以下、図面を参照しつつ本発明を詳述する。本発明は以下の実施例の具体的態様に限定されるものではない。
本実施形態の固定子は、専ら分数スロットの集中巻線を対象としている。分数スロットとは、毎極毎相のスロット数が分数となるものをいう。つまり、固定子のスロットの数Nと、固定子の相数Q及び固定子の極数Pとの比が整数とならない場合である。即ち、毎極毎数スロット数が、N/(Q・P)=k+(n/m)である(k、n、mは整数、(n/m)は既約分数)。このとき、1つの相コイルあたりの同相スロットの数は、n-1である。したがって、1つの固定子あたりの同相スロット数の合計は、N・(n-1)/nである。
例えば、極数が50未満の場合における、固定子の極数とスロット数、及び1つの相コイルあたりの同相スロットの数(括弧内に示す)の組み合わせは、8:9(2)、10:9(2)、10:12(1)、14:12(1)、14:15(4)、14:18(2)、16:15(4)、16:18(2)16:21(6)、20:18(2)、20:21(6)、20:24(1)、20:27(8)、22:18(2)、22:21(6)、22:24(3)、22:27(8)、22:30(4)、24:27(2)、26:21(6)、26:24(3)、26:27(8)、26:30(4)、26:33(10)、26:36(5)、28:24(1)、28:27(8)、28:30(4)、28:33(10)、28:36(2)、28:39(12)、30:27(2)、30:36(1)、32:27(8)、32:30(4)、32:33(10)、32:36(2)、32:39(12)、32:42(6)、32:45(14)、34:27(8)、34:30(4)、34:33(10)、34:36(5)、34:39(12)、34:42(6)、34:45(14)、34:48(7)、38:30(4)、38:33(10)、38:36(5)、38:39(12)、38:42(6)、38:45(14)、38:48(7)、38:51(16)、38:54(8)、40:33(10)、40:36(2)、40:39(12)、40:42(6)、40:45(2)、40:48(1)、40:51(16)、40:54(8)、40:57(18)、42:36(1)、42:45(4)、42:54(2)、44:36(2)、44:39(12)、44:42(6)、44:45(14)、44:48(3)、44:51(16)、44:54(8)、44:57(18)、44:60(4)、44:63(20)、46:36(5)、46:39(12)、46:42(6)、46:45(14)、46:48(7)、46:51(16)、46:54(8)、46:57(18)、46:60(9)、46:63(20)、46:66(10)、48:45(4)、48:54(2)、48:63(6)、である。
極数が50~70である場合の組み合わせは、50:39(12)、50:42(6)、50:45(2)、50:48(7)、50:51(16)、50:54(8)、50:57(18)、50:60(1)、50:63(20)、50:66(10)、50:69(22)、50:72(11)、52:42(6)、52:54(14)、52:48(3)、52:51(16)、52:54(8)、52:57(18)、52:60(4)、52:63(20)、52:66(10)、52:69(22)、52:72(5)、52:75(24)、56:45(14)、56:48(1)、56:51(16)、56:54(8)、56:57(18)、56:60(4)、56:63(2)、56:66(10)、56:69(22)、56:72(2)、56:75(24)、56:78(12)、56:81(26)、58:45(14)、58:48(7)、58:51(16)、58:54(8)、58:57(18)、58:60(9)、58:63(20)、58:66(10)、58:69(22)、58:72(11)、58:75(24)、58:78(12)、58:81(26)、58:84(13)、60:54(2)、60:63(6)、60:72(1)、60:81(8)、62:48(7)、62:51(16)、62:54(8)、62:57(18)、62:60(9)、62:63(20)、62:66(10)、62:69(22)、62:72(11)、62:75(24)、62:78(12)、62:81(26)、62:84(13)、62:87(28)、62:90(14)、64:51(16)、64:54(8)、64:57(18)、64:60(4)、64:63(20)、64:66(10)、64:69(22)、64:72(2)、64:75(24)、64:78(12)、64:81(26)、64:84(6)、64:87(28)、64:90(14)、64:93:(30)、66:54(2)、66:63(6)、66:72(3)、66:81(8)、66:90(4)、68:54(8)、68:57(18)、68:60(4)、68:63(20)、68:66(10)、68:69(22)、68:72(5)、68:75(24)、68:78(12)、68:81(26)、68:84(6)、68:87(28)、68:90(14)、68:93(30)、68:96(7)、68:99(32)、である。
極数が70~80未満である場合の組み合わせは、70:54(8)、70:57(18)、70:60(1)、70:63(2)、70:66(10)、70:69(22)。70:72(11)、70:75(4)、70:78(12)、70:81(26)、70:84(1)、70:87(28)、70:90(2)、70:93(30)、70:96(15)、70:99(32)、70:102(16)、72:81(2)、74:57(18)、74:60(9)、74:63(20)、74:66(10)、74:69(22)、74:72(11)、74:75(24)74:78(12)、74:81(26)、74:84(13)、74:87(28)、74:90(14)、74:93(30)、74:96(15)、74:99(32)、74:102(16)、74:105(34)、74:108(17)、76:60(4)、76:63(20)、76:66(10)、76:69(22)、76:72(5)、76:75(24)、76:78(12)、76:81(26)、76:84(6)、76:87(28)、76:90(14)、76:93(30)、76:96(7)、76:99(32)、76:102(16)、76:105(34)、76:108(8)、76:111(36)、78:63(6)、78:72(3)、78:81(8)、78:90(4)、78:99(10)、78:108(5)、である。
極数が80~90未満、かつスロット数が120以下である場合の組み合わせは、80:63(20)、80:66(10)、80:69(22)、80:72(2)、80:75(4)、80:78(12)、80:81(26)、80:84(6)、80:87(28)、80:90(2)、80:93(30)、80:96(1)、80:99(32)、80:102(16)、80:105(6)、80:108(8)、80:111(36)、80:114(18)、80:117(38)、82:63(20)、82:66(10)、82:69(22)、82:72(11)、82:75(24)、82:78(12)、82:81(26)、82:84(13)、82:87(28)、82:90(14)、82:93(30)、82:96(15)、82:99(32)、82:102(16)、82:105(34)、82:108(17)、82:111(36)、82:114(18)、82:117(38),82:120(19)、84:72(1)、84:81(8)、84:90(4)、84:99(10)、84:108(2)、84:117(12)、86:66(10)、86:69(22)、86:72(11)、86:75(24):86:78(12)、86:81(26)、86:84(13)、86:87(28)、86:90(14)、86:93(30)、86:96(15)、86:99(32)、86:102(16)、86:105(34)、86:108(17)、86:111(36)、86:114(18)、86:117(38)、86:120(19)、88:69(22)、88:72(2)、88:75(24)、88:78(12)、88:81(26)、88:84(6)、88:87(28)、88:90(14)、88:93(30)、88:96(3)、88:99(2)、88:102(16)、88:105(34)、88:108(8)、88:111(36)、88:114(18)、88:117(38)、88:120(4)、である。
極数が90~100未満、かつスロット数が120以下である場合の組み合わせは、90:81(2)、90:108(1)、92:72(5)、92:75(24)、92:78(12)、92:81(26)、92:84(6)、92:87(28)、92:90(14)、92:93(30)、92:96(7)、92:99(32)、92:102(16)、92:105(34)、92:108(8)、92:111(36)、92:114(18)、92:117(38)、92:120(9)、94:72(11)、94:75(24)、94:78(12)、94:81(26)、94:84(13)、94:87(28)、94:90(14)、94:93(30)、94:96(15)、94:99(32)、94:102(16)、94:105(34)、94:108(17)、94:111(36)、94:114(18)、94:117(38)、94:120(19)、96:81(8)、96:90(4)、96:99(10)、96:108(2)、96:117(12)、98:75(24)、98:78(12)、98:81(26)、98:84(1)、98:87(28)、98:90(14)、98:93(30)、98:96(15)、98:99(32)、98:102(16)、98:105(4)、98:108(17)、98:111(36)、98:114(18)、98:117(38)、98:120(19)である。
極数が100~110未満、かつスロット数が120以下である場合の組み合わせは、100:78(12)、100:81(26)、100:84(6)、100:87(28)、100:90(2)、100:93(30)、100:96(7)、100:99(32)、100:102(16)、100:105(6)、100:108(8)、100:111(36)、100:114(18)、100:117(38)、100:120(1)、102:81(8)、102:90(4)、102:99(10)、102:108(5)、102:117(12)、104:81(26)、104:84(6)、104:87(28)、104:90(14)、104:93(30)、104:96(3)、104:99(32)、104:102(16)、104:105(34)、104:108(8)、104:111(36)、104:114(18)、104:117(2)、104:120(4)、106:81(26)、106:84(13)、106:87(28)、106:90(14)、106:93(30)、106:96(15)、106:99(32)、106:102(16)、106:105(34)、106:108(17)、106:111(36)、106:114(18)、106:117(38)、106:120(19)、である。
極数が110~120以下、かつスロット数が120以下である場合の組み合わせは、110:84(13)、110:87(28)、110:90(2)、110:93(30)、110:96(15)、110:99(2)、110:102(16)、110:105(6)、110:108(17)、110:111(36)、110:114(18)、110:117(38)、110:120(3)、112:87(28)、112:90(14)、112:93(30)、112:96(1)、112:99(32)、112:102(16)、112:105(4)、112:108(8)、112:111(36)、112:114(18)、112:117(38)、112:120(4)、114:90(4)、114:99(10)、114:108(5)、114:117(12)、116:90(14)、116:93(30)、116:96(7)、116:99(32)、116:102(16)、116:105(34)、116:108(8)、116:111(36)、116:114(18)、116:117(38)、116:120(9)、118:90(14)、118:93(30)、118:96(15)、118:99(32)、118:102(16)、118:105(34)、118:108(17)、118:111(36)、118:114(18)、118:117(38)、118:120(19)、120:99(10)、120:108(2)、120:117(12)である。本発明は上記の極数・スロット数の具体的な組み合わせのものに適用することができる。また、極数またはスロット数が120を超える場合でも、前記数式から得られる組み合わせのうち、1つの相コイルあたりの同相スロットの数が1以上となる組み合わせのものに、本発明を適用することができる。
図1は実施例1に係る回転電機の断面図である。図2は本発明の実施例1の変形例に係る回転電機の断面図である。回転電機100は、固定子101と、固定子101に対して回転可能に支持された回転子102とを備えている。回転子102は回転軸心Cを中心に回転する。以下では断りのない限り、「内周側」「外周側」という言葉は、それぞれ回転軸心Cに対して距離が近い側を「内周側」、遠い側を「外周側」と定義する。
また「径方向R」は回転軸心Cと垂直に交わる直線方向と定義し、「周方向θ」は回転軸心Cまわりの回転方向と定義する。「軸方向Z」は回転軸心Cに平行な直線方向と定義する。回転子102にはシャフト(図示せず)が固定されていてもよく、回転電機100は固定子101及び回転子102を覆うフレーム(図示せず)を備えていてもよい。
回転子102は、シャフトやフレーム等の構造部材を介して負荷(図示せず)と接続されるか、または直接接続される。回転子102が回転することで、負荷に回転とトルクを伝達する。固定子101及び回転子102は同一の中心軸(回転軸心C)を有し、固定子101と回転子102との間には空隙109が設けられ、互いに接触しないように配置されている。
なお、回転電機100は、回転子102が固定子101の内周側に回転可能に支持されていてもよく、回転子102が固定子101の外周側に回転可能に支持されていてもよい。図1は回転子102が固定子101の内周側に回転可能に支持されている、いわゆるインナーロータ構造の場合の構成を示し、図2は回転子102が固定子101の外周側に回転可能に支持されている、いわゆるアウターロータ構造の場合の構成を示す。以下の説明は、インナーロータ構造とアウターロータ構造のいずれの場合でも成立する。
回転子102は、電磁鋼板を複数枚積層して構成された回転子鉄心(図示せず)と、磁極部(図示せず)とを備えている。回転子鉄心は、一体成形されたソリッド部材で構成してもよい。また、圧粉磁心などの粉末磁性体を圧縮成形した構成でもよいし、アモルファス金属やナノ結晶材で構成してもよい。磁極部は例えば、回転子バー及びエンドリングの電気伝導体からなる。回転子バー及びエンドリングの材料には、例えば、銅やアルミニウムなどが用いられる。エンドリングは複数の回転子バーを電気的に接続してあれば、いかなる接続方法であってもよい。
例えば、回転子バー及びエンドリングは一体成形してもよく、また、それぞれを別部材で構成し、ロウ付け等の方法により接続してもよい。なお、磁極部の構造としてかご形誘導電動機の回転子構造を例示したが、回転子鉄心の突極性を利用した構造、例えば、スイッチトリラクタンスモータやシンクロナスリラクタンスモータの磁極部であってもよい。また、磁極部に少なくとも一つ以上の永久磁石(図示せず)を配置した、表面磁石型モータや埋込磁石型モータの磁極部、その他、界磁巻線(図示せず)を有した巻線界磁同期モータの磁極部の何れの構成であってもよい。
固定子101は、複数枚の電磁鋼板を積層して構成した固定子コア160と、ティース170に巻装された複数の相コイル120Gとから構成される。例えば3相の多相コイルを巻装する場合、U相、V相、W相の各相コイルを設ける。基本的に各相の位相は120°ずらして配置される。ただし、例えば24極27スロットの回転電機などはこの限りではない。さらに、U1相、U2相、V1相、V2相、W1相、W2相のように、6つの相コイルとし、そのスロット位置と位相を組み合わせた構成にすることもできる。この場合、U1相とU2相の組は直列または並列に接続され、V1相とV2相の組、W1相とW2相の組はそれぞれU相の組と同様に接続される。さらに、U1相、U2相、…、Ua相、V1相、V2相、…、Va相、W1相、W2相、…、Wa相のように、3a個の相コイルとして、そのスロット位置と位相を組み合わせた構成にすることもできる。
固定子コア160は円環状のバックヨーク180と、径方向の空隙109側に複数設けられたティース170と、ティース170間に設けられたスロット110とから構成される。バックヨーク180はティース170と接続される。一本の相コイル120Gはティース170を取り巻くように巻装されている。固定子コア160は、一体成形されたソリッド部材で構成してもよい。また、圧粉磁心などの粉末磁性体を圧縮成形した構成でもよいし、アモルファス金属やナノ結晶材で構成してもよい。
相コイル120Gは、スロット110の中に配置された導体スロット部122と、位置が異なるスロット110間のコイルエンドを渡る導体渡り部121とを含む。さらに、外部回路(図示せず)から電流を入力し、位置が異なる相コイル120G同士を接続するための引出部123(引出線123A、123Bを含む)を含んでいる。複数の相コイル120Gは、空隙109に回転磁界を発生させるために、上記したように3相の位相が異なるコイルを含んでいる。これらの3つの相に対応する相コイル120Gは、固定子101の周方向に対して、例えば120°ずれて配置されている。各相コイル120G同士は、入力される電流基本波成分の位相が互いに120°ずつ異なっており、これにより、空隙109に回転磁界を発生させ、回転子102を回転させることを可能にしている。ここでは例として3相コイルを挙げたが、他にも例えば五相コイルなど、少なくとも位相が異なる2つ以上の相コイル120Gを備えている場合でも、本発明の効果を得ることができる。
相コイル120Gの導体は断面が略長方形の角線である。本発明において、相コイル120Gは、周方向に連続して3つ以上並んだスロットの一群を渡って巻装される。その際、同一のスロット内を通過する、複数の導体スロット部の電流方向は一致する。また、一つのスロット110内のコイルは径方向にのみ一列の状態で並んでいる。まず、一つのスロット110に注目して説明する。
図3に実施例1に係る回転電機の固定子に備えられたスロットの部分断面図を示す。本図に示すように、スロット110のコイル挿入領域113は略長方形形状であることが好ましい。図3では、ティース170のティーストップ171に張出部172がある。このためコイル挿入領域113は隣接する二つのティース170と、ティースの張出部172と、バックヨーク180とで囲まれた領域となる(図3の部分拡大図を参照)。
単独の素材として見た場合のコイル120は、電流を流すための素線130と、素線130を周囲の部材と電気的に絶縁するための絶縁被膜140から構成される。図3に示すようにコイル120の絶縁被膜140を含む断面は略長方形であり、コイル120はスロット110内で径方向R(図1を参照)に並び、互いに周方向θ(図1を参照)では接しない。図3に示す構成例では、複数のコイル120は、スロット110内で一列の第1レイヤ201、第2レイヤ202、第3レイヤ203及び第4レイヤ204の4つのレイヤを構成している。
なお、コイル120の角部124は必ずしも直角でなくてもよく、R面やC面等の面取りをされていてもよい。特に、素線130は電界集中緩和のためR面やC面等の面取りをされていてもよい。素線130の材料は良導体であり、例えば銅やアルミニウムなどの材料が好ましい。
また絶縁被膜140は電気絶縁性に優れた材料、例えば、エナメルなどの材料が好ましい。ただし、コイルに用いる材料は上述した具体的材料に限定されない。特に絶縁被膜140は、素線130同士や素線130と固定子コア160などの材料との電気的絶縁の機能を有するものであれば、素線130に固着した被膜物である必要もなく、例えば、絶縁テープや絶縁紙などで代用してもよい。
次に相コイル120Gの巻装の形態について詳述する。図4Aに実施例1に係る回転電機の固定子の軸方向Z(図1を参照)と径方向R(図1を参照)から見た部分結線図を示す。実際の回転電機100の固定子101は略円柱または略円筒状の形状をしているため、周方向θに有限の曲率をもった構造をしているが、図4A以降の図では本発明の構造を簡略的に示すために、周方向を直線状に示した模式図を用いている。図4Aは集中巻・分数スロット構造において、同相の磁界を発生させるティース170が周方向において2本並んだ場合のU相の結線の形態を示す。
図4Aでは、各スロット110には径方向に4つのコイルが4つのレイヤをなすように構成されている。同相スロット111には4つのコイルが一列に並んでいる。以下の説明では、スロット内に置かれた4本のコイルの位置に対応する径方向の4つの領域をレイヤとも定義する。第3図と同様に本図においても、バックヨーク180に近い位置から空隙109へ向かう順に、第1レイヤ201、第2レイヤ202、第3レイヤ203、第4レイヤ204と定義する。一つのスロットに含まれるレイヤの段数は、コイルのターン数で決まる。本図では、一例として4レイヤの構造を示すが、スロット当たりのレイヤの段数は2段以上のいかなる段数でもよい。
図4A(a)のU相の相コイル(以下、U相コイルとも呼ぶ。)に注目する。U相コイルの引出線123Aは、軸方向Z(図1を参照)の負方向から正方向に伸び、異相スロット112A内の導体スロット部122aとなり、第1レイヤ201を軸方向Zの正方向へ伸びる。固定子コア160の軸方向Zの正側終端に至った導体スロット部122aは、一つ隣の同相スロット111に向かう導体渡り部121aを経て、同相スロット111内の導体スロット部122bとなる。この同相スロット111内の導体スロット部122bは、同相スロット111内の第1レイヤ201を軸方向Zの負方向へ伸びる。
固定子コア160の軸方向Zの負側終端に至った同相スロット111内の導体スロット部122bは、さらに一つ隣の異相スロット112Bに向かう導体渡り部121bを経て、異相スロット112B内の導体スロット部122cとなる。ここで、スロット内の導体スロット部122cは、第2レイヤ202に位置しているので、同相スロット111から異相スロット112Bの間で1レイヤ分の径方向での移動が発生する。U相コイルは、異相スロット112Bで周方向に折返し、同相スロット111に向かう導体渡り部121cを経て、同相スロット111内の導体スロット部122dとなる。同相スロット111内の導体スロット部122dは同相スロット111の第2レイヤ202において、軸方向Zの負方向へ伸びる。固定子コア160の軸方向Zの負側終端に至ったスロット内の導体スロット部122dは、さらに一つ隣の異相スロット112Aに向かう導体渡り部121dを経て、異相スロット112A内の導体スロット部122eとなる。ここで、スロット内の導体スロット部122eは、第3レイヤ203に移動したことになる。以下、一連の相コイルの巻回しとターンに応じて、スロット間を渡ることと、レイヤの移動を繰り返す。最後は引出線123Bから、固定子101の外部に引き出される。図4A(b)を参照すると、各スロットにおいて、U相のコイルの電流方向が揃っていることを読み取ることができる。
ここではU相コイルにのみ注目したが、他のV相、W相のコイルもU相コイルと同様に固定子101に巻装される。このとき、異相スロット112Aと異相スロット112BにはU相コイル以外に、もう一つ他の相のコイルが挿入される。すなわち一つのスロットに2つの位相が異なる相コイルが挿入されるスロットが存在する。ここでは、同じ相のコイルのみ挿入されるスロットを同相スロット111として表し、異相が異なる2つの相コイルが挿入されるスロットを異相スロット112と表わしている。
本発明では、コイルは軸方向Zにジグザグしながら隣接するスロットへと渡り(図12を参照)、かつ、同相スロット111を介して異相スロット112間を周方向θに往復するように巻装される。ここで、コイルは図12に示すような一つながりのものでもよく、途中で分離したコイル要素同士を接続したものでもよい。例えば、導体スロット部と導体渡り部とが一体のコイル要素として構成されたものを準備し、さらに、複数のコイル要素同士を、溶接、はんだ付け、嵌め合い、メッキ及び圧着の何れか一つによって接続してもよい。また、一つの相コイルは一つのレイヤ分だけ、径方向Rにずれた状態で同相スロット111と異相スロット112を跨ぐ。集中巻・分数スロット構造をとる固定子において、同相の磁界を発生させるティース170は周方向に2本以上並ぶため、相コイルは少なくとも、連続して並んだ3つ以上のスロット110の一群を渡って巻装される。
図4Aでは、同相スロット111から異相スロット112に渡るときにレイヤが総段数の4つのうちの1段ずれる場合を示している。しかし、本発明の形態はこの限りではない。図4Bに本発明の実施例1の変形例に係る回転電機の固定子の軸方向Zと径方向Rから見た部分結線図を示す。例えば、図4Bでは、異相スロット112A、112Bから同相スロット111に渡るときに、レイヤが1段ずれる例を示している。図4Aや図4Bに示すように、同相スロット111から異相スロット112に渡るとき、または異相スロット112から同相スロット111に渡るときに、スロット内のコイルのレイヤが1段移動する構造が好ましい。ただし、同相スロット111から異相スロット112に渡るとき、または異相スロット112から同相スロット111に渡るときに、コイルのレイヤが2段以上移動する構造でも本発明の基本的な効果を得ることができる。図4B(b)についても、各スロットにおいて、U相のコイルの電流方向が揃っていることを読み取ることができる。
図5A~5Dに、本発明の実施例1の別の変形例に係る回転電機の固定子の軸方向Zと径方向Rから見た部分結線図を示す。図5A~5Dは集中巻・分数スロット構造において、同相の磁界を発生させるティース170が周方向3本並ぶ場合、すなわち同相スロット111が2つ連続して周方向に並ぶ場合のU相の結線の形態を示す。
この場合も図4Aと同様、相コイル120Gは軸方向Zにジグザグしながら隣接するスロットへと渡り、かつ、同相スロット111を介して異相スロット112間を周方向θに往復するように巻装される。
ただし、同相スロット111間をコイルが渡る場合は、コイルは配置されているレイヤをずれることなく、同一のレイヤを保った状態で隣接する同相スロット111に渡る。同相スロット111が3つ以上連続して周方向に並ぶ場合でも同様である。同相スロット111が2つ以上連続して周方向に並ぶ場合でも、同様の構成により本発明の効果を得ることができる。次に本実施例の作用について説明する。
本発明によれば、集中巻・分数スロット構造において、角線のコイルを一方の異相スロット112から他方の異相スロット112まで連続して渡らせる巻装構造とすることで、相コイル同士が回転電機の周方向θにおいて相互に接しない状態を形成できる。また、図5A(b)、図5B(b)、図5C(b)及び図5D(b)を参照すると、上記の図4A(b),図4B(b)と同様に、各スロットにおいて、U相のコイルの電流方向が揃っていることを読み取ることができる。
ここで、図6に従来技術の回転電機の固定子コアに設けられたスロットの断面図を示す。従来技術における集中巻の構造では、相コイル120Gは一つのティース170に対して巻装されるため、スロット110内の周方向θに、2列のコイル120が並ぶ。スロット110内の素線130同士が電気的に短絡しないようにするため、素線130の周りに絶縁が必要となる。特に異相スロット112の場合は、位相が異なる2つのコイル120が挿入されているため、コイルの絶縁はこの異相スロット112に必要な絶縁耐圧に基づいて設計される。このため、従来技術では、周方向θに異なる相のコイル120が並ぶため、これらのコイル120間を絶縁するのに十分な厚さの絶縁被膜140を必要とする。
ここでは、この絶縁被膜140の厚さをtとする。すなわち、位相が異なる2つのコイル120間の絶縁には2tの厚みの絶縁被膜があればよいが、このとき、周方向θにおける絶縁被膜の総和は一つのスロット110あたり4tとなる。したがって、従来の集中巻構造は、分数スロット構造か否かによらず共通したコイル巻装方法で固定子101を製作できる点ではメリットがあったが、各スロット110に対して絶縁被膜140が占める体積が多くなり、占積率は小さかった。
一方で、上述した図3に示したように、本発明のコイル巻装構造では、集中巻・分数スロット構造において、コイル120をスロット110に対して、1本ずつスロットの径方向に揃えて配置し、編み込むような巻装構造を有している。このコイル巻装の構造においては、コイル120はスロット110内で径方向Rに並び、互いに周方向θでは接しない。
従来技術と同様に、本発明においても、コイルの絶縁は、異相スロット112の異なる相のコイル120間で必要な絶縁耐圧に基づいて設計される。本発明では、径方向Rに異なる相のコイル120が並ぶため、このコイル120間を絶縁するのに十分な厚さの絶縁被膜140を必要とする。従来技術と同様に、この絶縁被膜140の厚さをtとする。このとき、径方向Rの複数のコイル120間の絶縁被膜140の総和は2tであり、絶縁性に問題はない。径方向Rの絶縁被膜の総和は従来技術と同じである。
一方で、周方向θにおける絶縁被膜の総和は一つのスロット110あたり2tとなり、従来技術に対して半減している。したがって、絶縁被膜140の体積が従来技術よりも低減しているが、絶縁耐圧は従来技術の場合と同等である。従って、本発明における集中巻・分数スロットに限定した巻装構造は、各スロット110に対して絶縁被膜140が占める体積を低減し、特に周方向θの絶縁被膜の量を半減することができる。そのため、コイルの占積率を向上することができる。
また、従来技術の集中巻では、製造公差等の都合で周方向θのコイル間にデッドスペース150(図6を参照)が必要となる。場合によっては、絶縁紙などの絶縁材料が設けられており、さらにコイル占積率を低下させていた。一方で、本発明における巻線構造では、周方向θでのコイル120同士の接触や干渉がないため、周方向のコイル間の不要な空隙はなくなっている。または周方向の絶縁性を得るための絶縁紙は不要になる。このため、コイルの占積率はさらに向上する。占積率の向上はコイル120の銅損、すなわちコイル120での発熱量を低減させることが可能となる。そのため、その分のマージンを回転電機100の小型化、具体的にはスロット110の断面の縮小、に利用することで、回転電機100のトルク密度を向上することができる(図1、2を参照)。
図4A、4B、及び5Aに示したように、レイヤ数が偶数(左記の図ではいずれも4レイヤ)の場合は、引出部123を軸方向Zの同一端(コイルエンド方向の端)に集約することができる。これにより引出線の結線作業が軸方向における一端側だけで完結するためコイルの組立作業性が向上する。また、結線スペースを小さくできるため回転電機の小型化が可能である。
一方で、図5Bに示したように、レイヤ数が奇数(図5Bでは3レイヤ)の場合は、引出部123を軸方向Zの両端側に分散させることができる。これにより結線レイアウトの自由度が向上する。
以上の効果は、例えば図5Cに示したように、コイルが同相スロット111から異相スロット112に渡るとき、または異相スロット112から同相スロット111に渡るときに、コイルのレイヤが2段以上移動する構造でも得ることができる。ただし、コイルが同相スロット111から異相スロット112に渡るとき、または異相スロット112から同相スロット111に渡るときに、コイルのレイヤが1段移動する構造にすれば、同相スロット111と異相スロット112を渡る導体渡り部121の長さの総和が最小になり、コイルの巻線抵抗を最小にできる。
コイルの銅損はコイルの巻線抵抗の大きさに比例するから、コイルの巻線抵抗が最小の条件では、コイルでの発熱量をさらに低減することが可能となり、回転電機100のトルク密度をさらに向上することができる。
また、コイルでの発熱は損失とも言えるため、コイルが同相スロット111から異相スロット112に渡るとき、または異相スロット112から同相スロット111に渡るときにコイルのレイヤが1段だけ移動する態様は、コイルに発生する損失低減の観点からも効果的である。最後に、図5Dは、実施例1の変形例であり、総レイヤ数が2であり、同相スロットが2つ連続して並んでいる場合である。
次に、図5Eに、本発明の実施例1の変形例に係る異相スロットのコイルに流れる電流とそれにより発生する磁束の概念図を示す。図5Eは、コイル120が同相スロット111から異相スロット112に渡るとき、または異相スロット112から同相スロット111に渡るときにコイル120のレイヤが2段以上移動する場合の異相スロット112の断面図である。
これに対して、図5Fは、コイル120が同相スロット111から異相スロット112に渡るとき、または異相スロット112から同相スロット111に渡るときに、コイル120のレイヤが1段だけ移動する場合の異相スロット112の断面図である。
異相スロット112は異なる2つの相のコイルが挿入されているため、ある瞬間においては異なる相のコイル同士で電流の向きが逆になることがある。
図5E及び5Eでは、各コイル120に、ある瞬間に流れる電流の向きを示しており、電流の向きが同じコイルは同相、電流の向きが異なるコイルは異相であることを意味する。図5Eの構成の場合、同相のコイル120同士が径方向Rに少なくとも1組は連続して並ぶが、図5Fの構成の場合は、同相コイル同士が径方向Rに連続して並ぶことはない。例えば、図5Eでは、第1レイヤ201と第2レイヤ202に同相のコイルが連続して並んでいる。
このとき、コイルがスロット周りに作る磁束について考える。それぞれの断面図に、第1レイヤ201に配置されているコイル120に流れる電流の作る磁束701と、第2レイヤ202に配置されているコイル120に流れる電流の作る磁束702を示す。図5Eの構成では、同相のコイルが作る磁束701、702が重畳するため、この磁束による近接効果によるコイル120の交流抵抗値の増加が顕著になる。交流抵抗値の増加は、コイル120で発生する高調波損失の増加を招く。
一方で、図5Fの構成のように、互いに異なる相のコイルが作る磁束701、702の向きが逆である場合は、これらの重畳により互いの磁束は部分的に打ち消し合い、コイル120の交流抵抗値の増加を低減することができる。
例えば、PWM電圧波形を用いてそれぞれの異相スロット112に発生する交流抵抗損失を磁界解析により計算する。その結果、図5Eの構成における損失量を1.00puとすると、図5Fの構成では0.90puとなり、損失を1割低減することが可能であることが分かった。このように、コイル120が同相スロット111から異相スロット112に渡るとき、または異相スロット112から同相スロット111に渡るときに、コイル120のレイヤが1段だけ移動する構造は優れた効果を発現している。すなわち、コイルに発生する交流抵抗による損失を低減することができる好適な構造である。
実施例2について図7、8を参照しつつ説明する。図7は本発明の実施例2に係る回転電機の固定子の部分断面図である。なお、実施例1と重複する事項については説明を省略する。
実施例2における固定子の鉄心は、分割コア161a、161b、161cを組み合わせることで形成されている。分割コアのコア分割部162A、162Bは、固定子のバックヨーク180にあり、かつ、異相スロット112と周方向θの方向において重なっている。例えば図7では、集中巻・分数スロット構造において、同相の磁界を発生させるティース170が周方向に3本並ぶ場合のU相のコイル120を網掛けのハッチングで示している。分割コアは固定子コアの周方向を分割するように構成するが、例えば、分割数は10~15程度である。また、一つの分割コアに数個から10個程度のスロットを設けることを想定している。
このとき、分割コア161bにU相コイルが巻装されており、異相スロット112Aと周方向θで重なるバックヨーク180部分に、コア分割部162Aがあり、異相スロット112Bと周方向(θ)で重なるバックヨーク180部分にコア分割部162Bがある。同様に分割コア161a、161cにはU相コイル120とは異なる、V相コイルまたはW相コイルがそれぞれ巻装されている。
本実施例の構造のように、分割コア毎に一つの相のコイルを巻装することで、各相コイルを巻装した分割固定子を形成することができる。図8に本実施例に係る分割固定子400の断面図を示す。分割固定子400のコイルは一つの相コイルのみで巻装されているため、分割固定子400内で一つの相コイルの巻装が完結する。このため、先に分割固定子400を複数個組み立てて、その後、それら複数の分割固定子400を組み合わせて固定子101を形成することができる。固定子101と比べて、分割固定子400は小型であるため組み立て作業性がよいだけでなく、分割固定子400では、位相が異なる2つの相コイルが挿入される異相スロット112が分割されている。そのため、相コイルの巻装時に異なる相のコイルの干渉が発生しない分、コイルの巻装性がよい。以上の理由から、本実施例により、コイルの巻装性、集中巻・分数スロット構造の固定子の組立作業性が向上し、回転電機の量産性が向上する。
次に実施例3について、図9~15を参照しつつ説明する。図9は本発明の実施例3に係る回転電機の固定子の部分結線図を示す。図9は集中巻・分数スロット構造において、同相の磁界を発生させるティース170が周方向に2本並ぶ場合の、U相の結線の形態を示す。なお、実施例1、実施例2と重複する事項については説明を省略する。上述した実施例と同様に、図9(b)を参照すると、各スロットにおいて、U相のコイルの電流方向が揃っていることを読み取ることができる。
実施例3における回転電機の固定子のティーストップ171は、張出部172を有さない、いわゆるオープンタイプのスロットで構成されている。図10(a)に実施例3に係る回転電機の固定子のスロットの部分断面図を示し、図10(b)に実施例3の変形例に係る回転電機の固定子のスロットの部分断面図を示す。本実施例では、スロットの幅(最小幅)W1とスロット開口部114の幅(最小幅)W2は、W1≦W2の関係にある。つまり、スロットの底面側よりスロットの開口部の方が拡がっているオープン型のスロットである。
図10(a)、図10(b)に示すように、楔173でスロット開口部114を塞いでもよい。楔173の材料は、磁性材料でも非磁性材料でもよい。本変形例の構造のように、スロットの幅W1より、スロット開口部114の幅W2のほうが大きいオープンタイプのスロットの場合、あらかじめ巻装しておいたコイル120を後から固定子コア160に組み込むことが可能になる。これにより、固定子101の組立作業性が格段に向上する。
実施例1のように固定子の鉄心が分割されていない場合は、異相スロット112で各相の相コイル120同士が干渉する。そのため、各相のコイルを同時に鉄心に組み込む必要がある。しかし、実施例2のように固定子の固定子コア160が分割コアで構成される場合は(図7を参照)、あらかじめ巻装しておいたコイルを分割コアに組み込む。従って、コイルを組み込んだ分割固定子400同士を組み合わせるだけで固定子を製作することが可能になる。これにより、集中巻・分数スロット構造の固定子の組立作業性が向上し、回転電機の量産性が向上する。
さらに、図11Aに実施例3に係る回転電機のコイルの部分拡大図を示す。本図に、同相スロット111から異相スロット112(またはその逆)に渡るコイルの導体渡り部121に、折返し部125を設ける巻線構造を示している。この構成によると、コイルを一枚の導電性の薄板から打ち抜き成形して製作する、もしくは、1本の平角線を折り曲げ成形して製作することが可能になる。コイルは少なくとも3つ以上、連続して並んでいるスロットの一群を渡る途中で、最後のティース170のコイルエンドの位置から周方向θに向け180°折返すように巻装される。同相スロット111から異相スロット112(またはその逆)に渡る導体渡り部121は、折返し部125でコイルを180度折り返すことで成形できる。この際、折返し部125を軸方向Zに、他のレイヤのコイルの導体渡り部121の幅以上、スロットの外側にずらすことで、異相スロット112内で、共に巻装される異なる相のコイルと干渉せず、コイルを成形できる。
この場合、折返し部が、他のレイヤのコイルのコイルエンドにおける、軸方向の突出長さと同等かそれ以上の長さだけ軸方向に張り出すように配置する。すると、コイルエンドとティース170の側部との間に空隙が存在することになる。つまり、その空隙の分だけ固定子の軸方向サイズが大きくなる。しかし、コイルエンドが周囲の空気に接する有効面積が実質的に増えるので、コイルエンドを積極的に冷却する観点では好ましい。
なお、折返し部125でコイルの折り返しが困難である場合は、図14Bに示すように、折返し部125を接続部126に置き換えてもよい。この場合、一方の接続部126(または引出部123)から他方の接続部126までの区間のコイルを、薄板から打ち抜き成形して、もしくは、1本の平角線を折り曲げ成形して製作する。そして、図9の結線図に基づき薄板を積層し、接続部126の個所を溶接、はんだ付け、嵌め合い、メッキ及び圧着の何れか一つによって、後工程で接続しコイルを成形してもよい。あるいは、溶接、はんだ付け、嵌め合い、メッキ及び圧着のうちから複数を組み合わせて使用してもよい。
このように、引出部の正の引出線と負の引出線の間に置かれた一つの相コイルは、二つの異相スロットの間で折返して往復するように巻装されている。そのため、薄板から成形したコイル、もしくは、1本の平角線を折り曲げ成形したコイルを適用することが容易となる。
図11A、図11Bは集中巻・分数スロット構造において、同相の磁界を発生させるティース170が周方向に2本並ぶ場合を示している。図12Aに図11Aのコイルレイアウトに対応する金属の薄板から打ち抜き成形した、もしくは、1本の平角線を折り曲げ成形した折り返し前の相コイル120の平面図を示す。相コイル120を図12Aのように薄板から打ち抜き成形する、もしくは、1本の平角線を折り曲げ成形することで、相コイル120を一体で作ることが可能になる。なお、相コイル120Gは薄板から打ち抜き成形するだけでなく、削り出し、切り出し、鋳造、AM法(アディティブ・マニュファクチュアリング法)など、製作容易な機械加工を用いて成形してもよい。図12Bに、図12Aの相コイル120Gを折返し部125で一回折り返した状態の平面図を示す。図12Cでは、さらに一回まげてティースに巻装したような状態のコイルの形態を完成させている。図12Cに示す相コイル120Gであれば、オープン型のスロットはめ込むように配置することができる。この形態の相コイル120Gであれば、実際に電線をティース(スロット)間を巻き回す必要がなく、所要時間も短縮できるので製造上の利点がある。図11A、図11Bの引出部123は、スロット内で第1レイヤ201の位置にあるので、そのまま外部に引き出すと、異なる相のコイルの折返し部125と干渉する。そのため、第1レイヤのさらに一つ下のレイヤになるように約90度の折り曲げを2回行い、軸方向の外側に端子として引出している。
次に図13~15は、実施例3の変形例として、同相の磁界を発生させるティース170が周方向に3本並ぶ場合を示している。図13は実施例3の変形例に係る回転電機の固定子の部分結線図を示している。図14Aは実施例3の変形例に係る回転電機のコイルの部分拡大図を示している。図15は本発明の実施例3の変形例に係る薄板から打ち抜き成形した、もしくは、1本の平角線を折り曲げ成形した折り返し前のコイルの平面図を示している。以下同様に、同相の磁界を発生させるティース170が周方向に3本以上並ぶ場合も、レイヤの段数によらず、相コイル120Gを一枚の金属板から成形する、もしくは、1本の平角線を折り曲げ成形することが可能である。なお、折返し部125でコイルの折り返しが困難である場合は、図14Bに示すように、折返し部125を接続部126に置き換えてもよい。この場合、一方の接続部126(または引出部123)から他方の接続部126までの区間のコイルを、薄板から打ち抜き成形して、もしくは、1本の平角線を折り曲げ成形して製作する。そして、図9の結線図に基づき薄板を積層し、接続部126の個所を溶接、はんだ付け、嵌め合い、メッキ及び圧着の何れか一つによって、後工程で接続しコイルを成形してもよい。
特に、相コイル120Gを一枚の金属板から構成することで、巻線ノズルや手巻きで巻線コイルを作製する場合に比べて、コイルの折り曲げ回数を削減できる。そのため、相コイル120Gの製作性、巻装容易性が向上する。さらに、従来の導体渡り部121のように軸方向Zへの折り曲げがなく、周方向θへの折り曲げのみである。そのため、スロット110内で周方向θに幅が広く、径方向Rに幅が狭い扁平なコイルを採用することが可能になる。扁平なコイルを用いることで、コイル内の表皮効果と近接効果から発生する交流抵抗損失を低減することが可能になる。これにより、コイルでの発熱量をさらに低減することが可能となり、回転電機のトルク密度をさらに向上することができる。
さらに、コイルの幅が導体スロット部122と導体渡り部121で等しい必要がない。導体渡り部121の幅を導体スロット部122の幅より狭めて、コイル重量を軽減し、回転電機のトルク密度を向上させることができる。さらに、導体渡り部121の幅を導体スロット部122の幅より広げて、コイルの発熱を減らし、コイルの冷却系統(図示せず)を簡素化することもできる。このように、回転電機システム全体の小型軽量化を達成することができるようになる。
実施例4について図16を参照しつつ説明する。図16は実施例4に係る電動ホイール500の断面の概念図である。電動ホイール500には、アウターロータタイプの回転電機100が使用される。回転電機100の回転子102は回転子フレーム530に接続されている。回転子フレーム530は、接続部材540によって、ホイール520と接続されている。ホイール520にはタイヤ510が嵌め合わされている。ホイール520及び回転子102がシャフト560に対して回転自在に支持されるようにするために、ホイール520もしくは回転子フレーム530はシャフト560に軸受550で接続されている。一方、回転電機100の固定子101は、支持部材(図示を省略)でシャフト560に固定支持されており、支持部材には電気回路570も搭載されている。電気回路570は電力を固定子101に供給し、回転子102を回転させる。回転子102の回転は回転子フレーム530、及び接続部材540を介してホイール520に伝達され、ホイール520を回転させる。
本実施例の構造を採用すると、回転電機100のトルク密度が高いため、回転電機100はホイール520の内周側に収容できるだけでなく、ギアレス化、すなわちホイール520のダイレクトドライブが可能となる。従来の電動ホイールはギアを利用しており、ギアの摩耗、騒音や、ギアを支持する必要があるため軸受の使用数が増加するなど課題が発生していた。
これに対して、本発明のトルク密度が高い回転電機100を使用した電動ホイール500はギアを必要としないため、ギアの摩耗を配慮したメンテナンスが不要になる上に、ギアから発生する騒音が無くなる。また、軸受の使用量は最低限となり、軸受の摩耗リスクが低減する上に、軸受のグリス交換等でのメンテナンスの作業量を削減することができる。また回転電機100の体積が小さいため、電気回路570もホイール520の内部に搭載することができ、ギアレス化との相乗効果により、電動ホイール500を小型軽量にすることが可能となる。
実施例5について図17を参照しつつ説明する。図17は実施例5に係る鉄道車両600の概念図である。鉄道車両600には、インナーロータタイプの回転電機100が使用される。回転電機100は支持部材610により台車640に固定支持されている。回転電機100の回転子102は車軸630と直結し、回転電機100は車軸630を介して車輪620を駆動する。
回転電機100のトルク密度が高いため、鉄道車両は本実施例の回転電機を採用することが可能になり、ギアレス化、すなわち車輪620のダイレクトドライブが可能となる。従来の鉄道車両はギアを利用しており、ギアの摩耗、騒音や、ギアを支持する必要があるため軸受の使用数が増加するなど課題が発生していた。これに対して、本発明のトルク密度が高い回転電機100を使用した鉄道車両600はギアを必要としないため、ギアの摩耗を配慮したメンテナンスが不要になる上に、ギアから発生する騒音が無くなる。また、軸受の使用量は最低限となり、軸受の摩耗リスクが低減する上に、軸受のグリス交換等でのメンテ作業量は削減できる。また回転電機100の体積が小さいため、ギアレス化との相乗効果により鉄道車両600を小型軽量にすることが可能となる。
本発明の回転電機は鉄道車両に限らず、バス、作業車、モノレール等、台車に回転電機を備え、タイヤ、車輪等に対して回転軸から駆動力を与える車両であれば、問題なく使用することができる。