以下に、本発明の実施の形態にかかる翼車および軸流送風機を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる翼車11を有する軸流送風機10の概略構成を示す図である。軸流送風機10は、扇風機、換気扇、空気調和機あるいは機器の冷却等に使用される。
軸流送風機10は、回転によって気流を発生可能な翼車11と、翼車11を回転駆動するモータ12とを有する。また、軸流送風機10は、翼車11を回転可能に収容する筐体を有する。モータ12は、筐体に保持されている。筐体は、翼車11の回転によって発生させた気流が通る開口を有する。開口の縁には、気流の上流側へ向かって径が拡げられたベルマウスが設けられている。図1では、筐体とベルマウスとの図示を省略している。
翼車11は、1枚の板材から型取りされたスパイダー5と、スパイダー5に接合されている3枚の湾曲板3とを有する。スパイダー5は、スパイダー5の中心に位置する主板部であるボス部2と、ボス部2の周囲に設けられた3個の取付部4とを有する。ボス部2は、モータ12に接続されており、モータ12が駆動することによってボス部2が回転軸6を中心に回転方向Cへ回転する。
湾曲板3の各々は、翼1を構成する。湾曲板3は、板金へのプレス加工によって形成される。湾曲板3は、取付部4の各々に取り付けられており、取付部4のうち回転軸6とは逆の側の端部に接合されている。取付部4は、翼1のうちボス部2の側の根元部分に相当する。湾曲板3は、溶接により、またはリベットを用いて取付部4に接合されている。
このように、翼車11は、回転軸6周りに回転可能なボス部2と、ボス部2から放射状に延びた3枚の翼1とを有する。各翼1は、湾曲板3と取付部4とからなる。翼1は、回転軸6とは逆の側の部分が気流の上流側へ傾けられた曲面形状をなしている。軸流送風機10は、回転方向Cへの翼車11の回転によって、回転軸6に平行な方向である矢印Aの方向へ流動する気流を発生させる。
翼車11は、スパイダー5と湾曲板3とからなるものに限られず、円柱状のボス部2と、ボス部2に取り付けられた翼1とを有するものであっても良い。翼車11に設けられる翼1の数は、3個に限られず、任意であるものとする。翼車11に設けられる各翼1は、いずれも同様の3次元立体形状を有する。以下に述べる翼1についての説明は、翼車11に設けられる翼1の各々に共通であるものとする。
図2は、図1に示す翼車11の平面形を示す図である。図2には、回転軸6に垂直な面に翼車11を投影させた場合における翼車11の平面形を示している。図3は、図2に示す翼車11のうち翼1とボス部2との平面形を示す図である。図2および図3においてX軸とY軸とは互いに垂直な軸とする。X軸とY軸との原点Oは、回転軸6の位置である。
翼1の平面形における外縁は、ボス部2の回転による翼1の進行方向へ向けられた部分である翼前縁部13と、翼1の進行方向とは逆の側へ向けられた部分である翼後縁部14と、回転軸6とは逆の側へ向けられた部分である翼外周部15と、回転軸6へ向けられた部分である翼内周部16とを有する。平面形において、翼内周部16は、ボス部2の外縁に沿った円弧をなしている。翼1は、翼1の進行方向へ向けて突出した先端部20を有する。
平面形において、翼外周部15は、回転軸6を中心とする円弧をなしている。翼外周部15は、円弧以外の曲線であっても良い。翼1の3次元立体形状において、翼外周部15は、気流の上流側へ屈曲している。翼車11は、翼外周部15を屈曲させることによって、翼外周部15における翼1の圧力面側から翼1の負圧面側への気流の漏れに起因する翼端渦の発生を抑制させる。これにより、翼車11は、翼1で発生した翼端渦が、圧力面、他の翼1あるいは上記のベルマウスに干渉することによる騒音を低減できる。
平面形において、翼前縁部13は、翼1の進行方向とは逆の方向へ湾曲する第1の湾曲部17と、第1の湾曲部17よりも回転軸6の側に設けられており進行方向へ湾曲する第2の湾曲部18と、第1の湾曲部17よりも回転軸6とは逆の側に設けられており進行方向へ湾曲する第3の湾曲部19とを有する。このように、翼前縁部13は、第1の湾曲部17および第2の湾曲部18の間と、第1の湾曲部17および第3の湾曲部19の間とのそれぞれにて、湾曲の向きが変化している曲線をなしている。第3の湾曲部19は、翼外周部15とともに、先端部20を構成している。以下の説明にて、翼1の進行方向を前方、翼1の進行方向とは逆の方向を後方と称することがある。また、第1の湾曲部17と第2の湾曲部18と第3の湾曲部19とを合わせたものを凹凸と称することがある。
線分21は、翼外周部15のうち先端部20に含まれる位置25における接線である第1の接線を表す。位置25は、翼外周部15と翼前縁部13との間の頂点24よりも後方の位置である。線分22は、第3の湾曲部19のうち先端部20に含まれる位置26における接線である第2の接線を表す。位置26は、頂点24よりも回転軸6の側の位置である。線分23は、第1の湾曲部17のうち第2の湾曲部18の側の端にある位置27における接線である第3の接線を表す。
翼1の翼弦中心線30は、回転軸6から離れるにしたがって前方へ湾曲している。先端部20は、前方へ向かうにしたがって先細りとなって前方へ突出した形状をなしている。第1の角度である角度θ1は、線分21と線分22とがなす角度であって先端部20を含む範囲における角度とする。第2の角度である角度θ2は、線分22と線分23とがなす角度であって第1の湾曲部17を含む範囲における角度とする。角度θ1は、角度θ2よりも小さい。
図4は、図3に示す翼1の周囲における気流の状態について説明する図である。図4には、図3に示すIV-IV線における断面を示している。図3に示すように、翼1のうち翼外周部15付近には、翼端渦28が生じる。翼端渦28は、翼車11が回転しているときに、翼1における圧力面31と負圧面32との圧力差によって形成される。翼前縁部13には、前方からの気流と、ベルマウスが設けられている側方から吸い込まれる気流とが流入することから、翼前縁部13の付近には剥離渦29が形成される。軸流送風機10は、翼1にて生じた翼端渦28と剥離渦29とが、当該翼1と隣り合う他の翼1、ベルマウスまたは筐体に当たることによって騒音を生じ得る。
翼1の負圧面32側には、乱流境界層における気流33が生じる。翼前縁部13の付近にて発生する剥離渦29が大きいほど、気流33が乱れながら翼後縁部14へ流動することによって、翼後縁部14の後方に生じる後流渦34が大きくなる。軸流送風機10は、剥離渦29と後流渦34とが大きくなるほど、また、気流33の乱れが大きくなるほど、騒音特性が悪化する。
実施の形態1では、前方へ向けて先細りとした先端部20が設けられることで、翼前縁部13から負圧面32側へ回り込む縦渦が負圧面32に付着して、翼前縁部13にて発生する剥離渦29が安定した縦渦となる。剥離渦29が安定することによって、気流33の乱れを抑制させ、後流渦34を小さくすることができる。これにより、軸流送風機10は、騒音特性の悪化を抑制することができる。
次に、先端部20の形状と翼1の強度との関係について説明する。図5は、図3に示す翼1の形状と翼1の強度との関係について説明する図である。図5では、翼弦中心線30の湾曲が大きくなるように翼1の形状を異ならせた場合における翼1の平面形を示している。図5における左の状態から右の状態へ翼弦中心線30の湾曲が大きくなるにしたがい、先端部20における前方への突出が大きくなる。なお、図5では、翼1の形状を簡略化して示すとともに、説明に不要な構成についての図示を省略している。
線分35は、翼前縁部13のうち任意の半径R上の位置36と翼外周部15上の位置37とを結ぶ直線である。線分35は、位置37における翼外周部15の接線に垂直であるものとする。前方への先端部20の突出が大きくなるにしたがい、角度θ1は小さくなる。角度θ1が小さいほど、線分35が短くなる。線分35が短いほど、翼前縁部13の付近における応力集中が顕著となることから、翼1の変形が生じ易くなる。
仮に、翼前縁部13に上記の凹凸が設けられない場合において、翼弦中心線30の前方への湾曲を大きくすることにより角度θ1を小さくした場合、上記のように剥離渦29の安定による騒音特性の改善を図り得る一方、応力集中によって翼1の変形が生じ易くなる。実施の形態1では、翼前縁部13に凹凸が設けられることによって、翼1における応力集中を緩和させる。
図6は、図2に示す翼車11のうちの負圧面32側を示す平面図である。図7は、図2に示す翼車11のうちの圧力面31側を示す平面図である。各翼1のうち破線により囲われた部分40において、翼車11の回転によって生じた応力が集中する。部分40は、翼前縁部13の付近であって、取付部4に湾曲板3が接合されている位置に近い部位である。湾曲板3のうち取付部4に接合されている位置が支点となって翼1が変形することから、各翼1の部分40にて応力が集中する。
ここで、同じ角度θ1の先端部20を有する翼1であって翼前縁部13に凹凸を設けない場合と翼前縁部13に凹凸を設けた実施の形態1の場合とにおいて応力を測定した例について説明する。ここで説明する応力の例は、翼車11の回転数が1800min-1、湾曲板3の厚さが1mm、スパイダー5の厚さが3mm、湾曲板3およびスパイダー5の材料が一般的な鋼材である場合における応力とする。翼前縁部13に凹凸を設けない場合において、翼1が受ける最大応力は57.2MPaである。一方、翼前縁部13に凹凸を設けた実施の形態1の場合において、翼1が受ける最大応力は48.2MPaである。翼1が受ける最大応力は、翼前縁部13に凹凸が設けられることによって、凹凸が設けられない場合よりもおよそ15.7%低減する。このように、翼車11は、第1の湾曲部17と第2の湾曲部18と第3の湾曲部19とが翼前縁部13に設けられることによって、翼1における応力集中を緩和させることができる。
翼車11は、翼1における応力集中の緩和によって、翼1の変形を抑制することができる。翼車11は、翼1の強度向上のために翼1の厚みを増加させる場合に比べて、軽量化が可能であって、かつ材料の量を少なくできることで製造コストの低減が可能である。また、翼車11は、翼1の強度向上のために高強度で高価な材料を翼1の材料に使用する場合に比べて、材料のコストを抑えることができる。
次に、上記の角度θ1および角度θ2と翼車11の特性との関係について説明する。図8は、実施の形態1にかかる翼車11の騒音特性について説明する図である。図9は、実施の形態1にかかる翼車11の風量-静圧特性について説明する図である。図10は、実施の形態1にかかる翼車11について、図2に示す角度θ1と角度θ2との例を示す図である。図8に示したグラフは、風量と比騒音のレベルとの関係の例を表している。図9に示したグラフは、風量と静圧との関係の例を表している。
「翼車A1」は、実施の形態1にかかる翼車11であって、角度θ1が42.1度かつ角度θ2が130.0度である。「翼車A2」は、実施の形態1にかかる翼車11であって、角度θ1が29.4度かつ角度θ2が111.6度である。「翼車A3」は、実施の形態1にかかる翼車11であって、角度θ1が20.2度かつ角度θ2が90.0度である。「翼車B1」は、比較例にかかる翼車であって、上記の凹凸を有しないものとする。「翼車B1」において角度θ1は67.6度である。「翼車A1」、「翼車A2」、「翼車A3」および「翼車B1」は、260mmの直径を有するものとする。実施の形態1にかかる翼車11において、角度θ1は、20.2度から42.1度の範囲に含まれる。
翼1は、角度θ2が90度以上とされていることによって、第1の湾曲部17と第2の湾曲部18と第3の湾曲部19とが滑らかに接続されている。これにより、翼車11は、翼前縁部13に凹凸を設けたことによる翼前縁部13における気流の流入への影響を少なくすることができる。
図8において、縦軸は全圧基準の比騒音KT(dB)を表し、横軸は風量Q(m3/min)を表す。図9において、縦軸は静圧PS(Pa)を表し、横軸は風量Q(m3/min)を表す。比騒音KTと風量Qとの関係は、次の式(1)によって表される。式(1)において、SPLAはA特性による補正が施された騒音レベルを表す。PTは全圧を表す。
KT=SPLA-10・log(Q・PT
2.5) ・・・(1)
図9によると、「翼車A1」と「翼車A2」と「翼車A3」との風量-静圧特性は、「翼車B1」の風量-静圧特性と同様とみなせる。図8によると、「翼車A1」と「翼車A2」と「翼車A3」との騒音特性関係は、「翼車B1」の場合と比較して、最大で2dB程度騒音が低くなるように改善されている。
図11は、実施の形態1にかかる翼車11の角度θ1と風量Qとの関係の例を示す図である。図11に示すグラフは、静圧がゼロである開放点における角度θ1と風量比ΔQとの関係の例を表している。風量比ΔQは、角度θ1が67.6度である「翼車B1」の風量Qに対する各翼車11の風量Qの比を表す。図11において、縦軸は風量比ΔQ(%)を表し、横軸は角度θ1(度)を表す。図11のグラフにおけるプロットは、「翼車A1」、「翼車A2」、「翼車A3」および「翼車B1」についての角度θ1と風量比ΔQとの関係を表している。角度θ1と風量比ΔQとの関係を表す曲線は、プロット間における角度θ1と風量比ΔQとの関係を補間することによって求められる。
図11によると、角度θ1が小さくなるにしたがって風量比ΔQは小さくなる傾向が確認される。ただし、67.6度から20.2度までの角度範囲にて角度θ1を変化させる場合において、風量比ΔQの減少幅は最大で0.6%に抑えられている。これにより、実施の形態1にかかる翼車11は、角度θ1を小さくすることによる風量の減少は限定的であるといえる。
図12は、実施の形態1にかかる翼車11の角度θ1と最小比騒音KTminとの関係の例を示す図である。図12において、縦軸は最小比騒音差ΔKTmin(dB)を表し、横軸は角度θ1(度)を表す。最小比騒音差ΔKTminは、角度θ1が67.6度である「翼車B1」の最小比騒音KTminと各翼車11の最小比騒音KTminとの差を表す。図12のグラフにおけるプロットは、「翼車A1」、「翼車A2」、「翼車A3」および「翼車B1」についての角度θ1と最小比騒音差ΔKTminとの関係を表している。角度θ1と最小比騒音差ΔKTminとの関係を表す曲線は、プロット間における角度θ1と最小比騒音差ΔKTminとの関係を補間することによって求められる。
図12によると、角度θ1が15度から55度までの範囲である場合には、翼車11の騒音特性は、最小比騒音差ΔKTminが0.5dB以上低くなるように改善されている。また、角度θ1が29.4度である場合には、翼車11の騒音特性は、最小比騒音差ΔKTminが2dB低くなるように改善されている。
図13は、実施の形態1にかかる翼車11の角度θ1と最大応力σmaxとの関係の例を示す図である。図13において、縦軸は最大応力比Δσmax(%)を表し、横軸は角度θ1(度)を表す。最大応力比Δσmaxは、角度θ1が67.6度である「翼車B1」の最大応力σmaxに対する各翼車11の最大応力σmaxの比を表す。図13のグラフにおけるプロットは、「翼車A1」、「翼車A2」、「翼車A3」および「翼車B1」についての角度θ1と最大応力比Δσmaxとの関係を表している。角度θ1と最大応力比Δσmaxとの関係を表す曲線は、プロット間における角度θ1と最大応力比Δσmaxとの関係を補間することによって求められる。
図13によると、角度θ1が20.2度から55度までの範囲に含まれる場合に、最大応力σmaxは4%から9%低下する。翼車11は、20.2度から42.1度の範囲に含まれる角度θ1が設定されることによって、騒音の低減と応力集中の緩和とが可能となる。さらに、上述するように角度θ2が90度以上とされるため、θ2>θ1の関係が成り立つ。以上により、翼車11は、角度θ1が角度θ2よりも小さい場合において、騒音の低減と応力集中の緩和とが可能となる。
実施の形態1によると、翼車11は、各翼1の翼前縁部13に第1の湾曲部17と第2の湾曲部18と第3の湾曲部19とが設けられている。翼車11は、翼1の平面形を角度θ2よりも小さい角度θ1を有する形状とすることにより、騒音の低減と応力集中の低減とが可能となる。これにより、翼車11は、騒音の低減と応力集中の低減とが可能となるという効果を奏する。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。