以下、添付図面を参照しつつ本発明を実施するための実施形態について説明する。
車両1には、ブレーキ制御装置100と、電子制御装置(ECU:Electric Control Unit)102と、を備えた衝突被害軽減ブレーキ制御システム10が設けられている。ブレーキ制御装置(以下、単に「ブレーキECU」という)100及びECU102は、CAN(Controller Area Network)を介して相互に通信可能に接続されている。但し、CANに代えて、FlexRay(登録商標)、MOST(Media Oriented System Transport)(登録商標)などの車載ネットワークが用いられてもよい。
また、衝突被害軽減ブレーキ制御システム10は、物体検出部104、現在位置取得部106、車速検出部108、ブレーキ作動検出部110、ETC車載器112及び報知部114を備えている。これら物体検出部104、現在位置取得部106、車速検出部108、ブレーキ作動検出部110、ETC車載器112及び報知部114は、それぞれ、車載ネットワークを介してECU102に接続されている。
ブレーキECU100は、サービスブレーキを電子制御する。ブレーキECU100は、運転者のブレーキ操作又は詳細を後述するブレーキ作動信号に応じてサービスブレーキを作動させる。
ECU102は、図2に示すように、プロセッサ102A、不揮発性メモリ102B、揮発性メモリ102C、入出力回路102D及びこれらを相互に接続するバス102Eなどで構成されるマイクロコンピュータを内蔵している。
プロセッサ102Aは、ソフトウエアプログラムに記述された命令セットを実行することで各種制御プログラムを実行するハードウェアであって、例えば、CPU(Central Processing Unit)などで構成されている。
不揮発性メモリ102Bは、各種制御プログラムなどが格納されると共に各種データを保存可能な半導体メモリであって、例えば、EEPROM(Electrical Erasable Read Only Memory)及びフラッシュROM(Read Only Memory)などで構成されている。
揮発性メモリ102Cは、一時的な記憶領域となる半導体メモリであって、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などで構成されている。
入出力回路102Dは、物体検出部104、現在位置取得部106、車速検出部108、ブレーキ作動検出部110及びETC車載器112などから信号を入力すると共にブレーキECU100及び報知部114などに信号を出力するデバイスである。
物体検出部104は、少なくとも、車両1の前方に位置する障害物などの物体までの距離D、及び、距離Dの時間変化率に基づいて算出される相対速度Vr(車両1に対する物体の相対速度)を検出するようになっている。物体検出部104としては、ミリ波レーダ若しくはレーザレーダなどのレーダ、レーダと単眼カメラとの組み合わせ、又は、左右一対のCCD(Charge Coupled Device)カメラ(又はCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)カメラ)で構成されるステレオカメラが挙げられる。尚、物体検出部104は、相対速度Vrの変化率、すなわち、相対加速度を検出するようになっていてもよい。
現在位置取得部106は、GPS受信機及び地図データベースを備えている。地図データベースは、例えば、車両1に搭載されたHDD(hard Disk Drive)内やSSD(Solid State Drive)内に構築され、緯度及び経度に対応付けられた地図情報を含む周辺環境情報を記憶している。周辺環境情報には、少なくとも、分岐点を含む交差点の形状情報及び位置情報、停止線の位置情報、ETC及びETCの路面標識の位置情報、V2X(Vehicle-to-Everything)による交差点情報、並びに、ETCゲート手前のカード挿入確認通信機器情報などが含まれる。このような現在位置取得部106としては、例えば、カーナビゲーションシステムが挙げられる。尚、周辺環境情報は、例えば、車両1に搭載された図示省略の通信装置を介して外部の情報データセンタなどから取得されてもよく、これにより最新の周辺環境情報に更新することができる。
車速検出部108としては、例えば、車速を検出する車速センサが挙げられる。ブレーキ作動検出部110は、ブレーキ作動を検出するものであり、例えば、ブレーキペダルが踏み込まれたことを検知するセンサ、又は、制動灯(ブレーキランプ(ストップランプ))を点灯させるための信号を発生させるスイッチなどが挙げられる。
ETC車載器112は、ETCカードを挿入可能な挿入部、及び、ETCに設置されたアンテナと通信可能な通信部などを含み、ETCカードが挿入されているか否かを判定するようになっている。また、ETC車載器112は、例えば、挿入されたETCカードの有効期限が切れているか否か、すなわち、ETCゲートに設けられた発進制御棒(開閉バー)を開くのに有効か否かを判定可能であることが好ましい。
報知部114は、ECU102から出力された信号に応じて運転者に所定の情報を報知する。報知部114としては、例えば、マルチファンクションディスプレイなどの所定の情報を表示可能なダッシュボードや警告音を発生可能なアラームなどが挙げられる。
ECU102は、物体検出部104が車両1の前方に位置する物体を検出すると、基本的には、まず、物体検出部104が検出した情報に基づいて、車両1が物体に衝突するまでの衝突時間TTC(距離Dを相対速度Vrで除した値D/Vr)を算出する。そして、ECU102は、算出したTTCに応じて、警告制御、警告ブレーキ制御及び衝突被害軽減ブレーキ制御を順次実行する。尚、ECU102は、距離D及び相対速度Vrに加えて相対加速度を考慮してTTCを算出してもよい。
警告制御は、TTCが第1の閾値Tc1(例えば、約2秒)以下になったときに実行される。より詳細には、警告制御では、プロセッサ102Aが報知部114に信号を出力することで警告を発生させる。これにより、運転者に衝突の可能性が高い旨が報知される。
警告ブレーキ制御は、警告制御の実行によっても運転者による制動動作が行われなかった場合において、TTCがTc1よりも予め定められた値だけ小さい第2の閾値Tc2(例えば、1.5秒)になったときに実行される。より詳細には、警告ブレーキ制御では、ECU102が第1の減速度を示す情報を含むブレーキ作動信号をブレーキECU100に出力することでサービスブレーキを自動で作動させる。これにより、運転者に衝突の可能性が高い旨が報知される。以下、本明細書では、警告制御の実行による報知及び警告ブレーキ制御の実行による報知を警告の発生と総称する。
衝突被害軽減ブレーキ制御は、警告制御及び警告ブレーキ制御の実行によっても運転者による制動動作が行われなかった場合において、所定の条件を満たしたときに実行されることで車両1を制動及び停止させ、衝突又は衝突被害を抑制する緊急時のブレーキ制御である。以下、衝突被害軽減ブレーキ制御を、単に「緊急ブレーキ制御」という。より詳細には、緊急ブレーキ制御は、TTCがTc2よりも予め定められた値だけ小さい第3の閾値Tc3(例えば、約1秒)になったときに実行される。緊急ブレーキ制御では、ECU102が第1の減速度よりも予め定められた値だけ大きい第2の減速度を示す情報を含むブレーキ作動信号をブレーキECU100に出力することでサービスブレーキを自動で作動させる。
警告ブレーキ制御における第1の減速度は、例えば、約0.2G~約0.4Gなど、車両の制動性能に基づいて予め設定されている。緊急ブレーキ制御における第2の減速度は、例えば、約0.5Gなど、車両1の制動性能に基づいて予め設定されている。
ここで、交差点に近付いている車両1の運転者が、交差点を右折又は左折するために減速している先行車の減速に伴って車両1を減速させるものの、車両1と先行車との車間距離が短くなったり、相対速度が小さくなったりしてTTCが短くなり得る。
また、ETCゲートを走行している車両1の運転者は、一般に車両1を徐行させるものの、車両1とその前方に位置する開閉バーとの距離が短くなったり、相対速度が小さくなったりしてTTCが短くなり得る。そのため、TTCと各種閾値との比較のみに基づいて警告制御、警告ブレーキ制御及び緊急ブレーキ制御を実行する構成では、警告制御や警告ブレーキ制御に加えて緊急ブレーキ制御が実行され得る。
しかしながら、運転者が右左折などにより先行車が車両1の走行レーンから外れるのが明らかである状況やETCカードが開閉バーを開くのに有効であり開閉バーが開くのが明らかである状況を認識している場合がある。この場合、車両1と先行車又は開閉バーとの衝突の可能性が低く、円滑な交通を図るべく、運転者は車両1を必要以上に減速させないことが考えられる。したがって、このような状況を認識している運転者にとって、緊急ブレーキ制御が実行されることは、緊急ブレーキの過剰な作動となるおそれがあった。また、緊急ブレーキの不要な作動に伴ってエネルギーを無駄に消費するおそれがあった。
そこで、ECU102は、現在位置情報、及び地図情報を含む周辺環境情報を取得し、車両1の地図上での現在位置(つまり現在位置情報取得部106から出力された信号)に基づいて車両1が交差点又はETCゲートに近付いていると判定したとき、緊急ブレーキの作動を抑制するように構成されている。また、ECU102は、警告ブレーキの作動を含む警告の発生についても同様に抑制するように構成されている。
以下、プロセッサ102Aが実行する定時処理の一例について図3~図5を参照して説明する。定時処理は、車両1のイグニッションスイッチがオンとなったことを契機として、サービスブレーキが非作動のときに所定時間(例えば、50m秒)毎に実行される。すなわち、運転者が自発的にサービスブレーキを作動させており、ブレーキ作動検出部110からブレーキの作動を示す信号が出力されていれば、定時処理は強制的に終了する。
ステップ10では、プロセッサ102Aは、車両前方に物体が存在するか否かを判定する。プロセッサ102Aは、例えば、物体検出部104の検出領域に物体が存在するとき、車両前方に物体が存在すると判定する。但し、これに限るものではなく、プロセッサ102Aは、例えば、物体検出部104から出力された信号に基づいて、車両1から物体までの距離Dが予め定められた距離以下になったとき、車両前方に物体が存在すると判定してもよい。そして、プロセッサ102Aは、車両前方に物体が存在しないと判定すると、処理を終了させる。一方、プロセッサ102Aは、車両前方に物体が存在すると判定すると、処理をステップ20に進める。
ステップ20では、プロセッサ102Aは、抑制フラグFを0に設定(初期化)する(F=0)。抑制フラグFは、警告の発生及び緊急ブレーキの作動を抑制するか否かを判定するためのフラグであり、後述のステップ30の判定結果に応じて1又は0に設定される。ここで、抑制フラグFは0に初期設定されており、抑制フラグF=1の場合、警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制され、抑制フラグF=0の場合、警告制御、警告ブレーキ制御及び緊急ブレーキ制御が通常通り実行される。
ステップ30では、プロセッサ102Aは、現在位置取得部106から出力された信号に基づいて、車両1が交差点又はETCゲートに近付いているか否かを判定する。
ここで、プロセッサ102Aは、例えば、車両1の地図上での現在位置に基づいて、車両1の進行方向に存在する交差点のうち車両1に最も近い交差点を対象とする。そして、プロセッサ102Aは、車両1から対象となる交差点の停止線又は信号機までの距離が第1の距離以下になったとき、車両1が交差点に近付いていると判定する。ここで、一般に、交差点を右折又は左折する車両が減速を開始するのが車両から交差点の停止線付近までの距離が約30mの地点であることから、第1の距離は、例えば、約35m~約45mの範囲内の値に予め定められている。
また、プロセッサ102Aは、例えば、車両1の地図上での現在位置に基づいて、車両1からETCゲートの出口までの距離又はETCゲート付近の路面に描かれた時速約20km/hでの徐行運転を促す路面標示までの距離が第2の距離以下になったとき、ETCゲートに近付いていると判定する。ここで、第2の距離は、例えば、約10m~約30mの範囲内の値に予め定められているが、第1の距離と同じ値であってもよい。
但し、第1の距離及び第2の距離は、例えば、実験などにより予め定めた下限値よりも小さくならない限り、運転者が任意に設定できるようにしておいてもよい。
ステップ30において、プロセッサ102Aは、車両1が交差点又はETCゲートに近付いていると判定すると、処理をステップ40に進める。
ステップ40では、プロセッサ102Aは抑制フラグFを1に設定する(F=1)。
一方、ステップ30において、プロセッサ102Aは、車両1が交差点及びETCゲートのいずれにも近付いていないと判定すると、処理をステップ50に進める。すなわち、車両1が交差点及びETCゲートのいずれにも近付いていない場合、プロセッサ102Aは、ステップ40の処理をスキップし、抑制フラグFを変更しない(F=0)。
ステップ50では、プロセッサ102Aは、抑制フラグFが0に設定されているか否かを判定する。プロセッサ102Aは、抑制フラグFが0に設定されていると判定すると、処理をステップ60に進める。
ステップ60では、プロセッサ102Aは、通常の警告の発生並びに警告ブレーキ及び緊急ブレーキの作動を制御する処理(以下、単に「通常制御処理」という)を実行する。通常制御処理の一例について図4を参照して説明する。
ステップ202では、プロセッサ102Aは、ステップ10において検出した車両前方の物体までの距離Dを車両1に対する物体の相対速度Vrで除算することでTTCを算出する。
ステップ204では、プロセッサ102Aは、TTCがTc1以下になったか否かを判定する。プロセッサ102Aは、TTCがTc1よりも大きいと判定すると、処理を終了させる。一方、プロセッサ102Aは、TTCがTc1以下になったと判定すると、処理をステップ206に進める。
ステップ206では、プロセッサ102Aは、警告制御を実行する。これにより、運転者に衝突の可能性が高い旨が報知される。その後、プロセッサ102Aは、処理をステップ208に進める。
ステップ208では、プロセッサ102Aは、TTCがTc2以下になったか否かを判定する。プロセッサ102Aは、TTCがTc2よりも大きいと判定すると、処理を終了させる。この場合、警告制御のみが実行されることになる。一方、プロセッサ102Aは、TTCがTc2以下になったと判定すると処理をステップ210に進める。
ステップ210では、プロセッサ102Aは、TTCがTc3以下になったか否かを判定する。プロセッサ102Aは、TTCがTc3以下になったと判定すると、処理をステップ212に進める。
ステップ212では、プロセッサ102Aは、緊急ブレーキ制御を実行する。すなわち、TTCがTc3以下である場合、警告制御及び緊急ブレーキ制御の両方が実行される。その後、プロセッサ102Aは、処理を終了させる。
一方、ステップ210において、プロセッサ102Aは、TTCがTc3よりも大きいと判定すると、処理をステップ214に進める。
ステップ214では、プロセッサ102Aは、警告ブレーキ制御を実行する。これにより、警告の発生及びサービスブレーキの自動的な作動により運転者に衝突の可能性が高い旨が報知される。すなわち、TTCがTc3よりも大きく、Tc2以下である場合、警告制御及び警告ブレーキ制御の両方が実行される。その後、プロセッサ102Aは、処理を終了させる。
一方、ステップ50において、プロセッサ102Aは、抑制フラグFが1に設定されていると判定すると、処理をステップ70に進める。
ステップ70では、プロセッサ102Aは、警告の発生並びに警告ブレーキ及び緊急ブレーキの作動を抑制する処理(以下、単に「抑制制御処理」という)を実行する。抑制制御処理の一例について図5を参照して説明する。
ステップ302では、プロセッサ102Aは、Tc1、Tc2及びTc3を変更する。より詳細には、プロセッサ102Aは、Tc1、Tc2及びTc3の初期値から第1の所定値を減算する。
第1の所定値は、例えば、約0.3秒に設定されている。この場合、Tc1は、例えば、その初期値が約2秒である場合、約1.7秒に変更される。また、Tc2は、例えば、その初期値が約1.5秒である場合、約1.2秒に変更され、Tc3は、例えば、その初期値が約1秒である場合、約0.7秒に変更される。すなわち、TTCと比較されるTc1、Tc2及びTc3がこれらの初期値よりも小さい値となる。
ステップ304では、プロセッサ102Aは、ステップ202の処理と同様にTTCを算出する。
ステップ306では、プロセッサ102Aは、TTCが変更後のTc1以下になったか否かを判定する。そして、TTCが変更後のTc1よりも大きい場合、プロセッサ102Aは、処理をステップ318に進める。
ステップ318では、プロセッサ102Aは、ステップ302で変更したTc1、Tc2及びTc3を初期化して、処理を終了させる。一方、ステップ306において、TTCが変更後のTc1以下になった場合、プロセッサ102Aは、処理をステップ308に進める。
ステップ308では、プロセッサ102Aは、ステップ206と同様、警告制御を実行する。ここで、警告の発生タイミングは、Tc1がその初期値よりも小さい値に変更されているので、通常の発生タイミング、すなわち、Tc1の変更前の発生タイミングよりも遅れる。これにより、警告の発生が抑制される。
ステップ310では、プロセッサ102Aは、TTCが変更後のTc2以下になったか否かを判定する。TTCが変更後のTc2よりも大きい場合、プロセッサ102Aは、処理を上述したステップ318に進める。一方、TTCが変更後のTc2以下になった場合、プロセッサ102Aは、処理をステップ312に進める。
ステップ312では、プロセッサ102Aは、TTCが変更後のTc3以下になったか否かを判定する。TTCが変更後のTc3以下になった場合、プロセッサ102Aは、処理をステップ314に進める。
ステップ314では、プロセッサ102Aは、緊急ブレーキ制御を実行する。ここで、緊急ブレーキの作動タイミングは、Tc3がその初期値よりも小さい値に変更されているので、通常の作動タイミング、すなわち、Tc3の変更前の作動タイミングよりも遅れる。これにより、緊急ブレーキの作動が抑制される。その後、プロセッサ102Aは、処理を上述したステップ318に進める。
一方、ステップ312において、プロセッサ102Aは、TTCが変更後のTc3よりも大きいと判定すると、処理をステップ316に進める。
ステップ316では、プロセッサ102Aは、警告ブレーキ制御を実行する。ここで、警告ブレーキの作動タイミングは、Tc2がその初期値よりも小さい値に変更されているので、通常の作動タイミング、すなわち、Tc2の変更前の作動タイミングよりも遅れる。これにより、警告ブレーキの作動、すなわち、サービスブレーキの作動による警告の発生が抑制される。その後、プロセッサ102Aは、処理を上述したステップ318に進める。
このように、抑制フラグFが1に設定されている場合、警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制されるようになっている。要するに、車両前方に物体が存在する場合において、車両1が交差点又はETCゲートに近付いているとき、車両前方の物体は交差点付近を走行する先行車又はETCゲートの開閉バーである可能性があり、Tc1、Tc2及びTc3のそれぞれを第1の所定値だけ小さくする。すなわち、警告の発生タイミング及び緊急ブレーキの作動タイミングを、それぞれ、Tc1、Tc2及びTc3の変更前の発生タイミング及び作動タイミングよりも遅らせることで警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制される。これにより、例えば、先行車が交差点を右左折するのが明らかである状況やETCゲートの開閉バーが開くのが明らかである状況で緊急ブレーキの作動及び警告の発生を抑制することが可能となる。したがって、緊急ブレーキの作動頻度及び警告の発生頻度を通常の頻度よりも低くすることが可能であるので、上述の状況を認識している運転者にとって緊急ブレーキの過剰な作動及び警告の過剰な発生を抑制することができる。また、緊急ブレーキの作動による制動力の発生及び警告の発生が運転者に与える不快感を軽減することができる。さらに、警告ブレーキや緊急ブレーキの不要な作動に伴う無駄なエネルギー消費を抑制することができる。
次に、プロセッサ102Aが実行する定時処理の変形例について説明する。この変形例では、物体検出部104は、レーダと単眼カメラとの組み合わせ又はステレオカメラであり、車両1の前方の状況を認識することが可能である。すなわち、物体検出部104は、単眼カメラ又はステレオカメラなどの車両前方を撮像する撮像素子を含む。また、ECU102は、撮像素子の撮像結果を取得するように構成されており、撮像素子が撮像した画像を処理する画像処理装置としての機能を有する。さらに、ECU102は、ETC車載器112の判定結果を取得するように構成されている。
物体検出部104が撮像素子を含む場合、ECU102は、撮像素子が撮像した画像を処理することで、車両1の前方の状況に関する各種情報を検出可能である。各種情報には、白線や黄色線などの車線を区画する車線情報、ガードレール及び縁石などの道路工作物情報、車両1の前方に存在する物体の幅などを含む形状及び撮像素子の撮像領域における当該物体の位置などの立体物情報、並びに、車両1の走行レーンの幅及び撮像素子の撮像領域における走行レーンの位置などの走行レーン情報などが含まれる。
さらに、ECU102は、検出した立体物情報及び走行レーン情報に基づいて、例えば、走行レーンの幅で規定される領域内に存在する前方の物体のうち、車両1と略同じ方向に移動する物体を先行車として検出可能である。但し、これに限るものではなく、ECU102は、検出した立体物情報のうち物体の形状などに基づいて当該物体を先行車として検出するようになっていてもよい。
さらにまた、ECU102は、先行車を検出した場合、撮像素子が撮像した画像に基づいて、先行車の後部に設けられた左右の方向指示器の点滅の有無やブレーキランプの点灯の有無など、先行車の尾灯(テールランプ)の点灯状態情報を検出可能である。
図6は、定時処理の変形例を示すフローチャートである。この変形例は、ステップ30及びステップ40を新たなステップ80に置き換えている点で図3の定時処理と相違する。したがって、図3の定時処理との相違点であるステップ80の処理を中心に説明する。ステップ80は、抑制フラグFを設定する処理(抑制フラグ設定処理)である。図7及び図8は、それぞれ、ステップ80の抑制フラグ設定処理の一例の一部を示すフローチャートである。すなわち、図7と図8とで定時処理の一例の全体を示すフローチャートが構成されている。
ステップ502では、プロセッサ102Aは、車両1の地図上での現在位置に基づいて車両1が交差点に近付いているか否かを判定する。この判定は、図3に示すステップ30で説明した判定と同様である。プロセッサ102Aは、車両1が交差点に近付いていると判定すると、処理をステップ504に進める。
ステップ504において、プロセッサ102Aは、立体物データに基づいて、ステップ10で検出した車両前方の物体が車両であるか否か、すなわち、車両1の走行レーンに先行車が存在するか否かを判定する。ここで、先行車が存在しない場合、車両前方の物体は、例えば、交差点において右折中の対向車であるか又は交差点において車両前方を横断する歩行者又は自転車などであるおそれがある。そこで、プロセッサ102Aは、先行車が存在しないと判定すると、このような状況で警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制されないように、抑制フラグFを変更せず(F=0)、処理をステップ50に戻す。
一方、ステップ504において、プロセッサ102Aは、車両1の走行レーンに先行車が存在すると判定すると、処理をステップ506に進める。
ステップ506では、プロセッサ102Aは、先行車の尾灯の点灯状態情報に基づいて、先行車の後部に設けられた左右の方向指示器(ウィンカー)が点滅しているか否かを判定する。ここで、先行車が交差点を右左折する場合、先行車の運転者は左右のウィンカーの一方を点滅させた後、サービスブレーキを作動させて車両を減速させることが一般的である。そのため、先行車後部の左右のウィンカーのいずれも点滅していない状況では先行車が右左折する可能性は低いので、このような状況で警告の発生及び緊急ブレーキの作動を抑制することは望ましくない。そこで、プロセッサ102Aは、先行車後部の左右のウィンカーのいずれも点滅していないと判定すると、抑制フラグを変更せず(F=0)、処理をステップ50に戻す。
一方、先行車後部の左右のウィンカーの一方が点滅している場合、先行車が右左折する可能性が高い。したがって、ステップ506において、プロセッサ102Aは、先行車後部の左右のウィンカーの一方が点滅していると判定すると、処理をステップ508に進める。
ステップ508では、プロセッサ102Aは、ウィンカーが点滅している方向に先行車が移動したか否かを判定する。先行車が右折又は左折を開始したか否かを判定する。この判定処理について図9を参照して説明する。図9には、撮像素子が撮像した画像、すなわち、車両前方を示す画像が示されている。
ここで、例えば、先行車後部の左側のウィンカーが点滅しており、先行車が右左折を開始すると、先行車後部の投影面は車両1の走行レーンの左側に移動する。そこで、プロセッサ102Aは、撮像素子が撮像した画像に基づいて、より詳細には、前回の定時処理における画像と今回の定時処理における画像とを比較し、今回の先行車後部の投影面が前回の先行車後部の投影面よりもウィンカーが点滅している方向に移動したか否かを判定する。今回の先行車後部の投影面が前回の先行車後部の投影面よりもウィンカーが点滅している方向に移動していないと判定された場合、先行車は右左折を開始していない。したがって、プロセッサ102Aは、ウィンカーが点滅している方向に先行車が移動していないと判定すると、このような状況で警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制されないように、抑制フラグFを変更せず(F=0)、処理をステップ50に戻す。
一方、ステップ508において、プロセッサ102Aは、今回の先行車後部の投影面が前回の先行車後部の投影面よりもウィンカーが点滅している方向に移動している、すなわち、ウィンカーが点滅している方向に先行車が移動していると判定すると、処理をステップ510に進める。
ステップ510では、プロセッサ102Aは、先行車が右左折を開始したか否かを判定する。ここで、図9に示すように、先行車の右左折が進むほど、先行車後部の投影面の幅のうち走行レーンの幅Wdを規定する範囲内に存在する幅(走行レーン内に存在する投影面の幅Wv)の割合は小さくなる。そこで、プロセッサ102Aは、まず、走行レーン情報及び立体物情報に基づいて、より詳細には、車両1の走行レーンの幅Wd、撮像素子の撮像領域における走行レーンの位置、及び、先行車後部の投影面の幅Wvなどに基づいて、走行レーンの幅Wdに対して先行車後部の投影面の幅Wvが占める割合(以下、「幅占有率Wp(=Wv/Wd)」という)を算出する。そして、プロセッサ102Aは、幅占有率Wpと所定の割合Wtとを比較し、幅占有率Wpが所定の割合Wt以下になったとき、先行車が右左折を開始したと判定する。所定の割合Wtは、例えば、約20%に設定されるが、これに限るものではなく、約20%未満の任意の値に設定されてもよい。
ここで、先行車の左右のウィンカーの一方が点滅しており、且つ、先行車がウィンカーの点滅方向に移動しているがWpがWtよりも大きい場合、車両1が現在の走行状態を継続した場合、先行車と衝突するおそれがある。この場合、警告の発生や緊急ブレーキの作動が通常通り行われることが望ましい。そこで、ステップ510において、プロセッサ102Aは、WpがWtよりも大きいと判定すると(Wp>Wt)、抑制フラグFを変更せず(F=0)、処理をステップ50に戻す。
一方、ステップ510において、プロセッサ102Aは、WpがWt以下である場合(Wp≦Wt)、先行車が右左折を開始したと判定して、処理をステップ512に進める。
ステップ512では、プロセッサ102Aは、検出した尾灯の点灯状態情報に基づいて先行車のブレーキランプが消灯しているか否かを判定する。先行車が右左折を開始し且つブレーキランプが消灯していれば、先行車は右左折のために加速を始め、車両1の走行レーンから外れる可能性が高い。したがって、プロセッサ102Aは、先行車のブレーキランプが消灯している場合、先行車が車両1の走行レーンから外れると判定して、処理をステップ514に進める。
ステップ514では、プロセッサ102Aは、抑制フラグFを1に設定し、処理をステップ50に戻す。
一方、ステップ512において、プロセッサ102Aは、先行車のブレーキランプが点灯していると判定すると、処理をステップ516に進める。
ステップ516では、プロセッサ102Aは、車両1に対する先行車の相対速度Vrが0以上であるか否かを判定する。ここで、車両1に対する先行車の相対速度Vrは、車両1の車速をV1とし、先行車の車速をV2とした場合、Vr=V2-V1と表される。Vrが0以上の場合、V2がV1以上であるので、先行車が減速していた場合であっても先行車は車両1から離れていく。また、ステップ510においてWpがWt以下であると判定されているので、車両1が現在の走行状態を継続した場合であっても、先行車はいずれ走行レーンから外れるものと考えられる。このような状況としては、例えば、先行車の運転者がサービスブレーキを作動させたまま車両を右左折させている状況が挙げられる。そこで、プロセッサ102Aは、相対速度Vrが0以上であると判定すると、処理をステップ514に進め、抑制フラグFを1に設定する。
すなわち、車両1が交差点に近付いており、車両1の走行レーンに先行車が存在する場合、以下の4つの条件を満たしたとき、先行車が走行レーンから外れると判定され、抑制フラグFが1に設定される。第1条件が満たされるのは、左右のウィンカーの一方が点滅しているときである。第2条件が満たされるのは、ウィンカーが点滅している方向に先行車が移動しているときである。第3条件が満たされるのは、WpがWt以下であるときである。第4条件が満たされるのは、先行車のブレーキランプが消灯しているとき又は相対速度Vrが0以上のときである。抑制フラグFが1のとき、警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制されるが、詳細については後述する。
ステップ516で相対速度Vrが負であると判定された場合(Vr<0)、V1がV2よりも大きく、車両1が先行車に近付いていく。この場合、右左折を開始した先行車のブレーキランプが点灯しているのは、先行車の前方に物体が存在するため先行車の運転者は制動動作を行って右左折を中断したことなどが原因と考えられる。そこで、このような状況で警告の発生や緊急ブレーキの作動が抑制されないように、ステップ516において、プロセッサ102Aは、相対速度Vrが0未満であると判定すると、抑制フラグFを変更せず(F=0)、処理をステップ50に戻す。
一方、ステップ502において、プロセッサ102Aは、車両1が交差点に近付いていないと判定すると、処理を図8に示すステップ518に進める。
ステップ518では、プロセッサ102Aは、車両1の地図上での現在位置に基づいて、車両1がETCゲートに近付いているか否かを判定する。この判定は、図3に示すステップ30で説明した判定と同様である。プロセッサ102Aは、車両1がETCゲートに近付いていると判定すると、処理をステップ520に進める。
ステップ520では、プロセッサ102Aは、検出した立体物データに基づいて、車両前方の物体が車両であるか否か、すなわち、先行車が存在するか否かを判定する。ここで、先行車が存在する場合、仮に開閉バーが開かず先行車がETCゲートを正常に通過できない場合、車両1が先行車に衝突するおそれがある。そこで、プロセッサ102Aは、先行車が存在すると判定すると(YES)、このような状況で警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制されないように、抑制フラグFを変更せず(F=0)、処理をステップ50に戻す。
一方、車両1がETCゲートに近付いており、先行車が存在しない場合、車両前方の物体は開閉バーである可能性が高い。そこで、ステップ520において、プロセッサ102Aは、先行車が存在しないと判定すると(NO)、車両前方の物体が開閉バーであると認識し、処理をステップ522に進める。
但し、ステップ520の処理は、先行車が存在しないと判定した場合に車両前方の物体が開閉バーであると認識する処理に限るものではない。例えば、ステレオカメラとしての物体検出部104の性能及びECU102の画像処理機能に応じて、ステップ520の処理を車両前方の物体が開閉バーであるか否かを直接判定することで開閉バーを認識する処理に代えてもよい。
ステップ522では、プロセッサ102Aは、ETCカードが有効であるか否かを判定する。例えば、ETC車載器112は、ETCカードがETC車載器112の挿入部に挿入されており、且つ、有効期限などが切れていない、すなわち、ETCカードが開閉バーを開くのに有効であると判定したことを示す信号をECU102に出力する。そして、プロセッサ102Aは、ETC車載器112から上述の信号を入力したとき、ETCカードが有効であると判定する。ここで、ETCカードが挿入されていない場合又は有効期限切れなどETCカードが開閉バーを開くのに有効でない場合、開閉バーが開かないので、現在の走行状態が継続されると車両1が開閉バーに衝突するおそれがある。そこで、プロセッサ102Aは、ETC車載器112によりETCカードが有効でないと判定されたとき、このような状況で警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制されないように、抑制フラグFを変更せず(F=0)、処理をステップ50に戻す。
一方、ステップ522において、プロセッサ102Aは、ETC車載器112によりETCカードが有効であると判定されたとき、処理をステップ514に進める。すなわち、車両1がETCゲートに近付いている場合において、車両前方の物体が開閉バーであると認識され、且つ、ETC車載器112によりETCカードが開閉バーを開くのに有効であると判定されたとき、抑制フラグFが1に設定される。その後、プロセッサ102Aは、処理をステップ50に戻す。
また、ステップ518において、プロセッサ102Aは、車両1がETCゲートに近付いていないと判定すると、処理をステップ504に進める。すなわち、車両1が交差点及びETCゲートのいずれにも近付いていない場合、ステップ504以降の処理を実行して、抑制フラグFを1又は0に設定する。
ここで、車両1が交差点及びETCゲートのいずれにも近付いていない場合において、ステップ512又は516でYESと判定されると、処理がステップ514に進み、抑制フラグFが1に設定される。例えば、車両1及び先行車が所定の店舗の駐車場に隣接する道路又は車線変更可能な道路を走行しているとき、先行車の運転者は、左右のウィンカーの一方を点滅させ、車両を右左折させて店舗の駐車場に入るか又は車線変更する場合がある。すなわち、車両1が交差点及びETCゲートのいずれにも近付いていない場合であっても、第1条件、第2条件、第3条件及び第4条件の全てを満たしたとき、先行車が右左折又は車線変更などにより車両1の走行レーンから外れると判定して、抑制フラグFを1に設定する。尚、抑制フラグFが変更されない場合については、ステップ504、506、508、510、512及び516で説明したのと同様であり、説明を省略する。
その後、プロセッサ102Aは、ステップ80の抑制フラグ設定処理により設定された抑制フラグFに応じて、通常制御処理又は抑制制御処理を選択的に実行する。以下、定時処理の変形例により抑制フラグFが1に設定された場合の作用効果について説明する。すなわち、車両1が交差点に近付いている場合において、撮像素子の撮像結果に基づいて、車両1の走行レーンに先行車が存在し、且つ、先行車が走行レーンを外れると判定されたとき、各種閾値の変更により警告の発生タイミング及び緊急ブレーキの作動タイミングを遅れることで警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制される。また、車両1がETCゲートに近付いている場合において、撮像素子の撮像結果に基づいて車両前方の物体が開閉バーであると認識され、且つ、ETC車載器112によりETCカードが有効であると判定されたときも同様である。これにより、図5を参照して説明した場合と同様に、緊急ブレーキの作動頻度及び警告の発生頻度を通常の頻度よりも低くすることが可能である。したがって、先行車が交差点を右左折するのが明らかである状況やETCゲートの開閉バーが開くのが明らかである状況を認識している運転者にとって緊急ブレーキの過剰な作動及び警告の過剰な発生を抑制することができる。
また、定時処理の変形例では、各種条件を満たしたときに抑制フラグFが1に設定されることにより、運転者が認識している上述の状況をECU102にも認識させている。これにより、比較的強い制動力を発生させる制動動作や警告の発生を不要と考えている運転者の意思とECU102の制御とを整合させることが可能である。したがって、警告の発生や緊急ブレーキの作動により運転者に与える不快感をより一層軽減することができる。さらに、警告ブレーキや緊急ブレーキの不要な作動に伴う無駄なエネルギー消費を抑制することができる。
さらに、車両1が交差点及びETCゲートのいずれにも近付いておらず、車両1の走行レーンに先行車が存在する場合において、第1条件、第2条件、第3条件及び第4条件の全てが満たされたとき、抑制フラグFが1に設定される。すなわち、先行車が存在しているが、車両1が交差点及びETCゲートのいずれにも近付いていない場合であっても、右左折又は車線変更などにより先行車が車両1の走行レーンから外れると判定されたとき、警告の発生及び緊急ブレーキの作動が抑制される。例えば、交差点付近及びETC付近以外の場所で先行車が右左折又は車線変更するのが明らかである状況を認識している運転者は、先行車との衝突の可能性が低くサービスブレーキを作動させる必要がないと考える場合がある。したがって、この場合も同様に、運転者にとって緊急ブレーキの過剰な作動及び警告の過剰な発生を抑制することができる。その結果、運転者に与える不快感を軽減することができ、また、警告ブレーキ及び緊急ブレーキの不要な作動に伴う無駄なエネルギー消費を抑制することができる。
次に、抑制制御処理の第1変形例について図10を参照して説明する。図10に示すように、抑制制御処理の第1変形例では、ステップ302及びステップ318を、それぞれ、新たなステップ320及びステップ322に置き換え、ステップ306、308、310及び316の処理を省略している点で、図5を参照して説明した抑制制御処理とは相違する。以下、相違点を中心に説明する。
ステップ320では、プロセッサ102Aは第2の減速度を変更する。より詳細には、プロセッサ102Aは、緊急ブレーキ制御における第2の減速度をその初期値から第2の所定値だけ減算することで変更する。第2の所定値は、例えば、変更後の第2の減速度が警告ブレーキ制御における第1の減速度の初期値と等しくなるように第2の減速度を低減するための値である。例えば、第1の減速度の初期値が約0.2Gであり、第2の減速度の初期値が約0.5Gであれば、第3の所定値は約0.3Gである。
その後、プロセッサ102Aは、ステップ304でTTCを算出すると、処理をステップ312に進め、TTCがTc3以下になったか否かを判定する。すなわち、第1変形例では、TTCと警告制御の実行タイミングを規定するTc1及び警告ブレーキ制御の実行タイミングを規定するTc2とを比較しない(図5に示すステップ306及び310の処理を省略している)。また、警告制御を実行する処理(図5に示すステップ308の処理)及び警告ブレーキ制御を実行する処理(図5に示すステップ316の処理)が省略されている。すなわち、抑制制御処理の第1変形例では、警告の発生については警告制御及び警告ブレーキ制御の実行を禁止することで抑制している。
その後、プロセッサ102Aは、ステップ312でTTCがTc3以下になったと判定すると、処理をステップ314に進め、緊急ブレーキ制御を実行する。ここで、第2の減速度はその初期値よりも小さい減速度に変更されている。したがって、プロセッサ102Aは、変更後の第2の減速度を示す情報を含むブレーキ作動信号をブレーキECU100に出力する。これにより、通常の緊急ブレーキ制御の実行時における減速度よりも小さい減速度で車両1を制動及び停止させるように緊急ブレーキが作動する。すなわち、緊急ブレーキの作動が抑制される。その後、プロセッサ102Aは、処理をステップ322に進める。ステップ322では、プロセッサ102Aは、ステップ320で変更した第2の減速度を初期化し、処理を終了させる。
一方、プロセッサ102Aは、ステップ312でTTCがTc3よりも大きいと判定すると、緊急ブレーキ制御を実行せず(ステップ314をスキップし)、処理を上述したステップ322に進める。そして、プロセッサ102Aは、ステップ320で変更した第2の減速度を初期化し、処理を終了させる。
以上説明した抑制制御処理の第1変形例では、車両1が交差点に近付いている場合において、撮像素子の撮像結果に基づいて、車両1の走行レーンに先行車が存在し、且つ、先行車が走行レーンを外れると判定されたとき、警告制御及び警告ブレーキ制御の実行が禁止されると共に緊急ブレーキの作動が抑制される。また、車両1がETCゲートに近付いている場合において、撮像素子の撮像結果に基づいて車両前方の物体を開閉バーであると認識され、且つ、ETC車載器112によりETCカードが開閉バーを開くのに有効であると判定されたときも同様である。ここで、緊急ブレーキの作動については、第2の減速度を第2の所定値だけ小さくして緊急ブレーキ作動時の制動力を通常の作動時よりも低減することで抑制している。これにより、仮に緊急ブレーキが作動したとしても制動力が低減されているので、先行車が交差点を右左折するのが明らかである状況やETCゲートの開閉バーが開くのが明らかである状況を認識している運転者にとって、過剰な制動力の発生が抑制され、緊急ブレーキが過剰に作動するのを抑制することができる。また、上述の状況をECU102に認識させた上で警告の発生を禁止し、緊急ブレーキの作動を抑制することが可能となる。すなわち、上述の状況を認識しており、比較的強い制動力を発生させる制動動作や警告の発生を不要と考えている運転者の意思とECU102の制御とを整合させることが可能であるので、警告の発生や緊急ブレーキの作動により運転者に与える不快感をより一層軽減することができる。さらに、警告ブレーキや緊急ブレーキの不要な作動に伴う無駄なエネルギー消費を抑制することができる。
さらに、車両1が交差点及びETCゲートのいずれにも近付いておらず、先行車が存在する場合において、第1~第4条件の全てを満たしたとき、抑制フラグFが1に設定される。すなわち、車両1が交差点及びETCゲートのいずれにも近付いていない場合であっても、車両1の走行レーンに先行車が存在しており、先行車が走行レーンから外れると判定されたとき、警告制御及び警告ブレーキ制御の実行が禁止されると共に緊急ブレーキの作動が抑制される。例えば、交差点及びETC以外の場所で先行車が右左折又は車線変更するのが明らかである状況を認識している運転者は、先行車との衝突の可能性が低くサービスブレーキを作動させる必要がないと考える場合がある。したがって、この場合も同様に、運転者にとって緊急ブレーキの過剰な作動を抑制しつつ警告の発生を禁止することが可能になるので、運転者に与える不快感を軽減することができる。また、緊急ブレーキの作動に伴って発生する制動力が抑制されるので無駄なエネルギー消費を抑制することができる。
尚、以上説明した抑制制御処理の第1変形例では、警告制御及び警告ブレーキ制御の実行を禁止し、第2の減速度を変更することによって、警告の発生を禁止して緊急ブレーキの作動を抑制したが、これに限るものではない。例えば、図11に示す抑制制御処理の第2変形例のように、図5に示すステップ306及びステップ308のみを省略し、ステップ302の処理を第2の減速度に加えて警告ブレーキ制御における第1の減速度を変更する新たなステップ324の処理に置き換えると共にステップ318の処理をステップ324で変更した第1の減速度及び第2の減速度を初期化する新たなステップ326の処理に置き換えてもよい。第2変形例において、第1の減速度は、例えば、その初期値から第3の所定値を減算することで変更される。これにより、TTCがTc2以下であるがTc3よりも大きい場合、すなわち、処理がステップ316に進んだ場合、通常の警告ブレーキ制御の実行時における減速度よりも小さい減速度で車両1を制動させるように警告ブレーキが作動することで警告ブレーキの作動が抑制される。第3の所定値は、変更後の第1の減速度が、例えば、エンジンブレーキ作動時の減速度となるように第1の減速度を低減するための値である。例えば、第1の減速度の初期値が約0.2Gであり、エンジンブレーキ作動時の減速度が約0.03Gであれば、第2の所定値は約0.17Gである。但し、これに限るものではなく、第2の所定値は、例えば、実験などにより、車速、車両前方の物体までの距離又は当該物体に対する相対速度に応じて警告ブレーキの作動時に運転者が不快と感じない程度の減速度となるように予め求められたテーブルなどで決まる値であってもよい。
また、定時処理の変形例において図5、図10及び図11を参照して説明した抑制制御処理では、物体検出部104又はその一部を構成する撮像素子や現在位置取得部106からの信号に基づいて警告の発生及び緊急ブレーキの作動を抑制したが、これに限るものではない。例えば、プロセッサ102Aは、撮像素子や現在位置取得部106からの信号に加えて、車速検出部108から出力された信号に基づいて、車速が小さくなるほど、各閾値Tc1、Tc2、Tc3を小さくしたり、各減速度を小さくしたり、報知部114への信号の出力を禁止したりしてもよい。
尚、以上の説明において、図5を参照して説明した抑制制御処理では、Tc1、Tc2及びTc3を変更して警告の発生及び緊急ブレーキの作動を抑制した。また、図10を参照して説明した抑制制御処理の第1変形例では、警告制御及び警告ブレーキ制御の実行を禁止し、第2の減速度を変更して緊急ブレーキの作動を抑制した。また、図11を参照して説明した抑制制御処理の第2変形例では、警告制御の実行を禁止し、第1の減速度及び第2の減速度を変更して警告ブレーキ及び緊急ブレーキの作動を抑制した。但し、これらに限るものではなく、例えば、警告制御及び警告ブレーキ制御による警告の発生をTc1、Tc2の変更により抑制し、緊急ブレーキの作動を第2の減速度の変更により抑制してもよい。また、例えば、警告制御及び警告ブレーキ制御の実行を禁止し、緊急ブレーキの作動についてはTc3の変更と第2の減速度の変更とを組み合わせることにより抑制してもよい。このように、警告制御や警告ブレーキ制御の実行の禁止、各種閾値の変更、各種減速度の変更を適宜組み合わせることで、本明細書に挙げていない抑制制御処理を作成してもよい。
また、以上の説明では、緊急ブレーキ制御における第2の減速度を予め定められた値としたが、これに限るものではない。例えば、ECU102は、距離D、相対速度Vr、車速及び車両1の制動性能に応じて衝突及び衝突被害を抑制するのに必要な要求減速度を第2の減速度として算出し、算出した要求減速度を示す情報を含むブレーキ作動信号をブレーキECU100に出力するように構成されていてもよい。
さらに、以上の説明では、ECU102は、通常制御処理において、運転者に衝突の可能性が高い旨を報知すべく、TTCに応じて、警告制御の実行、及び、警告制御の実行と警告ブレーキ制御の実行とを併用する制御を順次実行する構成とした。但し、これに限るものではなく、例えば、TTCがTc1以下であっても警告制御を実行せず、TTCがTc2以下であり、Tc3よりも大きいときに警告ブレーキ制御のみを実行してもよい。また、警告ブレーキ制御を実行せず、警告制御の実行のみで運転者に衝突の可能性が高い旨を報知してもよい。すなわち、ECU102は、TTCに応じて、警告制御及び警告ブレーキ制御の少なくとも一方を実行することにより運転者に衝突の可能性が高い旨を報知するように構成されていてもよい。
尚、当業者であれば、様々な上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を適宜組み合わせたり、その一部を置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。