JP2022120104A - ハット形鋼矢板および鋼矢板壁の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ハット形鋼矢板の打設時に地上部で発生する断面内のねじり変形を低減することによって施工性を向上させる。【解決手段】ハット形鋼矢板は、長手方向に直交する断面において、奥行き方向の第1の側で幅方向に沿って延びるウェブと、ウェブの幅方向の両端部から幅方向の両側、かつ奥行き方向の第2の側に向かって延びる1対のフランジと、奥行き方向の第2の側で1対のフランジのそれぞれの端部から幅方向に沿って、かつ幅方向の両側に向かって延びる1対のアームと、1対のアームのそれぞれの1対のフランジとは反対側の端部に形成される嵌合継手とを備える。断面におけるハット形鋼矢板の断面積Ae(cm2)と、ハット形鋼矢板の有効幅W(cm)と、ハット形鋼矢板1の高さH(cm)とは、以下の式(i)の関係を満たし、有効幅Wは110cm以上である。Ae/(W・H)≧0.04・・・(i)【選択図】図1
Description
本発明は、ハット形鋼矢板および鋼矢板壁の製造方法に関する。
ハット形鋼矢板は、土木建築工事において、土留めや止水のための壁体を構築するために広く利用されている。ハット形鋼矢板は打設時に地盤に貫入させられるため、貫入抵抗をより小さくすることによって施工性を向上させる技術が提案されている。例えば、特許文献1では、ハット形鋼矢板の断面においてそれぞれのフランジの中央を通る垂線の交点がハット形鋼矢板の溝断面外に位置するようにフランジ角度、すなわちフランジがウェブおよびアームとの間になす角度を設定することによって、打設時の排土圧を抑制して施工性を向上させる技術が記載されている。特許文献2にも、フランジ角度を最適化することによって貫入抵抗を最小化する技術が記載されている。また、特許文献3には、経済性指標と、鋼矢板下端での貫入抵抗を示す施工性指標とに基づいてフランジ角度を設定する技術が記載されている。特許文献4には、経済性評価指数と、打設時に鋼矢板下端に作用する閉塞抵抗の断面積に対する比を示す施工性評価指数との関係に基づいて、経済性および施工性のうち少なくとも一方の性能に優れた鋼矢板の断面形状を設定する技術が記載されている。
上記の特許文献1から特許文献4に記載された技術は、いずれも、鋼矢板の地中での挙動に着目し、地盤に貫入させられた後に作用する貫入抵抗や閉塞抵抗をより小さくすることによって施工性を向上させることを目的としている。即ち、鋼矢板の施工性を評価する手法として、これまでは地盤内での鋼矢板挿入時のメカニズムのみに着目して、鋼矢板周辺の地盤抵抗や土粒子挙動との関係から、最適な鋼矢板形状を模索してきた。しかしながら、本発明者らが得た知見によれば、そのような鋼矢板の地中での挙動に加えて、打設中の地上部での挙動も施工性に影響する。つまり、実際の鋼矢板の打設は、鋼矢板が地盤内に打設されている状況と、地上部に突出している状況とが、併進するかたちで進行し、鋼矢板の施工性は、地盤内と地上部での鋼矢板の連成挙動の影響を受ける。具体的には、鋼矢板を継手で幅方向に連結しながら打設するときに、先行して打設された鋼矢板に継手を拘束された状態で打設されるハット形鋼矢板に断面内のねじり変形が発生することによって施工性が低下することがわかった。
具体的には、ハット形鋼矢板にねじりやたわみなどの変形が生じると、打設時に鋼矢板下端以深や鋼矢板側面からの地盤から受ける貫入抵抗や、先行して打設された鋼矢板の継手との嵌合抵抗が増大する可能性がある。また、地上部においてハット形鋼矢板にたわみやねじれなどの変形が発生すると、バイブロハンマーなどの施工機が傾いたり揺動したりすることによって、本来はハット形鋼矢板を鉛直方向に振動させるために使われる施工機の振動エネルギーがハット形鋼矢板の水平方向の振動や回転挙動のエネルギーとして損失になり、結果としてハット形鋼矢板の地盤内への貫入速度が低下する可能性がある。施工機が傾いたり揺動してしまったりすると、鋼矢板頭部には水平方向の荷重が加わることになるため、鋼矢板のたわみやねじれ挙動が増長され、更に振動エネルギーの損失が増大する悪循環に陥る可能性がある。よって、鋼矢板の良好な施工性を確保するためには、地盤内挙動のみならず、地上部において、鋼矢板のたわみやねじれ変形を抑制することが重要となる。
ところが、このような施工性の低下の原因になりうるハット形鋼矢板の地上部での挙動については、上記の特許文献1から特許文献4には記載されていない。鋼矢板の打設性を評価する上において、地盤内での挙動のみならず、地上部も含めて、鋼矢板全体挙動を見渡して、最適な鋼矢板断面形状を模索することは従来行われてこなかった。これは、1つには、鋼矢板の断面が小さい場合、施工機が鋼矢板を支持する位置が鋼矢板の断面重心から大きく偏心することがなく、従って地上部において施工性に影響するほどの鋼矢板のたわみやねじれなどの変形が生じにくかったためである。そのため、鋼矢板の施工性は、地盤からの抵抗が支配的であると考えられてきた。実際、鋼矢板が小型であれば、地上部において、打設時の鋼矢板の断面変形は顕著に露出することがなく、地上部での変形挙動と施工性との関連性には着目されず、両者の関連性に関する知見はなかった。しかしながら、近年、ハット形鋼矢板の大断面化によって、地上部におけるハット形鋼矢板のねじれやたわみなどの変形挙動が拡大し、施工性に影響する可能性が生じてきている。
そこで、本発明は、ハット形鋼矢板の打設時に地上部で発生する断面内のねじり変形を低減することによって施工性を向上させることが可能な、新規かつ改良されたハット形鋼矢板および鋼矢板壁の製造方法を提供することを目的とする。
本発明のある観点によれば、ハット形鋼矢板は、長手方向に直交する断面において、奥行き方向の第1の側で幅方向に沿って延びるウェブと、ウェブの幅方向の両端部から幅方向の両側、かつ奥行き方向の第2の側に向かって延びる1対のフランジと、奥行き方向の第2の側で1対のフランジのそれぞれの端部から幅方向に沿って、かつ幅方向の両側に向かって延びる1対のアームと、1対のアームのそれぞれの1対のフランジとは反対側の端部に形成される嵌合継手とを備える。断面におけるハット形鋼矢板の断面積Ae(cm2)と、ハット形鋼矢板の有効幅W(cm)と、ハット形鋼矢板の高さH(cm)とは、以下の式(i)の関係を満たし、
有効幅Wは110cm以上である。
Ae/(W・H)≧0.04 ・・・(i)
有効幅Wは110cm以上である。
Ae/(W・H)≧0.04 ・・・(i)
上記のハット形鋼矢板では、有効幅Wが135cm以上であってもよく、高さHが45cm以下であってもよい。また、断面における断面積Ae(cm2)と、有効幅W(cm)と、高さH(cm)とが、以下の式(ii)の関係を満たしてもよい。
Ae/(W・H)≦0.048 ・・・(ii)
また、ハット形鋼矢板を幅方向に連結した壁体の壁幅1mあたりの断面二次モーメントが50000cm4/mレベル以下であってもよい。
Ae/(W・H)≦0.048 ・・・(ii)
また、ハット形鋼矢板を幅方向に連結した壁体の壁幅1mあたりの断面二次モーメントが50000cm4/mレベル以下であってもよい。
本発明の別の観点によれば、上記のハット形鋼矢板を用いた鋼矢板壁の製造方法が提供される。鋼矢板壁の製造方法は、ハット形鋼矢板の嵌合継手のうちの一方のみを先行して打設された鋼矢板の嵌合継手に嵌合させながらハット形鋼矢板を地中に打設する工程を含んでもよい。
上記の構成によれば、ハット形鋼矢板の打設時に地上部で発生する断面内のねじり変形を低減することによって施工性を向上させることができる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係るハット形鋼矢板の断面図である。図1に示されるように、ハット形鋼矢板1は、長手方向(図中のz方向)に直交する断面において、奥行き方向の第1の側(図中のy方向の奥側)で幅方向(図中のx方向)に沿って延びるウェブ2と、ウェブ2の幅方向の両端部から幅方向の両側、かつ奥行き方向の第2の側(図中のy方向の手前側)に向かって延び、幅方向との間にフランジ角度θ(鋭角側)をなすフランジ3A,3Bと、奥行き方向の第2の側でフランジ3A,3Bのそれぞれの端部から幅方向に沿って、かつ幅方向の両側に向かって延びるアーム4A,4Bと、アーム4A,4Bのそれぞれのフランジ3A,3Bとは反対側の端部に形成される嵌合継手5A,5Bとを含む。
後述するように、この断面におけるハット形鋼矢板1の断面積(図中でハッチングされた領域の面積)Aeと、ハット形鋼矢板1の有効幅Wと、ハット形鋼矢板1の高さHとは、以下の式(1)の関係を満たし、有効幅Wは110cm以上である。なお、有効幅Wは、断面における嵌合継手5A,5Bのそれぞれの嵌合中心EA,EB間の距離に等しい。また、高さHは、ハット形鋼矢板1の幅方向に一致するウェブ2の奥行き方向の第1の側(図中のy方向の奥側)の面と、同じくハット形鋼矢板1の幅方向に一致するアーム4A,4Bの奥行き方向の第2の側(図中のy方向の手前側)の面との間の距離に等しい。
Ae/(W・H)≧0.04 ・・・(1)
Ae/(W・H)≧0.04 ・・・(1)
なお、高さHを規定する際の「アーム4A,4Bの奥行き方向の第2の側の面」は、製造誤差などにより、必ずしも実際のアーム4A,4Bの面に厳密には一致しない場合がある。しかしながら、このような場合であっても、例えば設計図面に示されたハット形鋼矢板1の断面ではアーム4A,4Bの面が同一直線上にあり、この面を「アーム4A,4Bの奥行き方向の第2の側の面」として特定することができる。この場合、設計図面に示されたアーム4A,4Bの延びる方向は、ハット形鋼矢板1の幅方向に一致する。また、施工後に地中に打ち込まれたハット形鋼矢板1では、施工時などのアーム4A,4Bの変形によって、例えば地上に露出しているハット形鋼矢板1の頭部端面において「アーム4A,4Bの奥行き方向の第2の側の面」が必ずしも実際のアーム4A,4Bの面に厳密には一致しない場合がある。しかしながら、この場合も、例えば打設前の状況を示す設計図面で同一直線上に示されたアーム4A,4Bの面を「アーム4A,4Bの奥行き方向の第2の側の面」として特定することができる。設計図面によらない場合、地上に露出しているハット形鋼矢板1の頭部端面において、アーム4A,4Bのそれぞれの端部に位置する嵌合中心EA,EBを結ぶ直線をアーム4A,4Bの設計上の板厚中心線とし、この直線を奥行き方向の第2の側へアーム4A,4Bの板厚の半分だけ平行移動させることによって「アーム4A,4Bの奥行き方向の第2の側の面」を特定することができる。
なお、図1に示されたハット形鋼矢板1の形状が幾何学的に成り立つ場合、アーム長さBa、有効幅W、ウェブ長さBw、高さHおよびフランジ角度θは、W-Bw-2H/tanθ>0の関係を満たしている。
図2は、図1に示されたハット形鋼矢板の嵌合継手における嵌合中心について説明するための図である。図示されているように、ハット形鋼矢板1の嵌合継手5Aには、隣接して打設される別のハット形鋼矢板1の嵌合継手5Bが嵌合する。嵌合継手5Aの嵌合中心EAは、これに嵌合するアーム4Bおよび嵌合継手5Bを仮想的に配置した場合に、嵌合継手5Aが形成されるアーム4Aの端部位置と、仮想的な嵌合継手5Bが形成されるアーム4Bの端部位置との中間に位置する、アーム4Aおよびアーム4Bの設計上の板厚中心線上の点として定義することができる。ハット形鋼矢板1の反対側に位置する嵌合継手5Bの嵌合中心EBも、同様に定義することができる。上述のように、嵌合中心EA,EB間の距離は、ハット形鋼矢板1の有効幅Wに等しい。
図3および図4は、打設時のハット形鋼矢板に発生する水平方向のねじり変形について概念的に説明するための図である。図3に示されるように、ハット形鋼矢板1は、上端でフランジ3A,3Bを挟み込むバイブロハンマー6から加えられる鉛直方向の荷重によって打設される。バイブロハンマー6は、ハット形鋼矢板1を安定支持するために、奥行き方向(図中のy方向)の位置が断面の図心Cにほぼ一致するように配置される。
ここで、地表面近くには先行して打設されたハット形鋼矢板1Pがあり、ハット形鋼矢板1はハット形鋼矢板1Pの嵌合継手5Bに嵌合継手5Aを嵌合させながら打設される。従って、地表面近くでは、ハット形鋼矢板1の嵌合継手5Aは、ハット形鋼矢板1Pの嵌合継手5Bによって水平方向の変位を拘束される。嵌合継手5Aは、嵌合継手5Bと嵌合中心EAの近傍の複数の点で接触することによって水平方向の変位を拘束される。従って、ハット形鋼矢板1は、地上部に突出した長手方向下側の部分において、嵌合継手部と地盤からの拘束を受けることになる。これに対して、バイブロハンマー6による荷重の作用点である図心Cが上記のような水平方向の変位の拘束点から離れて位置するため、ハット形鋼矢板1には断面をねじる方向の曲げモーメントが発生する。
ここで、嵌合中心EAと図心Cとの間の距離は、ハット形鋼矢板1の幅方向(図中のx方向)および奥行き方向(図中のy方向)の間で異なるため、それぞれの方向に発生する曲げモーメントの大きさは異なる。また、それぞれの方向でのハット形鋼矢板1の断面二次モーメントも異なるため、それぞれの方向に発生するたわみに差が生じ、断面内にねじり変形が発生する。ハット形鋼矢板1の上端および下端はバイブロハンマー6および地盤によってそれぞれ拘束されているため、上記の曲げモーメントによって、ハット形鋼矢板1には反りねじりに比べて純ねじりが卓越して発生する。図4に示されるように、ハット形鋼矢板1の断面内の任意の点を中心とする純ねじりのねじり角φは、以下の式(2)で表される。なお、Mtは純ねじりの中心回りの曲げモーメント、Gはハット形鋼矢板1のせん断弾性係数、Jはハット形鋼矢板1の断面ねじりモーメントである。
φ=Mt/(G・J) ・・・(2)
φ=Mt/(G・J) ・・・(2)
一般に、嵌合継手5A,5Bは、ある程度のねじり角φを許容するように設計されている。しかしながら、φが大きくなると、打設されるハット形鋼矢板1の嵌合継手5Aと先行して打設されているハット形鋼矢板1Pの嵌合継手5Bとの間に発生する摩擦が増大することによって嵌合継手5A,5Bに損傷が発生したり、打設時の抵抗が増大したりすることによって施工性が低下する可能性がある。
ここで、ハット形鋼矢板1の断面の経済性の観点からは、有効幅Wを拡大しつつ薄肉とすることが有利である。しかしながら、薄肉とすると曲げモーメントに抵抗する断面積が減り、曲げモーメントに抵抗する断面ねじりモーメントが小さくなりねじり剛性が縮小し、これに伴ってねじり角φも大きくなる。それゆえ、ある一定以上の断面積を確保することが有効である。有効幅Wを拡大する場合には、単一のハット形鋼矢板1が占める有効幅と高さの範囲内において、ウェブ2、フランジ3A,3B、およびアーム4A,4Bの板厚によって断面ねじりモーメントJを確保する必要があるが、板厚を大きくすると断面の経済性が低下するため、どの程度の板厚が必要であるかを示す簡便な指標があることが望ましい。
本発明者らは、上記の点に鑑み、有効幅Wを従来のハット形鋼矢板よりも拡大しながら、ねじり角φを従来のハット形鋼矢板よりも低減することができるハット形鋼矢板1の断面形状の指標を、ハット形鋼矢板として、長手方向の上下端において長手方向への変位が固定され、長手軸方向まわりに断面を回転させるモーメントに対して、薄肉開断面に対する純ねじりがハット形鋼矢板1の長手方向の地上部に発生している状態を適用することで検討した。以下の検討は、ウェブ2、フランジ3A,3B、およびアーム4A,4Bの板厚を反映するパラメータとして断面積Ae、また曲げモーメントMtの大きさを反映するパラメータとしてハット形鋼矢板1の有効幅Wおよび高さHをそれぞれ用いることによって、ねじり角φを低減できるハット形鋼矢板1の断面形状の条件を簡便に特定することを意図している。
表1~表4に検討の結果を示す。検討は、ハット形鋼矢板1を幅方向に連結した壁体の壁幅1mあたりの断面二次モーメントIWが10000cm4/mレベル、25000cm4/mレベル、45000cm4/mレベル、および50000cm4/mレベルの場合のそれぞれについて行い、比較例1~比較例4として示す従来のハット形鋼矢板よりもねじり角φが低減された例を実施例1~実施例21として、従来のハット形鋼矢板よりもねじり角φが増大した例を参考例1~参考例14として、それぞれ示した。なお、上述の通り、本実施形態では有効幅Wを従来のハット形鋼矢板よりも拡大することが意図されているため、実施例1~実施例21ではいずれもハット形鋼矢板1の有効幅Wが110cm以上である。また、表1~表4に示されたウェブ厚さtw(cm)、ウェブ幅Bw(cm)、およびアーム幅Ba(cm)が表す寸法は、図1に示されている。上記のように、従来のハット形鋼矢板に比べて、ねじれの少ない鋼矢板としての性能を満たし、かつ経済的メリットも追及するためにハット形鋼矢板1の有効幅Wを拡大する場合、造形性等の観点から生産性を確保するために高さHは有効幅Wに対して小さい範囲に収めることが望ましく、高さを45cm以下に抑えた断面を追及している。それゆえ、実施例1~実施例21において高さHは45cm以下である(最も大きいのは実施例21でH=40.2cm)。有効幅が広く高さが低くても、有効幅と高さに対する断面積の比を所定内に設定することで、所定の耐ねじれ性能を満たす断面を形成することを目指している。
図5は、上記の比較例1~比較例4、実施例1~実施例21、および参考例1~参考例14を、有効幅W(cm)を横軸、断面積Aeと有効幅Wおよび高さHの積との比Ae/(W・H)を縦軸としてプロットしたグラフである。
ここで、図5のグラフの軸として設定した、ハット形鋼矢板の断面緒元を用いた指標について説明する。ハット形鋼矢板にねじりを発生させる曲げモーメントは、嵌合中心EAと図心Cとの間の幅方向および奥行き方向それぞれの距離に比例して大きくなる。ねじり角φの大きさは、曲げモーメントに比例し、断面ねじりモーメントに反比例する。そこで、曲げモーメントの大きさに関して、嵌合中心EAと図心Cとの間の幅方向および奥行き方向それぞれの距離を表す指標として、鋼矢板断面の有効幅Wと高さHを用い、両指標の効果を同時に含めるために両指標の積を用いた。また、断面ねじりモーメントの大きさを表す指標として、断面積Aeを用いた。
圧延可能な所定の面積の範囲内で、経済的な鋼矢板断面積Aeとするためには、当該面積に対する鋼矢板断面積Aeが小さいことが好ましい。圧延可能な所定の面積は、圧延後の鋼矢板の最終形状である、有効幅Wと高さHとの積に比例する。そのため、Ae/(W・H)は、鋼矢板断面の経済性を示す一つの指標になる。つまり、Ae/(W・H)は、上記のようにねじり角φの大きさを判断する指標にもなり、かつ経済性を評価する指標にもなり得る。図5のグラフは、断面積Ae、有効幅Wおよび高さHの3つの項目だけで2つの指標を評価できる簡便な指標であるAe/(W・H)を縦軸としている。
具体的には、ねじり角φを小さくするためには、Ae/(W・H)の値を大きくすることが有利であり、経済的な断面とするためには、Ae/(W・H)の値を小さくすることが有利である。つまり、Ae/(W・H)の値を大きくし過ぎると、ねじり角φは小さくなるものの経済性が悪化し、逆にAe/(W・H)の値を小さくし過ぎると、経済性は良好となるもののねじり角φは大きくなる。Ae/(W・H)の指標を用いることで、ねじり角φの低減と経済性とのバランスを図ること、即ち施工性と経済性の両者を同時に簡便に判断することができる。
一方、ハット形鋼矢板を経済的な断面とするためには、広幅化することが有効となる。ウェブ幅を大きくでき、所定幅に占めるフランジ部の面積割合を小さくできるので、より少ない断面積で、所定幅当たりの断面2次モーメント即ち曲げ剛性を確保できるためである。そこで、図5のグラフでは、曲げ剛性に対する経済性を評価することも視野に入れて、有効幅Wを横軸としている。
上述したような図5のグラフにおいて、比較例1~比較例4は点P1~P4として示されており、実施例1~実施例21は点E1~E21として示されており、参考例1~参考例14は点R1,R11~R14および点R2~R10のグループに分けて示されている。実施例を示す点E1~E21は、Ae/(W・H)≧0.04の範囲に含まれる。これに対して、参考例を示す点R2~R10はAe/(W・H)<0.04の範囲にある。一方、比較例を示す点P1~P4および参考例を示す点R1,R11~R14は、W<110cmの範囲にある。従って、上記の結果から、有効幅Wが110cm以上である場合にねじり角φを低減できるハット形鋼矢板1の断面形状の条件として、以下の式(1)を特定することができる。
Ae/(W・H)≧0.04 ・・・(1)
Ae/(W・H)≧0.04 ・・・(1)
ここで、幅が拡大された、いわゆる薄肉大断面のハット形鋼矢板について、製造性を考慮した場合にはよりコンパクトな断面とすることが好ましい。この観点では、上記で検討した実施例のうち、ハット形鋼矢板1を幅方向に連結した壁体の壁幅1mあたりの断面二次モーメントIWが25000cm4/mレベル以下のもの、すなわち実施例1~実施例8がより好適である。実施例1~実施例8では、上記の式(1)に加えて、以下の式(2)が満たされる。
Ae/(W・H)≦0.048 ・・・(2)
Ae/(W・H)≦0.048 ・・・(2)
図6は、図5のグラフに示された実施例1~実施例21のうち、より広幅の、有効幅Wが135cm以上の例のみを抽出したグラフである。具体的には、実施例2~実施例7、実施例13~実施例18、実施例20、および実施例21が抽出されている。図5のグラフと同様に、図6のグラフでも、点E2~E7,E13~E18,E20,E21はAe/(W・H)≧0.04の範囲に含まれる。ここで、上記の表1、表3および表4に示されるように、実施例2~実施例7、実施例13~実施例18、実施例20、および実施例21は、有効幅Wが135cm以上であるのに加えて、ねじり角φ(従来との比)が0.95未満、すなわち従来のハット形鋼矢板の95%未満にまで低減され、他の例よりもねじり角φの低減幅が大きい例でもある。打設中のハット形鋼矢板に発生するねじり変形は、先行して地中に打設されたハット形鋼矢板の継手との嵌合性を悪化させる。ここで、ハット形鋼矢板継手の嵌合角度の裕度は、通常の場合、±4度以下と非常に狭い範囲で製造されており、たとえある長手方向の異なる深度の断面間のねじり角度差がわずか1度未満であるような状況においても、ハット形鋼矢板長手方向に亘りねじり量が蓄積され、嵌合抵抗増大につながりやすい。従って、たとえ非常に小さい量であってもねじれ量を低減することは有用であるが、例えばねじれ量を5%でも低減できれば、後から打設されるハット形鋼矢板の打設中のねじり変形に伴う先行する鋼矢板の継手との接触抵抗をより少なくすることができるようになり、施工性に与える影響をより効果的に縮小することができる。従って、上記の式(1)は、ねじり角φ(従来との比)が0.95未満になる、有効幅Wが135cm以上のハット形鋼矢板1について、ねじり角φを顕著に低減できる断面形状の条件としてより有利に適用できる。
以上で説明したような本発明の実施形態によれば、打設時に発生する断面内のねじり変形が効果的に低減される断面形状のハット形鋼矢板が提供される。このようなハット形鋼矢板は、例えばハット形鋼矢板の1対の嵌合継手のうちの一方のみを先行して打設された鋼矢板の嵌合継手に嵌合させながらハット形鋼矢板を地中に打設する工程を含む鋼矢板壁の製造方法において、特に有利である。このような鋼矢板壁の製造方法では、ハット形の鋼矢板の一方の継手が先行して打設された鋼矢板の継手に嵌合している位置に対して施工機が鋼矢板を支持して鉛直振動荷重を加える位置が偏心しているためハット形鋼矢板にねじり変形を発生させるモーメントが生じやすいが、本発明の実施形態を適用することによってねじり変形を効果的に抑制することができる。
ハット形鋼矢板のねじり変形を抑制することによって、施工機からの打設エネルギーが少ない損失で施工重機能力を効率よく活用した状態でハット形鋼矢板に伝達され、ハット形鋼矢板の地盤内への貫入速度を高く保つことができるとともに、施工重機の燃費効率のよい経済的な施工が可能になる。また、ハット形鋼矢板のねじり変形を抑制することによって打設中のハット形鋼矢板のばたつきが小さくなり、施工に伴う騒音や振動を低減させることができる。ハット形鋼矢板の大断面化によって施工機が大型化すると騒音や振動も大きくなる可能性があるが、ハット形鋼矢板のねじり変形を抑制することによって、騒音や振動を抑制した施工が可能になる。
また、ハット形鋼矢板のねじり変形を抑制することによって、先行して打設された鋼矢板の継手との嵌合抵抗を小さくすることができるため、ハット形鋼矢板全体の打設時の抵抗を小さくすることができ、また継手の接触面での削れや溶着を防止することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1…ハット形鋼矢板、2…ウェブ、3A,3B…フランジ、4A,4B…アーム、5A,5B…嵌合継手、6…バイブロハンマー、EA,EB…嵌合中心。
Claims (6)
- ハット形鋼矢板であって、
長手方向に直交する断面において、奥行き方向の第1の側で幅方向に沿って延びるウェブと、前記ウェブの前記幅方向の両端部から前記幅方向の両側、かつ前記奥行き方向の第2の側に向かって延びる1対のフランジと、前記奥行き方向の第2の側で前記1対のフランジのそれぞれの端部から前記幅方向に沿って、かつ前記幅方向の両側に向かって延びる1対のアームと、前記1対のアームのそれぞれの前記1対のフランジとは反対側の端部に形成される嵌合継手とを備え、
前記断面における前記ハット形鋼矢板の断面積Ae(cm2)と、前記ハット形鋼矢板の有効幅W(cm)と、前記ハット形鋼矢板の高さH(cm)とが、以下の式(i)の関係を満たし、前記有効幅Wが110cm以上であるハット形鋼矢板。
Ae/(W・H)≧0.04 ・・・(i) - 前記有効幅Wが135cm以上である、請求項1に記載のハット形鋼矢板。
- 高さHが45cm以下である、請求項1または請求項2に記載のハット形鋼矢板。
- 前記断面における前記断面積Ae(cm2)と、前記有効幅W(cm)と、前記高さH(cm)とが、以下の式(ii)の関係を満たす、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のハット形鋼矢板。
Ae/(W・H)≦0.048 ・・・(ii) - 前記ハット形鋼矢板を幅方向に連結した壁体の壁幅1mあたりの断面二次モーメントが50000cm4/mレベル以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のハット形鋼矢板。
- 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のハット形鋼矢板を用いた鋼矢板壁の製造方法であって、
前記ハット形鋼矢板の前記嵌合継手のうちの一方のみを先行して打設された鋼矢板の嵌合継手に嵌合させながら前記ハット形鋼矢板を地中に打設する工程を含む鋼矢板壁の製造方法。
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