JP2022039536A - 酸化物膜、および、積層構造体 - Google Patents

酸化物膜、および、積層構造体 Download PDF

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Abstract

【課題】塩素や水分の侵入を抑制し、これらに対するバリア膜として適用可能な酸化物膜、この酸化物膜を備えた積層構造体を提供する。【解決手段】金属成分としてNbとSiを含む酸化物からなり、前記Nbと前記Siの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされていることを特徴とする。基材11と、基材11の表面に成膜された積層膜20と、からなる積層構造体10であって、前記積層膜20は、Ag又はAg合金からなるAg膜21と、このAg膜21の前記基材11とは反対側に配置された上述の酸化物膜27とを有しており、前記酸化物膜27の膜厚が20nm以上とされていることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、金属成分としてNbとSiを含む酸化物膜、この酸化物膜を備えた積層構造体に関するものである。
例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、タッチパネル等においては、配線として、例えば特許文献1,2に示すように、透明導電酸化物膜とAg又はAg合金からなるAg膜との積層構造とされた積層膜が適用されている。この積層膜には、可視光域の光の透過率が高く、かつ、電気抵抗の低いものが要求される。
また、低放射ガラス等においては、例えば特許文献3に開示されているように、ガラス表面に、Ag合金膜と透明誘電体膜とを積層した積層膜(遮熱膜)を成膜した構造とされている。この低放射ガラス等に用いられる積層膜においては、赤外線の反射率が高く、かつ、可視光の透過率が高いことが求められる。
なお、ガラス基板等に、上述の積層膜を成膜する場合には、各種組成のスパッタリングターゲットを用いたスパッタ法が広く利用されている。
特開平07-325313号公報 特開2001-328198号公報 特開2007-070146号公報
ところで、最近では、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、タッチパネル等においては、さらなる高輝度化が求められており、可視光域の透過率に優れた積層膜が求められている。
しかしながら、Ag膜を備えた積層膜においては、パーティクル(空中微粒子)や指紋等が、膜上あるいは膜端部に付着することにより、塩素を原因としてAg膜においてAgの凝集が発生し、斑点等の欠陥が生じるおそれがあった。
特に、透過率を向上させるためにAg膜を薄くした場合には、Agが凝集しやすいため、上述の欠陥が発生しやすくなる傾向にある。
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、塩素や水分の侵入を抑制し、これらに対するバリア膜として適用可能な酸化物膜、この酸化物膜を備えた積層構造体を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明の酸化物膜は、金属成分としてNbとSiを含む酸化物からなり、前記Nbと前記Siの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の酸化物膜によれば、金属成分としてNbとSiを含み、前記Nbと前記Siの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされた酸化物で構成されているので、緻密なアモルファス(非晶質)構造となるとともに、膜自体の塩水に対する耐性が向上し、この酸化物膜を、塩素や水分に対するバリア膜として適用することができる。
本発明の積層構造体は、基材と、基材の表面に成膜された積層膜と、からなる積層構造体であって、前記積層膜は、Ag又はAg合金からなるAg膜と、このAg膜の前記基材とは反対側に配置された上述の酸化物膜と、を有しており、前記酸化物膜の膜厚が20nm以上とされていることを特徴としている。
本発明の積層構造体によれば、Ag膜の前記基材とは反対側に上述の酸化物膜が配置されており、この酸化物膜の膜厚が20nm以上とされているので、緻密なアモルファス構造とされた酸化物膜が塩素や水分のバリア膜として機能し、塩素や水分がAg膜に接触することを抑制でき、Ag膜におけるAgの凝集を抑制し、欠陥の発生を抑制することが可能となる。
ここで、本発明の積層構造体においては、前記Ag膜と前記基材との間に、金属成分としてGaとTiとZnを含むGaTiZn酸化物膜が配設されており、前記Ag膜と前記GaTiZn酸化物膜とが隣接していることが好ましい。
この場合、前記GaTiZn酸化物膜とAg膜との親和性が高く、前記GaTiZn酸化物膜に対するAgの密着性が向上する。よって、Agの原子移動が妨げられることで、塩素を原因とするAg膜におけるAgの凝集を抑制し、欠陥の発生を抑制することができる。
また、本発明の積層構造体における前記GaTiZn酸化物膜は、全金属成分量に対して、Gaが0.5原子%以上20.0原子%以下、Tiが0.5原子%以上20.0原子%以下、残部がZnと不可避不純物からなる酸化物で構成されていることが好ましい。
この場合、前記GaTiZn酸化物膜の組成が上述のように規定されているので、GaTiZn酸化物膜とAg膜との親和性が確実に高くなり、Ag膜におけるAgの凝集をさらに抑制し、欠陥の発生をさらに抑制することができる。
さらに、本発明の積層構造体においては、前記GaTiZn酸化物膜の厚さが5nm以上であることが好ましい。
この場合、前記GaTiZn酸化物膜の厚さが5nm以上とされているので、前記GaTiZn酸化物膜とAg膜との密着性がさらに向上し、Ag膜におけるAgの凝集をさらに抑制し、欠陥の発生をさらに抑制することができる。
また、本発明の積層構造体においては、前記Ag膜は、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiのいずれかの元素の少なくとも1種以上を合計で0.01原子%以上20.00原子%以下の範囲で含有し、残部がAgと不可避不純物とした組成であることが好ましい。
この場合、Ag膜が、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiから選択される1種又は2種以上を合計で0.01原子%以上20.0原子%以下の範囲で含有しているので、塩素を原因とするAg膜におけるAgの凝集を抑制し、欠陥の発生をさらに抑制することができる。
さらに、本発明の積層構造体においては、前記Ag膜の厚さが5nm以上20nm以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、Ag膜の厚さが5nm以上とされているので、膜の耐久性を十分に確保することができる。一方、Ag膜の厚さが20nm以下とされているので、製造コストが増加することを抑制できる。
本発明によれば、塩素や水分の侵入を抑制し、これらに対するバリア膜として適用可能な酸化物膜、この酸化物膜を備えた積層構造体を提供することが可能となる。
本発明の実施形態である酸化物膜を備えた積層構造体の断面説明図である。 実施例における耐塩水性試験後の積層構造体の外観観察結果を示す写真である。(a)は耐塩水性試験の評価が「◎」の例、(b)は耐塩水性試験の評価が「〇」の例、(c)は耐塩水性試験の評価が「×」の例である。
以下に、本発明の一実施形態である酸化物膜、および、積層構造体について、添付した図面を参照して具体的に説明する。
なお、本実施形態である積層構造体10は、各種ディスプレイおよびタッチパネルの透明導電配線膜や透明電極、あるいは、低放射ガラス(Low-Eガラス)における遮熱膜を構成するものである。
本実施形態である積層構造体10は、図1に示すように、基材11と、この基材11の一面(表面)に形成された積層膜20と、を備えている。
ここで、基材11としては、例えば、ガラス基板、樹脂基板、樹脂フィルム等を用いることができる。本実施形態では、基材11は、ガラス基板とされており、その厚さが0.1mm以上2mm以下の範囲内とされている。
積層膜20は、Ag又はAg合金からなるAg膜21と、このAg膜21と基材11との間に配設されるとともに膜厚方向においてAg膜21に隣接するように成膜された下地酸化物膜23と、このAg膜21の基材11とは反対側に配置された酸化物膜27と、を備えている。
なお、酸化物膜27は、Ag膜21に隣接している必要はなく、Ag膜21の基材11とは反対側に配置されていればよい。例えば、Ag膜21は、基材11と酸化物膜27との間に配置されている。本実施形態では、図1に示すように、酸化物膜27とAg膜21との間には、中間層の中間膜25が配設されている。また、例えば、Ag膜21は、下地酸化物膜23と酸化物膜27との間、又は下地酸化物膜23と中間膜25との間に配置されている。
そして、Ag膜21の基材11とは反対側に配置された酸化物膜27は、金属成分としてNbとSiを含み、NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされた酸化物で構成されている。
ここで、本実施形態である積層構造体10においては、酸化物膜27の膜厚は20nm以上とされている。
Ag膜21は、Ag又はAg合金で構成されている。本実施形態では、Ag膜21は、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiのいずれかの元素の少なくとも1種以上を合計で0.01原子%以上20.00原子%以下の範囲で含有し、残部がAgと不可避不純物とした組成であることが好ましい。なお、Ag膜21は、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiから選択される2種又は3種以上を合計0.01原子%以上20.00原子%以下の範囲で含有してもよい。
また、Ag膜21の厚さは、5nm以上20nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
下地酸化物膜23は、金属成分としてGaとTiとZnを含むGaTiZn酸化物膜で構成されていることが好ましい。
具体的には、下地酸化物膜23を構成するGaTiZn酸化物膜は、全金属成分量に対してGaの含有量が0.5原子%以上20.0原子%以下、Tiの含有量が0.5原子%以上20.0原子%以下、残部がZn及び不可避不純物とした組成の酸化物で構成されていることが好ましい。
また、本実施形態においては、下地酸化物膜23を構成するGaTiZn酸化物膜の厚さは、5nm以上とされていることが好ましい。
中間膜25は、本実施形態では、下地酸化物膜23と同様に、金属成分としてGaとTiとZnを含むGaTiZn酸化物膜で構成されていることが好ましい。下地酸化物膜23と同様に、中間膜25を構成するGaTiZn酸化物膜は、全金属成分量に対してGaの含有量が0.5原子%以上20.0原子%以下、Tiの含有量が0.5原子%以上20.0原子%以下、残部がZn及び不可避不純物とした組成の酸化物で構成されていることが好ましい。
ここで、本実施形態である積層構造体10において、酸化物膜27の組成および厚さ、Ag膜21の組成および厚さ、下地酸化物膜23の組成および厚さ、中間膜25を、上述のように規定した理由について説明する。
(酸化物膜27)
Ag膜21の基材11とは所定方向(例えば、膜厚方向)において反対側に配置された酸化物膜27は、塩素や水分に対するバリア膜として機能し、塩素や水分がAg膜21に接触することを抑制し、Ag膜21の劣化を抑制するものである。
この酸化物膜27は、金属成分としてNbとSiを含む酸化物からなり、本実施形態では、金属成分として、Siを40原子%以上80原子%以下、残部がNbおよび不可避不純物からなる組成の酸化物で構成されている。
基材11およびAg膜21より上方に配置された酸化物膜27においては、金属成分としてNbとSiを含み、NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされた酸化物で構成されている。このような組成である酸化物膜27においては、緻密なアモルファス構造とされており、塩素や水分に対するバリア性を確保することが可能となる。なお、本実施形態においては、Siは金属成分としている。
ここで、NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)が0.40未満では、Nb酸化物の特性が発現し、バリア性が低下するおそれがある。一方、NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)が0.80を超えると、Si酸化物の特性が発現し、バリア性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態では、NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)を0.40以上0.80以下の範囲内としている。
なお、NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)の下限は0.45以上とすることが好ましく、0.50以上とすることがより好ましい。NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)の上限は0.78以下とすることが好ましく、0.75以下とすることがより好ましい。
また、上述の酸化物膜27は、金属成分としてNbとSiを含む複合酸化物で構成されていることが好ましい。
また、本実施形態である積層構造体10において、酸化物膜27の厚さを20nm以上とすることにより、塩素や水分に対するバリア性を十分に確保でき、Ag膜21の劣化をさらに抑制することが可能となる。
なお、酸化物膜27の厚さの下限はバリア性の観点から30nm以上とすることがさらに好ましく、50nm以上とすることがより好ましい。酸化物膜27の厚さの上限に特に制限はないが、生産性の観点から200nm以下とすることが好ましく、150mm以下とすることがより好ましい。
(Ag膜21)
Ag膜21は、電気特性および光学特性に優れており、各種ディスプレイの配線膜や赤外線反射膜を構成する金属膜として特に適している。
ここで、Agに、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiのいずれかの元素を添加した場合には、Ag膜21におけるAgの凝集を抑制することができ、耐塩素性をさらに向上させることが可能となる。
Ag膜21において、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiから選択される1種又は2種以上の合計含有量を0.01原子%以上とすることにより、Ag膜21におけるAgの凝集を十分に向上させることが可能となる。一方、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiから選択される1種又は2種以上の合計含有量を20.00原子%以下とすることにより、Ag膜21の電気特性および光学特性が劣化することを抑制できる。
なお、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiから選択される1種又は2種以上の合計含有量の下限は0.10原子%以上とすることが好ましく、0.50原子%以上とすることがより好ましい。一方、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiから選択される1種又は2種以上の合計含有量の上限は10.00原子%以下とすることが好ましく、8.00原子%以下とすることがより好ましい。
また、Ag膜21の厚さを5nm以上とすることにより、Ag膜21の耐久性を十分に確保することができる。一方、Ag膜21の厚さを20nm以下とすることにより、Ag膜21の電気特性および光学特性を高く維持することができる。
なお、Ag膜21の厚さの下限は6nm以上とすることが好ましく、7nm以上とすることがより好ましい。一方、Ag膜21の厚さの上限は15nm以下とすることが好ましく、10nm以下とすることがより好ましい。
(下地酸化物膜23)
所定方向(例えば、膜厚方向)においてAg膜21と隣接して積層された下地酸化物膜23を構成するGaTiZn酸化物膜は、Ag膜21との密着性が高く、Agの原子移動が妨げられることでAg膜21におけるAgの凝集を抑制する作用を有している。
Gaは、Zn酸化物に添加されることによって、Ag膜21におけるAgとの密着性を向上させる作用効果を有している。
ここで、下地酸化物膜23がGaを0.5原子%以上20原子%以下の範囲内で含有することで、下地酸化物膜23とAg膜21との密着性を確実に向上させることが可能となる。
なお、下地酸化物膜23におけるGaの含有量の下限は2.0原子%以上とすることが好ましく、5.0原子%以上とすることがさらに好ましい。一方、下地酸化物膜23におけるGaの含有量の上限は18.0原子%以下とすることが好ましく、15.0原子%以下とすることがさらに好ましい。
Tiは、Zn酸化物に添加されることによって、Zn酸化物の耐塩素性を向上させる作用効果を有している。
ここで、下地酸化物膜23がTiを0.5原子%以上含有することにより、下地酸化物膜23の耐塩素性を十分に向上させることが可能となる。一方、下地酸化物膜23におけるTiの含有量を20.0原子%以下に制限することにより、下地酸化物膜23のAgとの密着性を向上させることができる。
なお、下地酸化物膜23におけるTiの含有量の下限は1.0原子%以上とすることが好ましく、2.0原子%以上とすることがさらに好ましい。一方、下地酸化物膜23におけるTiの含有量の上限は15.0原子%以下とすることが好ましく、10.0原子%以下とすることがさらに好ましい。
また、下地酸化物膜23の厚さを5nm以上とすることにより、下地酸化物膜23とAg膜21との密着性をさらに向上させることが可能となる。
なお、下地酸化物膜23の厚さの下限は10nm以上とすることが好ましく、20nm以上とすることがより好ましい。一方、下地酸化物膜23の厚さの上限に特に制限はないが、100nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがより好ましい。
(中間膜25)
本実施形態では、図1に示すように、酸化物膜27とAg膜21との間に中間膜25が配設されているが、中間膜25の組成や厚さに特に制限はない。
本実施形態においては、中間膜25は、下地酸化物膜23を構成するGaTiZn酸化物膜と同一組成としている。
本実施形態である積層構造体10は、基材11に対して、例えば各種スパッタリングターゲットを用いたスパッタ法によって、それぞれの膜を成膜することにより製造することができる。
すなわち、基材11の上に、Ga,Ti,Znを含む酸化物スパッタリングターゲットを用いて下地酸化物膜23を成膜する。
次に、下地酸化物膜23の上に、Ag又はAg合金からなるAgスパッタリングターゲットを用いてAg膜21を成膜し、さらに、Ag膜21の上にGa,Ti,Znを含む酸化物スパッタリングターゲットを用いて中間膜25を成膜する。
最後に、金属成分としてNbとSiを含み、NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされた酸化物からなるスパッタリングターゲット、あるいは、金属成分としてNbとSiを含み、NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされたNbSi合金からなるスパッタリングターゲットを用いて酸化物膜27を成膜する。
これにより、本実施形態である積層構造体10が製造されることになる。なお、下地酸化物膜23や中間膜25の成膜は、必要に応じて省略してもよい。この場合、例えば、図1の層構成において、本実施形態である積層構造体10は、下地酸化物膜23及び/又は中間膜25を有していない構成でもよい。
以上のような構成とされた本実施形態である酸化物膜27においては、金属成分としてNbとSiを含み、前記Nbと前記Siの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされた酸化物で構成されているので、緻密なアモルファス(非晶質)構造となるとともに、膜自体の塩水に対する耐性が向上し、この酸化物膜27を、塩素や水分に対するバリア膜として用いることができる。
本実施形態である積層構造体10は、Ag膜21の基材11とは反対側に上述の酸化物膜27が配置されており、この酸化物膜27の膜厚が20nm以上とされているので、緻密なアモルファス構造とされた酸化物膜27が塩素や水分のバリア膜として機能し、塩素や水分がAg膜21に接触することを抑制でき、Ag膜21の劣化を抑制することが可能となる。
本実施形態の積層構造体10において、Ag膜21と基材11との間に、金属成分としてGa、Ti、Znを含むGaTiZn酸化物膜からなる下地酸化物膜23が配設され、Ag膜21と下地酸化物膜23とが隣接している場合には、下地酸化物膜23とAg膜21との親和性が高く、これらの密着性が向上する。よって、Agの原子移動が妨げられることで、塩素を原因とするAg膜21におけるAgの凝集を抑制でき、欠陥の発生を抑制することができる。
また、下地酸化物膜23を構成するGaTiZn酸化物膜が、全金属成分量に対して、Gaが0.5原子%以上20.0原子%以下、Tiが0.5原子%以上20.0原子%以下、残部がZnと不可避不純物からなる酸化物で構成されている場合には、下地酸化物膜23とAg膜21との親和性が確実に高くなり、Ag膜21におけるAgの凝集をさらに抑制でき、欠陥の発生をさらに抑制することができる。
さらに、本実施形態の積層構造体10において、下地酸化物膜23の厚さが5nm以上である場合には、下地酸化物膜23とAg膜21との密着性がさらに向上し、Ag膜21におけるAgの凝集をさらに抑制でき、欠陥の発生をさらに抑制することができる。
また、本実施形態の積層構造体10において、Ag膜21の上に隣接するようにGaTiZn酸化物膜からなる中間膜25を成膜した場合には、中間膜25とAg膜21との密着性を向上させることが可能となる。
また、本実施形態の積層構造体10において、Ag膜21が、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiのいずれかの元素の少なくとも1種以上を合計で0.01原子%以上20.00原子%以下の範囲で含有し、残部がAgと不可避不純物とした組成である場合には、Ag膜21における耐塩素性が向上し、塩素を原因としたAg膜21におけるAgの凝集を抑制でき、欠陥の発生をさらに抑制することができる。
さらに、本実施形態の積層構造体10において、Ag膜21の厚さが5nm以上20nm以下の範囲内である場合には、膜の耐久性を十分に確保することができるとともに、製造コストが増加することを抑制できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、ガラス基板に積層膜を成膜するものとして説明したが、これに限定されることはなく、樹脂基板や樹脂フィルム等に本実施形態である積層膜を成膜してもよい。
さらに、本実施形態では、Ag膜21と酸化物膜27との間に中間膜25を積層したものとして説明したが、これに限定されることはなく、Ag膜21の基材11と反対側に酸化物膜27が配置されており、この酸化物膜27がAg膜21のバリア膜として機能する構造であれば、その他の層構造に特に制限はない。
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
各種スパッタリングターゲットを用いて、基材の表面に積層膜を成膜し、表1,2に示す構造の積層構造体を作製した。
なお、酸化物膜を成膜するスパッタリングターゲットは、以下に示すように、酸化物からなるものと、NbSi合金からなるものの2種類を準備した。
NbSi合金からなるスパッタリングターゲットを、以下のようにして製造した。
原料として、純度99.9mass%以上の各種金属粉末(Nb粉末、Si粉末)を用意した。用意した原料粉を秤量し、ボールミル装置により混合・粉砕して焼結原料粉を得た。
得られた焼結原料粉を、温度1300℃、圧力350kgf/cmの条件にて2時間ホットプレスを行い、焼結体を得た。
得られた焼結体を機械加工することにより、直径4インチ(101.6mm)、厚み6mmのスパッタリングターゲットを得た。
また、酸化物からなるスパッタリングターゲットを、以下のようにして製造した。
原料として、純度99.9mass%以上の各種酸化物粉(Nb粉末、SiO粉末)を用意した。用意した原料粉を秤量し、ボールミル装置により混合・粉砕して焼結原料粉を得た。
得られた焼結原料粉を、温度1300℃、圧力350kgf/cmの条件にて3時間ホットプレスを行い、焼結体を得た。
得られた焼結体を機械加工することにより、直径4インチ(101.6mm)、厚み6mmのスパッタリングターゲットを得た。
4インチサイズの各種組成のスパッタリングターゲットを無酸素銅のバッキングプレートにボンディングし、これをスパッタ装置に装着して、以下の条件でスパッタ成膜を実施した。また、スパッタ膜は、同一のチャンバー内で連続的に行った。
なお、電源としては、例えばDCの他に高周波(RF)電源、中周波(MF)電源又は交流(AC)電源を用いることが可能である。
(Ag膜の成膜条件)
スパッタリングターゲット:Ag又はAg合金
成膜開始真空度:7.0×10-4Pa以下
スパッタガス:高純度アルゴン
チャンバー内スパッタガス圧力:0.4Pa
直流電力:100W
(GaTiZn酸化物膜の成膜条件)
スパッタリングターゲット:GaTiZn酸化物
成膜開始真空度:7.0×10-4Pa以下
スパッタガス:高純度アルゴン98vol%+高純度酸素2vol%
チャンバー内スパッタガス圧力:0.4Pa
直流電力:200W
(NbSi合金からなるスパッタリングターゲットによる成膜条件)
成膜開始真空度:7.0×10-4Pa以下
スパッタガス:高純度アルゴン75vol%+高純度酸素25vol%
チャンバー内スパッタガス圧力:0.4Pa
直流電力:200W
(酸化物からなるスパッタリングターゲットによる成膜条件)
成膜開始真空度:7.0×10-4Pa以下
スパッタガス:高純度アルゴン98vol%+高純度酸素2vol%
チャンバー内スパッタガス圧力:0.4Pa
直流電力:200W
上述のようにして得られた積層構造体について、膜組成、光学特性、および、耐塩水性を評価した。
(膜組成)
金属成分としてNbとSiを含む酸化物からなる酸化物膜の組成は、上述のスパッタリングターゲットを用いて、酸化物の単膜を厚さ500nmでスパッタ成膜したものを、ICP発光分光分析法により分析した。
(積層構造体の光学特性)
積層構造体の可視光に対する透過率を分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製U-4100)を用いて測定した。表には、分光光度計により波長380-780nmの範囲において1nm刻みで測定した透過率スペクトル全データの平均を取ったものを記載した。
(耐塩水性評価)
耐塩水性評価として、積層構造体の表面に濃度5mass%のNaCl水溶液をスプレー噴霧器にて噴霧し、その後恒温恒湿槽内で温度85℃、相対湿度85%の環境下で168時間保持したのち、取り出して純水で洗浄、乾燥したサンプルについて光学顕微鏡(250倍)で観察し、欠陥発生の程度を評価した。
図2(a)に示すように5μmを超える欠陥がないものを「◎」、図2(b)に示すように数μm程度の欠陥が点在しているものを「〇」、数10~100μm程度の欠陥が点在しているものを「△」、図2(c)に示すように全面に欠陥が確認されたものを「×」と評価した。
Figure 2022039536000002
Figure 2022039536000003
金属Siからなるスパッタリングターゲットを用いて酸化物膜を成膜した比較例1の積層構造体においては、耐塩水性が不十分であった。
NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)が0.89とされたNbSi合金からなるスパッタリングターゲットを用いて酸化物膜を成膜した比較例2の積層構造体においては、耐塩水性が不十分であった。
NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)が0.13とされた酸化物からなるスパッタリングターゲットを用いて酸化物膜を成膜した比較例3の積層構造体においては、耐塩水性が不十分であった。
金属Nbからなるスパッタリングターゲットを用いて酸化物膜を成膜した比較例4の積層構造体においては、耐塩水性が不十分であった。
これに対して、NbとSiの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされたNbSi合金または酸化物からなるスパッタリングターゲットを用いて酸化物膜を成膜した本発明例1~22においては、耐塩水性試験が「△」~「◎」となった。
なお、本発明例1では、Ag膜が純Agであったため、耐塩水性が「〇」となった。本発明例20~22では、酸化物からなるスパッタリングターゲットを用いて酸化物膜を成膜したものであり、NbSi合金からなるスパッタリングターゲットを用いて成膜された酸化物膜の方が緻密なアモルファス膜となるため、耐塩水性が「△」となった。
また、本発明例1~22の積層構造体においては、いずれも可視光の平均透過率が82%以上であった。
以上のことから、本発明例によれば、塩素や水分の侵入を抑制することが可能な酸化物膜、および、この酸化物膜を備えた積層構造体を提供可能であることが確認された。
10 積層構造体
11 基材
20 積層膜
21 Ag膜
27 酸化物膜

Claims (7)

  1. 金属成分としてNbとSiを含む酸化物からなり、
    前記Nbと前記Siの原子比Si/(Nb+Si)が0.40以上0.80以下の範囲内とされていることを特徴とする酸化物膜。
  2. 基材と、基材の表面に成膜された積層膜と、からなる積層構造体であって、
    前記積層膜は、Ag又はAg合金からなるAg膜と、このAg膜の前記基材とは反対側に配置された請求項1に記載の酸化物膜とを有しており、
    前記酸化物膜の膜厚が20nm以上とされていることを特徴とする積層構造体。
  3. 前記Ag膜と前記基材との間に、金属成分としてGaとTiとZnを含むGaTiZn酸化物膜が配設されており、前記Ag膜と前記GaTiZn酸化物膜とが隣接していることを特徴とする請求項2に記載の積層構造体。
  4. 前記GaTiZn酸化物膜は、全金属成分量に対して、Gaが0.5原子%以上20.0原子%以下、Tiが0.5原子%以上20.0原子%以下、残部がZnと不可避不純物からなる酸化物で構成されていることを特徴とする請求項3に記載の積層構造体。
  5. 前記GaTiZn酸化物膜の厚さが5nm以上であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の積層構造体。
  6. 前記Ag膜は、In,Sn,Cu,Ge,Sb,Au,Pd,Mg,Ca,Tiのいずれかの元素の少なくとも1種以上を合計で0.01原子%以上20.00原子%以下の範囲で含有し、残部がAgと不可避不純物とした組成であることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の積層構造体。
  7. 前記Ag膜の厚さが5nm以上20nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の積層構造体。
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