0.06%である。
フェライト母相への固溶Nは、切削加工時の母材を脆化させて構成刃先の生成を抑制して良好な表面性状を得るのに有効である。そのため、固溶N量を0.01%以上に限定する。しかしながら、0.060%を超えてNを固溶させると、効果して逆に工具寿命が劣化する。そのため、固溶N量の上限を0.06%とした。本発明では後述するようにストランド焼鈍(急冷)でNをフェライト母相に固溶させる。
本発明のフェライト系快削ステンレス鋼の金属組織は、0.5μm以下のBN系金属間化合物を100μm2中に20個以上含む。
BNは、自己潤滑作用により工具上への母材の凝着を抑制して構成刃先の生成を防止して優れた切削表面性状を得るのに有効である。ただし、0.5μmサイズを超える粗大なBNが分散していると、工具先端で塑性変形した母材とBNが層状に積層・堆積されて構成刃先が生成・成長する。そのため、長径0.5μmサイズ以下のBNを微細分散させて積層・堆積を抑制する。なお、100μm2中に20個以上の数密度でBNが微細分散しているとその効果は顕著になる。好ましくは、100μm2中に30個以上である。
《選択的含有成分》
本発明のステンレス鋼は、上述してきた元素以外は、Fe及び不純物からなる化学成分から構成される。さらに、前記成分組成に加え、Feの一部に替えて、選択的に以下に示す元素を含有してもよい。
Ni、CuやCoの元素は添加しなくてもよい。添加すれば製品の耐食性や靭性を向上させる効果を有する。しかしながら、1.5%を超えて添加すると、焼鈍で軟化しにくくなり、工具寿命が劣化する。そのため、含有量を1.5%以下とする。上記効果を確実に得るには、各元素の含有量を0.01%以上、1.0%以下とすることが好ましい。
MoやWの元素は添加しなくてもよい。劣化すれば製品の耐食性を向上させる効果を有する。しかしながら、2.5%を超えて添加すると、その効果は飽和するし、逆に切削加工時の工具寿命を劣化させる。そのため、含有量を2.0%以下とする。上記効果を確実に得るには、各元素の含有量を0.01%以上、2.0%以下とすることが好ましい。
Biの元素は添加しなくてもよい。添加すれば、切削加工時に自己潤滑作用として働き、構成刃先の生成を抑制して切削表面性状を向上させる効果を有する。しかしながら、0.20%を超えて添加すると、熱間製造性が著しく劣化して製造できなくなる。そのため、含有量を0.20%以下とする。上記効果を確実に得るには、各元素の含有量を0.01%以上、2.0%以下とすることが好ましい。
Sn、Sb,Agの元素は添加しなくてもよい。添加すれば、切削加工時に自己潤滑作用として働き、構成刃先の生成を抑制して切削表面性状を向上させる効果を有する。しかしながら、0,30%を超えて添加すると、熱間製造性が著しく劣化して製造できなくなる。そのため、含有量を0.30%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.005%以上、0.20%以下とすることが好ましい。
Teの元素は添加しなくてもよい。添加すれば球状の硫化物を生成して、構成刃先の積層・成長を抑制して切削表面性状を向上させる効果を有する。しかしながら、0.10%を超えて添加すると、熱間製造性が著しく劣化して製造できなくなる。そのため、含有量を0.10%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.005%以上、0.05%以下とすることが好ましい。
Vの元素は添加しなくてもよい。添加すれば製品の耐食性を向上させる効果を有する。しかしながら、0.8%を超えて添加すると、粗大な炭窒化物が形成して構成刃先の積層・成長を助長して切削表面性状が劣化し、工具寿命も劣化させる。そのため、上限を0.8%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.05%以上、0.5%以下とすることが好ましい。
Nb、Ti、Taの元素は添加しなくてもよい。添加すれば、製品の耐食性を向上させる効果を有する。しかしながら、0.5%を超えて添加すると、粗大な炭窒化物が形成して構成刃先の積層・成長を助長して切削表面性状が劣化し、工具寿命も劣化させる。そのため、上限を0.5%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.01%以上、0.4%以下とすることが好ましい。
Mg,Ca,Hfの元素は添加しなくてもよい。添加すれば熱間製造性を向上させる効果を有する。しかしながら、それぞれ0.010%を超えて添加しても、その効果は飽和するし、逆に粗大な酸化物を生成して切削表面性状を劣化させる。そのため、含有量を0.010%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.001%以上、0.005%以下とすることが好ましい。
REMの元素は添加しなくてもよい。添加すれば熱間製造性を向上させる効果を有する。しかしながら、0.050%を超えて添加しても、その効果は飽和するし、逆に粗大な酸化物を生成して切削表面性状を劣化さえる。そのため、含有量を0.050%以下とする。上記効果を確実に得るには含有量を0.001%以上、0.005%以下とすることが好ましい。REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で含有させてもよいし、混合物であってもよい。
本発明のステンレス鋼が含有する不純物について、代表的な不純物としては、Zn、Pb、Ge、Se、Ag、Se等が挙げられ、通常、鉄鋼の製造プロセスで不純物として、0.1%程度の範囲で混入する。
不純物である酸素は鋼中で主に介在物として存在するが、通常の精錬で製造されるステンレス鋼の酸素含有レベルは0.001~0.015%である。
また、任意添加元素について、代表的なものを上記(2)~(5)で規定しているが、本明細書中に記載されていない元素であっても、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
《フェライト系ステンレス鋼の製造方法》
本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
0.5μmサイズ以下のBNを100μm2中に20個以上の数密度で微細分散させるためには、上述した成分を有する鋳片を1150~1330℃に一旦高温加熱して、熱間圧延や熱間加工を行ってBNを固溶させた後に、得られた鋼材(線材や鋼線等)に700~900℃で60~300分保定するバッチ焼鈍を施す。
鋳片の加熱温度が1150℃未満ではBNが固溶せずに上述の数密度を満たさなくなり、1330℃を超えると製造性が劣化する。そのため、加熱温度を1150~1330℃、さらにBNの固溶の観点から1250℃超、1320℃以下とする。
また、バッチ焼鈍温度が700℃よりも低く、60分よりも短時間であるとBN析出量が減少して上述の数密度を満たさなくなる。一方、バッチ焼鈍温度が900℃よりも高く、300分よりも長時間であるとBNサイズが粗大化することで上述の数密度を満たさなくなる。そのため、バッチ焼鈍条件を700~900℃で60~300分保定、好ましくは100~250分保定に限定する。
上記BNの分散状態を保ったままでフェライト中の固溶N量を確保するためには、前記のバッチ焼鈍の後に、700~900℃の温度域で保定し、500℃以上の温度範囲を1℃/s以上の冷却速度で冷却するストランド焼鈍を施す。
通常のフェライト系ステンレス鋼の軟化焼鈍では、線材や鋼線等のコイル全体がバッチ焼鈍により約650~950℃の温度範囲で保定されて炉冷されるため、例えば0.02℃/sオーダーの冷却速度で徐冷される。高温で固溶していたNは徐冷中に窒化物として存在状態を変えるため、通常のバッチ焼鈍では固溶N量は0.01%未満になる。
本発明において、前述の焼鈍後に、フェライト相のN固溶限が0.01~0.06%で、BNが固溶しない700~900℃の温度域で保定し、窒化物が形成する500℃以上の温度範囲を1℃/s以上で急冷するストランド焼鈍を施す。これにより、前記のBNの微細分散状態を保ったままフェライト相中のN固溶を0.01~0.06%に保持できる。
ストランド焼鈍とは、リング状に捲かれた線材や鋼線コイルを直線状に展開して1本の直線状態で短時間熱処理(窒素、Arやアンモニア分解ガス等の雰囲気中)し、空冷や間接空冷する焼鈍方法を言う。この方法によれば、リング状コイル全体のバッチ焼鈍に比べて冷却速度を著しく早くすることが可能である。
この時、保定温度が700℃未満では固溶N量が0.01%よりも低くなり、900℃以上ではオーステナイト相が生成して冷却時に硬質なマルテンサイト組織が生成して、前述するような十分な切削性(切削表面性状,工具寿命)が得られない。そのため、ストランド焼鈍温度は700~900℃の範囲に限定する。好ましくは、750~850℃である。在炉時間は任意であるが、30~1000sの範囲が素材の熱変形もなく、均一に熱が入るので好ましい。
また、前述のバッチ焼鈍とストランド焼鈍の工程間に冷間伸線加工等の加工が入っても差し支えない。バッチ焼鈍,ストランド焼鈍を複数回実施してもよいが、最後の熱処理はストランド焼鈍を行う必要がある。
以上説明したとおり、本発明によれば、精密切削加工される熱膨張率の小さい精密部品用として、切削加工時の表面切削表面性状を劣化さえる構成刃先の生成・成長を抑制できるフェライト系快削ステンレス鋼を提供できる。
(実施例1)
65kgの真空溶解炉にて表1及び表2に示す化学組成の鋼を1600℃で溶解した後、鋳型に鋳造した。その後、1200℃加熱後にφ9mmの線材に熱間加工して850℃で120分のバッチ焼鈍を施し、φ6.3mmに冷間伸線を行い、850℃で200s保定のストランド焼鈍(アンモニア分解ガス中)を施した。その後、φ6.0mmに抽伸機で磨棒に仕上げ切削用の素材とした。
Figure 2022141117000001
Figure 2022141117000002
このようにして得られた棒材について、以下に示す評価方法により、BN化合物の数密度(単位面積当たりの個数)、外周切削後の表面性状及び工具寿命について評価を実施した。その結果を表3及び表4に示す。表3は本発明鋼の評価結果、表4は比較鋼の評価結果である。
Figure 2022141117000003
Figure 2022141117000004
「金属間化合物(BN化合物)」
樹脂に埋め込み、鏡面研磨を行った棒線の縦断面をアルコール系腐食液で析出物を電解抽出した後にカーボン蒸着によりレプリカ試料を作製し、その後、透過型電子顕微鏡にて析出物のサイズと分布を調査した。100μm2の面積を5視野観察し、長径が0.5μm以下のBN化合物の100μm2中の数密度を求めた。
「切削表面性状」
使用工具:超硬P種、刃先R0.4mm,切削速度:50m/min,送り量:0.02mm/rev.,切込み:0.1mm,切削油(鉱物油):有りの送り量が0.05mm/rev.以下の精密切削加工の条件で、棒線の外周を周方向に切削加工し、切削加工後の表面について、100倍の拡大鏡にて観察して明確な構成刃先痕の有無で評価した。明確な構成刃先痕が認められる場合を×、微小な構成刃先婚が散見される場合を〇、明確に認められない場合を◎として評価した。
「工具寿命」
使用工具:超硬P種、刃先R0.4mm,切削速度:200m/min,送り量:0.02mm/rev.,切込み:0.11mm,切削油(鉱物油):有りの送り量が005mm/rev.以下,切込み≦0.3mmの精密切削加工の条件で、棒線の外周を周方向に切削加工し、30分間切削加工した使用後の工具の状態を調べた。使用後の工具のフランク摩耗量が境界摩耗,編摩耗を含めて20μm以下であれば◎、20μm超、50μm以下であれば○、50μm超の場合は×と評価した。
「固溶N量」
素材1gを無水マレイン酸中で電解して0.2μmメッシュのろ紙により析出物を抽出し、その後、抽出物を酸液で溶解後に原子吸光により析出物中の窒化物として析出しているN量を求め、鋼材のトータル窒素量から析出物中のN量を差し引いて、固溶N量を求めた。
表3の本発明例1~43は、長径0.5μm以下のBNの数密度が100μm2中20個以上、固溶N量が0.01~0.06%であり、いずれも優れた切削表面性状や工具寿命を示す。
一方、表4の比較例1~9、11~33は、本発明の成分範囲,BNの数密度範囲、固溶N量範囲から外れており、優れた切削表面性状と工具寿命のすべてを満足することができなかった。比較例10は、Cr量が少なく、BNの数密度範囲、素材硬さ範囲、固溶N量範囲は本発明の範囲内であり、切削表面性状と工具寿命も優れていたが、耐食性が不足した。
(実施例2)
65kgの真空溶解炉にて1600℃で溶解、鋳型に鋳造した鋼Aについて、1100~1360℃加熱後にφ9mmの線材に熱間加工して650~1000℃で30~500分の軟化焼鈍を施し、φ6.3mmに冷間伸線を行い、650~950℃で30~1500s保定のストランド焼鈍(アンモニア分解ガス中)を施した。その後、φ6.0mmに抽伸機で磨棒に仕上げ切削用の素材とした。その後、BN化合物の数密度(単位面積当たりの個数),外周切削後の表面性状及び工具寿命ついて評価を実施した。その結果を表5に示す。
Figure 2022141117000005
表5の本発明例44~51は、長径0.5μm以下のBNの数密度が100μm2中20個以上、固溶N量が0.01~0.06%であり、いずれも優れた切削表面性状や工具寿命を示した。
一方、表5の比較例34~41は、本発明の成分範囲,BNの数密度範囲,固溶N量範囲から外れており、優れた切削表面性状と工具寿命のすべてを満足することができなかった。
以上の各実施例から明らかなように、本発明により、精密切削加工時の優れた平坦度を有する切削表面性状と工具寿命を有するフェライト系快削ステンレス鋼を提供することができ、熱膨張率が小さい精密部品の腐食の厳しい環境下での耐久性を大幅に向上することができ、産業上極めて有用である。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C :0.10%未満、
    Si:0.1~2.0%、
    Mn:0.1~3.0%、
    S:0.02~0.40%、
    P :0.10%以下、
    Cr:13.0~22.0%、
    B :0.001~0.01%、
    N :0.015~0.08%、
    Al:0.008%以下、及び
    O :0.015%以下
    を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学成分を有し、
    固溶N量が0.010~0.060%であり、
    0.5μm以下のBN系金属間化合物が100μm2中に20個以上ある
    ことを特徴とするフェライト系快削ステンレス鋼。
  2. 前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、
    Ni:1.5%以下、
    Mo:2.5%以下、
    Cu:1.5%以下、
    Co:1.5%以下、及び
    W :2.5%以下
    の内、1種類以上を含有する
    ことを特徴とする請求項1に記載のフェライト系快削ステンレス鋼。
  3. 前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、
    Bi:0.20%以下、
    Sn:0.30%以下、
    Sb:0.30%以下、
    Ag:0.30%以下、及び
    Te:0.10%以下
    の内、1種類以上を含有する
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフェライト系快削ステンレス鋼。
  4. 前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、
    V :0.8%以下、
    Nb:0.5%以下、
    Ti:0.5%以下、及び
    Ta:0.5%以下
    の内、1種類以上を含有する
    ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のフェライト系快削ステンレス鋼。
  5. 前記Feの一部に変えて、さらに質量%で、
    Mg:0.010%以下、
    Ca:0.010%以下、
    Hf:0.010%以下、及び
    REM:0.050%以下
    の内、1種類以上を含有する
    ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のフェライト系快削ステンレス鋼。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載の化学成分を有する鋳片を1150~1330℃に加熱する加熱工程、
    加熱した上記鋳片に熱間圧延又は熱間加工を施す加工工程、
    700~900℃で60~300分保定するバッチ焼鈍工程、
    700~900℃の温度域で保定し、1℃/s以上の冷却速度で冷却するストランド焼鈍
    を備えることを特徴とする本発明のフェライト系快削ステンレス鋼の製造方法。
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