JP2021181086A - フィルタおよびそれを備えるフィルタ組立体 - Google Patents

フィルタおよびそれを備えるフィルタ組立体 Download PDF

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文規 里路
Fuminori Satoji
克夫 柴原
Katsuo Shibahara
隆宏 後藤
Takahiro Goto
拓治 原野
Takuji Harano
和彦 中作
Kazuhiko Nakasaku
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Abstract

【課題】PTFEを含有しながらクラックの発生が抑制され、防塵性、防水性、通気性のいずれか1つ以上の特性に優れるフィルタ、およびそのフィルタを備えるフィルタ組立体を提供する。【解決手段】フィルタ1は、フッ素樹脂含有シート3と、フッ素樹脂含有シート3を支持する金属基材4とを備え、フッ素樹脂含有シート3は、ポリテトラフルオロエチレン含有繊維とポリイミド系重合体含有繊維とを含有し、ポリテトラフルオロエチレン含有繊維の平均繊維径が300nm〜6000nmであり、かつ、ポリイミド系重合体含有繊維の平均繊維径が100nm〜5000nmであり、金属基材4は多孔質体である。【選択図】図1

Description

本発明は、フィルタおよびそれを備えるフィルタ組立体に関する。
従来、エレクトロスプレーデポジション(ESD:Electrospray Deposition)(またはエレクトロスピニング:Electrospinning)技術を用いて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)を静電紡糸し、PTFEの不織シートを製造する技術が知られている(特許文献1参照)。この技術では、主としてPTFE樹脂からなる繊維の繊維径を均一化することができる。
PTFEを用いて作製された不織シートは、防水透湿材として機能することができ、例えばレインウエア、登山用衣類などの所定の防水性とウエア内部をドライに保持し得る透湿性とを備え持つ高機能の布帛として使用されている。また、PTFEの不織シートは人工血管や骨増生膜のような医療分野の膜材料としてや、自動車用電装品の内圧調整部品などにも使用されている。
特表2012−515850号公報
しかし、PTFEからなる不織シートは、シートを焼成して完成させる際にクラックが発生しやすく、フィルタ性能に悪影響を及ぼすおそれがある。また、例えば防水透湿材や防塵透湿材としてフィルタを用いる場合には、防水性または防塵性と、透湿性を両立させる必要がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、PTFEを含有しながらクラックの発生が抑制され、防塵性、防水性、通気性のいずれか1つ以上の特性に優れるフィルタ、およびそのフィルタを備えるフィルタ組立体を提供することを目的とする。
本発明のフィルタは、フッ素樹脂含有シートと、該フッ素樹脂含有シートを支持する金属基材とを備えるフィルタであって、上記フッ素樹脂含有シートは、PTFE含有繊維とポリイミド系重合体含有繊維とを含有し、上記PTFE含有繊維の平均繊維径が300nm〜6000nmであり、かつ、上記ポリイミド系重合体含有繊維の平均繊維径が100nm〜5000nmであり、上記金属基材が多孔質体であることを特徴とする。
1つの実施形態では、上記フッ素樹脂含有シートにおいて、上記PTFE含有繊維および上記ポリイミド系重合体含有繊維は重畳的に配置されている。
1つの実施形態では、上記PTFE含有繊維はフラクタルな外表面を有する。
1つの実施形態では、上記PTFE含有繊維および上記ポリイミド系重合体含有繊維はそれぞれ多交差構造を有する。
1つの実施形態では、上記PTFE含有繊維におけるPTFEと、上記ポリイミド系重合体含有繊維におけるポリイミド系重合体との質量比が(70:30)〜(95:5)である。
1つの実施形態では、上記ポリイミド系重合体含有繊維がポリアミドイミド含有繊維である。
1つの実施形態では、上記金属基材がステンレス鋼の焼結金属である。
1つの実施形態では、上記金属基材の密度が4.5g/cm〜7.5g/cmである。
1つの実施形態では、1分換算通気量が1(cc/分)以上である。
1つの実施形態では、1分換算通気量が20000(cc/分)以下である。
本発明のフィルタ組立体は、本発明のフィルタと、該フィルタを保持するホルダとを備えることを特徴とする。
1つの実施形態では、上記ホルダが、樹脂組成物の射出成形体である。
1つの実施形態では、上記樹脂組成物は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、粒状無機物と、繊維状無機物とを含み、上記樹脂組成物全体積に対して、上記粒状無機物が10体積%〜40体積%含まれ、かつ、上記繊維状無機物が10体積%〜30体積%含まれる。
1つの実施形態では、上記樹脂組成物は、ベース樹脂としての結晶性の熱可塑性樹脂と、非晶性樹脂とを含み、上記樹脂組成物全体積に対して、上記非晶性樹脂が5体積%〜20体積%含まれる。
1つの実施形態では、上記非晶性樹脂がポリフェニレンエーテル樹脂である。
1つの実施形態では、上記樹脂組成物は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、ゴム質重合体とを含み、上記樹脂組成物全体積に対して、上記ゴム質重合体が5体積%〜20体積%含まれる。
1つの実施形態では、上記ゴム質重合体が熱可塑性エラストマーである。
1つの実施形態では、上記ゴム質重合体がオレフィン系エラストマーである。
1つの実施形態では、上記樹脂組成物は、ベース樹脂としてのポリアリーレンサルファイド系樹脂を含む。
本発明のフィルタは、フッ素樹脂含有シート(以下、繊維シートとも言う)と、該フッ素樹脂含有シートを支持する金属基材とを備え、フッ素樹脂含有シートは、所定のナノファイバーであるPTFE含有繊維とポリイミド系重合体含有繊維とを含有するので、PTFE含有繊維のみからなる場合に比べて、クラックの発生を抑制できる。また、多孔質体である金属基材の上に、ナノファイバーからなる微細膜(繊維シート)が配置されることで、フィルタとして、マクロな開口率は確保して良好な通気性を有しつつ、微細膜により防水性や防塵性を高めることができる。これにより、PTFEを含有しながらクラックの発生が抑制され、防塵性、防水性、通気性のいずれか1つ以上の特性に優れるフィルタになる。
本発明のフィルタ組立体は、本発明のフィルタと、該フィルタを保持するホルダとを備えるので、PTFEを含有しながらクラックの発生が抑制され、防塵性、防水性、通気性のいずれか1つ以上の特性に優れるフィルタ組立体になる。
本発明のフィルタ組立体を示し、(a)は断面斜視図、(b)は分解斜視図である。 繊維シートの製造に使用されるESD装置の構成の一例を示す図である。 繊維シートの製造に使用されるESD装置の構成の他の例を示す図である。 フィルタ組立体を構成するホルダの一例を示し、(a)は上半分断面図および下半分側面図、(b)は同じくフィルタ組立体のホルダを示す収容部側平面図である。 フィルタ組立体を構成するホルダの他の例を示し、(a)は上半分断面図および下半分側面図、(b)は収容部側平面図、(c)は装着部側平面図である。 繊維シートの表面状態を表すSEM写真であり、(a)は拡大率1000倍のSEM写真、(b)は拡大率5000倍のSEM写真である。 繊維シートの撥水性を示すシート表面の写真である。 繊維シートの表面状態を表す拡大率500倍のSEM写真である。 繊維シートの表面状態を表す拡大率1000倍のSEM写真である。 繊維シートの表面状態を表す拡大率2000倍のSEM写真である。 試験片形状を示す図である。
本発明のフィルタおよびそれを備えるフィルタ組立体について、図1に基づいて説明する。図1(a)はフィルタ組合体の断面斜視図を示し、図1(b)は、フィルタ組立体の分解斜視図を示す。図1に示すフィルタ組立体1は、例えば、自動車用電装品の内圧調整部品などとして使用される。この場合、フィルタ組立体1は、自動車用電装品の筐体に取り付けられ、自動車用電装品の作動によって筐体内部が高温となり筐体の内圧が上昇してしまう場合でも、内圧を逃がすことができ、自動車用電装品内の内圧調整を行なうことができる。
図1(a)に示すように、フィルタ組立体1は、円盤状のフィルタ2と、このフィルタ2を収容するホルダ5と、ホルダ5のフィルタ2が装着される側の開口部を閉塞する蓋部材9とを有する。ホルダ5は樹脂製の筒状部材であり、筒状内部が、筐体(図示せず)の内部空間と外部空間の通気経路を形成する。この通気経路を閉じるようにフィルタ2が設けられる。フィルタ2の外径は、ホルダ5の収容部の内径と略同一であり、10mm〜50mm程度である。なお、フィルタ2が本発明のフィルタに相当する。
蓋部材9は、ホルダ5の開口部を閉塞する形状であればよく、例えば円盤状である。なお、蓋部材9は、樹脂部材であり、射出成形や押出し成形などの周知の成形方法によって形成される。蓋部材9を設けることで、フィルタ組立体1において、通気経路を確保した上でフィルタ2の保護が可能となる。
図1(b)に示すように、フィルタ2は、円形状の繊維シート3と、繊維シート3を支持する円形状の金属基材4とが積層されて構成されている。図1(b)において、繊維シート3は、金属基材4の一方(蓋部材9の反対側)の表面に直接設けられている。なお、繊維シート3は、金属基材4の他方(蓋部材9側)の表面に直接設けられてもよく、さらに、金属基材4の一方および他方の両側面に直接設けられてもよい。繊維シート3を金属基材4で支持することで、フィルタ2の強度を確保することができ、耐久性を向上させることができる。なお、繊維シート3と金属基材4との間に接合材による接合材層が設けられていてもよい。フィルタ2の全体の厚みは、例えば0.5mm〜5mm程度であり、好ましくは0.6mm〜3mmである。
(繊維シート)
本発明のフィルタを構成する繊維シートは、PTFEを含有するPTFE含有繊維とポリイミド系重合体を含有するポリイミド系重合体含有繊維とを含む。詳しくは、本発明のフィルタを構成する繊維シートは、PTFEを含有するPTFE含有繊維とポリアミドイミド(PAI:Polyamide−imide)を含有するPAI含有繊維とを含む。
PTFE含有繊維は、PTFEを主成分として含有する繊維である。PTFEはテトラフルオロエチレンの重合体であり、フッ素原子および炭素原子から構成される。PTFE自体は、化学的に安定であり、耐熱性および耐薬品性に優れている。PTFEの重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは1.0×10〜1×10である。
PTFE含有繊維は、フッ素樹脂がPTFEのみで構成されるか、フッ素樹脂がPTFEと他のフッ素樹脂とで構成される。他のフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA:Tetrafluoroethylene−Perfluroalkylvinylether)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP:Tetrafluoroethylene hexafluoropropylene copolymer)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(FTFE:Ethylene−tetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:Polyvinylidene fluoride)、またはこれらの2種以上が使用できる。他のフッ素樹脂の中でも、PTFEと類似の性質を有し、構造内にアルコキシ置換基が導入されることにより溶融成形性が向上されたフッ素樹脂である、PFAが好ましい。
PFAは、下記式(A)で表される。なお、この明細書中の各式において、nは任意の整数を表す。また、下記式(A)中のmは任意の整数を示し、pは1〜3の整数を示す。
Figure 2021181086
PTFE含有繊維が他のフッ素樹脂を含む場合、他のフッ素樹脂の含有量(2種以上の場合はその合計量、以下同じ)は、本発明のフィルタの効果を損なわない範囲において配合することができる。具体的には、他のフッ素樹脂の含有量は、PTFEと他のフッ素樹脂との合計量に対して30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
PTFE含有繊維は、好ましくはフラクタルな外表面を有する。ここで、本明細書中に用いられる用語「フラクタルな外表面」とは、例えば、繊維表面が無数かつ微細な幾何学的またはそれに類似する複雑な凹凸面を有する状態をいう。PTFE含有繊維のフラクタルな外表面は、後述の図6および図10に示すように、例えば走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を通じて当業者が容易に観察することができる。
また、PTFE含有繊維は、多数のフィラメントが多数の例えば交差点で結合した多交差構造を有していることが好ましい。なお、例えば多数のフィラメントが多数の例えば分岐点で結合した多分岐構造を有しているPTFE含有繊維も使用可能である。多交差構造などの複雑な構造を有するPTFE含有繊維は、例えばESD法による紡糸とその後の焼成によって形成できる。この多交差構造は、後述の図6、図8〜図10に示すように、例えばSEMを通じて当業者が容易に観察することができる。
PTFE含有繊維は、300nm〜6000nmの平均繊維径を有するナノファイバーである。PTFE含有繊維の平均繊維径が上記範囲を満足することによって、繊維シートの性能を向上させることができる。具体的には、圧力損失を低減させて通気量を増大でき、また、濾過性能を向上できる。PTFE含有繊維は、例えばノズルのスプレー/吐出条件などによってその平均繊維径を変化させることが可能とされているが、好ましくは300nm〜5000nm、より好ましくは400nm〜3000nm、さらに好ましくは400nm〜2000nm、特に好ましくは500nm〜1000nmの平均繊維径を有する。なお、本発明におけるPTFE含有繊維およびPAI含有繊維の平均繊維径は、本分野において通常使用される電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などにより測定でき、複数本(例えば10本)、または連続繊維の場合は複数箇所(例えば10箇所)の繊維の直径の平均値(数平均繊維径)として算出できる。
PTFE含有繊維の繊維長は特に限定するものではない。例えば、ESD法によってPTFE含有繊維を形成する場合、繊維シートにおけるPTFE含有繊維を連続繊維にすることができる。これにより、繊維シートの製造時や使用時においてPTFE含有繊維を繊維シートから脱落させにくくできる。なお、ESD法において間欠的に紡糸溶液を吐出するなどして、繊維シートにおけるPTFE含有繊維を非連続繊維にすることも可能である。
また、PTFE含有繊維は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、フッ素樹脂以外の他の成分(例えば、PTFEの分散体に含まれるポリエチレングリコール(PEG:Polyethylene glycol)などの有機材料など)を含んでいてもよい。PTFE含有繊維を構成する固形分のうち、PTFEが80質量%以上含まれることが好ましく、PTFEが90質量%以上含まれることがより好ましい。
繊維シートを構成するPAI含有繊維は、PAIを主成分として含有する繊維である。PAIは、例えばトリメリット酸クロリドとジアミンとを用いる酸クロリド法や、トリメリット酸無水物とジイソシアネートを用いるジイソシアネート法などの通常の方法で合成される高分子である。PAIは、市販による入手が容易であるなどの理由からジイソシアネート法により得られたPAIであることが好ましい。
酸クロリド法やジイソシアネート法に用いられるトリメリット酸クロリドまたはトリメリット酸無水物は、その一部が他塩基酸またはその無水物に置き換えられたものであってもよい。置換可能な例としては、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテートなどのテトラカルボン酸およびこれらの無水物、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
さらに、上記トリメリット酸無水物の一部がグリコールに置き換えられたものであってもよい。このようなグリコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオールなどのアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、上記ジカルボン酸の1種または2種以上と上記グリコールの1種または2種以上とから合成される、末端水酸基のポリエステルなどが挙げられる。
酸クロリド法やジイソシアネート法に用いられるジアミンまたはジイソシアネートの例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンおよびこれらのジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミンなどの脂環族ジアミンおよびこれらのジイソシアネート、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンおよびこれらのジイソシアネートなどが挙げられる。
PAIを構成する上記トリメリット酸クロリドまたはトリメリット酸無水物と、上記ジアミンまたはジイソシアネートとのモル比は、好ましくは(1:0.90)〜(1:1.20)であり、より好ましくは(1:0.95)〜(1:1.05)である。
また、PAI含有繊維は、多数のフィラメントが多数の例えば交差点で結合した多交差構造を有していることが好ましい。多交差構造を有するPAI含有繊維は、例えば、後述するESD法による紡糸とその後の焼成によって形成できる。この多交差構造は、後述の図6、図8〜図10に示すように、例えばSEMを通じて当業者が容易に観察することができる。
PAI含有繊維は、100nm〜5000nmの平均繊維径を有するナノファイバーである。PAI含有繊維の平均繊維径が上記範囲を満足することによって、繊維シートの性能を向上させることができる。具体的には、圧力損失を低減させて通気量を増大でき、また、濾過性能を向上できる。PAI含有繊維は、例えばノズルのスプレー/吐出条件などによってその平均繊維径を変化させることが可能とされているが、好ましくは100nm〜4000nm、より好ましくは150nm〜3000nm、さらに好ましくは200nm〜1000nm、特に好ましくは200nm〜500nmの平均繊維径を有する。また、PAI含有繊維の平均繊維径は、PTFE含有繊維の平均繊維径よりも小さいことが好ましい。
PAI含有繊維の繊維長は特に限定するものではない。例えば、ESD法によってPAI含有繊維を形成する場合、繊維シートにおけるPAI含有繊維を連続繊維にすることができる。これにより、繊維シートの製造時や使用時においてPAI含有繊維を繊維シートから脱落させにくくできる。なお、ESD法において間欠的に紡糸溶液を吐出するなどして、繊維シートにおけるPAI含有繊維を非連続繊維にすることも可能である。
また、PAI含有繊維は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、PAI以外の他の成分(例えば、フッ素樹脂以外の他の樹脂や、PAIの溶液に用いる有機溶媒などの有機材料など)を含んでいてもよい。PAI含有繊維を構成する固形分のうち、PAIが80質量%以上含まれることが好ましく、PAIが90質量%以上含まれることがより好ましい。
本発明のフィルタを構成する繊維シートでは、上記PTFE含有繊維と上記PAI含有繊維とが重畳的に配置されていることが好ましい。ここで、本明細書中に用いられる用語「重畳的に配置」とは、繊維シートを構成するPTFE含有繊維とPAI含有繊維とがシートの全面または一部において互いに重なり合って複雑な積層構造を有することを意味し、必ずしもPTFE含有繊維とPAI含有繊維とが互いに絡合していることを意図するものではない。この点において、本発明のフィルタを構成する繊維シートのPTFE含有繊維とPAI含有繊維とは互いに絡合しているものであってもよく、互いに絡合していないものであってもよい。このように各繊維が重畳的に配置されることで、複雑な3次元網目状構造体が形成され、その網目状構造体の内部に多数の微細孔が形成されることで、フィルタ性能を高めることができる。
繊維シートにおいて、PTFE含有繊維におけるPTFEと、PAI含有繊維におけるPAIとの質量比は、好ましくは(50:50)〜(99:1)であり、より好ましくは(60:40)〜(97:3)であり、さらに好ましくは(70:30)〜(95:5)である。この質量比は、例えば、PTFE含有繊維の固形分が実質的にPTFEのみからなり、PAI含有繊維の固形分が実質的にPAIのみからなる場合には、PTFE含有繊維とPAI含有繊維の質量比とすることができる。また、繊維シートは、本発明の効果を阻害しない限りで、PTFE含有繊維およびPAI含有繊維以外の他の成分(例えば無機材料や有機材料など)を含んでいてもよい。
繊維シートの平均厚みは必ずしも限定されず、任意の厚みを有する。また、防水透湿膜の用途の場合、防水性と透湿性の両立の観点から、平均厚みは10μm〜100μmが好ましく、10μm〜60μmがより好ましく、20μm〜50μmがさらに好ましい。繊維シートの平均厚みは、例えば接触式の膜厚計にて複数点測定し、これを平均することで求められる。
繊維シートのガーレー値(JIS P8117)は、1秒/300cc〜100秒/300ccが好ましく、1秒/300cc〜50秒/300ccがより好ましい。これにより、繊維シートの捕集効果の向上と圧力損失の低減の両立を図ることができる。また、繊維シートのJIS L1913のフラジール形法による通気量(フラジール値)は、1cc/(cm・秒)〜30cc/(cm・秒)が好ましく、1cc/(cm・秒)〜10cc/(cm・秒)がより好ましい。さらに、繊維シートの耐水圧は、10kPa〜200kPaが好ましく、より好ましくは30kPa〜100kPa、さらには50kPa〜100kPaであることが好ましい。
以上を考慮して、繊維シートの特に好ましい形態は、平均厚みが10μm〜60μmのシートであり、PTFE含有繊維におけるPTFEとPAI含有繊維におけるPAIとの質量比が(70:30)〜(95:5)であり、かつ、ガーレー値が1秒/300cc〜50秒/300ccで、フラジール値が1cc/(cm・秒)〜10cc/(cm・秒)である。
(繊維シートの製造)
上記繊維シートは、例えば以下の方法によって製造される。この方法は、(i)PTFEの分散体とPAIの溶液を得る調製工程と、(ii)ESD法によって、電極基板上に紡糸する紡糸工程と、(iii)得られたシート状物を焼成して繊維シートを得る焼成工程とを有する。
(i)調製工程
PTFEはそれ自体が疎水性であり水に不溶である。このため、PTFEとポリエチレングリコール(PEG)水溶液とを混合することによってPEG水溶液中にPTFEを均一に分散させた分散体を用いて、ESD法による紡糸を行う。
PEG水溶液に含まれるPEGの含有量は、当該水溶液の全体質量を基準とした場合、5質量%〜20質量%が好ましく、8質量%〜15質量%がより好ましい。PEGの含有量が5質量%を下回ると、PEG水溶液の粘度が低くなり、例えば、後述のようにノズルの先端部からスプレー/吐出した際にナノファイバーを形成することなく、粒子状(ナノ粒子)となるおそれがある。一方、PEGの含有量が20質量%を上回ると、PEG水溶液の粘度が高くなりすぎて、ノズルからのより均一な紡糸が困難となり、所望のナノファイバーが形成されにくくなるおそれがある。
PEG水溶液を用いることにより、PTFEが当該水溶液中に均一に分散できる。PEGはまた、後述の焼成によってその多くが消失し、PTFE含有量が高められたPTFE含有繊維を構成することができる。
ここで、PEG水溶液に分散されるPTFEの量は必ずしも限定されないが、PEG水溶液100質量部に対して、好ましくは20質量部〜70質量部、より好ましくは40質量部〜60質量部である。PEG水溶液に対してPTFEがこのような範囲で含有されることにより、PTFEがより均一に分散した分散体を調製することができ、ESD法により良好に紡糸することができる。
また、要求特性などに応じたPTFE含有繊維を構成するため、分散体には、PTFE以外の他のフッ素樹脂(例えば改質フッ素樹脂)を含有していてもよい。このような他のフッ素樹脂の例としては、上述したようなPFAなどが挙げられる。
PTFEの分散体には、良好なPTFE含有繊維を構成するため、他の成分を配合してもよい。分散体に配合可能な他の成分としては、例えば、デキストラン、アルギン酸塩、キトサン、グアーゴム化合物、デンプン、ポリビニルピリジン化合物、セルロース化合物、セルロースエーテル、加水分解したポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリカルボキシレート、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(イタコン酸)、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート−co−アクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、ポリ(メトキシエチレン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアルコール)12%アセチル、ポリ(2,4−ジメチル−6−トリアジニルエチレン)、ポリ(3−モルホリニルエチレン)、ポリ(N−1,2,4−トリアゾリルエチレン)、ポリ(ビニルスルホキシド)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(N−ビニルピロリドン−co−酢酸ビニル)、ポリ(g−グルタミン酸)、ポリ(N−プロパノイルイミノエチレン)、ポリ(4−アミノ−スルホ−アニリン)、ポリ[N−(p−スルホフェニル)アミノ−3−ヒドロキシメチル−1,4−フェニレンイミノ−1,4−フェニレン)]、イソプロピルセルロース、ヒドロキシエチル、ヒドロキシルプロピルセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アルギン酸アンモニウム塩、i−カラギーナン、N−[(3’−ヒドロキシ−2’,3’−ジカルボキシ)エチル]キトサン、コンニャクグルコマンナン、プルラン、キサンタンゴム、ポリ(アリルアンモニウムクロリド)、ポリ(アリルアンモニウムホスフェート)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ジメチルドデシル(2−アクリルアミドエチル)アンモニウムブロミド)、ポリ(4−N−ブチルピリジニウムメチレンヨウ素)、ポリ(2−N−メチルピリジニウムメチレンヨウ素)、ポリ(N−メチルピリジニウム−2,5−ジイルエテニレン)、ポリエチレングリコールポリマーおよびコポリマー、セルロースエチルエーテル、セルロースエチルヒドロキシエチルエーテル、セルロースメチルヒドロキシエチルエーテル、ポリ(1−グリセロール メタクリレート)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−ヒドロキシエチル メタクリレート/メタクリル酸)90:10、ポリ(2−ヒドロキシプロピル メタクリレート)、ポリ(2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(2−ビニル−1−メチルピリジニウムブロミド)、ポリ(2−ビニルピリジン N−オキシド)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル−2−メタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(4−ビニルピリジン N−オキシド)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(アクリルアミド/2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)80:20、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸)、ポリ(塩酸アリルアミン)、ポリ(ブタジエン/マレイン酸)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(アクリル酸エチル/アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)ビス(2−アミノエチル)、ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル、ポリ(エチレングリコール)−ビスAジグリシジルエーテル付加物、ポリ(エチレンオキシド−b−プロピレンオキシド)、ポリ(エチレン/アクリル酸)92:8、ポリ(1−リジン臭化水素酸塩)、ポリ(1−リジン臭化水素酸塩)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(n−ブチル アクリレート/2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(N−イソ−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニルピロリドン/2−ジメチルアミノエチル メタクリレート)、ジメチルサルフェート四級化物、ポリ(N−ビニルピロリドン/酢酸ビニル)、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウレート(Tween 20(登録商標))、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(ビニルアルコール)、N−メチル−4(4’−ホルミルスチリル)ピリジニウム、メトサルフェートアセタール、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(ビニルアミン)塩酸塩、ポリ(ビニルホスホン酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)ナトリウム塩およびポリアニリンが挙げられる。
上記他の成分の含有量は必ずしも限定されないが、本発明の効果を損なわない範囲において適切な量が分散体に対して配合される。
PAIの溶液を構成する有機溶媒の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物、またはそれらの組み合わせが挙げられる。PAIを効率よく溶解できるとの理由から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、またはそれらの組み合わせが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
上記の有機溶媒を用いることにより、PAIは当該有機溶媒に対して適切に溶解する。ここで、有機溶媒中に溶解されるPAIの量は、必ずしも限定されないが、有機溶媒100質量部に対して、好ましくは2質量部〜30質量部、より好ましくは7質量部〜20質量部である。有機溶媒に対してPAIがこのような範囲で含有されることにより、ESD法による良好な紡糸が可能となる。
繊維シートの製造において、PTFEの分散体とPAIの溶液との使用割合は、必ずしも限定されないが、後述する焼成後のクラックの発生を低減させ、かつ防水性および透湿性を良好に兼ね備えたシートとするため、分散体中のPTFEと溶液中のPAIとが所定の割合となるように使用することが好ましい。この点において、分散体と溶液との使用割合は、それぞれに含まれるPTFEとPAIとの質量比が好ましくは(50:50)〜(99:1)、より好ましくは(60:40)〜(97:3)、さらには(70:30)〜(95:5)となるように設定されることが好ましい。
(ii)紡糸工程
PTFEの分散体およびPAIの溶液を用いるESD法による紡糸は、例えば、分散体および溶液を別々に収容し、電極基板上に同時に静電紡糸することができる公知のESD装置(静電紡糸装置)を用いて行われる。ESD装置の構成の一例を図2に示す。
図2に示すように、ESD装置11は、水平方向に平坦なステージを構成する電極基板12上に、所定の間隔を空けて2つの例えばほぼ噴霧状物などを吐出可能な例えばスプレーヘッド、または例えばほぼ連続したほぼ糸状物、線状物などを吐出可能な吐出手段の一つなどとされるヘッド13、14を備える。ヘッド13には、PTFEを分散させた分散体Aが収容される第1収容部15と、第1供給管16を通じてヘッド13に圧縮空気を送給することにより第1収容部15の分散体Aを電極基板12に向けてスプレー/吐出する第1ノズル17とが設けられている。ヘッド14には、PAIを含有する溶液Bが収容される第2収容部18と、第2供給管19を通じてヘッド14に圧縮空気を送給することにより第2収容部18の溶液Bを電極基板12に向けてスプレー/吐出する第2ノズル20とが設けられている。
図2に示すESD装置11においては、ヘッド13、14から分散体Aまたは溶液Bがスプレー/吐出される際、ヘッド13および14の底部に設けられたエアノズル(図示せず)を通じてヘッド13および14の各々の底部から電極基板12に向かって、スプレー/吐出される分散体Aおよび溶液Bの外周を取り囲むようにエアーが排出され、エアーカーテンを形成することが好ましい。このようなエアーカーテンは、第1ノズル17からの分散体Aのスプレー/吐出と、第2ノズル20からの溶液Bのスプレー/吐出とを独立して保持することができ、スプレー/吐出された分散体Aおよび溶液Bが電極基板12側に到達する前に互いに混合することを防止することができる。
さらに図2に示すESD装置11では、ヘッド13、14と電極基板12とは電気的に接続されており、両者に所定の電圧をかけることにより、第1ノズル17および第2ノズル20から各々スプレー/吐出された分散体Aおよび溶液Bは電極基板12上に電気的に引き寄せられて配置される。ここで、上記において印加される電圧は必ずしも限定されず、ESD法による一般的な紡糸で採用される電圧に基づいて当業者が任意の値を設定することができる。例えば、5kV〜100kVの電圧が印加される。
第1ノズル17および第2ノズル20から分散体Aおよび溶液Bがそれぞれスプレー/吐出される際、図2に示す実施形態では、第1ノズル17および第2ノズル20(すなわち、ヘッド13、14)は固定されている一方で、電極基板12は図示しない駆動手段によって予め設定されたプログラムに基づいて水平二次元方向(すなわち、水平面上の任意のX軸とそれに直行するY軸とで構成される二次元の任意方向)に移動する。そして、電極基板12による水平二次元方向の移動が繰り返されることにより、電極基板12にスプレー/吐出された分散体Aおよび溶液Bが略均一に配置され、重畳的な紡糸の製造が行われる。
図2において、第1ノズル17と電極基板12との間の距離、第2ノズル20と電極基板12との間の距離は、互いに等しく設定されている。これら距離は、荷電量や、ノズル寸法、ノズルの送液速度などにも依るが、例えば50mm〜200mm程度に設定される。また、第1ノズル17の送液速度と第2ノズル20の送液速度との比は、特に限定されないが、3:1〜1:2が好ましく、3:1〜1:1がより好ましく、2:1〜1:1がさらに好ましい。
なお、図2では、電極基板12が水平二次元方向の移動が繰り返される構成について説明したが、この構成に限定されず、例えば、図3に示すようなESD装置11’が用いられてもよい。なお、図3では、図2と共通する構成については、図2と同一の符号を付している。
図3のESD装置11’では、電極基板12’が固定されており、ヘッド13’、14’が図示しない駆動手段によって予め設定されたプログラムに基づいて水平二次元方向に移動する。そして、ヘッド13’、14’による水平二次元方向の移動が繰り返されることにより、電極基板12’上にスプレー/吐出された分散体Aおよび溶液Bが略均一に配置され、重畳的な紡糸の製造が行われる。
このようにして、PTFEの分散体とPAIの溶液とがESD法によりそれぞれ電極基板上に重畳的に紡糸され、焼成前の生シート21が作製される。この生シート21は、必要に応じて焼成工程の前に乾燥させてもよい。
(iii)焼成工程
焼成は、例えば、焼成前の生シート21を所定温度に設定されたオーブン内に所定時間配置することによって行われる。この焼成において設定される温度は必ずしも限定されないが、好ましくは300℃〜400℃、より好ましくは330℃〜360℃である。設定される温度が300℃を下回ると、PTFE含有繊維内にPEGが多く残存するおそれがあり、PTFEが溶融しづらく繊維状になりにくくなり、十分なシート強度が得られないおそれがある。また、設定される温度が400℃を上回ると、PAIの所望でない分解または焼失により、PAI含有繊維内のPAI含有量が低下し、十分なシート強度が得られずシート表面にクラックを発生させるおそれがある。
また、焼成時間は、焼成前の生シート21の厚みや大きさ、第1ノズルおよび第2ノズルからスプレー/吐出された分散液および溶液の量などによって変動する。焼成時間は必ずしも限定されないが、好ましくは10分間〜60分間、より好ましくは20分間〜40分間である。焼成時間が10分間を下回ると、PTFEが十分に溶融しないことにより適切に繊維状とならず、十分なシート強度が得られないおそれがある。また、焼成時間が60分間を上回ると、シート強度にあまり変化がなく、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
このようにして、本発明のフィルタを構成するフッ素樹脂含有シートが作製される。このフッ素樹脂含有シートは、シート作製段階でのクラックの発生が低減されるとともに、優れた防水性と透湿性とを兼ね備えている。得られたフッ素樹脂含有シートを後述する金属基材の表面に接合材などを用いて接合させることで、本発明のフィルタが得られる。また、ESD法において電極基板とノズルの間に金属基材を介在させることで金属基材上に直接フッ素樹脂含有シートを積層させて、フィルタを得てもよい。
(金属基材)
本発明のフィルタを構成する金属基材は多孔質体であり、例えば焼結金属が用いられる。この金属基材は、繊維シートが備えられる基台として機能するとともに、自身が優れた通気性を備えるものでもある。金属基材の素材としては、ステンレス鋼などが用いられる。
金属基材の製造について説明すると、例えば、ステンレス鋼粉末を主成分として所要の板状シート形状に圧粉成形し、これを焼結し、必要に応じてこれにサイジングを施し、必要に応じて、例えば両端面のバニシ仕上げなどの工程を経て焼結金属製の板状シート(金属基材)が製造される。
上記ステンレス鋼は、特に鋼組織の形態から限定して採用されるものではなく、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系、フェライト系、マルテンサイト系のいずれの組織であってもよく、鉄に12%以上のクロム(Cr)が含まれて空気中で酸化クロムの不動態膜を形成できるものであれば、クロム不銹鋼またはクロム・ニッケル・ステンレス鋼などのいずれであってもよい。
オーステナイト系ステンレス鋼としては、クロム・ニッケル系(18Cr−8Ni)のSUS304、クロム・ニッケル系(18Cr−8Ni)でローカーボン(低炭素)のSUS304L、モリブデンが添加されたクロム・ニッケル系(18Cr−12Ni−2Mo)のSUS316、モリブデンが添加されたクロム・ニッケル系(18Cr−12Ni−2Mo−0.02C)でローカーボン(低炭素)のSUS316Lなどが挙げられる。また、フェライト系ステンレス鋼としてはクロム系(18Cr)のSUS430が代表例として挙げられ、マルテンサイト系ステンレス鋼としてはクロム系(13Cr)のSUS410が代表例として挙げられる。
ステンレス鋼粉末を主成分とした粉末を用いて、円板状などの所要寸法の板状シート形状に圧粉成形させ、次いで加熱して焼結させる。圧粉成形は、例えば成形型に入れ、例えば成形圧力0.1ton/cm〜6ton/cm程度、好ましくは0.2ton/cm〜3ton/cm、より好ましくは0.2ton/cmを超え、1ton/cm以下の加圧力で圧縮して成形させる。
金属基材の焼結工程では、多孔質の圧粉体に対し、粒子同士を融着させる程度に、例えば1100℃〜1250℃程度の高温で、例えば6時間〜12時間程度の時間をかけて熱を加えて焼結する。このとき、粒子の表面を酸化させないように、例えばAXガスや水素(H)ガス雰囲気などの還元性雰囲気下で、例えば段階的に加熱することが好ましい。
このようにして得られる焼結金属製の板状シートの密度は、例えば4.5g/cm〜7.5g/cm、具体的には5g/cm〜7g/cm、好ましくは5g/cm〜6.5g/cm、より好ましくは5g/cm〜6g/cmである。密度が4.5g/cm未満、具体的には5g/cm未満の板状シートは、例えば強度が不足して板状シート自体の強度が保たれにくくなり、また製造が難しくなるおそれがある。また、フィルタの用途などにもよるが、密度が7.5g/cmを超える板状シート、具体的には7g/cmを超える板状シート、より具体的には6.5g/cmを超える板状シート、実質的には6g/cmを超える板状シートは、例えば通気度が少なすぎてフィルタの通気性が低下するおそれがある。
焼結金属製の板状シートの空孔率は、20体積%〜60体積%であることが好ましい。空孔率が20体積%未満の板状シートは、例えば通気度が少なすぎてフィルタの通気性が低下するおそれがある。また、空孔率が60体積%を超える板状シートは、例えば板状シート自体の強度低下を招くおそれがある。なお、空孔率は、得られた板状シートの切断断面を金属顕微鏡により撮影し、画像解析することなどによって測定できる。
焼結金属製の板状シートの表側面および裏側面の表面開孔率は、面積比でそれぞれ5%〜80%が好ましく、10%〜70%がより好ましく、さらには20%〜60%であることが好ましい。表面開孔率が例えば5%未満、具体的には10%未満、実質的には20%未満の板状シートは、例えば通気度が少なすぎてフィルタの通気性が低下するおそれがある。また、表面開孔率が例えば80%を超える板状シート、具体的には70%を超える板状シート、実質的には60%を超える板状シートは、例えば板状シート自体の強度低下を招くおそれがある。なお、ここで言う板状シートの表側面とは、図1(b)の金属基材4の繊維シート3が設けられる側の円形状の面であり、裏側面とはその反対側の円形状の面である。また、各表面開孔率は、金属基材4の表側面および裏側面を金属顕微鏡により撮影し、画像解析することなどによって測定できる。
なお、空孔率、表面開孔率を測定する際に、測定対象面における面積比の測定は、例えば次の手順に基づく画像解析により行われる。
(1)金属顕微鏡((株)ニコン製ECLIPSE ME600)で撮影(例えば100倍など)する。
(2)画像取得は(株)ニコン製Digital Sigaht DS−U3で行う。
(3)画像処理は(株)ニコンインストルメンツカンパニー製NIS−Elements Dで行う。
(4)デジタル画像解析ソフト(イノテック(株)製Quick Grain)で空孔の面積比率を算出する。
また、板状シートの表側面および裏側面の表面開孔率は、例えば、板状シートとして成形されるときのサイジングに際して、板状シートの表側面および裏側面を上パンチおよび下パンチを用いて押し付ける際の押し付け力を調整することなどによって設定し得る。
焼結金属製の板状シートの厚みは必ずしも限定されず、任意の厚みを有する。この厚みは0.5mm〜3mmが好ましく、0.6mm〜1.5mmがより好ましい。焼結金属製の板状シートの厚みは、上述の繊維シートの平均厚みよりも厚く形成され、好ましくは5倍以上、より好ましくは6倍以上厚く形成される。
(ホルダ)
本発明のフィルタ組立体を構成するホルダの一例について、図4に基づいて説明する。図4(a)はホルダの片側断面図であり、ホルダ5の中心軸Oより上半分が断面図、下半分が側面図を表している。図4(b)はホルダを収容部側から見た平面図である。
図4(a)に示すように、ホルダ5は、内部にフィルタを収容する収容部6と、収容部6の略円板状の基端部6aの周縁に連成された略筒状の装着部7とを有する。また、基端部6aの周縁内側近傍には、収容部6内に向けて中心軸方向に突出した段部6dが設けられており、この段部6dにフィルタ(図示せず)の周縁が装着される。段部6dの高さは、例えば0.5mm〜10mmが好ましいが、例えば3mm以上10mm未満であってもよい。段部6dを設けることで、フィルタが装着しやすくなる。収容部6において、基端部6aから略直角に筒部6bが延設されている。また、基端部6aから略直角に延設された筒部6bの先に収容部6の開口端部6cが形成されており、ほぼ円筒状の開口端部6cにほぼ円板状の蓋部材(図示せず)が挿着される。また、薄肉(厚さ0.5mm〜2mm程度)の筒部6bには、該筒部6bを貫通するように通気孔8aが複数設けられている。通気孔8aは、円周方向に沿って所定間隔(等間隔)ごとに形成されている。また、略円板状をした基端部6aの中心に、収容部6内から装着部7内にかけて連通する通気孔8bが設けられている。これらの通気孔8a、8bによって、蓋部材(図示せず)が取り付けられた状態でも、ホルダ5の下端部からフィルタを介した通気経路が形成される。
また、装着部7は、外周にねじが設けられた雄ねじ状に形成される。フィルタ組立体の装着の際には、自動車用電装部品などの筐体に設けられた雌ねじ状の開口部に装着部7が螺合される。
本発明のフィルタ組立体を構成するホルダの他の例について、図5に基づいて説明する。図5(a)はホルダの片側断面図であり、ホルダ5の中心軸Oより上半分が断面図、下半分が側面図を表している。図5(b)はホルダを収容部側から見た平面図であり、図5(c)はホルダを装着部側から見た平面図である。なお、図4に示すホルダと同じものについては、同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
装着部7’は、複数本の切り込みによって円周方向に分割されている(図5(a)、(c)参照)。分割された可撓性の各脚部7aの先端(ホルダ5の下端部)には、外方向に突出した係止爪として機能する爪部7bが形成されている。フィルタ組立体の装着の際には、ほぼ円環状にほぼ等配分に複数配置された各脚部7aを各脚部7aの内方向に弾性変形させて、自動車用電装部品などの筐体の開口部に装着部7’が挿入される。
図4および図5に示すホルダは、少なくともベース樹脂としての熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の樹脂成形体であり、射出成形法に基づいて形成される。射出成形法は、大量生産性に優れているので、射出成形法が用いられることにより、効率よくホルダを製造することが可能となり、ホルダの価格を低く抑えることができる。また、所定の樹脂組成物を用いることで、成形収縮方向にほぼムラが生じず、寸法精度に特に優れたホルダとなる。
射出成形時には、成形金型内に、ホルダ5の形状に対応したキャビティが形成される。溶融した樹脂組成物は、筒部6bの外周面の位置に対応するサイドゲート(図4(b)、図5(b)参照)からキャビティに射出充填される。なお、射出成形法に基づいて製造された樹脂成形体には、ゲート痕、突出しピン痕などの痕跡が残されているので、射出成形法に基づいて製造されたものか否かの判別は可能である。
ホルダの製造において、樹脂組成物を射出成形する際に、溶融した樹脂組成物の流れ方向をMD(Machine Direction)と定め、MDに直交する方向をTD(Traverse Direction)と定めた場合、樹脂成形体の線膨張係数の比(AMD/ATD)および樹脂成形体の成形収縮率の比(BMD/BTD)が0.5〜1であることが好ましい。言い換えると、樹脂成形体の線膨張係数に基づく異方性数値がAMD:ATD=1:1〜1:2の範囲内であり、かつ、成形収縮率に基づく異方性数値がBMD:BTD=1:1〜1:2の範囲内であることが好ましい。このように、線膨張係数の比および成形収縮率の比の両方ともが0.5〜1であることで、成形収縮方向にほぼムラの生じない樹脂成形体が得られる。その結果、寸法精度に優れた樹脂成形体(ホルダ)となる。
なお、線膨張係数の比、および、成形収縮率の比は、後述の実施例に示すようなダンベル試験片(多目的試験片:JIS K 7139−A1、JIS−K7162−1A、ISO 527−2−1Aなど)およびそこから切り出した評価試験片を用いて測定した数値から評価することができる。また、本発明でいう線膨張係数は、ベース樹脂である熱可塑性樹脂のガラス転移点以下の値である。
上記線膨張係数の比(AMD/ATD)は、好ましくは1/1.9〜1であり、より好ましくは1/1.8〜1である。AMDとATDの差をより小さくすることで、異方性を一層抑えることができる。また、上記成形収縮率の比(BMD/BTD)は、好ましくは1/1.8〜1であり、より好ましくは1/1.5〜1である。BMDとBTDの差をより小さくすることで、成形収縮方向のムラを一層抑えることができる。
上記線膨張係数の比(AMD/ATD)および上記成形収縮率の比(BMD/BTD)のいずれも0.5〜1であることがより好ましい。
樹脂成形体(ホルダ)の成形収縮率は1.2%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましい。なお、成形収縮率は0%よりも大きい。この場合の成形収縮率は、MD方向およびTD方向の両方向において、所定の成形収縮率(例えば1%)以下とされることが好ましい。これにより、射出成形直後の樹脂が冷やされつつ収縮する際に、安定して収縮することができる。その結果、寸法精度に優れたホルダが得られる。
また、樹脂成形体(ホルダ)の機械的強度については、曲げ強さが100MPa〜300MPaであり、かつ、曲げ弾性率が10GPa〜20GPaであることが好ましい。なお、曲げ強度および曲げ弾性率は、ASTM D790に準拠して測定される温度25℃での曲げ強さおよび曲げ弾性率である。また、引張強さが80MPa〜200MPaであることが好ましい。なお、引張強さは、ASTM D638に準拠して測定される温度25℃での引張強さである。また、引張り破断伸びは、0.5%以上であることが好ましく、1.5%以上であることがさらに好ましい。これにより、このホルダは、装着部を構成する複数の脚部のスナップフィット性が活かされて、相手側の筐体などに容易かつ迅速に取り付けられる。
上記樹脂組成物においてベース樹脂として用いる熱可塑性樹脂には、結晶性樹脂または非晶性樹脂を用いることができる。使用可能な熱可塑性樹脂として、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS:Polyphenylenesulfide)樹脂などのポリアリーレンサルファイド(PAS:polyarylene sulfide)系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:Polyetheretherketone)樹脂などのポリエーテルケトン(PEK:Polyetherketone)系樹脂、ポリアミド(PA:Polyamide)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT:Polybutyleneterephtalate)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES:Polyethersulfone)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI:Polyetherimide)樹脂、ポリアミドイミド(PAI:Polyamide−imide)樹脂、液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer/Liquid Crystal Plastic)樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂の中でも、PAS系樹脂、PEK系樹脂、PA樹脂、PBT樹脂、LCP樹脂などの結晶性樹脂が好ましい。結晶性樹脂は、耐熱性が高く、耐溶剤性に優れ、溶融時の流れ性が良好なことから薄肉成形に適し、さらに、高剛性、高硬度であることから、例えばホルダに適した材料といえる。結晶性樹脂の中でも、PAS系樹脂がより好ましい。
PAS系樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチックの1つである。PAS系樹脂は、耐熱性、耐寒性、耐ヒートショック性、耐クリープ性、疲労特性、難燃性、耐薬品性、ほぼ吸水しないことによる寸法安定性、物性などの変化が少ないことなどに優れている。そのため、PAS系樹脂を、ホルダのベース樹脂として用いることで、塵、水、オイル、各種溶剤などに接触する環境下で使用されるホルダに要求される特性を付与することができる。また、PAS系樹脂は、比較的低価格であるので、ホルダの低価格化に寄与できる。
PAS系樹脂は、一般的に下記式(1)で示される合成樹脂である。下記式(1)中のArはアリーレン基を示し、Arとしては、例えば下記式(2)〜式(7)に示されるものが挙げられる。なお、下記式(5)において、XはF、ClおよびBrから選ばれるハロゲンまたはCHを示し、mは1〜4の整数を示す。
Figure 2021181086
Figure 2021181086
Figure 2021181086
PAS系樹脂としては、上記式(1)中のArが上記式(2)であるPPS樹脂を好適に用いることができる。PPS樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチックとして優れた各種特性を備えていることに加えて、スーパーエンジニアリングプラスチックの中でも価格が低く抑えられているので、ホルダの低価格化を一層図ることができる。
PAS系樹脂は、繰り返し単位(−Ar−S−)の含有率が70モル%以上であることが好ましく、90モル%〜100モル%であることがより好ましい。ここでいう繰り返し単位の含有率とは、PAS系樹脂を構成する全モノマー100%に占める繰り返し単位の割合をいう。繰り返し単位の含有率が70モル%未満のPAS系樹脂を用いた場合、PAS系樹脂の低い吸水性に基づいた寸法安定性の効果が得られにくい傾向にある。
PAS系樹脂を得るためには公知の方法を用いることができる。例えば、ハロゲン置換芳香族化合物と硫化アルカリとの反応(特公昭44−27671号公報)や、ルイス酸触媒共存下における芳香族化合物と塩化硫黄との縮合反応(特公昭46−27255号公報)、または、アルカリ触媒もしくは銅塩などの共存下におけるチオフェノール類の縮合反応(米国特許第3274165号公報)などによって合成される。具体的な方法としては、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンとをN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒もしくはスルホランなどのスルホン系溶媒中で反応させることが挙げられる。
また、PAS系樹脂の結晶性に影響を与えない範囲で、例えば、下記式(8)〜式(12)に示される成分を、共重合成分としてPAS系樹脂に含ませることができる。下記式(8)〜式(12)に示される成分の添加量は、PAS系樹脂を構成する全モノマー100%に対して30モル%未満、好ましくは10モル%未満でかつ1モル%以上とすることができる。
Figure 2021181086
Figure 2021181086
ここで、PPS樹脂は、例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒もしくはスルホランなどのスルホン系溶媒中で反応させて得られ、この段階のPPS樹脂を重合上がりとしている。この重合上がりの低分子量PPS樹脂を熱処理などの工程にかけて、樹脂中に交差結合が全くないものから部分的交差結合(架橋)を有するものに至るまで各重合度のものを自由に製造することができる。これにより、目的の溶融ブレンドに適正な溶融粘度特性を有するものを任意に選択することができる。また、架橋構造をとらない直鎖状のPPS樹脂も使用できる。
PAS系樹脂としては、架橋型のPAS系樹脂であるか、または部分的交差結合、すなわち、部分架橋を有するPAS系樹脂であることが好ましい。部分的交差結合を有するPAS系樹脂は、半架橋型またはセミリニア型とも呼ばれる。架橋型のPAS系樹脂は、例えば、製造工程中に酸素存在下で熱処理を行ない分子量を必要な水準に高めることで得られる。架橋型のPAS系樹脂は、分子の一部がお互いに酸素を介して架橋された二次元または三次元の架橋構造を有する。そのため、後述する架橋のないリニア型のPAS系樹脂に比較して、高温環境下においても高い剛性を保持し、クリープ変形が少ない点や、応力緩和されにくい点で優れている。また、架橋型または半架橋型のPAS系樹脂は、架橋のないリニア型のPAS系樹脂に比べ、耐熱性、耐クリープ性などに優れており、射出成形した成形体にバリの発生が少なく、寸法精度に優れたホルダが得られやすい。
一方、リニア型のPAS系樹脂は、製造工程において熱処理工程がないために分子中には架橋構造は含まれず、分子は一次元の直鎖状とされている。一般的にはリニア型のPAS系樹脂は架橋型のPAS系樹脂に比較して剛性が低く、靭性や伸びが多少高いのが特長とされている。また、リニア型のPAS系樹脂は、特定方向からの機械的強度に優れており、吸湿が少ないために高温多湿雰囲気でも寸法変化が少ないなどの利点がある。また、リニア型のPAS系樹脂は、例えば分子量を調整して溶融粘度を低くすることが可能となる。このため、リニア型のPAS系樹脂に、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカなどの繊維状無機物、炭酸カルシウム、マイカなどの粒状無機物、金属粉末などの充填材を所定量混合させた樹脂組成物であっても、射出成形性は著しく阻害されない。
PAS系樹脂に架橋または部分的交差結合を形成する方法としては、例えば、低重合度のポリマーを重合した後、空気が存在する雰囲気で加熱する方法や、架橋剤や分岐剤を添加する方法がある。
PAS系樹脂の見かけの溶融粘度は、1000ポアズ〜10000ポアズの範囲とすることが好ましい。見かけの溶融粘度が1000ポアズ未満であると、樹脂成形体の強度が低下するおそれがある。一方、見かけの溶融粘度が10000ポアズを超えると、成形性が低下するおそれがある。架橋型のPAS系樹脂の溶融粘度は1000ポアズ〜5000ポアズとすることができ、好ましくは2000ポアズ〜4000ポアズである。溶融粘度が低くなると、150℃以上の高温域で耐クリープ特性などの機械的特性が低下するおそれがある。また、溶融粘度が高くなると成形性が低下するおそれがある。なお、溶融粘度の測定は、測定温度300℃、オリフィスが穴径1mm、長さ10mm、測定荷重20kg/cm、予熱時間6分の条件下で、高化式フローテスタにて実施することができる。
また、部分的交差結合を有するPAS系樹脂の熱安定性は、上記の溶融粘度測定条件にて、予熱6分後と30分後の溶融粘度の変化率が−50%〜150%の範囲であることが好ましい。なお、変化率は下記の式で表される。
[変化率=(P30−P6)/P6×100(P6:予熱6分後の測定値、P30:予熱30分後の測定値)]
PAS系樹脂の分子量は、射出成形性を考慮すると、数平均分子量で13000〜30000が好ましく、さらに耐疲労性、高成形精度を考慮すると、数平均分子量で18000〜25000がより好ましい。数平均分子量が13000未満の場合には、分子量が低すぎて、耐疲労性が劣る傾向にある。一方、数平均分子量が30000を超える場合には耐疲労性は向上するものの、必要な衝撃強度などの機械的強度が低下するおそれがある。なお、ここでの数平均分子量とは、PAS系樹脂を溶媒に溶解させた後、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC法)で測定されるポリスチレン換算での数平均分子量を示す。
PAS系樹脂の融点は、例えば約220℃〜290℃であり、好ましくは280℃〜290℃である。一般に、PPS樹脂の融点は、約285℃であるため、PAS系樹脂としてPPS樹脂を用いることが好ましい。PAS系樹脂は吸水性が低いため、吸水による寸法変化が低減される。PPS樹脂などのPAS系樹脂をベース樹脂とする樹脂成形体は、耐クリープ性、耐薬品性などに優れるとともに、吸水による寸法変化が低減されるという優れた安定性を有する。
また、PAS系樹脂を有する樹脂組成物は、ISO75−1、2(1.8MPa)の試験法に基づいて測定された荷重たわみ温度が、例えば105℃以上とされる。
以上のように、PAS系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物からなる樹脂成形体は、フィルタ組立体を構成するホルダに要求される特性を備えている。
上記樹脂組成物は、上述したベース樹脂の熱可塑性樹脂に加えて、さらにベース樹脂とは異なる非晶性樹脂を含むことが好ましい。一般に、非晶性樹脂製の成形体は、柔軟であり、強靭であり、割れにくく、反りが少なく、収縮率が小さいという優れた特性を有する。PAS系樹脂などの射出成形可能な結晶性樹脂に対し、このような優れた特性をもつ非晶性樹脂が含有されることにより、樹脂成形体の成形収縮率が小さくなり、例えばホルダの場合、基端部および筒部の反りが抑えられる。また、ホルダの基端部および筒部の割れの発生も抑えられるとともに、機械的強度の向上も期待できる。
非晶性樹脂として、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS:Acrylonitrile butadiene styrene)樹脂、ポリスチレン(PS:Polystyrene)樹脂、ポリカーボネート(PC:Polycarbonate)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA:Polymethyl methacrylate)樹脂、ポリフェニレンエーテル/ポリフェニレンオキシド(PPE:Polyphenyleneether/PPO:Polyphenyleneoxide)樹脂、ポリスルホン(PSF:Polysulfone)樹脂、ポリフェニルスルホン(PPSU/PPSF:Polyphenylsulfone)樹脂、PES樹脂、PEI樹脂、PAI樹脂などが挙げられる。これらの中でも、PPE/PPO樹脂を用いることが好ましい。
PPE樹脂は、非晶性樹脂のエンジニアリングプラスチックであり、軟化点が高く、機械的特性、低い吸水性、寸法安定性に優れている。PPE樹脂としては、種々の樹脂が用いられるが、例えば、下記式(13)に示される2,6−ジ置換フェノールの単独重合体、2,6−ジ置換フェノールと多価フェノールとの酸化共重合体などが用いられ、通常、分子量が2000以上、好ましくは10000〜35000の樹脂が用いられる。なお、ここでいう分子量は数平均分子量である。
Figure 2021181086
式中、R、Rは、水素、ハロゲン、炭素数4以下のアルキル、ハロアルキル、アルコキシ、または炭素数9以下のアリル誘導体、アラルキル基を示す。
PPE樹脂は、フェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2,6−ジイソプロピルフェノール、2−メチル−6−メトキシフェノールなどのフェノール類を、金属/アミン、金属キレート/塩基性有機化合物などの共触媒下に酸素と反応させ、脱水反応により得られるものであるが、上記の条件を満たす樹脂であれば、いずれの製造方法によるものであってもよい。具体的には、2,6−ジメチルフェニレンオキサイド重合体、2,6−ジメチルフェノール−ビスフェノールA共重合体、2,6−ジエチルフェニレンオキサイド重合体などが用いられて生成される。
PPE樹脂として、特に、変性ポリフェニレンエーテル/変性ポリフェニレンオキシド(m−PPE:modified−Polyphenyleneether/m−PPO:modified−Polyphenyleneoxide)樹脂を用いることが好ましい。m−PPE樹脂は、芳香族ポリエーテル構造を有するポリフェニレンエーテルを主成分とした射出成形可能な熱可塑性樹脂である。m−PPE樹脂は、例えば、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、PPS樹脂などの他の合成樹脂とアロイ化されたポリマーアロイである。m−PPE樹脂は、引張強さ、降伏強さ、弾性率などの機械的性質に優れ、耐衝撃性にも優れ、伸びが大きく、粘り強い特性を有しており、さらに温度や湿度の変化に影響されにくい特性を有している。また、吸水性が低く、加水分解も起きにくいものとされている。さらに、成形収縮率が小さいので、樹脂成形体に「ひけ」が生じにくく、寸法精度に優れる。
PPE樹脂などの非晶性樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体積に対して5体積%〜20体積%含まれることが好ましい。非晶性樹脂の含有量が5体積%未満の場合、寸法精度が低下するおそれがある。一方、非晶性樹脂の含有量が20体積%を超える場合、ベース樹脂である結晶性の熱可塑性樹脂の優れた各種特性が発揮されにくくなるおそれがある。非晶性樹脂の含有量を5体積%〜20体積%とすることで、優れた成形精度を有するとともに、結晶性樹脂のもつ優れた各種特性を発揮させることができる。なお、PAS系樹脂などの結晶性樹脂に、例えばPPE樹脂などの非晶性樹脂が所定量配合されてポリマーブレンド化された樹脂は、結晶性樹脂が「海」状とされ、非晶性樹脂が「島」状とされた、いわゆる海島構造となっている。
また、上記樹脂組成物は、上述したベース樹脂の熱可塑性樹脂に加えて、ゴム質重合体を加えることが好ましい。樹脂ホルダを取り付ける際に、樹脂ホルダのスナップフィット性を利用して基盤に挿入する場合に好ましい。
本発明に用いるゴム質重合体とは、ガラス転移温度が室温より低い重合体であり、熱可塑性樹脂との溶融混合分散性から、熱可塑性エラストマーが適する。例えば、スチレン系、オレフィン系、アルケン系、塩化ビニル系、ウレタン系、エステル系、アミド系、フッ素系などの熱可塑性エラストマーを用いることができる。
上記熱可塑性エラストマーの中でも、ベース樹脂の熱可塑性樹脂との相溶性の良い官能基や反応性を有する官能基を有するオレフィン系エラストマーが特に好ましい。例えば、α−オレフィンと官能基を有するビニル重合性化合物などの単量体とを共重合して得られるポリオレフィンがある。より具体的には、例えば、エポキシ基を有するポリオレフィンは、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルからなる共重合体などが用いられる。
ゴム質重合体の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体積に対して5体積%〜20体積%含まれることが好ましい。ゴム質重合体の含有量が5体積%未満の場合、樹脂材料の伸びが小さくなりスナップフィット性が低下するおそれがある。一方、ゴム質重合体の含有量が20体積%を超える場合、ベース樹脂である熱可塑性樹脂の各種特性が発揮されにくくなるおそれがある。ゴム質重合体の含有率を5体積%〜20体積%とすることで、優れたスナップフィット性を有するとともに、結晶性樹脂のもつ優れた各種特性を発揮させることができる。
また、上記樹脂組成物は、上述したベース樹脂の熱可塑性樹脂に加えて、無機充填材として、粒状無機物および繊維状無機物が所定量含まれることが好ましい。粒状無機物および繊維状無機物を用いることにより、ホルダなどに要求される寸法精度と機械的強度との両立を発揮させやすい。粒状無機物は、主に寸法精度の向上に寄与し、繊維状無機物は、主に機械的強度の向上に寄与する。
樹脂組成物に用いる粒状無機物は、球状、不定形の粒状、板状、扁平状、鱗片状などの非繊維状の充填材である。このような形態であれば、射出成形体において粒状無機物による異方性が発現されにくくなる。粒状無機物として、例えば、珪藻土、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、シリカバルーン、球状黒鉛、フッ化黒鉛、グラファイト、球状セラミック、アルミナ、カオリン、タルク、クレー、マイカ、シリカ、酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどの粉末状のカルシウム化合物などが挙げられる。また、粒状無機物としては、1種単独の粒状無機物ばかりでなく、複数種の粒状無機物を混合して使用することもできる。
上述の粒状無機物の中でも、ガラスフレーク、アルミナ、タルク、クレー、マイカ、シリカ、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムは、比較的低価格であるため好ましい。さらに、これらの中でも炭酸カルシウムがより好ましい。炭酸カルシウムは、CaCOで表され、その形状は例えば不安定とされる異形状であるので、射出成形時において溶融した樹脂組成物の流動方向にほぼ関係なく、異方性が発現しにくい補強用の無機充填材として機能する。また、炭酸カルシウムは、水に溶けにくい性質を有し、例えば樹脂組成物の吸水性を低く抑える役割も果す。
粒状無機物の平均粒径は、下限が0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、上限が100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。平均粒径が所定の平均粒径(例えば0.5μm)未満の場合は、粒子間の凝集が起こり、均一分散が困難となるおそれがある。また、平均粒径が所定の平均粒径(例えば100μm)を超える場合は、表面平滑性が悪くなるおそれがある。ここで、平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定して得られる体積平均粒子径(MV)である。
樹脂組成物に用いる繊維状無機物として、例えば、ケイ酸カルシウムウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、硫酸カルシウムウィスカ、硫酸マグネシウムウィスカ、硝酸マグネシウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、酸化チタンウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、シリコーンカーバイドウィスカ、サファイアウィスカ、ウォラストナイトウィスカ、グラファイトウィスカなどのウィスカ、ウォラストナイト、炭化珪素繊維、バサルト繊維、グラファイト繊維、炭素繊維、ガラス繊維、タングステン心線または炭素繊維などにボロン、炭化ケイ素などを蒸着したいわゆるボロン繊維、炭化ケイ素繊維、チラノ繊維などの複合繊維などが挙げられる。上記炭素繊維として、例えば、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系(PAN系)、カーボン質、グラファイト質、レーヨン系、リグニン−ポバール系混合物など原料の種類によらない炭素繊維を使用できる。また、繊維状無機物としては、1種単独の繊維状無機物ばかりでなく、複数種の繊維状無機物を混合して使用することもできる。
上述の繊維状無機物の中でも、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などの炭素繊維、ガラス繊維は、比較的低価格であるため好ましい。粒状無機物として、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、および炭酸カルシウムの中から少なくとも1つを選択し、かつ、繊維状無機物として、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、およびガラス繊維の中から少なくとも1つを選択することにより、樹脂成形体の価格を低く抑えることができる。
繊維状無機物の平均繊維長は、下限は10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、繊維状無機物の種類によっては40μm以上、さらには50μm以上である。上限は3mm以下、実質的には2mm以下、より実質的には1mm以下であり、繊維状無機物の種類によっては700μm以下、さらには300μm以下である。なお、本発明において、平均繊維長は数平均繊維長であり、概ねカット長さに相当する。平均繊維長は、例えば、光学顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維長を測定する対象の繊維状無機物をランダムに抽出してその長辺を測定し、得られた測定値に基づいて得られる。
繊維状無機物の平均繊維径は、下限は5μm以上、好ましくは6μm以上であり、上限は25μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは13μm以下である。なお、平均繊維径は、本分野において通常使用される電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などにより測定される。平均繊維径は、上記測定に基づき数平均繊維径として算出できる。
繊維状無機物の平均繊維長が所定値(例えば10μm)未満であったり、平均繊維径が所定値(例えば5μm)未満であったりすると、樹脂組成物に必要とされる機械的強度が期待できないおそれがある。一方、繊維状無機物の平均繊維長が所定値(例えば3mm)を超えたり、平均繊維径が所定値(例えば25μm)を超えたりすると、樹脂と混合する際に均一に分散させることが困難になるおそれがあり、ひいては射出成形に悪影響を及ぼすおそれがある。
繊維状無機物の平均アスペクト比は、下限は2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、繊維状無機物の種類によっては5以上、さらには6以上である。上限は1000以下、実質的には700以下、より実質的には500以下、繊維状無機物の種類によっては300以下、さらには50以下である。平均アスペクト比が所定値(例えば2)未満の場合、マトリックス自体の補強効果が損なわれて機械的特性が低下するおそれがある。平均アスペクト比が所定値(例えば1000)を超える場合には、混合時の均一分散が困難となりやすく、品質低下を招くおそれがある。
なお、「平均アスペクト比」とは、「平均繊維長/平均繊維径」を意味し、詳しくは「平均繊維長」を「平均繊維径」で除した値である。
繊維状無機物として、より好ましくはガラス繊維が用いられている。例えば、ガラス繊維は、SiO、B、Al、CaO、MgO、NaO、KO、Feなどを主成分とする無機ガラスから得られるものであり、一般に無アルカリガラス(Eガラス)が用いられて形成されているが、例えば含アルカリガラス(Cガラス、Aガラス、Dガラス)などが用いられて形成もされている。ガラス繊維の引張り強さは、ほぼ2500MPa〜5000MPaとされ、ガラス繊維の弾性率は、ほぼ70GPa〜90GPaとされており、価格も低く抑えられている。そのため、繊維状無機物としてガラス繊維が用いられることにより、樹脂成形体に要求される強度を確保させつつ、価格を低く抑えた樹脂成形体を形成させることが可能となる。
また、ガラス繊維として、無アルカリガラス繊維を用いてもよい。無アルカリガラスは、例えばSiOがほぼ52質量%〜56質量%、Bがほぼ8質量%〜13質量%、Alがほぼ12質量%〜16質量%、CaOがほぼ15質量%〜25質量%を含有し、これら以外にMgOがほぼ6質量%以下、NaOおよび/またはKOがほぼ1質量%以下など、これらのうち、いずれか1種以上を含有しているものであってもよい。無アルカリガラスは、組成物中にアルカリ成分がほとんど含まれていないホウケイ酸ガラスである。このように、無アルカリガラスは、アルカリ成分がほとんど入っていないので、樹脂への影響がほとんどなく、樹脂の特性がほぼ変化しないことから、優れた補強材とされている。また、無アルカリガラス繊維の引張り強さは、平均してほぼ3500MPaとされている。また、無アルカリガラス繊維の弾性率は、平均してほぼ72GPa〜77GPaとされている。さらに、無アルカリガラス繊維は、価格も低く抑えられている。これらの点から、無アルカリガラスは、樹脂への安定性、引張り強さ、弾性率、量産性に優れた低価格などの点で総合的に優れたものである。
ホルダに用いる樹脂組成物は、樹脂組成物全体積に対して、粒状無機物を10体積%〜40体積%含み、かつ、繊維状無機物を10体積%〜30体積%含む組成物であることが好ましい。粒状無機物および繊維状無機物の配合量を定めることにより、ホルダなどの樹脂成形体に要求される寸法精度を確保しつつ、機械的強度も確保することができる。
粒状無機物が10体積%未満の場合、寸法精度の確保が難しくなるおそれがある。粒状無機物は、主に樹脂成形体の寸法精度の向上に寄与しており、機械的強度の向上への寄与度は比較的低い。そのため、粒状無機物が多量に含まれていても、機械的強度の向上はそれほど期待できず、粒状無機物が多量とならないように上限(40体積%以下)を設けている。
繊維状無機物が10体積%未満の場合、機械的強度の確保が難しくなるおそれがある。繊維状無機物が30体積%を超える場合、寸法精度の確保が難しくなるおそれがある。繊維状無機物は、主に樹脂成形体の機械的強度の向上に寄与している。その一方で、繊維状無機物は多量に含まれると、その繊維配向性から異方性が発現されやすくなるため、所定以下とする必要がある。
また、樹脂組成物において、繊維状無機物が占める体積%よりも、粒状無機物が占める体積%の方が多いことが好ましい。これにより、寸法精度を重視させつつ、機械的強度も確保された樹脂成形体となる。
なお、本発明に係るホルダに用いる樹脂組成物には、発明の目的を阻害しない配合量で各種の添加剤を混合させることができる。混合可能な各種の添加剤として、例えば、離型剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、防錆剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤、染料・顔料などの着色剤、帯電防止剤などの1種以上のものが挙げられる。
このような樹脂組成物を用いて、例えばホルダが成形されることにより、単に一般的な樹脂を用いて射出成形した場合よりも寸法精度を向上させたホルダの提供が可能となる。また、ベース樹脂として熱可塑性樹脂を用いることで、大量生産性に適している射出成形法によってホルダが作製できることから、ホルダの単価が下がり、低価格化を図ることができる。また、金属製ホルダよりも樹脂製ホルダの方が、例えば、錆発生防止にも貢献できる。
本発明に係るホルダは、射出成形機を用いて射出成形によって成形される。上述した樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。この成形用ペレットを用いて射出成形によりホルダを成形する。
射出成形の成形条件は、特に限定されないが、例えば、シリンダ温度290℃〜330℃、金型温度140℃〜160℃、射出圧力200MPa、射出速度50mm/sec、保圧力30MPa〜120MPa、保持時間3sec、冷却時間15sec〜25secである。
射出成形によって得られたホルダ5内に、別途製造したフィルタ2を接着剤による接着法や、加熱溶着法、超音波溶着法などの方法によって装着して、フィルタ組立体が得られる。本発明のフィルタ組立体は、例えば、自動車用電装品や、照明部品、太陽光パネル、各種通信機器などの筐体に装着される。自動車用電装品の具体例としては、エンジンのコントロールユニットや、ヘッドライトユニット、フォグランプユニット、湿度や温度などの各種センサー、ワイパーやラジエータなどのモータ、ハイブリッドインバータなどが挙げられる。このような部品に装着されることで、内圧変動による筐体内の破損防止のための内圧調整、温度調整を行なうとともに、塵、水、オイル、各種溶剤などから筐体内を保護することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(フッ素樹脂含有シートの評価)
試験例A−1
PTFE水分散体(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製31−JR;PTFEを60質量%の割合で含有する水分散体)100質量部と、PEG水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製162−18525;ポリエチレングリコールを10質量%の割合で含有する水溶液)100質量部とを混合して、PTFEの分散体を調製した。また、市販のPAI溶液(東洋紡株式会社製バイロマックス16NN;PAIを14質量%の割合で含有するN−メチル−2−ピロリドンの溶液)をN−メチル−2−ピロリドンで質量比1.5倍に希釈して、PAIの溶液を調製した。この場合、ESD法で使用するPTFEの分散体とPAI溶液のそれぞれに含まれるPTFEとPAIとの質量比をほぼ80:20とした。
PTFEの分散体を、図2に示したESD装置(株式会社フューエンス製Esprayer ES−2100H)の第1収容部(ノズルサイズ:21ゲージ)に入れ、PAIの溶液を第2収容部(ノズルサイズ:21ゲージ)に入れ、表1に示す紡糸条件で電極基板上に240分間かけて、PTFEの分散体およびPAIの溶液を各々スプレー/吐出し、生シートを作製した。
Figure 2021181086
得られた生シートをオーブン内で345℃にて30分間焼成することにより、フッ素樹脂含有シートを得た。得られたフッ素樹脂含有シートを目視で観察したところ、その表面にクラックが生じていないことを確認した。
得られたフッ素樹脂含有シートの表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製「FlexSEM 1000」)で観察した結果を図6に示す。図6(a)は拡大率1000倍のSEM画像であり、図6(b)は拡大率5000倍のSEM画像である。
図6(a)に示すように、フッ素樹脂含有シートにおいて多数の例えば交差点を有するフィラメントが重畳的に配置されていることが分かる。また、図6(b)に示すように、PTFE含有繊維であるフィラメントaは、表面に微細な凹凸が形成されたフラクタルな外表面を有している。一方、PAI含有繊維であるフィラメントbは、フィラメントaと比較して明らかに表面に凹凸がない外表面を有している。図6(b)より、フィラメントaとフィラメントbが、混ざり合って共存して配置されていることが分かる。
また、このようなSEM画像を用いて、各繊維の平均繊維径を測定した。その結果、PTFE含有繊維の平均繊維径がほぼ1000nmであり、PAI含有繊維の平均繊維径がほぼ500nmであった。
次に、フッ素樹脂含有シートの撥水性を評価した。フッ素樹脂含有シートを水平方向に固定し、その表面にスポイトで数滴の水を滴下した状態を図7に示す。図7に示すように、水滴はシート表面上で浸潤して広がることなく粒状に存在していた。このことから、このフッ素樹脂含有シートは良好な撥水性を有することが分かる。
さらに、フッ素樹脂含有シートについて以下の物性評価を行った。
(膜厚)
フッ素樹脂含有シートの膜厚をマイクロメーター(株式会社ミツトヨ製M800)を用いて膜厚計測することにより、当該シートの膜厚(μm)を測定した。得られた結果を表2に示す。
(耐水圧)
フッ素樹脂含有シートを、手動式防水度試験機(株式会社安田精機製作所製No.169)を用いて測定することにより、当該シートの耐水圧(kPa)を測定した。得られた結果を表2に示す。
(ガーレー値)
フッ素樹脂含有シートを、JIS P8117に準拠して、ガーレー式デンソメーター(株式会社安田精機製作所製No.323)を用いて測定することにより、当該シートのガーレー値(秒/300cc)を測定した。得られた結果を表2に示す。
(フラジール値)
フッ素樹脂含有シートを、JIS L1096に準拠して、フラジール型通気度試験機(株式会社安田精機製作所製(型番)No.415)を用いて測定することにより、当該シートのフラジール値(cc/cm・秒)を測定した。得られた結果を表2に示す。
試験例A−2
試験例A−1で採用した送液速度(両ノズルとも20μL/分)の代わりに、PTFEの分散体がノズルからスプレー/吐出される送液速度を40μL/分に変更し、かつPAIの溶液がノズルからスプレー/吐出される送液速度を20μL/分に維持したこと以外は、試験例A−1と同様にしてフッ素樹脂含有シートを作製した。得られたシートを目視で観察したところ、その表面にクラックが生じていないことを確認した。次いで、このフッ素樹脂含有シートについて、試験例A−1と同様の物性評価を行った。得られた結果を表2に示す。
試験例A−3
試験例A−1で採用した送液速度(両ノズルとも20μL/分)の代わりに、PTFEの分散体がノズルからスプレー/吐出される送液速度を60μL/分に変更し、かつPAIの溶液がノズルからスプレー/吐出される送液速度を20μL/分に維持したこと以外は、試験例A−1と同様にしてフッ素樹脂含有シートを作製した。得られたシートを目視で観察したところ、その表面にクラックが生じていないことを確認した。次いで、このフッ素樹脂含有シートについて、試験例A−1と同様の物性評価を行った。得られた結果を表2に示す。
試験例A−4
試験例A−1のPTFEの分散体およびPAIの溶液の代わりに、当該PTFEの分散体のみを使用したこと以外は、試験例A−1と同様にして生シートを作製し、その後、焼成してフッ素樹脂含有シートを得た。得られたシートを目視で観察したところ、その表面にクラックが生じていたことを確認した。
試験例A−5
PTFE水分散体(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製31−JR;PTFEを60質量%の割合で含有する水分散体)100質量部と、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製165−17915;PVAを10質量%の割合で含有する水溶液)100質量部とを混合して、分散体を調製した。この分散体を用いて、試験例A−1と同様にして生シートを作製し、その後、焼成してフッ素樹脂含有シートの作製を試みた。しかし、焼成の段階でシート上からPVAが昇華せず、変色し、最終的に炭化して目的のフッ素樹脂含有シートを得ることができなかった。
試験例A−6
試験例A−1で作製したフッ素樹脂含有シートの代わりに、市販のフッ素樹脂含有シート(住友電気工業株式会社製ポアフロンWP−500−50)を用いて、試験例A−1と同様の物性評価を行った。得られた結果を表2に示す。
試験例A−7
試験例A−1で作製したフッ素樹脂含有シートの代わりに、市販のフッ素樹脂含有シート(日東電工株式会社製テミッシュNTF2133A)を選択し、当該シートのカタログ値を表2に併記した。
試験例A−8
試験例A−1で作製したフッ素樹脂含有シートの代わりに、市販のフッ素樹脂含有シート(日東電工株式会社製テミッシュNTF1033)を選択し、当該シートのカタログ値を表2に併記した。
Figure 2021181086
表2に示すように、試験例A−1〜A−3で作製されたフッ素樹脂含有シートは、いずれも市販シートと比較して、同等またはそれらよりも薄い膜厚を有していたにもかかわらず、耐水圧やガーレー値は比較的高い値を有していた。さらに、フラジール値も良好な値を示した。このことから、試験例A−1〜A−3で得られたフッ素樹脂含有シートは、クラックの発生を抑制できるとともに、市販シートに匹敵する良質な防水透湿膜であることが分かる。
(金属基材の評価)
試験例B−1〜B−3
モリブデンが添加されたクロム・ニッケル系(18Cr−12Ni−2Mo−0.02C)でローカーボン(低炭素)とされるオーステナイト系ステンレス鋼のSUS316Lの粉末(ヘガネスジャパン株式会社製:316LF 75−150(粒度75μm〜150μm)、316LF 200−300(粒度200μm〜300μm)、316LF 355−500(粒度355μm〜500μm))を、0.35ton/cmの成形圧力で圧粉成形し、成形密度5.5g/cmの円板状の板状シートを成形した。得られた板状シートを、Hガスほぼ100%中にて約1120℃で約8時間加熱して焼結させた。
試験例B−4〜B−5
モリブデンが添加されたクロム・ニッケル系(18Cr−12Ni−2Mo−0.02C)でローカーボン(低炭素)とされるオーステナイト系ステンレス鋼のSUS316Lの粉末(ヘガネスジャパン株式会社製:316LF 200−300(粒度200μm〜300μm))を、3ton/cm〜5ton/cmの成形圧力で圧粉成形し、成形密度6.3g/cmの円板状の板状シート、または、成形密度6.5g/cmの円板状の板状シートを成形した。得られた板状シートを、Hガス中にて約1120℃で約8時間加熱して焼結させた。
試験例B−6
試験例B−1で作製したステンレス系金属素材/金属基材の代わりに、市販のステンレス系金属素材/金属基材(SMC株式会社製焼結金属エレメントESD−14−1−20、直径14mm、厚さ1mm)を用いた。
得られた試験例B−1〜B−5の円板状の金属素材/金属基材(いずれも直径14mm、厚さ0.7mm)および試験例B−6の市販の円板状の金属素材/金属基材(直径14mm、ほぼ厚さ1mm)について、通気試験を行なった。その際に、実測定時間(秒)および実通気量(cc)から、1分換算通気量を算出した。その結果を表3に示す。
Figure 2021181086
表3に示すように、試験例B−1〜B−5は、例えば1分換算通気量が1(cc/分)以上、好ましくは10(cc/分)以上、より好ましくは100(cc/分)以上、また、試験例B−1〜B−3は、1分換算通気量が1000(cc/分)以上、例えば10000(cc/分)以下、さらには2000(cc/分)以上、例えば9000(cc/分)以下の範囲内に属する結果となり、良好な通気性を示した。なお、試験例B−4〜B−5は、1分換算通気量が1000(cc/分)未満であり、試験例B−1〜B−3に比べて通気性が低い結果となったが、これらは、例えば1分換算通気量が1(cc/分)以上、1000(cc/分)未満の仕様/条件下で用いられるフィルタ、フィルタ組立体として使用可能である。
(フィルタの評価)
試験例C−1〜C−6
表3に示す試験例B−1〜B−6の金属素材/金属基材の表面にフッ素樹脂含有シートを形成した。試験例A−3で採用した送液速度の代わりに、PTFEの分散体がノズルからスプレー/吐出される送液速度をさらにほぼ2倍に変更し、かつPAIの溶液がノズルからスプレー/吐出される送液速度をさらにほぼ2倍に変更し、さらに表1に示す紡糸条件のスキャン速度をほぼ2倍に変更し、試験例A−1、試験例A−3のスプレー/吐出総計時間よりもほぼ二分の一の時間に短縮してPTFEの分散体およびPAIの溶液を各々スプレー/吐出し、試験例B−1〜B−6の金属基材の表面に生シートを生産性よく作製した。その後、金属基材上にて金属基板と一体となった生シートを焼成して金属基材と一体化されたフッ素樹脂含有シートを得た。すなわち試験例C−1〜C−6のフィルタを得た。
また、これらとともに、上記のスプレー/吐出総計時間をほぼ二分の一の時間に短縮した条件と同条件で作製した生シートを焼成してフッ素樹脂含有シートのみも形成した。
得られたフッ素樹脂含有シートの表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製「Type−N(S−3000N)」)で観察した結果を図8〜図10に示す。図8は拡大率500倍のSEM画像であり、図9は拡大率1000倍のSEM画像であり、図10は拡大率2000倍のSEM画像である。
図8〜図10に示すように、フッ素樹脂含有シートにおいて多数の例えば交差点を有するフィラメントが重畳的に配置されていることが分かる。また、図10に示すように、PTFE含有繊維であるフィラメントaは、表面に微細な凹凸が形成されたフラクタルな外表面を有している。一方、PAI含有繊維であるフィラメントbは、フィラメントaと比較して明らかに表面に凹凸がない外表面を有している。図10より、フィラメントaとフィラメントbが、混ざり合って共存して配置されていることが分かる。
また、このようなSEM画像を用いて、各繊維の平均繊維径を測定した。その結果、PTFE含有繊維の平均繊維径がほぼ3000nmであり、PAI含有繊維の平均繊維径がほぼ2000nmであった。
また、試験例C−1〜C−6のフィルタのフッ素樹脂含有シートを目視で観察したところ、その表面にクラックが生じていないことを確認した。次いで、これらのフッ素樹脂含有シートについて、膜厚計測を行った。得られた結果を表4に示す。
また、試験例C−1〜C−6のフィルタについて、通気試験を行なった。その際に、実測定時間(秒)および実通気量(cc)から、1分換算通気量を算出した。その結果を表4に示す。
Figure 2021181086
表4に示すように、試験例C−1〜C−5は、例えば1分換算通気量が1(cc/分)以上、好ましくは10(cc/分)以上、より好ましくは100(cc/分)以上、また、試験例C−1〜C−3は、1分換算通気量が1000(cc/分)以上、例えば10000(cc/分)以下、さらには1500(cc/分)以上、例えば9000(cc/分)以下の範囲内に属する結果となり、良好な通気性を示した。なお、試験例C−4〜C−5は、1分換算通気量が1000(cc/分)未満であり、試験例C−1〜C−3に比べて通気性が低い結果となったが、これらは、例えば1分換算通気量が1(cc/分)以上、1000(cc/分)未満の仕様/条件下で用いられるフィルタ、フィルタ組立体として使用可能である。
また、表3に示す試験例B−1〜B−6の金属素材/金属基材の表面にフッ素樹脂含有シートを形成させて、表4に示す試験例C−1〜C−6のフッ素樹脂含有シート付の金属基材すなわちフィルタが構成されていることから、通気の抵抗が増し、表3に示す試験例B−1〜B−6の金属素材/金属基材よりも表4に示す試験例C−1〜C−6のフィルタの方が1分換算通気量(cc/分)の値が低い結果となった。例えば、試験例B−6は、1分換算通気量が25500(cc/分)であったのに対し、試験例C−6は、1分換算通気量が15600(cc/分)であった。このように、フィルタの1分換算通気量が20000(cc/分)以下、具体的には18000(cc/分)以下、さらには16000(cc/分)以下となる結果が得られた。
(ホルダの評価)
試験例D−1〜D−6
試験例D−1〜D−6に用いた原材料を一括して以下に示す。なお、[ ]内は、表5に示す略称を示し、表5中の配合割合は全て体積%で示した。
(1−1)ガラス繊維強化(この樹脂組成物中においてGF30質量%/18体積%)架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂[PPS樹脂組成物(1)]:FZ−1130−D5(DIC株式会社製、商品名)
(1−2)ガラス繊維強化(この樹脂組成物中においてGF15質量%/9体積%)ポリフェニレンサルファイド樹脂[PPS樹脂組成物(2)]:サスティール(登録商標)P−13(東ソー株式会社製、商品名)
(2)ポリフェニレンエーテル樹脂[PPE樹脂]:ザイロン(登録商標)PPE Powder S201A(旭化成株式会社製、商品名)
(3)熱可塑性エラストマー[TPE](エチレン−メタクリル酸 グリシジル−アクリル酸メチル共重合体):ボンドファースト(登録商標)BF−7L(住友化学株式会社製、商品名)
(4)炭酸カルシウム[CaCO]:A 平均粒径12μm(三共精粉株式会社製、品名)
(5)ガラス繊維[GF]:チョップドストランド ECS03−630 カット長3mm(平均繊維長3mm)、平均繊維径9μm、平均アスペクト比333(セントラルグラスファイバー株式会社製、商品名)
上記の原材料を表5に示すとおりに配合し、ヘンシェルミキサーで十分に混合した後、二軸溶融押出し機に供給し、ストランドダイから押出してペレット状に造粒した。次に、射出成型機に試験例D−1〜D−6のペレットを投入した。シリンダ内(シリンダ温度300℃〜320℃)で溶融した樹脂を、金型のキャビティ内に、金型温度150℃、射出圧力200MPa、射出速度50mm/sec、保圧力70MPa、保持時間3sec、冷却時間25secの射出条件で充填し、図4、図5に示すホルダおよび各試験用の樹脂成形体を得た。なお、試験例D−6に示す樹脂組成物を用いた場合、樹脂成分の配合割合が少なかったことから射出成形することができなかった。得られたホルダおよび各試験用の樹脂成形体を用いて以下の評価試験を行なった。
(a)線膨張係数の比(AMD/ATD
上述の射出成形によって、図11に示すダンベル試験片(多目的試験片:JIS K 7139参照)を成形し、精密切削加工により、AMD方向用とATD方向用のそれぞれについて、縦4mm、横10mm、厚み4mmの平板状の成形体線膨張係数測定用の試験片(□4×10mm)を切り出した。図11に示すように、射出ゲートのゲート位置は、ダンベル試験片の長手方向の端部(サイドゲート)であり、ゲートサイズは、幅10mm×厚さ2.7mmである。
線膨張係数は、熱機械分析装置(TMA;株式会社島津製作所製、TMA−60)により測定した。毎分5℃の昇温速度で、−50℃から80℃まで昇温し、その間の平均線膨張係数を測定した。
MD方向における線膨張係数AMDをTD方向における線膨張係数ATDで除して、線膨張係数の比(AMD/ATD)を求めた。
なお、測定対象物の樹脂組成物などの種類、測定条件などにより、例えば−50℃から50℃までの間の平均線膨張係数などを参考としてもよい。
(b)成形収縮率の比(BMD/BTD
JIS K 7139多目的ダンベル試験片用の金型(長さ171.68mm、平行部幅10.09mm)を用いて、上述の射出成形によって成形体を得た。射出ゲートのゲート位置は、ダンベル試験片の長手方向の端部(サイドゲート)であり、ゲートサイズは、幅10mm×厚さ2.7mmである。流動方向MD(試験片長さ)および流動直角方向TD(試験片平行部幅)における成形収縮率を測定した。測定器として、試験片長さはノギス(読取り精度±0.01mm)、試験片平行部幅はデジタルマイクロメータ(読取り精度±0.001mm)を用いて測定し、各成形収縮率はそれぞれ、下記式で算出した。
成形収縮率=[(23±2℃での金型内の成形体の各方向の寸法−成形後の成形体の各方向の寸法)/23±2℃での金型内の成形体の各方向の寸法]×100
MD方向における成形収縮率BMDをTD方向における成形収縮率BTDで除して、成形収縮率の比(BMD/BTD)を求めた。
(c)曲げ強さ、曲げ弾性率
ASTM D790に準じた曲げ試験を実施し、曲げ強さおよび曲げ弾性率を測定した。
(d)引張強さ、引張り破断伸び
ASTM D638に準じた引張試験を実施し、引張強さおよび引張り破断伸びを測定した。
(e)直角度
得られたホルダについて、基端部に対する筒部の直角度を三次元測定機を用いて求めた。直角度は、基端部の収容空間側の底面を基準面として、筒部の直角方向の変位量で表した。筒部の内周面と外周面の2箇所の各変位量を求め、平均値を表5に示した。
(f)平行度
得られたホルダについて、基端部に対する筒部の軸方向端面の平行度を三次元測定機を用いて求めた。平行度は、例えば軸方向端面に置かれたブロックゲージに三次元測定機の測定子を当て4箇所の測定点を取得したときのMax値とMin値の差で表した。4箇所の各変位量を求め、平均値を表5に示した。
Figure 2021181086
表5の試験例D−1〜D−4に示すように、ベース樹脂に粒状無機物、繊維状無機物、および非晶性樹脂を所定量ずつ含む樹脂組成物の樹脂成形体(試験例D−1〜2)、ベース樹脂に粒状無機物、繊維状無機物、および熱可塑性エラストマーを所定量ずつ含む樹脂組成物の樹脂成形体(試験例D−3)、ベース樹脂に粒状無機物および熱可塑性エラストマーを所定量ずつ含む樹脂組成物の樹脂成形体(試験例D−4)は、一般的な組成にかかる樹脂組成物の樹脂成形体(試験例D−5)よりも寸法精度が向上した。表5に示すように、試験例D−1〜D−4の樹脂成形体は、異方性の指標となる、線膨張係数の比(AMD/ATD)および成形収縮率の比(BMD/BTD)が0.5〜1の範囲内であり、試験例D−5の樹脂成形体よりも、直角度および平行度が向上した。試験例D−1〜D−4の樹脂成形体は、その成形収縮率がMDおよびTDともに小さく、かつ、MDとTDの差も小さいため、寸法精度の向上につながった。また、試験例D−3、D−4の樹脂成形体は、その引張り破断伸びも向上された。
表5に示す試験例D−1〜D−5に用いた原材料を用いて、図4、図5に示すホルダ5を作製した。例えば寸法精度を要求されるホルダ5の場合には、表5に示す試験例D−1〜2に用いた原材料を使用して図4に示すホルダ5を作製するのが好ましい。また、例えば相手側の筐体などへの取付容易性を要求されるホルダ5の場合には、表5に示す試験例D−3〜4に用いた原材料を使用して図5に示すホルダ5を作製するのが好ましい。また、例えば各種仕様、条件等により、表5に示す試験例D−5に用いた原材料を使用して図4に示すホルダ5を作製することも可能とされる。
本発明は、例えば、防塵性、防水性、通気性のいずれか1つ以上の特性が要求されるフィルタおよびそれを備えるフィルタ組立体において有用である。具体的には、防水性と通気性とが両立されたフィルタおよびそれを備えるフィルタ組立体において有用である。また、具体的な用途として、本発明のフィルタおよびフィルタ組立体は、ヘッドライト、スマートフォン、街路灯、防犯機器、車載機器などの内圧制御用途などに利用可能である。
1 フィルタ組立体
2 フィルタ
3 繊維シート(フッ素樹脂含有シート)
4 金属基材
5 ホルダ
6 収容部
7、7’ 装着部
8a、8b 通気孔
9 蓋部材
11、11’ ESD装置
12、12’ 電極基板
13、13’ ヘッド
14、14’ ヘッド
15 第1収容部
16 第1供給管
17 第1ノズル
18 第2収容部
19 第2供給管
20 第2ノズル
21 生シート
A PTFEの分散体
B PAIの溶液

Claims (19)

  1. フッ素樹脂含有シートと、該フッ素樹脂含有シートを支持する金属基材とを備えるフィルタであって、
    前記フッ素樹脂含有シートは、ポリテトラフルオロエチレン含有繊維とポリイミド系重合体含有繊維とを含有し、前記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維の平均繊維径が300nm〜6000nmであり、かつ、前記ポリイミド系重合体含有繊維の平均繊維径が100nm〜5000nmであり、
    前記金属基材は多孔質体であることを特徴とするフィルタ。
  2. 前記フッ素樹脂含有シートにおいて、前記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維および前記ポリイミド系重合体含有繊維は重畳的に配置されていることを特徴とする請求項1記載のフィルタ。
  3. 前記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維はフラクタルな外表面を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のフィルタ。
  4. 前記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維および前記ポリイミド系重合体含有繊維はそれぞれ多交差構造を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載のフィルタ。
  5. 前記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維におけるポリテトラフルオロエチレンと、前記ポリイミド系重合体含有繊維におけるポリイミド系重合体との質量比が(70:30)〜(95:5)であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載のフィルタ。
  6. 前記ポリイミド系重合体含有繊維がポリアミドイミド含有繊維であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載のフィルタ。
  7. 前記金属基材がステンレス鋼の焼結金属であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載のフィルタ。
  8. 前記金属基材の密度が4.5g/cm〜7.5g/cmであることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項記載のフィルタ。
  9. 1分換算通気量が1(cc/分)以上であることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項記載のフィルタ。
  10. 1分換算通気量が20000(cc/分)以下であることを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項記載のフィルタ。
  11. フィルタと該フィルタを保持するホルダとを備えるフィルタ組立体であって、
    前記フィルタが請求項1から請求項10までのいずれか1項記載のフィルタであることを特徴とするフィルタ組立体。
  12. 前記ホルダが、樹脂組成物の射出成形体であることを特徴とする請求項11記載のフィルタ組立体。
  13. 前記樹脂組成物は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、粒状無機物と、繊維状無機物とを含み、前記樹脂組成物全体積に対して、前記粒状無機物が10体積%〜40体積%含まれ、かつ、前記繊維状無機物が10体積%〜30体積%含まれることを特徴とする請求項12記載のフィルタ組立体。
  14. 前記樹脂組成物は、ベース樹脂としての結晶性の熱可塑性樹脂と、非晶性樹脂とを含み、前記樹脂組成物全体積に対して、前記非晶性樹脂が5体積%〜20体積%含まれることを特徴とする請求項12記載のフィルタ組立体。
  15. 前記非晶性樹脂がポリフェニレンエーテル樹脂であることを特徴とする請求項14記載のフィルタ組立体。
  16. 前記樹脂組成物は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、ゴム質重合体とを含み、前記樹脂組成物全体積に対して、前記ゴム質重合体が5体積%〜20体積%含まれることを特徴とする請求項12項記載のフィルタ組立体。
  17. 前記ゴム質重合体が熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項16記載のフィルタ組立体。
  18. 前記ゴム質重合体がオレフィン系エラストマーであることを特徴とする請求項16または請求項17記載のフィルタ組立体。
  19. 前記樹脂組成物は、ベース樹脂としてのポリアリーレンサルファイド系樹脂を含むことを特徴とする請求項12から請求項18までのいずれか1項記載のフィルタ組立体。
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