JP2021159048A - 温度応答性基材及びその使用 - Google Patents

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礼奈 森安
Reina Moriyasu
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正道 森田
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Abstract

【課題】細胞の接着性に優れる、新たな温度応答性基材の提供。【解決手段】(A)デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーを含有する温度応答層;及び(B)基材層を含有する温度応答性基材であって、前記温度応答層(A)が細胞外マトリックス構成成分及び/又はその断片を含む、温度応答性基材。【選択図】なし

Description

本開示は、温度応答性基材及びその使用に関する。
デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーを含有する温度応答層、及び基材層を含有する温度応答性細胞培養基材が提案されている(特許文献1)。
WO2018/198495
本開示は、デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーを含有する温度応答層、及び基材層を含有する、新たな温度応答性基材を提供することを課題とする。
項1.
(A)デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーを含有する温度応答層;及び
(B)基材層
を含有する温度応答性基材であって、
前記温度応答層(A)が細胞外マトリックス構成成分及び/又はその断片を含む、温度応答性基材。
項2.
前記細胞外マトリックス構成成分が、プロテオグリカン、コラーゲン、エラスチン、エンタクチン、フィブロネクチン、ラミニン及びビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも一種の細胞外マトリックス構成成分である、項1に記載の温度応答性基材。
項3.
前記デンドリティックポリマーが、スチレン骨格又はシロキサン骨格のデンドリティックポリマーである、項1又は2に記載の温度応答性基材。
項4.
前記温度応答性ポリマーの少なくとも一種が、
(メタ)アクリルアミド、N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミド及びビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を含むモノマー組成物を重合することにより得られうる温度応答性ポリマー、又は
ポリビニルアルコール部分酢化物
である、項1〜3のいずれか一項に記載の温度応答性基材。
項5.
前記N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミドが、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、及びポリ−N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミドからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項4に記載の温度応答性基材。
項6.
前記基材層(B)がポリスチレンを含む、項1〜5のいずれか一項に記載の温度応答性基材。
項7.
細胞培養器材である、項1〜6のいずれか一項に記載の温度応答性基材。
項8.
細胞培養器材としての、項1〜6のいずれか一項に記載の温度応答性基材の使用。
項9.
項1〜6のいずれか一項に記載の温度応答性基材の表面上で細胞を培養する工程を含む、細胞培養方法。
本開示によれば、デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーを含有する温度応答層、及び基材層を含有する、新たな温度応答性基材を提供できる。
本開示は、以下の実施形態を含む。
1.温度応答性基材
本開示の温度応答性基材は、
(A)デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーを含有する温度応答層;及び
(B)基材層
を含有する温度応答性基材であって、
前記温度応答層(A)が細胞外マトリックス構成成分及び/又はその断片を含む、温度応答性基材である。
1.1 温度応答層(A)
温度応答層(A)は、デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーを含有し、温度応答性を示す。
1.1.1 デンドリティックブロックコポリマー
本開示においては、温度応答層(A)が、デンドリティックポリマーの末端に、温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマー(本明細書において、「デンドリティックブロックコポリマー」という)を含有する。これにより、より優れた細胞剥離性を有し、及び/又は使用中の温度応答性ポリマーの溶出が抑制された温度応答性基材が得られやすくなる。
特に、温度応答性ポリマーを除いた、コアとなるデンドリティックポリマー部分(本明細書において、この部分のことを、デンドリティックブロックコポリマー全体と峻別するために、単に「デンドリティックポリマー」と呼ぶことがある)が、スチレン骨格又はシロキサン骨格のデンドリティックポリマーであることが好ましい。本発明者らの検討によれば、このような骨格を有していることにより、デンドリティックポリマー部分が、基材表面に規則的に配置されやすくなり、これにより安定的に基材表面に固定化される結果、細胞培養のときだけでなく、温度応答により細胞を剥離させるときにおいても遊離しにくいという効果が得られる。
また、スチレン骨格のデンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが結合したデンドリティックブロックコポリマーは、水不溶性のスチレン骨格のデンドリティックポリマー部分と、水に親和性を有する温度応答性ポリマーとが結合したものである。したがって、このデンドリティックブロックコポリマーで基材表面を被覆し、乾燥させることにより、基材表面に微細な相分離構造が形成されることが期待される。細胞が基材表面に付着する際に、基材表面に相分離構造があると細胞の変性を抑えることが可能となるため好ましい。
デンドリティックポリマーとしては、末端数15以上のデンドリティックポリマーが好ましい。末端数が15以上であることにより、末端に結合する温度応答性ポリマーの単位体積当たり密度を好ましい範囲とすることができ、このことが、温度応答時の細胞剥離性の向上に寄与する。この点において、スチレン骨格のデンドリティックポリマーの末端数は、15以上であれば好ましく、20以上であればより好ましい。
また、このデンドリティックポリマーの末端数は、温度応答性ポリマーを付加させる反応の時間を短縮できるという点において、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。
以上を総合すると、デンドリティックポリマーの末端数の好ましい範囲としては、15〜50が挙げられ、その中においても20〜50が好ましく、30〜50がより好ましい。
デンドリティックポリマーの重量平均分子量(Mw)は特に限定されず、幅広い範囲から選択することができる。特に、デンドリティックポリマーのMwが2,000以上であれば、基材にデンドリティックブロックコポリマーが固定化されやすくなり、培地等に溶出する可能性が低減される。この点で、デンドリティックポリマーのMwは、3,000以上が好ましく、4,000以上がより好ましく、5,000以上が最も好ましい。
本開示においてデンドリティックポリマーのMwは、GPCにより以下の条件で測定する。
なお、以下に挙げる装置及び試薬等に換えて、それらと同等のものを使用してもよい。
装置 :特に限定されない。
検出器 :示差屈折率検出器RI
カラム:TSKgel SuperAWH−H
溶媒 :50mMのLiBrを含むDMF
流速 :0.5ml/min
カラム温度 :25℃
標準試料:ポリスチレン
また、デンドリティックポリマーのMwが1,000,000以下であれば、温度応答性ポリマーの導入率を好ましい範囲内に保つことができる。この点で、デンドリティックポリマーのMwは、500,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましく、100,000以下が最も好ましい。
必要に応じて、デンドリティックブロックコポリマーの末端に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基等の正又は負の荷電を有する基を付与してもよい。これらの基の付与は常法により行うことができる。
また、必要に応じて、温度応答性ポリマーが結合した状態のデンドリティックブロックコポリマーにおいて、デンドリティックポリマー部分に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基等の正又は負の荷電を有する基が残存していてもよい。温度応答性ポリマー中または末端に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基等の正又は負の荷電を有する基を付与させてもよい。
デンドリティックブロックコポリマーは、デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが少なくとも一種結合しているが、少なくとも一種のその他のポリマーがさらに結合していてもよい。
デンドリティックブロックコポリマーは、末端数15以上のデンドリティックポリマーの末端に、Mw3000以上の温度応答性ポリマーがデンドリティックブロックコポリマー全体に対して50〜99.5質量%結合しているものであれば好ましい。このデンドリティックブロックコポリマーは、温度応答性ポリマーがデンドリティックポリマーの末端に十分量結合しているため、温度を変えても当該ポリマー上の培養細胞が剥離し難くなるということがない。この点において、本開示のデンドリティックブロックコポリマーは、温度応答性ポリマーがデンドリティックポリマーの末端に、デンドリティックブロックコポリマー全体に対して70質量%以上結合していると好ましく、80質量%以上結合しているとより好ましい。
デンドリティックブロックコポリマーは、デンドリティックポリマーの末端に、温度応答性ポリマーがデンドリティックブロックコポリマー全体に対して99.5質量%以下結合しているものであれば好ましい。この点において、デンドリティックブロックコポリマーは、デンドリティックポリマーの末端に、温度応答性ポリマーがデンドリティックブロックコポリマー全体に対して98質量%以下結合していると好ましく、97質量%以下結合しているとより好ましい。
本開示のデンドリティックブロックコポリマーのMw(重量基準)は、550,000〜10,000,000であれば好ましい。測定されたMwが50,000未満の場合、温度応答性ポリマーがデンドリティックポリマーの末端に導入されず、単にブレンドされている割合が多いため、細胞剥離性が低下する。
本開示のデンドリティックブロックコポリマーにおいて、デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーを結合させる方法は、特に限定されず、幅広く選択できる。
結合方法としては、デンドリティックポリマーの末端にRAFT剤を導入し、それを起点に各種モノマーを成長させる等の方法が挙げられる。
RAFT重合の開始剤は特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ‐2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70)及び2,2’−アゾビス[(2−カルボキシエチル)−2−(メチルプロピオンアミジン)(V−057)等が挙げられる。
RAFT重合時に使用する溶媒については特に限定されず幅広く選択できる。例えば、ベンゼン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン及びジメチルホルムアルデヒド(DMF)等が好ましく、重合反応に使用するモノマー、RAFT剤及び重合開始剤の種類によって、適宜選択できる。重合時の開始剤濃度、RAFT剤量、反応温度及び反応時間等は特に限定されず、目的に応じて適宜設定できる。重合時、反応液は静置させても攪拌してもよい。
スチレン骨格デンドリティックポリマーの構造は、幅広く選択することができる。スチレン骨格デンドリティックポリマーの構造は、例えば、以下の一般式(2)により表わすことができる。
Figure 2021159048
上記式中、Rは、共有結合により温度応答性ポリマーが導入されうる基である。nは重合度を表わす。
としては、特に限定されず、幅広く選択することができる。特に、可逆的付加−開裂連鎖移動(RAFT)剤として作用しうる基であれば、RAFT重合により温度応答性ポリマーを導入できるため好ましい。このようなRAFT剤として作用しうる基としては、特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、チオカルボニルチオ基等が挙げられる。
チオカルボニルチオ基としては、ジチオエステル基、ジチオカルバメート基、トリチオカーボネート基、キサンタート基及びジチオベンゾエート基等が挙げられる。
は、末端に、炭素数3〜12の、置換されていてもよい炭化水素基を有していてもよい。この炭化水素基は、分岐状炭化水素基であれば好ましい。このことにより、デンドリティックブロックコポリマー中の温度応答性部位に適度な立体障害を持たせることができ、より効果的に基材表面を被覆することができるという効果が得られる。
このときのRの具体例として、以下のようなトリチオカーボネート基が挙げられる。
Figure 2021159048
上記式中、Rは、炭素数3〜12の、置換されていてもよい炭化水素基を指す。Rは、分岐状炭化水素基であれば好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、分岐プロピル基、ブチル基、分岐ブチル基、ヘキシル基、分岐ヘキシル基、ペンチル基、分岐ペンチル基、ヘプチル基、分岐ヘプチル基、オクチル基、分岐オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、分岐ノニル基、デシル基、分岐デシル基、ドデシル基、分岐ドデシル基があり、好ましくはイソプロピル基、エチルヘキシル基及びブチルオクチル基等が挙げられる。
スチレン骨格デンドリティックポリマーの製造方法は、特に限定されず、幅広く選択することができる。例えば、常法として行われているクロロベンゼン中、塩化銅存在下で原子移動ラジカル重合(ATRP)法によって得ることができる。あるいは、乾燥トルエン中、加熱下、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)存在下にてラジカル重合させることによっても得ることができる。
より詳細には、上記Rの導入の目的のために、官能基を有するスチレン誘導体を少なくともモノマーとして用いて重合することが好ましい。このようなスチレン誘導体としては、ハロゲン化メチルスチレン等が挙げられる。ハロゲン化メチルスチレンとしては、クロルメチルスチレン、ブロムメチルスチレン等が用いられる。スチレン誘導体は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
上記の通り重合反応によりスチレン骨格デンドリティックポリマーを製造する際、使用する総モノマー全体に対する、官能基を有するスチレン誘導体の割合は、5%以上であることが好ましい。官能基を有するスチレン誘導体の上記割合が5%以上であると、温度応答性ポリマー鎖を導入する効率が良好となり、本開示で目標とする温度応答性ポリマーの導入率を達成しやすくなる。この点で、官能基を有するスチレン誘導体の上記割合は、10%以上であればより好ましく、15%以上であればさらに好ましく、20%以上であれば最も好ましい。
官能基を有するスチレン誘導体の上記割合が90%以下であると、温度応答性ポリマー鎖を導入する効率を良好な範囲に保ちつつ、得られるデンドリティックブロックコポリマーが水に溶けにくくなり、デンドリティックブロックコポリマーが培地等に溶出する可能性が低減される。この点で、官能基を有するスチレン誘導体の上記割合は、80%以下であればより好ましく、70%以下であればさらに好ましく、60%以下であれば最も好ましい。
総合すると、官能基を有するスチレン誘導体の上記割合としては、5%〜90%が好ましく、10%〜80%がより好ましく、15%〜70%がさらに好ましく、20%〜60%が最も好ましい。
シロキサン骨格デンドリティックポリマーは、幅広く選択することができる。シロキサン骨格デンドリティックポリマーは、例えば、ビス(ジメチルビニルシロキサン)メチルシラン、トリス(ジメチルビニルシロキサン)シラン、ビス(ジメチルアリルシロキサン)メチルシラン及びトリス(ジメチルアリルシロキサン)シランからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーを重合することにより得られうるもの等が挙げられる。また、ビス(ジメチルシロキシ)メチルビニルシラン、トリス(ジメチルシロキシ)ビニルシラン、ビス(ジメチルシロキシ)メチルアリルシラン及びトリス(ジメチルシロキシ)アリルシランからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーを重合することにより得られうるもの等も挙げられる。このようなシロキサン骨格デンドリティックポリマーは、例えばWO2004/074177号パンフレット等に記載の方法により得ることができる。
1.1.2 温度応答性ポリマー
温度応答性ポリマーは、特に限定されず、幅広く選択することができる。温度応答性ポリマーは、具体的には、下限臨界溶解温度(LCST)を有するポリマー、又は上限臨界溶解温度[Upper Critical Solution emperature(UCST)]を有するポリマーが挙げられ、ブロックポリマーであってもよい。ブロックポリマーは、一種の温度応答性ブロックを含んでいてもよいし、複数種の温度応答性ブロックを含んでいてもよい。
温度応答性ポリマーとしては、例えば、特公平06−104061号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの少なくとも一種に基づく構成単位を有するポリマーが挙げられる。モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体及びビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
温度応答性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール部分酢化物及び含窒素環状ポリマー等も例示できる。
温度応答性ポリマーとしては、アルキル置換セルロース誘導体、ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体及びポリアルキレンオキサイドブロック共重合体等も例示できる。
培養細胞の剥離は、通常、5℃〜50℃の範囲で行うことが好ましいため、本開示の温度応答性基材を細胞培養用途に用いる場合は、LCST又はUCSTがこの範囲内であるポリマーが、温度応答性ポリマーとして好ましい。そのような温度応答性を有する、ポリ(N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体を重合して得られるポリマー(ポリ(N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド))の具体例としては、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(下限臨界溶解温度21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(同27℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N−エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド(同56℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(同32℃)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)及びポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)等が挙げられる。
上記と同様の範囲のLCST又はUCSTを有する具体的なポリマーとしては、他にも、以下のものを例示できる。ポリビニルエーテルとして、例えば、ポリメチルビニルエーテル等が挙げられる。含窒素環状ポリマーとして、例えば、ポリ(N−アクリロイルピロリジン)及びポリ(N−アクリロイルピペリジン)等が挙げられる。アルキル置換セルロース誘導体として、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体としては、例えば、ポリポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等が挙げられる。
温度応答性ポリマーとしては、ホモポリマーが温度応答性を示す上記モノマーの少なくとも一種と、上記モノマー以外の少なくとも一種のモノマーとの共重合体を用いることもできる。そのような他のモノマーとして、例えば、荷電を有するモノマー及び/又は疎水性モノマーを使用できる。
荷電を有するモノマーとして、例えばアミノ基を有するモノマー、アンモニウム塩を有するモノマー、カルボキシル基を有するモノマー、及びスルホン酸基を有するモノマー等が挙げられる。
アミノ基を有するモノマーとしては、例えば、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノスチレン、アミノアルキルスチレン、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
アンモニウム塩を有するモノマーとしては、例えば、[2−(2−メチルアクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、(メタ)アクリルアミドアルキルトリメチルアンモニウム塩である3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
また、スルホン酸を有するモノマーとしては、(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸等が挙げられる。
疎水性モノマーとしては、アルキルアクリレート、アルキルメタアクリレート等が挙げられる。アルキルアクリレートとしては、例えば、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート等が挙げられる。アルキルメタアクリレートとしては、例えば、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、メチルメタクリレート等が挙げられる。疎水性モノマーとしては、以下に挙げる含フッ素モノマーも使用できる。
含フッ素モノマーとして、例えば、カルボキシル基に対して直接又は2価の有機基を介してエステル結合又はアミド結合したフルオロアルキル基を有し、α位に置換基を有することのあるアクリル酸エステル(以下、「フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル」と略記することがある。)、又は「フルオロアルキル基含有アクリルアミド」等が挙げられる。
フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル又はフルオロアルキル基含有アクリルアミドの好ましい具体例としては、下記一般式(1):
CH=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1)
[式中、Xは、水素原子、炭素数1〜21の直鎖状又は分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX基(但し、X及びXは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基又は置換若しくは非置換のフェニル基であり;
Yは、−O−又は−NH−であり;
Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基若しくは環状脂肪族基、
−CHCHN(R)SO−基(但し、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。
)、−CHCH(OZ))CH−基(但し、Zは水素原子又はアセチル基である。)、−(CH−SO−(CH−基、−(CH−S−(CH−基(但し、mは1〜10、nは0〜10である。)又は−(CH−COO−基(mは1〜10である。)であり;
Rfは、ヘテロ原子を有していてもよい、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基である。]で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドを例示できる。
上記一般式(1)において、Rfで表されるフルオロアルキル基は、少なくとも一個の水素原子がフッ素原子で置換された、ヘテロ原子を有していてもよいアルキル基であり、全ての水素原子がフッ素原子で置換された、ヘテロ原子を有していてもよいパーフルオロアルキル基も包含するものである。
上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドでは、Rfが炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基であることが好ましく、特に、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。近年、EPA(米国環境保護庁)により、炭素数が8以上のフルオロアルキル基を有する化合物は、環境、生体中で分解して蓄積するおそれがある環境負荷が高い化合物であることが指摘されているが、一般式(1)で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドにおいてRfが炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基である場合には、この様な環境問題が指摘されていないためである。
上記式(1)において、Rf基の例として、−CF、−CFCF、−CFCFH、−CFCFCF、−CFCFHCF、−CF(CF、−CFCFCFCF、−CFCF(CF、−C(CF、−(CFCF、−(CFCF(CF、−CFC(CF、−CF(CF)CFCFCF、−(CFCF、−(CFCF(CF等が挙げられる。
さらに、含フッ素モノマーは、非テロマーであることが好ましく、この点で、Rf基としては、炭素数1〜2のフルオロアルキル基、又はヘテロ原子によって介在された二以上の炭素数1〜3のフルオロアルキル基が好ましい。具体例としては、COCF(CF)CFOCF(CF)−、(CFNC2p−(p=1〜6)等が挙げられる。
上記した一般式(1)で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドの具体例は、次の通りである。
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−C−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CHN(−CH)SO−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CHN(−C)SO−Rf CH=C(−H)−C(=O)−O−CHCH(−OH)CH−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−CHCH(−OCOCH)CH−Rf CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf CH=C(−H)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−C−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CHN(−CH)SO−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CHN(−C)SO−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−CHCH(−OH)CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−CHCH(−OCOCH)CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf CH=C(−F)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf CH=C(−F)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
[上記式中、Rfは、炭素数1〜6、好ましくは、1〜3のフルオロアルキル基である。]
OCF(CF)CFO−CF(CF)CH−MAc
OCF(CF)CFO−CF(CF)CH−Ac
(CFCH−Ac
CH−MAc
CH−Ac
[上記式中において、Acはアクリレート、MAcはメタクリレートを、それぞれ表す。
上記したフルオロアルキル基含有アクリル酸エステル及びフルオロアルキル基含有アクリルアミドは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
温度応答性ポリマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミド及びビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を少なくとも含むモノマー組成物を重合することにより得られうるポリマー、又はポリビニルアルコール部分酢化物が好ましい。
また、前記した温度応答性ポリマーをセグメントとして有するブロックポリマーを用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で、温度応答性ポリマー同士を架橋したものを用いてもよい。その際利用される架橋性モノマーとしては特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
温度応答層(A)に含まれるデンドリティックブロックコポリマーに含まれる温度応答性ポリマーの分子量分布は以下の通りであることが好ましい。すなわち、分子量Mの常用対数(logM)が3.0以上である、温度応答性ポリマーの合計のうち、分子量Mの常用対数(logM)が5.0以上である、温度応答性ポリマーの合計が、45%以上である。本開示の温度応答性基材は、温度応答層(A)が上記の特性を有していることにより、温度応答時に優れた細胞剥離性を有する。これらの効果は、上記割合が、45〜100%の範囲内にあるときに得られる。細胞剥離性がより優れる点で、50〜100%が好ましく、55〜100%が特に好ましい。
温度応答時にさらに優れた細胞剥離性を有する点で、温度応答性層(A)に含まれるブロックポリマーに含まれる分子量Mの常用対数(logM)が3.0以上である、温度応答性ポリマーの合計のうち、分子量Mの常用対数(logM)が5.5以上である、温度応答性ポリマーの合計が、10%〜100%であることが好ましく、15〜100%であることがより好ましい。
本開示の温度応答性基材における、温度応答性ポリマーについての上記の分子量分布は、具体的には次のようにして求める。すなわち、温度応答性層(A)を4℃に冷却した純水中に浸漬した状態で24時間振とうし、純水中に抽出された温度応答性ポリマーを、温度応答性層(A)に含まれる、温度応答性ポリマーとして計算する。これらのポリマーは、GPC測定(カラム:TSKgel SuperAWM−H(東ソー)、溶離液:50mM LiBr in DMF、標準:ポリスチレン)により分子量分布測定を行う。
logMが3.0以上である、温度応答性ポリマーの合計のうち、logMがx以上である、温度応答性ポリマーの合計は以下のようにして求める。横軸に分子量の対数(LogM)、縦軸に微分分布値(dW/dLogM)をプロットした分子量分布曲線(図1)を用意する。微分分布値とは、単位LogM当たりの重量分率のことを指す。すなわち、分子量分布図の数値の解釈は横軸の範囲M〜M+ΔMと分布曲線で囲まれる面積で行なうことができる。温度応答性ポリマーの合計について、LogM=x未満の分子量分布の面積Aと、LogM=x以上の分子量分布曲線の面積Bとをそれぞれ算出する。それらの面積値を用いて、式(1)によりLogM≧xの高分子の含有率(%)を算出する。
B/(A+B)×100(%) ・・・(1)
温度応答性層(A)は、分子量Mの常用対数(logM)が2.0以下である、温度応答性ポリマーを含まないことが好ましい。また、温度応答性層(A)は、分子量Mの常用対数(logM)が2.5以下である、温度応答性ポリマーを含まないことがより好ましい。さらに、温度応答性層(A)は、分子量Mの常用対数(logM)が3.0未満である、温度応答性ポリマーを含まないことが特に好ましい。
温度応答性層(A)は、分子量Mの常用対数(logM)が8.0以上である、温度応答性ポリマーを含まないことが好ましい。
上記の分子量分布を有する温度応答性ポリマーを得る方法は特に限定されず、幅広く採用することができる。一例として、温度応答性ポリマーをアセトン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)などの良溶媒に溶解させ、ヘキサン、水などの貧溶媒中で析出させる再沈殿操作を行うことにより、分画する方法が挙げられる。水を使用する場合、40〜60℃の水を使用することが好ましい。また、GPC(Gel permeation chromatography)によって分画する方法等も挙げられる。
温度応答時の細胞剥離性を向上させるためには、温度応答性層(A)に含まれる成分のうち、温度応答性ポリマーの合計の占める割合が、総量で、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがさらにより好ましい。
本開示の温度応答性基材は、温度応答性ポリマーが、デンドリティックポリマーを介して、基材表面に0.1μg/cm以上、好ましくは0.3μg/cm以上、より好ましくは0.6μg/cm以上基材表面に固定化されていることが好ましい。本開示の温度応答性基材は、温度応答性ポリマーの固定化量が上記以上であると、温度を変えても当該ポリマー上の培養細胞が剥離し難くなるということがない。
本開示の温度応答性基材は、温度応答性ポリマーの合計が、デンドリティックポリマーを介して、10μg/cm以下、好ましくは8μg/cm以下、より好ましくは6μg/cm以下、基材表面に固定化されていれば、温度応答前の状態で細胞が表面に付着し易く、細胞を十分に付着させることが容易となる。
総合すると、本開示の温度応答性基材は、温度応答性ポリマーの合計が、デンドリティックポリマーを介して、0.1〜10μg/cm、表面に固定化されていることが好ましく、0.3〜8.0μg/cm、表面に固定化されていることがより好ましく、0.6〜6.0μg/cm、表面に固定化されていることがさらに好ましい。
本開示において、基材表面への温度応答性ポリマーの固定化量は、基材表面に適用した温度応答性ポリマーの量から計算できる。ただし、必要に応じて、温度応答性ポリマーの固定化量を常法に従って測定することもできる。そのような測定方法としては、例えばフーリエ変換赤外分光全反射減衰法(FT-IR-ATR法)、元素分析法及びXPS法等が挙げられる。測定結果にバラつきが生じない限り、いずれの測定法を選択してもよいが、バラつきが生じる場合は、本開示においてはFT-IR-ATR法による測定結果を採用する。
FT-IR-ATR法での測定は、具体的には以下のようにして行う。基材としてポリスチレン製基材を、温度応答性ポリマーとしてPNIPAMをそれぞれ用いる場合を一例として説明するが、他の基材及び/又はポリマーを用いる場合も以下の例を応用することにより同様にして測定できる。
ポリスチレン製基材を基材とし、温度応答性ポリマーとしてPNIPAMを固定化させた、温度応答性基材を用意する。同基材をFT−IR−ATR測定すると、次式(5)にて表される、ポリスチレンに由来するベンゼン環伸縮(1600cm−1)の吸収強度に対する、PNIPAMに由来するアミド伸縮(1650cm−1)の吸収強度の比率を得ることができる。
(5) 吸収強度比率=I1650/I1600
既知量のPNIPAM(1〜10μg/cm)をポリスチレン基材に塗布し、式(5)により得られる吸収強度比率から検量線を予め作成しておくことにより、ポリスチレン基材上に固定化された未知のPNIPAMの量を求めることができる。(参考文献:Langmuir 2004,20,5506−5511)。
1.1.3. 細胞外マトリックス構成成分
温度応答層(A)は、細胞外マトリックス構成成分及び/又はその断片を含む。本開示の温度応答性基材は、細胞外マトリックス構成成分及び/又はその断片を含むことにより、細胞の接着性により優れたものとなる。
前記細胞外マトリックス構成成分(ECM構成成分)としては、細胞の接着性を改善させる作用を有するものであればよく、プロテオグリカン、線維状タンパク質及び糖タンパク質からなる群より選択される少なくとも一種のECM構成成分を例示できる。線維状タンパク質としては、例えば、コラーゲン、エラスチン、エンタクチン、フィブロネクチン及びラミニン等が挙げられる。糖タンパク質としては、例えば、ビトロネクチン等が挙げられる。
温度応答層(A)は、細胞の接着性を改善させる作用を有する、ECM構成成分の断片を含んでいてもよい。そのような断片としては、例えば、線維状タンパク質及び糖タンパク質の断片からなり、接着性を改善させうるアミノ酸配列モチーフを有するペプチド等が挙げられる。そのようなペプチド断片として、例えば、フィブロネクチン及びビトロネクチン等に特徴的なRGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン)配列を有するペプチド等が挙げられる。
温度応答層(A)は、ECM構成成分及びその断片の一方のみを含んでいてもよいし、それらの両方を含んでいてもよい。温度応答層(A)は、ECM構成成分を一種含んでいてもよいし、二種以上を組み合わせて含んでいてもよい。温度応答層(A)は、ECM構成成分の断片を一種含んでいてもよいし、二種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
温度応答層(A)は、デンドリティックブロックコポリマーと、ECM構成成分及び/又はその断片とを含む。このとき、デンドリティックブロックコポリマーと、ECM構成成分及び/又はその断片とは、互いに混合された状態であってもよいし、化学的に結合していてもよい。温度応答層(A)の表面への接着細胞の接着性を向上させるという点においては、ECM構成成分及び/又はその断片が少なくとも温度応答層(A)の表面に存在していることが好ましい。すなわち、温度応答層(A)の断面構造としては、基材層(B)に接する面にデンドリティックブロックコポリマーが存在し、それとは反対側の面にECM構成成分及び/又はその断片が存在する構造が好ましい。温度応答層(A)の断面構造においては、デンドリティックブロックコポリマーを含み、ECM構成成分及びその断片を含まない層が、基材層(B)の少なくとも一方の面に配置されており、当該層の、基材層(B)とは反対側の面に、ECM構成成分及び/又はその断片を含む層が配置されていることが好ましい。この断面構造においては、ECM構成成分及び/又はその断片を含む層が、デンドリティックブロックコポリマーを含まないことが好ましい。
温度応答層(A)の表面におけるECM構成成分の存在量としては、0.1〜100μg/cmであることが好ましい。ECM構成成分の存在量は、IR−ATR、XPS及びTOF−SIMS等の一般的な表面分析手法で測定できる。
1.2. 基材層(B)
基材層(B)の材質は、特に限定されず、本開示の温度応答性基材の用途に応じて適宜選択できる。
例えば、本開示の温度応答性基材を細胞培養用途に用いる場合、基材層(B)の材質は、細胞培養に用いられるものであればよく特に制限されない。例えば、ガラス、改質ガラス、各種樹脂等が挙げられる。また、これらの他にもさらに、一般に形態付与が可能とされる材質からなるものであってもよい。そのような材質は、特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、グラフトポリマー、セラミックス及び金属類等が挙げられる。
樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリサルフォン及びポリフェニレンスルファイド等が挙げられる。
これらの中でも、特に、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等が好ましく用いられる。
基材層(B)の、温度応答層(A)が配置される側の面は、必要に応じて表面処理がなされていてもよい。表面処理としては、例えば、プラズマ処理及びコロナ処理等が挙げられる。
また、基材層(B)の、温度応答層(A)が配置される側の面は、平滑であってもよいし、穴状、突起状又は壁状等の三次元構造が形成されていてもよい。そのような三次元構造を表面に有する基材層(B)としては、例えば、市販されている三次元構造細胞培養基材である、SCIVAX製NanoCulture Plate、日立ハイテクノロジーズ製ナノピラープレート、3D Biomatrix製Perfecta3D又はクラレ製ELPLASIA等を使用できる。
温度応答層(A)は、基材層(B)の面に、少なくとも一種のその他の層を介して配置されていてもよい。その他の層としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリサルフォン及びポリフェニレンスルファイド等が挙げられる。
基材層(B)は、その形状が、通常のディッシュ、プレートのような平滑な形状に限定されず、マイクロキャリア状、ファイバー状、またはワイヤー状であってもよい。このとき、マイクロキャリア、ファイバー、ワイヤー表面の材質は、特に限定されない。本開示の温度応答性基材を細胞培養用途に用いる場合、通常、細胞培養に用いられるものであればよく特に制限されない。例えば、ガラス、改質ガラス、各種樹脂等が挙げられる。また、これらの他にもさらに、一般に形態付与が可能とされる材質からなるものであってもよい。そのような材質は、特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、樹脂、セラミックス及び金属類等が挙げられる。
基材層(B)がマイクロキャリアである場合、その形状は、特に限定されない。この場合、マイクロキャリアは、コアシェル構造であってもよい。
基材層(B)がファイバーまたは、ワイヤーである場合、その形状は、特に限定されない。この場合、ファイバーは、中空糸構造であってもよい。
基材層(B)が樹脂製のマイクロキャリア、ファイバー、またはワイヤーである場合、樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリサルフォン及びポリフェニレンスルファイド等が挙げられる。
これらの中でも、特に、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等が好ましく用いられる。
マイクロキャリア、ファイバー、またはワイヤーの、温度応答層(A)が配置される表面は、必要に応じて表面処理がなされていてもよい。表面処理としては、例えば、UVオゾン処理、プラズマ処理及びコロナ処理等が挙げられる。
また、マイクロキャリア、ファイバー、またはワイヤーの、温度応答層(A)が配置される表面は、平滑であってもよいし、穴状、突起状又は壁状等の三次元構造が形成されていてもよい。
温度応答層(A)は、マイクロキャリア、ファイバー、またはワイヤーの表面に、少なくとも一種のその他の層を介して配置されていてもよい。その他の層としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、セルロース、及びシクロデキストリン等が挙げられる。
マイクロキャリアは、平均粒子径が、20〜200μmであることが好ましい。本開示において、マイクロキャリアの平均粒子径は、具体的に以下のようにして測定する。
測定装置:FPIA3000(シスメックス株式会社製、フロー式粒子像分析装置)、
測定条件:粒子径が10μm以上であるため、LPFモードにて測定を行う。測定個数は5万個測定とする。そこで求められた体積平均粒子径を平均粒子径とする。またCV値は円相当径(個数基準)による解析値を用いる。
ファイバーおよびワイヤーは、平均直径が20−400μmであることが好ましい、本開示において、ファイバーおよび、ワイヤー径は、具体的に以下のようにして測定する本開示において、ファイバーおよび、ワイヤー径は、走査型電子顕微鏡で測定できる。
1.3. 基材表面への温度応答層(A)の配置方法
本開示の温度応答性基材は、基材の少なくとも一部の表面に温度応答層(A)を配置することにより得られうる。具体的には、例えば、デンドリティックブロックコポリマーを、基材の少なくとも一部の表面に直接的又は間接的に固定し、さらにECM構成成分及び/又はその断片を当該デンドリティックコポリマーに固定することにより、温度応答層(A)を基材の表面に配置できる。
温度応答層(A)は、互いに異なるUCST又はLCSTを有する二以上の領域を有し、それらの領域が二次元パターンを形成するように配列していてもよい。
温度応答層(A)は、基材の表面の少なくとも一部に配置されており、その領域と、温度応答しない領域とが、二次元パターンを形成するように配列していてもよい。
デンドリティックブロックコポリマーの基材の表面への固定方法は、特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、デンドリティックブロックコポリマーを溶媒に溶解又は分散させてから、かかる分散液に基材を分散することにより直接的に固定することができる。
また、デンドリティックブロックコポリマーを含む複合体を溶媒に溶解又は分散させてから、かかる分散液に基材を分散することにより、デンドリティックブロックコポリマーを間接的に固定することもできる。そのような複合体としては、例えば上記1.3のデンドリティックブロックコポリマー等が挙げられる。
この場合、溶媒としては、デンドリティックブロックコポリマー又はそれを含む複合体を溶解又は分散させるものであれば特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、N、N−ジメチルアクリルアミド;イソプロピルアルコール;並びにアセトニトリル及びN、N−ジメチルホルムアミドの混合液等が挙げられる。
複数種の溶媒を混合して使用してもよい。この場合、混合比は特に限定されず、幅広く選択できる。テトラヒドロフランとメタノールとの混合溶媒の場合、例えば、テトラヒドロフラン:メタノール=0.5〜2:4とすることができる。アセトンとエタノールとの混合溶媒の場合、例えば、アセトン:エタノール=0.5〜1:4とすることができる。
ジオキサンとノルマルプロパノールとの混合溶媒の場合、例えば、ジオキサン:ノルマルプロパノール=0.5〜2:4とすることができる。トルエンとノルマルブタノールとの混合溶媒の場合、例えば、トルエン:ノルマルブタノール=0.5〜2:4とすることができる。アセトニトリルとN、N−ジメチルホルムアミドとの混合溶媒の場合、例えば、アセトニトリル:N、N−ジメチルホルムアミド=4:1〜6:1とすることができる。
溶媒としては、ポリスチレンの良溶媒と貧溶媒とを含む溶液が好ましい。このような溶媒を使用すると、特に基材表面がポリスチレンである場合、基材表面のポリスチレンを膨潤させつつ、上記1.3のスチレン骨格デンドリティックブロックコポリマー又はシロキサン骨格デンドリティックブロックコポリマーを固定化させることができ、結果的にスチレン骨格デンドリティックブロックコポリマー又はシロキサン骨格デンドリティックブロックコポリマーが基材表面に埋め込まれるような形となるため好ましい。この場合、前記良溶媒と前記貧溶媒とが、それぞれテトラヒドロフランとメタノールであれば好ましい。さらに、テトラヒドロフランとメタノールの混合溶媒中のテトラヒドロフラン含量が10〜35体積%であればより好ましい。
デンドリティックブロックコポリマー又はそれを含む複合体の基材表面への固定化に際しては、デンドリティックブロックコポリマー又はそれを含む複合体を含む溶液を基材表面へ均一に塗布することが好ましい。その方法は特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、ディップ法、スプレー法等が挙げられる。
デンドリティックブロックコポリマー又はそれを含む複合体を含む溶液を基材表面へ塗布した後、溶媒を除去することにより、本開示の温度応答性基材が得られる。溶媒の除去方法は特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、室温にて、かつ大気中で時間をかけてゆっくり蒸発させる方法、室温にて、かつ溶媒飽和環境下で時間をかけてゆっくり蒸発させる方法、加熱下で蒸発させる方法、減圧下で蒸発させる方法等が挙げられる。特に、均一な温度応答層(A)の面が得られるという点で、室温にて、かつ溶媒飽和環境下で時間をかけてゆっくり蒸発させる方法が好ましい。具体的には、2時間以上、前記溶媒の蒸気下に置くことが好ましい。
均一な温度応答層(A)の面が得られるという点で、溶媒飽和環境下で時間をかけてゆっくり溶媒を蒸発させた後、いったん表面を水洗してから乾燥させることが好ましい。
ECM構成成分及び/又はその断片を温度応答層(A)に含ませる方法は限定されない。ECM構成成分及び/又はその断片を温度応答層(A)に含ませる方法としては、例えば、デンドリティックブロックコポリマーに固定する方法が挙げられる。そのような方法としては、例えば、コーニング インターナショナル社製「Corning(登録商標) Synthemax(商標)ビトロネクチン基質」等を用いて固定する方法等が挙げられる。
1.4. 温度応答性基材のその他の構成
本開示の温度応答性基材は、必要に応じて、温度応答層(A)に加えてさらにその他の層を有していてもよい。その他の層としては、例えば、形状保持の目的で使用される支持層が挙げられる。
2. 温度応答性基材の用途
本開示の温度応答性基材の表面上で細胞を培養することにより、細胞を培養することができる。本開示の温度応答性基材を細胞培養用途に用いる場合、細胞全般に対して使用できる。例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、細菌類が挙げられる。動物細胞の由来の例として、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ヌードマウス、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、チャイニーズハムスター、ウシ、マーモセット及びアフリカミドリザル等が挙げられる。
本開示の温度応答性基材は、接着性細胞に対して好ましく使用できる。接着性細胞としては、幅広く選択することができ、例えば、内皮細胞、表皮細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、骨細胞及び脂肪細胞等のほか、樹状細胞及びマクロファージ等も挙げられる。内皮細胞としては、例えば、肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞及び角膜内皮細胞等が挙げられる。表皮細胞としては、例えば、繊維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞及び表皮角化細胞等が挙げられる。上皮細胞としては、例えば、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞及び角膜上皮細胞等が挙げられる。
筋細胞としては、例えば、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞及び心筋細胞等が挙げられる。神経細胞としては、例えば、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞及び視神経細胞等が挙げられる。骨細胞としては、例えば、破骨細胞、軟骨細胞等が挙げられる。
接着性細胞としては、各種幹細胞も使用できる。接着性の幹細胞としては、胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cells:EG細胞)、生殖細胞系列幹細胞(germline stem cells:GS細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞;induced pluripotent stem cell)等の多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞等の複能性幹細胞、心筋前駆細胞、血管内皮前駆細胞、神経前駆細胞、脂肪前駆細胞、皮膚線維芽細胞、骨格筋筋芽細胞、骨芽細胞、象牙芽細胞等の単能性幹細胞(前駆細胞)等の幹細胞が挙げられる。
本開示の温度応答性基材を用いて細胞培養を行う際においては、対象となる細胞を培養するために通常用いられる培地をそのまま使用できる。
本開示の温度応答性基材の温度を、温度応答性ポリマーのUCST以上若しくはLCST以下にすることによって、培養細胞を酵素処理することなく剥離させることができる。この温度変化による剥離は、培養液中において行ってもよいし、その他の等張液中等において行ってもよい。また、細胞をより早く、より高効率に剥離及び回収する目的で、マイクロキャリア分散液、ファイバーまたはワイヤーの浸透液を軽く振とうしたり、攪拌したりすることができる。
本開示の温度応答性基材は、デンドリティックブロックコポリマーが表面に強固に固定されていることが好ましく、この場合、リユース用として用いることができる。本開示の温度応答性基材は、上記のデンドリティックブロックコポリマーが表面に強固に固定されており、リユース用として好ましく用いることができる。
リユース用細胞培養基材として用いる場合、本開示の温度応答性基材を液体培地中に分散して細胞培養を行い、温度応答により細胞を剥離し、マイクロキャリア、ファイバー、またはワイヤー表面をリン酸緩衝生理食塩水等の適当な洗浄液で洗浄する、という一連の工程を一サイクルとして、同一の細胞培養用温度応答性用マイクロキャリア、ファイバー、またはワイヤーを二以上のサイクルにおいて使用する、すなわち、2回以上のリユースのために用いられる。本開示の温度応答性基材は、好ましくは3回以上のリユースのために用いられる。
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
以下、本開示を具体的に説明するが、本開示は下記の例に限定されるものではない。
<製造例1>
[S−(4−ビニル)ベンジル S’−アルキルトリチオカーボネートの合成]
窒素置換下の100ml三ッ口フラスコ中へ、ナトリウムメトキシド(5.6ml, 0.028mol)、メタノール(MeOH,28ml)を入れ、2分間撹拌させた。そこへ、2−エチル−1−ヘキサンチオール(4.10g,0.028mol)をMeOH(22ml)に溶解させたものを添加し、室温にて2時間撹拌した。そこへCS(2.1ml, 0.035mol)を添加し、室温にて5時間撹拌した。さらに、4−ビニルベンジルクロリド(4.3ml, 0.028mol)を添加し、そのまま20時間室温にて撹拌した。反応後、水を添加し、ジクロロメタンにて抽出、有機層を飽和食塩水にて洗浄後、硫化マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。精製は、ヘキサンを展開溶媒にカラムクロマトグラフィーにて行った。オレンジ色液体の目的物が、5.6gの収率にて得られた(参考文献:Macromolecules 2011,44,2034−2049)
[デンドリティックポリマー1の合成]
窒素置換下の10ml枝管付フラスコ中へ、S−(4−ビニル)ベンジル S’−(2−エチル−1−ヘキシル)トリチオカーボネート(1.20g, 3.61×10-3mol)、脱水トルエン(1ml)を入れ、撹拌して溶解させた。さらに2,2’ −アゾジイソブチロニトリル(AIBN,0.0745g, 4.50×10-4mol)を添加し、80℃にて10時間撹拌した。反応後、トルエンを2ml追加し希釈した後、氷浴中で冷却したヘキサン中へ滴下・再沈させ、オレンジ色のオイル状のポリマーを0.58g回収した。
[デンドリティックブロックコポリマーHBP−0の合成]
窒素置換下の10ml枝管付フラスコ中へ、上述したデンドリティックポリマー1(0.028g)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM,1g, 8.85×10-3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF,3ml)を入れ、撹拌して溶解させた。さらに、AIBN (4.0×10-3g, 4.6×10-6mol)を添加し、70℃にて10時間撹拌した。反応後、THFを3ml添加し希釈した後、ヘキサン中へ滴下・再沈させ、卵色固体を回収した。再度THF5mlに溶解させ、ヘキサン中へ再沈を行い、白色の粉末状固体HBP−0を0.706g得た。
[デンドリティックブロックコポリマーの分画]
前項で得られたブロックポリマーHBP−0をGPCの溶出時間の差により分画し、異なる分子量分布を有するポリマーHBP−1〜5を得た。これらのポリマーは、GPC測定(カラム:Styragel HR−4E+HR−5E、溶離液:50mM LiBr in DMF、標準:ポリスチレン)により分子量分布測定を行った。
分画前のポリマーHBP−0および、分画後の異なる分子量分布を有するポリマーHBP−1〜4の重量平均分子量(Mw)及び多分散度(Mw/Mn)を表1に示す。
Figure 2021159048
また、それぞれのポリマーの、横軸に分子量の対数(LogM)、縦軸に微分分布値(dW/dLogM)をプロットした分子量分布曲線において、LogM=5.5未満の分子量分布の面積Aと、LogM=5.5以上の分子量分布曲線の面積Bとをそれぞれ算出した。それらの面積値を用いて、式(1)によりLogM>5.5の高分子の含有率(%)を算出した。
B/(A+B)×100(%) ・・・(1)
LogM>6の高分子含有率についても同様に求め、LogM>5.5の高分子含有率と併せて表2に示した。
<実施例1>
[デンドリティックブロックコポリマーコーティング溶液の調製]
製造例1にて合成、分画したポリマーHBP−1についてそれぞれ10mgを、THF/MeOH=1/4(v/v)の混合溶媒(4ml)へ溶解させた。これを、母液と称する。この母液を、培養面積9.6cmのセルカルチャーディッシュに50μl塗布した時の、PNIPAM塗布量が3.5μg/cmとなるよう、THF/MeOH=1/4(v/v)の混合溶媒でさらに希釈した。
[ポリスチレン製基材に対するデンドリティックブロックコポリマーの固定化]
上記方法で得られたコーティング溶液(50μl)を、ポリスチレン製セルカルチャーディッシュ(コーニング製Falcon3001、培養面積9.6cm)に塗布し、蓋をした。そのまま2.5時間静置・乾燥させ、温度応答性細胞培養基材を得た。
[ビトロネクチンのコーティング]
上記方法で得られた温度応答性細胞培養基材のデンドリティックブロックコポリマーの上から、コーニング インターナショナル社製「Corning(登録商標) Synthemax(商標)ビトロネクチン基質」(https://www.corning.com/jp/jp/products/life-sciences/products/surfaces/synthemax-vitronectin-substrate.html)を以下の方法で塗布した(BioWindow MAR.2013/No.122, p18;https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/journal/docs/bio122.pdf)。
Step 1:シンセマックス(商標)を滅菌水に懸濁してストックソリューションを作る。
Step 2:ストックソリューションをさらに滅菌水で希釈してワーキングソリューションを作る。
Step 3:ワーキングソリューションを培養容器に分注。
Step 4:2時間放置後、コーティング液をアスピレーションする。
<比較例1>
実施例1において、ビトロネクチンを塗布しないものを比較例1とする。
[細胞接着評価]
(1)培養条件
培地:10%FBS(fetal bovine serum)、および1%ペニシリン(Penicillin−Streptomycin)含有DMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)−high glucose (ナカライテスク) 2ml
(2)評価用の細胞懸濁液の調製方法
予め、細胞培養容器内で3T3マウス線維芽細胞を培養し、細胞を回収後に細胞数を数え、培地に対し5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を用意した。
実施例1で作製したディッシュと比較例ディッシュ内に、それぞれ2mlの細胞懸濁液を注入し、細胞を播種した。その後、COインキュベーター(37℃、5%CO)中で4日間培養を行った。培養後、室温に20分静置し、剥離及びシートの形態を観察した。また、剥離後の細胞シートをトリプシンで処理し、細胞数をカウントした。
実施例1は比較例1よりも、接着した細胞数が多く、また、培養4日後に形成された細胞シートの形態の均一性、剥離性が良好であった。実施例1の細胞数は12×10cells、比較例1の細胞数は7×10cellsであった。

Claims (9)

  1. (A)デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーを含有する温度応答層;及び
    (B)基材層
    を含有する温度応答性基材であって、
    前記温度応答層(A)が細胞外マトリックス構成成分及び/又はその断片を含む、温度応答性基材。
  2. 前記細胞外マトリックス構成成分が、前記細胞外マトリックス構成成分が、プロテオグリカン、コラーゲン、エラスチン、エンタクチン、フィブロネクチン、ラミニン及びビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも一種の細胞外マトリックス構成成分である、請求項1に記載の温度応答性基材。
  3. 前記デンドリティックポリマーが、スチレン骨格又はシロキサン骨格のデンドリティックポリマーである、請求項1又は2に記載の温度応答性基材。
  4. 前記温度応答性ポリマーの少なくとも一種が、
    (メタ)アクリルアミド、N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミド及びビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を含むモノマー組成物を重合することにより得られうる温度応答性ポリマー、又は
    ポリビニルアルコール部分酢化物
    である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の温度応答性基材。
  5. 前記N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミドが、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、及びポリ−N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミドからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項4に記載の温度応答性基材。
  6. 前記基材層(B)がポリスチレンを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の温度応答性基材。
  7. 細胞培養器材である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の温度応答性基材。
  8. 細胞培養器材としての、請求項1〜6のいずれか一項に記載の温度応答性基材の使用。
  9. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の温度応答性基材の表面上で細胞を培養する工程を含む、細胞培養方法。
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